2025
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7月 8日 | 橋本 直 | 35 細かいところが気になりすぎて |
マキタスポーツさんに続き、芸人さんの作品に触れる。ネタを作り出す人だからか、日々の生活の中の細かい部分が気になるよう。そこには、幼少期からの人生も影響があるようで、それらが面白おかしく書かれている。以前にオードリーの若林さんの作品を読んだが、最後にオチを入れ込むところなどはお笑い芸人らしく似ている印象だった。 コンビの相方である鰻さんの漫画も楽しめる。挿絵的であるのだが、これがなかなか面白く、僅かなスペースの中で、大きく笑わせてくれている。コンビとしての、文章で笑わす担当と、絵で笑わす担当とで、いいコンビと思えた。 作品に触れ、生き様を知り、次に銀シャリの漫才に触れた時は、これまでとは違う印象を持つだろう。 |
7月 3日 | マキタスポーツ | 34 グルメ外道 |
突出した感性と探求心。ここまでの方がいるとは・・・。日本人が、いろんな分野で頂点を極めるのは、こんな人がいるからかとも思ってしまう。そしてお笑いの人らしい観察力でもある。別角度からは、ここまで細かいところに気が行ってしまうと、人生疲れないだろうかとも思う。ただ、書かれている内容が作者の普通であろうから、外野がどうこう言うことではないのかもしれない。 何をどうすれば美味しくなるか、自分が美味しく感じられるか、世の中の既定路線から逸脱し、作者ならではの美味しさを追求している作品。言葉を良く知っており、その部分でも驚かされた。 |
6月27日 | 青柳 碧人 | 33 令和忍法帖 |
令和と表題にあるように、一番のキモとなる要素だろう。現代に忍者が生きている場合の経緯とか、今に至る時代時代においての事件と絡めた内容で、フィクションでファンタジックな要素は強いが、これはこれでとても楽しめる仕上がりだった。推理要素もあり、時代作品な要素もあり・・・。 戦隊シリーズとかヒーローシリーズの要素もあり、懐かしい感じもする。それでも、令和に合致した仕上がりに、甲賀や伊賀の忍者が上手に溶け込んでいた。 |
6月18日 | 柊 サナカ | 32 あとはおいしいご飯があれば |
短編の13作品での構成。ほんわかした中に、食べ物(料理)の要素があり、読みながらお腹がすくような作品で、その終わりに手書きの絵とレシピがある。難しくなく簡単なものが多く、料理を苦手とする人でも対応できそうなものばかり。 食べ物が、いろんなことを丸く収めてゆく感じ。特に本作では、簡単な出汁での作品が多く、出汁をとるだけでも大きく違ってくることを伝えられている感じ。時間をかけずにできるもので、食生活が大きく変わるような・・・。 食に関わる小説は多いが、この形体は初めて。 |
6月 6日 | 時事通信社 政治部 |
31 国会の楽しい見方 |
学校やメディアよりの情報でしか「国会」や議員のことを知らなかったが、この作品でかなりの知識になった。とても判りやすく書かれ、どっちに肩を持つ出なく公平な立ち位置で書かれており、その点でも読みやすかった。 判らずに国会中継を見たり聞いたりしてきた。あの不思議な答弁の裏が判ると、確かに国会が楽しく思える。 日本を動かしている中枢。その仕事が判る。雑学的な要素も多く、老若男女、大人も子供も読める内容。人生の後半だが、読んでよかった。 |
5月25日 | 彩瀬 まる | 30 嵐を越えて会いに行く |
5編構成。東北・北海道が舞台で、作者の独特な感性が楽しめる。ただ、その特異性が後半になるとちと食傷気味になっていた。 各々の人生の中での出合、そしてそこから長く続く関係。作品内での登場人物は、浮いた存在であるが、そんな人と長く関係を続ける人もいる。そこの微妙な部分が面白さ。周囲からは異端な感じでも、当人同士は判りあえている。 土方の作品を読んで、その後すぐに土方の足跡を追い五稜郭や鹿部方面に行ってきた。確かにいろんなところに土方が記録されている。 |
