五輪山  2253m     長栂山    2267m     朝日岳   2418m    赤男山 2190m 


  雪倉岳   2610.6m    鉢ヶ岳    2563m     三国境    2751m  小蓮華山 2769m


  舟越ノ頭  
2590m   乗鞍岳  2469m

 
 
 2004.5.22   


   曇りのち雨(暴風)     単独     ヒワ平から蓮華温泉に上がり、反時計周りで周回     行動時間:29H21M


@ヒワ平1:46→(26M)→・夢見平2:12→(18M)→・柳平2:30→(29M)→・ヤッホー平2:59→(9M)→A風吹大池入口3:08→(26M )→B蓮華温泉3:34→(48M)→C兵馬の平4:22→(28M)→D瀬戸川大橋4:50→(87M)→E白高地6:17〜20→(204M)→F五輪山9:44〜50→(65M)→G長栂山10:55〜11:03→(56M)→H朝日岳11:59〜12:04→(97M)→I赤男山13:41〜53→(99M)→J雪倉岳15:32〜39→(79M)→K雪倉岳避難小屋16:58〜17:18→(68M)→L鉢ヶ岳18:26〜41→(79M)→M三国境20:00〜15→(42M)→N小蓮華山20:57〜21:04→(52M)→・舟越ノ頭21:56〜59→(31M)→・白馬大池22:30→(53M)→・乗鞍岳23:23→・白馬大池再び→(337M)→O蓮華温泉5:00→(127M)→Pヒワ平7:07

 深夜は気温が低下し、カメラが動きませんでした。よって小蓮華山からの写真がありません。さらに乗鞍岳で時間を見た後は、ルートを迷ってしまい蓮華温泉まで記録が欠落しております。ご了承願います。


hiwadaira.jpg  kazehukiooikeiriguchi.jpg  rengeonnsen.jpg  tozandou.jpg 
@除雪はヒワ平まで。ここをスタート。 A風吹大池への登山口。 B蓮華温泉到着 蓮華温泉から朝日岳への道標。
hyoubanotaira.jpg  setogawaoohashi.jpg  hyoutanike.jpg  shirokouchiminami.jpg 
C兵馬の平(画像処理) D瀬戸川大橋 雪に埋もれるひょうたん池 E白高地
shirokouchitosyou.jpg  shirokouchiugankara.jpg  tocyuukaraasahidake.jpg  gorinyakakaranagatuga.jpg 
E白高地の渡渉点 E白高地付近、右岸側から五輪山を見上げる。 途中から朝日岳側。 F五輪山山頂から長栂山側。
nagatugagawakaragorin.jpg  nagatuganokashira.jpg  hukiagenokashira.jpg  asahidake.jpg 
五輪山の西側は雪が無くハイマツ漕ぎ。 G長栂山山頂部 吹上げのコルの看板。 H朝日岳山頂。
asahisankaku.jpg  asahidakecyoxtukakaraakaotoko.jpg  akaotokoyamacyokuzen.jpg  akaotokoyamakaraminami.jpg 
H朝日岳三角点。 朝日岳直下から赤男山側。 赤男山直前。 I赤男山から南側。
akaotokoyamakataasahi.jpg  setumon.jpg  yukikurahokumen.jpg  akaotokoyamananmen.jpg 
I赤男山から朝日岳側。 途中の綺麗な雪紋。 雪倉岳北面 赤男山南面
yukikuraheno.jpg  yukikudarake.jpg  yukikurahinangoya.jpg  koyanaibu.jpg 
雪倉岳への稜線。 J雪倉岳の立派な標柱 K雪倉避難小屋 K避難小屋内部
hachigatake.jpg  shiroumagawa.jpg  sangokuzakai.jpg  korengeyama.jpg 
L鉢ヶ岳山頂。 途中から白馬岳側。 M三国境。山頂はこの上にあがる。 N小蓮華山
sankakuten.jpg  rengeonsenkaeri.jpg  hiwadairakaeri.jpg   
N小蓮華山三角点。  O蓮華温泉帰り。  Pヒワ平帰り。   



