以東岳 1771.4m オツボ峰 1640mm 三角峰 1520m
2011.9.10(土)〜11(日)
一日目: 曇りのち小雨(上層強風) 同行者あり 泡滝ダムより大鳥池経由直登コース 行動時間6H6M
二日目: 晴れ(朝方強風) 同行者あり 以東小屋よりオツボ峰経由で大鳥池に戻る 行動時間5H27M
@泡滝ダムP7:37→(60M)→A冷水沢8:37→(24M)→B七ッ滝沢9:01→(70M)→Cタキタロウ山荘10:11〜26→(4M)→Dオツボコース分岐10:30→(157M)→E以東小屋13:07〜15→(4M)→F以東岳13:19〜13:21→(4M)→G水場下降点13:25→(6M)→H以東小屋水場13:31〜33→(10M)→I以東小屋に戻る13:43
J以東小屋5:44→(7M)→K以東岳5:51→(51M)→Lオツボ峰6:42〜43 →(33M)→M三角峰7:16〜17→(66M)→N大鳥池湖岸分岐8:23〜33→(4M)→Oタキタロウ山荘8:37〜54→(51M)→P七ッ滝沢9:45〜57→(18M)→Q冷水沢10:15→(56M)→R登山口駐車スペース11:11
@泡滝ダム下路肩駐車スペース。広く快適。 | @泡滝ダム登山口 | 登山道は刈り払いがされ、とても快適。 | 小滝。水量豊富。 |
水場のほとんどで杓子が設置されている。 | A冷水沢 | A冷水沢の道標 | B七ッ滝沢 |
七曲に入り、ここも水場が豊富。 | 七曲の上部。 | Cタキタロウ山荘。管理人常駐。 | C小屋前から大鳥池。 |
黒い影が水面を走ったような・・・。 | Dオツボ峰コースと直登コースとの分岐。 | 直登コースは大鳥池南岸に行く。 | 南岸のところで、少しルートファインディングが・・・。周囲をよく見よう。 |
直登コースに入って行く。足場の悪い所が続く。上層に行くと、流れで土か削られ、這い上がるような場所が多い。 | 直登コースは、途中の水場が判らないままにここまで来てしまった。 | E以東小屋到着。すばらしく綺麗な小屋。 | とりあえず山頂に向かう。15mほどの風が吹いていた。 |
F以東岳山頂。 | F一等点 | G以東小屋横から水場に降りる。 | H冷たく美味しい水。 |
I以東小屋に戻る。 | I小屋内部。1階。銀マット常設。 | I2階の様子。上の方が暖かいので、今回は上を利用。 | ビールで秋を感じ |
ヤキソバパンでも秋を感じる(本当か!) | 山形在住と言うフランス人も元気に登って来た。この日の小屋泊まりは4人のみ。 | J二日目スタート。朝は20mほど吹いており、やっと進んで行く。 | 水場側の花畑。 |
K以東岳再び。 | K中先峰側の稜線。 | 朝日とガスと稜線と | アップダウンを繰り返しながら。正面は特異な岩峰。 |
途中の岩峰から振り返る。 | 沸き立つガスが緑に映える。 | ブロッケン現象(中央に小さく)。 | Lオツボ峰。道標は少し下がった場所にある。 |
Lオツボ峰から大鳥池を見下ろす。 | 三角峰には登山道は通らず、山腹を巻いている。 | 三角峰側の水場への道もしっかりしている。 | M三角峰山頂の基石のような自然石。 |
M三角峰北側。こんもりした低木の山頂。 | M三角峰から以東岳(右)、オツボ峰(左)。 | 石畳の登山道。この辺りから三角峰に突き上げると伝いやすい。東に寄り過ぎると藪が深い。 | 三角峰からの尾根ルート。 |
途中の池塘。鮮やか!! | N大鳥池湖岸の分岐点まで戻る。 | N湖面を渡る風が涼やかで、しばしここで休憩。 | Oタキタロウ山荘到着。 |
Oタキタロウ山荘内部 | P七ッ滝沢。靴を脱いで沢で水浴び。かなり気持ちがいい。ただし川底は至極滑る。 | Q冷水沢通過 | サルの出迎えもあった。慣れているのか、あまり逃げない。 |
登山口まで戻る。 | R駐車スペース。 |
前週は台風に翻弄された生憎の週末だった。一転して今週末は好天模様。一部、台風からの雨雲が日本海側に長く伸びていたが、日本アルプスのほとんどでいい天気のようだった。そこで後立山にでも上がろうかとも思っていた。でも前週のフラストレーションを抱えたハイカーが挙って上がる・・・混雑は・・・。そこに、六合村の白砂山に連れて行って欲しいとリクエストがあった。私の本心は、既に2度登頂しているのであまり興味なし。リクエストがあったものの全く違うエリアの地図を眺めていた。
