易老岳  2354m     光岳    2591m      イザルヶ岳   2540m    希望峰    2500m      

 仁田山
   2523.8m     茶臼岳   2604m    上河内岳    2803m    南岳  2702m 

 小聖岳  2662m     前聖岳   3013m     奥聖岳    2978.3m    
兎岳   2818m


 小兎岳     2738m          中盛丸山     2808m    百間平   2782m   赤石岳   3120.1m     


  小赤石岳   3081m     大沢岳   
2819.5m    唐松山     1960m



 
 2003.10.11〜12(13) 


  11日: 晴れ    単独    易老渡から光岳に行き、聖平小屋まで     行動時間:15H43M

 12日: 雨から豪雨   聖小屋から小赤石岳まで行き、大沢岳からしらびそ峠に下り、「ハイランドしらびそ」でビバーク 行動時間:20H28M  

 13日: 曇り ハイランドしらびそからタクシーで易老渡まで 


@易老渡3:11→(85M)→A面平4:36→(167M)→B易老岳7:23→(137M)→C光岳9:40〜10:07→(19M)→Dイザルヶ岳10:26〜31→(103M)→E易老岳再び12:14〜18→(86M)→F希望峰13:44〜47→(15M)→G仁田岳14:02〜17→(12M)→H希望峰再び14:29〜→(41M)→I茶臼岳15:10〜31→(97M)→J上河内岳17:08〜14→(32M)→K南岳17:46〜51→(63M)→L聖平小屋18:54

L聖平小屋4:08→(80M)→M小聖岳5:28〜38→(61M)→N前聖岳6:39〜42→(21M)→O奥聖岳7:03〜08→(110M)→P兎岳8:58〜 9:25→(8M)→Q小兎岳9:33〜36→(38M)→R中盛丸山10:14〜 20→(39M)→S百間洞山ノ家10:59→(62M)→《21》百間平12:01〜06→(103M)→《22》赤石岳13:49〜52→(19M)→・小赤石岳14:11〜14→(151M)→《23》大沢岳16:45〜51→(73M)→《24》唐松峠18:04→(7M)→・唐松山18:11→(87M)→《25》大沢山荘19:38→(25M)→《26》大沢渡20:03→(92M)→《27》遠山林道下降点21:35→(150M)→《28》しらびそ峠24:05→(31M )→《29》ハイランドしらびそ24:36


tozanguchi.jpg  omodaira.jpg  2251.jpg  iroudake.jpg 
@易老渡登山口より入山。この時は、橋にまだ木の板が張られていた。 A面平通過 2251三角点峰 B易老岳
sankichidaira.jpg  mokudoukarakoya.jpg  tekarikoya.jpg  koyanaibu.jpg 
三吉平 もうすぐ光小屋 光小屋 綺麗で明るい小屋内部。
tekari.jpg  tekaritenbou.jpg  tekariishi.jpg  tekarikarahyakumata.jpg 
C光岳 C光岳展望所。御料局三角点。  C中央が「光石」 C光岳から百俣沢ノ頭側
tekarisankaku.jpg  izarugabunki.jpg  izaruga.jpg  izarugakerun.jpg 
C光岳三角点  イザルヶ岳分岐  Dイザルヶ岳  Dイザルヶ岳のケルンと富士山 
mizuba.jpg  iroubunki.jpg  kibouhou.jpg  raicyou.jpg 
水場には流れあり(よくよく枯れている)  E易老岳分岐  F希望峰 仁田岳近くの雷鳥。
niita.jpg  nitahijiri.jpg  nitairou.jpg  kibouhouhutatabi.jpg 
G仁田岳 G仁田岳から聖岳側。 G仁田岳から易老岳側。 H希望峰再び
ike.jpg  cyausu.jpg  houiban.jpg  cyausubunki.jpg 
仁田池  I茶臼岳 I茶臼岳方位盤 茶臼岳小屋下降点
kigan.jpg  kamikouchibunki.jpg  kamikouchi.jpg  kamikouchisankaku.jpg 
竹内門 上河内岳分岐  J上河内岳 J上河内岳三角点
kamikouchibunkikaeri.jpg  minamidake.jpg  hijiribunki.jpg  hijirikoya.jpg 
上河内岳分岐帰り  K南岳  小屋手前分岐  L聖平小屋到着。 
bunki.jpg  kohijiri.jpg  maehijiri.jpg  okuhijirihigashihijiri.jpg 
薊畑分岐  M小聖岳  N前聖岳  O奥聖岳から東聖岳側 
okuhijirisankaku.jpg  maehijirisankaku.jpg  usagidakehinan.jpg  usagidake.jpg 
O奥聖岳三角点。  前聖岳三角点  兎岳避難小屋(ガスの中、中央)  P兎岳 
usagidakekita.jpg  usagimizuba.jpg  kousagi.jpg  raicyou3.jpg 
P兎岳西峰  水場への下降点  Q小兎岳  小兎岳の雷鳥。 
nakamorimaruyama.jpg  oosawabunki.jpg  hyaxtukenbora.jpg  hyaxtukentaira.jpg 
R中盛丸山  大沢岳南側分岐  S百間洞山ノ家  21 百間平 
akaishikoya.jpg  akaishisankaku.jpg  akaishihinak.jpg  oosawadake.jpg 
22 赤石岳  22 赤石岳三角点。補修されたばかりのようであった。  赤石岳避難小屋。見ての通りの暴風雨になってきた。  23 大沢岳。かなり強風。 
karamatutouge.jpg  rinndoukarano.jpg  oosawasansou.jpg  oosawado.jpg 
24 唐松峠  遠山林道の登山口  25 大沢山荘。この時間帯に見ると、かなり怖い建物。  26 大沢渡を篭に乗って通過。 
rinndoukakouten.jpg  tooyamarindouge-to.jpg  shirabisotouge.jpg  hairandoshirabiso.jpg 
27 遠山林道から大沢渡への下降点。  遠山林道ゲート。かなりガスが濃い。  28 しらびそ峠  29 ハイランドしらびそのトイレでビバーク(朝方の絵) 


