星穴岳  1073m         
      
    2004.11.7 


   曇り    同行者あり    星穴沢橋から星穴岳経由、中之岳神社に抜ける        行動時間 :不明



  登山記録・写真ともに紛失、記憶に頼る。(2008.5.17 再作文)



  大変勿体無い事をしてしまった。パソコンの故障により画像データと作文を紛失し、一番悔やまれる場所がここである。一挙手一投足を画像と供に記述してあったのだが、闇に葬られてしまった。下記に綴るのはルート軌跡も大まかであり、作文内容も詳細ではありません。悪しからず。

 石川の山中山の会のI氏から声が掛かった。氏は沢や岩を好むオールマイティーな登山家である。幾多の有名無名の岩峰も踏破してきており、実力のある方であった。そのI氏から声がかかり、二つ返事で計画に賛同を決めた。ザイルワークがろくに出来ない私(全て自己流)にとって、いい勉強機会ともなる。氏にとって私は怖いくらいのザイルパートナーであろうが、逆に私にとってはこの上ない頼もしいパートナーであった。ここに至るまで、極力「岩」を排除した登山を続けてきた。だた、目標に対し、岩を避けては通れない場面に出くわす事も増えてきた。安全通過には、やはりノウハウは知っておかねばならないのだった。

 「星穴岳」、誰もが一度は耳にした名前だろう。その耳心地の良い名前に相対し、現地は一部の登山者しか受け付けない危険な場所である。時折耳に入るニュースは、ここでの滑落事故。入山するにはそれ相当のリスクがある。その前に入山禁止措置が取られている場所であり、事故に遭えばそれこそ各方面から突かれてしまう。私の中ではモラルとアルピニズムの狭間での葛藤がかなりあったが、ややモラルが欠落し決行することとした。 あとは星穴岳と言えば、なんと言っても打田さんのp1のから先の「振り子トラバース」で有名である。どんな所をどのように通過したか、この目で見たい欲求もあった。

 妙義神社前、待ち合わせの時間になってもI氏の姿は無かった。どうしたものかと心配したが、もしや神社を中之岳神社と取り違えたかと思い紅葉ラインを登って行くと、氏の車が現れた。少し下仁田側で仮眠していたようであり、前夜の晩酌の残り香がする。流石に北陸の猛者、山の達者な者は酒も達者でなければならない事を全うしているようであり、事実、氏は強いのである。余談はさておき、予定では星穴新道の往復であったが、一台はここ中之岳神社の駐車場に置いて裏妙義に向かった。

 国民宿舎を右に見てしばらく進み、星穴沢橋の女坂ルート入口に駐車する。ここは目指す星穴岳に対し、藤岡女子高生徒の遭難碑は、ある意味バリケードのような役目もしている。この碑を見て何も思わない人は、よほど慈悲の心が無い方であろう。軽く手を合わせ、入山する。最初は少し荒れているが、その先はしっかりとした道があり、そこを伝って行く。杉の植林帯の中の道を行くと、途中で尾根側に上がる道が判れ、これが星穴新道への道である。いよいよ我が身が星穴岳エリアに踏み入れた事を感じ、いつもより慎重に付近を見ながら足を出してゆく。妙義らしい枯れた斜面を土煙を巻き上げながら登って行く。途中でハーネスを着け岩装備になる。

 しばらくは踏み跡を辿ったのだが、途中どこをどう間違えたのかルートを失い、岩壁に張り付くように進む場所になった。そして最後は足を置く幅さえも無くなった。付近にはマーキングもあるのだが、どう見ても本ルートではない。踏み跡がしっかりしている所を見ると間違える人が多いということであろう。ここでI氏が斥候に出てルートを見出し、事なきを得る。ルート修正をして本道に乗るが、やはりどこかで西に寄り過ぎてしまったようであった。

 p1北側は古い鎖に捕まりながら、高度を上げてゆく。するとなんとなく付近から人の声がしていた。最初、谷向こうの谷急山の方の登山者かと思っていた。登山口には車は無かったし、ここに誰かが入っているとは思わなかった。慎重に古い鎖の場所をクリアーするとこの先で尾根形状になり、その先の肩のような場所に人影が見えた。先行者が居たのである。この肩のような場所から有名なコップ状の壁が続いていた。草付きの壁に、切れ切れになった縦に下がる鎖が見える。数箇所繋がれているが、まともに頼れる物ではない。先行者は二人のパーティーで、確保者を残し、トップがランニングを取りながらザイルを伸ばして行っていた。これ幸いに便乗と言うか、先人のザイルを使わせてもらおうかなどと内心思っていたが、次に後続者はビレイを解き放つと、ランニングを回収しながらコップの向こう側まで行ってしまった。ここで20分ほど足踏みであった。