夏場に東北(北海道)に出向く。我が仲間からは、毎年恒例の「北海道に行って来ます」「行ってきました」の報告が入ってきた。私も季節労働者のように、決まって北に出向いていたのだが、昨年に続き今年も行かずじまいになりそうだった。ここは行かなくては・・・。そんな中、以東岳が目に留まった。大きな朝日山塊の北にあり、なんと言っても抱き合わせで楽しめる大鳥池は魅力。あの大魚伝説のタキタロウが棲むという事で有名な湖。山容に美しさに加えて、神秘さが加味される訳であり、グッと気持ちは前に向く。ここで、日帰りか泊まりかの判断になるが、単独なら日帰りで間違いなし。しかし同行者が居る。準備するザックの中には、シュラフを突っ込んだ。そしていざ出陣。
関越道で新潟中央に抜け、その先日本海東北道で快調に村上まで抜ける。そして高速のような(個人的に)国道7号線を鶴岡に向かってひた走る。ナビは三面ダム経由の朝日スーパーラインを何度も案内するが、無視して北上。この判断は正解で、あとからタキタロウ山荘の小屋番に聞いたら、3年以上不通のままだと言っていた。鶴岡に入ったら、山形道に絡みつくように国道112号を山形に向ける。そして旧朝日村の役場の所から大鳥川に沿うように荒沢ダムに向かって行く。その荒沢ダムの二つの長いトンネルは狭く、テーマパークのアトラクションのような楽しさがあった。
大島地区からは左の道に導かれ、東大鳥川に沿って進む。途中からダート林道になり、土煙を上げながら快走して行く。しかしそれはオフローダーだからであって、一般乗用車は起伏で底を擦るのか、亀のように走っていた。少しイライラしながら後ろにつくのだが、しばしで道を譲ってくれ、またまた快走。ダート林道を時速60キロほどで走っていたのだから、ほとんど暴走だったかも。そして登山口駐車場に到着(経路6時間)。見て驚いた。既に20台ほど並んでいた。“こんなに入山者があるのか、さすが200名山”と思えた。咄嗟に小屋が心配になった。急がねば小屋が一杯に・・・。周囲にも出発を控えたパーティーが2団体。その人数に、益々行動を急いてしまった。
駐車場からスタートする。すぐに登山口と判る標柱の場所を通過し、山道に入って行く。すばらしくよく管理された道で、刈り払いがしっかりされ綺麗な道となっていた。進路右手側にある大島川の流れも後押ししていて周囲の景色も見事。自然を愛でながら歩くには最適な場所であった。小滝があったり杓子が用意された水場もあり、飲み水においても不自由なし。そしてブナ林を抜けると、一気に前方視界が開け、僅かで冷水沢を吊橋で渡って行く。渡りきった先に分岐道標があるのだが、ここから派生する道が、ゴウラ沢の方へ向かう道のようであった。
今日はルート上に蛇が非常に多かった。たまたまなのか季節的な部分なのか。一度踏みそうになり、「わっ!」と声を上げてしまったほど。そして捕食される側なのか、蛙の数もかなり多かった。冷水沢の吊橋から25分ほどで二番目の吊橋がある七ッ滝沢を渡る。そこからしばらく直線的な左岸側の登山道を行く。この辺りで、すれ違う人がちらほらと現れた。時計は9時半。上の小屋から朝に出てくると、こんな時間なのかと行動を読む。九十九折に入ると、そこが七曲り。注意書きに従って、しっかりとルートを外さぬように登山道に伝ってゆく。そして登り上げた乗越しの所には、標柱でありながら絵で描かれている楽しい案内表示があった。ちょっとした工夫が、目を引くものになっていた。そこからは大木のブナ林で緑が眩い。その木々の間からは黒く湛える大鳥池が見える。もう既に神秘的。とうとう来たか・・・。
緩やかに下って行くと右側に分岐道があり、足を踏み入れると白いタキタロウ山荘がデンと待っていた。山荘の前には腕章を付けた方が居られ、この方が小屋番であった。何処かの山岳会の方のようで、登山のモラルに関して厳しくはっきり物を言う方であった。談笑をしながら小休止。湖での釣果を聞いたが、最近はあまり釣れなくなっているとの事。ここに居て全てを見ているのだから、言っていることは間違いないだろう。有人小屋であることから、ここのトイレはとても綺麗。そして沢水がトクトクと流れ出ている水場は、夏場には嬉しいほどの涼が得られる場所であった。少し小雨模様になり、傘をさして対応。湖の東岸をへつるように進んで行く。
