布引山  2683m      鹿島槍ヶ岳南峰  2889.1m     鹿島槍ヶ岳北峰  2842m 


 アラ沢ノ頭   2680m                        

 
 2011.10.8(土)   


   快晴     単独       大谷原登山口より         行動時間:12H14M


@大谷原5:10→(51M)→A西俣出合6:01〜07→(81M)→B高千穂平7:38〜47→(53M)→C冷乗越8:40〜41→(10M)→D冷池山荘8:51→(59M)→E布引山9:50→(43M)→F鹿島槍南峰10:33→(34M)→G鹿島槍北峰11:07〜17→(42M)→Hアラ沢ノ頭11:59〜12:09→(47M)→I鹿島槍北峰帰り12:56→(36M)→J鹿島槍南峰帰り13:32〜37→(28M)→K布引山帰り14:05→(38M)→L冷池小屋14:43〜45→(14M)→M冷乗越14:59→(40M)→N高千穂平15:39〜43→(62M)→O西俣出合16:45→(44M)→P大谷原17:29 


ge-to.jpg  nishimata.jpg  tonneru.jpg  kumu.jpg 
@大谷原ゲート A西俣出合。モルゲンロート。 A大雨により、だいぶ押し出しがあったようで、以前と様子が変わっていた。 A右岸側で給水。堰堤を乗り越えて・・・。美味しい水であった。
tocyuunotenbouchikara.jpg  takachihodaira.jpg  takachihokashima.jpg  akaiwaone.jpg 
途中の大木脇から。展望休憩地。 B高千穂平標識ピーク。 B高千穂平から鹿島槍ヶ岳。この日は、中央の北峰から右端のピークを狙う。 赤岩尾根を行く。
garebatoraba.jpg  hiyanioxtukoshi.jpg  hiyanoxtukoshikara.jpg  hiyakarakoya.jpg 
ガレ場のトラバース。霜柱のせいか、頻繁に落石があった。 C冷乗越 C白く化粧した立山・剱が見事。 C冷乗越から鹿島槍側。
hiyaike.jpg  tenbatateyama.jpg  hyouketu.jpg  nunobiki.jpg 
D冷池山荘 テン場から立山側 池も結氷 E布引山
ushirogawa.jpg  nanpou.jpg  nanpoukarahoxtupou.jpg  nanpoukaragoryuu.jpg 
爺ヶ岳側を振り返る。 F鹿島槍南峰。この日は、9割の人がここを最終地点にしていた。 Fこちらの北峰を狙う人は、極僅か。たぶんこの日は7名のみ。 F南峰から五竜岳側。
nanpouhokuheki.jpg  turione.jpg  hoxtupou.jpg  minami.jpg 
南峰の北壁。岩場に雪が乗り、かなり真剣に降りないと危なかった。ここを通過できずに引き返している人も居られた。 吊尾根を行く。キレットへの分岐点。 G鹿島槍北峰。この日、二人目の登頂者。 G北峰から爺ヶ岳側。
seihokusei.jpg kita.jpg  tounantou.jpg  saisyono.jpg 
G北峰から南峰。頻繁に歓声が聞こえてくる。 G北峰から五竜岳側。 G北峰東端からアラ沢ノ頭を狙う。何となくの踏み跡が続く。 最初のいやらしい場所だが、ショートカットせずに、頂部のハイマツを伝っていった方が安全。雪で滑った。
akikan.jpg  kudaridashite.jpg  saisyonoheitanchi.jpg  tanibuwo.jpg 
最初の小さな平坦地には、デポ缶が朽ちていた。 途中で降りてきた場所を振り返る。 最初の平坦地。幕営適地。 尾根にある谷部に沿って下って行く。草の下は石があり、段差に注意。
kaitekione.jpg  hoxtupouwohurikaeru.jpg  hidarimaki.jpg  maitekita1.jpg 
至極快適尾根。さほど危険箇所はない。 快適尾根を振り返る。 しかしここでルートを過った。北側のザレ谷を選んでしまい、かなり難儀する。ちなみにこの谷の中にテントのポールが落ちていた。 伝って来た斜面。見た目で判らないが、かなり足場が流れる。
iwaba.jpg  menomae.jpg  arasawanokashira.jpg  arasawakashima.jpg 
北に巻いた最後は岩登りとなった。崩れやすい岩もあり、3mほどは真剣勝負。 アラ沢ノ頭の直下に這い上がった。ハイマツと雪の乗った境を行くのだが、手前の雪のある場所の先が、切れ落ちている上にハイマツが乗っているので要注意。 Hアラ沢ノ頭到着 Hアラ沢ノ頭から鹿島槍側。
mlq.jpg  higashione.jpg  maitekita2.jpg  yakisoba.jpg 
Hまさしくこれは、あの藪山登山家の絶縁テープ。 Hアラ沢ノ頭から東尾根。手前に見えているのが一ノ沢ノ頭か。 H右に見える斜面を下ってきた。正解ルートは、ハイマツの尾根の選択。 Hアラ沢ノ頭deヤキソバパン 
sancyoukarakita.jpg  haimatutai.jpg  hoxtupouhutatabi.jpg  nanpoukaeri.jpg 
Hアラ沢ノ頭の北側。垂直に切れ落ちている。  戻りながらアラ沢ノ頭を振り返る。ハイマツの中に、細い道形あり。  I北峰に戻る。相変わらず静か。 J南峰に戻る。相変わらず賑やか。
ushikubi.jpg  nunobikikaeri.jpg  tenba.jpg  hiyaikekaeri.jpg 
残雪期に伝った牛首尾根。 K布引山帰り。 冷池山荘テン場。花盛り。  L冷池山荘帰り。受付には20名ほど並んでおり、ビールが買えなかった。 
hiyanoxtukoshikaeri.jpg  tocyukaratakachiho.jpg  takachihokaeri.jpg  nishimatadeai.jpg 
M冷乗越。爺側からのハイカーが多い。  高千穂平へ向けて下って行く。  N高千穂平  O西俣出合 
ge-tokaeri.jpg  yochi.jpg     
大谷原ゲートに着くと1台の車が。ゲートを開けようとしていたが、素人さんのようであった。  P大谷原到着。     


