爺ヶ岳南尾根途中敗退
  


 2011.4.16(土)   


  晴れのち雪(暴風雪)    単独       爺ヶ岳南尾根          行動時間:5H49M


@柏原新道登山口5:12→(231M)→A2520m付近最終到達地点9:03〜05→(24M)→B2220m付近雪洞9:29〜34→(87M)→C下山11:01


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@柏原新道入口から入山。すぐに冬季ルートを辿る。 最初のうちは完璧な雪山状況。 岩小屋沢岳側も見事。ただし頻繁に雪崩の音がしていた。 南尾根の主尾根合流点に向け登って行く。
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振り返ると蓮華岳側の見事な姿がある。 2220m付近から南峰側。 もう僅かで南峰。 しかし西から次第に雪雲が覆いだしてきた。
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Aその時は突然訪れた。天変とはこの事か、一瞬にして天国から地獄な感じ。横殴りの強い雪に。 A2520m付近から下側。雷を伴い。かなり危険な状況。隠れる所がなく・・・。 少し下りだして、それでも山頂側を仰ぎ見る。諦めきれない証拠。でもこの視界で暴風雪。「無理」。 マーカーも真横にたなびく。
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B2220m付近か。シェルター状に掘られた雪洞。おかげさまで少し暖かく休憩が出来た。 Bみるみる雪が積もってゆく。今日はこれら装備も出番なし。 B休憩地点から山頂側。少し下って来て良かった。上はもっと視界がないだろう。 歩きやすかったここも、悲しそうな尾根に変わる。
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C東京からのハイカーも引き返していた。ちょうど登山口で追いつく。  C駐車場。今日の入山者は本当に物好きか・・・。     



 残雪期のおいてのハイシーズンに入っている。ただし世の中がこのような状況で、不可抗力だが沈んだ雰囲気の中に居る。ここで「切磋琢磨」と言う部分を再確認するのだが、周囲が少し足踏みしていると、自分も足踏みしたくなる感じ。いつもなら、我先にと雪の上に新しいトレースをつけて鼓舞するところだが、いまひとつそんな気にはなってこない。気持ちを高山に持ち上げるにも気合がいるのだった。でも、じっとしていても何も始まらず、行動は起こす。あくまでも前向き、そして飽くなき前向きさ。


 この後は予定がびっしり入っていて、残雪を踏んで遊ぶことが出来難い。ここでひとつアクセントにガッツリ登っておきたいと思えた。しかし天気図を見ると春の嵐の配置図。冬に逆戻りで、等圧線が縦並び。そして北には日本列島に沿うよう前線が降りて来ており、それ相応の予想は出来た。ただし関東側では、その難を逃れたような天気。日本の背骨付近で天気がどうなるか、ひとつにはこの目で、この天気図での気象を見てみたい気にもなった。一応やる気は十分。冬季のフル装備をしていざ出陣。


 1:10家をでる。すばらしいほどに明るい月明かり。“この天気のままなら”と強く思う。三才山トンネルに潜って松本に降り、安曇野経由で大町に入って行く。ここでも空は星空。これは、「今日のここは当たり」かも、なんて思ってしまった。扇沢に向かって行き、終点の僅か手前が柏原新道の入口となる。既に
1台の車が居り、上を目指す仲間が居るかと俄かに喜ぶ。すぐに歩きたいところだが、体は疲れていて仮眠をとることに(4:00)。


 扇沢に向かう車の音に数度起こされ、それでも
1時間ほど休めたか・・・。起き出し雨具を履く。快晴の空であるが、じきに崩れる。ピッケルとカンジキをザックに結わえ、いざスタート。雪の上のトレースを見ると、近日中の入山者は居ないようで、あるのは古いトレースと、なかにはスキートレールも見られた。堰堤を左に見ながら、冬季ルートを示す黄色い看板に導かれて、急斜面を這い上がってゆく。いきなりの急登は肺に堪える。ゼーゼーハーハー、ダラダラエンジンをかけるより、グッと一発でギアをトップに入れて走る感じで嫌いではないのだが・・・。困ったのは、雪が緩い事。金曜日も快晴の天気。それを思えば頷ける。夜もそう冷えてはないし・・・。つぼ足に難儀しながら登るのだった。


 途中、開けた場所からは、赤沢岳側から連なる白く輝く主稜線が出迎えてくれる。「壮観」って文字がぴったりと当てはまる。グイグイ足を上げてゆく。やや風があるが、景色に文句なし。陽射しある東に出ると、そこでもまたいい感じ。この尾根の雪庇は西風により東に出来ている、1917高点の上は、その上を伝ってゆく。陽射しに照らされた締まった雪で、そこを選んでいたわけでもある。急登や地形的に西に逃げねばならない場所は、樹林の中に入り、再び深いつぼ足が続く。これにより、予想より時間が掛かってしまっていた。“これだと長帳場になりそう”そう思いつついた。でも、天気もいずれ崩れてくる。いろんな悪条件は遅かれ早かれ。その前にと急いで周囲の景色をカメラに収めておく。何処までもってくれるのか、この天気。


