八峰頭 2880m 小窓ノ王 2740m 長次郎ノ頭 2930m
剱岳 2999m 前剱 2813m 一服剱 2618m
2011.7.16(土)〜17(日)
16日: 晴れ 単独 立山駅より室堂。剱沢に入り長次郎谷を突き上げる。 行動時間11H40M
17日: 晴れ 単独 三ノ窓より剱岳経由で室堂まで。 行動時間9H8M
@立山駅5:36〜6:30→(60M)→A室堂7:30〜55→(98M)→B別山乗越9:33→(22M)→C剱沢テン場9:55〜58→(42M)→D長次郎谷出合10:40〜50→(100M)→E熊ノ岩12:30→(99M)→F長次郎のコル14:09〜21→(47M)→G池ノ谷乗越15:08→(10M)→H八峰頭15:18〜32→(10M)→I池ノ谷乗越再び15:42→(29M)→J三ノ窓16:11〜17→(27M)→K小窓ノ王16:44〜52→(24M)→L三ノ窓17:16
M三ノ窓4:22→(37M)→N池ノ谷乗越4:59→(41M)→O長次郎ノ頭5:40→(36M)→P長次郎のコル6:16→(23M)→Q剱岳6:39〜43→(54M)→R前剱7:37〜45→(38M)→S一服剱8:23→(19M)→21剱山荘8:42〜50→(75M)→22別山乗越10:05〜13→(52M)→23雷鳥平11:05→(47M)→24室堂11:52〜12:30→(60M)→25立山駅13:30
@立山駅は三連休初日で大賑わい。 | @ほぼ1時間ほど待たされ、やっと出発。 | A室堂は何処を見ても人ばかり。それにしてもいい天気。 | みくりが池も一週でかなり状況が変わっていた。 |
これから伝ってゆく雷鳥坂。 | 浄土川を渡って行く。 | すぐに雪渓の上に乗る。既にアイゼンを着けて登るパーティーも見られた。 | 別山乗越手前から、室堂側を振り返る。 |
B別山乗越。 | 剱岳が見事。 | C剱沢の幕営場。この時間はまだまばら。 | Cここで給水。管理小屋の上では、従業員が朝寝をしていたり・・・。 |
新設された剱澤小屋。 | 剱沢の雪渓に乗ってゆく。長次郎谷の出合までアイゼンは着けず。 | 平蔵谷出合。谷を降りて来ている人の姿もあった。 | D長次郎谷出合。左岸側にはカンゾウが乱れ咲き。 |
D入口の様子。 | D見事なまでの黄色。 | 途中、八ッ峰Cフェースをやった方が降りてきた。一人はガイドのようであった。 | 2250m付近。左岸側からの崩落少々。 |
熊ノ岩の下。 | 2550mから振り返る。滑ったら停まらないかも。 | E左俣が繋がっており、あまり入る人が居ないようであり、突っ込んでみる。 | 八ッ峰の連なりが綺麗。 |
熊ノ岩を右に、左俣へ。 | 熊ノ岩西(左俣)側には、やや高い位置に岩屋がある。 | 2700m付近。かなり勾配が強い。 | 2700mから振り返る。 |
2820m付近。ますます急。 | もうすぐ長次郎のコル。 | F長次郎のコル。西側の方が雪が割れておらず、急だが西を通過。 | F長次郎のコルから剱岳側。 |
F長次郎のコルから長次郎ノ頭。 | F登ってきた長次郎谷左俣。 |
コルから長次郎ノ頭へはザレ斜面で歩きにくい。 | 長次郎ノ頭は、途中から岩登り。残雪期は、下を巻くのが困難であり、直登コースが適当か。 |
核心部を登ると、巻き道のバンドが出てくる。 | 長次郎ノ頭側から見る八ッ峰。 | 小窓ノ王も鋭利な刃物のように見える。 | G池ノ谷乗越から、八峰頭を見上げる。前回はここを登った。新しい赤いシュリンゲが、危険箇所に付けられていた。 |
ルートは、コルからガリー側に2mほど下ると、バンドが伸びている。少し伝った辺りからコルを振り返る。 | 途中にKUMO氏のマーキングも残されていた。 | 岩尾根の所には、残置ロープが多数。千切れたザイルもあるので、掴まぬ事。 | H八峰頭山頂。浮石多数。 |
H山頂部の石の中にもKUMOが丸められ入れてあった。 | H八ッ峰Z峰側。右に長次郎谷。 | H熊ノ岩の上でクライマーが幕営しているのが見える。 | H山頂から西側。バリエーションルートだが、直下に道があるので、落石には注意。 |
H八峰頭から立山側。 | H八峰頭から剱岳側。 | H八峰頭の様子。後はジャンダルム側。 | 八峰頭の直下には岩穴があり、もしもの場合は中に入れる。 |