 

 ここ最近、三連休がありすぎて困ってしまうほどの嬉しい悲鳴。今回の三連休は、晴れの得意日でもある体育の日があり、これまた問答無用の好天予報。ハイカーの多くは、こぞって長駆計画を実施したであろう。そんな中の私は1日しか自分で使える日がなく、日帰りの計画を練る。と言っても、3連休を意識したそこそこ長めなルート構成を考える。最初はジーッと南アルプスを見ていたのだが、途中から北アルプスに切り替えた。連休の渋滞が気になったのだ。そして行き先を後立山のアラ沢ノ頭とした。ここは残雪に伝わらないと行けない場所かと思っていたところ、既に登頂している赤い彗星、いや、赤い絶縁テープで有名な藪山ハイカー氏(固定ネームを発表しないから、こんな表記になる)から、「無積雪期でも伝える」とアドバイスを貰っていた。雪の上も楽しみにしていたが、雪の無い時にも行けるのなら・・・と決行を決めた。


 ここへのアプローチに一切の渋滞は無し。いつものように三才山トンネルを越えて行く。そうそう、トンネルの上田側、鹿教湯温泉の交差点にセブンが出来ていた。ここでも有料道路の割引チケットを売っているので、利用価値はある。大町に入り、いつものように爺ヶ岳スキー場を目指してゆく。漆黒の闇に無数の星。その数の凄い事。そして大谷原に到着すると、8台の車が停まっていた。さすが連休と言えるだろう。寝ている所を邪魔をしてはと、ゲート側に進み、橋を渡った先の左側の余地に停める。時計は3時45分。スタートをしたかったが、週中の疲れか体が重く、少し横になって休ませる。そして1時間ほど熟睡してから準備をしだす。車の外気温計は3度を示していた。週中は降雪もあったから、四本爪をザックに入れた。