 3年越しの机上計画でこの山域を睨んでいた。その長さと山容の大きさに、なかなか足が進まなかったのが本音である。目指す山の中にに五輪山と赤男山があり、これがある為に残雪期が必須になるわけなのだが、それにより他の山の難易度が上がる。不安部分も多く行く直前まで進退を悩んだが、思い切って出かけてみる事とした。


 家を21:20出発し、現地には1:30到着した。既に2台に車があり、ナンバーを見ると石川ナンバーと富山ナンバーであった。やはり北陸人は活発である。スキーヤーがハイカーか、はたまた山菜採りか・・・。

 ヒワ平を1:46出発する。ここは2回目なので、先に続くおおよそのコースは判っている。しかし前回に比べるとかなり雪の量が少ない。予想外にも蓮華温泉までは一度も雪を踏むことなく到達できた。しかし流石に距離は長く、それ相応の時間がかかっている。小屋前の駐車スペースには車があり、どうも中に誰か住まいしているようであった。小屋の裏には温泉へ行く道があり、その延長線上には白馬大池がある。往路はこの道ではなく、少し戻ってキャンプ場へ続く道を探した。どうやらそこへは、施設入り口の道をそのまま進めばいいのであった。

 歩きやすい林道は途中から雪が乗ってきた。さあここから始まりである。行く手は長く、何が待ち受けているか・・・。林道を行くとキャンプ場施設に到着。キャンプ場の中を進み、適当に雪を拾って行くと木道が見えた。シメタこれに従えば・・・。すると今度は「蓮華の森」の標柱が目に入る。そこには朝日岳への道案内も見える。指示に従いその方向へ進む。時折見える木道を探しながら下降して行く。かなり高度を下げるので不安であるが、不安要素は見え隠れする木道が解消してくれていた。しかしマーキング類は一切無く、目当ての木道が見えないと途端に進度は落ちる。慎重に地形と地図を見ながら足を進めてゆく。

 4:22兵馬の平湿原。水芭蕉が咲き出し、周辺はなかなかの雰囲気を出していた。しかしあまりにもルートが判らず、この先に向けて不安は大きかった。瀬戸川の流れが強くなってくると同時に下り勾配がきつくなる。道も判らず、ただただ下る。でもどうしてか再び道が見出せる。今回は運がいいのか、これが不思議でならなかった。瀬戸川大橋はH鋼にグレーチングを張った構造であり、どうやってここまで持って来たのかと思わせるしっかりしたものだった。渡りきるとしばらくは夏道が使え、道の良さに意気揚々と歩いていたらその先で消えた。おおよその予想をつけて進むが、全く判らなくなってしまった。左の斜面に踏み跡らしいのを見つけ行くのだがその先は藪だった。せっかく登り上げた高度を、修正に戻るのも勿体無くしばらくそのまま進む。すると意外にも木道が現れた。そこはひょうたん池の手前であった。30分ほどのロスタイムだったろうか。

 ひょうたん池6:06通過。この付近はとても歩きやすく、視界が開けたと思ったら白高地沢に出た。広い沢で、雪解けたところには道案内をするペンキ書きがあった。夏道はここから対岸へ行っているのだが、川を見ると流れが太くどうしても渡れない。雪解けの流れは、かなりの水量になっていた。少し上流に橋げたがあり、どうやらそこに橋があったらしい。困ったが、上流の雪を伝われば何とかなるだろうと、川の右岸をそのまま進んだ。机上調査時に、とある方のホームページに書いてあったカエル岩も先に見ていたので、右岸ルートは行けそうな気がしていた。

