布引 1620m 奥布引 1694m 小烏帽子山(烏帽子) 1736m
雨立 1626.7m 雨立峰 1436m (現地現称主義に則り、現地の看板表記を引用)
2011.2.26(土)
晴れ(上層は暴風とガス) 単独 宝川温泉から 行動時間9H25M
@宝川温泉奥除雪終点駐車場5:54→(18M)→A大日如来山朝日小屋6:12→(20M)→Bトンネル6:32→(16M)→C観測所6:48→(21M)→D板幽沢橋7:09→(166M)→E布引(1620m)9:55→(40M)→F奥布引10:35〜37→(39M)→G小烏帽子山11:16〜24→(43M)→H奥布引再び12:07〜09→(32M)→I雨立12:41〜13:10→(12M)→J雨立峰13:22→(49M)→K板幽沢橋帰り14:11〜16→(63M)→L駐車場15:19
@宝川温泉から70mほど先で除雪終点。川側は地形が判らないので、駐車は要注意。 | A大日如来山朝日小屋通過。 | Bトンネル通過。内部には水溜りは無いが、凍っていて滑る。シールのまま通過。 | Bこのような綺麗な氷柱も出来ていた。 |
C観測舎前通過。 | 大きな虫ようのある場所。雪が無い時は、ちょっとした景勝地だが、雪に覆われると様子が変わる。 | D板幽沢橋。本来は橋の手前を右(北西)に取付くのが順当ルート。今回は、さらに林道を進んで、標高840mくらいで林道を離れる。 | 標高1240m付近。 |
標高1240m付近から下側。 | 標高1380m付近の広く気持ちの良い場所。 |
標高1440m付近。 | Eもうすぐ布引(1620m峰)。東に大きく雪庇が張り出している。 |
F奥布引から雨立。 | F奥布引から北。 | 奥布引から西に進み、1630m付近から振り返る。独特の雪庇尾根。 | 1640m付近から振り返る。 |
1660m付近。クラストしておりクトー装着。 | 1660m付近から振り返る。 | 少し日差しがでると、暖かそうな山頂に見えるのだが・・・。 | 1700m付近。リッジ状の尾根になる。リッジを乗越して西側を伝う。 |
G小烏帽子山(烏帽子)山頂。ガスが晴れず残念。少し待ったが・・・。 | 小烏帽子山南(直下)のリッジ尾根。 | 1710m付近から東側。 | 1710m付近から北側の谷。 |
1640m付近から東側。 | 1650m付近から小烏帽子山。 | H奥布引再び。正面に雨立。 | H奥布引から。往路に伝って来た南尾根。 |
H奥布引から烏帽子。少しガスが取れてきた。 | 1626高点付近から雨立。 | I雨立。今日も新雪対応で、フリーランドーを選択。 | I雨立から東の芦沢を見下ろす。 |
I雨立から西。馬蹄形のガスも取れてきた。 | I雨立から北側。 | I雨立から、往路に使った南尾根。肉眼では、中央に見える布引付近に、二人のスキーヤーの姿が見えた。 | I下って行く尾根。 |
I雨立から上州武尊山。 | 1440m付近。尾根の南斜面を滑り降りる。 | J雨立峰付近の様子。 | 1230m付近の斜面。 |
1230m付近から、滑って来た斜面を見上げる。 | 1160m付近の平坦地に、単管パイプで櫓が組んであった。 | K板幽沢橋に降り立つ。 | 観測舎帰り。 |
トンネル帰り。帰りは板を脱いで通過。 | 大量のデブリが林道と川を埋める。ドキドキしながら足早に通過。 | 帰りは、陽射しを受けた場所は、深く潜る。スケーティングをしながら下って行く。 | L駐車場到着。除雪したようで、雪が無くなっていた。よって、除雪車が入っても邪魔にならないよう駐車したい。 |
「好天そうな週末」。仕事を終え、家に戻ってからはそう思いつつ場所選びをしていた。御嶽エリアの気になる山と、上州武尊山塊のとあるピークとで天秤にかけていた。ルートを探りながらも、ここに先週の快晴の気持ちよいハイクアップが甦る。「また滑りたい・・・」。いつしか気持ちは、天秤の中身とは別に他のスキーコースを探し始めていた。まあこんな優柔不断はいつもの事。
