モミ谷ノ頭   1795.8m     (モミジノ頭:日本山名事典)
                         


 
 2011.12.18(日)   


   晴れ     単独       毛木平より         行動時間:8H55M


@毛木平6:43→(6M)→A十文字・甲武信分岐6:49→(62M)→B八丁坂ノ頭7:51→(18M)→C十文字峠8:09〜18→(2M)→D甲武信・栃本への分岐8:20→(15M)→E川又への分岐8:35→(13M)→F1990m峰北西で尾根に取り付く8:48→(14M)→G1990m峰(60・61標柱)9:02→(28M)→H1860m岩峰9:30→(95M)→Iモミ谷ノ頭11:05〜18→(76M)→J1860m岩峰帰り(岩登りの行動時間⇒)12:34〜58→(42M)→K1990m峰帰り13:40→(41M)→L十文字峠帰り14:21〜25→(19M)→M八丁坂ノ頭帰り14:44→(54M)→N毛木平到着15:38 


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@モウキ平からスタート。この日はここでマイナス5度ほど。 A千曲川源流遊歩道との分岐 狭霧橋を渡る。 谷の中は10cmほどの積雪量。時折凍っている。
kakouten.jpg  asahino.jpg  jyuumonjikoya.jpg  koyanaibu.jpg 
B八丁坂ノ頭。陽射しが無く、風に晒され寒く・・・。 やっと陽射しに。 C十文字峠。小屋前で小休止。外気温計はマイナス10度だった。 C冬季小屋になっているが、薪ストーヴは使えないように鍵が掛けられていた。
tochimotobunki.jpg  kawamatabunki.jpg  kokokara.jpg  6061.jpg 
D栃本への分岐 E股の沢への分岐。単独のトレースが降りて行っていた。 F1990m峰の北西尾根を使って這い上がる。この標識の場所から。 G1990m峰山頂には「6061」と金属でマークされた境界標柱がある。登山道があったようだが、完全に消滅している。
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1940m付近。最初の歩き易い地形が終わり、藪が多くなってくる。 1860m付近。シャクナゲに潜るようにして進んで行く。 H1860m付近で、突如大岩が現れる。這い上がると好展望。 H僅か先から岩尾根となり、往路は南に基部を巻く。頂部を進む場合は30mほどはザイルが欲しい。懸垂2回。
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H岩尾根を巻いているが、ここまでに20mザイルで2回懸垂している。ザイル無しでも時間をかければ通過可能。 1845高点西側には、登山道と思えるほどの道形がある(一部のみ)。鹿道が濃くなったものか? 1845高点南側通過。 1790m峰へ登って行く。
1780karasaki.jpg  1780karaushiro.jpg  1780tandokuhou.jpg  1770.jpg 
1790m峰から先。ここが屈曲ピーク。これまで東進してきた方角を、僅かに南東に変える。 1790m峰から歩いて来た側。 1780m峰へシャクナゲの尾根を行く。 もう一つ南東にある1780m峰から先。見えるピークは山腹を巻いてゆく。
sancyoutemae.jpg sancyou.jpg  sankakutento.jpg  sankakuten.jpg 
もうすぐ山頂。手前の地形はなだらかで広く居心地がいい。 Iモミ谷ノ頭に到着。到達感のあるピーク。ちょっと綺麗!! I三角点が大ぶりの岩で囲まれている。 I三等点。点の脇にろうそくの燃えカスが落ちていた。点の上で調理をした様子。
minamigawa.jpg  kitagawa.jpg  1750.jpg  1760.jpg 
I南側。この尾根を伝った方がなだらかで易しかったような・・・。 I山頂北側。中央やや左の木に赤ペンキが付けられている。 帰りは尾根を外し、南側山腹を巻いて進む。ただし完全に藪が避けられるわけではない。 鹿道が明瞭なところは歩き易い。ただし獣道であり、行く手を阻む木々が多い。乗り越えたり潜ったり、高巻したり・・・。
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1845ピーク東側の1810m付近。やや谷部を駆け上がる。 1845高点東1820m付近の尾根上。シャクナゲの密藪。 岩峰の東側1820m付近に熊の足跡が多数あった。 J岩峰を攻める。最初は易しいが、だんだんと・・・。
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J途中から北側を巻く。崩れやすいバンドがあるのだが、冬季は雪があり危険。この角度から東に戻るように潅木を掴みながら這い上がる。 J登りきると完全に岩屋の世界。行き詰まり南を巻いてみる。こちらにもバンドがあるが、足元がかなりヤバイ。単独で進むには躊躇してしまう。 J左の絵の目線位置。ご覧の通りの壁で落ちれば命無し。ここから少し北側を進んでみたが登れず、立木を利用して南東の壁を這い上がった。同じく落ちれば命無し。 J登りきって上から。ここは登れず、見ている右側から這い上がってきた。
noboxtutekita.jpg  ue.jpg  nishigawa.jpg  shitagawa.jpg 
J登ってきたクロアール状の場所。陰影で見辛いが・・・。木を使って2mほど体を上げて、岩を抱くように1mほど北にズレて1mほど這い上がる。 J登りきって安全地帯から。岩の上には雪が乗っており、最後の最後まで気を抜けない。 J往路のHの絵の逆から。ここでの通過も注意。グリップはいいが、割れてスリットの入った岩が多い。 J1860m岩峰から南側。ここからの展望は360度のパノラマ。
1990bunkihou.jpg  tozandouni.jpg  kawamatabunkikaeri.jpg  jyumonjibunki.jpg 
K1990m峰に戻る。写真中央左に境界標柱が見える。 登山道に戻る。 股の沢への分岐帰り。 甲武信への分岐帰り。
koyakaeri.jpg  kakoutenkaeri.jpg  ichirikannnon.jpg  moukidaira.jpg 
L十文字小屋帰り。 M八丁坂ノ頭帰り。 一里観音に旅の無事を感謝し一礼。 Nモウキ平に戻る。 