 雪の上を行くと、そのとたん嫌な緩みを感じた。と同時に下に平行移動。4畳くらいの面積が一気に落ちた。この時期はこれが恐い。深いスノーブリッジの場合、中に入ってしまえば出る事は不可能。このまま息絶えてしまう事もある。膝上まで入ったが、この時は何とか水難は免れた。這い上がって心を落ち着け、左側の斜面に駆け上がる。そこはステップを刻まねば落ちてしまうような斜面であった。登り上げたらカエル岩があるのかと思ったら、少し場所がずれたらしかった。付近には雪がまだ豊富にある。起伏に富んだ場所で、雪解けた所からは行者ニンニクが沢山生え付近に臭いを振り撒いていた。採って行こうかとも考えたのだが、まだ序盤戦。のんびり山菜など取っている気にはなれなかった。

 左には朝日岳が見え、このまま左に進めばコルを経てピークに達するのも早いように見えた。雪に伝わりながら、時に急斜面、時に笹薮と越えた。すると今度は目の前に扇状地が広がる広い広い野球場のような白い世界。これが自然の醍醐味と言うような場所であった。右手を見るとコブが二つ見える。どちらが五輪山なのかと、まずは斜面に近づくようにルートを取る。地図を見直し方向を定めると左側のピークが目的の山頂である。斜面がきつくなるに連れて雪が無くなってきた。ザレた谷を突き上げ、最後はハイマツの厳しい藪。これがたまらなかった。目と鼻の先に山頂があるのだが、何せ進まない。泣きべそをかきながら七転八倒しながらやっと上に立つ。

 五輪山の山頂には崩れかけたケルンがあった。ほとんど来る人の居ないピークに立てた感激が沸いてきた。ここに道があるなどと聞いてきたが、それは全くの嘘のようである。台風一過を狙った今回の山行は、あまりいい天気ではなかった。曇り出してきたのである。しばし休憩して次の長栂山を目指す。
ハイマツの斜面を木に乗りながら下る。下に行くほど難儀し登り同様に何度も転ぶ。雪の見える方に進路修正し、ここのハイマツ帯を下るのに15分ほど要した。雪に乗ってしまえば空の別天地、快適な歩きが出来る。長栂山はダラッとしたピークで南北に長い。その前に偽ピークがあり、この辺りから風が強くなってきた。台風の風の感じであった。あまりにも強く、藪を影にして雨具を着込んだ。地形と地図からは山頂の同定が難しく、GPSを見ながらその方向に進む。しかしGPSの指すところは、雪の乗ったこの時期は最高点でなく、現時点での最高点の藪の場所で長栂山とした。

 長栂山からは西に池を見ながら少し下降する。稜線に上がればトレースがあるものと思い込んで来たのだが、予想外にも皆無であった。次に吹き上げのコルを経て上り勾配になる。見えているピークが朝日岳の山頂なのか判らぬが、なかなか着かない。その奥に白馬の山々が大きく立ちはだかり、向かうに際し視覚的な威圧感がある。すると上に行くに従いちらほらと標柱が出てきた。これで一安心。最後は木道を伝い朝日岳山頂到着。

 風が強い。15mほど吹いていただろうか。立派な標柱があり、その陰に隠れて軽い食事を取る。予定はしているものの、もうこの状態では下って行って前朝日に行くような状態ではなかった。戻る事も考えられるが、あの判り辛い道を行くのはかなりのリスクがある。ただただ進むのみであった。前朝日方面には木道が付けられ下っていた。それを見ながら「また来よう」と自分に言い聞かせた。南東へ下ると視界にかなりの高度感が広がる。尾根と言うか左側に出来た雪庇に乗って下って行く。グリゼードで快適な場所もあるが、ピッケルを使う場所も出てきて、400mほどの下降は勇気が居る。ガスがかかり不安な感じもあるが、一応行く先がぼんやりとまだ見えている。赤男山らしき場所も確認できた。最低鞍部のコルからもそのまま左に付いた雪を利用した。一つ二つとピークを越える。そして最後のピークが赤男山であった。ここで不安は、ここを登るは良いが向こう側に下れるだろうかという問題であった。でも、もうここまできたら引き下がれない。目の前にクラックの入った雪がある。そこを通過するのが問題で、そうでなければ右の藪に入るのだが、これまた難しそうであった。少し下り、コルから草付きを登り上げる。そして目標のクラック地点に来た。岩を巻くように左にトラバースし、細いリッジを慎重に登る。アイゼンを蹴りこみ、ピッケルで確保。5mほどの危険地帯であった。さらに上にあがると幾つもの口が開いており、急いですり抜けるように通過。

