2019
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12月18日
長野県警
山岳遭難
救助隊 24
長野県警レスキュー
最前線
遭難救助レスキュー隊の隊員の作文が読める。校正はされたとは思うが、みな作文力があるように読める。書ける人を選んでいるのかもしれないが、山好きな人がなっていることから、たくさん活字を読む人が多いのかもしれない。
読むと判るが、同じ事故事例を二人の別な人が個々の視線で書いているのが読める。書き方の違いで、ここまで印象が違っている。まあ詳細に書いたのと、触ったくらいに書いたのとの違いはあるが、やはり詳細に書かれている方が伝わってくるものがある。
多様化をよしとする風潮からなのか、わがままな登山者が増えているよう。私も単独を貫いている時点で他人のことは言えないのだろうとは思う。それでも痛い思いやいろんな嫌な思いをした経験を踏まえ、登山者としての心構えは出来ていると思っているが・・・。この思い込みもいけないのかも。
山スキー、バックカントリーへの入山者がこれからの課題と多くの隊員が提言している。される人は、隊員の声をここで読んでから入山するべきかもしれない。
隠密同心心得の条.
我が命我が物と思わず; 武門の儀、あくまで陰にて; 己の器量伏し、; 御下命いかにても果すべし; 尚、死して屍拾う者なし. 死して屍
11月25日
柏 澄子
23
山の突然死
普通に医者が書いているのかと思って読んでいた。フリーライターがここまで書いたのは、よほど資料を読み解かないと命に係わることであり、誤記は出来ないので作者においても緊張した一冊となるだろう。それほどに医学見地からの記述が多いから。それがためにこってり過ぎて食傷気味になるが、全ては知っておくことは重要。突然死を避けるには・・・。
運とか不運とかに纏めないで、あくまでも医学で検証している。どうすれば避けられるか、どうしたから突然死になったのか。避けるには高所に行かない。無理はしないとなるのだが、そこはしっかり山岳書籍で、どうすればリスクを減らせるかが指南されている。
継続して間をあまり開けずに負荷をかけるような登山がいいことになる。自分にあてはめ、あながち今の状態も悪くないようだ。突然死しにくい登山形態となるだろう。
11月 8日
原宏一
22
ヤッさんW
痛快の極み。シリーズ作だからの面白みも当然あるが、職人気質の日本人が忘れがちなハートの部分を意識させ、口は悪いが心の温かいヤッさんに癒される。
特に食に特化した内容であり、そこからは食に対してのノウハウがかなり学ぶことが出来る。作者の食通が判るようである。また、食に限らずどんな職業にも通じる気配りや意識に対しハッと思わされる。フィクションとは判っていながら、教えられることが多いのだった。
このシリーズはもう外せなくなってしまった。X作目を既に期待している。
10月28日
羽根田治
21
生還
遭難記の7編が収められている。あの岩菅山のマヨネーズおじさんの詳細が書かれており、かなり興味を持って読ませていただいた。ニュースで伝えられない内容が判る。そう言う事だったのかと・・・。
天災も同じだが、災難に遭ってそこから学ぶのだが、当事者となった人は、少なからずパニックになり平常心を失う。ここは天災でも遭難でも同じであろう。そこでより平常心で居られるのは、経験と知識となろうか。
実際の事例を読ませてもらい学ぶべき部分は多かった。何があるか判らないのが山でもある。先の山野井さんの作品の後にこれだと、少し相対する内容な感じであるが、どちらも重要な部分だろう。
這ってでも帰ると心しているが、無理はしない方がいい時もあると学習した。
10月16日
山野井泰史
20
アルピズムと死
僕が登り続けてこられた理由
山野井さんを知らない山ヤは居ないであろう。奥多摩で暮らし、熊に襲われたニュースの時は、当事者が山野井さんと後から判り、そんな事にも遭ったのかと悪運と言うか強運の強さを感じられた。強運と言うのは襲われたとしても生きていたこと、墜落しても助かっていること。