  

 以前からずっと気になっていた場所。周囲を甲州・武州・信州の山々に囲まれ、さらには上州の山にも・・・。そんな奥秩父の寂峰。目を向ける人は、本当に好事家のみとなるか。以前に甲武信岳の南西にある塩山を狙った時があった。ここも嫌な場所で、稜線から下るようにして狙ったのだが、シャクナゲの蔓延るいやらしい尾根であった。今回狙う場所も同じような場所に思えていたのだった。所謂山塊の中に浮かぶ孤島のような存在。

 

 あと、ちょっとこの山の表記には訝しい部分がある。山名事典では「モミジノ頭」としている。しかしエアリアではモミ谷ノ頭と表記。そして東の沢をモミ沢と表記。となると全体構成はエアリアに軍配が上がる。モミジノ・・・も悪くはないが、裏づけ要素の沢名が実際にモミ谷だとすると・・・。もしや谷を「ジ」と読ませるのか・・・。これらは気になる部分でもあった。今年の藪山の集大成として、この1座を頑張ってみたいと思う。

 

 いつもモウキ平に向かう時には少し気持ちが沈む。と言うのも、谷間であり周囲を山に囲まれており、暗く寂しい雰囲気の場所だから。冷たく寒い想像が一番に浮かぶ。もっとも、そんな時期にしか入山していないって事もあるのだが・・・。川上村の山は全て登り終え、久しく訪れていなかった。が、このキャベツ畑の多い山村は、ゆったりとして広く、何度来ても居心地のいい場所。凄いのは、ここで暮らす児童の100パーセントは留学経験を持つ。そんな学習方針がこの村にあるそうな。話は逸れたが、川上村役場の前を通り、三国峠に向かう道を左に見て、モウキ平への道を行く。積雪量は5センチほどか。圧雪が凍っている場所もあるが40キロほどのスピードで走って行けていた。

