2022 母親を亡くし父子で強く繋がる風間親子。心也の大人びた部分と素直さが心地よく、おおざっぱそうでしっかり繊細な父親のキャラも然り。これが提供側。一方の荒んだ家族を持つ幼馴染の夕花は利用側。 最後は、欲を言えば石村の回収も欲しかったが、そのことは置いておいても秀逸な感動的なラストで涙を誘う。虐めや暴力、貧困や生活苦の前半の布石に対し、ハッピーエンドの最後は心地いい。 癒しを求めたいときに、森沢さんの作品を読んでいるが、ハズレがない安定の作家。 日記を残していたための作品であり、逆を返せば、小説になるほどにしっかりと日記に残していたとも言える。作者が最初に飼った犬の最後。小説家だからこその時間の使い方や周囲条件とかもあったとは思う。だがそれ以上に、素晴らしい愛情が感じられる。犬により、人間が鍛えられているかのような・・・。 先に、「陽だまりの天使たち」と「ソウルメイト」を読んでいるので、大方の対応の仕方は思い描けたが、日々の犬に対する時間の割き方が細部まで見え、より深く作者の愛情が伝わってきた。食事も手作りしていることには驚かされる。 いろんな方法があり、一長一短を知る。そしてハイエンドな機械から、手短な 国内にこれほどある原発。すぐにでも核爆弾が造れとされる日本。造る能力の 自衛隊における制服組と言われる上層部。実際に動く兵隊。軍隊式を継承しつつ縦社会を現代風にアレンジして見事。そして後半でのまだ実戦経験のない日本の自衛隊って部分もツボとなった。 面白くて一気読みだった。 山での死。それに関わる周囲の心情。本作のようなパターンは世の中にありそ さて、椎名さんの息子さんが主人公。なんだか昭和な雰囲気があると思ったら、昭和の作品だった。子供への教育は、放任が強く育つとかの思考があったが、坊主頭のガキ大将な岳君には、教育における自由度は大きかったよう。 独特の世界観を感じる作者。感性の豊かでプラス思考でもある。岳君への子育てを読んでいると、作者本人も似たような育てられ方をしたのだろうと感じる。この教育方針がまた、感受性豊かな人間を遺伝してゆくのだろう。 経験させて巣立てる手法は、干渉の仕方や傍観の仕方などは、ブレイデイみかこさんの教育とも似ているような気がする。
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12月28日
藻谷ゆかり
92
山奥ビジネス
偏見ではないが、頭の良い方の文章はちょっと読み辛かったりする。私の波長がそこに到達していないって事なのだが、数値化した表現もあり、論文のような仕上がりで肩に力が入って読むのに時間がかかってしまった。
でもでも、目から鱗な内容で、知らされることが多かった。実際に行動した方だからだとは思う。そして山奥と言うか田舎で成功した人の事例が、どこにポイントがあるかを解説してくれている。
さらに田舎暮らしを体験しての、田舎のデメリットをしっかり解説している。「封建的」これはこの先もずっと変わらないのだろう。どうすれば田舎が変わり人口減に歯止めがかかるか・・・を解いてくれている。地形や自然条件や、文化風習が異なるので、全部が全部当てはまらないだろうけど、成功例があるのだから凡例になるだろう。
田舎暮らしに憧れて、田舎に住むも、馴染めずに離れる人も多い。本書はビジネスを主体に書かれているが、暮らす環境にも重きを置いて書いてくれていている。
東京から本社を田舎に移転する企業が増えている。大きく変わってきているのは事実。
12月18日
NHKスペシャル製作班
91
あの日、僕らは戦場で
この歳になって知ることがある。「護郷隊」を知らなかった読む前、本作で知ることになった。子供向けの本であるが、内容は大人にも十分有益な内容だった。日本が酷いって言うより、戦争が酷いのだろうが、負け戦の中での足掻きが、低年齢の子供を戦場に出さねばならなかったのだろう。入隊の年齢制限がありながらも。なんでもありなのが戦争で、ロシアの攻撃報道を見聞きしているとそう思う。
こうして、在ったことを後世に伝えるのが重要。
12月17日
宮内悠介
90
遠い他国でひょんと死ぬるや
面白い構成の作品だった。どう展開してゆくのか謎で、常にその期待が新鮮な感じで持続する作品だった。少しファンタジックな面もあるが、嫌な感じではなく、竹内浩三の詩をベースに、竹内のノートを追う主人公のモノローグが楽しい。人間らしい場面場面の葛藤がいい。そしてフィリピンの置かれた現在の様子。文化風習風俗も作品内から学ぶことができる。
特異な展開の仕方で、そのあたりは読み物と思うが、その読み物として楽しい作品であった。最後、主人公はどうなるのかと、悪い側を思ったが・・・。
12月 9日
野水重明
89
ツインバードのものづくり
その昔、ツインバードとは中国系企業だと思っていた。物を見るとメイドインチャイナとあったから。しかし今のコロナの中でのワクチン移送に、ツインバード製の冷凍庫が使われていることを知り、興味を持ち社長の作品を手にしてみる。
理系脳と文系脳を持ち合わせているようであるが、理系脳が勝っているような印象。この作文手法は、一つ前に読んだ上毛新聞のそれと似る。どうにも繰り返し文が多く、気になってしまう。そうやって文字数を稼いだのかと・・・。それはいいとして。
モノづくりをしっかりやっている企業であることが判る。資本からはオーナー企業であり、ツルの一声がいきわたる様。昭和な感じではあるが、切れる社長であり、しっかり今の世の中を見据えて経営しているよう。
気になっていたスターリングエンジンを使った冷凍庫の話も読める。20年ほどかかって作り上げたとは知らなかった。それほど前から目を付け研究し、20年も止めずに続けられる企業ってことになる。体力と気力がある。そして開発エンジニアが多い会社。300人規模で100億の売り上げ。頭を使って仕事をしているのが判る。
12月 4日
上毛新聞社
88
連赤に問う
率直に、新聞社発行にしては読みづらい内容であった。私が無知で学が無いためでもあるが、重複文が多かったり、話しがあっちこっちに行ったり、複数著者の為だろう事は見えた。でも、書き慣れた人らの作文であり、これが上級な作文と言う事なんだろう。
取材記事の列記で、編者・作者の主観が乏しい印象だった。それでいいのかもしれないが・・・。背景には、イデオロギーやプロパガンダや難しい問題があるからなのだが、以前に連合赤軍に関して解説した作品は、彼らの主義主張がもう少しよく判った。彼ら彼女らの異常性が、最後までグレーな印象出あった。
大事なことを伝えている部分もある。若い彼らが真剣に闘った事実と、今の若者の無気力感を対比させている。この国は大丈夫なのかと。あとは、もと構成員に対しての記事も多い。やはり独特の世界観を持っているように思えた。彼らは、テロは無くならないと解いている。
12月 1日
原宏一
87
閉店屋五郎2
廃墟ラブ 3話の構成。
バリケード本店は偏りがちな思考を、小百合がしっかり修正している。調べてゆくと真実が見えてくる。そしてそこに人間の変わらない性格なんかもあり、社会の有象無象、お金主体になった世の中の歪なんかが見え隠れする。
廃墟ラブは、ラブホテルの備品買取から発生する話。仕事を逸脱した五郎の好奇心と親切心。そして小百合もまた同じ血筋。問題の二人は出てくることはない特異形だが、一件落着の頃になると、しっかり満足感が得られる。ラブノートなるものを初めて知る。
スリーチートデイズは、作品中に佳代も登場し、印象深い味付けとなっていた。作者の作品を順番に読んでいる人にとっては楽しい部分。五郎親子と良江さん親子、対比させながらの展開があり、良江さんの誤解は最後に・・・。
三作品どれも楽しく軽快。ヤッさんもどきの五郎が、だらしなさと矜持を併せ持ち生きる姿は、お金が全てではないと言っているよう。
11月27日
青山透子
86
日航123便
墜落の新事実
今年になり、やっと日航機墜落の中身に触れだした。事故だと理解していたのだが、不可解さが多い事故で、作者は事件との認識で書いている。理論武装と言うか、ゆえにこの答えになると言うような論法で、他聞な内容をかみ砕き解説してくれている。圧力隔壁の事故ではない・・・。
なにか裏がありそうな気配はする。ボイスレコーダーの公開部分は、全てでは無いようだ。事故当時の自衛隊の不可解。でもどうだろう、これだけ多くの人が関わっている中で、隠ぺいしていたとしても何処かからか漏れてくると思う。それが無いのが一番の不思議。貝になり閉ざしているにしても、関わる政治家や、警察や、自衛隊幹部や、真実を知っている人が多すぎる。なぜ漏れてこないのだろう。
本作により、事故の不可解点が沢山さらけ出された。興味を持っていろんな方の作品を読んでみようと思う。
11月23日
原宏一
85
佳代のキッチン
シリーズの初号作を最後に読む。この初号を読むと、二作品目、三作品目の練った内容がスルメのように味わえる。そして初号としてなのだが、この一冊完結としてもとても充実した内容で読後の満足感は大きい。
7作品が収められ、最終章で「魚介めし」の発生背景が判る。二作品目と三作品目では、普通に出てくる魚介めしであるが、本作品内では、6話まで登場はしない。昭和な時代背景があり、人間模様と土地土地の風俗や文化が適度に混ぜられ、あとはなんと言っても料理場面が秀逸。関わる全ての事象に対し、しっかりと結果を出し次に進む原作品の真骨頂は、やはり読んでいて気持ちがいい。人間愛があり兄弟愛があり、そして最後は大事なことを悟る佳代。
