この週末も天気が良くない。一体全体梅雨明けは何時になったら訪れるのか。世の中の夏休みに入った子供らも、こう週末毎に天気が良くないのでは行楽予定が狂っているのではないかと思う。そうこうしていると、今度は台風も発生し、次週には到来しそうでもある。いやはやちょっと酷い自然の思し召しではないだろうか。天気を気にしない私だが、こう連週崩れると、流石にウンザリと言うか、思い切って羽を伸ばせず悶々としてしまうのだった。
金曜日の帰宅後、いつものように地図を広げる。天気が悪ければ混み合う事は無いだろうと、芦安から広河原に入ろうかとも思った。上高地も少し静かであろう。などと頭に浮かべるが、いずれも登り残しの山に対して踏ん切りがつかない。登り残しと言えば、先だっての小槍も気になる。あのカンテ、次回上手く登れるだろうか。一発勝負も当然ありだが、どこかで練習をしようと考えた。カンテ形状を登る山、何処かにないかと頭を回らすと、たしか鳥甲山の切明からのルート途中にあったはず。山屋の遊び場であり、練習になるか疑問だが、白嵓もまだ未踏であり、落ち穂拾いとばかりに出かける事にした。
１：１０家を出て、すぐに上信越道に乗り信州中野を目指す。連週同じエリアに行くのは面白みがないのだが、これも天気のせいにする。トラックに紛れて走るが、やはり天気からか、動いている乗用車の数は少ない。信州中野で降りて、有料道路（無料時間）で志賀高原へ上がって行く。なぜかここで数台のトラックに煽られる。一台を譲ったら、また一台と現れる。深夜になぜに急いでいるのかが判らなかった。もしやとは思うが、ここを草津まで抜けて渋川側に出るのか、煽っていたのは貨物車両であった。蓮池からＲ４７１に入ると、こちらは深夜らしくのんびりと走る事が出来た。奥志賀寮前から、道標に従い栄村の方（右）にハンドルを切る。この辺りの路面は乾いており快適。危ないと言えば、僅かに睡魔が襲ってきていた事くらいであった。
４：００登山口に到着する。この天気に、物好きが居るかと思ったが、それは私だけであった。前日よく仕事をした（？）ので疲れが残り、少し仮眠を取る。少し風があり、その音を聞きながら快眠。ここでの外気温は１５度であった。４：４５目を覚まし、準備をする。岩場での練習用にクライミングシューズをザックに入れる。まあ練習になるかどうかは不明だが・・・。登山口の南側には、水場があり、さっと顔を洗って出発となる（５：００）。
いつものように雨具を履いているからいいが、足許はすぐに濡れていった。近年刈り払いがされていないようであった。それでも道形はしっかりしており、ブナの大木の中を、そのブナの実を踏みながら上がって行く。すると１１２０ｍ付近で、南側への道が分岐していた。これは地形図にもエアリアにも無い道であり、後での調査項目であった。道は次第に急登となり、そこに落ち葉があるので良く滑る。バランス訓練、足腰の鍛錬とばかりにスリップしないよう、足先に力を入れながら上がって行く。途中にはガクアジサイの群落もあり、綺麗なブルーを見せていた。そして空を見上げる。曇りであった空が、このエリアもブルー（青空）になりつつあった。雨の後でもあり、非常に多くのアカガエルがピョンピョンと跳ねている姿があった。その動きが多いので、登山道を歩きながら周囲を気遣う時間が長かった。ゴソッと動けば、人間誰しもそこを見てしまうものである。
１２８０ｍほどで尾根に乗る。登り上げると目の前に又七山側の大きな山容が見える。この景色は、自分が山深い位置に居る事を強く感じさせてくれる。進路が９０度右手に変わるのだが、ここからの尾根が展望登山道と言えよう場所で気持ちがいい。間にはいくつものピークがあるが、その配置バランス、さらにそこにつけられている登路も併せて絵になるのであった。当然の事ながら周囲の展望も良く、これから向かう白嵓に相対する赤嵓の姿もそこに見え、赤い南面の壁が緑に映え美しい。背中を振り返ると大岩山がデンと見え、以前登路に使った急登尾根が克明に見えていた。その右側には、今年の残雪期に上がった猿面峰もあるはずだが、佐武流山の山塊に飲み込まれてしまい、同定が出来なかった。それでもそこそこ山座同定が出来ると、登頂時の記憶が次々に沸いてくる。今は緑の苗場の池塘帯も、なだらかな姿をこちらに見せていた。