上州武尊山から北西側に目を移すと、谷川の馬蹄形から派生する尾根に、知られたスキーコースがある。なだらか地形で、スキー下手な私向き。悩む事無く行き先とした。ただし、未踏座を狙うのが常。そしてここでの未踏座は、烏帽子(日本山名事典では『小烏帽子山』と表記)だった。残雪期に登られる雨ヶ立岳・布引山(ともにエアリアマップ表記)であるが、烏帽子はもう少し大烏帽子山側に進まねばならない。スタート地点からの尾根を拾った平面距離は、約10Km。狙うに際し、これはやや不安に思える距離であった。ただし緩斜面は多そう。行けるか・・・行ってみよう。
1:45家を出る。すぐさま高速に飛び乗り、関越道を水上インターに向かう。流れの多くはスキーヤー。好天予報も後押ししているのか、気持ち流れが多い感じ。国道291で宝川温泉を目指して行くのだが、水上地内の唯一のコンビニはスキーヤーで大賑わい。深夜でありながらカップラーメンを啜っている姿もある。ラーメンが美味しそうと言うより、湯気が美味しそう。鼻腔を醤油の匂いが擽る。しかし私の目的であるヤキソバパンは置いていない。こんな事でモチベーションが落ちてしまう自分が情けないが、落ちてしまうのは事実。「そんなことだったら家で作って来いよ」と言われそうだが、セブンの「ジューシーやきそばパン」が好きなのである。余談はさておき、大穴で63号に入り、粟沢交差点からは峠越えルートで宝川温泉を目指す。以前距離を測ったのだが、峠越えの方が3.4キロほど近いのであった。
宝川温泉に到着し、旅館施設の前を通るようにして林道の方へ進んで行く。なぜか除雪が奥に続いており、施設から70mほど先で除雪終点となり、駐車スペースが10台ほど設けられていた。既にスキーヤーらしきワンボックスが一台停まっており、この日の入山者のようであった。安眠の邪魔をしないよう離れて停めて仮眠に入る(3:25)。外は雪、だいぶ降っておりみるみるフロントガラスを覆っていった。宝川温泉では、黄色い回転等を点けたホイールローダーが大きな音を上げながら雪を掻いている風景があった。その音を子守唄代わりに意識は遠退く・・・。
5時、目を覚ますと全ての窓が雪に覆われていた。降りは強いのか・・・。今日は短い板で楽しもうと思っていたのだが、かなり悩むところ。外に出て積雪量を把握するも、新雪量はここで10cmほど。林道歩きも長いし緩斜面、でも楽しいのは短い板。2組の板を眺めながら10分ほど悩む。踏ん切りがつかない時は、安全な方を選択。長い方がグリップ力があり、万能タイプ。長い板の方にシールを張り出す。その傍らでサンドイッチを口に放り込む。「食いながら貼る」いつもの時間を無駄にしない方法。駐車場にあるもう一台のワンボックスを見ると、車内が明るくなった。ここに嫌な下心が芽生える。「トレールを辿れるのでは・・・」。待て待て、「俺のトレールについて来い」、このくらいでなければ・・・もう一人の自分の押しが強い。まだ夜が明けきれぬ中、ヘッドライトで外に飛び出す。そしてビンディングに靴を入れ、「カチッ」と言う音に、気持ちのスイッチが入る。さあ頑張ろう。
5:54林道を詰めて行く。新雪の下には深いトレールがあり、スキー板の片足一本だけ沈み込んだ跡が続く。往路にこの謎が判らなかった。伝い辛いそれに乗りながら西に進んでゆく。すぐに大きなデブリ箇所があり、林道を埋め宝川の半分くらいも埋めていた。しかしこれらを除けばほとんど平坦路、帰りにはスキーにならない事を覚悟する。スタートから15分ほどで、朝日小屋の前を通過する。振り返り、後続が追って来て追い越してくれないものかと思うが、その気配なし。一歩を長く「シュー」とシールから音がするように滑らせて行く。
トンネルの場所は、入口を塞ぐほどに雪があるのかと思ったが、僅かに乗り上げるくらいで中に入って行けた。入る前に、昨年のショウガ山を狙った時のトンネルを思い浮かべたのだが、中には水は溜まってはいなかった。ポタポタと垂れてはくるものの、下で全て凍っていた。その水滴で出来上がった氷柱が2・3並び、高さ30センチほどになって目を楽しませてくれた。トンネルを抜け空を見上げると、どんよりとした灰色。それも風を伴っており寒々しい感じ。時折吹く風は雪を巻き上げるほどで、上での風が気になるところであった。
