一ノ沢ノ頭 2003.9m
2007.3.10(土)
晴れ 単独 スキー 行動時間:6H19M
@大谷原大駐車場からスタート | A大谷原登山口 | B取付き点の看板。 | B取付き点の斜面の木に赤いリボンが2つ縛られている。 |
尾根までの斜面の様子。なだらかになったところ。 | C稜線に上がる。足元や頭上に沢山の赤いリボンがある。 | しばらくはサンカンスギの植生が続く。 | 木々の間から見える爺ヶ岳が素晴らしい。 |
1750m付近。少し傾斜が増し板は背負う。 | 左の場所をを抜けると再びなだらかな尾根に。 | 頂上が見えるようになる。 | 振り返り我がトレース。 |
純白無垢の尾根の様子。山頂も近い。 | 爺ヶ岳 | D1900m付近で板はデポ。ここから今日の核心部に入る。 | Dデポ地からの稜線の様子。 |
D鹿島槍北峰とキレット。 | ナイフリッジを慎重に登ってきた。 | 頂上まで250m付近。 | 最後の登り、残り50m |
E山頂から爺ヶ岳 | E山頂から鹿島槍。 | E山頂から遠見尾根遠望。右のダケカンバの木にリボンが縛ってある。 | E山頂から大町方面。雲が垂れ込めている。 |
下山開始。降り始めの尾根。 | スキーデポ地は、中央こんもりとした下辺り。ナイフリッジを下ってゆく。 | F Dの2番目の写真の上から下を見る。尾根上に板が刺さっている。 | 1300m付近のサンカンスギの尾根。 |
G登山口から数えて1番目の黄色い看板の場所に降り立つ。右側の斜面を下りてきた。 | ゲート | 冷池山荘の案内看板 | 登山口から一ノ沢ノ頭(左上)。 |
H駐車場の様子。何百台停められるのだろうか。 | 駐車場から見る鹿島槍。その手前に一ノ沢ノ頭があるのだが、鹿島槍に同化してしまっている。 |
帰宅の制約がある為に短時間コースの選定となった。週中には雪が降っており、暖冬の今年において雪と戯れないと勿体無いと判断しパウダーを求めに行く事にした。今回はMLQの記録を参考にさせてもらった。ただ、時期も少し違うし積雪量も締まり具合も違うだろう。どうなるか判らないが先人の記録がある事はありがたい。
今日はスロースタートで家を出る1:50。これが思わぬ助けとなった。三才山トンネルが送風機のメンテの為に深夜全面通行止めで3:00まで通れなかったのであった。もし、いつものような時間に出ていたらまんまと引っかかっていた事になった。災い転じてではないがラッキーと言えよう。
国道19号から県道51号と進み、豊科から池田町を経由し高瀬川に沿うように大町に入る。いつも深夜に来ているわけだが、それにしても静かな町である。コンビニでいつものヤキソバパン(セブンイレブンのでないとダメなのである)を買い大谷原を目指す。行き先を決定したのが遅かったので現地の様子を町役場に聞けず、やや不安を抱きつつ現地に向けてハンドルを握っていた。爺ヶ岳スキー場から先は、雪による冬季通行止めなども想定していたが、サンアルピナスキー場方面からも車の往来があり、何も問題ない道であった。ただ、雪で河川公園のある登山口までは入れず。手前の大駐車場に突っ込む事になった4:25。
今日は、起動食(こんな言葉は無いか)にモラードバナナ(赤いやつ)を食べてみた。とくにバナナ好きではないのだが、バナナは短時間でエネルギーになるとの謂れを信じているので多用する事がある。そんな中で、バナナの種類による差があるのではないかと比較したかったのであった。この日も前回の本数と同じ量の3本を食べた。結果は、このモラード(エクアドル産)は、黄色い普通のバナナ(フィリピンなど)に比べ今ひとつパワーにならない感じがした。本当にそんな差が判るのかと思われるかもしれないが、確かに違う。以前モンキーバナナでも試してみた事があるが、やはり市場に一番出ている黄色い普通のものが一番良いと私は感じている。まー毎回コースが違うので、諸条件が違うと言えばそれまでなのだが・・・。