オツボ峰コース分岐を左に見て、南進して行く。やや足場の悪い所もあるので、この日のように雨の場合は慎重に通過しないと、湖に水没もあり得る。そして南岸に出ると、ちょっとルートが不鮮明。方向的にそのまま南に向かいたくなるのだが、ここでのルートは、尾根に取り付くように西に向かう。その入口にはリボンがあるのだが、夜行だったら右往左往するような場所に思えた。山道に入ったらもう間違う事はないのだが、土が流され足場の悪いルートとなっていた。特に上に行けば行くほどに荒れている感じであった。途中で樹林帯を抜け出すも、周囲は完全にガスの中。下を向き、足許に注意してコツコツと歩くのみであった。そんな中、リンドウの紫色が鮮やかに目に飛び込んでくる。それを見つつ、“もう秋なんだ”と思うのだった。視界があれば周囲を見渡しながら登れ、気持ちいい場所なのだろうが、仕方なし。明日の好天に期待。
以東小屋到着。すぐさま中に入るも、その綺麗さに驚いた。床には銀マットも敷かれ、利用者用のゴム草履も沢山揃っている。こんなにいい小屋だとは思わなかった。少しでも暖かい所と二階で寝ることとし、何も無い空間に我が荷物をドカッと降ろす。既に誰か到着していると思ったのだが、駐車場に在った車に対し拍子抜けな状況だった。“いったいみんな何処に”と普通に思った。荷物を置いて、とりあえず山頂を目指す。平均15m/sほど吹いており、風上に体を斜めに入れつつ歩くような様だった。
以東岳。最高所の少し下に標柱が建ち、三角点の場所が最高所の場所となっていた。見ると一等点。当たりくじに当たったような喜びがある。しかし視界なし。よってすぐに下山。小屋に戻り、プラパティスを持って水場に降りて行く。ロープが流してあり、それが道案内。そのロープを右へ左に跨ぎながら降りて行く。周囲は花畑があり、白や黄色と目を和ませてくれていた。耳を澄ましながら流れを感じる。だんだんその音が近くなり、この水場に辿り着けるのも、生きる為の必要不可避なものを探し当てたようで、満足感が得られる。ここにも杓子が用意され、まずはそれで飲んでみる。美味い。そして冷たい。タキタロウ山荘の小屋番が、「あれは美味しいよ」と言っていた意味を実感。水量も豊富で、すぐにプラパティスは満たされた。そして重い足取りで登り返してゆく。今日は6時間ほどしか歩いていないのに、やけに疲れる。運転の疲労も加味されているのだろう。
小屋に戻り遅い昼食。ビールを開け、完全に停滞モード。まだ14時にもならないような時間。でもたまにはこんなマッタリもいい。銀マットの温かさを感じながらの昼寝となる。小屋の外は強風が吹きすさぶ。このギャップもまた楽しく、生きている感じが強くする。目を覚まし、またまたビール。そして夕刻になり、今日はもう誰も来ないのかと思っていたところ、外で声がしだした。出てゆくと外国人であり、少し構えてしまった。声をかけるとフランス人だった。外国人らしい軽装で登って来ていたのだが、足許はズックに薄手の靴下。いやはや、日本人と体力も耐寒温度も違うようだが、その様子からは強さを感じるのだった。「ねす ぱ ふろいど?」なんて聞いたら、普通に日本語で、「ぜんぜん寒くありませ〜ん」なんて返って来た。楽しい方で、トイレ脇の水溜が風呂桶なのだが、その水溜めに「これお風呂ね」と入ろうとしていた。彼らも、まずは山頂に向かう。彼らの思考は極めて自然派、「ここに来たからには、今日と明日のチャンスがある。今日はダメでも、明日はいいかもね」とポジティブさがあり、自然の楽しみを心得ているようであった。山頂を踏んだあとに水を汲みに行っていたが、見ていると必要以上に汲んでこない。我々なら入れ物一杯に汲むのが順当だが、ここでも思考や生き様に少し考えさせられる場面があった。小屋の中に入っても、驚くほど静か。外国人にしては珍しいと思っていたのだが、これにはからくりがあった。彼らが下のタキタロウ小屋で休憩している時に、とくとくと小屋番に小屋利用の指南を受けたらしい。小屋では静かにと・・・。その事は下山時に小屋番に聞いたのだが、以東小屋に居る時には、凄いモラルのある外国人ハイカーだと思え。さすが国立登山学校のある国は違うなーと思ったのだった。