 赤男山は南北に長細い山頂で、危惧していた南側の稜線はさほど危険な場所に見えず一安心。振り返ると先ほど居た朝日岳はガスの中に消えていた。厳しいドキドキの雪稜を思っていたが、何とか登頂出来た。しばし休憩して先に進む。南側斜面は予想していたよりは楽に下る事が出来た。しかし一歩間違えば奈落の底という所である。疲労も溜まってきているので慎重に足を下ろして行った。か
なりガスが上がってきた。それにより不安でいっぱいになる。それはこの先が尾根道でなく、トラバース道であるからである。雪がありルートが判らない。雪があるからと言って自由気ままに行ける様な斜面でも無い。雪倉岳の斜面に見える登山道を、ガスの合間から把握しコースを決める。そしてぐんぐんと高度を上げる。斜面はアイゼンを蹴りこまなくとも歩けるような斜度で、疲れた体には助かっていた。途中の湧き出る水を飲み、のどを潤したりもした。時折見え隠れする登山道に乗り、そこを行くが、すぐに判らなくなる繰り返し。適当に歩くのは良いが、足許はザレタ斜面もあり歩き難かった。目の前に目指す雪倉岳のピークが見えているのだがなかなか着かしてもらえず、精神的な疲労も増してくる。この辺りでは暴風であった。風による体力消費も著しい。

 雪倉岳山頂。富山県の立派な標識があった。寒くてさらに一枚中に着込みたかった。数分の滞在でこの先にある避難小屋に駆け出していた。そこまで早くに行きたかった。この風では泊まった方がいいのか、迷うほどであった。しかし次ぐ日の予定を考えると、歩かねばならない。あまり回転の上がらない頭でぼんやりと予定を立てていた。避難小屋までは楽に下れた。誰か居るのかと思ったが中は空家であった。途中に数人のトレースがあったので、どこかですれ違ったのだろうそれが何処なのか全くわからない。小屋の中はきれいに整理されていた。雨具を脱ぎ、湯を沸かした。フリースを着込むとなんと暖かいことか。僅かなガスの火だけでもかなり空気が温まる。パン、コーヒーが格別に美味い。それからウィスキーを飲む。甘くて、こんなに美味しいものなのかと思うほどである。しばし至福の時であった。ここまでで行動時間は15時間を越える。かなり疲労が出てきていた。カメラを構えると画像の中に何かが現れるようになった。これが幻覚か。初めての体験に恐い気もしたが、ゆっくり体を安め、風の状態を耳で聞きながら地図を眺めた。この先は三国境まで行けば白馬大池までは、踏み跡はあるだろうとふんだ。問題はこの先の鉢ヶ岳で、ここの道の無い場所の通過さえ日のあるうちにこなせば、夜になっても大丈夫だろうと考えたのであった。頭の中が決まったら、さあ出発であった。20分ほど休憩がとれた。

少し風も弱まったかと思ったが、それは一時であった。相変わらず強い。雪に伝われる所は雪を伝い、なるべくハイマツを避ける様に進んだ。斜面は揺る山でピークらしい所が見えるので簡単に思っていたら、本当のピークはその先で、それなりに歩かされた。18:26鉢ヶ岳ピーク。道が無いはずであるが、踏み跡がしっかりしている。急な岩場に付けられているので、あまり歩きやすいとは言えない。それでも鞍部まで降りると左から道と合流し一安心。雨脚が強くなり、日もかなり暗くなってきた。蓮華温泉への分岐を見たのか見ないのか判らぬまま通過。白馬岳を右に見ながら高度を上げる。完全に闇夜となると、もう何処が何処なのか判らない。夜から朝になるのと、昼から夜になるのでは、後者のほうがはるかに辛い感じがする。ライトを点けるが雨が反射して非常に見難い状態であった。それから周りが見えないので、コースに自信がもてないのもある。こんな時の道標はありがたく三国境はしっかりと確認できた。標柱の所にザックを置いて、ゴロゴロとした岩を上がり、最後は雪に伝って最高所に立つ。何もない闇夜の山頂であった。トレースをライトで映し出しながら標柱まで戻る。