どんな人か知らなかったが、かなり、物凄い負けず嫌いな性格だと読めた。負けず嫌いは秀でた能力を開花させるので、スポーツ界ではいいこととされる。そして本人の能力もあるものの、運がいいと言い切れるんじゃないだろうか。落石や雪崩のどうしようもない中で、生きて戻れるって人は運がいいと思ってしまう。でもその一言で括れる人ではなく、類稀なバイタリティーの持ち主であり、拘りと研究と集中力と、そしてとてもセンシティブであり、かつ大胆でもあると思う。
日頃はストイックな節制した生活をしていると聞く。無駄を省き余分なものは買わず、古いものを大事にする。アナログ的であり時代に沿っていないような印象があるが、ここまでの名声がある。時代に振り回される生活より、山野井夫妻の生活の方が幸せだろうと思う。
山野井さんは、なんど死にそうになったのか。その数ぶん、強いのだろうと思う。
10月10日
島田覚夫
19
私は魔境に生きた
文章に起承転結は必要であるが、ノンフィクションの事実にそれをするのは難しいと思う。がこの作品は見事に長編で成し遂げている。戦争と言う部分では簡単にハッピーエンドと言う言葉を使えないが、現代風にその言葉を使うなら、ハッピーエンドとなったから、この作品が出来たとも言える。壮絶な戦争体験。どれほどの死体を見たのだろうか。これは見ない人がいくら思っても感じ得られない事だろう。肉体の苦痛と精神の苦痛の中で、結果として10年の歳月をニューギニアで生きたことは凄いとしか言いようがない。
読みながらの最初は、日本軍の物資があり携行食糧などのストックがあったから生きられたと取れたが、そこからの長年の展開は農耕民族らしさが出ている。銃器や農具から工作具を作ったり、それを作るために鞴を作ったりし鍛冶屋をする。農地開拓も含め、できる事を工夫し生きていた。暦も作り、10年間での誤差は5日だけだったと言う。知力と体力が伴っていたようだ。
最初は17名の大所帯。よくも統率が取れていた。最終的には4人となり、少数精鋭となり纏まって暮らせたのかもしれない。今の時代のようにここが好き勝手やっていたら、すぐに組織として破綻してしまう。
いつ死ぬか判らぬ緊張の中での生活。ここまで詳細に読めることに驚いた。ニューギニアの文化風習も学ぶことが出来る。
9月20日
木内 昇
18
笑い三年 泣き三月
作者は体験していない戦後を、体験者のように繊細に書き上げている。たくさんの資料・文献を調べたのが判るし、作者の好きな守備範囲でもあろうと思う。
どんな展開になるのかと思ったら、しっかりと惹きつけられた重厚な読み物に仕上がっていた。紡ぎ出す言葉の見事さにより、当時の色や匂いまでもが再現されているよう。
善造が主人公なのだと読み進めていたが、そうではあるが全員が主人公であった。登場人物の内面が、モノローグではなく展開の中から浮き出てくる。ここが絶妙。孤児設定の武雄などは特にそうで、光秀のぶっきらぼうの語りは、後から二度読み直すと温かみのある言葉にも思えるのだった。
ふう子は作られたキャラクターに思えるが、それでも当時には存在したんだろう人に思え違和感がない。作者の手腕の見事さを今回も感じさせられた。
これは、爆笑問題の太田さんは読んだのだろう。なにか芸風が、読んだと思える。
9月 5日
加村一馬
17
洞窟オジさん
時代が時代とは言え、今の時代にも被っている現役で、ここまでの生き方をしてきた人は居ないだろう。飄々として、ウイットにも富んでいる。育った環境が悪だったと作者は言うが、それが強さに変わり、自然と対峙することにより磨きがかかった。結果として作者は凄い人になったのだが、その経緯は大変だったろう。ただの大変じゃないはずだが、暮らせ食えてしまう強さ。サバイバル術とカタカナで書くのとは違う、人間が持つ野生勘の長けた人だったので、過ごせたのだろう。
心の苦闘も書かれている。人間らしい人間であることが判る。犯罪もし、経験は豊富で、周囲に愛されるのは根っからの性分からだろう。行くところ行くところで、出逢った人がプラス側になっているのが読める。運が良かった、運を味方に付けていた。
