2025
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| 12月22日 | 島本 理生 | 天使は見えないから、描かない | タブーな法律にも抵触しうる部分と、職業として地位のある事との両面を主人公が有している特異設定。ただそこに、人としての、女性としての本能もあり、本作はいろんな角度から切り込み構成されている。あっちを立てればこっちが引っ込むような、三すくみのような複雑さ。そして周囲の意見や感情。近親者の反応。 特異な設定であるが、楽しませてもらった。遼一の叔父としての落ち着いた設定もいいし、各キャラクターがしっかり個の人間性を出していて、彼らと永遠子の辛味がとてもいい。お互いの「理解」を求める部分が本作の背骨のよう。 なかなかこの設定では書く人は少ないだろう。思い切った構成に拍手。 |
| 12月18日 | 柚月 裕子 | 逃亡者は北へ向かう | 偶発的な犯罪者になってしまった真柴。そして再び・・・。三度目は警官が相手で拳銃まで奪うことになってしまった。本意ではなく・・・。追う刑事の陣内。丁度この時に東北でのそれを思わせる地震による津波がやってくる。各人の家族が被災する中、混乱の中に逃亡と捜査が展開されてゆく。 ところどころにきらりと光る原石のような言葉ならべがある。それらがあり、味わい深いスルメ的な仕上がりになっている印象。途中から登場する子供の直人は、最期まで言葉を発しない設定。行動に対し周囲が読み手が理由を解釈せねばならないのだが、この無言設定もとても深い。 追う側と追われる側の心理描写が、人間臭くてとてもよかった。 |
| 12月12日 | 石丸 謙二郎 | 犬は棒にあたってみなければ分からない | シリーズ4作品目。変わらずの広角な多彩な作者が伺える。経験量が豊富で、机上で仕上がったフィクションとは違い、ほとんどがノンフィクションな出来事が書かれているのが凄い。いつの時間を利用して・・・と役者と言う職業の中で、これほど一般人以上に世の中を楽しみ経験しているのは凄い。後半に行くと、その行動背景が見えてくる。昔からの性分のよう。それでも行動する能動派で、そこに体力が伴っている。そしてそれらをひけらかさない人間性。 最期の風間さんの文面もあたたかい。短い文面にぎゅっと押し込んだ、俳句のようなするめのような味わいのある、風間さんから見た石丸さんが書かれている。一緒に体験した苦労時代を知っているからこそ書けるのだろう。 |
| 12月 9日 | 中西 智佐乃 | 橘の家 | 不妊を題材にした作品で、そこに日本人らしい心神が絡ませてある。全てが伏線のようで、何か最後にと思ったが、見事に一本調子を貫いていた。 ファンタジックでありながら、リアリティーがあり、占いや祈禱を好む日本における文化や風習が、いい感じに構成されている。主人公は恵美は橘の力を授かった者として書かれているが、霊力の部分と人としての部分の両極な展開が面白みだろう。生命に対する倫理観とか、お金と絡ませた不透明さとか、世の中のグレーな位置づけのところを美味く混ぜ込んである。 昭和な雰囲気で推移しながら、最期に新型コロナの話題を入れ、現代の話にしている。いろんな振れ幅があり、文学作品的要素もあり、複合的に楽しめた作品。不思議な読後感。 |
| 12月 4日 | 稗田 一俊 長谷川智恵子 |
山でヒグマに合わない・死なない観察力 | 本作はヒグマに精通した両名が、観察力を持って危険回避することを指南する内容。よって写真が多く、参照例が多く判り易い。「遇ってしまった時」の前にあるシグナルを見逃さずに読み取ろうと言うことだろう。事前に察知できていれば、早くに回避ができる。道具や装置に頼ることなく、自分の五感で対処すると言うことだろう。 熊を敵対視する書き方が多い中、作者らは自然保護側の立ち位置で熊と対峙している。危険な体験もしているが、それでも熊を敵視していない。あくまでも共存姿勢。そして熊もケースバイケースでいろんな性格が居ることを、多くの体験の中から知り得て、個体個体での対処法が違うよう。 一歩先んじて熊の存在を知る。世の中の人の多くが、この感覚を持っていれば事故が少なくなるはず。 |
| 12月 1日 | 額賀 澪 | さよならの保険金 | 保険金詐欺にスポットを当てた作品。フィクションでありながら、世の中には蔓延っているような内容に、ノンフィクションな印象を抱く。犯罪か合法か、この保険金と言うカテゴリーは、かなりすれすれの位置取りのよう。そしてその保険金を偽って利用している人も居る。 主人公らは、保険金調査員側の立場。警察とは別の独自の調査を行い査定をする。この部分は推理小説のような伏線があり楽しい構成になっている。ほとんど「黒」という、響介の冷静さが主軸にあり、新参の麻海が特異な感性で補佐してゆく。 このカテゴリーだと、シリーズ作にしてもいくらでも展開できそう。生命保険や自動車保険、展開を楽しみながらいろんな保険の勉強もできる。 |
| 11月26日 | 中山 祐次郎 | やめるな外科医 泣くな研修医4 |
シリーズ4作品目。読み続けてくると、やや展開が食傷気味だが、実際の医療現場はこの連続なはずであり、本当の現場が書かれているのだろう。隆治が成長してゆく様子が、医術に対し腕を上げた様子が前半にあり、そして後半ではその中での医療ミス。人生を説いているような感じもあり、医療においてミスは許されないものの、経験がものを言う医療界では、みすもまたつきもののよう。 相変わらず癌患者が多く登場する。それほどに医者ががん患者と向き合うことが多いって事なのだろう。そこでの色々を知ると、どう対処すべきかが理解できてくる。自分はどうすべきかの指南をしているよう。 とうとう葵が・・・。作品を明るく引っ張ってきた登場人物だったが・・・。これもまた医療現場。 |
| 11月22日 | 岩井 圭也 | 夜更けより静かな場所 | 古書店が舞台。限られた登場人物を深く掘り下げつつ、人生を説くような作品。その構成には自由さが感じられ、且つ読み手の読書心を掴む見事な仕上がり。作品の中でそのまま図書作品を紹介したりし、古書店が舞台と言うことならではの内容になっている。 読書会における、参加者の様々な意見。多角的なものの考えがあることを知らされ、その場合の処世術と言うか参加者間での着地点の探し方が楽しみの部分。これがそのまま世の中の生き方に繋がっている。多様性を受け入れる世の中だからこそ、この読書会は輝きを持っているよう。 主人公吉乃のキャラクター設定も現代的で、大学生の彼女に対する、読書会に参加する人生の先輩方の考えもまた、様々で多様的。店主の叔父、その弟の父親、似たような冷静さがありきちんと血筋を感じたり・・・。 読んでいながら映像として見えるような感じ。そこに読みやすさも伴うので、文字遣いが秀逸ってことになるだろう。 |