 さてここまで来れば「下り」の位置づけとなり、少し元気に白馬大池を目指す。冬場でもかなりの入山者が居ると踏んでいたので、ここまで来れば大丈夫だろう。しかし夏道が出ていたのはほんの少しで、すぐに雪の斜面になり動きが取れなくなった。地形図を見ながら進むべき方向を定める。もうこうなると勘に頼るしかない。でもこの勘が今回は優れている。ぴたっと登山道に当たったのである。稜線に乗れば雪は溶け歩きやすかったが、道標が無い為か一縷の不安もあった。それでも雪が乗っている場所にはトレースがあった。先ほど雪倉で見たトレースであった。これで間違えることは無いだろうと安堵する。下の方には
下界の明かりが見えるようになった。なだらかに道は続いていた。

 20:57小蓮華山。オブジェのような標柱と、他に2つほどの標柱があった。山頂でぐるぐると回っていたら次に進む方向が判らずあわててコンパスを出して方向確認。この先はヘッドライトを頼り、勘で進んで行く。高度をどんどん下げて行くのだが、どこか南アルプスの聖小屋に向かうルートに似ているような感じがした。歩きながらそれを思い出そうとしたのだが、なぜか浮かんでこなかった。船越ノ頭は意識していないと踏めないピークである。夏道がどのように通過しているのか判らぬが、尾根の最高所を拾うように進み山頂を踏む。カメラ撮影しようとスイッチを押したが、起動しない。どうも寒さに晒され過ぎていたのかウンともスンとも反応しなかった。ここからは大池を狙ってぐんぐん高度を下げる。闇の中に白馬乗鞍岳の山容も確認できていた。それと池のシルエット。でもそれはあまりにも大きすぎてよく把握できない状態であった。

 白馬大池の畔に降り立ち、湖岸を巻き込むように左に進んで行くと小屋が見えた。これが白馬大池山荘なのだろう。運営はまだのようで静まり返っていた。乗鞍岳を目指し壷足で上がって行く。殆どこのあたりの記憶が無いのだが、たぶん惰性で上がっていたような、脳と体がリンクしない状態で歩いていたようである。ここは残雪期しか踏み入れないであろう場所であり、是が非でも踏んでおかねばならない所であった。かなり時間をかけてゆっくりと登頂。もうヘロヘロになっている自分が居た。そして再び自分のトレースを追って池の畔に立つ。

 ここからが今回最大に迷った。地図を見、行くべき方向は判っているのだが、道らしき場所が出てこない、大岩の右へ左へ探しても・・・。東の広い開かれた所をしばらく下ってみたが、行く先は藪に入る。道が無い訳は無い、この辺りはスキーハイクで動けるくらいだから道を当てにせずとも行けるとは思うのだが、現状の藪を目の前にすると進むのはギャンブルであった。再び大池に戻る。何度もこのように上がったり下がったりしながら道を探していた。そして迷う事1時間ほど、やっと道が見つかった。この時ヘッドライトのビーム光が役に立った。その場所は一等最初に見た場所で、ガレた場所があるなと見ていた場所は、登山道の石なのであった。もうこの時点で日は変わっていた。道は歩きやすくかなり踏まれている感じであった。今までの不安が払拭された感じで闊歩する。しかしそれもつかの間、再び雪に道は消された。地図を見ながら予想を立てる。一応天狗の露路らしき所があり、夏道に乗っていると堵していたのだが、全く違う場所であった。再び修正するように登り返す。しかし最近は体力がついてきたのか、このようなハードな場面でも疲れは出なくなってきた。