今のように受け身の世の中であればこそ、この作品は価値があり、作者の存在は意味があるだろう。
8月27日
須川邦彦
16
無人島に
生きる十六人
明治三十一年の漂流の記録。十六人の大所帯で、各々がよく精神的に参らず意志を同じにして耐え生活できたところが一番の関心部分。日本民族の国民性か、縦社会を重んじる精神があったからか、一人も脱落者なく半年の無人島生活を凄し、無事日本に戻っている。精神力の強さもあるだろう。創意工夫もあるだろう。昔だからこそ生き延び、今であったら同じようにはならなかっただろう。
全てをプラス思考として捉えている。海の男の性分なのかとも思うが、日頃の過酷な漁で培った部分だと読み進めると判ってきた。
何かに突き当たった場合、どう判断しどう行動するか、大いに学べる本であった。
8月23日
木内昇
15
櫛挽道守
「道守」とは何ぞやと思いつつ読んでいた。最後にスッキリした。そう言う事か。
重厚な作品であった。歴史好きな、歴史を得意とする作者らしい作品とも言えるだろう。そのノウハウが読み物として大きくプラス要素に働いている。木曽谷の文化風習をよく知っており、これらがきちんと絡み合い、それが見事。知らされることも多くただの読み物では無い感じ。
主人公は瀬登。この時代の女性としては特異であるが、彼女のモノローグは入るが、他の登場人物は登瀬の感じようで綴られている。妹の位置取りが剣呑であったが、彼女は彼女で家族を思っていたよう。個人の思いがよくよく感じられる作品でもあった。
職人の家に育ったもの、育つもの・・・。
8月15日
武田文男
14
山で死なないために
現役で登っている人も、これから登ろうと考えている人も、この作品に一度目を通しておく必要があるんじゃないだろうか。そう思える中身であった。作品に対し、いろんな意見はあるだろうけど、実際の事故が載っており、オブラートで包んでいないことからして、ストレートに伝わってくる。
後半は微妙な立ち位置が見える。山小屋や宿の経営側の思いと、利用側の思い、あとは国や自治としての考えが難しく絡み合っていることが判る。たくさん人が来て儲かると、そのその場所の植生は壊される。山が荒れる。スキー場なども同じことで、人を呼ぶ開発が、住まいする自分ら(土地の人)の首を絞めている。
頭でっかちになる必要はないが、これらの事は知っておいた方がいい。この夏山シーズンに、こぞって人気の場所に上がるのは、自然を壊している事にもなる。登山ブームだからこそ、よく考えて趣味を楽しむ必要はあるだろう。
情報豊富ないい作品であった。
7月22日
木内昇
13
茗荷谷の猫
9作品の集合体と思っていたら、全て繋がりを持って書かれていた。冒頭の時代背景が古すぎて、ちょっと読みづらいと思っていた最初だが、読み進めるうちに面白みが増しじわりじわりと入り込まされる。小説を読んでいる感じが強く、いい意味で心地いい。そして最後の、スペインスタイルの家の中の表現はこれでもかと主人公の妄想的なモノローグが書かれている。そこまで思うか、思い浮かべられることを全て書き出しているようで、その表現方法に感嘆する。人間観察がよくできており、世の中をいろんな角度で見られる作者なのだろう。多くを気付かされる作品であった。
6月30日
羽根田治
12
空飛ぶ山岳救助隊
羽根田さんの作品を始めて読む。以前から知り得ていたが、遭難に関わることが多く、マイナス側の話が多いのかと思って読んでいなかった。本当は大事な部分なんだろうけど。前年度の12月に、作者から依頼があって山渓に写真を提供した。このことがあり、読んでみようと思えた。
山岳救助では有名な東邦航空。最近は名前が出ないがハーネスの開発などが話題になりメディアで紹介されたのを見ている。そしてその関わった主人公の篠原さんが主人公。おぼろげながら理解していたこれまでに対し。ヘリでの救助の掘り下げた細部までが判った今回。本は素晴らしいと思わされた。
あと、作者の作文がとても読み易い。言葉の繋ぎが軽快で浸透水のように読めた。もっと言うと面白く読めた。通常個人的なこれらを書いた場合、個性や拘りや、やや偏った部分が露呈し好みが判れる感じであるが、作者は個性の塊のような篠原さんをうまく平くして表現してある。嫌味が全くない感じ。