5月20日 | 宮崎 拓郎 | 29 ブラック郵便局 |
コミカルなウイットに富んだ構成なのかと思ったら、内容は本気のノンフィクションだった。そのまま郵便局の黒い部分を、多くの問題を例に出し構成されている。気になったのは、作者の住まいする場所も関係するかもしれないが、西日本の方が黒い印象。 どんな企業でも、人が関わっている以上は多かれ少なかれこのようなことはあるのだろう。いくらニュースになっても、次々に現れ減らないのだが、そんな文化の中に生きているってことだろう。文化と言うか、もう日本古来からの風俗風習とも言えるかもしれない。そして今この現在でやっと、それらが正せる時代になった。 ニュースに見聞きする郵政の事がこれまでだったが、本作を読むとムカムカするほどに郵政の汚い部分がさらけ出されている。その連続で詳細で、読むのが辛くなった作品であった。 |
5月17日 | 浅田 次郎 | 28 アジフライの正しい食べ方 |
旅好きな作者が、コロナ期の出歩けない中で書いたものや、その当時の生活の様子がショートショートな感じで綴られている。選考委員もする作者、本気を出すとこれほどにウイットに富み、くすぐられているかのように笑いを誘うことができるのかと思うほど。終始楽しい。 主義主張がしっかりしており、それが伝えられるのだが、嫌な感じがしない。ものの言い方、伝え方の勉強になる。旅でのトラブルをも楽しむ、本当の旅人のよう。そんな作者が閉じこもった時期の作品。 |
5月13日 | 万城目 学 | 27 六月のぶりぶりぎっちょう |
二作品が収められている特異形。「三月の局騒ぎ」は、半分は夢の中のような出来事のようで、寮での暮らしと現在とがファンタジックな構成となっている。なんといってもキヨがキモ。 そして「六月のぶりぶりぎっちょう」の方は、垣根涼介さんが、信長の原理と光秀の定理で表現しているのを読んでいる。本作では、こんな展開にもできるのかと、その斬新さ、構成の膨らませ方に感嘆。読み物として楽しく読めた。ちょっと間違うと、違うものになりそうだが、ストライクからボールになりそうなギリギリを攻めている感じがした。死んだり生き返ったり、推理気味な展開もある中では、そこに演技があるとは・・・。広角ないろんな技法が感じられる作品。 |
5月 6日 | 石田 夏穂 | 26 ミスター・チームリーダー |
ボディービルダーが主人公。そのために、ボディービルの日ごろを知ることができ、競技に出場するに際し、どんな日ごろがあるのかを詳細に知ることができる。己の肉体を鍛え上げる趣味なのだが、24時間ある一日を、それが為に意識して過ごさねばならないのは、かなり大変な趣味にも思える。 そしてボディービルだけでは生活ができないので、働きながらとなるのだが、本作内はレンタル会社勤務で、体を鍛える主人公と、周囲の太った同僚との対比が面白み。そこでのストレスと、身体を作り上げることジレンマをリンクさせるような構成で展開してゆく。 また知らなかった世界を知ることができた。身体を絞り減量し、大会当日に向けて最後に増量するなんてことは知らなかった。そんな競技だったとは・・・。 冒頭にあり気になった言葉は、筋肉を鍛えたから重いものを楽に持てるのではなく、重いものは重く、その苦痛により耐えられるようになっているだけ。 |
5月 2日 | 坂本 政道 | 25 あなたは、死なない 安心してください、お迎えが来ますから |
