黒戸山  2253.7m     坊主山   2365m   
   

 2008.6.14(土)   


   晴れ   単独    竹宇駒ケ岳神社より黒戸尾根で5合目まで、廃道を利用し黄蓮谷に下り、坊主沢を遡上   行動時間:18H31M

 
  雪解け遅く、残雪多く危険箇所あり。 ザイル、12本爪、ピッケル携行。


@駐車場0:18→(6M)→A竹宇駒ケ岳神社0:24〜26→(1M)→Bつり橋0:27→(116M )→C笹の平2:23→(128M)→D刀利神社4:31→(35M)→E黒戸山5:06〜17→(18M)→F五合目5:35〜37→(55M)→G白稜ノ岩小屋6:32→(6M)→H黄蓮谷(8m滝)6:38〜43→(20M)→I坊主の滝7:03→(71M)→J1回目の乗越(東稜)8:14→(22M)→K2回目の乗越8:36→(5M)→L坊主沢8:41→(58M)→Mチョックストーン9:39〜10:05→(20M)→Nコル10:25→(3M)→O坊主山10:28

O坊主山11:03→(71M)→P坊主沢を離れる12:14→(64M)→Q坊主の滝13:18→(21M)→R黄蓮谷(8m滝)13:39〜47→(12M)→S白稜ノ岩小屋13:59→(98M)→《21》五合目15:37〜46→(110M)→C笹の平17:36〜41→(59M)→《22》つり橋18:40→(9M)→《23》駐車場18:49


 
cyuusyajyoukara.jpg  jinjya.jpg  turibashi.jpg  shika.jpg 
@駐車場からスタート A竹宇駒ケ岳神社に立ち寄る。 Bつり橋を渡って右岸に。 途中、登山道上に小鹿が倒れていた。
sasanotaira.jpg  hawatari.jpg  kaidan.jpg  tourijinjya.jpg 
C笹の平 刃渡り通過 梯子場通過 D刀利神社
torituki.jpg  sancyouzentai.jpg  kurotoyamakarakaikoma.jpg  higashigawabaxtusai.jpg 
登山道途中から黒戸山山頂へ取付く。 E黒戸山山頂。コメツガが倒れており、その下に三角点がある E樹林の間から甲斐駒遠望。 E黒戸山の東側は伐採がしてあり展望がある。
miyanokashiratotudumi.jpg  kurotoyamasankaku.jpg  akanunotosankaku.jpg  oritaxtutabasyo.jpg 
E展望岩の場所から鳳凰三山側。手前に宮ノ頭とツヅミ。 E三等三角点。 E小川さんのリボンと三角点(木の陰の石) 黒戸山から登山道に戻る。山頂へはここから取り付くのが良い。
koyaato.jpg  5goumekarakaikoma.jpg  5goumereri-fu.jpg  ourendanihenomichi.jpg 
F五合目小屋跡。木材が多少残っている。 F五合目から屏風岩と甲斐駒。 F五丈岩?とレリーフ。 F五合目から黄蓮谷への道。
mizuba.jpg  michiwohusagu.jpg  sarekinotuuka.jpg  tocyuukarabouzuyama.jpg 
途中の水場。柄杓も置いてある。道を挟んで下の方が水を得やすい。 水場の先でルートを塞ぐタイガーロープ。 砂礫の場所。ここは慎重に通過したい。滑れば「痛い」では済まない。 下降途中から見る坊主山(右側のあまり形の良くない高点)
iwaya1.jpg  ourendani.jpg  ourendanikaryuu.jpg  oritekitasyamen.jpg 
G白稜ノ岩小屋。5人用のテントが張れるほどの広さがある。 H黄蓮谷。なめ岩の川底。 H黄蓮谷の渡渉点から下流。この先は千丈滝であろう。 H右岸側の降りてきた斜面。中央の木に黄色いテープが巻かれている。
gojyounosawa.jpg  8mtaki.jpg  sagantoritukikasyo.jpg  biwak.jpg 
H五丈の沢。少し上流に綺麗な滝がある。(裏見の滝でもある) H渡渉点の上流側には8m滝がある。 H右岸側から見る左岸側の取付き場所。真正面の樹林に中に高巻きの道がある。 8m滝の左岸側にはビバークサイトがある。(キャンプ跡)
ourendanizansetu.jpg  bouzunotaki.jpg  toritukuone.jpg  keisyagayurumu.jpg 
8m滝の上流の黄蓮谷の雪渓。  I坊主の滝。落差50〜60m。かなり見栄えのする滝。  I滝の左岸側の尾根に取付く。最初はやや手ごわい。右に見える沢に少し入ってから尾根に取付くのも可。  尾根に入り沢状地を登って行く。(尾根の頂部には踏み跡もある) 
tanibu.jpg  jyoububouzuiwa.jpg  noxtukoshi1.jpg  noxtukoshi1karyuu.jpg 
谷を登って行くと大きな岩屋のような場所がある。  沢(尾根)を突き上げると、坊主の壁?が立ちはだかる。ここは地形通りに右に緩やかに登る。  J谷を詰め、最初の乗越(東稜)付近には踏み跡がある。  J乗越から続く踏み跡(北側を見ている)。 
iwakabe.jpg  toraba-su.jpg  noxtukoshi2kara.jpg  noxtukoshi2karaushiro.jpg 
こんな壁が永遠と続いている。その基部をトラバースしてゆく。  危険なトラバース箇所。斜度65度〜70度。  K2回目の乗越から見る坊主沢(明るい場所)。  K2回目の乗越から振り返る。この下も結構に危ない。谷を詰め、適当な所から壁の反対側の尾根に取り付くのが吉。 
bouzusawa.jpg  bouzusawa2.jpg  sextukei.jpg  tigerrope.jpg 
L坊主沢に入り上部を見上げる。  坊主沢の途中にはナメ岩もあり、滑りやすい場所もあった。  坊主沢のほとんどは雪渓に埋まる。写真奥にチョックストーンが見える。 