ヘリの重要性もよく判り、荷揚げの変遷も判った。知らなかったこれまで、知ったこれから。ヘリの費用に関しても読むと分かり易い。
6月19日
宮脇俊三
11
夢の登山鉄道
上高地のあの車道に、富士山のスカイラインに、伊勢志摩スカイライン、屋久島の軌道、比叡山スカイライン、日光、志賀高原、蔵王、菅平、奥多摩の廃線復活、立山砂防軌道の観光利用、祖谷渓、これらの場所にまじめに鉄道を通す話が綴られている。フィクションに思える内容ではあるが、読んでゆくとノンフィクションに思える真剣さと知識と描写と、後はそこに風土や風俗を織り交ぜ、よく研究されており実行できるんじゃないかと思えてしまう。
この本で知らされたのは富士山の五合目に4階建ての駐車場が建設予定な事(中止となった)。このことも含め、各地の情報にも長けている。根っからの乗り鉄のようであり、専門用語もちりばめられ、素人は検索しないと判らない略語が多い。でもそれがために勉強になるのであった。
現地描写がとてもいい。山の紀行文とは違う鉄道紀行とはこうなるのかと感心させられた。作者の感受性と能力からなのだが、普通は訪れたことがある場所は判るが、訪れたことのない場所はほとんど見えてこない情景が、この作品の中では見えてくるのだった。
勉強は先生により興味が湧く場合と逆の場合がある。この作者にもっと早くに出合っていたら、鉄にもっと興味を持ったのかもしれない。ウィットに富んでおり博識でもあり、バランスのいい人ってのは居るもんだと思わされる。
6月 1日
井上靖
10
あした来る人
当然であるがフィクションで作られた作品と判るものの、読み物としての安定感があり、見事に引き込まれる。ストーリーに置いて、偶然が重なりすぎており、その点のみ出来過ぎとの違和感があるが、それでも読んでいて楽しい作品であった。
間合いとと言うか距離間と言うか、昭和な感じの人に対する位置取りが心地いい。登場人物のキャラクターづくりにブレが無く、個性が際立ち場面場面が想像しやすいのもいい。作者の巧妙な作文(表現方法)がバックボーンにあるからなのだが、読み易いし読み飽きない。おかげで一気に読んでしまった。
パッピーエンドを求めたが、最後の方はやや意外。でもこの形がハッピーエンドなのだろう。曾根、八千代、杏子、克平、梶、いい配役で楽しめた。
5月25日
高野秀行
9
謎の独立国家
ソマリランド
海賊でニュースになるアフリカの辺境国へ乗り込み取材したルポルタージュ作品。バイタリティーと語学力と、考察判断力が長けた作者だからこそできる、できた作品だろう。判らない世界へ飛び込み順応してしまう能力は、誰にでもあるわけでなく、持ち合わせている人の方が少ないはず。カートと呼ばれる覚醒草を現地民と日々噛みながら会話をし、その中から現地民の本音を引き出す手法。裏切られたり怒鳴られたりしながら、それでもそれらに意味を感じ理解する作者。寛容と言う言葉では纏められない、逆を返すと意欲と興味がそこまでにさせているような気がした。目的を達成するまでは挫折しない意志とかも強く感じる。
そしてそしてウイットに富んでいて作文が面白い。氏族の表現などは、作者ならではで、混同してしまいそうな数の多さを、上手く例えを利用し表現している。覚えたり理解する時の、作者の整理力が判る。旅日記であれば、美しいとは面白かったことくらいが表現されるが、ここでは政治や思想や風俗などに踏み込んでいる。いやー全てにおいて凄い。カートをこれほど食べながら、止められていることに対しても・・・。
ソマリ、ソマリア、ソマリランドの分別が判るようになり、ソマリアの海賊と言われるのは、細かく言うとプントランドの人なのだった。ここまで知識を得られた長編は初めてかもしれない。当然ながら、読める内容の100パーセントが初めて知ることばかりであった。
4月 8日
谷 甲州
8
白き嶺の男
新田次郎さんで知った加藤文太郎さん。今度は谷さんが加藤さんを書いた。谷さんも新田さんの作品を読んでいるのは間違いなく、今回読みながら、新田さんの作品を読んでいるかのようにも感じてしまった。内容の厚さや空気感が似ている。もしかしたら、加藤さんと言う題材がそうさせているのかも。