八峰頭から、コルへ下降途中。浮石が多数。 | I池ノ谷乗越(コル)に戻る。 | 池ノ谷ガリー途中から小窓ノ王。かなりいい感じ。 | J三ノ窓からチンネ側。 |
J三ノ窓から小窓ノ王。草つきの切れた辺りから東側にバンドが伸びている。 | バンドを進むとこの場所に出る。 | 高みを目指してこのような斜面を這い上がる。濡れていたらいやらしい。 | 尾根上の様子。だんだんと怪しいルートに。 |
この岩が少し登り辛い。濡れていたら困る場所。 | 山頂の南側には2枚のレリーフが打たれていた。 | 第二のいやらしい岩場。靴の脇をグリップさせ登る感じ。 | ボルトが打たれている場所もある。 |
山頂手前、足場の見え辛い痩せ尾根。 | K小窓ノ王山頂。 | K小窓ノ王から西側。 | K小窓ノ王から池の平山側。 |
K小窓ノ王から猫又山。 | K小窓ノ王から東。 | K小窓ノ王から南。池ノ谷ガリー側。 | K池ノ谷左俣。 |
下りは尾根コースを伝わず、東斜面を降りる。 | 岩場のトラバース。まだ雪も残る。 | 伝って来た岩壁を振り返る。 | もうすぐ尾根。草つきのトラバース。 |
往路の場所に戻り、下って行く。 | 上から見る三ノ窓。クライマーのテントあり。松本のガイドさんのもの。 | 雪渓の上をすり抜けるように通過して行く。 | L三ノ窓の東側で幕営。夕日が当たるので、暖かい。ただし、吹き上げの風も・・・。 |
L三ノ窓の岩小屋。 | L雪渓から落ちる水を給水。 | 夕飯は辛ラーメン | そして明日も少し緊張する場所があるので、アルコールは抜きで、コレ。 |
夕暮れ迫り、荘厳な景色になって行く。 | コレには感嘆。綺麗!! | M17日スタート。もうすぐご来光。 | ガリーを登りだす。西側寄りが歩き易い。 |
ガリー途中で、赤く上がってきた。 | ガリー上部。 | ガリー上部から振り返る。 | N池ノ谷乗越から東側。 |
Nコルから岩壁を這い上がる。浮石多々。 | 右に剱岳。左に立山。 | 八ッ峰と雲海。 | 八ッ峰と雲海(別角度)。 |
岩尾根の上から剱岳。 | 立山側。 | O長次郎ノ頭から剱岳。 | O長次郎ノ頭から北側。 |
長次郎ノ頭の南斜面。この支点を利用して懸垂下降。 | 持ってきたのは20m。適当なのは30m。20mだと下まで足らず・・・。 | 懸垂途中から下を見る。 | P長次郎のコルから東側。 |
もうすぐ剱岳。 | Q剱岳山頂は大賑わい。 | Q三角点はひっそりと同化。 | Q祠 |
大渋滞。待ち時間が長い。ただし、岩登りが可能だと、逃げ道は多い。 | 鎖場。 | はしご場。 | 平蔵のコルから平蔵の頭側。 |
平蔵のコルから平蔵谷。 | 平蔵の頭。 | R前剱 | 一服剱に向けて。 |
S一服剱山頂。 | S一服剱から見る剣山荘。 | 21 剣山荘到着。 | 21 危険箇所はなくなり、自分へのご褒美。 |
21 小屋前から東側。 | 分岐から剣御前側へ進む。 | 雷鳥がお出迎え。 | ヨチヨチと雛が7羽ほど居た。 |
トラバース道分岐点に合流。 | 分岐点から見る剱岳。見事。 | 残雪のトラバースを繰り返し。 | 剱沢は、テントの花が真っ盛り。 |
もうすぐ乗越。 | 22 別山乗越 | 雷鳥坂は、ルートを逸れて東側の雪渓をグリセードで下った。 | 浄土川に戻る。 |
23 雷鳥平もテントの花。 | 24 室堂に戻る。 | 25 立山駅 |
2007年9月、ブナクラ谷から入り剱岳北方稜線を縦走した。その時に、ガスが濃く、そして技量がなく、小窓ノ王と八峰頭を登らずに通過してしまった。八峰頭の方は、クライミングでも有名な場所。岩屋の領域と諦めてもよかったが、それでもとコルから8mほど這い上がった。しかしその先で技量がなく抜けられなかった。悔しく思う事なく、「しょうがない」と通過したのだった。
それからちょうど1年後の2009年9月。KUMO氏から、登頂レポートが届いた。それを見ると、全く手の届かない領域でなく、少し背伸びすると登頂できるような表現にレポートされていた。岩技術を引っさげて挑む場所と思っていたが、私のような俄かハイカーでも狙えそうな場所となった。