Mチョックストーンの手前にタイガーロープが下がっている。

taigernoue.jpg  chockstone.jpg  takiue.jpg  koruhenonobori.jpg 
Mタイガーロープを登ったが、上の方は身動きが出来ないほどに切り立っていた。  Mタイガーロープを登った場所から見るチョックストーンの場所。左に見える茶色い部分を這い上がってゆく。  Mチョックストーンを登り終え、下側を見る。  コルへの最後の登り。雪が消え、ザレの斜面。 
korukarabouzuyama.jpg  korukarabouzuzawa.jpg  korukararyousenngawa.jpg  sancyounoooiwa.jpg 
Nコルから見る坊主山。  Nコルから見る坊主沢。  Nコルの南側。  O坊主山山頂全景。 
ooiwa.jpg  sancyounokitagawa.jpg  ogawasannno.jpg  sancyoukaraminami.jpg 
O大きな岩が直立している。この東側に赤布が下がっている。  O山頂の北側の様子。カラマツとコメツガが蔓延る。  O小川氏の赤布。  O山頂の南側。広さは我がザックと対比。 
ribon.jpg  bouzuyamakarakurotoyama.jpg  mitugashiratoeboshi.jpg  korukaraminami.jpg 
Oいたずら書きをしたリボンを残す。  O坊主山から黒戸山。  O坊主山から烏帽子岩と三ッ頭。  Nコルから南へ続く踏み跡。(薄っすら) 
korukarakakou.jpg  zairukakou.jpg  bouzusawawohanareru.jpg  kabenoshitakaeri.jpg 
Nコルから下降開始。写真上部は白州の町。  チョックストーンの場所の他に、ナメ岩の下降はアブザイレンしないと危険。  P坊主沢をここで離れる。左岸側に踏み跡もある。  壁の下の残雪。雪に伝って行く。滑れば下までは150mほどある。 
oneshitagawanoribon.jpg  ourendanideai.jpg  bouzunotakikaeri.jpg  ourendaninonakawokudaru.jpg 
坊主の滝の左岸側、東稜の下の方にはピンクのリボンが点在していた。  帰りはリボンに導かれ、東稜の北側の谷を下って来た。岩場のやや危険箇所。流れが出れば通過は厳しい。下の方はウド畑  Q坊主の滝帰り。  帰りはしばらく黄蓮谷の雪渓の上を下って行く。 
ourendanikarakurakakeyama.jpg  iwaya2.jpg  mukashino.jpg  otasuke.jpg 
R渡渉点(8m滝の下)から見る鞍掛山。  S白稜ノ岩小屋の下側のスペース。写真右側の明るいスペース。岩のところに団扇が下がっていた。  ルート途中の昔の標識。  ルート上にはタイガーロープやバン線が流してある場所もある。 
iwazakura.jpg  iroriato.jpg  turibashikaeri.jpg  cyuusyajyou.jpg 
五合目が近くなると岩場にイワザクラが目立つようになる。  21 五合目に戻る。囲炉裏跡。  22 吊橋帰り。  23 駐車場到着。 