5つの作品とプラス1作品で構成されている。5つは独立しているが、薄く関連性があり心地いい繋がりとなっている。ただし最後の1作品は浮いている感じ。巻末に作者自身が書いているが、載せない方が良かったともあり、確信犯的に抱き合わせているようだ。そしてなにかこれで伝えたいのだろう。そう思った時、ハッと思わされた。北鎌での加藤さんは新田さんが書いたので同じものは書けない。谷さんなりに加藤さんの最後を表現したかったのか、それが最後の作品なのかと・・・。
あと、頂陵に出てくるスヴィエクの行動や存在表現が、今一つ理解できない部分であった。アルピニズムとか難しい範疇となるのだろうけど、作品に登場する加藤と久住は解釈したようだが、私はまだ・・・。
構成される98パーセントは山の記述で、楽しく読むことが出来た。
3月28日
下村敦史
7
失踪者
文庫本が出るのを待って入手。だいぶ前に単行本が出ているのを把握しおり、ずっと気になっていた作品だった。
通常の山岳小説より、登行や登攀に関しかなり深い詳細表現をしている。当然作者も登るのだろうと思っていた中では、全く趣味にしていないと判り驚く。物事の理解力や順応力が高い人なんだろうと思えた。
構成が見事。かなり楽しく一気読みであった。久しぶりに、先に先に読みたい内容展開で、山岳ミステリーとして難しすぎず、それでいて軽すぎずで、このちょうどいい感じが読んでいて心地よかった。
主人公ツートップの樋口と真山、脇役での悪者の位置づけの宮崎が、樋口の事件に絡んでいるのかと予想したが・・・。
活字から現地の景色がよく想像できる。景色に限らずいろんな面での表現方法が的確で、色や音や香りが活字に載っている。
ただし、帯に書かれているような号泣にはならなかった。淡々と読めてしまった。もっと感情移入せねばならなかったかも。
最新の登山事情がよく反映され、昭和からの登山ブームの変遷も上手に盛り込まれている。新しくもあり、アルピニズム的思想も反映しており、広角で深い作品に感じた。
3月 18日
森村誠一
6
雪煙
山岳小説はこうでなければならない。と言うようなこってりした定番の仕上がり。少し出来すぎなストーリー展開であるが、水戸黄門や銭形平次のドラマを見るように、その展開を楽しんでしまった。
作者の書き方だと、山における男女の位置づけに、考え方に偏りがあるようにも思えるが、それがあってこの作品が楽しいものになっているのだろう。生死の話と色恋の話が合致する面白さ。展開の仕方が難しくなく、作品にしっかり付いて行けるのもいい。やもすると読んでいて混乱してしまう作品もある中で、これは分かり易く読み易い。
久しぶりに3時間ほどで一気に読んでしまった。それほどに面白かったし、展開を貪るように読んでしまった。
史郎と陽子のその後の展開も期待したくなる。
3月14日
熊平製作所
5
抜萃のつづり その七十八
届いてからしばらく経過し、遅ればせながら拝読する。クマヒラさんの社会貢献の一つ、無償配布の冊子である。78回目の配布であり、下世話な思考の私は、どれだけ持ち出し費用が掛かっているのかと思ってしまう。
抜萃なので短編ではあるが、重い温かい言葉が多く、薄さを感じさせない重厚感があったりする。心のままに書いている人も居れば、沢木耕太郎さんのように、作家らしい言葉遣いで書かれているのも読める。この点ではバラエティーに富んでいるので楽しい部分。一つ共通しているのは「心ある」部分。
年に一度、この冊子を読ませてもらっている。日頃外へ外へと意識が向いている中で、内側に少し意識を戻してくれる。家族だったり近親者だったり・・・。
3月 7日
高野秀行
角幡唯介4
地図のない場所で眠りたい
両巨頭の対談。冒険野郎と言いたいものの、探検野郎が正解のようで、二人とも早稲田の探検部出身。自身から変わり者としているので、世の中での変わり者で間違いないのだろう。ただしそう言い切れる裏側には、類稀なバイタリティーと根性と、困難への突破力を持ち合わせている。あと、運と。少し爪の垢を貰いたいほど。