| 11月13日 | 中山 祐太郎 | 走れ外科医 泣くな研修医3 |
シリーズ3作目。主人公雨野の外科医としての成長度が心地いい。1作目に対する2作目、そして2作目に対する3作目の本作の、ステップアップ度がいい感じ。手術の様子もさることながら、学会での発表の部分も、経験者だからこその詳細な表現になっているのだろう。 そして今回は山岳要素を盛り込んである。通常の登山における負荷と、もう一つの病気の負荷を併せての登山。小屋到着時の、ビールを飲むところの表現などは、登山を判っている方で間違いないだろう。登山前に作った作品や、その他もろもろの回収が次作であるのだろう。次の展開がある程度予想は出来るが、どのような方向に向くのか楽しみでならない。 医師の私生活が読める。外科医の場合、公私もないような人生を過ごさねばならないのか。人生をかけて・・・。 |
| 11月 7日 | 辻村 深月 | 傲慢と善良 | 遅まきながら話題作に触れる。現代の恋愛事情を深く掘り下げた、細かい部分まで拾い上げ構成されている。これでもかと、考えられるあらゆるシチュエーションが出てきており、婚活に勤しむ方々のバイブルになっている背景が判る。ただし、ここまで気にして行動しないと、ゴールは無いとなると、それは未婚者が増えている背景も見える。どっちかと言うと、作者の本意ではないとは思うが、未婚者増の背中を押しているような気もしてしまう。若い人が読んだら尚更、経験が少ない分、早々に「面倒くさい」となってしまうようにも思う。 若者の人間関係の難しさ。昔も今も変わらないが、SNSがある今は、スピードが伴い、いいことも悪いことも伝わり広がるのが速い。その点では今の若者は大変だろう。上手に関わることに特に気を使う。男女においても同じこと。 そして親の関わり方。親との関わり方があり、これも大きく影響する。文化風習、信教や土地土地の風俗も影響するから婚姻も厄介。そういうものが薄れつつある現代だからこそ、田舎のそれらがまだ残る場所は逆に大変と言うことになろう。何か大変さばかりが感じられてしまう。 読後感がどっと疲れた印象。読み辛いとかではなく、昨今の婚活事情に・・・。 |
| 11月 1日 | 岩井 圭也 | 汽水域 | 現代の闇を暴くような素晴らしい仕上がり。無差別殺人がニュースになる。その背景を、こうやって一部でも作品にして表面化できているのはいいことだろう。ごく一部に限られるかもしれないが、もしかしたら本書に書かれている内容が背景に多いのかもしれない。参考文献を見ると、それなりに統計が取れていることを構成ベースにしていると思え、フィクションではありながらノンフィクションに近い犯罪の背景なのかも。 そして報道側の伝え方の問題。伝えることで犯罪が伝播することもある。犯罪の仕方がより参考になる立場の者もいる。ただし報道は、事象を正確に伝えねばならないこともあり、その部分も作品の中で上手に構成されている。 現代の問題点を織り交ぜうまく構成されている。丁度山上被告の判決日に読んでいた。そして新たな外国での無差別事件も報道されていた。無くならないこれら事件。その背景にあるもの・・・。 |
| 10月28日 | 中山 祐次郎 | 逃げるな新人外科医 泣くな研修医2 |
シリーズ2作品目。研修医が新人外科医となった頃合い。外科医として成長してゆく様子が、本当の外科医が体験を踏まえて書いているよう。リアリティーがあり、現場をよく知る人だから伝えられる内容で、とてもリアリティーがあり知ることが多い。 次の研修医もやってきて、上を見つつ下の面倒も見る立場。相変わらず睡眠不足な職場で隆治は成長してゆく。モノローグがとてもいいアクセントで、本音がありながら、実際発する言葉の表裏が楽しい。患者に対する医師の位置取り。モンスターな患者も居れば、一見強面だが心ある患者もいる。それらの体験をしつつ隆治は腕を磨いてゆく。 そんな中、父親が癌になる。 ちょっと中身をと軽く読み始めたら、面白くて一気読み。 |
| 10月25日 | 湊 かなえ | 花の鎖 | 山岳小説の要素と推理小説、そして文学小説の要素を兼ね備えた作品に思えた。作者の力量がよく判る作品で、よくぞここまでの構成が考え出されたと感心するばかり。時間軸も三世代に渡る長いもので、最初のうち、よく判らずに混同してしまった部分もあったが、だんだんと様子が見えてくるとスルメのような読み応えになってきた。 巻末ですべての種明かしがされる。血族の諍いと言えばそれまでだが、憎しみを抱いたまま生きてきた側と、憎まれる側の影を抱える人生が逆転することは無かった。そこまでのハッピーエンドではなかった。それでも清々しい読後感であった。 |
| 10月21日 | 松永 K三蔵 | 54 バリ山行 |
山岳小説をたくさん読んできたが、バリエーションハイクにスポットを当てた作品は初めて。関西の、六甲付近の藪ヤの楽しみ方がよく判る。低山で楽しむバリエーションハイクと言ってもいいかも。専門的な表現も多いので、作者自身も歩き、掲載されている場所を体験しているのだろうと想像する。 職場の山岳会のあたりは、昭和な雰囲気を感じる。東日本と西日本の違いがあり、関西ではまだ職場関係者でのハイキングが多いのかもしれない。そういう文化が根付いているのかもしれない。周囲が高山でなく、気軽に登れる場所が多いからだろう。 主人公の波多が、山と対峙するときの心の変化が、どんどん変わってゆく。玄人の妻鹿は全てを判ったように波多と山を歩く。ここが作品の一番の重き部分で、波多のモノローグでの心の変化が、”そうそう”と思いながら読める。そして妻鹿が姿を消した後の波多の心の変化がいい。ここでも”そうそう”と思えた。 藪ヤの気持ちをよく判った、気持ちがよく判る作品であった。 |
| 10月15日 | 中山祐次郎 | 53 泣くな研修医 |
現役外科医の作品。内科医としては佐久総合病院の南木さんが有名だが、本作は下界としての作品で、専門用語や関係者でないと判らない状況が表現され、素人としても情報量が多いが、本職の人が読めば尚更楽しい内容かと思う。 医療にも本音と建前があることがよく判る。治療される側の生身もさることながら、治療する側も生身の人間。ロボットでもなく神様でもない。そんなことがよく判る内容。そして心ある治療を追い求めた作者の気概も感じる。 手術風景などは、かなり本格的な表現になっている。ここまで詳らかに書いた作品に出合うのは初めて。参考にはならないが、とても有益だった。 岩井、佐藤、吉川と医師や看護師が登場し、次作の展開が気になってしょうがない。 |
| 10月 8日 | 岩井 圭也 | 52 サバイブ! |