そして今年の3月、池ノ谷ガリーで山岳警備隊の雪崩遭難があった。この時に、自分の中で眠っていたものを起こした形となった。けっして忘れていた訳でないのだが、そこまでのアプローチの悪さに敬遠していたのは事実。そこに、人命救助する人が、3月にこんな場所で訓練をしていることを知り、登頂を含め手を合わせてきたいと思えたのだった。行く時季は9月ごろと思っていたが、アプローチに使いたいと思っていた、長次郎谷の雪の繋がりを思うと早い方がいい。そこにちょうどいい7月の3連休が現れた。月齢もよく、満月でもあった。よって夜歩きも可能。だが、流石に岩場の通過で夜は・・・。さらにはこのエリアは山岳警備隊が夜行を注意する場所。久しぶりに幕営装備をして出向く事にした。
前週も立山駅から入山し、2週連続も初めて。この週からは夏のダイヤに変わり、始発便が6時になる。少し行動は早めに出来るかと、扇沢より始発の早い立山側を入山に選んだのだった。そして扇沢入山より、乗換えが少なく便利。高速や燃料費も差し引きして考えても、富山側入山が適当なのだった。
1:15家を出る。上信越道に飛び乗るが、「1000円」が終わったとは言え3連休の威力は凄く、かなり混んでいた。北陸道に入っても、関東側ナンバーが多く、観光の日である事を実感。立山インターで降りて、バスターミナルの所のセブンでヤキソバパンを仕入れる。持ち物はこれで完璧。しかしその周囲に居る人や車を見ると、出遅れたかと思わされた。既に凄い人。ここから立山駅も、数珠繋ぎのような車列で現地入りとなった。立山駅前の駐車場はいっぱいで、河川側の第二駐車場へ降りて行き停める。今日のザックは23キロ。これに剱沢で水を汲むと25キロになる公算。思わず、「ヨイショ」と声に出して担いでしまう。
立山駅に歩いて行き、チケット売り場の前に並ぶ。始発まで30分ある。列は30名ほど。これなら始発に・・・と思っていたら、購入時に渡されたケーブルカーの整理券は、始発から数えて4便目、30分後の便だった。結局立山駅で1時間の足止め。でもこれが3連休にここに来たリスクだろう。ま、天気がいいから良しとしたい。かっ詰められたケーブルで美女平に行き、ここからは大荷物は専用トラックに載せられる。これが困った。トラックの容量は大きく、自分の乗車バスのみにリンクしているのでなく、他の後発のバス利用者の荷物も一緒に載せられるのだった。このことにより、室堂に着いてからトラックを待つのに20分くらい足止め。すぐにでも歩きたい、より早いから立山側から入山したのに、これでは・・・。ただし、それもこれも3連休にここを選んだリスク、他人をどうこう言うのでなく、自分のしでかしている判断。我慢我慢。
荷物が運ばれ、やっと手にしてターミナルの外に出る。すばらしくでっかい天気。そして凄い人。目を凝らすと、一の越側にだいぶハイカーが上がっている。30分も違えば・・・こんなものだろう。玉殿湧水で軽く喉を潤し、みくりが池の方へ向かって行く。ヘルメットを括りつけたハイカーも多い。みんな八ッ峰辺りなのか、それとも剱岳か。雷鳥平に向かって行くと、物凄い長いパーティーが見えた。学童か・・・。尻を追ったわけではないのだが、近づくと女子高生だった。先導するのは先生やらガイド。ややめんどくさそうに歩いている様子が、最近の子らしくて微笑ましかったり・・・。その中の一人に声をかけると、別山に向かうと言う。雪渓で一気にごぼう抜きして、テン場を経て浄土川に降りて行く。夏の強い日差しが、川の流れを気持ち良さそうに見せていた。
対岸に渡り雷鳥沢から雷鳥坂へと伝って行く。沢のところでは既にアイゼンを装着しているパーティーも居た。事故は未然に・・・大事な事かも。こちらは面倒なのでそのまま・・・。これまでの平坦地形から、やや勾配のある登路となり、ザックが肩にのしかかる。時折ザックを下から押し上げ、肩の位置を変え、小さなピッチでコツコツと上がって行く。大半は30リッターくらいのザック。その他に見られる大きなザックには、ヘルメットやカラビナ類が見える場合が多い。そんな領域。