 

 モウキ平に着くと、1台の江戸ナンバーの車があった。内部結露の様子から中に人が居るよう。かなり離れて停めてしばし仮眠。寝入ろうとしていると、我が脇に車が停まった。整列を好む人なのか、出来れば離れて停めて欲しかったり・・・。バタバタと開け閉めの音が続く。3名が乗車していた様子。その音がしだし車での長居は不要となる。災いではないが、転じて・・・とばねにする。というか、登山口だからしょうがない事。一応アイゼンを持ち。20mのザイルも携行。ここでは外気温はマイナス6度を指していた。

 

 モウキ平を出て最初の分岐を左に入り、狭霧橋を渡って行く。橋の下では、流れの半分が凍っており、至極冷たい景色が広がっていた。トレースがあるのは一人分。その他は獣のものであった。ゆっくりと足を上げて行く。沢沿いの道、雪の下では凍っている場所もあった。十文字峠までは一般登山道、その先が本番であり、色んな想定をしながら行動時間の割り振りを考えていた。

 

 八丁坂ノ頭に乗ると、谷からの寒風が吹き晒しており、体感温度がグッと下がる。それでもやっとここでお日様に出会うと、その暖かさの恩恵も受ける。しかし足を進めると、また薄暗い場所となり物悲しい。十文字峠の十文字小屋も、寒い絵面の中にあった。管理者は麓に降りており、冬季小屋として開放してあるようであった。ただしストーヴなどは使えず。休憩もしくは素泊まりのみの利用となる。ザックを降ろし小休止。暖かい白湯を胃に落とす。

 僅かに大山側に上がり、栃本側へ分岐して行く。近日歩いているのは一人のようで、そのトレースに足を乗せていた。驚いたのはその主のトレース。次の分岐である股ノ沢への場所で、その方向へ降りて行っていた。この時期に行くとは余程の猛者の様子。その足跡から離れ、白泰山側へ進む。地形図やエアリアマップには、この先は尾根頂部の各ピークを通過して行くように書いてあるが、実際の現地は尾根の北側の巻き道となっている。1990mの分岐ピークも巻いており、巻いている途中の「植物を大切に守ろう」の標識の場所から山頂に向けて駆け上がる。選んだ場所が悪かったか、木を掴みながら這い上がるような場所が続いた。足許は雪で滑り、ちょっと難儀した登りとなった。ここがこうだと、この先も・・・。ちょっと暗雲な感じでもあった。

 

 1990m峰に上がると、そこに「60 61」と打ち抜かれた鉄のプレートが標柱に付いていた。境界標柱で間違いなく、意外なほどに立派なので驚いた。往時はここに道があったようであるが、その影も形も判らない。さてここから本番。緊張度を上げて突っ込んでゆく。最初はなだらかな尾根筋。次第に進路が阻まれてくる。1940mで尾根が分かれる。右(南)に吸い寄せられそうだが、北側の尾根を選ぶ。だんだんとと言うか、どんどんシャクナゲが増えてゆく。尾根にあるのは獣道。潜って進むような場所が多かった。時折振り返りながら、復路で間違わないように地形を覚えてゆく。この辺りでの積雪量は10cmほど。柔らかいその上にトレースを残して進む。

 

1990峰から30分ほど経過したか、目の前にドキッとするほどの岩が現れた。とうとう出て来たかと思ったのだが、藪もそうだが岩場の想定もしていた。その岩に乗り上げると、この先の全貌が見えるようであり、所謂ここは展望場であった。そしてこの岩から僅かに東に行くと、本格的な岩場が出てきた。尾根伝いに行きたいとは思ったが、岩峰の東側の様子が判らずギャンブルは出来ない。20mザイルだから、降りられて10m。見える展望からすると、東側はもっと長い距離切り立っていると思えた。南に巻くように岩の基部を降りて行く。しかしこちらも一筋縄ではいかなかった。クロアールのような地形を急下降。一応補助にザイルを出した。さらに先にもう一度。帰りに這い上がるならば、ゴボウ用にザイルを残置しておきたいような場所であった。あとは、もっと深く南を巻けば、危険箇所は回避できるだろう。慎重に、時間をかけて岩場を巻き東側に出る。帰りはこれを直登してやろうと言う野望が芽生える。