体外離脱を主に話される霊視とかの話。作者の経歴は素晴らしい。それが無かったら、この内容は信じがたいと思ってしまうが、あるがために信じたいと思い読み進める。 これら内容は、各信教と同じだろうと思う。信じる信じないは、個人の生きてきた背景や、現在置かれている状況にもよるだろう。体験したことがないことに対し、信じがたいと思うのが普通で、体外離脱してとか、死者と会話したりとか、なかなかそれを体験している人は少ないのだから、信じる人、本作内で言うそれを「知っている人」は少ないはず。ただそこで、本作はそれを押し付けるのではなく、「こんなこともある」「こんな方法もある」と言う指南をしている。 専門用語も多く、何か違う世界の話のように読んでいた。作者側に近づこうと読んでいたのだが、このカテゴリーは難解過ぎた・・・。 |
4月30日 | 畑野 智美 | 24 世界のすべて |
昭和の頃では、無かったであろう内容の作品。多様性が受け入れられるようになり、それらに理解が進み寛容になった時代だからこそ、表に出てくる内容かと思う。 各人が内に秘めた趣向。自分のみが知る表に出ない事柄。自分でさえもハッキリとは判らないこともある。幼少期から大人になるまで、ずっと付きまとうこと。LGBTなどに対するストレートな言い回しの部分は、この作品の山場とも言えるだろう。世の中の本音。 独特の人らが集まる構成であるが、作者が表現したいパーツであり、この世界を理解するのに判り易かったりする。専門用語が出てくるが、それらの趣向一つ一つに、解析された名前があるとは知らなかった。その部分ではいい時代だと思う。 ただ、どうなのだろうか、また逆行するような動きがアメリカで出てきている。多様性を受け入れない・・・。そんな時代だからこそ、知っておいていい内容かと思う。 |
4月22日 | ともこ | 23 日本の聖地を訪ねて |
独特の紀行文。歴史などの過去を知って現地を旅している作者。得るもの、伝わってくるものが違うようで、とても感受性が高いように読める。パワースポットにおいての感覚は、なかなか独特であり、ここまでなら最高に度が楽しいだろうと思う。八百万の神を崇拝する日本人らしい日本人と言えるかもしれない。 これらの旅を、コロナの最中にしたと言うから驚きである。出向くことも泊まることも制限されただろうに、その障害には一切触れておらずに、現地での体験を目いっぱい伝えてくれている。作者も先人により旅の仕方や楽しさを知ったと言う。そして本作では同じように誰かの手助けになれればと言う。十分なる得るだろう。途中からのようだが、「青」を求めて周ったよう。その青がとても綺麗。 |
4月16日 | 高嶋 哲夫 | 22 家族 |
予言の書とも言える的確な指摘を続ける作者。それは自然現象だったり政治だったりするが、書かれた後には追うように事象が起こっている。富士の噴火に対しても早くから作品にしていたり、南海トラフも然り。 今回の問題提起は、作品の構成は、核家族化におけるケアラーの問題。高齢社会になり、助けが必要な人も増えている中で、看る側の負担の問題を伝えている。やや推理小説的要素もあり、事件に対する展開は最後まで楽しめる。その過程で、ケアラーの現実を強く表現している。作者は、いろんな角度から調べ上げたよう。どんな良心的な人でも、ケアラー側ではストレスが溜まることや、外野側と当事者側との温度さを表現したり・・・。かなり勉強になる作品であった。 |
4月 9日 | 額賀 澪 | 21 願わくば海の底で |
菅原晋也と言う一生徒にスポットを当てた作品。冒頭からは、やや劣等な印象を持つが、ページが進む毎にだんだんと優等な面が表現され、周囲にとっても重きを持った位置取りになってゆく。舞台は東北の海側地域。そこに大きな地震が起こる。 同級生との人間関係。美術部内の上下関係。美術部顧問との人間関係が、ストレートな物言いで楽しめる。飄々としている菅原が中心にいるのだが、軽妙な対応の中に本当の菅原の温かさがあることを後半に知る。 本音を言うと、最初はつまらない作品に思えた。しかし読み進めると、どんどん旨味が増すように楽しくなる。菅原の最後は・・・。 |
