2023
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3月24日
生命の逆襲
23
福岡伸一
氏も「THE FORWARD
」で気になった作者。生物学者らしい情報量で、当初は「AERA」で読めた内容とのこと。各月で新しい情報で驚かそう、そんな気持ちもあったのだろう、本当に一話一話で必ず新しい「不思議」を知ることとなった。情報量が多いので、全てを記憶するには大変だが、ピントが合った内容は覚えておきたい。知らなかったことを知る喜び。生命の神秘。いや作者は生命の逆襲と言っている。
3月16日
THE ISLAND
22
佐藤健寿
THE FORWARD
内で初めて出会い気になったライター。写真家であるが作文が美味かったので、本人の出している作品を手にしてみる。
写真から伝わってくるものの大きさと、そこに僅かに差し込まれた文章。冒頭からのそれは、軍艦島にあったいたずら書きからなのだが、最初これが作者の言葉かと読んでしまい、何を意図しているのか判らなかった。最後にこれらの説明がある。説明の前に、写真とともに差し込まれたいたずら書きから伝わってくるものがあり、最後の解説はその背中押しのように読めた。そして文才があるのが解説から判る。
今回は写真が大半であったが、文章主体の作品を選んでみたい。
3月16日
おっぱいマンション改修争議
21
原田ひ香
やられた・・・読後感はそんな印象。読み物として起承転結の「結」がやってくるものと思っていたが、見事にすかされた感じ。だからってフラストレーションが溜まるでもなく、これはこれで面白いと思えた。
頁が進むごとに真相が見えてくる展開。真実が見えてくるので、自ずとオチがやってくるのだろうと思っていた。が、しかし・・・(笑)。
3月 9日
旅ごはん
20
小川 糸
作者の世界を旅した時の料理が紹介されている。そして当人の好みにあった一押しがあり、常時美味しさが伴う作品であった。一つ知らされたことがあり、ケバブはトルコ料理と思っていたが、それはドイツはベルリン発祥とあり、根拠も書かれている。
国際的な料理が並ぶ中、バランスをとるように国内のお店とその料理も紹介されている。世界に並ぶ料理となり、こうなると食べてみたくなる。庶民的な崎陽軒のシュウマイもあり、高いから美味しい、安いから不味いとかではない意味合いも伝わってきた。食通な作者。旅の目的が当地の料理だそうだ。楽しそうでならない。
3月 3日
THE FORWARD
忘れられない旅 19
こんな冊子があったとは・・・。手にして一番有益だったのは、巻頭の投手である菊池雄星さんの対談だった。言葉が悪いが野球馬鹿な人生かと思ったら、読書家であり、リーダーシップを執るために、歴史小説をかなり読んでいたと言う。投げている様子からは判らない事。これからはちょっと違った目で見てしまう。
さて、いろんな作家の作品があり、みな新進気鋭の脂ののった書き手ばかり。各人の旅の思い出が綴られており、みな抜きんでたバイタリティーの方なので、その危険をはらんだ当たって砕けろな感じが心地いい。女性ライターにしても、海外に対する不安とかを感じさせない。一般とは違う彼ら彼女らだから、特異ないい作品を書けるのだろうと思えた。
一冊読むとけっこうお腹いっぱいになる感じ。各作品はちょうどいい長さで、ちょこちょこ読むのに区切りよく読める。
3月 1日
電王
18
高嶋哲夫
「今」の出来事を作品にすることに長けている作者。今回も見事。将棋界においての将棋ソフトを題材にしている。あの藤井さんも利用しているのだから、無視できないモノとなろう。
同級生の各々に置かれた家庭事情。人生の岐路と、そこでの選択、現在と過去を交互に織り交ぜながら飽きさせない展開。将棋だからと、難しい棋譜が連続するわけでなく、きちんと万人受けする程度も保っている。
若くしても、強ければ大人同様にみられる将棋界って言う部分も盛り込まれ、そこを今回は子供らしさを出したウイットを感じた。リアリティーさと、作者の構成が上手に噛み合い、スタンドバイミー的な部分もあり、最後の勝負は、どちらかが勝ちどちらかが負けると言う展開だが、この最後がホッコリと心地いい。
2月24日
Story for you
17