  

 秋の3連休、出かけない手は無い。ロングコースを企てて、南アルプスに向かう事にした。

 21時に家を出て、八ヶ岳の南面を通過し、杖立峠を越えて高遠の町に入る。コンビニを探していたら、なかなか見つからず、伊那の方まで出ねばならず、少し時間のロスをしてしまい152号線を南に向かう。月明かりで周辺の山々が良く見える。分杭峠、地蔵峠と越えて上村へ。どこから林道に入ったらいいのか判らず、地図とのにらめっこ。途中のトンネルの所から右に入り、スノーシェードを経て林道に入る。道標はあるものの、いまいちはっきりしないのだった。半信半疑で車を走らせると、分岐箇所には小さな標識がある。それに従い右に左に道を分ける。道路は狭く落石も多い。2:45易老渡到着。駐車場には7台ほど既に停まっていた。到着後、すぐに用意をして歩き出す。

 少し林道を戻り釣り橋を渡る。眼下30mはあろうか、幸いにも暗くてよく見えない。そこそこ歩きやすい九十九折りが延々と続く。なだらかで眠気を誘う道である。ふと気づくと後から一人追って来るようであり、ヘッドランプがちらちらとしていた。面平には一張のテントが見え、安眠の邪魔をしないようサッと鈴を握った。そして静かに横を通り過ぎる。迷いやすい為か案内看板が多く目立つ。しばらく進み、大木が林立する辺りでどうもおかしい事に気が付いた。足許には登山道がないのである。かなり眠気が襲ってきており注意力が散漫な時間帯であった。うっすらと右側上空が明るいので右に上がればいいのは判るのだが、しばらく横にトラバースをしてしまっていたようである。すかさずルート修正で、右へ右へとシラビソの幼木を掻き分けながらの思わぬ薮漕ぎとなった。最初からこれでは今回の二日間の行程が思いやられる。そして登山道に出た。これで一安心。この間に後から追ってくる人は先に行ってしまっただろうと思えた。

 2215三角点峰までワンピッチ。ここで少し息を整えた。この先の易老岳には、山頂標識は無く分岐看板しか見当たらず。そのまま光岳の方を目指す。
ここに気が付いたのだが、だいぶエアリアのコースタイムは余裕を持って書いてあるのである。コースが長いせいか重荷での事を考慮してあるのだろう。どうやら7掛けくらいでここまで歩けている。そして道は下りだす。どんどん下り100mは下ったか、その先はアップダウンが待っていた。易老岳までの疲れがここにきて出てきたようで、足が前に出ない。引きずるようにやっと歩いているような感じであった。