あまり期待せず読み始めたが、その反動かもしれないが面白くて一気読み。読みやすく浸透性がいいと言うか、吸引力と言うか陰圧と言うか、作品に引き込まれ離れさせず、次がその先が読みたくなる作品であった。 構成がとてもいい。心をつかむ「がん」と言うキーワード。それも主人公はステージW。そこからのリスクを抱えながらの起業。登場するキャラクターがしっかりしており、なにか戦隊もののような雰囲気もあり、倒れても倒れても立ち上がる展開は、読み手を心地よくさせてくれる。コタロー、ハク、ヨツバ、タニケン、シンディ、しっかり記憶され忘れることはないかもしれない。 ベンチャーが20年後に生き残っている確率は0.3パーセント。 |
| 10月 2日 | 山崎 玲奈 | 51 歴史のじかん |
間違いなく才女。日ごろ作者のラジオを聴いているが、言葉のチョイスが秀逸。いくつも選べる中で的確に選び発信している。本作も同様で、間に挟まれた考察の部分で特異な文系脳が判る。 伝えることに長けていると言うか、各登場人物を短いページの中で的確に伝えている。よってその人が本当はこうだったと言うことがスッと頭に入る。伝える一方ではなく、判り易く伝えるってところにも気を使っているのが判る。日本史を、作者のような先生に習ったら、もっとよく覚えられただろうと思う。 若いけど、かなり徳を得ている年配者のような思考も持ち、一方で若いなりの葛藤もある。それらを晒しながら等身大をそのまま活字にしているような印象。「歴史が面白い」素直にそう思えた一冊であった。 |
| 9月26日 | 加藤ジャンプ | 50 ロビンソン酒場漂流記 |
本作で初めて作者のことを知る。テレビは見ないので、番組を持っていたことさえ知らなかった。町はずれにある居酒屋を好んで訪れる作者。言葉の紡ぎ方が素晴らしく、料理の表現も豊富で美味しそう。これだけ食べ歩いていたら、間違いなく食通でいいだろう。そして芸能界での食通でもあるマキタスポーツさんとも繋がっている。 定型な感じで、Mさんを従えて居酒屋を訪れる内容。そのすべてのお店で、訪れてみたいと思わせる作文になっている。面白いのは、普通は料理に関してだけだろう。本作は、店主やスタッフと会話し、その人となりまで伝えている。よって全てのお店が深く見えるようで、より行ってみたくなる。料理もそうだが、店のスタッフ如何で味が違ってくる。 楽しい作品だった。 |
| 9月17日 | 小宮山 花 | 49 私、山小屋はじめます |
他人を傷つけない言葉選びと作風。温かく優しい雰囲気が終始ある。親御さんの育て方なんだろうし、作者の多くの経験からなのだろう。これを読んで、光小屋に行きたくならない山ヤは居ないだろう。 新米の小屋主。どの小屋も、オーナーには最初があり、その最初を詳細に書いてくれている。山小屋もサービス業。ただ平地と違うのは自然の中と言うことと、自治体や公園法などの縛りがある場所って事。頻繁にヘリを動かしていると思ったが、この光小屋のように年一回の小屋もあることは知らなかった。相応にお金がかかり、光小屋の場合は川根本町管轄。 腰が低く低姿勢。作者本人の頑張りをさておき、周囲に助けられていることを強く伝えている。小屋主は怖い人ってのが昭和の印象だった。女性の小屋主は両俣小屋小屋のように有名な方も居るが、光小屋も有名になってゆくだろう。飄々と綴ってはいるが、あちこちの小屋で働きいろんな経験を経ている。それなりの計算が出来て小屋主募集に手を挙げているのだろう。 いつかこっそり出向いてみたい。新南部も久しく行っていない。 |
| 9月 8日 | 向坂 くじら | 48 いなくなくならなくならないで |
時子に対する朝日、話が進んで何かの着地点に導いてくれるのかと思ったら、全く予想外だった。かなり異質な構成で、読み手側の意識の浮遊感と言うか、何に行きつくか判らない状態にフワフワしながら流される感じがあった。 朝日が現れた時、麻央子が現れた時の、家族の対応や会話、時子の反応の中に、人間の深い部分を感じたり、読み手側の心を抉ってくるような感じさえあった。 これを世に出す作者は凄い。どんな感性なのだろう。この感覚は全く持ち合わせていない。 |
| 9月 4日 | 原田 ひ香 | 47 あさ酒 |
作者の得意とする食を、構成の中に大きく割いている作品。それがあることで、いいアクセントになり、いいテンポになり・・・。そして表題にあるとおりの「朝酒を楽しむ。一般に朝酒を日常的にされる方は少ないだろう。職業的にも・・・。それができる特異な職業。その特別な環境により、とてもお酒が、料理がおいしそうに読める。 恵麻の人生が、シェアハウスに入ったことにより大きく変わる。祥子に会ったことにより変わってゆく。みな個人個人の人生があるが、出会いにより変わってゆく様子もあり、そこを本書は語っているようにも思えた。 いろんな境遇、人生、社会観を持つ人らが蠢いている社会の中で、個人主義が目立つ社会の中で、やはり周囲との関係が大事と指南しているよう。 作品中の各お店は、フィクション風になってはいるが、作者においてはどこかにモチーフになっているお店があるのだろう。そして作者も朝酒が出来ているのだろう。 |
| 8月29日 | 村山 由佳 | 46 永遠 |
100ページほどの構成で、登場人物も少ないが、文学小説を読んだような読後感で、祖母に対する母、母に対する娘の血のつながりがとてもいい感じ。人間のハートの部分がよく表現され、温かい作品。 片親で育った弥生にとっての、突然現れた父親の位置取りも秀逸。 |
| 8月27日 | 今野 敏 | 45 リミックス |
ハードボイルドとファンタジーの融合作品。警察と半グレとのにらみ合いのような中、降霊する役小角が展開を引っ張ってゆく。赤岩が、いつか爆発するのではないかと読み進めるが、その予想に反して一切の暴力シーンは無い。作者に裏をかかれた感じ。 外国人が日本に住みながら抱える葛藤や問題を、作品に盛り込みながら提起しているよう。霊力の絡みがあり、展開が賀茂主導な感じで先が想像し辛い印象もあるが、この形体は初体験であり楽しく読み進められた。 血みどろのとかは無くライトな感じでハラハラドキドキは少ないが、展開が面白いので最後まで飽きない構成になっていた。 |
| 8月23日 | 明里 桜良 | 44 ひらりと天狗 |
八百万の神を崇める日本の、民族風習風俗文化の中から上手に要素をピックアップさせた構成で、フィクションでありながら本当にすんなりと読めてしまう。ファンタジー作品の奇才でもある作者の手腕が判る作品。 田舎への移住。ただし先祖を遡ると由緒ある処遇。本人のみそれをよく理解していない中での展開。大月ひらりが主人公としてほんわかしたキャラと独特の個性で主旋律を引っ張ってゆく。そこに人間や動物を絡め、ファンタジックであり昔話的でもあり・・・。そのひらりに対する周囲の配慮も心地いい。 次号作もあるのだろう。楽しみな作者であり、楽しみな作品であった。 |