 国内に「坊主山」の名の付く山は多々あれど、2000mを越える山は3座しかない。その一つは志賀高原の坊主山で、ここは山田峠から踏み跡があり楽に登頂できる。しかし残りの2座はどちらも一筋縄では行かない場所にあり、気力と根性を試される場所でもある。その一峰の北アルプスの坊主山は、登山口となる池の平小小屋までのアプローチが長く、狙うにあたって、残雪期と言うことを踏まえると通常だと3日を要するだろう。そして最後に南アルプスの坊主山だが、ここも北アルプスの坊主山に匹敵するほどに嫌な場所にある。南川さんは甲斐駒側からハイマツを泳ぎ下ったようだが、地形図を見ると最後の最後でゲジゲジマークが入っている。そこを上手くルートを見出したようなのだが、簡単に書かれているので現地の様子が良く判らない。最後の最後で生殺しなんて事もある。


 そんな中、WEB上で唯一ここを紹介しているページを見つけ出した。なんとあの赤布の「柏・小川」さんのページであった。ページを形成する規定書式に則って書いてあるので、驚くほど詳細な情報(文章表現は少ない)になっていた。御仁は2000m超を767座目標に掲げ、この坊主山が767座目の最後の集大成的登行であったようだ。コースは黒戸尾根を五号目小屋まで上がり、そこから黄蓮谷へ下り、少し沢屋のコースを辿り坊主沢を突き上げると言う内容であった。これにより坊主山を狙うに当って2ルート知ることが出来、選択肢も増えた。


 南川ルートだと時間的に最短ではあるようだが、アプローチに公共機関を使わねばならなく、現在の北沢峠のスタート時間は10:10である。これでは登頂が夕方になってしまう。7月に入れば7:15となるが、どんなにがんばって歩いてきても帰りのバスは無くなり、どこかで一泊せねばならない。よってどう転んでもこちらは一泊二日の行程となる。しかし、小川ルートだとかなり強硬だが24時間以内に日帰りが出来る。と言うのは、氏の二日間(一泊の行軍)の合計行動時間は12H40Mであった。累計標高差は5177m。6月の各谷は雪渓に覆われているようであり、その分と当然積算される疲労も加味させ1.5〜1.7の係数を掛けてみた。長くみても21H25である。ふざけた行動であるが、日帰りチャレンジと言う面白みも出てきた。小川ルートでもう決まりである。あとは黄連谷を経由するにあたり、もしもを踏まえて尾白川本谷の情報を「沢登り読本」(茂木完治・手嶋亨)から得た。


 20:15帰宅するやいなや出発となる。今日は8mm40mのザイルとピッケル、そして12本爪を用意した。おかげで見事にザックが重くなった。これに一泊用のテントでも持ったならと思ったら、行く前から萎えてしまいそうでもあった。清里から長坂町に下りこみ、白州の町に入る。そして「白州観光キャンプ場尾白」手前の大駐車場に22:50到着。自販機の前に1台停まっているのみで閑散としていた。恐らくこの一台は小屋番のものであろう。後ろに移動し、しばし仮眠。


 0:18ヘッドライトでスタートする。キャンプ場を過ぎ、竹宇駒ヶ岳神社に寄り安全祈願をしてから吊橋を越えて行く。日本三大急登の黒戸尾根であるが、今日は五合目までであり、急登としての核心部には踏み入れない。ゆっくりと九十九折をあがってゆく。今日のスタートは五合目からであり、それまでの足慣らし・・・。


 標高1350m付近の登山道上に小鹿が死んでいた。バンビと呼べるその小さい体は、片手で持ち上がられそうな大きさで、亡くなって時間が経っていないようであった。合掌。笹の平からは緩やかな九十九折になり、周囲の笹が風に揺れ囁いていた。八丁登りもさほど苦も無く上がって行く。そしてこの尾根で名高い刃渡りの通過。時折ここでの事故も耳にするが、足許はグリップの良い岩の連続であった。刃渡りを過ぎると梯子場の連続となり、登りきると刀利神社となる。この先から点々と登山道上に雪が残っていた。黒戸山の北側となり日が当らないせいもあるだろう。トラバース道を通過ししながら、適当な取付き場所を見出し這い上がる。何処からでも取り付けそうだが、植生の濃い薄いはあり、やや甲斐駒側から少し戻るように入った方が無難のようであった。