宝川の中にある大きな丸い岩は、2mほどの雪の帽子を被っている。この丸岩から10分ほどで林業試験地観測所に到着。施設のほとんどは雪に埋もれ、押し潰れないのか心配なほどであった。その山手側に周囲の詳細地図が立てられており、ここで各山の名前や杣道などが把握できる。面白いのは三角点を「陸軍三角点」と表記している部分。陸軍の響きに価値がグッと上がる感じがする。そしてピーク名も書かれており、雨ヶ立岳と思っていた場所は「雨立」。布引山は「奥布引」となっていた。さらにこの看板で表記する「布引」は、板幽沢の支流、布引沢の源頭ピークである1620m峰(エアリアでは1627m)を指していた。そして目指すピークは「烏帽子」。なんだか少しごちゃごちゃしているが、現地での呼び名を優先するのが基本、頭の中の各ピークの呼称をこの呼び名に入れ替える。これにはしっかり裏づけできる要素があり、馬蹄形側の山名を見ると、その全てで現在の山名表記となっている。今日目指す山に「山」とか「岳」とかが付かないが、端折っている訳ではないようであり、看板全体を見ると正当性が把握出来た。この事により、かなりの情報が得られ力強い味方を得た感じとなった。
大きな「虫よう」(虫が齧った事により大きく膨らんだ瘤)のある場所は、無積雪期には景勝地であったが、雪の乗った今はいまひとつ、ただ単に寒々した場所であった。ここから15分ほどで板幽沢に着く。残雪期の通常は、ここから板幽沢の左岸側に取付くのがスタンダードコースらしい。現にトレールもそちらに進んでいた。ここで天邪鬼発動。同じではつまらない・・・。そのまま林道を詰めて、板幽沢を右に置いて尾根を行くこととした。それには先ほどの看板の影響があり、「布引」と書かれたピークが、この尾根上にあるからだった。出来る限りより多くのピークを踏みたい。それが私のいつも。この部分では優柔不断も迷いも無いのだった。
林道をショートカットを交えながらクネクネと伝ってゆく。当然のように進行方向に対して右(北)側を気にしつつ、適当な場所から取付くつもりで居た。ただし、この時期にしても板幽沢の流れの音は大きい。その沢がある谷部を滑れれば楽しいのだろうが、ここはそうはいかない様子。板幽沢橋から林道を進む事1.1キロくらい、標高980m付近で林道を離れ進路を北側に変える。風は依然強く、雪を巻き上げては叩きつけてくる。東側に顔を向けながら避けるのだが、左半身のみ冷されている感じ。斜面は登り易く、1000m付近は谷部を登るような感じで、その先の1120m辺りから尾根に乗る。振り返るとなだらか地形が後に広がる。進む尾根も気持ちのよい広さがあり、伝って行き易い感じだった。
進む先にこんもりとした白い高みが見えてくる。途中にある1460mの肩の場所だが、この下が至極気持ちがいい。休憩をしたくなる場所なのだった。ポケットからカシューナッツを取り出し、ガボッと齧る。ズンズンと登って行く。吹き溜まりの深い所は40センチほど潜ったが、それでも総じて歩きやすい状況の雪だった。進路が北西に変わり、布引に向けて突き上げて行く感じ。その布引の南側、1500m付近は直登がし辛く、西側に70mほどトラバースしてから北に進路を変えて行く。ここで主尾根に乗った形となり、西から暴風を受ける事になった。雪煙を巻き上げ叩きつける風に、耐寒帽の上に被ったフードを押さえつつ歩いていた。視界も200mくらいか。「やばい」と素直に思っていた。でもこの尾根を抜けきれば奥布引。もう目と鼻の先にあるはず・・・。危ないと思いつつ進んで行く自分に、判断の情けなさを感じるが、「なにくそ」と沸々と漲る闘争心も出てくるのがこんな時。自然との遊び、こんな事で負けられないと思うのだった。
布引の最高点の前にして鞍部があるのだが、そこは風の通り道となっていた。そしていきなりの突風にバタンと倒される。これがナイフリッジだったら後が無かっただろう。足元がスキーと言う事もあり、冷されてガチガチになった雪面がよく滑る。グリップしたい時にこんな場所、出ているブッシュに板を引っ掛けるように北に進んでいた。布引の最高点を越えると、そこにスノーシューのトレースが見えた。いつのものなのか、案外と新しい。下の方には無かったので、この布引に対しての東尾根を伝って来たのか・・・。ここからの北進で、もう一度風に倒される。何度も耐風姿勢をとるが、片方のストックのバスケットを外し、雪面に突き刺すような応急方法となった。止むのか止まないのか・・・ここに来て天気図を見てこなかったことを悔いた。おかしな事に、右手がジンジンとして凍傷気味になってきていた。左半身を冷されているので、脳から来る症状なのか・・・。意識して動かすようにしていたのだが、このあたりでカメラを構えることが出来なかった。左手でシャッターが切れるカメラが欲しい・・・。それでも幾分か風が弱まり、ガスも流れ、時折周囲も見えるようになってきた。進行方向右(東)側には、だらっとした尾根の先に顕著な高みが見える。あれが雨立だろう。進路左(西)側がガスの中なのだが、今日は行けて奥布引までかとも思っていた。