11月19日
原宏一
84
閉店屋五郎
原作品の方程式と言うべきか、フォーマットと言うべきか、定型なそれが心地いい。女神めしで言う弟の存在が、本作での小百合であり、「ヤッさん」の存在が必ずあり、きちんと方向性を導いている事で明快な作品に仕上がっている。
6作品が収められている。商売の度を越した義理人情は、全くもって「佳代」と同じであり、昭和な感じのこの部分が作者の真骨頂でもある。現代社会の中でお金主体で希薄になった部分を、しっかりデフォルメして読ませてくれる。ホッコリとしたいい作品ばかりで心地いい。
11月16日
原田ひ香
83
人生オークション
2作が収められている。後半の作品の伏線が1作目にあるのかと、それがために関わるように2作目を期待して読んでいたが、見事にはぐらかされた感じ(笑)。でも作者のこの若い感性は、現代人を代表しているようで楽しい。ややダークな腹の中を見せる登場人物が多く、歯に衣着せぬ感じがとても心地いい。ただ、それが為のトラブルもあり、情報も物もすぐに手に入る世の中においての警鐘のようにも読める。
作品の中に、今回もラジオが書かれている。作者は本当にラジオ好きなことが判る。ここで見えてきたことがある。読んでいる途中で、深夜ラジオを聴いている時と同じような気持ちになる時がある。「読むラジオ」な感じ。ラジオで育った作者だからなんだろう。独特の空気感は、クセになってしまう・・・。
オークションノウハウを知ることができ、「諱」を知ることができた。
11月12日
飯塚訓
82
墜落の村
本来は登る前に読んだ方が、現地を理解できるのだろうけど、これまで書物に一切触れておらず、初めて日航機事故に関わる作品を読む。
既に事故から37年経過している。当時の上野村の様子と、そしてまた上野村の背景が判る。そして”ナラカツ”と表現される仲沢勝美さんの生い立ちにかなりの文字数を割いている。このナラカツ氏の事を読んでいる最中、なにか播隆上人の生い立ちに似ているような印象があった。人生の前半と後半で、真逆な生き方をしている。
事故現場となった上野村。そこに毎年やってくる被災者家族、上野村村民の義理人情があって安らかに霊が眠る場所が築かれた。寒村な場所であったから良かった、黒沢村長だからこその対応があったことが判る。
大事な部分を知りたかった。あの登山道の存在。巻末の方に遺族の気持ちを酌んだ、二代目管理人の言葉が読める。「観光登山のようなつもりで登る人が居るのは困りますね」とある。そうであるならば、昇魂之碑付近で登路を停めた方がいいだろう。県境尾根に繋げているのはなぜだろう。判らなくなってきた。別の考えがあることは間違いないよう。上野村選出の管理者が居て、あとは日航関係者も整備を行っている。知らない事が知れるのが本であり、少し探るように関わる作品を読み進めてみたい。
11月11日
原宏一
81
女神めし
佳代のキッチン2
順番が逆になったが、それはそれで面白かった。過去の遡る感じで、佳代の行動が読める。次号作より、お節介度はマイルドで自然な感じ。そして相変わらず食通の作者の表現は、美味しそうでならない。
「ラストツアー」内を理解するには、あとは初号作まで読まねばならない。梓さんもアランも、正枝さんも沙良ちゃんも眞鍋さんも人となりが見えて、よりラストツアーの内容が深まった感じ。
食べ物と人情と、ホッコリしながら満腹になると言うより、お腹が減ってくる。
11月 9日
南木佳士
80
山行紀
自分をさらけ出し年相応の登山を楽しんでいる。ただし物事に対する分析力は凄く、そこが作品内でウイットとなって楽しませてくれる。パニック障害や鬱、多くの人は隠したいような事だろうが、病状を公開して堂々作品に仕上げている。それが出来る地頭のいい人って事が判る。
親近感を抱くのは東村出身であり、佐久で暮らすと言う部分。山行も含め行動エリアが似ているので、書かれている時間に関わる部分がよく判る。
登山とは自問自答の時間でもある。この作品を読むと、本当にそう思う。私もこんな山行紀が書ければいいが、今は時系列で書いているだけである。子供に作文させるとき、僕や私を用いないで書きなさいとある。その方が内容が良くなるようだ。作家が言うのだから本当なのだろう。
これを読むと浅間山に登りたくなる。作者が一番好きな山のよう。
11月 7日
樋口明雄
79
屋久島トワイライト
還らざる聖域に続く屋久島作品。ご自分で宮之浦を縦走し発案したのだろう。作者の作品としては珍しいファンタジックな形態だが、現生とファンタジーの織り交ぜ方が巧妙で、何も違和感なくスラスラと読み進められる。心地いい楽しい作品だった。やもすると、この形態だと読むのに疲れてしまいがちだが、全くそんな感じはなく楽しめた。
これを読んで屋久島に入ったら、ちょっと怖いんじゃないかと思うくらいに自然な感じもある。作者の意図は、古木や大木が何百年も生きている場所、少なからず畏怖の念をもって入山されたしって事かもしれない。島国だからこそ育った八百万の神信仰。日本人が日本人らしくする一番大事な部分かもしれない。
山の怪談話は、安曇潤平などが得意としているが、若干毛色が異なるが、思わぬダークホースが現れた感じ。読み物として面白かった。
11月 1日
原宏一
78
佳代のキッチン
ラストツアー
ヤッさんの女版な感じで問題解決をしてゆく佳代。まず最初に最終章を読んでしまったようで、この先は前作を読まねばならない。地理に長けた、料理に長けた作者ならではの拘りの作風は、数分に一度は美味しそうな場面が現れ食欲を誘う。
旅と食と、そして地方地方の食材と、文化や風土までがちりばめられ、根っからの旅好きとしてはとても楽しい作品だった。他人との触れ合いを嫌う最近の世の中であるが、なにか重要なものを知らされた感じでもあった。昔はこうだった・・・。触れ合いが減っている中での、現在でも通じる食での触れ合い。食を使って問題を解決してゆく佳代は、この時代に最良の手法で、使いやすいアプローチとなろう。
この作品にもコロナの話題が盛り込まれている。飲食業を気遣っている作者がよく判る。
10月29日
森沢明夫
77
青森ドロップキッカーズ
また読みたくなり手にする。コロナや戦争やらで、何か閉塞した世の中において、宏海のキャラクターは力をくれそうな気がした。日々虐められながらも、強く生きている宏海。
カーリングの技術的な部分からの面白さを表現しており、何も知らない者としたらカーリングをよく知ることができる。そして、4人(5人)のチームとしての纏まり方、最近の社会に欠落している部分を埋めてくれるような感じ。
ストーリーが判っていながら、しっかり楽しめた。
10月27日
原宏一
76
ヤスの本懐
シリーズ最終作。いろんな展開を想定しつつ読み進める。これまでの登場人物が次々現れ、読み続けている者としては懐かしく楽しさに繋がる。そしてその時の内容が蘇る。
2番弟子のマリエの作品を経て、次は1番弟子のタカオのヤッさんばりの対応が読め、最後が〆となるが、ここでもタカオが光る。ヤッさんは猫のように姿を・・・。でもそのあとを次ぐ弟子たちの成長があり・・・。
オモニは回復すると思ったが・・・。
10月21日
原田ひ香
75
復讐屋 成海慶介の事件簿
必殺仕事人のような内容かと思ったら、独特の感性で復讐を思いとどませる、復讐したと思わせる主人公の成海だった。「何もしない」手法で対価を受けてる詐欺のような手法・・・と中盤まで思っていた。が、後半で成海の生い立ちが語られる。復讐したいと言う一時の感情を、長期的な思考で考えさせる成海。美菜代にも理解出来つつある頃に巻末を迎える。次作に続くのだろう。
作者にしたらやや毒が少ない感じでソフトな作品だった。
10月14日
夏川草介
74
始まりの木
「神様のカルテ」の作者。今度は難解なところから攻めてきた感じで、民俗学が主旋律。古屋助教授と院生の藤崎との会話は、前半は不快であったが、次第にそれが心地よくなってゆく不思議。
五話で構成されており、少しづつ関連性も持たせ一冊に仕上げてある。民俗学とは何ぞや。神様とは。信教とは。作品を読みながら学ぶことができ、今の日本においての欠落している部分も衝いてきている。
人気の作者であり、若い人がこれを読み、少し世の中の異常状態に気付いてくれたらいい。いや若い人に限らず大人が読むべきかもしれない。成果主義、お金が優先、この社会は歪んできている。
作品を読んでいると、匂いや色まで感じることができる。そんな言葉並べであった。
この形態だと、シリーズ化されるのだろう。次号を楽しみにしている。
10月12日
樋口明雄
73
サイレント・ブルー
作者の住む北杜市を、八ヶ岳市と言い換えての社会問題の作品。川上村の農業実習生の不正を書いた作品いに続くものだろう。以前にも渇水に触れた作品があったが、今回は本腰を入れての作品で、やや作者らしさを抑え問題点をつまびらかにしたい意図が読み取れる。作者らしさとは、ハードボイルドなドンパチと血みどろな部分であるが、全くない。血が一切流れないのも珍しい。それに文字を使うより伝えたかった内容があったのだろう。