| 8月21日 | 里見 清一 | 43 患者と目を合わせない医者たち |
医者の立場からの見解。そしてわが身の病歴からの患者としての立場の考え、双方を判り板挟みのような立場の中からズバッと切り込んだ作品。ここまで明け透けに伝えられると、患者側としてハッキリと正確に伝わってくる。これらを開示されたら、困る医師や病院もあるだろう。 現在の医療は、昔とは大きく違う。医術もそうだが、患者に対する医師の対応が異なる。時代が悪くさせているのかもしれないが、医師側のリスクが大きくなっている昨今、医師は当然リスクを回避しようと思考で診断するのは間違いないよう。 検査の是非。連載作品を文庫化したので、同じ内容が繰り返される部分があるが、気になる内容では、MRIやマンモグラフィーでの被ばくである。癌を探そうとしながら癌になるリスク。検査の是非において、その有効性と、逆の意味合いも持つ検査は、これは受ける側はしっかりと知って検査に挑むべきだろう。検査をするか判断すべきだろう。数値化してリスク度合いを伝えてくれているので判り易い。 働き方改革等々で、医療現場も昔と大きく変わってしまっているよう。いい面ばかりではないことが判る。頼るべき医師が、己の判断より機器での判断を優先してしまっている昨今のよう。 とても為になるいい作品であった。 |
| 8月14日 | 田村 淳 | 42 母ちゃんのフラフープ |
芸人の作品であり、笑いが多く詰め込まれているのかと思ったら、涙を誘う構成だった。頭の赤い尖った芸風との認識であり、芸人の中でもやや異端な存在に感じていたが、本作により両親から育った、ここでは特に母親からの教えが読め、それがあって今があるのがよく判った。 明け透けに語られる作者の育った過程。そこには常に、本人ならではの解釈があり、そして判断があり、そのバックボーンに常に母親の教えがあり・・・。子供をこのような性格や思考に導く教育は素晴らしい。看護士として、いろんな人と向き合って、たくさんの人を見て(看て)きたからだろうと思える。そして自分の最期の潔さ。延命治療を断わり、自分らしい生き様を子供らに見せている。ここもまた、その判断をし実行する背中を子供らに見せているよう。 この母親にして、田村淳と言う人間が、感覚・センスのいい芸人が作られた。 核家族化した世の中において、そこからもう大家族には戻らない社会において、家族とも繋がりをどうすべきか、どうしておくべきかを指南しているよう。作者が自分で体験した気づきを、本作により多くの人に伝えたいのが趣旨だろう。いい作品であった。 |
| 8月10日 | 長岡 弘樹 | 41 交番相談員 百目鬼巴 |
6作品が収められている。各作品は警察官が主人公となり、そこに百目鬼がサブ的に絡むのだが、よくある一件落着な着地点に行くのではなく、百目鬼は促しをするまでで、最後は各主人公に任せている独特の作風。裁くのでも捌くのでもなく、あくまでも相談員の立場を保っている。 「裏庭のある交番」で初めて各キャラクターに触れ、同じ構成で続くのかと思ったら、主人公が各作品で変わり話がリセットされた感じで好印象。この作風に触れるのは初めてかもしれない。 水戸黄門的な安心安定の百目鬼だが、ライトな感じもするが推理する部分はエッジが立っており抜かりない仕上がり。シリーズ作品として続くのだろう。 |
| 8月 7日 | 今野 敏 | 40 任侠梵鐘 |
9年ぶりに作者の作品に触れる。そして真骨頂のヤクザとの人情展開で、安心安定の仕上がり。暴力団排除の時代の暴力団員らが主人公。昔から祭事などはヤクザと関りがあった。それらが排除により無くなりつつある昨今。もう一度振り返ってみようと言っているような。全てが悪ではなく、いい関係もあったことを伝えてくれているような・・・。 ヤクザが、自分らのことを第三者的に悪人と話す部分が面白い。そこに人情味を感じるのだが、警察側のマル暴との絡みも人間味が感じられる。ヤクザが居なくなっている、減っている世の中は、社会におけるピースが無くなってゆく感じでギクシャクしてゆく。そんなことをコミカルに仕上げている。 |
| 8月 1日 | 新保 裕一 | 39 共犯の畔 |
今の石破政権下のゴタゴタを見聞きする中で読む本作は非常に面白い。八ッ場ダムを舞台にしているのは明らかであり、当時の民主党と群馬と言う保守文化の地域、ジャーナリズムの位置取り、等々を上手に絡め構成されていた。推理要素もあり、「ホワイトアウト」の作者らしい展開もあり、中盤以降は貪るように読んでしまった。 既に出来てしまっている八ッ場ダム。本作はフィクションであるが、政治と金が絡む違うノンフィクションがあったに違いない。無いはずがないだろう、あれだけのプロジェクトなのだから。観光に訪れる外野側だが、現地には移築して住まいする、ダム湖に沈んだ地区の人々がいる。民主主義なので、賛成と反対で判断されることなのだが、住まいする人の中には今も「あの人は賛成」「あの人は反対」とされる区別がされていることだろう。 読みやすい言葉ならべで、いい構成であった。 |
| 7月21日 | 中島 京子 | 38 坂の中のまち |
5遍+エピローグでの構成。純文学テイストを入れ、そこに今現在の最新の情報を絡ませている。舞台は東京で、坂が語られ展開してゆく。著名な文豪の話題もちりばめられており、不思議な特異な作品。ファンタジックな要素もあり、主人公である真智の出自が見えてくるあたりからが作品の山場となろう。 台湾よりのエイフクさんのキャラも浮遊感があり、志桜里さんの際立つ人芸性が、作品の背骨かもしれない。感情を刺激するような部分は無いが、こんな作品もいい。 |
| 7月14日 | 宮島 未奈 | 37 それいけ!平安部 |
読者のツボを心得ていると言うか、「成瀬」フリークになった人を裏切らないと言うか、二番煎じ的ではあるが寄せ過ぎず、それでいて遠からずな仕上がりで、とても楽しく読めた。またこれもシリーズになるのか・・・なるのだろう。 構成は「成瀬」に似ている。高校の低学年から話がスタートしているからでもあり、高校時代を謳歌する青春グラフティな感じ。とても変な名前の部活であるが、それだだんだんと周囲に認知されてゆく様子が面白い。 これもまた人気が出て話題になる作品だろう。 |
| 7月11日 | 朝井 リョウ | 36 生殖記 |
冒頭から不思議な展開で、ピントがなかなか合わせられずにいた。途中からLGBTQな展開となり、もどかしい中に読み進める。何か最後への布石なのだろうと・・・。しかし最後まで一本調子な展開だった。 昭和を育ってきた者として、なかなか作品に溶け込めなかった印象。若者なら受け入れられるのかも。好みが大きく割れる作品だろう。 |