別山乗越から室堂を振り返ると、その綺麗な事。緑と残雪の白さが、クッキリとした斑模様に・・・。幾分風もあり、汗もかかないような気温。登山日和とはこの日を言うのだと思った。さあ剱沢へ降りて行く。先を見やるが、降りて行っている人はまばら。三連休でもあり、私のように先を急いでいる人は稀なのだろう。下りながらも左前にクッキリとした剱岳が見える。少し雪を纏ってはいるが、これだけ柔和な表情の剱岳も久しぶり、いつもは険しい頂を見せているのが剱だが、ここからの角度は優しいのだった。雪渓を降り幕営場に着くと、管理舎の上でスタッフが朝寝しているところであった。それほどに気持ちがいい日ってことだろう。トクトクと流れ出る水をプラパティスに詰める。そして管理小屋前から降りて行くと、石垣も新しい、強固な造りの剱澤小屋に到着する。ちょうど「点の記」の時が完成の時で、所謂新設。それでも落ち着いた色使いが、新しさより古い感じの雰囲気を醸し出していた。奥からは発電機の音。大きな山小屋は、何処も発電機の音がする。必要最低限なのだろうが、耳障りだったり・・・。
剱澤小屋から真砂ロッジへの道標に従い、剱沢の雪渓に入って行く。するとそこに、アイゼンを外している若者が居た。「長次郎を下って来たのですか」と聞くと、「長次郎を登ろうと思って、間違えて平蔵を登ってしまいました」と言う。今の私には無いが、少し前の私ならあり得る。「そうですか」と言うしかないのだが、そう言う若者も、残念がっている訳でなく楽しそう。これでいい。下って行くが、いつもの事だが硬く滑りやすい。ちょっと滑れば、一気に行ってしまいそうな場所。そこを騙し騙しアイゼンを着けずに降りて行く。
平蔵谷出合のやや上側で、ハイカーが朝食をとっていた。ハシゴ谷乗越を経て、こちらに上がって来たとのこと。前日に二股の橋が架設されたと伝えてくれ、今日は真砂ロッジ下流の橋が架設されると伝えてくれた。この情報により、万が一は、小窓雪渓を下ってもOKとなった。状況により臨機応変に行動する。それには一にも二にも情報である。少し長話になったが、「気をつけて」と分かれる。
平蔵谷出合から、谷の中を見上げると、二人のハイカーがゆっくりと降りて来ていた。下から見るのと、上から降りてくるのでは、斜面の見え方が違うのだろう。緩斜面のように見えるが、一歩二歩とゆっくりとした歩調で高度を下げてきていた。源次郎尾根の末端には、ノカンゾウの大群落がある。なにか黄色い花が多いと、自分が今日ここで逝ってしまうのかとも思うのだが、それにより奮起、根性と気合を入れる。尾根末端がそのまま長次郎谷の出合となる。ここでアイゼンを装着。ピッケルカバーを外し、本気モードに切り替える。
長次郎谷に足を踏み入れる。小熊までの30分ほどは直線的に登って行き、次第にそうもいかなくなり、緩やかな九十九折を繰り返すようになる。すると、前の方から二人のハイカーが下ってきた。その一人が声をかけてくる。「テントですか?」と、稜線までの時間が読めており、全て把握できている人のよう。こちらから「八ッ峰ですか?」と聞くと、「Cフェースをやってきました」と・・・。とても紳士的な方で、猛者の風格がある。御互いに背を向けると、もう一人の方が、今の御仁に向けて、「知り合いですか?」と声をかけていた。と言う事は仲間同士でなく、御仁はガイドなのだろうと推測できた。時折振り向いては、降りる様子を見ていた。場合によっては、ここを降りることもあり得る。どんな降り方が楽なのか・・・と思いつつ見ていた。
進んで行く先に、熊ノ岩が見えている。多くのクライマーが添い寝するこの場所、否が応にも視線が行き、とりあえずの目標物となる。しかし、視界があり遠望が利く場所ほど遠いもので、なかなか近づいてこない。時計を見ると、まだ歩き出して3時間程度。登ったり降りたり、そしてまた登ったりが疲労を高めていた模様。少し大きく九十九を切るように歩行を変え、ターン回数を減らして、僅かな労力も軽減するようにした。吹き降ろしの風が冷たく、日差しの暑さより、風の冷たさの方が打ち勝っている感じだった。
熊ノ岩が間近に見えるようになると、自然と目が左俣の方へいく。岩屋も含め多くのハイカーが右俣の方へ進むのに対し、この時期なら、まだ左俣が伝えるのではないかと思いながら足を進めてきた。目を凝らすと雪は繋がっている。寝ている熊の後を通って起こさないように通過するのが右俣コース。熊の頭付近を刺激するように通過するのが左俣コースか。途中で引き返す覚悟で突っ込んでゆく。ここは岩屋の幕営適地。そのゲレンデである八ッ峰が、ここからはすばらしく綺麗。狭い中を通過して行き、ふと熊の顔の方を見上げると10mほどの位置に岩穴があった。ここで幕営なら偵察をしたが、この時は先を急ぐ為に端折る。幸いに危険箇所はなく狭い中を抜け出る。ただ、やや急峻で、アイゼンの刃にこれまで以上に力が篭っている感じ。少しガスが巻いてきて、目指す先が荘厳な雰囲気に変わる。ガスと太陽の作り出す幻想世界をしばし堪能となった。その間も、足はゆっくりと上げて行く。