4月 6日 | 潟Nマヒラ | 20 抜萃のつづり その八十四 |
編集する担当者が変わったのか、これまでとは少し違う構成に思えた。と言うのは、僧侶や牧師さんよりの抜萃が多かったこれまでだが、今号はゼロではないが少なかった。いいとか悪いとかは別として、今回は読みやすかった。尊い言葉が多いと、難しかったり重い印象を受けていた。 あとは、病気に対する記事が多い印象だった。老人が増え、それに伴い病気をする人も多いってことからかとも思う。暖かい、いつもながらの構成で、今回も得るものが多かった。 |
4月 2日 | 村山 早紀 | 19 風の港 再開の空 |
全て空港が舞台の5話構成。好みであり仕方がないが、最初と最後がいい感じで、挟まれた3話が少しピリッとしなかった印象。2話からファンタジックな構成となり、最終話もそうなのだが、不思議な出来事と括られてしまう感じで、あまり心に響いてこなかった印象。ここは読み手によって捉え方は違うだろう。 あと、構成方法が、「病」と関係づけてある作品が多く、各話でそこが変化していれば良かったように思う。定型な感じがしていた。 |
3月28日 | 小松 立人 | 18 そして誰もいなくなるのか |
主人公名が、作者名。この時点で特異。それほどに注力して仕上げた作品と判る。展開が次々と進み、飽きないのと、次が知りたくなる中毒性と言うか・・・。軽い感じでありながら、回収してゆく後半に向け本格的なミステリーが楽しめる。 死神の設定がややファンタジックな印象であるが、それが重要な構成の一部であり、そうは思っても楽しめた。見えない犯人に対してのドキドキ感も得られ、登場人物の心理・感情の機微や、その揺れ動く様の表現が本作の真骨頂だろう。その表現部分が多いので、そこを楽しめる人は面白いし、くどくて食傷気味と感じる人も居るだろう。万人受けはしないようには思う。 仲間なのか敵なのか、時間が決められた中での心理戦の部分がとてもいい。人間のいろんな面が表現されている。信じる部分、疑う部分、信じたい部分、疑いたい部分。テンポがよく読みやすいが、その構成には重厚さも感じられるミステリーに思えた。 |
3月25日 | 新堂 冬樹 | 17 シン 人間失格 |
作者の作家以外の職業を思うと、本作のような内容を出して大丈夫なのかと心配してしまう。もっとも。フィクションであることに間違いないが、本人が書いている内容で間違いなく、変な影響は無いのだろうか。 文学小説のオマージュ作品かと思ったら、題名そのままの人間性を持つ森田が主人公。人間の表裏をストレートに表現し、作者は、育った環境が人間形成に大きく影響し、一番は親の育て方によると言っているよう。 下衆な表現がとても多い。なにか生徒が手にしたくなるような表題であるが、完全にアダルト仕様であった。途中、森田は都度叩かれるのかと思ったが、のらりくらりと切り抜ける。それでも最後に・・・。 「人間失格」に対する「シン人間失格」。書かれた時代が違い、当然の構成も違うが、ちゃんと前作を意識させ現代に当て込むと本作のようにもなるだろうと思わせる。ヒリヒリする感じは、いい感じに寄せていると思う。 |
3月21日 | 五木 寛之 | 16 忘れえぬ人 忘れえぬ言葉 |
作者の、各界の著名人との一期一会を振り返り、そこでの記憶に残る言葉が記されている。日記でもつけていたのだろうか、頭のいい人の記憶力が、当日の出来事を詳細に呼び戻している。 とても読みやすい言葉ならべで、本来漢字を当てこむようなところにひらがなを使ったりと、内容の強弱もそうだが、表現の仕方の技術が見られる。こんな作品ばかりだったら、万人が本を好きになるんじゃないかと思う。 各界の秀でた人の思考が読める。売れる曲の歌詞に秘められたノウハウのところなどは印象深かった。歌詞にも息抜きが必要。 |