今日はカンジキと12本爪。ピッケルは最後まで迷ったが、鹿島槍なら必要だが一ノ沢ノ頭ならと装備に入れなかった。スキーを履いて林道を歩き出す4:48。外気温はマイナス6度。まずまずの締まり具合でほとんど沈まずに歩く事が出来た。林道にはスノーモービルのトレールがあり、それにかき消されるようにアイゼンの一人分のトレースもあった。しばらくゆくと林道の左側にトイレらしきものが見えた。何故にこんなところに・・・と思ったら、無積雪期の登山口はここなのだった。駐車スペースが見出せなかったのだが、雪が無くなると見えてくるのか。黄色く塗られたポストとベンチもあり、登山口らしい様相にはなっていた。
白い欄干の橋を渡って5分ほどでゲートがある。ここには黄色い板に冷池山荘の営業の詳細が書かれていた。小屋主の細かい心配りが感じられる。どんどん林道を詰めるとMLQが表記していた黄色い看板が左に見えた。だが右の斜面を見てもそれらしい取付き場所が無い。堰堤がポイントのようだが川の中までヘッドライトの光が届かなかった。さらに足を進めると、二つ目の看板があった。右側の斜面を見ると赤い布がかかっていた。“ここだ” 目標の看板は2つ目なので注意である。ここでスキーをザックに結わえて急斜面を登る。最初の20mほどはスキー靴を履いて来た事を後悔するほど難儀する傾斜であった。ここを過ぎるとなだらかになり板を装着して稜線を目指す。稜線に出て初めに目に飛び込んで来るのは赤い布である。その多さたるや凄い。ガスれば有効だが、それにしても多過ぎる。一本尾根だから迷うような所は無いと思うのだが、まー安心材料にはなるので良しとしようか。でも半分、いや3分の2くらいは回収してもいいのではないだろうか。
尾根上はサンカンスギの大木が林立しそれは見事であった。それらを縫うように雪を乗り越えてゆく。木に縛られている赤いリボンは私の背丈でストックを伸ばして届くか届かないかの高さにあった。今年の雪の少なさが良く判る。左側を見ると木々の隙間から爺ヶ岳のピラミダルな山容が目の飛び込む。1650m付近で一度スキーを外しつぼ足に切り替える。高度を上げて行くと植生も変り、1800m付近から辺りはブナに変る。サンカンスギ同様にブナも太い。このあたりは割りとなだらかで帰りの滑走が楽しみであった。週中の降雪から入山者は皆無のようで、純白の雪の上をトレールを残しながら歩いてゆく。
1900mで、スキー登行は無理になった。ワカンジキに切り替えて雪の壁を越えて行く。ここからはトラバースを含めてスキーでの通過は絶対に無理であった。ステップを造るのに5〜7回ほど蹴り込みながら一歩一歩刻んでゆく。ナイフリッジの箇所は左右のバランスを慎重に保ち、ゆっくりと帰りのトレースを造るように足を出す。右下には赤布がトラバースしているのだが、この時は雪が締まっておらず到底使えそうも無いコースであった。一瞬でも滑り出せばアラ沢へまっ逆さまである。ナイフリッジ形状の場所は3箇所ある。もう一つの核心ポイントとして、北側から雪庇を切り崩さねばならないところもあった。ここはかなり慎重に行く。10mほどなのだが斜度は50度くらいだろうか、体感斜度はほぼ垂直。最後は雪を切り崩し、手がかりも足がかりも無く、転げ込むように雪庇の上に登り上げた。後は山頂までのなだらかな最後のエピローグが待っていた。直下のやや細いダケカンバに赤い布が3つ縛られていた。足を進めると正面から爺が岳がスクッと現れ、右(西)には鹿島槍が聳える。8:57やっとの事で山頂到着。4時間を費やした事になる。MLQが2.5時間だからほぼ1.6倍である。
少し残念なのだが7時くらいまでは空は青かったが、やや雲が張り出し、辺りは白っぽい風景となった。大町市側も霞んでいて今ひとつ。トランシーバーを握り儀式に入ると須坂の知人が声をかけてきてくれた。久しぶりだったので15分ほど話し込んでしまった。ワカンを12本爪に替え、お湯を飲んで下る。ヤキソバパンはどうしたと言う事になるが、9時台ではまだ腹は減らない。9:25下山。