 登山道の確認できる所まで戻り、座って地図を見ていたらするっと手元から離れ、滑り落ちて行ってしまった。探しに降りたが、雪とビニールなど摩擦抵抗が無いのと同じ、奈落の底へ行ってしまった。この事態に頭が真っ白になった。今まで地図を頼りにここまで降りてきたのに、それが出来ない。あるのはエアリアマップ。もしエアリアも無ければ身動きも出来ないだろう。地図の大事さを痛感する。エアリアを見ながらもう一度コースを定める。何せ北へ向けば良いと、コンパスを決める。地図の尾根、現地、方向と、慎重に見ながら進んでゆく。早く道を探さねばと思うのだが、その気持ちに反して道などは見つからず、2200m付近を境に気持ちが吹っ切れた。歩きやすい場所を下ってみようと。広い斜面をどんどん高度を下げてゆくと、なんと道があるではないか。なんだろう今日は、行くところ行くところ、正解を出している。これは不思議でならなかった。野生の勘なのか、山の勘が植えつけられてきたのか。

 道を辿り行くと本当の天狗の庭が現れた。そこはロープが張られしっかりと道が示されていた。この先も同じように道をロストするのだが、何度も同じように見つけ出せる。不思議であった。何か自分の中に自信と奇怪さが入り乱れていた。それでも最後1900m辺りからは、直滑降のように斜面を降りた。地図では途中で右へ行かねばならないのだが、それが全く判らず、かなり左に下ってしまっていた。降りても降りても道や施設が出てこないので不安になっていると、その途中でなんと三角点を見つけた。平原にある三角点でこれまた珍しい。こんな場所の三角点は探そうとしても見つかるものではない。なんだろう今日は、不思議な日である。こんな事があるのだろうか。どんどん高度を下げると散策道のような場所に出た。そこは蓮華の森の付近であった。トレースが一つあり、それを利用させていただく。するとどうも見たことのあるものが目に飛び込んできた。往路に使った道である。どうやらキャンプ場よりかなり西に来てしまっていたようだ。それでも、もう場所が把握でき気持ちが楽になった。木道を進み、キャンプ場のトイレの裏に出て、あとは林道を辿った。

 蓮華温泉を5:00に通過。やはり誰かが居るのだろう、往路に見た車の向きが反対になっていた。何処から声がするようなのだが人の姿は見えない。露天風呂に入りたいが、そんな余裕も無い。ヒワ平までの予定を1時間と読み下りだす。歩き出すと予想外にも登り勾配が多いのである。なかなか足が前に出ず、太ももの筋肉痛が撓んで感じられていた。そして現象は始まった。先に誰かが歩いているのである。たまにこちらを向いているように見えたり、休んでいるように見えたり、そして近づくと消え、またはガードレールに変化したりする。何度も何度も同じような事が起こった。脳が疲れてきて幻覚幻聴が起こっているようであった。この時とても眠くなっていた。半分歩きながら眠っていたようにも思う。林道脇の残雪に腰を下ろし休むと一気に眠りに入った。その時間数分だろう。時計を見る事も無く再び歩き出す。こんな事を何回続けたか。それでも夢見平まで来ると頭もはっきりしてきた。なかなか着かないゴールにいらいらしながらストライドを延ばす。

 途中何か大きな音がした。その3分後くらいに、林道脇に大量のごみを見た。捨てたばかりのように見え、これを捨てた音のように思った。しかし音がした時間と自分がここに着いた時間、色々を考えても追いつくように思って下ったのだが人影は無い。そんな事を思っているうちにゲートに着いた。ゲートがあるので車は入れないはず。あの音は・・・。ヒワ平の駐車場には、山菜採りの車が5台ほどあった。今回の行動時間は30時間に近い。蓮華温泉からの下山には予定の倍の2時間もかかってしまった。でもそこでの体験は貴重であった。KUMO氏は、長駆で頻繁に幻覚幻聴を体験しているようだが、この私も今回それを体験する事となった。怖いとか苦痛とかは一切無く、なぜか心地いい感じであった。

 ヒワ平で9時まで仮眠をし、帰路に着いた。途中で何度も仮眠をとり、家には13:30到着。

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