 三吉平通過。ここから木曽駒方面に開けて居る。展望は良いものの風の強い草付きの場所であった。そしてこの日、初めて人とすれ違う。男女二人連れで、この人とは聖小屋で再び会う事になる。ここから急登が始まる。沢のようになった登山道で、やや這い上がるような感じである。静高平には水場があるのだが、一見干上がっているように見える。でも良く見ると水が溜まっている。のどの渇きに耐えきれず溜まり水を柄杓で飲んでみるが、これが冷たくて美味い。二杯をのどに流し込んで、再び元気が甦る。この先でイザルヶ岳への分岐を過ぎると目の前に小屋が見えてくる。木道が設置され、周囲のお花畑を守っているようであった。

 9:23光小屋到着。きれいな小屋で県営らしいお金のかかった造り。休まず先を急ぐ。最初に山頂かと思った所は分岐で、その先15分行ったところに山頂はあった。どしんとした強固な木の標柱が、なんとも似合っていた。山梨の標識に対して、静岡の負けまいとする意気込みが見える。展望台から眼下に光石が見える。もう少し歩けば傍まで行けるのだが、この時は下って行く気力が無かった。と言うより登り返す気力。この展望台には御料局の三角点があった。埋まっておらず、むき出しで、蹴飛ばせば転げ落ちそうなものであった。下山。

 光小屋の内部はとても綺麗だった。ここなら長居してもいいように思った。そして一人とすれ違う。どうもこの人が後から追い上げてきた人のようであった。休憩をだいぶ入れたのか、最初にヘッドライトを見た距離では5分差くらい、それがここまで来るまでに1時間ほどに開いたようだった。木道が終わり、分岐を右に入る。歩きやすいなだらかな道が続き、直下には雪が乗っていた。それを少し口に含み涼を得る。

 イサルヶ岳山頂。目の前に富士が見え、絶景であった。これから歩く稜線もばっちり見えている。ケルンが3つほどある広い山頂であった。分岐まで降り往路を戻る。先ほどの水場では、力水とばかりに再び水を含む。やはり美味い。溜まり水なので腹痛になるかどうか掛けだが、人体実験になろう。急登の下りで数人に行き会う。次々と登ってくる時間であった。夜明けから歩き出したらこの時間だろう。易老岳に戻ると、往路判らなかった山頂は分岐横の樹林の中にあった。

 

 さてここから静山山行が始まる。たおやかな稜線歩きで、視界もそこそこあり気持ちが良い。だんだん天気が怪しくなってきているのが唯一の問題点であった。希望峰には山名板等はなく、分岐点の標識ばかりであった。ここから枝尾根に入り這松の中を進む。すると途中で雷鳥がお出迎えであった。こんな所にも居るのかと思った。冬毛に生え変わりつつあり、越冬準備か丸々と太っていた。先導してくれるかのように先をすたすたと歩く。何度見てもかわいいものである。仁田岳到着。茶臼岳や上河内岳が大きく見える。振り返ると光岳がクッキリとした姿でこちらを向いていた。

 

 希望峰再び。目の前すぐに茶臼岳が見えるのだが、手前に2度3度のアップダウンがある。ヌタ場があり、これが仁田池かと思ったが、その先にちゃんと立派な池があった。テント禁止だが、どう見てもいいテント場であった。ここから一気に急登を登る。そして茶臼山山頂には、割れた標柱があり落雷に遇ったようであった。ここを下ると茶臼小屋への分岐。ちょうど向かい側から来た人が、小屋泊まりのようであり、少し言葉を交わす。夏場の15時ならまだまだ歩けるが、この時期はそろそろ足を止めねばならない時間でもあった。

 広い草原のような所を通過し奇岩竹内門らしき場所を通過。完全に雨模様になり、途中で雨具を着る。すると同時にザーと降り出してきた。視界は悪くなり、ヘッドランプも用意した。高度計を見ながらひたすら急坂を登って行く。どれだけ登ってもなかなか登りが終らないので、精神的に参ってきたり・・・。

 16:56やっと上河内岳への分岐到着。右(東)に入り上を目指す。ザレた九十九折りを風雨に耐えながら上がると上河内岳山頂。視界は全く無く、ピークを確認するだけとなった。よろけながら下り再び分岐。もうこの時点で完全にヘッドランプ点灯となった。南岳を通過し、あとは小屋までひと頑張りであるが、これがなかなか遠いのであった。