１４３７高点の先のピークには「４ ＳＭＣ」と書いたプラスチックプレートが残る。これは信州山学クラブのもので間違いないだろう。ここに至るまでに同じ留め具である緑の針金が残っていた場所があった。元々針金だけだったか、もしくはプレートが外されてしまったようだ。おそらくは数字は続き数字であるから、何処かに１～３までが設置してあったと考えられるが、真相は会の人にしか判らない。それはそれとして、さてこの先が思っていた岩場となる。２００名山の鳥甲山の登路でもあるので、ここにはしっかりとしたステンレスのチェーンが流されている。見上げても全く怖さのない所で、こんな所を「練習に」と思った自分を疑問に思ったが、その練習は下山時と、とりあえず越えてゆく。
目指す白嵓は真っ青な空の下にある。先ほどまで濡れるのを防いでくれていた雨具も、ここでは汗を掻く為のものでしかなかった。脱ごうか脱ぐまいか悩みつつ、脱ぐ動作が面倒なだけでそのまま突き進む。２箇所ほど北側斜面が崩落している場所があるが、怖さを感じる場所にはなっていなかった。それよりも、そのために植生が無く、崩落は切明側の展望の手助けをしてくれていた。それらの顕著なピークをポコポコと越えながら、地図上の１７０５高点を過ぎる。時折振り返りながら、志賀高原や信越国境側の深い山容を楽しむ。快適であり、道の良い状態まま山頂まで到達するものと思っていた。がしかし、１８５０ｍ付近から、両側から笹が覆う場所が増えてくる。すぐに濡れ鼠となり、両腕が忙しくなる。これは予想外であった。破線ルートであり、このくらいは想定せねばならないのだが、これまでがこれまでであっただけに、ここに来てのこの密生状態は意外だった。
７：２１白嵓到着。行政の標柱の根元にもＳＭＣの標識が置いてあった。迷う事無く、鳥甲山に向けて北進して行く。しかし足元の泥濘、さらに道形両側からのササの状態は酷くなる一方で、全身の濡れはさらに酷くなった。何処までこの状態が続くのか、この状態が続くなら戻らずに周回コースにしてしまった方が無難であり、白嵓から７分ほど進んだ場所で、とりあえず一度白嵓まで戻る事にした。と言うのも、まだ三角点を発見していないし、儀式も終えていなかった。先に進んだのは、それらの作業は帰りにすればとの思いからであった。
再び山頂に戻り、すぐにトランシーバーを握る。ここは長野であるが、新潟側の声が沢山入ってきていた。次に三角点を探す。地形図からは、登路の西側にあるように記してあり、適当に笹を分ける。すると僅か４ｍほど入った場所に、ポツンとあった。しかし、あまり探す人が居ないのか、そこまでは道が出来ておらず、笹を分けて入るような場所であった。まあここに来る人の殆どは、鳥甲山目当てであろうから、好事家しかここの三角点など探さないのだろう。さて考える。登山口の看板にはこの先１．７キロ（たぶん）と書いてあった。で、ＳＭＣの標識には２．６キロとある。どちらが正しいのかは判らぬが、地図からの平面距離は１．４キロほど、コースタイムは１．５Ｈとなっている。問題はササの植生である。日頃薮漕ぎばかりしているのだから、気にする事はないだろうと思われるかもしれないが、それは頭の切り替えが出来ているからで、今日は少々の危険地帯はあるが、笹漕ぎがあるとは思っていなかった。空を見て雲の状態を把握、麓側を見てガスの上がり方を見る。間違いなく下り坂、先ほどは周回も頭に浮かんだものの、今日の一番の目的は岩場での練習。その岩場での練習時に雨では困るので、結局鳥甲には登らずに下る事にした。それには、屋敷山がまだ踏んでおらず、また訪れるチャンスはあるのであった。この屋敷山、冬季に出向いた時に踏んで置けばよかったのだが、無積雪期には酷い薮らしい。流石のＫＵＭＯ氏も届かなかったそうだ。それにしてもここまで来て白嵓だけで帰る人は稀だろう。ここを伝う人の殆どは鳥甲山が目当てのはずだから・・・。