2800m付近は、谷の右岸(西)側を伝うように進む。あまり高度の上がらない大きな九十九折を繰り返す。アイゼンの前歯を蹴り込み、直登もしてみたが、時間も時間、強い日差しが雪を腐らせ、安全登行は直登ではなかった。そして振り返ると、熊ノ岩の下に黒い点が3つ動いていた。クライマーか、進路は右俣側へ移動しつつあった。さらに、その遠く下の方にも点が動く。水を剱沢で汲んでは来たが、この辺りでも流れがあって汲む事が出来た。持っていて安心の水だが、持たずともこの辺りで得られるのだった。今か今かと、長次郎のコルに到着するのを楽しみに進んできているが、既に谷に入ってから3時間ほど経過していた。やはり、見通しの利く場所ほど長いのは間違いないようだ。斜度もかなり厳しくなり、踏み出す一歩を、より慎重にしてゆく。ピッケルを突き刺し、一歩二歩。その繰り返し。
長次郎コルのところは、やや雪が割れていて剱岳側の方が伝いやすかった。やっと這い上がり、久々の水平空間にザックを下ろす。そして大休止。登って来た長次郎谷を見下ろし、ニンマリ。登りきって大満足な感じ。とは言え、まだ一日の仕事が終わった訳ではなく、これから三ノ窓まで行こうとしている。気を抜けない時間はまだまだ続く。ヤキソバパンで遅い昼食として、息を整え行動開始。
長次郎ノ頭へは、最初のザレ登りが、足に効く。既に岩場通過の為にアイゼンは外していた。ここの登りまでは着けていた方が良かったか。そして核心部に入る。直登で行こうか、トラバースコースか、もう一つの下巻きルートは、今の時期は残雪にブロックされそのルート取りをするのは困難。2者選択だった。まずはトラバースルートの棚の所へ入って行く。途中までとても楽だが、その先のトラバースが重荷では怖く感じ引き返し、直登コースのやや右寄りを岩登りして、支点の真下に這い上がる。取り付いてここまでが緊張の時間だが、支点下まで来れば、棚を使いながら東側を巻き込んで行ける。前回も含め、行ったり来たりを何度もしたので、だいぶ長次郎ノ頭を熟知したのだが、この下にあるトラバースルートが未踏で、次回の課題。
長次郎側から北進して行く感じが、北方稜線に踏み入れて行く感じで、前回の南進してきたのと少し違って思えていた。時折赤ペンキのマーキングも見え、バリエーションコースではあるものの、かなり程度のいいルートに変わりつつあるようだ。前回、ジャンダルムの所は、東側をシュリンゲ二本に掴まって通過したが、今回はそこを通過しなかった。どうもその間を西巻した様子。そして前方に最初に目指す八峰頭が見えてくる。2007年に難儀した岩壁が、手を伸ばせば触れられそうな位置に見えている。立ち止まり、しっかりと見つつコース取りを考える。今日の登攀ルートは尾根側で無く、尾根の北側斜面。KUMO氏からの情報によると、岩登りが晩熟でも伝えるコースがあるとのことであった。池ノ谷尾根の頭からは岩壁を急下降し、右(東)の岩溝に入って行く、のが通常のようだが、残雪のためか濡れていてややこしい。そのまま岩壁を伝って慎重に降りて行った。途中で、池ノ谷ガリーから3名のクライマーが上がってきて、ザイルを結び合い確保しながら長次郎谷右股の方へ消えて行った。池ノ谷乗越での休憩はせずに乗り越えて行った。なんという体力か。下に落石しないよう、最大限注意しながら降りていた。
池ノ谷乗越到着。ザックを下ろし、下から八峰頭を見上げると、いくつかシュリンゲが増えていた。それが、前回難儀した辺りにあり、この状況なら、このコル側の岩尾根でも伝って行けそうな雰囲気となっていた。ただし、それより安全ルートがある。ガリー側に高低差2mほど降りると、右(東)側に棚が延びている。足を踏み入れると、やや不明瞭だが、何となく棚を繋いで高度を上げる事が出来る。小窓側に寄り過ぎると行き詰る場所もあるが、先ほどの岩尾根側と8mほどの幅が通過範囲。しかし浮石や、掴むと崩れる岩もあり、十分注意しなければならなかった。そしてここには、真新しいが、千切れたザイルが残置してあった。安易に補助ロープだと思って掴むと大変なこと。結ばれず岩に引っかかっているだけであった。登って行くと、ピンクのリボンが見えた。まさしくそれは、見慣れたKUMOであった。この存在にかなりホッとする。途中で岩尾根の上に乗ると、そこの岩に捨て縄を巻いて支点を取ったようになっていた。僅かに這い上がり、最高点に到達。