| 7月 8日 | 橋本 直 | 35 細かいところが気になりすぎて |
マキタスポーツさんに続き、芸人さんの作品に触れる。ネタを作り出す人だからか、日々の生活の中の細かい部分が気になるよう。そこには、幼少期からの人生も影響があるようで、それらが面白おかしく書かれている。以前にオードリーの若林さんの作品を読んだが、最後にオチを入れ込むところなどはお笑い芸人らしく似ている印象だった。 コンビの相方である鰻さんの漫画も楽しめる。挿絵的であるのだが、これがなかなか面白く、僅かなスペースの中で、大きく笑わせてくれている。コンビとしての、文章で笑わす担当と、絵で笑わす担当とで、いいコンビと思えた。 作品に触れ、生き様を知り、次に銀シャリの漫才に触れた時は、これまでとは違う印象を持つだろう。 |
| 7月 3日 | マキタスポーツ | 34 グルメ外道 |
突出した感性と探求心。ここまでの方がいるとは・・・。日本人が、いろんな分野で頂点を極めるのは、こんな人がいるからかとも思ってしまう。そしてお笑いの人らしい観察力でもある。別角度からは、ここまで細かいところに気が行ってしまうと、人生疲れないだろうかとも思う。ただ、書かれている内容が作者の普通であろうから、外野がどうこう言うことではないのかもしれない。 何をどうすれば美味しくなるか、自分が美味しく感じられるか、世の中の既定路線から逸脱し、作者ならではの美味しさを追求している作品。言葉を良く知っており、その部分でも驚かされた。 |
| 6月27日 | 青柳 碧人 | 33 令和忍法帖 |
令和と表題にあるように、一番のキモとなる要素だろう。現代に忍者が生きている場合の経緯とか、今に至る時代時代においての事件と絡めた内容で、フィクションでファンタジックな要素は強いが、これはこれでとても楽しめる仕上がりだった。推理要素もあり、時代作品な要素もあり・・・。 戦隊シリーズとかヒーローシリーズの要素もあり、懐かしい感じもする。それでも、令和に合致した仕上がりに、甲賀や伊賀の忍者が上手に溶け込んでいた。 |
| 6月18日 | 柊 サナカ | 32 あとはおいしいご飯があれば |
短編の13作品での構成。ほんわかした中に、食べ物(料理)の要素があり、読みながらお腹がすくような作品で、その終わりに手書きの絵とレシピがある。難しくなく簡単なものが多く、料理を苦手とする人でも対応できそうなものばかり。 食べ物が、いろんなことを丸く収めてゆく感じ。特に本作では、簡単な出汁での作品が多く、出汁をとるだけでも大きく違ってくることを伝えられている感じ。時間をかけずにできるもので、食生活が大きく変わるような・・・。 食に関わる小説は多いが、この形体は初めて。 |
| 6月 6日 | 時事通信社 政治部 |
31 国会の楽しい見方 |
学校やメディアよりの情報でしか「国会」や議員のことを知らなかったが、この作品でかなりの知識になった。とても判りやすく書かれ、どっちに肩を持つ出なく公平な立ち位置で書かれており、その点でも読みやすかった。 判らずに国会中継を見たり聞いたりしてきた。あの不思議な答弁の裏が判ると、確かに国会が楽しく思える。 日本を動かしている中枢。その仕事が判る。雑学的な要素も多く、老若男女、大人も子供も読める内容。人生の後半だが、読んでよかった。 |
| 5月25日 | 彩瀬 まる | 30 嵐を越えて会いに行く |
5編構成。東北・北海道が舞台で、作者の独特な感性が楽しめる。ただ、その特異性が後半になるとちと食傷気味になっていた。 各々の人生の中での出合、そしてそこから長く続く関係。作品内での登場人物は、浮いた存在であるが、そんな人と長く関係を続ける人もいる。そこの微妙な部分が面白さ。周囲からは異端な感じでも、当人同士は判りあえている。 土方の作品を読んで、その後すぐに土方の足跡を追い五稜郭や鹿部方面に行ってきた。確かにいろんなところに土方が記録されている。 |
| 5月20日 | 宮崎 拓郎 | 29 ブラック郵便局 |
コミカルなウイットに富んだ構成なのかと思ったら、内容は本気のノンフィクションだった。そのまま郵便局の黒い部分を、多くの問題を例に出し構成されている。気になったのは、作者の住まいする場所も関係するかもしれないが、西日本の方が黒い印象。 どんな企業でも、人が関わっている以上は多かれ少なかれこのようなことはあるのだろう。いくらニュースになっても、次々に現れ減らないのだが、そんな文化の中に生きているってことだろう。文化と言うか、もう日本古来からの風俗風習とも言えるかもしれない。そして今この現在でやっと、それらが正せる時代になった。 ニュースに見聞きする郵政の事がこれまでだったが、本作を読むとムカムカするほどに郵政の汚い部分がさらけ出されている。その連続で詳細で、読むのが辛くなった作品であった。 |
| 5月17日 | 浅田 次郎 | 28 アジフライの正しい食べ方 |
旅好きな作者が、コロナ期の出歩けない中で書いたものや、その当時の生活の様子がショートショートな感じで綴られている。選考委員もする作者、本気を出すとこれほどにウイットに富み、くすぐられているかのように笑いを誘うことができるのかと思うほど。終始楽しい。 主義主張がしっかりしており、それが伝えられるのだが、嫌な感じがしない。ものの言い方、伝え方の勉強になる。旅でのトラブルをも楽しむ、本当の旅人のよう。そんな作者が閉じこもった時期の作品。 |
| 5月13日 | 万城目 学 | 27 六月のぶりぶりぎっちょう |
二作品が収められている特異形。「三月の局騒ぎ」は、半分は夢の中のような出来事のようで、寮での暮らしと現在とがファンタジックな構成となっている。なんといってもキヨがキモ。 そして「六月のぶりぶりぎっちょう」の方は、垣根涼介さんが、信長の原理と光秀の定理で表現しているのを読んでいる。本作では、こんな展開にもできるのかと、その斬新さ、構成の膨らませ方に感嘆。読み物として楽しく読めた。ちょっと間違うと、違うものになりそうだが、ストライクからボールになりそうなギリギリを攻めている感じがした。死んだり生き返ったり、推理気味な展開もある中では、そこに演技があるとは・・・。広角ないろんな技法が感じられる作品。 |
| 5月 6日 | 石田 夏穂 | 26 ミスター・チームリーダー |