 黒戸山の山頂は東側に大岩があり、なぜかその東側の大木は伐採してあった。間違いなく展望の為であろう。でも登山対象ではないこの山でなぜ・・・。山頂には三等三角点があるのだが、ちょうどコメツガの倒木の下にあり、見つけ辛くなっていた。この三角点の上の木には赤い布が下がり「小」の字が薄っすらと読み取れた。間違いなく「柏・小川」さんの物であろう。山頂部は木が林立するものの、なかなか居心地の良い場所であった。木の間からは甲斐駒も見えていた。登山道に戻り、五合目小屋へ下り込んでゆく。


 五合目小屋は前年度に撤去されたようであり、付近に材木が積まれていた。基礎の石がいまだ並べられており、往時の様子をこれのみが示していた。よく見ると粉を挽く石臼も残されていた。さてここまでは準備運動でこの先が本番である。小屋跡の大地の北側には山の斜面に大岩があり、ここの北側にはレリーフがあり、五合目小屋の詳細が書かれていた。この岩が五丈岩なのか、頭が悪く読み解けなかった。その岩の先から立派な踏み跡が北側に続いていた。廃道にしてはおかしいと思ったら、その先には水場があり、しっかりしているのはそこまでであった。水場には柄杓が置いてあり、道の上側より下側の方が、より流れがあり水を得やすくなっていた。そして水場の30mほど先にルート上を塞ぐタイガーロープがあった。無言ではあるがそれが「立入り禁止」を示しているようであった。


 この道は黄蓮谷への昔からのルートであり、今でも頻繁に沢屋が使っているようである。タイガーロープから少し進むと、滑りやすい砂礫の通過がある。一たび滑れば、後が無い様な場所となっている。ここを過ぎればさほど危険な場所は無いのだが、斜面一帯に広範囲に無数の踏み跡があり、往路はどれが正解か見出せなかった。判らないまま尾根上を行くのだが、途中で酷く急峻になり、二進も三進もいかなくなった。付近は黄色と赤のテープが導いているのだが、信頼性のあるのは「黄色」の方である。慎重に太い踏み跡を拾いながら降りて行きたい。なんとか修正しながら降りると、目指していた白稜ノ岩小屋に辿り着く。これで一安心。ここは大きな岩の下に、踏み跡側に一部屋、その西側に一部屋ある二部屋構造であった。付近は五丈の沢側にある滝の音が聞こえている。水は五丈の沢まで行かずとも、近くに流れがあり容易に得られるようになっていた。


 岩小屋から下ってゆくと、黄蓮谷が見え出すと同時に、西側に五丈の沢にある滝も見え出す。水量こそ少ないが、大岩の上から流れ出し見事な滝であった。踏み跡を拾い下ってゆくと、今度は黄蓮谷の8m滝が姿を現せた。これも滝壺を擁した見事な滝であった。谷の下流側へは広いナメ岩の上を水が這うように流れ落ちて行っていた。その先が千丈滝のようで、ストンと切れ落ちていた。さて黄蓮谷の渡渉だが、足を置く石が適当にあり、濡れずに左岸に移る。渡った右岸と左岸を結ぶ延長上の山手側に赤布と白布が結ばれていて、ここから高巻きをしてゆく。高巻き途中にはビバークキャンプをした名残の炭が残っていた。その先から踏み後が谷へ降りるのと尾根を伝って行くのとに分かれ、往路は山手側に進んで行く。しかしこれはミスルートで、強引に行ってみたが、最後は黄蓮谷脇の岩壁の所に出て、容易に降りられる場所ではなかった。木に掴まりながら何とか谷に降り立ったが、先ほどの分岐は左に進むのが正解で、黒い絶縁テープが巻かれている。


 黄蓮谷は雪渓で埋まり何処も歩けるのだが、かなり荒れている雪面で、時折黒い穴を空けていた。左岸側に流れが出ていたので、右岸側のブッシュを越えて行く。すると目の前に見事な落差の坊主の滝が姿を現した。60mほどの落差か、近くから見ても遠くから見ても見栄えのする滝であった。滝壺の水を飲み、力水とする。