出てくるシェリダンは、間違いなくサントリーの事だろう。田舎の、村社会が文化として残る地域での水問題。住まいしているからこその表現で、上手に作品になっている。あくまでもフィクションとなっているが、ノンフィクション寄りであることは判る。北杜市に限らず、各地であり得る事だろう。作者も触れている中国からの土地買収も、北海道を始め水利権に問題を起こしてくるだろう。
10月 7日
原田 ひ香
72
三人屋
ラジオ・ガガガに続く2作品目。見事な文才で、安心安定な仕上がり。ベテランを思わせる言葉並べ。そして、この2020年代と言うか、令和の時代と言うか、時代に合った内容で、新鮮さが感じられ、一方で少し時間を経ても楽しめそうに思えた。
三人の姉妹が時間差で異なる形態の店を営業する特異さ。パン、うどん、居酒屋、けっして仲の良くない姉妹に一つだけの共有する思考がある。親から引き継ぐ店を潰さずに守り続ける真髄は・・・。客層の面白さもあっての作品。内容こそ違うが、井上靖さんの作品に触れた時のような読後感であった。
10月 4日
大倉崇裕
71
天使の住む部屋
「問題物件」シリーズの2作品目。若宮と犬頭での展開で安定の仕上がり。ただこれまでのシリーズに対すると、少し粗い仕上げのような印象で、そこはファンタジーな構成でもあり、社内解決優先で警察沙汰に至らないからかもしれない。4作品が収められている。この形態だと、どんどんシリーズが続くようだが、6年前が最後で次が出ていない。
9月26日
原田ひ香
70
ラジオ・ガガガ
初めて読む作家さん。凄い作家が出てきたと思わされた。歯に衣着せぬと言うか、建前より本音な作風がこれだった。6話が収められ、冒頭の「三匹の子豚たち」からグイグイと読者を引っ張って行く力量が感じられた。
ラジオ好きとしては、ちりばめられたラジオに関する直接的な表現が心地いい。作者もかなり聞いている、もしくは聞いていた口なのだろう。ラジオに興味が無かった人は、本作に出合いラジオに興味を抱くだろう。
登場人物によるストレートな物言いが多く、胃の辺りがヒリヒリするが、ちゃんと最後はその分の回収がある。本が楽しい、ラジオが楽しい、二兎を追えるような作品だった。
9月24日
大倉崇裕
69
問題物件
作者にしてはファンタジーな作品。でも、ホビーやオタクに精通する作者らしい展開で、得意とする勧善懲悪な仕上がりで読みやすい。胃の腑をヒリヒリさせたり、ムカムカしたりとかは無く浸透水のような読みやすさ。過去のシリーズものに対し、やや展開が飛び過ぎているような気がするが、短編の制約からかもしれない。
若宮と犬頭のコンビ。薄と須藤、福家と二岡、このコンビでの展開は作者の真骨頂とも言える。5編が収められている。ゴミだらけの部屋で、「ホーディング」と言う言葉を知り意味を知った。病気なんだと・・・。
9月23日
志水哲也
68
果てしなき山稜
既に黒部の何某と言われるほどになっている氏。90年代に「山の本」に関り、この時に名を連ねていた氏の作品を読んだのが初めて。文才がある山ヤの印象だった。
20年近く間が空いて氏の作品に触れる。ここまで己をさらけ出している。強い部分は結果から追えるが、そこに隠されている弱い部分は、通常は封印したいのは多くだろう。氏はその全てを惜しまず書き出している。そしてここまで多角的に、いろんな角度から物事を、行き当たった事象に対し考えているのかと知る。これだけの考えや判断があるから、危険に晒されている中での行動をしても生きて生還しているのだと思える。
ソロで行動する時の自問自答。苦しくもあり楽しくもあり、最終的には自分から答えが出てくる。本書の中では、書かれている半分はそれ。下界と山とを織り交ぜた山行に、そのギャップの大きさが楽しくもある。切り替えが上手に出来る器用な人となろう。あとは、使える利器は惜しまず使う。アプローチに他力を利用したりとかは厭わない行動。拘っている部分と、拘らない部分が混在し、結果「自由」な部分が強く見えてくる。
北海道の背骨を縦に歩いた事実。若かったからできた部分もあろうけど、氏のバイタリティーに感服。
9月15日
塩屋賢一
67
アイメイトと生きる
いい意味でも悪い意味でも、悪い意味でもいい意味でも昭和な人と言えよう。体育会系であり男尊で、口も手も出すタイプ。いまこのような人が少なくなり歪んだ世の中になってしまった。リーダーシップをとれる人は、得てして作者のようなタイプが多い。当時は良かったが、今の世の中では・・・。でも作者はずっとそのスタンスを貫いていたのではなく、時代に流れで臨機応変に対応してきたはずである。
使役犬として、一番特異な使われ方だろう盲導犬。その盲導犬の日本においての第一人者。この作品一冊で、過去の変遷が判る。動物でありながら道具のような使われ方、ここでは盲導犬ばかりが注目されてしまうが、ハンドラーである盲人の自立が目的で、犬はその手助けと作者は言いきっている。この作者の考え方があり、日本においての盲導犬の位置取りが決まり今があるだろう。違う人がトップであったならば、また違った盲人の位置取りだったろう。犬連れで公共機関や店に入れるようになったのも、作者が居たからのようである。
「私たちは見えない事は不自由であるが、不幸な事とは思っていない」との行にはグッとくるものがある。作者は盲導犬を育てながら多くの盲人に接し、誰よりも盲人を判っているのだろう。
アイメイトの盲導犬に関しての読み物だが、ペットとして犬を飼う人も読んでおきたい作品と思える。犬に対する接し方が説かれている。
9月10日
東野圭吾
66
祈りの幕が下りる時
久しぶりに作者の作品を読む。そして読み終えた後での、作品名が絶妙であることが判り、作品名を見るだけで内容が反芻できるようでもあった。
元女優で演出家の博美。刑事の加賀。接点はなに?がキーワードで展開してゆく。
白紙状態から点が見えだし線になって行く過程が楽しめる。不遇な生き方をしてきた者の背景が少しづつ捲られてゆく進み方。読み手側にストレスを与えず、読み物としての読みやすさになっている。読後感はコース料理を食べた後のような満足感。
ハズレが無い作者と言えるだろう。
9月 8日
桂木洋二
65
歴史のなかの
中島飛行機
戦前戦後の飛行機に関する史実が詰め込まれている。素人なので、その詳細な表現がちと食傷気味であった。マニアや趣味の人であれば、貪るように読めるのだろう。作者は49もの資料を読み、紐解き時系列で並べ書いたよう。よく整理できたと思う。
あとは、戦時中のことになると、どうしてもこのような書き方になってしまうのだろう。そういう時代背景と、道義が戦争であり勝つことだったのでしょうがないのだろう。
スバルの中島飛行機。こんなくらいしか知らなかったが、どんなリーダーがどのような形態でやってきたかがよく判る。飛行機開発の高度な技術が敗戦により停止してしまった事も知る。それが自動車開発に移って行くのだが、各自動車メーカーに居たエンジニアの背景が知れたことは有益。
MRJの中断。まあもう中止だろう。これが今の日本の航空業界。ホンダジェットもそうだが、これはアメリカ製でもある。衰退した日本の航空業界の今に対し、本作からは大正から昭和の時代がとても潤った業界だったように読める。
9月 3日
夜釣十六
64
楽園
太宰文学賞を得ている作品。後から知ったことなのだが・・・。
不思議な作品だった。祖父と孫、じつはそれは・・・。廃坑の村で月下美人を育てる。その月下美人は、オランダ領だったバハギアから持ち帰ったモノ。戦時中そこで起こったこと、日本軍がやったこと、日本人がやったことが読める。それらを語ろうとしない戦争体験者。いいことではないからだろう。それらを読み物として伝えている。史実を忠実に引用と言う形態ではなく、文学作品風に仕上げている角度、この切り口がたぶん「不思議」と感じた部分だろうと思う。
とても読みやすく仕上がっている。
9月 2日
大倉崇裕
63
三人目の幽霊
作者の趣味趣向はどこまで広がっているのだろう。そう思わせられる。オタクの世界に精通し、また落語までをネタに出来てしまう。全ては「興味」からなんだろう。いろんなことに興味を持ちのめり込む。
5作品が収められている。主人公は緑のようではあるが、緑はワトソンで、編集長の牧がシャーロック。薄巡査に福家警部補、儀藤警部補に九重警部、そして牧編集長を知ることになった。みな秀でた推理能力を宿している。必ず問題を解決する能力。本作は警察沙汰にならないいたずら的犯罪が大半。それがためにほんわかした雰囲気がある。
落語作品ばかりでなく、「不機嫌なソムリエ」と「崩壊する喫茶店」の少し逸れた話の作品の間に入れられ、全体に読みやすくなっている。こってりと落語を持ち込まないで、落語を知らない読者層に配慮したのだろうと思えた。
8月26日
大倉崇裕
62
GEEKSTER
作者の得意とする食玩や、それを収集するオタクがたくさん登場してくる。そして舞台は聖地である秋葉原。アンダーグランドに蔓延る闇の部分は警察には手に負えない。そこに現れたギークスターが成敗してゆく。作者の作品は、危機が迫った場合に必ず正義の味方が現れてくれる。そこがウルトラマンやそれらに見るような勧善懲悪な仕上がりになり読み心地がいい。
シリーズものなのかと思ったら、けっこう時間軸が長く使われ、完結してしまったような最後であった。九重の活躍がこの先読めるのかどうか。
8月24日
佐野洋子
61
100万回生きたねこ
中瀬ゆかりさんが推していたので読んでみた。小説かと思ったら絵本だった。短い端的な言葉の裏にある本音が見えたり・・・。児童向けであり、これを子供はどう理解するのか。可愛がり飼うことの矛盾。あまり裏読みせずに素直に読むのでいいのかもしれない。