ボディービルダーが主人公。そのために、ボディービルの日ごろを知ることができ、競技に出場するに際し、どんな日ごろがあるのかを詳細に知ることができる。己の肉体を鍛え上げる趣味なのだが、24時間ある一日を、それが為に意識して過ごさねばならないのは、かなり大変な趣味にも思える。 そしてボディービルだけでは生活ができないので、働きながらとなるのだが、本作内はレンタル会社勤務で、体を鍛える主人公と、周囲の太った同僚との対比が面白み。そこでのストレスと、身体を作り上げることジレンマをリンクさせるような構成で展開してゆく。 また知らなかった世界を知ることができた。身体を絞り減量し、大会当日に向けて最後に増量するなんてことは知らなかった。そんな競技だったとは・・・。 冒頭にあり気になった言葉は、筋肉を鍛えたから重いものを楽に持てるのではなく、重いものは重く、その苦痛により耐えられるようになっているだけ。 |
| 5月 2日 | 坂本 政道 | 25 あなたは、死なない 安心してください、お迎えが来ますから |
体外離脱を主に話される霊視とかの話。作者の経歴は素晴らしい。それが無かったら、この内容は信じがたいと思ってしまうが、あるがために信じたいと思い読み進める。 これら内容は、各信教と同じだろうと思う。信じる信じないは、個人の生きてきた背景や、現在置かれている状況にもよるだろう。体験したことがないことに対し、信じがたいと思うのが普通で、体外離脱してとか、死者と会話したりとか、なかなかそれを体験している人は少ないのだから、信じる人、本作内で言うそれを「知っている人」は少ないはず。ただそこで、本作はそれを押し付けるのではなく、「こんなこともある」「こんな方法もある」と言う指南をしている。 専門用語も多く、何か違う世界の話のように読んでいた。作者側に近づこうと読んでいたのだが、このカテゴリーは難解過ぎた・・・。 |
| 4月30日 | 畑野 智美 | 24 世界のすべて |
昭和の頃では、無かったであろう内容の作品。多様性が受け入れられるようになり、それらに理解が進み寛容になった時代だからこそ、表に出てくる内容かと思う。 各人が内に秘めた趣向。自分のみが知る表に出ない事柄。自分でさえもハッキリとは判らないこともある。幼少期から大人になるまで、ずっと付きまとうこと。LGBTなどに対するストレートな言い回しの部分は、この作品の山場とも言えるだろう。世の中の本音。 独特の人らが集まる構成であるが、作者が表現したいパーツであり、この世界を理解するのに判り易かったりする。専門用語が出てくるが、それらの趣向一つ一つに、解析された名前があるとは知らなかった。その部分ではいい時代だと思う。 ただ、どうなのだろうか、また逆行するような動きがアメリカで出てきている。多様性を受け入れない・・・。そんな時代だからこそ、知っておいていい内容かと思う。 |
| 4月22日 | ともこ | 23 日本の聖地を訪ねて |
独特の紀行文。歴史などの過去を知って現地を旅している作者。得るもの、伝わってくるものが違うようで、とても感受性が高いように読める。パワースポットにおいての感覚は、なかなか独特であり、ここまでなら最高に度が楽しいだろうと思う。八百万の神を崇拝する日本人らしい日本人と言えるかもしれない。 これらの旅を、コロナの最中にしたと言うから驚きである。出向くことも泊まることも制限されただろうに、その障害には一切触れておらずに、現地での体験を目いっぱい伝えてくれている。作者も先人により旅の仕方や楽しさを知ったと言う。そして本作では同じように誰かの手助けになれればと言う。十分なる得るだろう。途中からのようだが、「青」を求めて周ったよう。その青がとても綺麗。 |
| 4月16日 | 高嶋 哲夫 | 22 家族 |
予言の書とも言える的確な指摘を続ける作者。それは自然現象だったり政治だったりするが、書かれた後には追うように事象が起こっている。富士の噴火に対しても早くから作品にしていたり、南海トラフも然り。 今回の問題提起は、作品の構成は、核家族化におけるケアラーの問題。高齢社会になり、助けが必要な人も増えている中で、看る側の負担の問題を伝えている。やや推理小説的要素もあり、事件に対する展開は最後まで楽しめる。その過程で、ケアラーの現実を強く表現している。作者は、いろんな角度から調べ上げたよう。どんな良心的な人でも、ケアラー側ではストレスが溜まることや、外野側と当事者側との温度さを表現したり・・・。かなり勉強になる作品であった。 |
| 4月 9日 | 額賀 澪 | 21 願わくば海の底で |
菅原晋也と言う一生徒にスポットを当てた作品。冒頭からは、やや劣等な印象を持つが、ページが進む毎にだんだんと優等な面が表現され、周囲にとっても重きを持った位置取りになってゆく。舞台は東北の海側地域。そこに大きな地震が起こる。 同級生との人間関係。美術部内の上下関係。美術部顧問との人間関係が、ストレートな物言いで楽しめる。飄々としている菅原が中心にいるのだが、軽妙な対応の中に本当の菅原の温かさがあることを後半に知る。 本音を言うと、最初はつまらない作品に思えた。しかし読み進めると、どんどん旨味が増すように楽しくなる。菅原の最後は・・・。 |
| 4月 6日 | 潟Nマヒラ | 20 抜萃のつづり その八十四 |
編集する担当者が変わったのか、これまでとは少し違う構成に思えた。と言うのは、僧侶や牧師さんよりの抜萃が多かったこれまでだが、今号はゼロではないが少なかった。いいとか悪いとかは別として、今回は読みやすかった。尊い言葉が多いと、難しかったり重い印象を受けていた。 あとは、病気に対する記事が多い印象だった。老人が増え、それに伴い病気をする人も多いってことからかとも思う。暖かい、いつもながらの構成で、今回も得るものが多かった。 |
| 4月 2日 | 村山 早紀 | 19 風の港 再開の空 |
全て空港が舞台の5話構成。好みであり仕方がないが、最初と最後がいい感じで、挟まれた3話が少しピリッとしなかった印象。2話からファンタジックな構成となり、最終話もそうなのだが、不思議な出来事と括られてしまう感じで、あまり心に響いてこなかった印象。ここは読み手によって捉え方は違うだろう。 あと、構成方法が、「病」と関係づけてある作品が多く、各話でそこが変化していれば良かったように思う。定型な感じがしていた。 |
| 3月28日 | 小松 立人 | 18 そして誰もいなくなるのか |
主人公名が、作者名。この時点で特異。それほどに注力して仕上げた作品と判る。展開が次々と進み、飽きないのと、次が知りたくなる中毒性と言うか・・・。軽い感じでありながら、回収してゆく後半に向け本格的なミステリーが楽しめる。 死神の設定がややファンタジックな印象であるが、それが重要な構成の一部であり、そうは思っても楽しめた。見えない犯人に対してのドキドキ感も得られ、登場人物の心理・感情の機微や、その揺れ動く様の表現が本作の真骨頂だろう。その表現部分が多いので、そこを楽しめる人は面白いし、くどくて食傷気味と感じる人も居るだろう。万人受けはしないようには思う。 仲間なのか敵なのか、時間が決められた中での心理戦の部分がとてもいい。人間のいろんな面が表現されている。信じる部分、疑う部分、信じたい部分、疑いたい部分。テンポがよく読みやすいが、その構成には重厚さも感じられるミステリーに思えた。 |