講談社
まず、紙が青い。白より目に優しい印象を持った。夜読むと、昼間より青く感じる。
ショートショートで62作家の作品が収められている。すぐに完結する話が多く読みやすいのだが、ファンタジックな内容が連続するので、それが内容が異なるため、中盤以降で読み疲れしてしまった。作家の解説もあり、多くは初めて出会う作家であった。これを作家に出会う入口として、気になった方々のを読んで行ければと思う。
2月21日
抜萃のつづり
その八十二 16
クマヒラ
今年も届けていただく。内容は、これまでの冊子に比べ、やや内容の濃度が薄い印象だった。その利点としては、重くなく読み易かった。塞いだ世の中の中、明かりを灯すようなこの冊子、無償で配布し、今号で82回目となる。凄い奉仕努力。
2月19日
天の花
15
伊吹有喜
昭和が舞台。山持ちの豪商のような家系の人々と、そこに使える人々とでの話の展開。レトロな雰囲気を漂わせつつ、そこは文学作品のよう。立海と、使用品の子(孫)の耀子の子供らしい関係と、そこにだいぶ年齢差のある龍治が加わり独特の展開をしてゆく。立海の発達期に対する見本になる龍治。色々を知り体験した龍治は、年少者に対し促しのような配慮をしている。会話の多くが奥深い印象で、スッと読めるものの文字にならない言葉が湧きだしてくる感じであった。
後半、意外な展開となる。まず犯人探しをしてしまうが、事前に作品中に布石が打たれているのでピンと来る。最後は「卒業」のような展開になるのかと思ったが、作品通りの展開がハッピーエンドなんだろう。
昭和な雰囲気が心地よく、文学的ないい作品に出会えた感じ。
2月15日
第二開国
14
藤井太洋
作者が生まれ育った奄美大島が舞台。地名こそ少し作品風になっているが、加計呂麻島も含め一度訪れた事がある場所で、作品内の情景がよく目に浮かんだ。
前半はややもたついた滑り出しのようであったが、だんだんとスルメのような味わいに変わっていった。主人公の昇が、そのまま島での人生を示しているようで、半数以上が本土側へと就職し、またUターンして戻ってくる形。離島の多くがそうであろう。そして離島が置かれた状況が、作品になりしっかり伝わってくる。より離島の人口減少が進み過疎化している。大きな奄美大島でされそう。
同級生の存在が心地よく、蒲生の存在は、謎めいたヒーローと言ったところか。警察側が意外な位置取りってのも面白い構成だった。新型コロナの言葉も読めるコロナ過の作品。中国との関係も不安の中、そこら辺を煽りながらの展開は、中盤以降で面白くなってゆく。
難民も含め、世界にいま起こるいろんな出来事がちりばめられている。
2月 7日
すべて忘れてしまうから
13
燃え殻
昔、星新一さんのシュートショートを読んだ。不思議でウイットに富んだ星さんの世界に浸り、何冊も読み漁った事がある。この作品に出会い、その時を思い出した。燃え殻さんの世界観も秀逸で、常勝志向というか負をプラス側に持って行く思考は見習いたい。
虐められた過去を、見事に笑いに変えている。一種変わったところもあるが、強いハートと弱いハートを持ち合わせた、人間らしところをつまびらかにし、病んだ若者に対し応援しているよう。
この一冊でファンになってしまった。人気があり、好まれる理由がよく判る。この本を読むと、祖母の教育が良かったことが見える。作品の中で、ハッと気づかされることも多かった。
2月 2日
悟浄出立
12
万城目学
5編構成。西遊記の悟浄にスポットを当てた軽快な仕上がり、でもしっかりと人間模様がありファンタジー側ではなく、作者の発想により面白い角度で書かれている。次は三国志から。そして虞美人までもが史実を織り交ぜながら新たな視線で作品にされていた。荊軻の生き様も、史実と絡み合い面白く、それが最終章にも絡み、最後は司馬遷。司馬遷の晩年はこうだったのか・・・なんて思ってしまう。
当初は、全て西遊記がらみで構成されているのかと思ったが、大陸の古典が次々取り上げられ、飽きない構成になっていた。
1月31日
ふしぎないきもの
ツノゼミ 11
丸山宋利
この歳になって知ることも多い。ツノゼミなどと言う生き物がいることを知らなかった。その種類の多さといい、擬態の多様さといい、進化を研究するのにヒントがあると言う。あからさまに、この色、この形は何の目的なのか判らないものがあり、判るものもある。