猫好きな中瀬さんだから、感じるものが違うのかもしれない。
8月23日
さだまさし
60
緊急事態宣言の夜に
読む前と読んだ後の、情報量の違いが大きい。作者は、歌手でありタレントであり、活動の範囲は理解していたが、ここまで影響力のあるのボランティア活動をしていたとは知らなかった。そして氏の活動により、助けられたり勇気づけられた人が多い事も知る。まああまり表に見えないのが本来のボランティアなのかもしれないが・・・。芸能人として顔と名が知れている中での氏の活動は、周囲をも取り込んで成果を収めている。氏の人徳も大いにあるだろう。「風に立つライオン基金」の設立者でもある作者。
そして本題のコロナ過。既に2年が経過しているが、芸能人の行動背景が見える。作者は少し特別かもしれないが、試行錯誤しながら芸能活動を進めていたことが読める。ある意味、仕事が出来なくなったコロナ過、そこから仕事をしてゆくように努力する過程が判る。芸能活動とボランティア活動を両立させながら。
8月19日
大倉崇裕
59
死神刑事
薄巡査、福家警部補、そして本作の儀藤警部補、特異なキャラで書かれている一方で、秀でた感覚を持ち、奥深くでは人間らしい優しさがある。作者のファンになると言うより、各主人公のファンになってしまう。4編が収められている。定型の一度は逮捕されたが、その後に無罪判決が下り死神が動き出す。
いきもの係シリーズ側では、堅物な感じで描かれているが、実際の本シリーズ側では、ファニーな容姿でちょっと意外であった。各作品にちょっとづつ登場するこの辺りが巧妙で、新たに読んでの楽しみが仕込まれている。広角なトリックで、飽きさせず楽しめる。「死神の背中」などは、そうか、そんな手もあったかと思わされた。読み手の心を上手にコントロールしている作者でもある。
薄、福家、儀藤、完全に嵌ってしまい次が読みたくなる。早く次号が出ないか・・・。
8月17日
さだまさし
58
銀河食堂の夜
シンガーソングライターとして長けている。そして作家としても言葉の紡ぎ方が秀逸。言葉を操る能力が長けており、これは才能なんだろう。
一冊完結で、6編が収められている。各編ウイットに富んでおり、それでいてホロッとさせられたり、読み手側の気持ちを上手にコントロールして掴んで離さない感じ。飽きさせずに読ませる、読んでしまう。
下町の幼なじみ。集う居酒屋での不思議。最終編で、一番の謎であるマスターの過去が判る。作者の知人である山本直純さんらしき登場人物がある。それこそ本人の顔を思い浮かべながら読むのだが、この作品に一番力を注いだようで、架空の人と言うより現存の人を登場させたためだろうとは思う。
心地いい読後感。さすが。
8月12日
大倉崇裕
57
白戸修の逃亡
シリーズの集大成のような感じ。オールキャストと言っていいほどに過去の登場人物が白戸修に協力する。異常な逃亡劇の背景は・・・。
弱い白戸に強い取り巻き。勧善懲悪な展開が楽しい。
こんなことで事件になるのかと言う展開だが、見事読み物になり楽しく読み進めた。ピンチになると必ず救いの手が現れる。それが続く不思議。中盤から後半は、事件の種明かしを探りながら読むのだが、なんだか読み取れず・・・。そして最後のオチ。
8月11日
大倉崇裕
56
白戸修の狼狽
シリーズの途中作から入ってしまった。5作品での構成。オタクな、他人にはなかなか理解しがたい生き方をしている種族が題材。作者の得意とする分野で生き生きした文字運び。展開が目まぐるしくスピーディー。一気に読ませてしまうし読みやすい。どんなこともそうだが、世の中の知らない部分は多い。ことオタクの分野となるとよりそれが多い。
色々を知ることとなった。
中野に拘り、白戸修のキャラクターが確立していて、ギスギスした世の中においてのハートのある性格が読者をひきつける。
8月 7日
大倉崇裕
55
スーツアクター探偵の事件簿
大倉山と言えば、怪獣や食玩や、この辺りが得意分野であり、見事にノウハウを生かして作品に仕上げてある。やもするとつまらない展開もあるかと思ったが、しっかり楽しませてもらった。幼い時に見ていたそれには、スーツアクターと言う触手が存在していたことを知る。
事件に裏があり、一筋縄でない展開が面白さだろう。判らない部分が持続する楽しさ。これもシリーズ化を思って書いたのだろう。次号は出るのかどうか。
8月 4日
大倉崇裕
54
福家警部補の考察
シリーズ最新作。4編が読める。繰り出される作品毎に技量が上がってくる作者。当初からここまでの能力があり、温存しつつここに至っているのだろう。毎回斬新なトリックと伏線が楽しめる。ただ、やや過度になる雰囲気もあり、この辺りからどうギヤを変えるのかが見もの。あまり過度になると福家警部補のキャラがフィクション側に降り過ぎてしまう。刑事コロンボばりにとなると、あまり奇想天外な事件だと・・・。でも刑事コロンボのドラマも奇想天外だったが・・・。
医師、主婦、バーテンダー、営業マン、シリーズはどんどん続くのだろう。新しい発想が次々と生まれてくるのだろう。作者の作品に始めてくれたのは、食玩の作品からだった。楽しいウイットに富んだ作家と思っていたが、こちらの分野が本職だった。
7月31日
若林正恭
53
表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬
お笑い芸人が、ここまでの社会観をもってお笑いとともに生活していたとは・・・笑いを取るためにとても頭を使っている背景がこの作品で判る。相変わらずウイットに富んだ作風で、常に楽しい。時折ハッとさせられる言葉並べがあり、それが角でなく心地いい。そしてなぜにキューバの答えが最後に出てくる。人として立派な人だと思える。
自分を客観視でき、周囲との協調を常に考え、家族を思える。なんかすげぇな若林さん。
7月28日
若林正恭
52
社会人大学
人見知り学部
卒業見込
その中を斜めに見ていたような作者。でもそれはしっかり正視してたって事のよう。自分をしっかり修正できる能力。社会のありかたを判り協調してゆく能力。笑いと言う分野に身を置いて、評価される笑いを生み出す思考の背景が見えた。ただふざけているだけではなく、しっかりと計算されている。
音痴の行などは面白かった。悲観するのではなく、それをバネに・・・笑いに。芸人の中でも評価される作者、どんな思考回路なのかと思ったら、予想以上だった。
7月26日
大倉崇裕
51
福家警部補の報告
3作品の構成。「禁断の筋書」の後半、福家警部補に追い込まれるみどりが、キリキリしてゆく様子が、刑事コロンボのドラマを見ているようでツボに嵌る。友人が敵対するようなストーリーであるが、なにかそれだけではない裏があるような印象。
「少女の沈黙」は、珍しく反社な構成で、序盤でけっこう長く引っ張る。少しこれまでと異端な印象で、らしい事件が起こる。その理由が、今の法律に絡ませたり、社会事情に絡ませたり、これもまた奥が深い作品。更生しようと思ってもその場所が与えられない・・・警察の監視により・・・。
「女神の微笑 」は、この作品から感じられる作者の力量は凄い。知識、世の中の観察眼、言葉・文字選び、全てが見事。そこを仕掛けに使ったのか・・・と。読者を手玉に取るように、はるか上空から俯瞰し面白さを振りまいているような印象。老夫婦での犯罪はなかなか思いつかない。福家警部補のキャラクターも楽しめ、ストーリーは軽妙でありながら巧妙。今回も楽しく読めた。
7月21日
大倉崇裕
50
福家警部補の追及
2作品が収められている。前半の「未完の頂上」は、作者にしては意外や意外、山岳小説で、福家警部補の登場場面が無ければ、本格的な山の玄人受けする言葉並べで、一気に引き込まれてしまった。こんな作風も出来るのかと、広角な知識に感服。作者の作品で、山関係の作品は初めてであったが、福家シリーズとは別に、山岳小説として何か発表してもいいんじゃないかと思ってしまう。
「幸せの代償」には、生きもの係りの須藤警部補が初登場する。フリークに配慮した手法で、やはりこんな配慮は楽しい。ペットブームにおけるブリーダーの表と裏、動物愛、経営、色々が絡み合わせトリックを仕込んである。ここまでの構成を、シナリオはどんなふうに浮かんでくるのだろう。独特な思考回路があり、知識に対しての脳の整理がよくできているから書けるのだろう。シリーズ3作目にして、どんどん仕掛けが巧妙になり楽しませてもらった。
7月17日
大倉崇裕
49
福家警部補の再訪
4作品で構成されている。作品が繰り出されるごとに、巧妙なトリックが増してゆく。一辺倒では満足できない読者に対し、挑戦状とばかりに作者は技術を駆使してゆく。面白さがどんどん増してゆく感じ。飽きさせない、さらに読みたくなる技巧派。見事。
最後の書評は必ず読みたい。福家シリーズの倒除形式の解説がある。そう言う事かと知ることになる。刑事コロンボに始まるこの形態、この系譜をしっかりと引き継いでいるのが作者とのことだ。
「失われた灯」の最後は、やや不満足な終わり方。片方の事件に関しての謎解きで終えている。もう一つは読者の方で関連付けて想像せよって感じなのかもしれない。それでも、これまでの謎解きでは全てが開示されていた。この作品のみ、片方が見えてこない。