 

危険箇所を通過すると、雪の上には沢山の熊の足跡が残されていた。新しい物ではなく、数日は経過しているだろうもの。この先はしばらく藪との戦いのみ。ザックを引っ張られ、背中に落ち葉を入れられ・・・それなりの試練の時間となった。もうすぐ1845高点かと思っていると、その西側に銀マットのロールしたものが落ちていた。幕営装備でここを通過したのだろう。好事家の残置物があり、少しばかりか人の気配が感じられた。それまでにマーキングなどの人工物は皆無なのだった。そして1845高点は、山頂を通らず南をトラバースして行く。この辺りのみ、獣道がしっかりしていたり、視界を邪魔しないような樹林間隔の広さがあった。しかし一転、この先から藪尾根の本番とも言えるエリアに入る。

 

シャクナゲの葉は凍って小さくなっている。そのために視界が得られ今の時期有効。ただしその白い太い幹がかえって目立つほど。尾根の上は密生しているところが多い。多いというか、強引に行っても通過出来ない場所があり、北に巻いたり南に巻いたりする。北側には急斜面があり雪があり、往々に南を巻くのだが、思うように歩かせてもらえないのがここであった。完全にボディーブローとなって歩く意欲を削いで行く。もう僅かだが、この進まない時間は、「撤退」の言葉も頭に過ぎる。それでも膝を入れ肩を入れ、シャクナゲに分け入ってゆく。もうすぐだとは判っており、それだけが頑張れる励みとなっていた。

 

1780m峰。ここも岩構成のピークであった。この先もポコポコとPいくつと名付けたいような小ピークが顕著に続く。中でも1790m峰は、この尾根ルートの屈曲ピークであり、通過点としては大事なポイント。這い上がると展望も良く、前後周囲が見渡せる。南東側を見ると、モミ谷ノ頭らしきピークが見えている。その前に、後いくつかピークがある。危険箇所が無い様に、藪が濃くないようにと祈るように足を出してゆく。この場所の最初は、やや急下降。その先でまた密藪が待っていた。それでも忠実に頂部を拾う。一応は色んな調査はしておきたい。既に帰りは山腹のトラバースと決めていた。そのくらい煩い藪なのだった。

 

目指すピークに向けて緩やかに高度を下げて行っているのだが、それに連れ2000m超の高山の雰囲気から里山の雰囲気と変わってゆく。周囲の植生の変化なのかと思えた。静か過ぎるほどに静か、山歩きはかくありたい。モミ谷ノ頭の北にある1790m峰は、西側山腹を容易に巻いてゆく。だんだん歩きながら思えてきたのだが、東尾根からアプローチした方が容易かったのか・・・。藪がウソのように一転して歩き易い尾根となった。そして山頂を手前にして、陽射しの入るなだらか地形。苦労して歩いてきた最後がこのような場所だと嬉しい限り。サクサクと雪を踏みしめながら行くと、正面から日差しを浴びるように高みに到着した。

 

モミ谷ノ頭到着。山頂中央部に、細長い石で囲われた三角点が鎮座。その脇にはろうそくの燃えカスが落ちていた。好事家が三角点の上で調理をしたのだろう。ピンクのマーキングも一本縛られている。南を望むと、雁坂嶺らしき山塊がどっしりと見えていた。なかなかここは到達感のある山頂。そして東を見ると、なだらかな尾根が見えている。やはり東からのアプローチの方が優しかったか・・・。でも後悔はない。十二分に自然と戯れながら歩いて来られた。少し緊張感から解き放たれると、疲労がどっと感じるようになる。長い時間漕いできた為に腕が痛い。所謂日頃のトレーニング不足ともなるか・・・。往路を戻る。