夜半は風が止んだが、また翌朝3時くらいから強風が吹くようになっていた。満月のわけであり、晴れていれば月明かりの中で山々のシルエットを楽しもうと思っていたが、周囲は真っ白。当然のようにシュラフに包まっていた。ここでの携帯は、繋がったり繋がらなかったり、よって非常に電池の消耗が早いのだった。持ち上げたdocomoとauで試したが、双方での通信状態はシンクロしていた。4時半頃から朝食とし、おかゆを食べる。よく見るとそこには100Kcalと書いてある。と言う事は手っ取り早くウィダーを流し込んだ方がエネルギー量を得られるのだった。胃の満足感と、エネルギーの正味部分が天秤となるが、食に拘りがない私としては、ウィダーでいいと思ってしまう。つまらない奴なのだ。フランス人の寝顔を見ながら出発の準備。嬉しい事に夜半は誰一人イビキをかいていなかった。静かな静かな山小屋なのだった。
外に出ると躊躇したくなるほどの強風。全身を雨具に包み2日目のスタート。覆われていたガスが、ゆっくりと取れてきているのが判る。好天傾向であり、狙い通りの大展望を楽しみながら尾根歩きが出来そう。以東岳からは、昨日は見られなかった寒江山側の展望が得られた。中先峰を含めて一度は縦走しておかねばならない場所。しっかりと目に焼き付ける。ガスの中からクッキリとした輪郭で真っ赤な太陽が姿を現す。一気に数度周囲温度が上がった感じがするのが不思議。次の小ピークに向けてハイマツの中に切られた道を行く。朝露で足元が濡れるかと思ったが、一級の登山道であり、それは回避できていた。アップダウンを繰り返し、途中の岩峰は西側を巻き込むように進んでゆく。そして1722高点に立つと、願ってもない自然の演出。ブロッケン現象が現れた。思うほどクッキリしていなかったが、嬉しい自然の持て成し。光輪を従えた自分の姿にしばし見惚れる。この時に腕を上げたり下げたり動かしてみた。映る姿には、それらの影は反映されないのだった。影をコントロールできない神秘さが、ブロッケン現象の神々しさなのだろう。久々に体験し、かなり嬉しかったりする。そのガスが晴れると、下の方に大鳥池が黒く見えてきた。これまた神秘的なのだった。
オツボ峰は、分岐点ピークと言える場所で、以東岳側からだと、それまでの高い位置から下って到達する場所であり、いまひとつ山の感じがしない通過点のような場所だった。最高所から4mほど標高を上げた場所に、出合川への分岐道標がある。しかしほとんど朽ちていて判読不能。さてここからが緩やかな気持ちのよい場所。進行方向にスクンとした三角峰があり、周囲展望もなだらかで優しい表情。そして馬蹄形のように歩いてきた稜線が目でトレースでき、そのスタート地点の以東小屋が小さく見えていた。足許にはマツムシソウやリンドウの秋の花が咲く。気持ち、周囲から甘い香りもしてきていた。
三角峰を先にして水場分岐があるが、水場への道もしっかりしていた。三角峰はの南側を登山道が横切っているのだが、これまでのルートと違い、ここだけ石敷きの登山道に変わる。進路の先に目立った大岩が見えるが、その先で石敷きになった辺りから、三角峰の最高峰へ駆け上がる。最初こそ膝上くらいの笹原だが、東に寄り過ぎても西に寄り過ぎても、藪漕ぎが深くなるので注意。最初は東側に寄り過ぎて、背丈ほどの中を漕ぐはめになった。こうなると山頂が見えているものの、進度が極端に遅くなる。次ぎに西側にズレるも、やはり場所を選らばないと同じ事であった。最良なのは真っ直ぐに北に突き進むルートどりであった。
三角峰到着。山頂にポツンと花崗岩風の石がある。三角点ではないが、それに類する存在感。それ以外には何もない低木の山頂であった。生憎ガスが覆い出し、北側の展望は塞がれ、見えるは南側のみ。またまた馬蹄形の中をルートを思い出すように目で追ってゆく。ここから北が見えれば、無数の池塘群が見えるかと思って楽しみだったのだが、ちと残念。往路を戻り、登山道に乗る。当然のように履いていた雨具はびしょ濡れとなった。ここからの登山道は、上層がなだらか、下層に行くほどにやや急になる。それでも直登コースを下る事を考えれば、優しいルート。少し下ると、右側に池塘が見えてきた。池の周囲が緑緑していてとても美しい場所となっていた。心が洗われる美しさと言えようか。