八峰頭到着。折り重なった浮いた石が多く、注意しつつ周囲をカメラに収める。敗退から2年、やっと踏めた。下の方を見やると、熊ノ岩のところに緑色のテントも見えた。そして長次郎谷には、無数の点が。続々とクライマーが入山しているようであった。明日の八ッ峰は大渋滞か・・・。生憎立山側はガスに覆われ展望なし。剱岳も隠されていたが、少し待っていると姿を現した。連なる八ッ峰を見下ろすが、ここからの絵は、いまひとつ。やはり鋸の刃は横から見ないと・・・。下山。
登りにも気づいていたが、ここの山頂直下に空間がある。入口はやや狭いが、大人が入っていけそうな大きさ。そして内部は二人くらい入れそうな場所。ここでいざって言う時は、雷くらいなのだが、逃げ場となる。登りより下りを慎重に行かないと、繋げようによっては危険なルート取りにもなった。基本、軽く岩登りが可でないと、伝わない方がいいのかも。ちょっとドキドキのラインどりで降りてしまった。セミのようになりながら5mほど横ズレ・・・。簡単な場所だが、落とし穴もある。最後まで慎重に降りて行き池ノ谷乗越に戻る。
さあここからガリーの下り、今年3月にここで起こった事故。殉職した山岳警備隊員を思い、鎮魂の意識を持ちつつ下って行く。今日はここで一人で寝る。そんなことからも、自然とそこで両手が合わさった。しかし、その行動時に足元が流れ、軽く一回転。左ひざを強打し、しばらく痛みに耐える。「そんなことより、お前も気をつけろ」と言われているような。ガリーは東寄りを降りたが、前回に伝った西寄りの方が歩き易い感じがした。
三ノ窓に降り立つと、三ノ窓雪渓側にオレンジ色のテントが設営されていた。誰も中に居ないようで、岩屋が周辺に取り付いているのかと、周囲を見回す。しかし姿なし。小窓ノ王は明日にしようかと思ったが、状態が良いうちに踏んでしまおうと思った。明日は朝露もあるかも知れず、渇いた岩の上は、今。ザックをデポして、ザイルだけ持って突っ込んでゆく。草つきを登り、右(東)側に見えるバンドを目指して進むのだが、雪渓が間にある。しかし途中まで良かったが、アイゼンがないと後半が進めなかった。いったん戻り、雪渓を高巻するよう進み、何とかバンドに乗れた。岩屋の通路であるのか、わりと踏まれた感じ。そのまま行くと小さな尾根上の岩峰に行ってしまうので、途中で屈曲して左(西)側の斜面を這い上がる。最初は草つき、次第に岩交じりとなり、だんだんと難易度が上がってゆく。最初の岩部を這い上がるのだが、濡れていなくて良かった。その先で次の岩場が出てくるが、左側の棚に踏み跡がある。ハイマツを分けながらそこを行くと、遭難者のレリーフがあった。計2枚。ここが岩屋の領域である事を視覚から感じさせられる。西側から巻き込むルートがあるのかと思ったが、ここで終わり。もしかしたら、岩壁を登ってくると、この場所に出るのかもしれない。戻って先ほどの岩部を越える。少し岩を抱え込むような、靴の脇をグリップされるような場所で、2mほど上がると、三本のボルトが打たれた場所となった。その先はハイマツ混じりの痩せ尾根。そのハイマツで足場が見えないのだが、何せ狭い場所。平均台の上に乗っているかのように両手でバランスを取りながら進む。そして念願のピークに。
小窓ノ王山頂。先ほどの八峰頭同様に、360度の展望場所。周囲の秘境に秘峰を目で楽しむ。感無量。自分の力量では登れないと思っていた場所が、いま足の下にある。KUMO氏の情報に感謝し、天気に感謝した。各方面をカメラに収め下山に入る。その時、ガラガラとガリーから音がした。と言う事は誰か居る。見ると二人のハイカーが降りて来ていた。どうやらテントの主のよう。下山は伝って来たルートより北側の岩斜面を下ってみる。まだ残雪もあり、ちょっとヒヤヒヤしたが、何とか手がかり足がかりを探しながら降りて行けた。ダメなら再び登りあげればいいやとの思いで進んでいたが、東から西に進むような巻き込みで、往路の尾根側に乗った。三ノ窓に戻って行くと、テント脇に先ほどの人が座っていた。再び雪渓の上を巻くようにし、草つきを降りて行き三ノ窓に戻る。