| 3月25日 | 新堂 冬樹 | 17 シン 人間失格 |
作者の作家以外の職業を思うと、本作のような内容を出して大丈夫なのかと心配してしまう。もっとも。フィクションであることに間違いないが、本人が書いている内容で間違いなく、変な影響は無いのだろうか。 文学小説のオマージュ作品かと思ったら、題名そのままの人間性を持つ森田が主人公。人間の表裏をストレートに表現し、作者は、育った環境が人間形成に大きく影響し、一番は親の育て方によると言っているよう。 下衆な表現がとても多い。なにか生徒が手にしたくなるような表題であるが、完全にアダルト仕様であった。途中、森田は都度叩かれるのかと思ったが、のらりくらりと切り抜ける。それでも最後に・・・。 「人間失格」に対する「シン人間失格」。書かれた時代が違い、当然の構成も違うが、ちゃんと前作を意識させ現代に当て込むと本作のようにもなるだろうと思わせる。ヒリヒリする感じは、いい感じに寄せていると思う。 |
| 3月21日 | 五木 寛之 | 16 忘れえぬ人 忘れえぬ言葉 |
作者の、各界の著名人との一期一会を振り返り、そこでの記憶に残る言葉が記されている。日記でもつけていたのだろうか、頭のいい人の記憶力が、当日の出来事を詳細に呼び戻している。 とても読みやすい言葉ならべで、本来漢字を当てこむようなところにひらがなを使ったりと、内容の強弱もそうだが、表現の仕方の技術が見られる。こんな作品ばかりだったら、万人が本を好きになるんじゃないかと思う。 各界の秀でた人の思考が読める。売れる曲の歌詞に秘められたノウハウのところなどは印象深かった。歌詞にも息抜きが必要。 |
| 3月16日 | 村崎 なぎこ | 15 オリオンは静かに詠う |
ろうあ者とその家族や近親者、そして姉妹が登場し、全四章の中では、その一人一人が主人公を交代し語られる。星座、ここではオリオン座を百人一首競技の世界と辛め和歌の楽しをも引き出し、読み手を引き込むかなり楽しい作品だった。健常者に負けんとする咲季。ろうあ者を両親に持つコーダのカナも同じ意識を持つのもポイントだろう。そしてママンが全体を引っ張ってゆくが、そのママンもろうあ者を姉妹に持ち苦労して生きてきている。松田の位置取りも薬味な感じでとてもよく、読んでいる途中は継続して楽しめた感じ。臼田先生の背景もまた百人一首に関り、ママンとの繋がりがあり、みな登場人物が絡み合っている楽しさ。たまたまの咲季の担任でもあり・・・。 文科系な印象の百人一首が、体力や気力を必要とするスポーティーなモノとよく判る。格闘技のような要素もあり、読み手の発する言葉ならべに対するノウハウも知ることができ、かなり有益であった。 今回も栃木が舞台で宇都宮。作者の郷土への拘りが感じられほっこり。手話にも、口語の方言のような土地土地の手の動かし方があることも知る。 、 |
| 3月12日 | 宇佐美 まこと | 14 謎は花に埋もれて |
6作品が収録されている。「ガーベラの死」「馬酔木の家」の滑り出しの2作品は謎解きが面白かった。短編に仕上げるために文字数を減らしたのか、事件の解決部分があっさりしすぎているようには思ったが、それでも新感覚で楽しかった。ただ、それ以降の作品では、ややトーンが落ちてしまったような印象だった。花をキーワードに構成された各作品は、浸透水のように読めるのだが、そこに関心とか感動とか、心が動くワードが少ない印象だった。 |
| 3月 7日 | 佐野 広実 | 13 サブ・ウェイ |
読んでいて途中で気が付いた。サブウェイとは地下鉄を意味するが、なぜに表題を途中で切って居るのか・・・。サブ、もう一つの道である目的があるから、その思いを持っているからと判る。 地下鉄私服警備員に就いた各人。私服で居るので周囲に紛れ判らない中、仲の良い4名は頻繁に集い語らっていた。過去に現在に、いろいろあって今に至り、各人何かを引きずっている。主人公の明美は、恋人を駅構内で失い、その犯人を見つける目的で就職している。パートタイマーのような自由度がある仕事にも見える。一方で、沢山の人が利用する中で、多くの見えない危険が孕んでいる中での職場。私服なので、誰が同じ警備員かも判らない霧がかった職種。警備員を監視している上長も居るとの噂も・・・。 明美を主人公に展開してゆくが、人が多い分、何かが起こる可能性も多い職場であり、次々に発生する出来事が楽しめる。そして最後に・・・。 |
| 3月 3日 | 原 宏一 | 12 蕎麦打ち万太郎 |
作者らしい仕上がり。「ヤッさん」の主人公ヤスが万太郎な感じで、東京の賑やかな場所を舞台に繰り広げられる。作者の作人に慣れていると、その構成が心地よく、慣れていない人にも読みやすい仕上がりだろう。 5話での構成。各事件を万太郎を軸に、周囲との協力で解決してゆく。ここがポイント。万太郎一人ではなく、周囲の協力を得て・・・と言う部分が重要かと思う。巻末にも読めるが、希薄になった周囲との関係性、「無尽」と言う例を登場させているが、そういう関係性を見直した方がいいと作者は言いたいと思えた。 ネット社会、テレビ業界、相撲界、後継者不足、等々の問題を題材にし、モンゴル人である万太郎が、一件落着に導く。日本人にないモンゴル人気質って部分も面白み。 |
| 2月27日 | 広小路 尚祈 | 11 ある日の、あのタクシー |
誰も傷つかない、だれも傷つけない、至極平和な作品。それが為に抑揚が乏しい感じはあるが、そこはタクシーにスポットを当てた作品であり、まっとうな仕上がり。逆にトラブルなどはほぼ盛り込んでいない。ほんわかした雰囲気が漂う。 一つの場所ではなく、各地12の自治体が舞台。そこに読める強い方言が正確で楽しい。金沢の、福井のところは強くそう思えた。観光のガイドとしても、本作の内容は使えるだろう。作者がタクシー運転手として乗務し、言わば人を運びながらの観光のプロが書いたわけである。食べ物の紹介も盛り込まれ、それこそ読みながら旅している気分になる。現地の方言が的確なので、それが為に、より現地に居る雰囲気になる。 旅好きとしては、これはツボに嵌る。 |
| 2月22日 | 村崎 なぎこ | 10 ナカスイ! 海なし県の水産列車 |