 さてこの先が判らなかった。小川さんによると左岸側に赤布があるようなのだが、それらしいものは何処にも見出せなかった。ここも強引に岩場を這い上がる。帰りに使うとなるとなると完全にアブザイレンとなる場所であった。危険箇所は15mほどだったか、その先は歩き易い場所であり、何故だか踏み跡もあった。途中で西側の沢を跨いで行っていたので、坊主の滝の高巻きルートだったのかもしれない。それはそれで理解できるのだが、そのまま尾根上を上がっている踏み跡もあった。人間のものか獣のものかが全く判別できない踏み跡であった。尾根に沿うように南側には細い沢があり、おいしい水が流れていた。尾根と沢が近接しており、ここは沢を辿って上がって行く。


 沢と尾根が屈曲する所で、目の前に大きな岩壁が立ちはだかる。これが坊主の岩壁なのか、壁は付近一帯の広範囲にあり、間違いないだろう。壁を左(西)に見ながら沢を詰めてゆくと、一回尾根を乗越す。次にこの尾根からはやや下りになり、ここも壁の直下を行くようなルートとなる。しかしここは雪が残り、一度滑れば止まるまで150〜200mほどある急斜面の場所となった。ピッケルを突き刺しながら、何度も蹴り込んでステップを付けて進んで行く。岩壁と雪渓の間の隙間を覗くと、雪面から地表面までの高さは5mほどあり、益々足が震えてくる。距離にして25mほどだが、時間を十分使い通過してゆく。再び草付きの場所となるが、その先の谷の中は雪渓が残り、ここも冷や冷やしながらの通過で緊張が続く。最後は枯れた木があり、小川さんの作文からはここを登った様だが、私は東側の尾根にずれて上がって行く。


 二つ目の乗越に立つと、その先に明るい坊主沢が見える。この付近にも踏み跡があり、坊主沢を跨いで北側に進んで行っていた。その踏み跡に伝って坊主沢に降り立つ。降り立った場所は滝の上のようであり、そこから下流はストンと切れ落ちていた。切れ落ちた空間の先を見上げると、先ほど居た黒戸山が見えていた。谷の上流を見ると、一面の雪渓でアイゼンに物を言わせて登る場所となる。ナメ岩の通過場所もあるので、雪のある時の利用はアルミアイゼンは避けた方がいいだろう。地図から読み取れるコルまでの平面距離は、350mほどであるが、実際に見えている距離は、それより1.5倍ほどあるように思えた。アイゼンの前歯を蹴りこみながら上がって行く。流石に疲労が溜まり、牛歩状態であった。


 坊主沢に入ってから3/5ほど詰めた場所に、チョックストーンがある。そこを乗越す事が困難なのは、近くなるほどに判って行った。するとこのチョックストーンポイントの15mほど下流にタイガーロープが設置されていた。もしやこの先の回避ルートがあるのかとロープに伝って上にあがるが、その上は一面の岩壁で、少しルートを探るように動いてみたが、行けるような場所は見出せなかった。壁を上がるのは諦め再び谷に降り立つ。ここで進退を決めねばならない事となった。もう山頂は目と鼻の先であり、完全にニンジンをぶら下げられた状態である。ここで帰るのは美談にはなるが、自分にとって・・・。もう一度チョックストーンの下に立ち、チャレンジしてみる。右岸側の壁際を行くのだが、水を含んだ泥状地形に荒い石が乗り、足許が見事に崩れてゆく。壁側には流れもあり、突っ張るように体を支持するのも結構に苦痛であった。直径5センチほどの枯れた木が有るのだが、根元は既にユルユルで、そのうちの一本はテンションを掛けた瞬間に抜け落ちてしまった。体勢よろしく滑落は免れたが、まともに掴めるのはあと一本となった。益々進退窮まる状態になった。体を濡らしながらやや長い時間セミとなっていた。もうここを通過するのはこの場所しか選択肢は無い、そんな中で上に行けるルートを見出せなければならない。ルンゼ状の中に居るのだが、中央側には、岩の尾根があり、そこにか細い植生があった。当初は細くて気にしないほどであったが、こうなるとこれらの細い木でも生かして這い上がることにした。小さな出っ張りにアイゼンを引っ掛け体を沢中央側に移動する。それと共に補助的に木を掴むようにして、一歩、また一歩と体を上げてゆく。何とか上にあがった時には、本当にホッとした。危険地帯間の距離は15mほど、その中での核心部は10mほどだった。私はグレードの付け方には無知なのだが、V級
+かW級−ほどであろうと思う。ここを過ぎればコルまでは危険箇所は無く、最後はガレた砂混じりの中を行く。