テントには男女の二人が居た。声をかけると、東京から来た女性に、その方を案内していた松本のガイドさんだった。昨日は池ノ谷を下って剱尾根を登ったそうな。凄い猛者を目の前にしているのだった。今日は、剱岳をピストンしてきた様子。そして明日は、長次郎谷を下って室堂に戻るよう。仲良くなったものの、残念なことにタバコを吸われる方で、この方々の近くにテントを張ることは出来なかった。やっぱり臭い。我慢が出来ない・・・。西側のテン場に降りて行き、テントを設営。ただ、これは大正解の判断で、この後の夕日ショーは見事であった。その前に、腹ごしらえ。岩屋前の雪渓から落ちる水を汲み、ラーメンとノンアルコールビールで腹を満たす。少し突っ張った腹でのんびりとしていると、池ノ谷がガスに覆われだし、そこに夕日が赤くなりだして来た。こんな景色は平地では絶対にありえず、動くガス、動く太陽が、変幻自在に綺麗な窓絵を作ってくれていた。それをあんぐりと見ているのだが、ただただ綺麗。日が沈んだのが19時13分。それ以降もしばらく明るく、石に腰掛夕暮れを楽しんでいた。酔うような物は飲んでおらず、すぐに寝付くことはなかったが、ガリーで強打した左足が痺れ、治癒の為にも横になる事とした。一日が終わる。なお、この場所は携帯が通じたり通じなかったりする場所。微妙な電波状況であった。
17日は、1時頃から起きだす。月明かりが明るく、歩ける状態だったから。ただし、やや吹き上げの風があり、それが足止めをしていた。あとはやはり足が痺れる。どうしたものか・・・。今日は室堂まで。コルの向こう側のガイドさんは、剱岳を通らず帰った方が2時間ほど早いと言う。でも、当初から剱岳を越えて帰りたいと思っていたので初志貫徹とした。時折携帯が繋がるので、天気状況をみる。今日も快晴の様子。ウトウトしつつ、起きたり寝たり、時折空気穴から星空を楽しむ。そして3時45分からテント撤収に入る。いつもは濡れたテントを畳むことが多いが、この時は、久しぶりに乾いたテントを畳んでいた。パッキングして黒部側に登って行くと、猛者パーテーも起きて食事をしている所であった。挨拶をしてガリーに踏み入れる。
池ノ谷ガリーは、やはり西側の方が伝いやすい。伝いやすいといっても難儀する場所だが、一回だけ大崩落をしてしまい、それ以降注意。100キロくらいある岩が動くのがここ。疲れた体は、頑丈そうな岩を探して進む感じであり、通常は動かないであろう岩が、ここでは動く。その途中、ご来光が東から見えた。昨晩の夕日に続き、今朝も太陽にパワーを貰った感じ。それを清涼剤代わりにして這い上がって行く。
池ノ谷乗越からは往路と違えて、岩溝を行く。最後の抜け切る辺りが、やや困難通行になるが、何とか這い上がる。周囲は雲海。そして快晴。この上ない景色が360度広がっていた。既に剱岳の上には人の姿がある。もうラッシュアワーが始まっているのか、心して向かって行く。ここまで来たら、折角なの長次郎ノ頭は踏んでゆく。その山頂からは、そのまま直下降と思ったが、往路伝った場所のさらに東側の岩溝が気になった。降りて行くと、途中に支点を取っている場所もある。しかしその下は、いやらしい残雪が、鋭利な形で残っていた。アイゼンがあっても伝えなそう。戻って往路どおりに進み、南壁の支点に20mザイルをかけ懸垂下降となる。しかしここは30mが欲しい。途中で、足が着く場所があるが、そこはまだ不安定。ザイルを回収してしまい、下に放り投げ、慎重に下る。背中のザックにフラッとするが、持ちこたえ安全地帯に・・・。
長次郎のコル再び。雪の上に刺して置いたダケカンバの杖が、そのままの状態で立っていた。ここまで来れば、後は一般道。大きな石を這い上がるようにして剱岳に向かって行く。だんだんと耳に歓声が聞こえてくる。喧騒の中に入るのか・・・ちと残念な感じだが、これも自分で選んだコース取り。我慢。
剱岳到着。石の上に寝そべって、疲れを癒している姿が多い。中にはヘロヘロになって顔色が悪い人も居る。見ると若い人が多いのだが、これも「岳」ブームの表れか。5分ほどの滞在で、前剱の方へ降りて行く。鎖場、ハシゴ場、そこに限らず各注意点では、少し渋滞模様。さすが三連休。上手にルートを逸れた岩場を選び、ちょっとづつ前に出る。急ぐ事はないのだが、危なげなく進める場所は、進む事とした。ほとんどの人が小さなザック、時折「わーおっきい」と声が掛かる。「ニコッ」て返して先に進む。