書評にもあるが、福家警部補は、事件現場に対し初見で犯罪が見えていると言う。ここを気にしつつ次号を読もうと思う。
は7月15日
大倉崇裕
48
福家警部補の挨拶
福家シリーズに触れる。答えが見えているモノに対しての謎解き。詰将棋のような、数学の問題を解くような面白さで、まさしく刑事コロンボのそれを感じさせる。4作品が収められ、逆回転な推理トリックが楽しめる。斬新で新鮮。一方でハラハラドキドキが無いので、そこを求める人には味気ないかもしれないが、逆を返すととても読みやすい。
動物シリーズ側に登場したので、こちらにやってきたが、こうなると出ているシリーズ全てが読みたくなる。勧善懲悪な警部補の立ち位置が心地いい作品。本の好きな人に対しての「最後の一冊」は、初刊の一編目としてインパクトの強い作品であった。
7月12日
逢坂剛
荻野アンナ
角田光代
鎌田實
酒井順子
さだまさし
高野秀行
竹内久美子
乃南アサ 47
マナーの正体 各人が得意分野を好きなように書いている。それでも一本筋は通っており、決められたマナーと言うオチにして作文している。他分野の人が集っているので、バラエティーに富んでいて楽しい。学び知ることも多い。
世の中のマナー。知っていて損はないし、知っていると世の中を上手く生き抜けられる。ショートショート的であるが、内容が濃く、短歌同様に短い内容にしっかり気持ちを込めて書いているのが読める。短いほどに力量が現れることをみな知っているのだろう。
7月 8日
大倉崇裕
46
像に魅かれた容疑者
今回は国内から海外へ。シリーズが回数を増すごとに巧妙なシナリオになっている。そう来たかと最後は思わされるのだが、予想できない犯人って言うのが、このシリーズの真骨頂だろう。
ゾウが主題であるが、会話の中でのヤマカカシの行には驚かされる知識。ヒキガエルのそれがヤマカカシの・・・。いやはや無駄に勉強になり、雑学の宝庫とも言える。須藤と薄きの会話も、益々テンポよくなり連想ゲームのように楽しめる。
拉致、海外、密輸、少しヒリヒリさせながら最後はいつもの・・・。
7月 6日
大倉崇裕
45
アロワナを愛した容疑者
今回は、はじめて植物が登場する。タカとアロワナとランの3作品。シリーズ作なの
で、下手をすると食傷気味な展開になりがちだが、きちんと新しさを加え、さらには別シリーズの登場人物も入り込み、大倉さんの好きな方にはドストライクな仕上がりになっている。
観察・洞察力に長けた薄巡査の謎解きには、動植物を育てるノウハウが盛り込まれ、とても知識になる。それら特異性をトリックに組み込み、あまり複雑にせず読みやすい体となっている。動物好きとして、読み手側としてトリックに挑むが、ほぼ薄巡査に導いてもらっている。
7月 2日
川上健一
44
地図にない国
川上さんはもう作品を書かなくなってしまった。好きな作家だったのだが残念。ご病気と言う事だからしょうがない。過去の作品を読む。
牛追い祭りはよく知られているが、それが「バスク」地方のと知っている人は少ないだろう。スペインの祭りと認識している。今回の舞台はここ。野球選手と女優と作家と写真家と、世の中の表舞台の人がここを訪れ祭りを楽しむ。闘牛を含め、この中の日本人闘牛士は、以前どこかで紹介されたのを見聞きしているので、彼がモチーフであろう。
肩に力の入らない読みやすさ、川上さんならではの浸透水のような作品。それでいて読後感はしっかり読んだ感があり、展開内容が克明に反芻できる。牛が題材だからではないが・・・。フィクションでありながらノンフィクションな雰囲気もあり、川上さんが得意とするスポーツ要素も強く、牛追い祭りの臨場感が欲出ていた。
牛に追われ死に至る人もいる祭り、この馬鹿な祭りに人生をかける人たちがいる。そして何かが見えてくる。
6月28日
徳田秋聲
43
あらくれ
明治大正の文豪の作品に触れる。今の時代に読むと、周囲に作品が氾濫しているのでそこまでとは感じないが、当時においては衝撃的だろうと思える。通俗的な言葉並べでありながら、内容は当時の世の中においては異端な主人公の島。人生において波乱万丈が多いほど興味を引くが、作者の意図もそこに在ったのかもしれない。
人間がモノのように扱われていた時代がある。女性が軽視されていた時代がある。この作品が後世に残ることで、それらがよく判る。金沢市出身の作家。
6月27日
大倉崇裕
42
クジャクを愛した容疑者
シリーズ4作目。ピラニア、クジャク、ハリネズミと3編が収められている。毎回作品ごとに変化をつけ楽しませてくれる作者。これらのトリックを考える抽斗の多さに敬服。技巧的なこれらに加え、常にウイットに富んだダジャレを入れ込む。生き物に関わる事件でもあり楽しさしかない。やや脱線が過ぎるような部分もあるが、鬼頭の登場で修正されリセット。ピリッとしたした調味料も加わっている。今回はクジャクの作品が面白かった。
6月23日
大倉崇裕
41
ペンギンを愛した容疑者
シリーズ1作目同様に、4作品が読める。ペンギン、ヤギ、サル、トリ、ここまでになるともうアイデアが煮詰まってしまいそうだが、毎回作品ごとに楽しませてくれる作者。マンネリさも無いわけではないが、心地いい度合いで、一つ気が付いたのは「間」の使い方が上手。詰め込み過ぎず、間延びせず飽きさせない。会話のテンポもそう。
一般人がペンギンを飼う特異さ。学校教育から生き物が居なくなる昨今においてのヤギとの触れ合い授業。知能の高いサルの飼育。そして鶏の中で最も知能が高いとされるヨウム。事件と各生体の特徴が絡み合い、動物好きとミステリー好きが二兎を追える作品。
須藤と薄、須藤と石松、各掛け合いが楽しいので、それがリラクゼーションに繋がり、ヨウムの最後は、予想外にもホロッとさせられる。
6月21日
大倉崇裕
40
蜂に魅かれた容疑者
シリーズ2冊目。1冊目に4作が入っていたが、今回は1冊1作。凸凹とした須藤と薄、会話のほとんどに楽しさがあり、ライトミステリーな読みやすさで一気読み。それでもライトとは言ったものの、構成は巧妙で見事。事件解決による布石の回収も秀逸。
蜂を利用した犯罪などあったろうか。それを考えた作者はパイオニア的で、蜂の習性を利用し犯罪に関わらせ、その捜査に関わる薄の発言に、こんかいもまた蜂の対してのノウハウをたくさん知ることになる。楽しく読めて、かつ習性を学ぶことができる。面白く学ぶって、こんな事だろう。作者の作品を多く読んでいるが、ノウハウなど学ぶことが多い。教え上手でもある。
さて次。
6月20日
泉鏡花
39
泉鏡花
観念・人生傑作選
名前には聞いていたが、ハードルが高くて読んでいなかった。既に読んでいる小島烏水氏の作品でも躓きながら読んでいた。でも文豪と言われる作品に触れてみたい。現代語訳された作品を選ぶ。
外科医、歌行灯、琵琶伝、清心案、義血侠血、夫人十一題、若葉のうちが現代語訳されて収められている。現代語訳されたからとて、元の言葉並べに違和感が無く文豪と言われる所以がよく判る。どれも見事なまでに読ませ、各作品がそれぞれ秀逸。坦々とかかれた、並べられたひらがなと漢字が、とても意味合いを持って読み手側に伝わってくる。何かが違う。好きな作家は沢山居るが、大きく違う感じがある。それが何かはまだよく判っていない。紡ぎ出される言葉なんだろうけど、それにしたところで、それを並べられる感覚はどこからくるのだろう。
読んでよかった。読めてよかった。娯楽の少なかった時代には、これら作品はとても娯楽になっただろうと思う。
6月17日
大倉崇裕
38
小鳥を愛した容疑者
ファニーな題名で、気にしていたものの入手しなかった。いざ読んでみると、動物好きとしてツボに嵌り、推理に動物を飼うにあたってのノウハウがちりばめられ楽しい。そこに作者独特のウイットが合いの手のように入る。4作は水戸黄門のように、定型な推移で一件落着する。それがまた心地いい。小鳥、蛇、亀、梟、どれも楽しい作品で、血なまぐさくない点も読みやすさになっている。こうなると、出版されている全シリーズを読んでみたくなる。動物好き推理マニアにはたまらないだろう。軽妙で痛快。薄巡査と須藤警部補の掛け合いは絶妙。
6月11日
坂木 司
37
鶏小説集
力を入れずに読める作品。題名の通「鶏」が登場するのだが、生体ではなく食材としてのそれ。1編目の不思議感や謎が、2編目以降で見えてくる。そうだったのかと・・・。そして色々が最後の作品で前4編の回収があるのかと思ったが、肩透かし。「文芸カドカワ」に掲載されたものを、手を加えずにそのまま載せているようだった。回収を望む読者の気持ちを、上手に興味として読ませる手法なのかもしれない。
作者の独特の空気感は健在。人間観察に長けた人なのだろう事が判る。生体側の鶏が好きなので手にしたが・・・まあそれでも十二分に面白かった。
6月 7日
原 宏一
36
春とび娘
ヤッさんX
ヤッさんシリーズの最終作。これまでの4作が微妙にちりばめられながらの、いつものヤッさん節で話しが展開してゆく。築地から豊洲に市場が移った後、動かずに経営している人々の様子がフィクションでありながら見えてくる。安心安定のヤッさんシリーズ、繰り返される市場近辺での問題での展開だが、毎回全く飽きないで読み進められる。
経営者と料理人(長)が異なる場合の色々が書かれているが、これらはよくある事なのだろう。儲け重視の経営側と現場の温度差。このあたりはいろんな産業に当てはまる事であり、正義感の強いヤッさんシリーズにおいて、ピタリと嵌る題材。