ジャンクションピークに乗り上げ、そこから西に進む。雪の上にはカンジキの硬くなったトレースがある。そこに板を乗せるように進んで行く。そして乗り上げた場所が奥布引。ガスに覆われ何も見えず・・・。“少しだけでも晴れてくれ”と願うと、僅かに周囲が見えるくらいとなった。“もう戻ろうか”そう思って時計を見るのだが、まだ10時半。これが12時を回ったような時間だったら諦めていたかもしれないが、諦めるにはまだ早い時間。自然と足は西に向けて進みだしていた。ダラダラと下って行くのだが、風向きが一定しない場所のようで、雪庇がゴジラの背中のように立っている尾根であった。少し柔らかい雪を選んで、北側に寄りつつ進んで行く。途中に2つの小ピークを越えて行くのだが、遠巻きに見えた時は滑りやすそうだったが、足の下はガチガチで滑るのに怖いような雪面となっていた。
烏帽子(小烏帽子山)手前の最低鞍部からの登りあげは、ここは流石にシールだけでは対応できずに、クトー(スキー用)の刃を立たせつつ登って行く。登りながら、“ここの帰りはどうしよう”。クトーのまま降りようか、シールを外して気合の滑走か・・・悩む場所であった。目指すピークからは、竜がとぐろを巻くような雪煙が上がっている。西進しており、西風を烏帽子が遮ってくれている時間だが、上に出た時のそれ相応の予想は出来た。1700mからは鈍角なリッジ尾根。西側と東側のどちらに進もうか迷うような場所。風は西側からで、ここで東側に出たら押されればそのまま谷底。リッジを防波堤に考え、風上の西側に出る。一歩一歩をかなり真剣に足場を選ぶ。クトーを食いつかせ、雪煙の中へ突入して行く。
ボテッとした雪の上。そこが烏帽子山頂だった。北に寄り過ぎると大きな雪庇になっているようであり、気にしつつ最高所に立つ。もう僅かに進めば大烏帽子山だが、その姿は全く見えない。折角の到達点、じっと我慢しながらガスが開けるタイミングを探るも、なかなか思うようにいかない。それよりじっとしている事で、どんどんと体の熱が冷めて行く感じ。歩かねば・・・。展望は諦め下山に入る。
ここからは慎重に行かねばならない。スキー板を外そうかと思ったが、ザックに結わえた板はヨットの帆のような効果になってしまうように思えた。なるべく風の抵抗を減らし、なおかつグリップしながら降りて行く方法。それにはこのままが一番・・・。自然は味方してくれたのかご褒美なのか、下りでの風は少し納まった。よってリッジの上は、その頂部を伝って降りて行く。そしてその先のクラストバーンは、カニ歩きをしながらクトーの刃を食い込ませゆっくりと降りて行った。最低鞍部まで降りると、やっとここで緊張感から解き放たれた。何とか烏帽子に登れた。今日の場合はピッケルと12本爪の世界だった。そこをスキーで・・・。少しは力がついたのか。
奥布引まで戻る頃、周囲のガスもかなり取れだして来た。注視するのは雨立。いくらなんでもこの時間になれば、駐車場に居られた後続隊も着いているだろうと思えた。しかし単眼鏡で覗くも人影なし。“あれはスキーヤーではなかったのか・・・”とも思った。時計は12時を回った。そろそろ往路から復路に切り替える時間。1626高点を掠めるように雨立に向かって行く。なだらかな尾根に見えたが、その見た目以上に起伏がある場所で、雪の上をうねるように進んで行く。最後はヒールサポートを最上にして登るほどの斜面。奥布引側からだと、全くそんなふうには見えない場所なのであった。