3月16日 | 村崎 なぎこ | 15 オリオンは静かに詠う |
ろうあ者とその家族や近親者、そして姉妹が登場し、全四章の中では、その一人一人が主人公を交代し語られる。星座、ここではオリオン座を百人一首競技の世界と辛め和歌の楽しをも引き出し、読み手を引き込むかなり楽しい作品だった。健常者に負けんとする咲季。ろうあ者を両親に持つコーダのカナも同じ意識を持つのもポイントだろう。そしてママンが全体を引っ張ってゆくが、そのママンもろうあ者を姉妹に持ち苦労して生きてきている。松田の位置取りも薬味な感じでとてもよく、読んでいる途中は継続して楽しめた感じ。臼田先生の背景もまた百人一首に関り、ママンとの繋がりがあり、みな登場人物が絡み合っている楽しさ。たまたまの咲季の担任でもあり・・・。 文科系な印象の百人一首が、体力や気力を必要とするスポーティーなモノとよく判る。格闘技のような要素もあり、読み手の発する言葉ならべに対するノウハウも知ることができ、かなり有益であった。 今回も栃木が舞台で宇都宮。作者の郷土への拘りが感じられほっこり。手話にも、口語の方言のような土地土地の手の動かし方があることも知る。 、 |
3月12日 | 宇佐美 まこと | 14 謎は花に埋もれて |
6作品が収録されている。「ガーベラの死」「馬酔木の家」の滑り出しの2作品は謎解きが面白かった。短編に仕上げるために文字数を減らしたのか、事件の解決部分があっさりしすぎているようには思ったが、それでも新感覚で楽しかった。ただ、それ以降の作品では、ややトーンが落ちてしまったような印象だった。花をキーワードに構成された各作品は、浸透水のように読めるのだが、そこに関心とか感動とか、心が動くワードが少ない印象だった。 |
3月 7日 | 佐野 広実 | 13 サブ・ウェイ |
読んでいて途中で気が付いた。サブウェイとは地下鉄を意味するが、なぜに表題を途中で切って居るのか・・・。サブ、もう一つの道である目的があるから、その思いを持っているからと判る。 地下鉄私服警備員に就いた各人。私服で居るので周囲に紛れ判らない中、仲の良い4名は頻繁に集い語らっていた。過去に現在に、いろいろあって今に至り、各人何かを引きずっている。主人公の明美は、恋人を駅構内で失い、その犯人を見つける目的で就職している。パートタイマーのような自由度がある仕事にも見える。一方で、沢山の人が利用する中で、多くの見えない危険が孕んでいる中での職場。私服なので、誰が同じ警備員かも判らない霧がかった職種。警備員を監視している上長も居るとの噂も・・・。 明美を主人公に展開してゆくが、人が多い分、何かが起こる可能性も多い職場であり、次々に発生する出来事が楽しめる。そして最後に・・・。 |
3月 3日 | 原 宏一 | 12 蕎麦打ち万太郎 |
作者らしい仕上がり。「ヤッさん」の主人公ヤスが万太郎な感じで、東京の賑やかな場所を舞台に繰り広げられる。作者の作人に慣れていると、その構成が心地よく、慣れていない人にも読みやすい仕上がりだろう。 5話での構成。各事件を万太郎を軸に、周囲との協力で解決してゆく。ここがポイント。万太郎一人ではなく、周囲の協力を得て・・・と言う部分が重要かと思う。巻末にも読めるが、希薄になった周囲との関係性、「無尽」と言う例を登場させているが、そういう関係性を見直した方がいいと作者は言いたいと思えた。 ネット社会、テレビ業界、相撲界、後継者不足、等々の問題を題材にし、モンゴル人である万太郎が、一件落着に導く。日本人にないモンゴル人気質って部分も面白み。 |
2月27日 | 広小路 尚祈 | 11 ある日の、あのタクシー |