ネット社会の人と人とが触れ合わない時代に、下町的な、庶民的な人との触れ合いのある展開は、既に懐かしいとも思え心地いい。時代はどんどん動いてゆく。伝統の味を守りつつ、どんどん変化させてゆかないとならないとヤッさんは言う。
6月 3日
森沢明夫
35
おいしくて泣くとき
子ども食堂が各地に増えている。事情があり食事がとれない子供に食事を提供する場所。これを主軸にした人間模様のストーリー。利用する側、提供する側、どちらにも家族があり生活がある。そこに義務教育があり同じ学校に通わねばならない。気にして食べる側。もっと気にして食べていることを他言しない提供側。
6月 1日
馳星周
34
淡雪記
世の中には、実が熟してゆくストーリーが多い。これは熟したミカンを剥いてゆくような、バナナを剥いて中味を楽しんで行くような、そんな展開手法であった。構成が面白く、引き込まれ過ぎて胃がむかむかしてしまい。何度も閉じては息を整え読み進めた場面もあった。悪い展開が予想でき、読みたくなくなる気持ちと、先を読まないと話が進まない板挟みな心境になった。言葉並べで、読者をここまでにする手法は、作者ならではだろう。
カメラ青年の敦史。好青年の印象の冒頭、展開してゆくに従って見えてくる過去。善悪を決めたがる読み手側に対し、ここでも剝かれていく主人公が居て、善悪のコロコロ展開してゆく部分に引き込まれる。善人なのか悪人なのか。
有紀の特異性と美貌が、展開とともに読み手側に影響を与えている。弱いものは守られて欲しい。綺麗なままでいて欲しい。その一線を上手に押し引き、出し入れするのが作者で、真骨頂とも言えるだろう。
ハッピーエンドを望む読み手側に対し、最後は・・・。
5月27日
山出保
33
金沢を歩く
さすが元市長、郷土の文化風習そして風俗に情報豊富で、細部まで知っている。市長だからこその部分と、本当に金沢が好きと言う郷土愛が感じられる。あとは、ちょっとじぶんがした、関わった仕事の自己顕示が感じられる。この部分はしょうがないだろう。事実なのだから。
題名通り、歩くガイドとして秀逸。現地をよく知っている私も、知らないで観光目的に読んでも面白い。今に至る背景がここに読め知ることができる。
400年間、戦禍に遭わなかった町は、チューリッヒと金沢だけ。小路が多く歩き辛いのは凄いことなのであった。
作者とはおでん屋で横になったことがある。
5月25日
大沢在昌
32
雨の狩人
人気作者の作品をチョイス。登場人物の安定感と、展開の安定感。読ませる言葉並べと、興味をそそる飽きさせない場面展開。好まれる理由がよく見える。佐江の捜査において、読者を取り込むような推理と想定があり、犯罪を暴く過程が一緒に捜査しているような感じにもなる。この辺りが多用され、他の作家との差異であり、作者の作風のように思えた。
刑事、ヤクザ、ヒットマン、占い師、少女、場面展開が密で、これら登場人物が理解できる範疇で話が進んで行く。「飛び過ぎない」展開手法がとても読み易かった。暴対法に関しては、後半で語られることが全てだろう。アンダーグランドで増え蔓延って行くヤクザでない人々。
この作品は、警察関係者やヤクザやさんが読んでも面白いはず。
5月18日
吉田修一
31
森は知っている
離島が舞台。冒頭の、スタンドバイミー的な子供らしい表現。そこから内容は大きく子供が大人社会に引きづりこまれた感じとなり、異次元な展開。情報社会における有りそうな展開に、フィクション感とノンフィクション感が入り混じる。
普通の高校生を装いながら、本人たちが割り切っている。そんな孤児を見つけた大人。胃の腑あたりがもやもやしながら読んでいた。
バイオレンス的な内容は少なく、一喜一憂とかはあまりなく割と平和的。肩に力を入れずに読める作品だった。
5月17日
瀬尾まいこ
30
そして、バトンは渡された
不遇と言える生きざま。身勝手な親の判断で3度も苗字が変わった。そこに「可哀そう」とかの感想になるが、その度重なる経験で、主人公の優子本人は強くなる。そして身勝手と思えていた親は、みなしっかり親をしていた。不遇だが、それでも恵まれた環境だったと・・・。
よくある離婚。優子と同じ境遇となった人も多いだろう。子供が不安になるのは親のせいでもあるが、本作は親も一生懸命生きているのを伝えているような気がする。
最後にバトンを渡された森宮さん。不思議なキャラクターだが、最後にすべて回収となり、優しさに包まれる読後感。ホッコリとさせられる一冊。
5月13日
遠藤ケイ
29
山に暮らす
「裏の山にいます」 を先に読んだが、その内容と被る部分が多く、こちらが原本のようであった。作文もさることながら、挿絵が見事で見入ってしまう。山の暮らしの中で、既にすたれてしまった技術、辛うじて残る技術、等々を知ることができる。山が荒れシカが増えている中では、作者は警鐘として書いているよう。利器だけに、利益だけを求めてはダメだと。
食わないと死んでしまう。食うための工夫、何が食えて何が食えない。どうすると食えて、どうすると獲れるとか、指南ノウハウ本として秀でている。幼虫から酢を使って蚕糸を採るとか、知らなかった驚くノウハウがある。何もない時代に本当に工夫して暮らしていた背景が判る。非常に為になった。
5月12日
高嶋哲夫
28
日本核武装 下
横の繋がり、縦社会を構想の主軸に置き、本音と建て前、片手で握手し一方の手では殴る、そんな世界情勢が上手に盛り込まれ、リアリティーさになっている。核で脅し、脅される社会。
平和に核は不必要と言う背景と、平和のために核が必要と言う背景がよく判るように書かれている。核武装した国々と対峙する日本。アメリカの傘の下に「居ると思っている」日本。どうするべきかよく考えさせられる。
高嶋さんの作品は、ある意味予言的な要素がある。ペトロバグや首都感染などに読める感染に対し。富士山噴火や津波に読める自然現象に対し、今回の作品も日本の向かう先を書いているように思えている。
5月10日
高嶋哲夫
27
日本核武装 上
フィクションでありながらノンフィクション寄りの作品が多い高嶋さんの中で、この作品は一番の真骨頂だろう。培ったノウハウが一番詰まった作品。あまり内容を濃くしてしまうと守秘義務等あるので一線を越えてしまうが、きわどいギリギリの線でフィクション化しているように読めた。
日本核武装。公には無い事柄であるが、日本の技術を持って挑めばできない事ではない。
善悪のハッキリした線引きが無く、緊張感をもって読める上巻。さて下巻。
5月 5日
馳 星周
26
月の王
ファンタジーな要素もあるが、バイオレンスとかハードボイルドな主線、そこに作者の真骨頂の狼(犬)が巧妙に表現されている。
天皇を作品に使うには勇気が居ると思うが、この思い切りの良さも作者ならではだろう。完全懲悪と言うか、強すぎる主人公に、気持ちよく読み進めることができる。映画を想定して書いているのだろうか、映像で見てみたい。構想・構成が楽しい作品に思えた。
前半はまだいいとして後半は「人間離れした」場面展開が増えてくる。この部分は好みが分かれるだろう。ただ、とどのつまり読み物である。楽しめる人が居たら作者の勝ちである。
5月 2日
遠藤ケイ
25
裏の山にいます
バランスの取れている人ってのは少ない。何かが秀でていれば、何かが欠落する。この作者は、野生勘を持っていながら、文才もある。山ヤにもそんな人はいるが、この作者は自然の中で生き抜く術のノウハウ量が尋常でない。バイタリティーと好奇心と、そこにしっかりと恐怖心とを持ち合わせ、自然の中に居ながらしっかり危機管理が出来ている。そして何より経験値が高い。ウイットに富んだ作文は、飽きずに読ませる作品になり、やや粗暴な部分も隠さず出てくる。
何でも手に入る平和な世の中。しかしそこには工夫することも無ければ作業などもない。食べ物を得ることでもそう。山の中の動植物を食べ、使うノウハウを持つ人がどんどん減ってきている。山が荒れシカが増えている昨今、一週廻って作者の様な人が必用になってきている。
ゆったりと暮らしているように書いている。実際にそうした時間軸なんだろう。しかし作業量は多く、自然の中で生きるのにはやることは多い。ゆったり生きているように見える(書いている)のは、もしかしたらその裏返しなのかもしれない。
東北でも信州でもなく、千葉の房総半島の山に居るってのが面白い。
4月28日
森沢明夫
24
本が紡いだ五つの奇跡
5章からなる関連性を持たせたショートストーリー。そこに「虹の岬の喫茶店」も味付けに加わり、森沢さんの作品を読み続けている人にはさらに面白さになっている。展開が美しい浸透水のようなストーリーであった。作者の情景が浮かぶ表現が秀逸だからだろう。
本に関わるいろんな人々、そしてその家族、登場人物のほとんどが心が温かい。旅に行っていないのに、旅をしてきたような、映画を見ているように一気読みしてしまった。
本が与えてくれるもの・・・。
4月27日
養老孟子
CWニコル 23
「身体」を忘れた日本人
便利な世の中になる一方で、欠落していっている部分も多い。現在の思考の根底にある部分を読み解き解説しているのは流石で、何がどう欠落していっているのかがよく判った。自然回帰が必要で、安全や便利が全てではない。頭脳と好奇心の養老さんと、バイタリティーと信念のニコルさんと言った感じか、枠やカテゴリー分けされない二人が、今の世の中を的確に語っている。