真剣に、そして笑いを交えながらの対談で、後半は物書きとしてのポリシーなどが語られ、この辺りになるとお笑い芸人がお笑いに対し真剣に語っているかのようで面白い。この二人もまた面白いことが好きであり、それが行動要素にあるので、よりそう感じるのかもしれない。
闇雲に探検をしている風にも見え、またしっかり計画をしている。飄々と計画性が無いと角幡さんは言うものの、それでも通常よりは準備をしているだろう。冒険・探検家としては少し行き当たりばったりなのかもしれないが・・・。
一番関心するのは、当然ながら記録をとっている部分。そのために行動しているのだろうけど、毎日の行動の後に、1〜1.5時間かけて記録しているとある。山も同じであるが、しっかり記録することは大事で、両名は基本の忠実ってことになる。物書きなので当然とはなるが・・・。
注記も多く、読んでいる本も多いが、興味を持った作品も見られる。ちょっと食指を伸ばしてみよう。
柔軟ではあるが、凝り固まった冒険野郎とも捉えられる。相応に拘りを持って挑んでいる。そこに意志と目的を持つのだが、目的が無い場合もあると言うから驚きもあった。
なんとも面白い対談を、横から盗み聞きしているような作品であった。
2月24日
高野秀行
3
アヘン王国潜入記
ゴールデントライアングルに潜入した日本人。入ろうと思う人がまず稀で、そこに入り半年も暮らしたって事実は、いろんなことを含め凄い。最後まで読むと、もうそんなことは出来なくなっているから、タイミングもよく人徳な部分もあったようだ。
犯罪と結び付け考えるアヘン。しかし冒頭で酒と同じものと摺り込まれる。と言っても身近に利用できるものではないので、このあたりは作者の主張と、あとはそういう文化もあると言う事だろう。
で、現地では機械のように働く人が居るわけではなく、普通に暮らしているワ族の方が居り、ただしそこで高価な麻薬が取引される闇の部分が存在する。それを作者は潜入レポートしている。そして半アヘン中毒のようにもなり、ミイラ取りのような感じであるが、そこまでして現地に馴染んだ証拠でもあろう。バイタリティーのある人とない人では、この辺りが違うのだろう。郷によれば郷に従えの部分で・・・。
危険な触れてはいけないような地域に思っていた場所が、普通の田舎であった。ただし光と影が存在する。潜入した1995年に対し、今の現地はかなり変わっているとも書いてある。そうなると、この作品は民俗学において重要な記録ともなろう。
何度となく作者のモノローグ的な考えが書かれている。冒険家の思考と言うか、先を読み自分なりの考えを導き出して行動しているのが見える。ここだと思えた。
1月27日
高野秀行
2
またやぶけの夕焼け
ルポルタージュやノンフィクションな内容で知られる作者が、珍しい作品を残している。主人公の名が、そのまま作者の名前であり、少年期の事を書いていると読んだ。しかし書評をしている北上さんは、作品として作っていると書いている。こんなにうまい具合にキャラ立ちしている人は居ないと言っている。しかし、高野さんの世界を探検している中での幸運を知ると、この作品は作者のノンフィクションの少年期じゃないのかと思えてしまう。
時代も地理も、八王子周辺のインフラの様子も合致しており、少しの脚色はあっても、ほぼノンフィクションなんじゃないだろうか。冒険に目覚めたのがこの時・・・。
「ハングリー」と「バイタリティー」、冒険に伴う必要不可避の事だが、この作品を読んで、あと「工夫」だと思えた。困難にぶち当たった時、どのように回避するか、どのように工夫して抜け出すか、考えが浮かぶ人が強いと言える。
作者を知るうえで、いい作品であった。
1月13日
坂木 司
1
何が困るかって
気持ち悪さが癖になる感じ。これが率直な感想。浮遊感と言うか、大きな違和感を感じる短辺作品群。引きこもり探偵シリーズの鳥井真一が書いたのではないかと思わせる冷淡な言葉並べも多い。そして時折、ハッと思わされ気づく場所がある。これもミステリーのカテゴリーらしいが、不思議感=ミステリーなんだろう。脳が洗濯され干された感じ。