 さて今度は我々の番であり、当然のようにI氏がトップで残置ハーケンにランニングを張りながら慎重にトラバースをして行く。こちらは万が一に備えてビレイをとり、ATCから均一なテンションでザイルを送り出す。壁の上の方を見ると、打田氏が振り子をしたであろう場所がある。しかし良く見ると、途中に生えている木が邪魔をして、すんなり通過は困難に思えた。支点を何処に取ったのだろうか。壁全体を見て始点と終点のほぼ中間点に支点と仮定して、いろいろ目で追ったのだが、自分には適当なルートが見出せなかった。振り子をしながらも壁の途中で登下行したのではないだろうか。I氏が向こうに着き今度は私の番である。古いハーケンに掛かるシュリンゲを回収しながら進んでゆく。確保者が安心出来るせいもあるだろうが、ここの通過はさほど怖さを感じなかった。ここで単独ではどうだろうかと思ったのだが、古いハーケンを頼る事になるが、それらにセルフビレイをとりながらの通過も可能であると思えた。しかし命がけという部分は付き纏うであろう。 おそらくであるが、ここの通過でエアリアに書かれる危険箇所を2箇所通過したことになるようだ。

 この先の危険箇所はザイルは出さなかったので、残置してある鎖を利用して下降した(と記憶している)。その為か、先行している人を途中で追い越した。そして次にやや長い懸垂下降をして、岩場を左から巻き上げて行くような場所になる。岩場をヘツルように足場となる鉄の杭が打たれている。I氏が先を行き、40mのザイルがほぼ伸びきったところでOKの声がかかり後に続く。左(東)下を見下ろすと凄い高度感である。ここは古い鎖も流してあり、まだ利用は出来る。慎重に足場を見定めならら上に行く。上がってしまえば、この先は特に危ない所はない。ただ、ルートを間違えたのか判らぬが、星穴の上の辺りで、ややこしい潅木を掴み上がらねばならないところがあった。腕力もそうなのだが、コンパスが長くないと足が上がらないような場所であり、やや難儀した。

 登りあげたところは、星穴の直上やや東側の場所で、稜線上にはしっかりとした踏み跡があった。星穴の上には高さ3尺ほどの岩があり、そこにシュリンゲが数本巻かれていた。これが穴に下りる懸垂用の支点になるようである。少し西側に行くと休憩するのに適当な場所があり、その西側に最高点への最後の岩壁がある。高さ6mか7mほど、斜度は70度くらいだろうか。I氏はスルスルと上がり、私のためにザイルを垂らしてくれる。壁の半分から上は、やや雑木が多く掻き分けるように上がってゆく。そして西に進むと最高点となる。

 念願の星穴岳登頂である。ここまでろくに展望を楽しんでいなかったのだが、やっと周囲を見る余裕も出来た。とりあえず一段下の安全地帯まで降りて休憩とした。本日星穴新道の登行をされたもう一つのパーティーの方も集い、しばし歓談。御仁らは目黒山岳会(労山)の方で、とても紳士(淑女)的な方々であった。最後の壁は登らずに、私らの登下行を見守っていてくださった。山頂までと後押ししたが、ここまでで満足のようであった。と言うか他に星穴という目的もあるようであった。こちらは登頂目的であり、今回は星穴への下降は無い。とは言うものの私の技量がもう少しあれば、I氏は行きたかったはず。申し訳ないことをした。

 さて下山であるが、星穴新道をもう一度伝うか、西岳経由で中之岳神社に戻るかなのだが、ここは後者を選んだ。星穴岳の東側がやや判りずらいが、なんとなく斜面に踏み痕があるのでそれを伝ってゆく。この辺りは腕も使う場所が多い。そして少し稜線の道が安定したと思うと、そこが西岳との中間地点付近で、ここに南側に少しオーバーハングした通過点がある。距離にして3mくらいだったろうか。ここは慎重にザックを引っ掛けないよう進みたい。ここを過ぎればもうほとんど危険な場所は無く、表妙義の山塊に入る。登山道に交わる場所にはタイガーロープがされ、西岳側は塞がれていた。一般登山道も鎖場がいくつかあるので、最後まで気は抜けない。スニーカー履きの観光客が目に入ったと同時にハーネスを外し、一般登山者と観光客に混じりながら中之岳神社に到着する。

 再び裏妙義の星穴沢橋へ車を回収に向かい、国民宿舎の風呂に沈没し、緊張した星穴岳山行を終えた。I氏にとっては、私の不甲斐ない岩捌きにイライラしたであろう。重ね重ねお詫びしたい。

 さて星穴岳。星穴新道と言う楽しいコースがあるのだが、中之岳経由で辿ると、かなり短時間で狙うことも出来る。危険箇所の存在は、星穴新道に比べ四分の一とか五分の一であると感じた。どちらを辿ったとしても最後の壁はどうしてもザイルが必要になるが、中之岳神社をスタートした場合、星穴の上まではノーザイルで行ける。事実、今回の帰路に出すような場所は無かった。この情報を後日KUMO氏に伝えると、氏も楽々登頂してきたようである。本来入山してはいけない場所ではあるが、一応情報として添えておく。ただ、こちらのルートでも滑落している方は居る。ルートファインディングは必要で、そのルート取りで危険度は変わってくるであろう。それなりの場所であると言う事は踏まえて出向かねばならないところである。

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