誰も傷つかない、だれも傷つけない、至極平和な作品。それが為に抑揚が乏しい感じはあるが、そこはタクシーにスポットを当てた作品であり、まっとうな仕上がり。逆にトラブルなどはほぼ盛り込んでいない。ほんわかした雰囲気が漂う。 一つの場所ではなく、各地12の自治体が舞台。そこに読める強い方言が正確で楽しい。金沢の、福井のところは強くそう思えた。観光のガイドとしても、本作の内容は使えるだろう。作者がタクシー運転手として乗務し、言わば人を運びながらの観光のプロが書いたわけである。食べ物の紹介も盛り込まれ、それこそ読みながら旅している気分になる。現地の方言が的確なので、それが為に、より現地に居る雰囲気になる。 旅好きとしては、これはツボに嵌る。 |
2月22日 | 村崎 なぎこ | 10 ナカスイ! 海なし県の水産列車 |
シリーズ最終作になってしまうのか・・・。水産高校を舞台に、一作目が一年時。二作目は二年、そして本作が三年時で卒業までが書かれている。学年が上がるごとに成長してゆくさくら。本作の面白さは、やはり1作目から順に読んで判る面白さだろう。場面展開が作者独特で速い。この展開の速さは1年を凝縮するための速さのよう。 まさか受験に失敗するとは思わなかったが、いいラストであった。題名は変わるであろうけど、この登場人物のその後を読んでみたいと思う。郷土愛の強い作者の渾身の作品でもあろう。 |
2月18日 | 河崎 秋子 | 9 私の最後の羊が死んだ |
作者の半生、作家に至ったまでの人生が詳らかに書かれている。ウイットさも交え、それでいて当時の葛藤を隠さずにさらけ出している。斬新で新鮮。女性が独り、留学までして羊のことを学び、羊を飼い、その仕事を辞めるまでが内容。時間軸としては20年間ほどではあるが、作者の思いついたら行動する速さは、その時その時ですごく速いように思えた。 運もよかった。時代もよかったとも言えるだろう。それでも、全ては行動力だろう。前に進む力がすごく強い印象。ミスや失敗もあったろう、それらを糧にして突き進む感じがある。北海道の酪農農家で育った作者の強さを感じる。 料理の部分も秀逸。ジンギスカンの、マトンやラムの美味しさを本作を読むと感じられる。 |
2月12日 | 森沢 明夫 | 8 さやかの寿司 |
作者らしい、作者の作品を読んでいる感が強い仕上がり。海辺の情景が映像として見えてくるよう。過去作の登場人物も織り交ぜながらの、ほんわかとしたいい雰囲気。さやかのキャラクターのおかげで、至極ほっこりさせられる作品。 人生いろいろと言うか、誰もが何かを背負い生きてきている。本作はそれらすべてをハッピーエンド側に結んでいる。理想的な展開であり、それが心地よさに繋がっている。逆を言えば出来すぎではあるが、読み物としてはこれでいいだろう。本を読む楽しさになる。まひろの登場から、最後の未来の〆まで、海辺町のローカルな出来事をのぞき見しているようで、ほっこりほんわかさせてもらった。 |
2月 8日 | 村崎 なぎこ | 7 百年厨房 |
ナカスイ同様に栃木が舞台で、今回は大谷石が切り出される地区。ローカルな感じで、ご当地な感じでジモティーが読むと特に面白いだろう。過去から、過去へと時空移動と言うファンタジックな部分もあるが、それはそれとしてとても心地いい仕上がりになっている。昔の飲み物や氷菓、食べ物が登場し、そこに民族・文化・風習・風俗などが織り交ぜられ、大正時代の現地の様子が綴られている。資材の場所から、観光の場所に変わった大谷石の産地が、この作品で学ぶことができる。 斬新な構想ではあるが、突飛な感じはせず浸透水のように心地よく読めた。ギスギスした現代社会も語られ、その反面な感じでアナログなゆったりとした大正時代が語られる対比がいい。 |
2月 2日 | 寺地 はるな | 6 雫 |