 コルに着けばもう登頂したも同じで、踏み跡が山頂部まで導いていた。この踏み跡だが、山頂部の砂地にはシカの足跡が多い。どうも獣道のようである。坊主山の山頂は、南東にある離山の山頂部と似ており、大岩が積み重なったような場所に、カラマツとコメツガが生えていた。少し北側に偵察に進んだが、一番高い場所はコル側の大岩であった。そして一番目立つ大岩の東側に、赤い布が下がっていた。間違いなく小川さんのものであろう。先ほどの黒戸山の物と同じ繊維質であり質感であった。天気は良いのだが、吹き上げの風が強く、かなり寒い。雨具着込んで、風を避けるように東側で腰を下ろす。ここまででスタートから10H10Mであった。まー想定内である。次に帰りだが、稜線まで登りあげるのは辛そうに見える。地形図のゲジゲジマークの場所が目の前にあるのだが、雪が残っている場所もあり、それによりさらに厳しい場所に見えた。ここは往路を戻ることにした。2007年にこちらを見下ろした烏帽子岳も間近に見えていた。


 ザイルを袈裟懸けにして、下降を開始。コルから稜線側には、やや薄い踏み跡が繋がっていたようだが、あまり長い距離を目で追うことが出来ないほどの物であった。ガレを下って先ほどの危険地帯に入る。上部の木を支点にアプザイレン。40m目いっぱい伸ばして、雪面に降り立つ。実際は上部の10mほどがクリアー出切ればザイルは不要であり、持つとするなら20mか30mほどでいいだろう。後は上部の木が枯れれば、下降は不能になるだろう。ハーケンをどこかに打てばいいのだが、残雪期を見越すと右岸側の壁と言うことになるだろうか。ザイルを一度出すと、その長さに比例して回収時間が長くなる。ドロドロになったザイルを処理するのも、また一苦労であった。


 雪渓をアイゼンを利かせて下ろうと思ったが、何度かチャレンジするものの、すぐに団子になりグリップしない。2度ほど軽い滑落をし、ピッケルで停止する。スピードが乗る前に停止したからいいものの、乗れば下まで落ち、そのまま滝上から空中にダイブだったであろう。ここは時間がかかるが、ピッケルを刺し、後ろ向きで前歯を蹴りこみながら下って行く。時間がかかるが安全には代えられない。そして下まであと1/4ほどの所で、往路は岩の上を通過した場所で在るが、足がかりも手がかりも無く水が覆う岩であり、ここも右岸側の潅木にザイルを引っ掛けて懸垂下降となった。再び後向きで降りて行き、坊主沢の滝上に到着。この場所からの坊主山往復の時間であるが、雪の無い時の小川さんのコースタイムは2Hほどに対し、雪の在る時の私は3H30Mほどかかってしまった。もっとも疲労度が違うので、一概に比較は出来ないのだが・・・。


 往路にほぼ従い戻ってゆく。最初の乗越の場所から下は、往路は沢伝いであったが、帰りは尾根を忠実に下って行く。踏み跡は割りと明瞭で、黄蓮谷が近付くに連れてピンクのリボンが見え出した。間違いなく人が入っていることになる。そのリボンを追うと、1850m付近から尾根を離れ北側の谷に下って行く。少し水気の多い谷であるが、潅木も多く、それらを掴みながら下ってゆける。そして太い谷に入り、黄蓮谷に向けて谷の中央部を下って行く。途中一箇所、岩場のやや危険な場所があるが、グリップの良い岩なので、慎重に下ってゆけばいい。そして黄連谷の雪渓を前にして、付近はウド畑であった。少し拝借し、坊主の滝を見ながら生で戴く。独特の苦味と自然の甘さで、贅沢なご馳走であった。