 

 既に往路で尾根筋の様子は理解できた。往路を歩いてもなお復路に尾根筋を歩く人は居るのかどうか。素直に藪を避けるべく山腹を選ぶように戻って行く。尾根を右上に見ながら、降りすぎないよう注意しながら、それで居ながら一番歩き易そうな場所を選ぶ。鹿道が多く、それに乗ったり離れたり。モミ谷ノ頭からは、細かい笹斜面が多くなり、そこを泳ぐ。それが終わると、シャクナゲがお出ましになる。ただし高度を下げたら回避できたのかもしれない。尾根筋を避けたいものの、そこを見据えて歩きたいがために、そう高度は落としていないのだった。斜面に滑らぬよう靴の右側のエッジを引っ掛けるようにしばらく進んでいた。シカの警戒音も頻繁に聞こえている。僅か先を露払いのように先行しているようであった。あと、なんとも言えない独特の臭いがしている。あまり嗅いだ事の無い匂いで、ずっと不思議に感じていた。その臭いを発する木が多いのだろうと思えた。

 

 1790ピークと1845高点の間にある鞍部で一度尾根に戻る。密藪に長時間居ると不安になり、現在地確認をしたくなる為であった。そして再び山腹へ下って進む。1845高点から南東に下りる尾根を巻き込むようなコース取り。結局はどこが正解で、何処か不正解なんて無いのだろう。自分が好きに歩けばいいし、それが楽しければいい。そんなエリアなのだから。1845の南東側直下は、たぶんルート一番の藪地帯。左右に逃げ場が無く、思い切って突っ込んでゆく。顔を引っ掛かれ、ザックを引っ張られ・・・・。ここさえ抜ければ密藪は無くなる。やはり往路の体験は、復路を気分的にも楽にする。記憶を辿りながら微細に左右に振りながら歩き易い場所を進む。もっともこれには雪の上にトレースが残っているからであって、迷走しながら進んできた往路の足跡があって、校正するように歩けているのだった。

 

 そして熊の足跡が見えたら、その先が岩峰エリアとなる。一瞬安全を考えて南を巻き上がろうかと思ったが、往路に思った初志貫徹、直登を試してみる。当然ダメなら引き返せばいい。チャレンジできるのは、ザイルを携行しているからであった。無ければ間違いなく安全策。一部で無謀でありながら、ちゃんとそこらへんは判断している。岩混じりの尾根に足を乗せてゆくと、すぐに行き詰まり、ここからは左(南)へは危険。右(北)に巻き込むと、こちらも岩壁になる。しかし潅木などがありシャクナゲも蔓延る。それらを掴みながら2mほど斜行しながら高度を上げる。その先にもバンドが見えるが、雪が乗っている。そして歩いた感じでは足場が緩い。そこで落ちれば命は無いような場所。行って行けない事は無いだろうが、北巻はここで終え、戻るように東に進む。ここもかなり登り辛いが、危険度は低く、潅木を掴んで2mほど上がる。