 5:10スタートを切る。ヘッドライトを頼りに林道を進んで行く。途中右側に一ノ沢ノ頭への取付点があるが、夏道として公になったようだが、それにしてはその取付点は目立たぬままであった。夜が明けると稜線が赤くモルゲンロートとなる。この時間はけっこう好きな時間。顔を上げ高く見上げる。“あそこまで上がらねば・・・”。長駆でもあり、少し抑え気味のペースを貫く。早く行動したい場合は、疲れないように歩くこと。それが休む時間を減らし、結果として早く歩ける事となる。

 西俣のトンネル左岸では、ブルドーザーで均した跡がある。前回は草ぼうぼうの自然地形のような感じだったが、大雨のために土砂が乗ったのだろう、そんな雰囲気だった。右岸側に行き、堰堤の縁に乗って上流側に15mほど遡って川面に降りる。冷たい美味しい水で、750mlのプラパティスを満たす。そしてゆっくりと登山道に足を乗せてゆく。見える風景に、前回のここでの山行が甦る。秋ではあるが、周囲の色づきはいまいち。今年は紅葉の赤が茶色になってしまっているように見えた。それでも快晴、そして無風。これほどのお膳立ての日も珍しい。高度を上げて行くと、クッキリとした輪郭で鹿島槍の稜線が現れてきた。“今日はあそこまで行くんだ”とその綺麗さに再び意欲が増す。


 スタートから2.5時間ほどで高千穂平に到着。ここは行政の標識ピークで、本来の最高点はこの場所の北側に見えている。朝食をとサンドイッチを齧っていたら、下から声がして二人のハイカーが迫ってきた。そして軽やかに挨拶を交わす。違和感いっぱい。全く気配が感じられなかった。と言う事は物凄いスピードで来ていることになる。「何時に出てきたのですか」と聞くと、「6時です」と恐ろしい答えが返って来た。数学は苦手だが算数は出来る。要するに大谷原から1.5時間でここまで来ている。なんという速さ。そして心肺能力。全く息が荒れておらず、会話も普通。世の中はこれだ・・・上には上が居て、猛者の上に猛者が居る。するとその方から、「僕らより早い女性が今来ますよ」と言い、その言葉の後に、30代と思しきご夫妻が上がってきた。この両名も息が荒れていなかった。“今日はなんなんだ”心の中での率直な言葉だった。先に休憩に入ったので、先に歩き出す。しかし2パーティー4名には、軽く抜かされる。


 赤岩尾根を登りながら鹿島槍からアラ沢ノ頭に続く稜線をよくよく観察する。遠目には勾配がないように見えるが、凝視すると凸凹と連なっている。いやらしいのは白い事。雪が乗っているのはあからさまに見えていた。アイゼンはあるもののピッケルはない。後者を使うほどじゃないとしても、その白さが不安だった。ガレ場ではこぶし大くらいの岩が頻繁に落ちてきていた。周囲を見ると40mmほどの霜柱が出来ていた。おそらくこのためだろうと思えた。


 冷乗越に着くと、賑やかにも10名ほどが居た。そこに先行している4名の姿もあった。全く追いつかないのかと思ったが、追いついてホッとしたりする。登り上げた正面に、雪化粧した立山連邦が見える。特に剱岳は、険しさが増した感じに見えていた。その右側に連なる北方稜線がある。雪こそ纏わないが、空の青にクッキリとした輪郭で見えており、苦手である山座同定がし易いのであった。冷池小屋に向け下って行く。じつは、この界隈を無積雪期に歩くのは初めてであった。雪の上しか歩いていない私としては全てが新鮮なのだった。