平蔵のコルからの平蔵谷も気持ちの良い谷だった。ここもいつか伝ってみたい。ここから平蔵ノ頭までも大渋滞。鎖がある所は、鎖を掴みたいのが心理、順番待ちなのだった。何せすれ違う、人・人・人。これほどに行き合ったのは久しぶり。でも意外とみんな挨拶が良くできる。否なすれ違いではなかった。剱岳と言うちょっとしたステータスが、各人の気持ちを素直にしているのかも知れない。前剱は、ルートは山頂を巻いているが、しっかりと立ち寄る。下のほうには赤い屋根の剣山荘が見える。その前に一服剱の高みもある。少し喉を潤し、重い腰を上げる。
気づくと左足の痺れと痛みは無くなっていた。不思議な話だが、何でも歩いていると治る。だから心配しないのだった。進行方向には、緑の濃い景色が広がり、空気がより綺麗になった気さえしていた。一服剱はサッと通過し、下降して行く。目の前の赤い屋根の中にはビールがある。岩場の連続を思いここまでは我慢。もうこの先は危険地帯もなく、無礼講。進む足も気持ち速くなる。そして流れを跨ぎ、小屋に到着。半ばザックを放り投げるようにして受付に行く。そして500円を渡し、なかでも冷えている一本をチョイスし、外に出る。プルタブを起こすと、プシュと言う音、そして泡。片方の手は腰に行き、グビグビ・・・。“くぅ〜美味い”青い空と周囲の緑、銀色のビール缶が視覚にも涼を与え、全てに相乗効果となって美味さを増していた。
別山乗越に向けて剣山荘を出発。剱沢経由も思っていたが、中間道に踏み入れる人も一人発見。じゃ行ってみようと思った。これは大正解で、分岐点から登って行った先で、雷鳥に出逢えた。羽は夏色に変わり、そこに7羽ほどの雛がついて歩いていた。雛が居るので親も逃げずに居る。その間2mほど。こんな出逢いは何度でもいい。静かにカメラを向ける。追いかけぬよう注意しながら中間道に乗る。ここからは残雪の上のトラバースが多く、やや足を取られるが、暑い時季の雪の上でもあり涼しく気持ちがいい。沢の方を見ると、剱沢の幕営場では、テントの花が見事に咲いていた。その数100張りくらいはあったろうか。
最後の階段状の残雪を上がると、その先が剱御前小屋のある別山乗越。小屋前の日陰で小休止。だんだんと背中のザックが負担になってきていた。朝から何も食べていないせいもあるか・・・。5分強休み、雷鳥坂に入って行く。最初こそ登山道を伝ったが、大走谷側に雪が現れると、そこに乗ってグリセード。登山道を歩く方々を横目に、直線的に降りて行く。ただし滑れば一大事。雪質を選びながら、しっかりと状況を見定めて降りて行く。下の方を見ると、スキー板を履いた人も居た。そこで東側を見ると、スキーヤーがいた。夏スキーか。
2320m付近から、少し急峻地形があり、アイゼンを着けないといやらしい場所となった。西側に寄って行くと、薄い踏み跡がハイマツの中を西に伸びていた。伝って進むと、ナナカマドやハイマツの下にその道が続き、途中で消滅するも、雷鳥沢の方へ飛び出した。そこでまた雪渓を降りて行く。浄土川の橋の所では、カップルが足を浸して涼んでいる姿があった。至極微笑ましい。それを見ながら登り上げて行く。雷鳥平も花盛り。赤く焼けた姿をじろじろ見られながら戻って行く。散策路の石畳が歩きやすく。疲れた体には優しい登路となっていた。
みくりが池周辺は、この日も広東語らしい言葉が飛び交っていた。彼らの大声の中をすり抜け、室堂に戻る。湧水の前で汗臭いシャツを脱ぎ、パリッと着替える。そしてキュッと冷たい玉殿の湧水で喉を潤し〆とする。12:20分のバスに乗り、もう帰りはゆりかごのよう。気づくと美女平。ま、このあたりは予定通り。起きているはずはないと思っていた。そしてケーブルに乗り込み、13:30立山駅に降り立った。ケーブルで高度を下げている途中、どんどんと気温が上がってくるのが判った。周囲も感じることは同じで、歓声と言うか、なんともいえない悲痛混じりの声が聞こえていた。何せ暑い日だった。夏らしくていいが、天気が良すぎるのも・・・でもその天気のおかげでいい写真が沢山撮れた。おかげさま。
振り返る。核心部のみ。八峰頭は、記述したとおり、池ノ谷乗越からはガリー側を伝えばそう難しくない。そして小窓ノ王も、岩屋の下山路があるようであり、それを登路に使えばいい。三ノ窓からは、正面右、黒部側にバンドが見えるので、そこさえ伝って行けば、外す事はないだろう。ただし岩場が濡れている場合は、難易度がかなり上がるだろう。