ブナ林の中の通過。そこではいたずら書きの切り刻みが痛く目に入ってくる。ちょっと勘弁して欲しい所作。一度やってしまったら修復不可能。折角のブナ林が、少し品のない場所に思えてしまうのが残念だった。しばらく風が収まっていたが、この頃からまた出だしていた。空を眺めると、その風とは別の方向に雲が流れていた。稜線も強風が吹いているようであった。ずんずんと降りて行き、湖岸の分岐点に到着。タキタロウ山荘からの談笑が聞こえる。すぐに行こうかと思ったが、湖面を渡ってきた風が気持ちよく、分岐点の石に腰掛けしばし休息。風が作る湖岸に打ちつける波音が心地よく、長居したくなるような雰囲気だった。目を凝らすと、何の魚か幼魚も見える。秋であるものの、その泳ぐ様には春を感じたりもした。気持ちいいもののこのままここに居る訳にも行かず、タキタロウ山荘に戻って行く。
タキタロウ山荘に着くと、小屋番が「おう」と声をかけてくれる。そしてフランス人の詳細を伝えてくれた。15時半頃まで、ここでビールとワインを飲んでいて、てっきり泊まると思ったら、上を目指すと言ったそうな。小屋番の話と上で会った時間とを合わせると、2時間ほどで登り上げてきている。体の大きさに比例しているのか、凄まじいパワーと思えた。またまた長話になってしまうのだが、震災以降の今年は、利用(入山)者が通年の4割減だそうだ。あまり聞きたくなかった言葉だが、「東北の観光はダメだ」とも吐いていた。本人も言いたくはないが現実なのだろう。そしてここは、登山ブームに全く乗らない場所とも言っていた。「食事を出してくれる小屋はなく、重い荷物を背負わねばならない場所。山ガールなんかこんな所来ないよ」なんて表現していた。確かに有人小屋はなく、寝るにもシュラフ必携。それ相応の装備は必要。逆を返すと玄人好みの場所とも言えるか。またまた長話が終わりそうもなくなり、「下ります、また来ますね」と区切りの言葉を出す。
ブナ林を抜けて、下降点から七曲りを下って行く。途中途中の美味しい水を戴き、時にそれで顔を洗ったりし、ルートのお膳立てがとてもハイカーに優しいのであった。七ッ滝沢まで降りたら、そこで靴を脱いで水浴びをする。そう、そうしたくなるほどの陽射しに変わっていたのだった。白い大岩に腰掛け、冷水に足を浸ける。すぐにジンジンと冷たさを感じるのだが、それまでの疲れがスーッと引いてゆく様であった。日頃はこんな事はあまりしないのだが、今回は時間の使い方がユルユル。何も急ぐ事はないのだった。10分ほど休憩し、再びザックを背負う。
吊橋を撓ませながら渡りきり、リフレッシュした足が快適に飛ばしてゆく。すれ違う人もちらほら。大きな三脚を杖のようにして登って行く方。あと、ここで知ったのだが、大鳥池までのハイキングに来ている人も多い。登山口からの時間からしても適当なのだろう。そして目的地として、山頂に値するほどの場所でもあるから。復路も沢山の蛇を見る事になった。冬季前の日向ぼっこなのだろうが、太いのがいると、やはりドキッとする。こうなると周囲を楽しむ視線が、やや足許に向けられる。左耳から首にかけてを夏日になった日差しがジリジリと焼く。そしてまだ居たのかと思えるほどに、クマゼミが“ジィー”と鳴いていた。冷水沢を越えて、その先からはまたまたよく刈り払いされた一級の道。快適も快適。透明な涼やかな大鳥川が、耳と目を和ませる。すると、目の前にサルが・・・と思って周囲を見ると、居るは居るは。みな逃げないところをみると人馴れしている様子。「わるいな、邪魔して」と声をかけつつ通過して行く。しかし丁重に通過したが、上から石を落とされた。不可抗力と思いたいが、これもまた自然界。
登山口に到着する。ユルユル山行であったが、とても充実感のある山旅となった。一日目のガスに覆われた様子に、どうなるかと思ったが、二日目に大展望を楽しめたことが一番の部分。以東小屋の居心地の良さも、充実感に大きく影響している。あの天気の中、日帰りしていたら疲れただけの山となったかも。山を楽しむのには、余裕を持った行動も必要かと思えた。