既に大人が欠落しているので、これからの子供にはと、子育て世代の人には読んでもらいたい作品に思う。若干極端な言い回しも無いわけではないが、賛同できることが多かった。自然に触れ合わないから社会での問題が多くなる。ここの視点もハッとさせられた。
4月22日
重松清
22
愛妻日記
重松さんの作品をたくさん読んできた。そんな中でのこの作品には驚いた。通常とは全く異なる作品。さすが作家と思った反面、どうしてしまったのかと思ったのも本音。奥さんに対しこっそり読んで欲しいと言うのがよく判った(笑)。官能小説となっていた。
でも不思議なのは、読後感が重松作品なのだった。
4月20日
東野圭吾
21
手紙
昭和な雰囲気を漂わせる構成。それには犯罪者に関わる取り巻きの環境が、その頃から一切変わらないからだろう。犯罪は避けたいが、犯罪者も避けたい。しいては犯罪者の家族も避けたいと言う社会。
一方、インターネット社会になり、アナログな手紙からデジタルなmailに変わった。作者は一度手紙を見直してみようと言う意味合いを持たせたのかもしれない。手紙が直貴の人生を動かしてゆく構成。
やや胃が痛くなる展開が続く。社会の中での犯罪者の家族が置かれた環境。そして周囲の間合いや避けようがストレートに作品に盛り込まれている。ここは日本の文化が独特らしいが、日本に住む以上は避けられない。そして犯罪者家族も避けられてしまう世の中。
いろんな角度からいろんな思いが出来る、考えさせられる作品であった。もう一度、いや二度三度読むと、もっと味わいがあるだろう。スルメのような作品に思えた。人気作家なので若い人も読んでいるだろう。若年層がこう言う事を知っておくのも有益だろう。いい作品であった。
4月15日
馳 星周
20
喰人魂
破天荒と言うか豊食と言うか、美味いものをとことん追い求め食いつくしてきたような作者。その背景には行動力があり、各地に出向いたからこそ味わえており、ただ単にブルジョア的な食い道楽と違うよう。
美味しいものの表現がとても上手で、作家であり食通だと、ここまでの表現になるのだろう。食って食って食いまくってきた人生のようだが、後半の人生は玄米食に移行し健康重視。マクロビオテックと言うらしいが、これまでと真逆な食事となっている。少し緩いルールにしてあるようだが。人間はバランスが取れている。押したり引いたり、あっちが出っ張ればこっちが引っ込む。作者はもう人生で体験する美味しい食べ物を十分食べたって事だろう。まだほかにもあるが十分量食べた。
以前にも書いたことがあるが、美味しいものを知っていることは大事。味覚の幅が出来る。高いものが美味しい的な部分もあるが、ふりかけだったり旬もののだったり、食いしん坊的な作品も納められ、とても楽しい内容だった。
「むしり」の店に行き、むしりを食べずに返ってきた私は、むしりを食べに行かねばならない。
4月 8日
川上健一
19
朝ごはん
川上さんはご病気により作品を書かなくなってしまった。好きな作家の一人であったが、もう過去から選ぶしかなくなった。また書いて欲しいと願いたいが・・・。
ほんわかした雰囲気。作者が移住した北杜市の様子がよく判る。どれだけ好きで、どれだけいい場所があるのかが、移住者目線で書かれ主人公もまた移住者として扱われている。そして食、ここでは朝食なのだが、至極美味しそう。ほぼ悪い人間が登場せず心地よく読み進められる。移住した特異な人たちが多く居る北杜市、そこにコロニーのような移住者の共同体が出来上がる。暮らしが楽しそう。それでいながら住民との関係も上手くいっている。
読みやすく読ませる作風。本と言うのは本来こんな感じだろうと言う見本のような作品。たかが朝ごはん、されど朝ごはん。いい作品だった。
4月 1日
山と渓谷社
18
山がくれた百のよろこび
主に日本山岳会の方々の作文が多い。そして各界の著名人や俳優の方も見られる。とても濃い内容で、これでもかと山の話がされ、これほど多いとやや食傷気味になるが、なんとか読み切った。昔のことだから書いたのか、ヒマラヤの高峰で、用済みで重荷だからとカメラを置いてきたとか、今そんなことをしたら炎上しそうな内容もあった。昭和な時代の作文が多く、各人のモラルに自由度があったせいかもしれない。
アルピニズムや信仰や、趣味だったり生き甲斐だったり、そして亡くなったり生き延びたり、ありとあらゆる角度から書かれ、この多様性は至極楽しかった。過去にはこんな人が居て、山ヤの中にはこれほどの種族が蠢いているのを知っておくのもいいかもしれない。
3月23日
斎藤茂太
柏 耕一 17
折れない心をつくる
いい言葉
著名人の名言を、斎藤茂太さんの言葉で解説している。その斎藤さんはご存知の通りこの世に居ない。不思議な作品であるが、柏さんが保有している斎藤さんとのインタビュー時の語録を拾い出していると言う。不思議な作品である。ただし斎藤茂太さんらしい言葉で解説されているので、ほんわかとして判りやすく読みやすい。精神科医らしい配慮がある言葉。柏さんは、過去の言葉から拾い出しているので、若干の無理さも否めないが、多くは斎藤さんの体験とリンクさせて解説していて、読んでゆくうちに名言は斎藤さんの言葉の方なのではないかと思えてくる。
初体験の面白い作品だった。
3月21日
後藤信雄
16
里やま深やま
上州やその近県で知られるG標の主、どんな人なのかはこの本を読むとよく判る。バラエティーに富んだ内容で、山を広角に楽しんでいる様子が読める。その中に信念と言うか、ある意味信仰と言うか、山に対するポリシーがあり貫いているのが判る。
大けがもしており、いろんな経験が積み重ねられ今があるよう。そしてただ歩いているのではなく、頭を使って歩いている様子が見える。そしてそして、しっかり記録しているからこその、今回の作品だろう。若干、反芻するような記述があり気になるが、作者はあえてそれを誇張するような書き方にしたのかもしれない。クマの行など・・・。
吾妻地域の情報がたくさんあり、歩いたからこその記録で有益であった。
3月17日
小泉共司
15
奥利根の山と谷
20年早くにこの本に出合いたかった。この内容を読んでいれば、もう少し歩き方も違ったかもしれない。奥利根がこれほどに踏査されていたとは知らなかった。秘境だと思っていたが、ダムが出来る前は各尾根、各谷がかなり登られていたことを知る。
残雪期の平ヶ岳に行った時に、ソロの男性が水長沢尾根を下って行った。利根川源流をスノーブリッジで跨いで小穂口山尾根を登ると聞いた時に、かなりの衝撃を受けた。玄人であり、奥利根の昔をよく知っている方なんだと判る。この作品にも読めるが、スノーブリッジの場所は、何処でもでなくピンポイントで、有無も降雪量に依存するので行って見ないと判らないよう。
ただ、1984年の作品であり、記述されるトポに読める内容は、昨今の異常気象により、現地はだいぶ変化しているだろうと思える。それでも今でも十分利用できる内容に思う。
これほどに濃い内容のガイド本は読んだことが無く、ワクワクしっぱなしであった。
3月13日
安藤正義
多摩雪雄
冨田弘平
松本 浩 15
一等三角点の名山と秘境
一等三角点研究会からの本は、点側を重視した内容で、こちらは抜萃し登山側で書かれた内容であった。一等点のある場所から、登山向きなポイント100点が掲載されている。ハイカーが求めるならこちらであり、こちらの初版が1996年なので、後発(2011年)発行の研究会の方は変化をつけたのだろう。山が対象となっているので、地形図を入れコースタイムも判るようになっている。一等点のその場所を目指す場合、とても参考になるガイドとなろう。
3月10日
一等三角点研究会
14
一等三角点全国ガイド
編集が上手で、とても見やすいガイド本と言えよう。1980年代から、三角点を気にして山中に入ってきた。当然一等点は気になっていたが、それは運と巡りあわせと思い、その在り処情報を知らない中で行動していた。登山人生も折り返しを過ぎ、そろそろ知っておいてもいいかと手にする。山頂に限らず、一等点全てを網羅しており、そこへの経路が過不足ない文字数で書かれている。持っていてワクワクする本である。
3月 8日
湊かなえ
13
残照の頂
続・山女日記
「山女日記」と比較することはないのだが、それに続く山岳小説として期待を持って読み始める。現役の山ヤらしさがちりばめられ、現地や詳細な表現が、よく歩いている人と感じられる。ただ少し、山女が浸透水のように読めた中では、若干読みづらいモノローグがあり、つっかえつっかえ読んでいた。途中で慣れたが・・・。
4編からの構成。後半2編は関係性があるが、前半2編と後半2編は繋がりを持たない。最後に回収があるのかと思ったが、独立していた。
山岳小説であれど、他者と差別化された面白い作品だった。独特の観点、いやここは山ヤとしての観察眼が鋭く感受性の高さが、ここまでの表現が出来るのだろう。人気作家たる所以。
登山と言う遊びは、下界と繋がっている。そう思わせる作品であった。
2月28日
笹本稜平
12
山狩
警察と言う正義が、正義ではない場面が多く、とても息苦しい読み応え。これがいつ晴れるのかと、胃の腑がムカムカしながら読み進めた。
最近多くなっているストーカーとストーカー殺人をモチーフに、作者の得意分野である山と絡ませてある。その山の部分は全体的な比率は30パーセントくらいに感じ、たぶんこの背景には低山しかない千葉の山が舞台だって事からだろうと思う。
