嫦娥岳  2046.8m    

 2007.10.7(日)   


  晴れ    単独    熊穴沢出合から第三尾根を辿る      行動時間:7H10M


@白岩堰堤下5:24→(61M)→A熊穴沢出合6:25→(90M)→B1800m付近7:55→(59M)→C嫦娥岳8:54〜9:30→(125M)→D熊穴沢出合11:35〜41→(53M)→E白岩堰堤下部 12:34〜38→(7M)→F戸台12:45


enteishita.jpg  tozandouhouraku.jpg  enteinojyouryuu.jpg  heturi.jpg 
@白岩堰堤下の広み。 堰堤手前の登山道は10mほど流出。 堰堤上流の戸台川の様子 ヘツリポイントは、今では水とは無縁に。
tocyuukarajyouryuu.jpg  kumaanazawadeai.jpg  syamen.jpg  humiato.jpg 
左の高みが嫦娥岳。 A熊穴沢出合。ここから取付く。 1450m付近の斜面の様子。 このレベルの踏み跡がある。
iwaba.jpg  kumaana.jpg  1800.jpg  tocyuukaranakagawa.jpg 
だんだんと岩場が出てくる。 途中に獣の巣穴のような場所の真上を通過する。 B1800m付近の様子。 途中から中川乗越。
bando.jpg  kyuusyamen.jpg  kyuusyamen2.jpg kyuusyamen3.jpg
何の変哲も無い絵だが、中央斜め向こうに登る場所。 核心部に入り壁が立ちはだかる。ビビッている証拠に手ブレである。ここは登らず右(東)にずれる。 松の木のはびこる岩場もある。 ここも右(東)にずれたような・・・。ちと記憶が定かでない。
ru-to.jpg  miginizureruto.jpg  toraba-su.jpg  kyuusyamen4.jpg 
「この行が一連の流れになる」ここは登っても良いが、往路は右(東)にずれた。(下山時はここを降りて来た)
壁の下を東にずれる。 先に進むとこのような場所に出る。中央の立ち木のさらに向こう側まで行くのだが、途中の草地の足元が断崖であり、落ちれば命は無い。 トラバースし終わると、山頂側に岩場が見え、このすぐ東側を登って行った。
kashiwaogawa.jpg  sankakuten.jpg  sancyounokita.jpg  sancyouohigashi.jpg 
C嫦娥岳山頂に「柏小川」の赤布が下がる。 C赤布の下に三角点がある。 C山頂の北側。 C山頂の東側。写真右端の方から登って来た。
kitagawa.jpg  dai3onenosaki.jpg  tocyuukaradai2.jpg  dfai2hidarimata.jpg 
三角点から少し北東に進んだ場所。樹林の間隔があり明るい。  北東に進むと、再び岩壁になる。  山頂北東より第二尾根側。  第二尾根左俣。 
sancyounoribon.jpg  zairukakou.jpg  oritekitabasyo.jpg  onenoyousu.jpg 
C山頂に山名を書いたリボンを残す。  ルートを間違え強引にザイルで下る。  ここも20mザイルめいっぱい使って降りてきた。往路に登ろうとした場所である。  歩きやすい場所もあるのだが、このような場所で気を抜いているとルートを間違える。 
2114.jpg  tocyuukarayokodake.jpg  8kan.jpg  todaigawanioritatu.jpg 
途中から南アルプス林道側の2114高点。  途中から横岳。  4回目のアプザイレン途中。  D戸台川に降り立つ。 
soubi.jpg  tocyuukarakomatumine.jpg  todaigawakarakaikoma.jpg  tento.jpg 
本日のフル装備。  途中から上流を振り返る。  甲斐駒かと思い込んでいたが、駒津峰か。  若者が河川内で幕営していた。 
heturiwaiya.jpg  ryuubioku.jpg  enteikarajyouryuu.jpg  bunki.jpg 
ヘツリポイントのこのお助けワイヤーも、もう使われる事は無いだろう。  おびただしい流木で埋め尽くされている。  砂防堰堤から上流。  白岩堰堤下の分岐。白い大きな岩が二つある。右へ行くと駐車スペース。 
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E堰堤下の駐車の様子。  F戸台の駐車の様子。見ての通り、こちらにもスペースがあるのだが、工事用車両が通るので拙い。     


 3連休突入の土曜日、好天の空を見ながら恨めしく仕事に勤しんでいた。帰宅が20:30になり、それから行き先探しとなった。何処へ出向いても好天であり期待が出来たが、南アルプスの1座で目は止まった。高山もいいのだが、この好天に嫦娥岳を狙おうと・・・。夏に第三尾根の熊穴沢ノ頭から狙って、あまりの状況(地形)の悪さに断念したのだが、行くなら晴れていて数日来雨が降っていない時と思っていた。条件が全て揃い、迷う事無く行き先決定となった。地形図を見ると、核心部が山名表示で見えない。いくら拡大しても文字が邪魔をして地形が判読出来ない。こうなると核心部の様子は現地で把握するしかないようであった。

 