題名から想像するに、水に関わる展開かと思ったが、意外な内容だった。過去に遡る特異な進み方で、今の背景がどんどんと紐解かれてゆく。作品内に、きらりと光る原石がちりばめられているような、時々ハッとさせられる部分がある。登場人物の人となりがハッキリと判らず、その部分がとても人間らしく、それら表と裏の押したり引いたりの会話がとてもいい。 冒頭、淡々とされる会話に、少し食傷気味であったが、以降ではそれらがクセになるような感じであった。 |
1月29日 | 村崎 なぎこ | 5 ナカスイ! 海なし県の海洋実習 |
構成的には、前作に似ている印象があるが、主人公さくらの成長度があり、他校との交流が楽しめる。そして1年生を経て2年になり、周囲の桜に対する暖かさや信頼度が見え、ほっこりする部分。多感な年代の恋愛を主軸にした展開だが、昨今の景気の悪さからの家庭事情も加わり、かなり現代的な印象を持つ。1作目ではマイナスな感じから入ったが、だんだんとプラス要素が増してゆく感じがいい。さくらが教員を含め仲間に溶け込んでゆく様子がいい。 |
1月26日 | 誉田 哲也 | 4 首木の民 |
久和が、ノンフィクションの世の中における高橋洋一さんのような切り口で、財務省に対しての苦言が、佐久間との取り調べの中で展開する。しつこいほどに、これでもかと・・・庶民のために。作者の世の中に対する言葉を、久和になって発信しているようでもあった。 三都が影の主人公になるのかとも思ったが、彼女の推理も楽しい部分。そして展開は当然ながら最終場面まで判らないが、捜査の進捗は知らされてゆき、事件解決へ近づいてゆく様子はストレスフリー。 経済や財政を学べ、推理も楽しめる斬新な作品だった。財務省に騙されるな!! |
1月22日 | 原田 ひ香 | 3 古本食堂 |
古書店が舞台の独特の展開。著名作家の作品を絡ませ、おそらくは作者のお気に入りの行が抜粋され取り上げられているよう。そしてそこに料理が絡む。 軽い感じで読み進められ、肩の凝らない作品。登場人物同士の、相手を思いやる部分が温かい。 |
1月16日 | 村崎 なぎこ | 2 ナカスイ!海なし県の水産高校 |
栃木県の水産高校が舞台。これは架空ではなく、実際に馬頭高校と言う水産科のある学校が存在し、そこがモチーフにされているよう。読みだしてすぐに、「成瀬は天下を」の雰囲気を感じ、とても展開が心地いい。高校生の多感な感じもよく表現され、成瀬でのM1が本作では「ご当地美味しい甲子園」となる。 主人公のさくらと、かさねと、小百合の三すくみな位置取りが、キャラが立っていて面白みとなる。読後感がとてもよく、終えてからすぐに再度読み直すと、さらにするめのように味が出てきた。成瀬に引けを取らない仕上がり。これはいい。 |
1月12日 | 高嶋 哲夫 | 1 チェーン・ディザスターズ |
預言者のようにタイムリーな作品を残す作者。コロナのパンデミックの時も的確に言い当てた。書き当てた感じだった。ほか地震もそう。このあと、残っているのは富士山の噴火である。その富士の噴火が、今回の作品のラスボス。 太平洋側の地震連鎖。東海から四国に渡るプレートが動いた。そこに台風。東京も地震が襲い、復旧復興の最中に、今度は富士の大噴火。作品として作られたモノだが、自然災害の可能性としてゼロではない。利根崎の開発したソフトにより、当初は復興側に向いていたが、最後はやはり人間は自然には勝てない・・・。ただし、これら自然の動きは繰り返されてきたこと。そして人類もそんな中で生きてきている。 若い早乙女総理の手腕。政治と経済と外交と、いろんなことを考慮する中での災害対応。どうするべきかを少し促しているようにも読める。皆が皆、このような作品に触れていれば、実際の災害時には行動が速く的確に動けるのではないだろうか。 このあと、ラスボスが噴火するのか、住まいするこの地も影響が出るように書いてある。 |