 冷池山荘に着き中を覗くと、残雪期に入った時に居られた女性が居た。“春に牛首山に来た・・・”と喉元まで出たが、止めた。向こうがこちらを見ている目が、初対面の人を見る目であった。小屋周辺には流石の3連休の賑わいがあった。と言うより、ここに居る人たちは、前日からの人。話を聞くと、前日は暴風雨で、昨日と今日とでは天と地の差があると表現されていた。いい日に登れている。サブザックに切り替えて軽装で登って行く人が多い中に紛れて北進して行く。テン場には5張りが隅の方に張られていた。これからどれだけの花が咲く事か・・・。池塘の所は、厚さ10mmほどの氷が張っていた。当然だが夜はマイナス気温ということになる。足を進めてゆくと、雪を踏むようになってきた。30mmほどか、今季初のサクサクトした感触が、これまた新鮮だった。


 布引山もしっかりピークを踏み、目の前の三角錐である南峰を目指す。高速ハイカー諸氏の後姿がはるか先にある。時間差は10分ほどか。気持ちでは追いかけるが体は重い。マイペースで周囲展望を楽しみながら行く。左には、あの牛首尾根が見える。頑張って歩いた場所は、しっかりと記憶に残る場所となる。いつかは無積雪期に伝ってみよう。何度もカメラを構えながら、少しづつ高度を上げる。振り返ると、遠くに槍ヶ岳の姿があった。今日は全ての場所ですばらしい山登りが出来ているだろう。


 南峰に到着すると、高速ハイカーご夫妻の旦那さんの方から「お疲れ様」と声が掛かる。「ありがとうございます」と返し、すぐさま北峰を目指して進む。下りだしてすぐに、下から上がって来た方から、「この先、危なくて進めないよ」と声が掛かる。雪のせいだとはすぐに判った。その男性は、”俺が行けないから、みんなも行けないよ”そんな事を言いたそうであったが、そのまま降りて行く。確かに言わんとしている意味は判った。よく滑り、危ない。そしてここで滑れば怪我じゃ終わらない。慎重に足場を選びコースを選ぶ。そして何とか危険箇所の壁を降りきり、吊尾根を東に進んで行く。途中北俣本谷側で大崩落の音。山は生きているのだった。足跡を見ると、一人が先行しているのが判った。目で追うと、あの高速ハイカーの一人であった。もう一人は私の後から追ってきていた。ん、二人はパーティーではないのか・・・と不思議だったのだが、二人の間には20分ほどの時間差が生まれていた。そして高速ハイカーらしく、サッと北峰を踏んで、サッと戻ってきてすれ違いに会話をする。南峰の北壁は、今日は東の稜を伝った方が楽じゃないかと、私と同意し背を向ける。左にはキレット小屋が小さく見えている。その深さに静かな様子が感じられた。


 北峰到着。今日二人目の登頂者となる。360度のパノラマを撮影し小休止。さてここからが本番。冬季の猛者ハイカーが伝う場所であり、東尾根は良く歩かれる場所。それによる踏み跡はあるだろうと思っていた。上から見下ろすと、それらしい筋が尾根上に続いていた。よし行ける。最初は岩に乗りながら降りて行く。周囲はハイマツだが、岩が階段状にあり、それがルートであった。そこを降りると、背の低いハイマツの中を行く。そう進路を邪魔するほどでなく、快適に歩いて行ける。そして僅かに右(南)に屈曲する場所がある。岩場と草つきが半々の場所。この日はそこに雪が乗っていた。その結果、体を強張らせて伝う羽目になる。ここは尾根上を忠実に伝い、ハイマツを踏みつつ、右に折れてゆくのが正解であった。この先は至極快適。途中には、デポ缶なのだろう、朽ちた茶色い金属が堆積していた。これにより冬季通過場所と言う事が感じられた。ここも僅かに平坦だが、この先、テントを張ったら気持ち良さそうな草地の平原があった。