 たいして道標も無く、少し不安を抱きながら歩く。これで合っているのかとか思いながら足を前に出す。遠くに明かりが見え、聖平小屋だと判るのだが、まだまだ遥か遠い。暗く方位もあやふやになりかなり心細い時間帯であった。今日は十五夜だからと楽しみにしていた夜行は、とんだ天気となった。それでもだんだんと明かりが近くなり、小屋付近で動く明かりが見え安堵する。分岐を経て木道を辿り、聖平小屋に到着する。雨はどんどん強くなり、体が熱いうちにと一先ずビールをあおる。二日間我慢してくると美味いものだ。今からでも歩こうと思えば歩けるし、反対に停滞も正しい判断。雨と闇に少し気力が萎え、とりあえず泊まる事にした。素泊まり3600円。新しい方は既にいっぱいで、古い方に入った。既に団欒を始めている登山者がいて、静かに場所を確保。土間になっているので利用がしやすい。湯を沸かしコーヒーを飲み、いなり寿司をほおばった。地図をしばらく眺め明日の予定を立てるが、何度見てもなるようにしかならない。と言うか、行きたい所を行こうとすると、とんでもない時間になる事だけは判った。土間向かいの登山者の講釈にはうんざりし、静かにツェルトに包まった。

 

 二日目が始まる。夜中に出たり入ったりする小便ハイカー音で、熟睡とはいかなかった。それでも疲労の為かしっかり寝られたような気もする。3:30になってごそごそと向かいのパーティーが朝食の準備をしだした。最近の登山者はモラルが無いのか、ガサゴソと大きな音を立てながら用意をするので、周りはたまったものではない。4:08雨具を着てスタート。小雨状態でそんなには風はなく、とぼとぼと歩く。薊畑分岐からどんどんと高度を上げる。だんだんと名立たる山々のその山肌が見え、ゾクゾクする気持ちである。

 小聖岳到着。山梨の串型の山名板がある。さらに痩せた尾根を辿り前聖到着。三角点を探したのだがどうも見つからない、それらしき石はあるのだが、かなり小さいのである。尾根を右(東)に進み、岩場を少し通過し奥聖岳に到着。目の前に大きく赤石岳がある。今日に行けるだろうか。行きたいのだが、この時はまだ葛藤の最中であった。東聖も頭にあったが目の前の標高差に足は進まなかった。戻る。

 前聖まで戻ると、登山者7名ほどが山頂に居た。そのまま通過し兎岳に向かう。便ヶ島に下らず、こちらに
踏み入れたと言う事は、タクシーの1万円ほどの出費は覚悟。さらにはそう早くには降りられないリスクを抱える。どこまで行けるか、それこそ足頼みである。一気に高度を下げる。先の行程を考えると、高度を下げるのは程々にして欲しいのだが、これまたしょうがない。

 聖兎コルと呼ばれる所は、あまり広い場所ではなく、気づかず通過してしまいそうなところであった。途中、百間洞からピストンという若者とすれ違った。シラビソ峠から登ったと言う。かなりのファイターである。兎岳避難小屋はガスの中に霞み、登山道からは遠巻きに見るだけでどんな小屋なのかよく見えず。その先すぐに兎岳のピークがあった。さて時間を見る。時間と言ってもコースタイム。この先をどのくらいで歩けるか計算せねばならない。そしてとりあえず百間洞山ノ家の分岐までと決めた。兎岳と小兎岳の中間にはニセピークがあり、最初そこが小兎かと思い込んだが、下降し水場の分岐が現れたので状況が把握できた。小兎岳山頂にはか細い朽ちた標柱が建っているだけであった。この先の中盛丸山も同じであった。

 

 大沢岳手前の分岐は、赤色を主体にした目立つものであった。ここからトラバース道を通る。コースタイムはどうかと思ったら、ここのトラバースはほとんど短縮できなかった。小屋手前の水場は水量があり豪快に流れていた。夏場は気持ちいいだろう。そこからいつになったら小屋が現れるのだろうと歩いていたのだが、水場のかなり先に小屋はあった。小屋はひっそりとして、ここから大沢岳への分岐となっていた。その分岐に「赤石岳3時間」と書いてある。確かエアリアには4時間。1時間の差に惹かれ、何も考えず突き進んだ。周囲の石はやや黄色く、それらを踏みながら高度を稼いでゆく。緩やかな登り勾配で、暫くでだらっとした山頂の百間平に着く。この辺りは青いペンキが目に付き、迷いやすい為か無数に印がつけられていた。さらにはロープと杭でルートが示されていた。