雨立到着。標高を下げたせいか時間的な関係か、周囲は青い空と白い山々という絵面になった。カメラを構えつつ360度ターンする。俄かパノラマ撮影。途中ではどうなるかと思ったが、諦めずに進んできてよかった。東には、山腹にスキー場を従えた上州武尊山が見える。尾瀬の平ヶ岳だろうか、白い頂も。その奥には燧ケ岳だろうか、それらしい山塊もある。いい感じ。そして東側直下を見下ろすと、芦沢へ降りて行く快適そうなバーンがある。こんな所を滑れれば最高だろう。ザックに腰を降ろし、持ち上げた白湯を飲みながら「もっちりあんドーナツ」を齧る。それにしてもおかしい、あのスキーハイカーは・・・と思って、往路の布引の方を見ると、2つの黒い点が動いていた。“えっ、何時に出てきたの”と思ってしまった。当然ここまでくるのだろうが、奥布引で休憩を入れることを加味すると1.5とか2時間掛かるように見えた。そして私のトレールを伝ってしまっているのだが、これには少し申し訳ない気分・・・。板幽沢橋から取付けば、もっとスマートだったろう。今となってはしょうがないか。黒い点の動く様子に、通過して来た時の現地の様子が甦る。ただ大丈夫か、この時すでに13時を回っていたのだった。シールを外して滑走準備に入る。南東に続く白いバーンは、おかげさまで無垢のまま。汚いシュプールを描いてしまうのが忍びないところだが、一筆書きの開始となる。
気持ちよくターンが決まる。これが山スキー。麓側の展望に、さらにまた気分が高揚し気持ち良さが増す。ルート取りを少しミスったか、尾根に対して西側斜面を滑っていた。ここは尾根上を捉えるほうが良かったかもしれない。板幽沢からは流れの音が上がってきており、気持ち良さそうなバーンが見えているものの、先が怖くて降りてはいけない。そのまま尾根を辿る。そして1436高点のある付近が雨立峰のようであるが、尾根の肩的場所で雪面の起伏も大きい。登りではほとんど休憩しないが、下りは苦手。と言うより滑りが苦手。何度も休憩を入れながら高度を下げてゆく。上手な人なら一気に降りられるのだろうが、上手ではない人なので、ズリズリ降りていると言った方が良かった。
1380m付近から尾根を離れて南に方向を変える。板幽沢に沿うようなルートだが、よく見るとブナに赤ペンキがマーキングとして振られている。やはりここがメインルートのようだ。今日は下りだが、登りを想定して見上げると、それなりに登り易そうに見えた。そこそこの斜面が終わり平坦地になると、そこに単管パイプで組上げた櫓があった。これも林業試験に関する何かなのだろう。滑らない地形に少し足踏みをしながら南に進み、その先からの樹林帯に入る。ここの雪が滑り辛かった。ほとんどスキーにならない感じで、モナカ雪と言うか腐れ雪と言うか、微妙な硬さで斜面の起伏も大きく、ここは騙し騙し降りて行く。そして先の方に板幽沢橋が見えてきた。その明るい方へ進むのだが、最後の最後で転倒する。この時、バスケットが取れてしまい。山芋堀のように雪を掘り下げる。1mほど下から出てきたのだが、見つけたときの嬉しさたるや。まるで宝探しのようであった。
さあ林道歩き。ほとんど滑らないと思っていたが、僅かに勾配があり少しは滑る感じ。スケーティングをしながら行くのだが、ハッと思った。陽射しの当る場所では、雪が緩く片足のみ深く潜る場所があった。往路で不思議に思ったのは、この事だった。それでも両足でなく、片足の場所がほとんど。もしかしたら、スキートレールの大元は獣の通過跡だったのかも。それで細い幅のみ沈むのかも。観測舎を通過し、トンネルの場所では板を外して通過して行く。疲れた足には、凍ったトンネル内は緊張度が増す。それより、トンネルに入る前などは、中に獣がいるのではないかと思ってしまう自分。予測や妄想、単独であるからこその色んな場合を想定するのだった。朝日小屋の屋根はすっかり雪融けして春の様相。上での暴風がウソのように静まり返っている。上でもこんな陽気だったら・・・。でも荒れた天気もあって、こうしていい天気のあり難さを感じられる。デブリを乗り越してゆくと、しばしで前の方に宝川温泉の施設が見えてくる。無事戻って来た。駐車場を見ると、ここにも除雪車が入ったようで、アスファルト路面が見えていた。
振り返る。風さえなければ、どこも歩きやすい斜面であった。広さがあり、ほとんどの場所で展望を得られるような地形だった。そしてスキーに持って来いの場所。次回があるとすれば、今度は短い板で、樹林を中を快適に滑れるような装備で行きたいと思う。それほどに板幽沢左岸の通過は難儀した。たぶん、コース取りも悪かったのだろう。色々はさておき、楽しい場所であった。遊び場を一つ見つけたような気分で、今は嬉しい余韻に浸る。