 1:25家を出る。毎度のように野辺山を越えて小淵沢ICの前を通り20号に出る。茅野から152号で杖突峠に上がり、高遠から長谷村に入る。戸台口から黒河内林道に入るのだが、前後にヘッドライトやテールライトが多々見える。先へ進み登山基地となる仙流荘前には、ハイカーなど観光客の車で賑わっており、まだ始発には時間が有ろうに準備をしている人の姿が見られた。ここでほとんどの車は消灯して、先に進む車は私のみとなった。

 

戸台に着くと、その変わり様に驚いた。あの広大な駐車スペースが、流木や大きな石で埋め尽くされていた。小屋に並ぶように7台の車があり、スペースとして設けられているのはそのくらいで、その他は作業の為に開かれた道になっており、下流側に少し進んだが、適当な余地は小屋の所しかない様であった。四苦八苦してユーターンし小屋の前まで戻る。ヘッドライトが上流側を向くと、再び驚いた。有るべきゲートが無い。ヘッドライトに映し出される先は、川の中(水は無いが)になっていた。先には林道と言うより河川の採石工事用と言えよう道が上流に向け付いていた。ここで凡そは読み取れた。台風9号の仕業であろう。ここから歩くつもりで来ていたが、先に進めるようであり、偵察の為に伝ってみることにした。一部昔の林道を辿るが、約9割は新たに作られた道形で、それも良く踏まれた状態になっていた。流れを跨いだりダートだったりするので四駆向きな道である。行きついた先は、なんと白岩堰堤の下であった。1時間のアルバイトの場所がほんの7分ほどで移動してしまった。堰堤下には駐車スペースが設けられ、そこに停める4:45。とりあえず経路となる仙流荘からここまでを振り返るが、通行禁止の表示は無かった。一般車通行禁止ならそれに従うが、そこら辺の表示は皆無。違反はしていないと解釈し、戻る事無くここからスタートとした。変な話だが、台風9号の恩恵と言えようか。到着からすぐに歩き出す予定だったが、これなら少し余裕が出来、後ろに移り少々仮眠をとる。

 

5:24スタートする。下流側に30mほど戻ると山手側に道が上がり、ここには白い大岩がバリケードのように置かれている。ここを鋭角に右に登ってゆくと、堰堤の脇に続く昔の道に乗る。道は途中で流出して深く掘れたところが有り、新たな踏み跡が既に道になっていた。砂防堰堤を越えると、その様に唖然とした。戸台川はこんなに広いのかと思えるほどに全てが流されていた。あるのは流木と岩ばかりであった。渡渉も何もなく、ルート自体何も無い。あるのは土木測量用のピンクのマーキングのみであった。これだと初めて訪れた人は、全くもって迷うであろう。私は凡そは判っているので、川のど真ん中を歩いてゆく。以前なら流れがあり、有り得なかった事である。いつも水没を気にするヘツリポイントも完全に水の無い場所に変わり、寂しくお助けワイヤーが残っているのみであった。数十年かけて育った河川内の樹木は、濁流に総浚いされた感じで無毛の地になっていた。気になったのは、これで雨が降った場合、どのような流れが出来るのかであった。渡渉出来ないような流れにはならないのであろうが、それにしても予測が出来ない事はかなりの不安要素である。この先の小さな堰堤は中央突破は無理なので左岸側を巻いて行く。角兵衛沢の出合を前にテントがあり若者が幕営をしていた。この辺りも全て流されてしまい、河川内の中洲の様子もかなり変わってしまっていた。おそらく角兵衛沢を示す道標も流されてしまったことであろう。

 熊穴沢の出合に到着。歩き出しから丁度1時間であった。これから嫦娥岳を狙うにあたって、今日の条件は全てが私を後押ししているように思えてならなかった。唯一不安要素は、家で登山用品を干している竿が出がけに落ちたのである。落ちるはずの無い物が落ち、なんとなく自分に当てはめていた。
飛び石で右岸に移り、熊穴沢の涸れたゴーロの中を上がってゆく。ひと登りすると水の音がしだし、ここで750mlを汲む。さてここから熊穴沢の左岸の尾根に取り付くのだが、この辺りは苔むした石と枯葉の斜面で下草は無く歩き易い。次第に傾斜が増してくるのだが、地形図で見るよりは急な斜面で、既にこの辺りから戦いが始まった感じであった。斜面には獣なのかクライマーのものなのか判らぬが、踏み跡が時折ある。それに伝ったり離れたりしながら尾根を拾ってゆく。途中、それこそ熊穴と思えるような岩屋がありその上を通過してゆく。木を掴み登る場面が多いのだが、涸れている立ち木も多く、体を預けるには注意が必要であった。

 標高1760m〜1770m辺りで少し植生が濃くなり藪漕ぎを強いられる。ここを越えるとその先で少し緩やかな開けた所になる。標高1800mを越えると斜面もきつくなり岩が見え出してくる。最初の大岩は右(東)側にバンドが上がり、木を掴みながら腕力でそこを辿る。この先も目の前に大岩が立ちはだかる毎に右(東)へ右へずれて行った。それが自然と嫦娥岳に近付いて行くのであった。何せ直登が無理な場所は右にずれる。右に行けないところは直登する。この繰り返しであった。岩に当たって左を巻いた箇所は一度も無かった。何処で南川さんが木登りした壁が出てくるのかと思ったのだが、それらしい場所はあるのだが、木の特定までは出来なかった。私は壁に当たった場所から東に長いトラバースをしている。おそらくこの辺りの判断で南川さんとコースを違えているのだろう。