作品は、子供むけてもあり、大人向けでもある。
1月26日
BAR追分
10
伊吹有喜
軽井沢の追分が舞台かと思ったら、東京の・・・であった。まあ軽井沢しか知らなかった訳で・・・。
下町の隠れ家的場所。昼の顔と夜の顔があり、原田ひ香さんの「三人家」があるなら、二人家でまあこちらの方が一般的。4話構成で、3話までは食材が癒しな展開であったが、最後のみ趣向が違った展開であった。
人と人が疎遠になっている昨今において、下町の人情味のある登場人物、そこに美味しそうな食材。心の繋がりと食が、じわりじわりと病んだ心を癒してゆく。
気遣いがされながら、登場人物はけっこうストレートに言いたいことを言っている。歯に衣着せぬと言うか、きちんと話したほうが伝わりやすいと知らされているようだった。強い言葉に対しても、相手はそれを受け止める抱擁感と言うか、この連続がホッコリさせられる。
”こんな行きつけが在ったらいい”とみな思うだろう。酒の行がいい。高い酒がいい酒ではなく、自分に合う酒がいい酒。
1月22日
横濱王
9
永井紗耶子
富岡製糸場の持ち主でもあった、原三渓を核とした物語。明治大正を経ての戦前戦後を描き、主人公を本人ではなく瀬田に置いての、外から見える原翁という位置付けて書かれている。
瀬田も含め、人間だれしも欠点や落ち度があると思うのだが、見事に完璧な原三渓で、横濱王と言われた背景がよく判る。今の横浜の繁栄は、彼が居なかったら無かったろうともある。生糸で財を成していたころ、繊維産業が廃れた後だったらどうだったろうか、今だったらどうだったろうか、今の世の中の状況と比べてしまいがち。
読み物として、史実を書いたものとしてとてもいい仕上がりになっていた。
1月21日
BLOOD ARM
8
大倉崇裕
ローカルな滑り出しで、序盤はリアリティーある展開だが、途中でスイッチが入ってからは、大倉さんの真骨頂である怪獣モノのファンタジックな展開となる。嫌な作られ感は無く、素直に楽しみ一気読み。ガメラ的な、ガンダム的な想像もでき、ただただ楽しい。中味が無いような、得るものが無いような感じもあるが、読み物はこのくらいスッと読めてしまう方がいい。相変わらず緊張感の中にウイットを盛り込んであり、読んでいて心地いい。浸透水のよう。
1月20日
まずこれを食べて
7
原田ひ香
原宏一さんの「佳代のキッチン」のような作品かと思ったが、意外な展開だった。作者の得意とする料理の場面は、何処を切り取っても美味しそう。料理をする筧は、「佳代」に似た部分があり、料理を介して人間関係を取り持つ術を知っているよう。
登場人物の中で、エンディングに対し違和感を抱いたのはマイカの存在。前半でかなり文字数を割いている。後半で筧がその代わりのような位置取りだが、マイカがフリで、筧が本命なトリックだったのかも。予定していた展開から、少し変化させたようにも感じてしまった。
仲間との起業。次第にギクシャクし、原因は皆の心の底で一致している。現代人の思考を上手に盛り込み、人間らしい本音の部分を強く出し、キャラ立ちしているのがとてもいい。この部分は、作者らしいと言えよう。各々が人生を考えて生き、世の中を達観している部分と若者らしく迷っている部分が交錯した初々しさ、そこに酸いも甘いも経験した少し年齢の高い筧が加わる人間模様。
柿枝のお金を産んだ頭脳。相対する人間性。生きるために、仲間のために選ぶのはどっち。
1月17日
一橋桐子の犯罪日記
6
原田ひ香
完全に意表を突かれた。推理もののような、解決する側が主人公の作品かと思ったら、逆だった。作者はリアルタイムの日本の現状を作品に落とし込んでいる。これは老人の置かれた境遇、独居老人における最後と言うか・・・。
老人の個人的な最後は、何も周囲に迷惑はかからないように思えるが、それでも家族・近親者が居て看病したり後処理をしたりせねばならない事実がある。作品内でそのあたりをしっかり伝えている。そして現在の問題点の中での改善策が最後の展開ではあるが、ハッピーエンドな理想形だろう。