シリーズ最終作になってしまうのか・・・。水産高校を舞台に、一作目が一年時。二作目は二年、そして本作が三年時で卒業までが書かれている。学年が上がるごとに成長してゆくさくら。本作の面白さは、やはり1作目から順に読んで判る面白さだろう。場面展開が作者独特で速い。この展開の速さは1年を凝縮するための速さのよう。 まさか受験に失敗するとは思わなかったが、いいラストであった。題名は変わるであろうけど、この登場人物のその後を読んでみたいと思う。郷土愛の強い作者の渾身の作品でもあろう。 |
| 2月18日 | 河崎 秋子 | 9 私の最後の羊が死んだ |
作者の半生、作家に至ったまでの人生が詳らかに書かれている。ウイットさも交え、それでいて当時の葛藤を隠さずにさらけ出している。斬新で新鮮。女性が独り、留学までして羊のことを学び、羊を飼い、その仕事を辞めるまでが内容。時間軸としては20年間ほどではあるが、作者の思いついたら行動する速さは、その時その時ですごく速いように思えた。 運もよかった。時代もよかったとも言えるだろう。それでも、全ては行動力だろう。前に進む力がすごく強い印象。ミスや失敗もあったろう、それらを糧にして突き進む感じがある。北海道の酪農農家で育った作者の強さを感じる。 料理の部分も秀逸。ジンギスカンの、マトンやラムの美味しさを本作を読むと感じられる。 |
| 2月12日 | 森沢 明夫 | 8 さやかの寿司 |
作者らしい、作者の作品を読んでいる感が強い仕上がり。海辺の情景が映像として見えてくるよう。過去作の登場人物も織り交ぜながらの、ほんわかとしたいい雰囲気。さやかのキャラクターのおかげで、至極ほっこりさせられる作品。 人生いろいろと言うか、誰もが何かを背負い生きてきている。本作はそれらすべてをハッピーエンド側に結んでいる。理想的な展開であり、それが心地よさに繋がっている。逆を言えば出来すぎではあるが、読み物としてはこれでいいだろう。本を読む楽しさになる。まひろの登場から、最後の未来の〆まで、海辺町のローカルな出来事をのぞき見しているようで、ほっこりほんわかさせてもらった。 |
| 2月 8日 | 村崎 なぎこ | 7 百年厨房 |
ナカスイ同様に栃木が舞台で、今回は大谷石が切り出される地区。ローカルな感じで、ご当地な感じでジモティーが読むと特に面白いだろう。過去から、過去へと時空移動と言うファンタジックな部分もあるが、それはそれとしてとても心地いい仕上がりになっている。昔の飲み物や氷菓、食べ物が登場し、そこに民族・文化・風習・風俗などが織り交ぜられ、大正時代の現地の様子が綴られている。資材の場所から、観光の場所に変わった大谷石の産地が、この作品で学ぶことができる。 斬新な構想ではあるが、突飛な感じはせず浸透水のように心地よく読めた。ギスギスした現代社会も語られ、その反面な感じでアナログなゆったりとした大正時代が語られる対比がいい。 |
| 2月 2日 | 寺地 はるな | 6 雫 |
題名から想像するに、水に関わる展開かと思ったが、意外な内容だった。過去に遡る特異な進み方で、今の背景がどんどんと紐解かれてゆく。作品内に、きらりと光る原石がちりばめられているような、時々ハッとさせられる部分がある。登場人物の人となりがハッキリと判らず、その部分がとても人間らしく、それら表と裏の押したり引いたりの会話がとてもいい。 冒頭、淡々とされる会話に、少し食傷気味であったが、以降ではそれらがクセになるような感じであった。 |
| 1月29日 | 村崎 なぎこ | 5 ナカスイ! 海なし県の海洋実習 |
構成的には、前作に似ている印象があるが、主人公さくらの成長度があり、他校との交流が楽しめる。そして1年生を経て2年になり、周囲の桜に対する暖かさや信頼度が見え、ほっこりする部分。多感な年代の恋愛を主軸にした展開だが、昨今の景気の悪さからの家庭事情も加わり、かなり現代的な印象を持つ。1作目ではマイナスな感じから入ったが、だんだんとプラス要素が増してゆく感じがいい。さくらが教員を含め仲間に溶け込んでゆく様子がいい。 |
| 1月26日 | 誉田 哲也 | 4 首木の民 |
久和が、ノンフィクションの世の中における高橋洋一さんのような切り口で、財務省に対しての苦言が、佐久間との取り調べの中で展開する。しつこいほどに、これでもかと・・・庶民のために。作者の世の中に対する言葉を、久和になって発信しているようでもあった。 三都が影の主人公になるのかとも思ったが、彼女の推理も楽しい部分。そして展開は当然ながら最終場面まで判らないが、捜査の進捗は知らされてゆき、事件解決へ近づいてゆく様子はストレスフリー。 経済や財政を学べ、推理も楽しめる斬新な作品だった。財務省に騙されるな!! |
| 1月22日 | 原田 ひ香 | 3 古本食堂 |
古書店が舞台の独特の展開。著名作家の作品を絡ませ、おそらくは作者のお気に入りの行が抜粋され取り上げられているよう。そしてそこに料理が絡む。 軽い感じで読み進められ、肩の凝らない作品。登場人物同士の、相手を思いやる部分が温かい。 |
| 1月16日 | 村崎 なぎこ | 2 ナカスイ!海なし県の水産高校 |
栃木県の水産高校が舞台。これは架空ではなく、実際に馬頭高校と言う水産科のある学校が存在し、そこがモチーフにされているよう。読みだしてすぐに、「成瀬は天下を」の雰囲気を感じ、とても展開が心地いい。高校生の多感な感じもよく表現され、成瀬でのM1が本作では「ご当地美味しい甲子園」となる。 主人公のさくらと、かさねと、小百合の三すくみな位置取りが、キャラが立っていて面白みとなる。読後感がとてもよく、終えてからすぐに再度読み直すと、さらにするめのように味が出てきた。成瀬に引けを取らない仕上がり。これはいい。 |
| 1月12日 | 高嶋 哲夫 | 1 チェーン・ディザスターズ |
預言者のようにタイムリーな作品を残す作者。コロナのパンデミックの時も的確に言い当てた。書き当てた感じだった。ほか地震もそう。このあと、残っているのは富士山の噴火である。その富士の噴火が、今回の作品のラスボス。 太平洋側の地震連鎖。東海から四国に渡るプレートが動いた。そこに台風。東京も地震が襲い、復旧復興の最中に、今度は富士の大噴火。作品として作られたモノだが、自然災害の可能性としてゼロではない。利根崎の開発したソフトにより、当初は復興側に向いていたが、最後はやはり人間は自然には勝てない・・・。ただし、これら自然の動きは繰り返されてきたこと。そして人類もそんな中で生きてきている。 若い早乙女総理の手腕。政治と経済と外交と、いろんなことを考慮する中での災害対応。どうするべきかを少し促しているようにも読める。皆が皆、このような作品に触れていれば、実際の災害時には行動が速く的確に動けるのではないだろうか。 このあと、ラスボスが噴火するのか、住まいするこの地も影響が出るように書いてある。 |