 足の下が切り立っているトラバースを終えると、なんとなく上に行けそうな岩場になり、そこをひと登りで山頂部の平な場所に出た。見るとこの山に入って初めてのマーキングがあった。近寄って行くと、その下に嫦娥岳の三角点があった。赤布には「柏小川」「04.8.13 13:30」と書かれていた。これは北アの黒沢山(2051m)にあったのと全く同じ条件で付いていた。御仁もここに上がっているとなると、もうほとんどの高山は踏んでいると思われる。恐るべし。山頂に立っても展望は全く無い。展望を求め少し北東に足を進めると、何とか西側に鋸岳側の主稜線が見えるのだが、絵になるような展望ではなかった。唯一横岳のみがスクンとその容姿を見せていた。前回迷った部分を検証したくそのまま北東に足を向けると、また壁が立ちはだかった。足元はやせた尾根で、ここを上から狙おうとしていた自分の青二才ぶりに恥ずかしくなった。ここを見たのと、先ほどの登りを経験して、あの時に上から降りずに良かったと強く思った。上からの下降を、10mでも左右に違えてもこの尾根には当たらないように見えた。ただ下から登る分にはルートファインディングは容易ではあろう。
三角点の場所に戻り、しばし儀式に移る。トランシーバーから聞こえるのはトラッカーばかりであった。どこかの山岳会が近くで使っていたのだが、声を掛けても全て無視されてしまった。

 

さて下山である。通過時によくよく把握しながら上がって来たつもりであったが、歩きだ出し数分で見事に迷った。ここはほんとに数メートルの差でルートミスとなるようである。降りながらミスが修正できればいいのだが、ミスは行動不能に繋がるのであった。こうなるとあの熊穴沢の頭の再来であった。上部で登りと同じ所を辿れたのは数箇所で、後はザイルを出しての懸垂下降にした。というのは、往路を探し出すにも、それほどこまめにマーキングを付けた訳ではなく拾いながら伝うのは無理であった。下山しながらこんな事を反省していても仕方が無く、地図を読みながら無理の無いようにザイルを出してゆく。標高1800mの安全地帯までに3回ほど出し、そのうち1回は20mザイルをめいっぱい使った下降となった。まー時間を掛けてルートを探せばザイルを出さずとも通過は可能であるとは思った。

 

標高1800m付近で安心したのか、ここで間違えて一つ東側の尾根に入り込んでしまった。こちらの尾根上にも人か獣かの踏み跡があり、地形も植生も西側の尾根と全く同じで、途中まで間違えに気付かずに降りてしまった。斜度が増しミスに気付き、西にトラバースしながら修正。いやはや第三尾根の下り、私の今の力量にはかなりハードルが高い場所であった。標高1650mほどまで下るともう間違えるところは無く、軽快に足を下ろして行く。熊穴沢のゴーロに足を置くと、やっと危険地帯から開放された気分になった。戸台川まで降り、装備を外し、パンを齧る。秋の空の下、流れを目の前に最高の気分であった。本当は今日も踏めないのではないだろうかと思っていたので、結果を出せた事に大満足であった。

 

戸台川を渡渉して闊歩してゆく。途中に腕章を付けたパトロール員が入っていた。何か人探しをしているようであったが、事故でもなければいいのだが。堰堤の上部辺りでは、作業着を着た測量士が休憩しているところであった。こちらは遊んでいると言うのに、この三連休の中日に仕事とは・・・。自ずと「ご苦労様」と口に出て、頭が下がった。堰堤下の駐車スペースまで戻るとそこには私を含めて5台の車があった。そのうち2台は先ほどのパトロールと作業員の物であろう。他3台は登山者となるか。今だけ入れるのかこの先も入れるのか判らないが、今のうちなら白岩堰堤下までは入れる事は可能である。オフロードバイカーもこの事を知ってか知らぬか、爆音を響かせて入って来ていた。これらを見ると、入れないほうが自然に優しいのではと思ってしまう。”お前も同罪だ”と言われそうだが、自分に優しく他人に厳しいのである。戸台までの間に数人のハイカーが歩いているのだが、私が逆の立場なら煮え切れない気持ちになるであろう。申し訳なさそうにゆっくりと追い越して行くのだった。

 

今回の山のポイントは何せ1800mから上の行動である。慎重に場所を確認しながらこまめにマーキングをするのが良いだろう。一箇所下降用にマーキングを兼ねたフィックスを残して来たのだが、復路にそこを辿れず残したままになっている。見つけた方はご自由にお使い下さい。帰ってから写真を見ると、手ブレばかりであった。腕力を使う場所が多く筋肉疲労からか、それとも岩壁にビビッて居たのがそのまま写真に現れたのかもしれない。振り返るとここも楽しい山であった。


 chizu1.jpg

赤:往路 青:復路

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