その比率から言うと、悪側の表現が6割とか7割で、冒頭から終盤まで正義側が圧されている。ムカムカする背景はこの部分で、これでもかと読者心理をコントロールしている作者の上手な手法。人間だれしも、正義が勝つ、勝って欲しいと願うのが常。そこを求めて引き込まれた。
もう少し、トリックや事件の謎解きが巧妙だと良かったが、終わってみると若干雑な感じにも思えた。そこはストーカーと言うモチーフからしょうがないのかもしれない。
2月21日
馳 星周
11
沈黙の森
軽井沢が舞台の作品。見知った場所で構成され、その場所が詳細に目に浮かび活字から伝わる情報量が多くなる。軽井沢に住む人ならもっと濃くそれを感じるだろう。
人道と非道、優しさと邪悪さ、人における両面が入り乱れ、血なまぐさい場面が続く。ただ、読ませる構成が面白く内容にのめり込んでしまう。
主人公の田口と飼い犬の疾風。何もしゃべらない犬が、田口のコマンドで第二のスナイパーのように行動する。従順な犬が、人間により喜怒哀楽をコントロールされているかのよう。そして本来の犬の姿で、紀子との関係もほんわかさせる。一方では無慈悲なまでの残忍な場面にも疾風は居る。人間の思いは作品に綴られているが、疾風の態度で犬の思考を読み取っていた。これらは愛犬家ならではの、飼っているからこそ判る表現の仕方がちりばめられていた。
樋口明雄さんが地場の作品を書くように、馳さんも地場の利を生かして書き上げている。
2月17日
馳 星周
10
走ろうぜ、マージ
2019年よりの新型コロナでのこの状況に、犬を飼い始める人が多く、ちょっとしたブームになっているよう。家にいる時間が出来、子犬を見てかわいいから飼い始める。ペットショップで、「かわいい」が優先され飼う。この場合は飼ってしまうと言った方がいいかもしれない。その結果、手に余して変えなくなる人が非常に多いらしい。これにより、売る側の説明責任が規則に盛り込まれた。
飼う前に、この作品を読んだらどうだろうか。求める人が半減、いや十分の一くらいになるんじゃないだろうか。死の場面を考えて買う人などいないだろうから。作者ほどに真剣に犬に向き合う気概がある人がどれだけいるだろうか。飼う側万人に、作者ほどの意識で買いなさいと言う規則もないが、犬を飼うと言う事は、最後にこういうことが伴うってことを、細かく記録してくれている。
一つ引っかかるとしたら、嗜好品の葉巻である。鼻の強い犬を思うと、犬の身体を思うと、同じ室内でのそれは副流煙も含め良くないだろう。まあそこは、しっかり配慮していたとは思うが・・・。
2月15日
中山祐次郎
9
走れ外科医
外科医が書く小説。さすがと思わせる精通さ。そこに小説としての構成をし、独特のストーリー展開。やや尻切れな感じであるが、そこはシリーズ作なので仕方ないのだろう。葵の命を考えると、次作が読みたくなる。
ステージWの癌を抱え富士に登る。医師の思いと患者の思いとの、活字にされない心の中が読め、とてもいい仕上がり。
2月 9日
ペスル
8
もしもカメと話せたら
ゆるいけど、ちょっと奥が深い内容だった。そして生物の事も併せて学べる。さらにはウイットに富んだ無いようで、読んでいての面白さ楽しさが満載。生物の生体を人間の生活と対比させたりして、この世の中をうまく生きて行けるように指南している。
最初の「ひゅぽ」には感動した。「一番大切なのは、争いに勝つことではなく、できるだけ争わない事」ニホンイシガメが教えてくれた。
「人間関係のいざこざって、多くは『知らない』から始まるんだよね〜。無知って相手を傷つけやすいんだ」ニホンウナギが教えてくれた。
2月 8日
嶋中 労
旦部幸博 7
ホーム・コーヒー・ロースティング
半年くらい前から自家焙煎を試みている。何度やっても味が一定しない。焙煎
度合いが一定しない。ノウハウを知らねばと、この作品を選んだ。
道具までを知り、そこに先駆者の長けたテクニックとノウハウを知り得る。各々
のこだわりがあり、どの作業が適切かは、結局のところ分からなかったが、概ね
向かう先は見えてきた。最低限の美味しくなる方法は掴めたような気がする。ど
ういうマメにどのくらい焙煎すればいいか、色による差異があるとは知らなかっ
た。これが大きい。
先に洗う人、洗うのはナンセンスと言う人。コーヒーに入れ込んだ人は多く、皆拘りが凄い。味覚の優れた日本人。味を追及する日本人。コーヒー業界も日本に一目置いているよう。
コーヒーの味の差異は、淹れ方ではなく焙煎方法による。
2月 5日
クマヒラ
6
抜萃のつづり
その八十一
今年も届く。一年は早い。
時代だろう、コロナ関連の話が多い。一時は、お坊さんの作品が多く抜萃されていたが、無いわけではないが若干少ないような印象だった。今年もホッコリさせていただいた。これを読む前と読んだ後とでは、意識が変わる。一年前も同じで、変わった意識で続いていればいいが、日に日に減退してこの日を迎え、また読むと背筋が伸びる。
春風亭一之輔さんの書き物を初めて読んだ。話芸の達者な人の文面は、そのまま話芸であった。
2月 3日
額賀 澪
5
イシイカナコが笑うなら
主人公菅野と幽霊。ちょっと間違うと気の抜けたファンタジー的な作品になるが、これは「幽霊」が違和感なく読める楽しい作品となっていた。学校の怪談と言うべきアルアルを用い、そのアルアルをリアルにして書き上げている。そして構成が面白い。過去の自分を第三者として間近に見られる構成。「乗り移る」対象があり、語っている自分と、乗り移った相手との混同しそうなやり取りがまた上手に書かれている。
そして最後は、冒頭の登校拒否の生徒との会話ですべてが回収される。やもすると、途中で嫌になりそうな幽霊話であるが、構成が面白く作品として秀逸に仕上がっていた。
1月27日
長谷川眞理子
5
人、犬と暮らす
楽に読める作品かと思ったら、けっこう学術書的要素があり硬さもあった。作者が学者ってこともあり、専門用語が出てくる。まあ、難しい部分をかみ砕いて優しく書いているとも言える。
犬に対しての作品ではあるが、人間に対する反面教師のような気がした。巻末に、”あれおかしい”と思ったら、作者の旦那さんの文章が入れられていた。犬の系譜などを知るにはとてもいい作品で、何頭も大型犬を飼いながらの気づきも書かれており、やはりここでは同じ犬種でも一頭一頭の個体差は大きいことが繰り返し書かれている。
同じ犬種でも、大人しい犬も居れば活動的な犬も居る。同じように愛情を注いで飼わねばならない。子犬から飼った場合の博打的要素ではある。最初は可愛いだけであるが、その後におっとりしているかチャカチャカしているかは、最初の子犬の時には判らない。こんなはずではなかったと里親に出す人も多い昨今、飼う前にこの作品を読んでおくと生体がよく判る。なにせ進化生物学者が書いているのだから。
” 1月21日
額賀 澪
4
できない男
晩婚と言われたのがついこの間。今は未婚率が非常に高くなった。離婚も多い。結婚は面倒なものになっているのか・・・。その結果の少子化なのだが。多様性が認められるようになり、ここの自由度は上がった。それがために協調性は欠けていっているように見える。ここまでは個人感。
芳野を主人公として、同年代の未婚なキャラを並べ今の若者の総意とも言えるような
発言が読める。そうか、そう言う事かと若者が思う結婚に対する面倒くささが理解できた。とどのつまりは一人が楽。ただし生活しなければならないので働かねばならない。デザイナーと言う仕事の深い部分まで知ることができ、各キャラの発言がウイットに富んでいて楽しい。モノローグの使い方も絶妙。
なんか、いろんな事を発信している作品に思えた。仕事、恋愛、上下関係、親子関係等々。受け身社会の今、若者はこの作品を読んでおくとだいぶ生きるのが楽になるかもしれない。
1月19日 安生 正
3
Tの衝撃
冒頭は御母衣ダムと軽井沢旧道の見知ったところが舞台で、すぐに作品に引き
込まれてしまった。高嶋哲夫さんに読める理系な内容に、樋口明夫さんが得意とする
戦闘武器の件があり、二人のいいとこどりをしているような、一人で二人分の役割をしているような印象であった。
ある日本。そこを突いた構成で良い切り込み方だと思えた。ただし正義と悪と言うか、
混在したり裏返ったりで、場面場面の展開が速いこともあり、誰が今どちらに居
ると言う部分が判らなくなってしまったこともあった。
1月14日
額賀 澪
2
風は山から吹いている
三章までは、山を舞台にするには珍しい簡単に登れる場所が選ばれていた。ちょっと珍しい場所選びと読み進めた。経路の負荷を誇大表現して書いたりするのが常であるが、本作はちと異なっていた。登場人物はそう多くなく立ち位置が判り易く、それが為に各人の個性が強く感じられた。主人公の岳。そして穂高。穂高の飄々としたスタンスに、最初は軽さを感じたが、読み進めるごとにスルメのような味わいが出てくる。薄っぺらそうな人間が、最後は深い心を持つ人だったと判る。
うであり、身近な出来事のようであり読みやすさに繋がった。ミステリー仕立てでもあり、山岳風味満載であり、ツボに嵌った作品となった。ハラハラドキドキは無いが、自殺か事故かの展開の中では、胃の腑がチリチリするような感じであった。
1月 6日
椎名 誠
1
岳
ここまで大きな活字の本を読んだのは初めて。読みやすいものの、幼児の本を読んでいるかのような違和感があった。多分慣れだろう。