 黄蓮谷は雪渓をそのまま下流に伝って行く。場所によっては大きな口を開け、水の流れはその3mほど下にあった。下流に進むと左岸側に流れが出ていて、右岸寄りを下って行く。そろそろ左岸に行かねばと思っていると上手い具合にスノーブリッジを伝い、水の流れが出ている場所は石伝いに渡ることが出来た。渡りきった場所には岩の上にケルン状の石が置いてあり、その先に進むと、黒い絶縁テープがあり、そこが往路に見たビバークポイントであった。踏み跡に従い、再び五丈の沢を目の前に黄連谷に降り立つ。川下を見ると、真正面に鞍掛山が見えていた。大休止をしてこの先の登りに控える。ここの水は冷たくとてもおいしい水であった。


 さて登りに入る。忠実に踏み跡を追って上がって行く。疲労もいいところで、通常の半分も足が前に出ない。岩小屋を過ぎ、なおも踏み跡に従うと、どうも往路はだいぶ北側に逸れてしまったようであり、その逸れた理由を突き止めるべく、問題点探しとなった。伝っているルート上は黄色のテープが随所にあり、道を導いていた。途中には昔の道標もあり、間違いなく正規ルート上に居るようだ。バン線を流したり、タイガーロープを流して在る場所もあった。そして間違えた箇所を特定した。そこは踏み跡が間違えた方に太くなっており、明瞭なのであった。あとは尾根筋を降りるものと思い込んでおり、伝ってしまった事もある。往復してみて全体像が見えたわけであった。途中2箇所ほど岩場を木に掴まり這い上がる場所もあるが、下りはいいが登りは辛い。巻くには大きく迂回せねばならなく、ここは無理をしても踏み跡に従った方がいい。巻いてみようとチャレンジしたが、滑りやすい岩場が待っていた。


 砂礫の場所を通過すると五合目も近い。樹林の中の岩場には見事なイワザクラが咲いていた。乱れ咲きと言えるほどに咲いており、一服の清涼剤になる。そして水場で喉を潤し、五合目に到着。時間的にここで泊っても良い様な時間であったが、初志貫徹、迷わず下山を決める。目の前の屏風岩の左脇に甲斐駒が見えている。今日は何人黒戸尾根を登ったのであろうか。ザックのパッキングをし直し下山になる。


 最初の登り上げが、休憩後には辛い。どんどん登る進度が遅くなってゆく。ただ、下りに入るとギヤが入れ代わり、重力に物を言わせ下って行く。雪の上のトレースを見ると、私のほかに入ったのは一人か二人のようであった。ソールのパターンから見ているだけなので、不確かな判断なのだが・・・。刀利神社からは梯子場、そして刃渡りを経てどんどん下って行く。一生懸命下っているようだが、笹の平まではエアリアのコースタイム通りの時間で、やはり疲労の蓄積は隠せない。ゆっくり下ればいいものの、何に対してがんばっているのか判らないのだが、なにくそと奮起し下って行く。往路に鹿が横たわっていた場所には、既にその姿は無かった。他の獣に持って行かれたのかもしれない。

 九十九折を下って行くときに、何度も前の方に分岐標識が見えては消えた。幻覚を見るまでにはまだ時間は短いのだが、間違いなく脳も疲れてきているようであった。靴連れの痛み、膝の痛み、そろそろ酷使も限界のようであった。そしてつり橋に到着。竹宇駒ヶ岳神社に無事の下山を報告し、駐車場へ足を進める。駐車場に戻ると、明日の登行前の前夜祭が行われるようで、賑やかな声がテントから漏れ聞こえていた。

 
 「ワンデイ坊主山」を無事成し遂げた。何より小川氏の情報に感謝したい。無事行っては来たが、坊主沢の危険箇所は誰でも通過できる場所とは違うと感じた。あと各谷の雪渓であるが、有って便利に作用するのは、黄蓮谷の坊主の滝下流くらいで、あとは負の要因になる。狙ってみるなら雪解けした夏以降の時が良いであろう。稜線からのハイマツ帯も辛そうだし、どのルートも厳しいのかも。北の本谷側から上がれるような場所があれば、滝散策の道がだいぶ伝えるのであるが、坊主山の周囲は何処も岩壁が待っている。どう上手く詰めてきても、最後はコルのある南側から登り上げるしかないのであろう。山頂はとても居心地の良い場所であった。機会があればまた行ってみたいが、次は雪の無い時にしたいと思う。

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