この山頂には、何処で繁殖しているのか蚊が多い。こんな標高に居ていいものかと思ってしまうのだが、色こそ黄色いが、体躯は間違いなく蚊であり、隙あらば刺してきていた。濡れた笹を分けながら暫く下り、それが終わると展望を楽しみながら下って行ける。山頂でしっかり濡らされたので、靴のグリップが悪くなっており、岩の上は良く滑っていた。登るほどに時間をかけて足を下ろしてゆく。
１４３７高点を手前にして、練習場にやってきた。幸いすれ違う人も居ないようだ。麓で声はしているものの、それは道路（林道）工事の関係者のようであった。登山靴からクライミングシューズに履き替えて、下から登る。ここで自分に３０本の往復のノルマを課せた。３０本とは多そうだが、距離が短く優しい場所なので大したことは無く・・・。ありとあらゆる岩の突起に足を置き、靴を知る。時に岩溝に入れて捻ってみる。痛てて・・・岩屋はこんな事をするのかと、慣れない靴に苦笑い。そう思うと、登山靴をはじめて履いた時も、各所が痛かった。当時を思い起こすように慣れない靴で奮闘する。それでも慣れると道具は道具と感じるようになってくる。濡れた南側の岩場でも試してみる。濡れた場所でのスリップも数度経験し、靴の特製や限界なども少しばかりか理解した。微妙に岩の面白さを感じるようになり、何度も何度もいろんなコース取りで上り下りを繰り返した。岩屋の人に見られたら恥ずかしいような場所であるが、靴に対しての情報がゼロだったのが、少しばかり判るようになった。３０本を終え、もう少しやりたいとも思ったが、それ以上に靴に対し足が悲鳴を上げていた。これも何度か履けば足が順応するだろう。
再び登山靴を履いて下りて行く。グリップの良いクライミングシューズで岩の上を歩いていたので、頭が切り替わっておらず、同じように岩の上に足を置いたら見事に滑落。岩のミックスした登山道を２ｍほど落ち、痛さを味わう。こうした痛みにより体が覚えこむのだが、こんな判りきったような事でさえも、体験しているのとしていないのではだいぶ違う。ミスが事故になってはいけないのだが、そこそこの経験は次に繋がる。あとクライミングシューズの中で曲げていた指先が、登山靴を履いて開けるようになると、指先空間の自由度があり、その指先が居場所に困っていた。面白いものである。
軽快に下って行くと、地図に無い分岐となった。伝ってみようかと思えたが、尾根に繋がるような場所で無く、何処へ降ろされるのか判らなかった。まあ雑魚川林道のどこかへ出るものと、この先は下山後に調査する事とした。ブナの実を踏みながら闊歩して降りて行く。日差しが時折強くなるが、振り返ると上の方はガスが覆いだしていた。
登山口に降り立ち、靴や雨具を洗ったりする為に水場に行く。汗をぬぐうように顔を洗う。塩ビのホースから出る水で無く、一段下がった場所から側溝に落ち込む水を利用していたのだが、よく見ると、その一段下がった流れの中には大きな鼠の屍骸があった。腐敗しており自然に戻りつつあったが、顔を洗いきるまで鼠と気がつかなかった。要するに屍骸を洗った水で顔を洗っていたのであった。自然の中なので、沢などでもこんな場合はあるのだが、登山を終え山の人から下界の人への変身途中でのこれは、けっこうショックであった。水を飲んでいない事が不幸中の幸いであるが、塩ビホースからの水で、もう一度顔を洗ったのは言うまでもない。それも最初より力が込められていたような・・・。
車に戻り最後の仕事と、分岐する道の登山口を探す。志賀高原側に林道を戻って行くと、ちょうど地形図に書かれている１０４０高点があるところから、山手側に切り開きが上がって行っていた。歩いていないので確信ではないが、他に結びつけられるような場所は無く、まず間違いないであろう。雑魚川林道内には、行楽に訪れた方、釣りの方、さらには雑魚川橋の所では沢下りを楽しんだのか、１５名ほどのずぶ濡れの方が居た。各々にこの林道に入り、趣味を楽しんでいたようである。湯田中に降り、風呂を浴びてから高速に乗ると、待っていたかのように豪雨となった。今日はいいタイミングで遊べたようである。