 アラ沢の頭はまだ先。どんどん高度を下げてゆくのが勿体無く、また登り返さねばならない事が脳裏を過ぎる。谷部の中が道になっているような場所もあり、そこはブッシュの下に見えない岩があり、注意して足を下ろして行く。それにしても快適。かなり構えていた場所であったが、怖さより気持ち良さを感じていた。しかしそう思ったのもつかの間、2670m付近から最終到達地点を見ると、その先に大きなキレットがあるように見えていた。地形図を見ても等高線の小さい丸、すなわちアラ沢ノ頭がポツンと存在し、その西側は鞍部が出来ているのが判る。急激に落ち込んでいるのかと思え、この2660m付近から尾根を逸れて尾根北側の斜面を下り、鞍部まで巻き上げようと決めた。下りだしてすぐに後悔するのだが、ザレ斜面はかなり足が流れる。流れる場所の筆頭は池の平ガリーと思っていたが、ここはその上を行くようなザレ具合。しかしなぜかその途中にテントのポールが丸々一本落ちていた。雪に流されないのが不思議であったのだが、一部はザレに中に刺さっていた。どうしたのだろうか持ち主は・・・利用したのは厳冬期なのであろうから、その時の行動を心配してしまった。しかし、今は他人の心配より自分。ザレが嫌で少しだけ南に寄るが、滑り易い濡れた岩場。足掛かりも手掛かりも薄い。かなり真剣勝負になってきた。もうすぐ山頂だというところでこの試練。途中からザレを離れ、南の岩壁を這い上がり鞍部を目指す。その鞍部の下がちょっとした岩登り。持つと崩れる岩もあり、確かめつつ慎重に上がる。そして鞍部に上がって西側を見る。やられた。尾根を素直に伝って来ればよかった・・・。鞍部の先はハイマツとの際を進むのだが、気を抜くと踏み抜いてお陀仏の箇所が一箇所ある。登りだしの最初が、ハイマツに隠れて足場が抜けているのが見えない箇所があり注意だった。最後は南側から巻き上げるようにして山頂に到着。


 アラ沢ノ頭に到着。まずはなぜか高千穂平を見下ろした。さっきはあそこからここを見上げてたんだと・・・。次ぎに鹿島槍方面。ずいぶんと高く聳えて見える。標高差は200mほど。東尾根の先を見ると、それであろう一ノ沢ノ頭が見える。あそこからここを見上げたのはいつだったか、まさかここに立つとは思わなかった。山頂のハイマツの中を弄ると、赤い絶縁テープが出てきた。この筆跡、間違いなくあの藪山ハイカーの残した物。ただし標高の数値が事典と違っている。正確無比な氏が珍しいと思えた。そこでもう一度地形図を眺めて北峰からの等高線を数えた。すると、この場所は2680mと読み取れた。等高線一つ違えているが氏の表記で凡そは合っている。一方の事典では2630mとしているので、こちらが違っている様子。その2630mのそれらしき場所を探すも、それらしき顕著な場所が無いから、ここの座標で間違いなく、標高表記が違えているのだろうと思えた。あとはエアリアマップでの表記は、この場所のさらに東側を指して2618高点として表記している。その場所の地形図読みは2640mだった。少し混雑してしまうので、座標は事典の位置を参照し、この場所でヨシとした。昼食のヤキソバパンを齧りながら大展望を楽しむ。大自然に抱かれた感じがして気持ちがいい。それでも外気温は5度ほど。鼻の下には、恥ずかしげもなく鼻水が・・・。大休止のあと、登り上げる。