 馬の背と言われる場所は、軽いアップダウンの繰り返し、この辺りできついアップダウンがあったら、気力が萎えていただろう。天気は相変わらず悪く、風も強い。岩石の大斜面と地図の表記されている場所はかなり壮大であった。一本の道がスーッと斜面に伸びている。二重山稜の谷間を歩き突き上げると、そこに避難小屋が見えた。なにやら人の声がし、その方向に山頂はあった。

 赤石岳山頂。大きな標柱があり威圧的であった。天候が良ければ言うことはないのだが、今日は踏めただけでも良しとせねばならない。僅か先には3000m超のジャイアンツの小赤石岳がある。横殴りで雨粒も大きく、それらに当り痛いくらいであった。戻りたい気持ちと進みたい気持ちが割れていた。こんな時は進むのである。雨具を片手で抑えながら斜面を下り、分岐から再びの登り上げ。小赤石岳の山頂は、意を決して来た割には素っ気無い山頂であった。カメラを出せないほどに雨に叩かれ、僅かな滞在で往路を戻る。

 赤石岳避難小屋には、ほうほうの体で戻るが、何処から入れるのか中への入口が見つからない。しょうがないので小屋を風除けにしながら吹き付ける雨を遮り休憩とする。それでもじっとしていると冷えてしまい筋肉の動きが悪くなる。しばしの休憩で下山となる。相変わらず雨は強く降り続いている。一応最終到達目標地点は踏めたので、これで完全に「帰り」と言う意識になる。往路で行き会った雷鳥が再びお出迎えしてくれていた。

 百間平を通過し一気に下り込み、百間洞分岐で最後の持ち上げたウィダーを腹に流し込む。さあ大沢岳までの登り、ここさえ登れば、もうこの先に登り勾配は大沢渡の所くらいになる。最初から急な駆け上がりで、ここはあまりはっきりとした道ではない。途中から岩場となるのだが、これと言ってペンキ表示も無く、ガスが濃ければ嫌な場所かもしれない。
高度計を見ながらの登り返し。ひたすら足を上げるしかないのだが、さりとてそんなに苦痛でもないのである。だいぶ山に順応した体になりつつあるようだ。稜線に上がったと思ったら、再びやや東側をトラバースし、風の吹き上げるコルから一気に這い上がると、そこが大沢岳山頂であった。

 

 大沢岳を踏んだら、あとはここから下るのみ。しかし時間が時間。しばらくで闇夜となる。ヘッドランプを早々に装備し、下降点を探す。それとなく降りているような痕があるのだが、付近は判りづらい。早くに西に下り尾根を辿ったが、その先で登山道と再び合流。どうになっているのかと悩んでいると、目先の岩に赤い薄れたペンキの字が見えた。それは「シラビソ」とあった。

 草付きの道は落ち葉が乗り非常に滑りやすい。ほとんど管理されていないように見えた。獣道ほどの細い道もあり、樹林帯では大きな倒木が無数にある。すぐに点灯し足元を照らす。最近のLEDランプは広角に照らすの大助かりである。途中の2箇所で新しい道標があったが、それだけだった。

 唐松峠は、道標は落ち葉に埋もれていた。さすがに夜、コースタイムが全く短縮できない。僅かに登って唐松山だが、闇夜の通過でどんな様子かほとんど判らなかった。この先地図では歩きやすい尾根とあるが、そうではなかった。足元が見えず、何度転げた事か。ふと目の前に「大沢岳登山口」という看板が見えた。フッと力が抜けたが、そこはまだ中間点にも達していなかった。林道の先の道が判断しづらかったが、緩やかに降りる道が判りそれを辿る。

 

 迷走が始まる。緩やかな為、登山道が薄いのである。右へ左へコースを外しては修正し、何とか下って行く。すると急に大沢山荘が左に出てくる。それはそれはビックリするのだが、まるで幽霊屋敷のようなのである。昼間でも怖そうなのだが、夜にはそれに輪をかけて不気味な感じがした。目を合わさぬように通過する。下るにしたがって一本の直径25mmほどのケーブルが下に伸びていた。登山道に沿うように流してあったので、道を定めるのにちょうど良かった。沢の音が大きくなるに連れて、道は大きく蛇行し始めた。いくつも踏み跡が入り乱れている感じもあった。これで正しいのかと疑いたくなるような場所も出てくる。薄い赤ペンキも時折あり、それが頼りでもあった。