最大限の注意を払いながら慎重に足を下ろしてゆく。ステップを切ってはあるが、ことごとく崩れて行く。往路に下に植生を置くように登ってきているので、万が一の時はそこで一度止まるようにはしてあるが、それでも加速度がつけば、そんなものは無いに等しい。慎重に勝る対処法は無いのであった。もう一つは運か。ナイフリッジも無事通過、デポしてあるスキーが見えたらもう安全地帯となる。山頂までのこの間でピッケルが必要かどうかと言う部分では間違いなく必要だろう。雪庇の切り崩しなどもそうだが、あれば助かった部分が多い。持たずに事故の遭えば笑いものだから、今日の判断は良くないのである。
シールをはがし12本爪からスキーに切り替え滑り降りる。パウダーとモナカが半々の雪の様子だが、かなりいい感じに滑り降りる事が出来た。ブナの中を滑って行くとヘルメットを被った重装備の二人のパーティーが上がってきた。背中にはシノダケで作った長いマーカーが何本も刺さっていた。トレールを一ノ沢ノ頭まで開いた事を伝えると共に危険箇所と雪の状態を教える。“一ノ沢まで残り1時間ほどでしょう”と最後に告げ、あえぐ二人を背中に軽快に滑り降りる。サンカンスギが出て来る頃になると尾根が狭くなり、左右の斜面に逃げるのだが、あまり滑りにはならない。自分のトレースを追いながらずり落ちてゆく。すると再び二人のパーティーが上がって来た。浅黒く焼けた顔が幾多の山暦を物語っているようであった。この時期の鹿島槍をこの尾根から狙う時点で、人並みではないのである。諸情報を伝え別れる。林道から登り上げてきた地点からはそのまま尾根伝いに行く事としてトレールの無くなった斜面を降りて行く。地形図に水線が入っているが、それを跨いだ先はこんもりとしたピークがあり、それを避けるように右(南)の谷に入った。しかしその先は至極急峻で、滑れない。1251ピーク側に登り上げてみたがこちらも同じ。しょうがなくスキーを外し下る事にした。
「ズルッ」、事故は一瞬であった。ここは積雪量が少なく、雪の下にある堆積した枯れ草がイタズラをした。なすすべなく、宙に放り出された。まるでスローモーションのようであった。途中にあった木にしがみつこうと思ったが、加速度が腕力を超え、そんなものを掴めるものではなかった。大木にわき腹を強打し、顔面も雪面に打ち付ける。20mほど滑り、下のブッシュで止まったのだが、顔をなぞると塩っぱい。流血か? 衝撃からしてアバラも折れるかヒビが入ったろう。そんな事を思いながらわき腹を触ってみる。だがあまり痛くない。丁度上着のポケットに耳あてを入れておいたのがクッションの役目をしたようだった。顔の塩っぽさは汗だったようだ。まだ運はあるようだ。付近に散乱したスキーとストック(曲がってしまった)を探し出し回収。この先はさらに慎重に降りた。何のことは無い、尾根を外して斜面を降りれば歩きやすいフカフカの雪だったのだ。林道に降り立つとそこは一個目の黄色い看板があるところで、ここからは板を履いてスケート滑走となった。
登山口にはスノーシューツアーの人々が屯っていた。4輪バギーで犬を散歩する人も居たりして、下界が近くなっているのを感じる。駐車場には11:07下山。帰りは大町温泉の薬師の湯に入る。源泉槽は33度ほど。かなり冷たく感じるが、山の後のクールダウンには丁度いい。ただ源泉温度が低いので沸かし湯であり循環である。加温槽も露天も含め塩素臭がした。
家には16:00到着。達成感と少々後悔が残る山行であった。スキーの選択をフリートレックにしたらより滑走が楽しめたかもしれない。スキー靴と登山靴の違いでの滑落と判断するが、スキー靴で登山靴を履いているような感覚で尾根を降りた自分に100パーセント非がある。下に林道がある事で気を抜いた感もある。交通違反ではないが、たまにこういうことが無いと自分を省みないのも情けない。以後、心して山に挑もう。