 スタートから3
時間を経過し、2300m付近を越えていた。先ほどまで壮観だった稜線が、物悲しい表情になりつつあった。その向こうである西側から押し寄せる雪雲に、稜線一帯は明るい笑顔を奪われつつあったのだった。“来たか・・・”急がねばならないが、既にこの時点で風が強く、それを気にしつつ慎重な足の運び。今日は重装備であり、その為にどっしりと歩けている。この部分では風に対して強いが、それでもふらつかせるほどの強い風。この時で15m/s、強い時で20mほど吹いていただろう。目の前には爺ヶ岳南峰が見えており、その右肩に爺ヶ岳の最高峰が見えていた。

 もうすぐ・・・なんて思って歩いているが、8時20分に突如と吹雪になった。前兆としてはずっと風があったわけなのだが、なにせ急変に感じた。そしてそんな中に耐えながら歩いていると、なぜか「THE HIGH
-LOWS」のフルコートを口ずさめるのだった。フルコートのDを文字って、♪フルコートの爺〜と。「待ってたんじゃダメなんだよ、神の仕業じゃないんだ・・・」なんかこの場面に当てはまり・・・。応援歌のよう。しかししばらく我慢して登っていたが、その足を止めるほどの強打に変わった。横殴りな雪に、左頬を手で押さえていないと痛くて仕方なかった。当然のように視界は無くなってゆき、その暗い視界の中から、「戻れ」と声がしているようであった。もうすぐ爺ヶ岳であり、それだけでもと思う自分が居るのだが、そこに雷鳴が轟いた。それは「まだ判んないのか!」と言われているよう。轟音に背筋が伸び、そしてハッとした。そうか自然との調和。時に無理をする場面もあるが、基本は逆らってはいけない。東北に見る震災に、人間などは到底太刀打ちできない事も判っている。


 180度方向を変えて、一目散に下る。と言いたいところだが、下りに入ったからとて、すぐに天気が変わるはずもなし。雷鳴に、数度立ち止まりながら、ソロリソロリ降りていた。この2500m付近は雪解けも早く、ハイマツや夏(夏のルートはここではないが)道が出ているところも多い。雪の上なら直線的に自由にとなるが、夏道を拾いながらなので、クネクネと九十九を切りながら歩いて行く。そして2220m付近で、ダケカンバを起点に天幕を張ったのか、やや大きめな縦型の雪洞があった。これは往路には全く気がつかなかった。それを見つけるや、暖かい温泉を見つけたかのように、雪崩落ちる感じで中に入る。“温かい”、風を遮り、なんとも言えないオアシス。少し余裕も出来てテルモスから白湯を飲む。ここで待っていれば少し回復もあるだろうが、今日は目的を果たすまでにはいかないだろう。再び気持ちが高みに向く事はなかった。数分の休憩をして、麓に向かって南尾根を離れて、南西尾根を降りて行く。少しガスも濃くなり、ホワイトアウトぎみ。自分のトレースも雪に覆われ見えなくなっている。コンパスを出して進むべき方向を定める。


 少しづつ高度を下げると、雪雲の中から抜け出た格好になり、こうなると、一転して晴れ模様になる。2000m付近だったか、二人分のトレースが引き返していた。同じことを体験しているので、今日はまず正しい判断となるだろう。あの中に上に行っても楽しい部分はないだろうから。そのトレースを追うように行く。踏み固められたつぼ足ではあるが、何度も踏み抜きながら、ヒイヒイ言いながら足を抜き出す作業が続く。そして扇沢の沢音、アルペンラインの車の音がしてくると、下が近いことが判る。1450mから尾根を離れて西側を急下降して行く。かなりの斜面であるが、グリセードが綺麗に決まり、やや南を狙うように足裏で滑り降りて行く。そして下に降り立ち、ゲート側を見ると、そこに夫婦らしいハイカーが見えた。トレースの主で間違いなし。追い越しざまに挨拶をしたが、無言であったのでその後の会話はなかった。車に戻ったご夫妻らしき方々は、お土産にと周囲のフキノトウを沢山採られていた。折角遠くまで来て山が空振りなら・・・切り替えて山菜採り。それもあり。


 下に降りると雪は雨となり、シトシトと降り続く。ただし、平地でもこの日は強風だった。天気予報に天邪鬼になってはいけないよう。

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