 轟音を目の前にして大沢渡に降り立つ。白い波しぶきが目の前にあるのみで、先の登山道は見えない。どうすればいいのか、どう見ても歩いては渡れない。篭はどこにあるのか、周囲をヘッドライトで見回すと、降り立った所のやや上流にワイヤーが掛けられ、そこに鉄製の篭がぶら下がっていた。すぐに乗り込むがバランスが悪い。ザックの重み分、偏ってしまう感じ。狭い篭の上で工夫しながら体を置き、あとは腕力でロープを引く。すると、これがなかなか面白い。少し登り勾配なので疲れるのだが、滑車がスイスイと腕力で進む様は、冒険心をくすぐるのであった。そして無事対岸へ到着。最後で不器用に転げ落ち、何とか両足で地面を踏む。

 

 ここから少し迷う。どこに登山道があるのか、上流に少し歩き、下流にも。すると先ほど降りた場所のワイヤーの延長線上に「11林班」と書かれた紙があり、そこから薄い踏み痕を辿るのが正解あった。昼間ならはっきりしているのか、それにしても薄い踏み跡である。心もとない道を半信半疑で辿る。延々と続く九十九折りである。連続動作に飽きた頃に「中間点」と書かれた岩があった。この先も同じような状態が続く。何度も高度計を見ながら足を上げる。結局600mほどの登り返しになったようだ。目の前に平地が現れた時はホッとした。やっと遠山林道に着いた。そこには白い看板に登山道を示す文字があったが、崩壊が進んでいるとも書かれていた。

 

 さて林道歩き。林道に出れば楽だろうと考えていたのは甘かった。ガスで視界が無く、獣でも出てくるのではないかと思うと、ここからがとても疲れた。それからこの先が登り勾配なのである。何年か前の自分なら途中でへこたれていただろう。それが今は歩けるのだから、力をつけたものである。途中にいくつかの滝があったが、音のみで暗くて見ることは出来ない。採石場の跡だろうか、そのような建物も見えた。


 「ゲート」「ゲート」と思いながら足を出し、何度も何度もカーブを曲がり、「次はそこに」「次はそこに」と思いつつ歩く。そして、なにやら闇の中に建物が見えたと思ったら、それが休憩舎のようであり、ゲート到着となった。この先、ゲートから峠までは思うほど距離はなかった。そして目の前が開けたと思ったら、そこがしらびそ峠であった。ここでとうとう日が変わってしまった。2日目終了で3日目に突入。峠には誰もおらず、舗装路を左に登って行く。工事現場のプレハブが目に入ったが、開いていないだろう。この先で左側に大きな建物が見えてきた。地図には右側になっているが、これが「ハイランドしらびそ」だろう。携帯電話は通話圏外、中に入りタクシーを呼ばねばならないのだが、明かりの方に向かい開いている場所を探すが、どこにも入り口が無い、ここは裏側に入り口があるのであった。暴風の為か自動ドアや、入口と言う入り口は全て閉じられていた。しょうがないので朝まで待つことにした。

 トイレ施設が立派で、そこが風が避けられる適当な場所であった。湯を沸かしコンデンスミルクをたっぷりと入れて胃に流し込む。飲んだ数分は温まるが、動いていないので次第に体温が下がって行くのが判る。疲れで眠気もあり、ツェルトを被って仮眠となる。しかし風の音でたいして寝ることが出来ない。それでも1時間ほどは寝れたろうか。寒さで身震いし起きた。ツェルトを被っていないと寒くて居られない程であった。1時間おきくらいにハイランドに足を運び、開かないか試したが、結局どこもだめだった。今度は身障者用のトイレに入り暖をとる。ここは風も遮れてなかなか良い。がしかし所詮トイレであり長居があまり出来ない。

 5:00そろそろかと見ると、ハイランドの前に建っているバラックの電気が消えた。従業員宿舎であることは、前を通った時に判っていた。その前で人間が動く。近づいて行ってみると、洗濯を干し始めた所だった。すかさず声をかけ、厨房を経由し中に入れてもらう。先に家に安否の知らせを入れ、次にタクシーを呼ぶ。家に置いて来た予定表では、二日間の予定だったので申し訳ない状態だった。タクシーは40分後到着し、乗車40分ほどで易老渡に着いた。途中落石が多く、数度運転手とで排除作業もあった。

 

 現地8:30発、帰路も下道で13時頃家に着いた。

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