 さあ上がったら核心部。上がれそうな、上がれなさそうな岩壁が待っている。まず北側にルートは無い。東もしくは南側。最初直登ぎみに東から這い上がろうと試みるが、手掛かりがいまひとつ見出せなかった。そこで南側を巻き込んでゆく。岩壁と言うものの藪になっていて、崖下に落とそうとするかのように枝が突っ張ってくる。要注意の場所。そしてその南側。よく見ると上側に続くバンドがある。その途中にはコメツガの木があり、そこで一旦安全地帯に見えるが、その先が5mほど空中に出るような真剣な岩登りの場所に見えた。一人で行っていいものか。いつもそうなのだが、ここしかないのなら進むが、もっと安全な場所を探す。当初は2ルートしかないと見えていたが、この壁の解き方はまだあった。南東側のルートを見出した。その基部には檜の幼木かがあり、これが使えそうであった。岩壁の僅かな窪みに足をかけ、その木に突っ張るように背中を押し当てる。そして右手は木の枝を掴み1mほど上がる。その次は木を突っぱねるように腕を押し当てて岩側に体を押し当てるようにする。そして岩を抱き込むようにして北側に1mから1.5mほどズレる。ここで足元の下は抜けており、1mほど飛び移るような場所となる。意を決して、ヨイショと渡っていく。ここを通過できると、その上は雪の乗った岩。ここも滑らぬように慎重に這い上がる。恥ずかしげも無く四つんばいだった。そして登りあげたピークは、清々しいほどの360度のパノラマであった。落ちれば命は無いが、成功はこれほどの喜びを味わえる。ま、少しオーバーに記録したが、単独だからより慎重に動き、我が力量に余裕が無かったためでもある。

 

 岩峰を過ぎたら、後はそう難しい場所は無い。坦々と歩いて行き、嫌に急になったなーと思っていたら、1990m峰の標柱が目の前に現れた。ここでほとんどルートに戻ったも同然。南西側に尾根を下って行く。しかしこちらにもあったであろうルートは、全くその姿が判らなかった。途中の鞍部から北側斜面を降りるのだが、ここが良く滑る。根が蔓延るのと、凍っているのであった。トラバースする登山道に乗り西に戻って行く。今日はここを辿ったのは私だけのようであった。トレースがそれを示していた。股の沢への分岐を経て、次の甲武信岳への分岐で、3名ほどのトレースがあった。これが今朝の方々の物なのだろう。十文字峠に戻り、小屋の前でしばし休憩。既に暮れかかっており、往路も復路も淋しい色合いの小屋を見ることとなった。ここでゲロをするが、実はモミ谷ノ頭の後は、白泰山側へ進んで大山を踏むつもりで来ていた。行けば行ったになるのであろうが、ここに到着する頃には真っ暗になったろうと思えており、地図を見ながら次回の面白そうなアプローチを練っていた。

 

 さて登山道を戻る。坦々と粛々とトレースを辿る。歩き易いなだらかな道。少し大股にストライドを延ばしながら戻って行く。寒々とした色合いの八丁坂も一気に駆け下りる。雪のおかげで踵を入れながらザクザクと下ることが出来た。そして右岸左岸とクネクネと進み一里観音には旅の安全を感謝し一礼入れる。そして狭霧橋を渡ったらゴールも近い。千曲川源流遊歩道に合流し、その先にある三峯山大権現にも挨拶しようと曲がると、後から男性が近づいてきた。全く気配を感じず。それほどに急接近して来たと言うことは、ハイスピードハイカー。「モウキ平はもうすぐですか、歩いても歩いても着かなくて・・・」と言う。「あそこに見えますよ」と言ったら、大股の早足で向かって行かれていた。ゆっくりと大権現に挨拶する。モウキ平に戻り、無事山行を終える。ちょうど横の車のパーティーも降りたところで着替えられていた。

 

 振り返る。適季は今でいいのかと思う。これで葉がしっかり茂っていたら、もっと辛い藪漕ぎに思えただろうと思う。基本は尾根の南側通過を試みるのが順当。あと、往復しながら南側に股ノ沢林道が見えていた。スマートに柳小屋まで伝って下り、そこから北に尾根を突き上げる方法もあろうかと思う。そして間違いなく一番楽だと思えるのは東からのアプローチだろう。ただし中津川からの林道が長い。終わり良ければ全てよし。楽しい山であった。ザックも衣服も枯葉や枯れ枝だらけ。山服を洗濯した後の洗濯機の底には、それらがゴロゴロ。それを見ながらニンマリ。漕いで進んだ感慨に浸るのだった。

 
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