 北峰にゆっくりと登り上げて行く。ほぼ100パーセントで尾根の頂部を拾ってゆく。やはり薄っすらと踏み跡がある。獣でなく、間違いなく人の痕。今年も雪が降ると、ここを伝う人が居るのだろう。亀のような歩みで現地を味わうように登り返す。首を上げると、上からこちらを見下ろしているハイカーが見えた。どんな思いで見ているのだろうか。と言うより、展望を楽しんでいるだけで、見えていないのかもしれない。200mmを這い上がり、北峰に到着する頃には誰も居ない山頂になっていた。相変わらず賑やかな南峰。頻繁に歓声が聞こえている。歓声と言うよりは、通常の会話なのだろうが、この距離があり、これだけクリアーに声が聞こえてくるのも不思議でならなかった。吊尾根を戻って行くと、若い単独の女性もすれ違って行った。雪の残るソールパターンを見ると、既に4名が北峰に向かって戻った様子。彼女の他に、その先で2名の男女とすれ違う。これで計7名が北峰側へ進んだ事になる。南峰の北壁を慎重に上がって行き、南峰に戻る。


 南峰に戻った頃には、周囲はガスに覆われていた。今日は午前中が大当たり、この頃に登頂する人たちに対し、あの大展望を知っているがばかりに少し可哀相でもあった。でもこんな時にはこんな時の楽しみがある。ガスに粒子が遊び心を
出してくれ、ブロッケン現象が頻繁に出ていて、山頂のハイカーは大喜びであった。そんな歓声を背中に下山に入る。腰が痛いので、今日はゆっくりと膝の屈伸を気にしつつ降りて行く。周囲の山々もガスに覆われ、後立山らしい景色になっていた。布引山は直下を通過し先を急ぐ。テント場まで戻ると、そこでは見るも綺麗にテントの花が咲いていた。天候も良いので、そこに居るハイカーはみんな笑顔。これから楽しい一晩が・・・。ただしこれだけ混み合うと、この個室もかなり煩く、小屋泊まりと似たような雰囲気になるではないかと思えた。

 
 冷池小屋。入口には申し込みの長蛇の列で、ビールさえも買えない。さすが連休。そしてメジャーな場所。南側の水を売っている所に6名のスタッフが居たので、代金を払うからビールをこの窓口で売って欲しい旨を言ったが、聞き入れてもらえなかった。少なからず売り上げになるのに・・・しょうがないので、持ち上げた水で喉を潤す。ま、降りねばならないので、これはこれで正しい行動なのかもしれない。飲酒歩行、それも夕暮れ迫る中。笑われないように行動するのも単独行者の大事な部分。大きく下って登り上げると冷乗越。爺ヶ岳側から20名ほどが降りて来ていた。今日の山荘は凄い賑わいのよう。全てはこの天気からか。


 分岐点からは休まずに降りて行く。上から見下ろすと、往路では見えなかったような秋の彩が見えてきた。光の加減なのだろうか、紅葉した斜面があった。ただしいまひとつ綺麗ではない。ズンズンと下り、高千穂平で小休止。振り返ると、既に冷池山荘付近の稜線は深いガスに覆われていた。良いタイミングで降りてきたよう。さらにズンズン下る。沢の音が最初は遠く、下までの長さを計る。それがだんだんと近くなると、自ずと早足になる。早く下に降りたい一心なのだった。それでも、気をつけないと階段状に造ってある梯子などの足場が滑り、二度ほど転倒。我が非力さを痛感するのだった。


 西俣に降り立ちトンネルを潜る。上の方は紅葉だったが、ここから先はブナ林の新緑のような若葉色を愛でながら戻って行く。雪を見て、紅葉を観て、そしてこのブナの色。自然のもてなしに大満足。少し早足で歩きゲートに到着。すると1台の車がヘッドライトを点けながらやって来てその前で停まった。ゲートを開けようと作業しだしたので関係者かと思ったが、数分後諦めて引き返して行った。ここに初めて来た人なのだろう。確かに地図にはゲートは書いてないから、面食らったのかも。駐車余地に戻り、山行を終える。


 振り返る。北峰からの稜線は、無積雪期でも十分歩ける場所。さらには気持ちの良い場所であった。全く危険がないといえば、それはウソになるが、それでも優しい尾根であった。いつかは冬季に伝ってみたいが、踏んでしまった今となっては先の話になるだろう。今回は良い天気に恵まれ、最高に気持ちが良かった山歩き。快晴無風。

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