老人目線の特異な面白い作品であった。人気作家であり、これらを若い人が読むと、世の中が良い側に少し変わって行くのかもしれない。少子化の一方で増え続ける老人。必然的に老人犯罪も増えるのだろう。少数側が多くの老人をカバーするなんて実際は大変。老人同士でフォローしあうって事も作者は言っているよう。
1月15日
答えは風のなか
5
重松清
前年度に読んだ作品が衝撃的過ぎ、これまでの作品が記憶から離れていきそうになったが、両面があって人間である。落ち着きを取り戻し、不動の重松作品に触れる。
10作品が納められている。全編子供目線ではあるが、反面教師的に大人への警鐘的な内容が多く、この辺りが重松作品の真骨頂で好まれる部分だろう。気付かずにしてしまっている大人への戒め。子供は気付いているんだよって部分。封建的な日本文化ならではかもしれないが、女性軽視、子供はさらに軽視するような社会(少しづつ変わってはきているが)、個性を伸ばさない普通や平均を好む社会を、子供に代弁させ異論を唱えているよう。 子供が成長していないのではなく、大人も成長しておらず学習していないと。
新型コロナ進行中に書いており、若干の予測を含め書かれている部分もある。時間の経過で面白みの増す部分だろう。
1月12日
村八分
4
礫川全次
封建主義からではない村八分の観点と言う事で手にしてみた。引用資料が多く、ゆえにとの論法で解説されているが、全体をもう少し作者の主観で引っ張っていて欲しかった。
例文が多いと判りやすい反面、混雑してしまう感じもあり、村八分の知識として読前と読後で、あまり差が出なかった感じ。本来なら悪を退治するような改善策を提案してもいいと思うが、日本に蔓延る古来からのこれらは、この先も無くならないだろうと言うふうに捉えられている。確かにそれは思うが、それでは変わらない。
巻末の最後の2頁は、印象強かった。
1月11日
口福のレシピ
3
原田ひ香
作者の真骨頂である料理もの。二つの話が最後に融合する形態。途中でストーリーが見えてくるが、それでいいと思う。優しい仕上がりでホッコリする。現代を上手に表現する作者が、昭和以前もきちんと言葉選びをしていて雰囲気を出している。
簡単に情報を入手できる今、時間がかかった昔、留希子がそれを認識するまで衝突があるが、最後はハッピーエンド。常に食べ物が現れるので、読んでいるだけで美味しい雰囲気がある。読んで美味しい本。
レシピも簡潔な方がいい。
1月 8日
世界に嗤われる日本の原発戦略
2
高嶋哲夫
予言師のような作品を残す作者、理系としての考察から作文してゆくと、自然と正解を出しているのだろう。本作は、作者の一番の真骨頂であり、関わってきた部分でもある。かなり期待して手にしてみた。
いつもの作風と異なり、やや無骨な印象。おそらくは引用データが多く読み物としてではなく科学雑誌的になっているからかもしれない。
原子力発電を推進する。世の中の風潮に対し難しいかじ取りを、経験者として可能な方向へと導いている。そして化石燃料を使う今を、このままではいけないと警鐘を鳴らしている。難しいがどうすると出来そうか、作者の主観で書かれている。そして4つのテーマに則っていて、言いたいこと、言わんとしていることは分かり易い。
全停止している原発の維持費は、各家庭が電力料金にのせられ払っている。気にしなかったが、そりゃそうなるだろう。使っても居ないのに・・・理不尽。じゃ使った方がいいじゃないか・・・ともなる。寝かせていてもお金が発生している今。作者により知ることとなった。
1月 6日
太陽諸島
1
多和田 葉子
外国人の作品を翻訳したような書き綴りに思えた最初。内容も含め読み辛くて仕方がなかった。異次元な雰囲気で。ここで調べると、三部作の最終章とのことで、おそらく前作を読んでこないと、端折ってだと私のように感じてしまうのだろう。途中で挫折しそうになったが、中場以降で逆に、クセになる文学的面白さに嵌ってくる。
作者の広角的な物の見地と、沢山の外国文学を読んでいるだろう背景が判り、それらを咀嚼して出来ている作品と判る。文学とはとか、今の世の中において気づかされることも多かった。9割が船のデッキや食事場でされる仲間との会話で成り立っている。会話の面白さを伝えているような感じでもある。
キャラ立ちした登場人物。各々の個性を尊重し多様性を受け入れ、時に自然と嫌ったり、人間の本質とか建前とかが面白く絡み合っていた。