下丸山  1852m            

 2011.3.5(土)   


  晴れ     単独       新穂高から左俣を往復          行動時間5H49M


@有料P上仮設橋6:22→(5M)→A左俣林道ゲート6:27→(60M)→B中崎橋7:27→(15M)→C笠新道登山口7:42→(18M)→Dワサビ平小屋8:00→(36M)→E下抜戸沢下流から左俣を渡る8:36→(19M)→F奥丸と下丸とのコル9:55→(16M)→G下丸山10:11〜31→(6M)→Hコル帰り10:37→(23M)→I左俣を渡る11:00〜04→(24M)→Jワサビ平小屋帰り11:28→(38M)→Kゲート帰り12:06→(5M)→L駐車余地12:11


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@有料P上の仮設橋右岸側からスタート。 A左俣ゲートを越えてゆく。 穴毛谷は砂防工事が終わった様子。その堰堤の為にスキーでは滑れ無くなった感じ。 穴毛槍の冬季ルート下降点の場所で先行者のトレースは穴毛槍の方へ。ここから単独ラッセル。
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朝日に輝くクリヤノ頭側。 林道から穴毛槍側を見上げる。 B中崎橋通過。 C笠新道入口。トレース類は皆無。
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笠新道入口の先で、最初のデブリ帯。 Dワサビ平小屋もひっそりと。 進む先に下抜戸沢のデブリが・・・。 右岸側から見る下丸山。左俣の中にポツンとある独立峰のような感じ。
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下抜戸沢の中から上流側。 硬いデブリの中は、落とし穴も多い。それらが新雪に隠され・・・。 Eデブリ通過を諦め、左俣をスノーブリッジで渡渉する。 E左岸側から見る秩父沢側。
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下丸山沢の標高1510m付近。まだこの辺りも流れが出ている。 1510m付近から下流側。流れを避けながら登ってくる。 1580m付近のデブリは、西側を通過。 1720m付近。もうすぐコル。この辺りもちらほらとデブリあり。
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Fコルに乗り上げ西鎌尾根遠望。 Fコルから登って来た下丸山沢側。 Fコルから下丸山側。 Fコルから奥丸山側。
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G下丸山山頂。 G下丸山から北側。 G下丸山から北西側。 Gここのところ連投のフリーランドー。
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Hコル付近から東側。奥丸山の西壁が聳える。  1500m。滑ってきた上側。起伏が多く滑りには・・・。  1500mから下側。そろそろ西に向けて進む辺り。  I左俣左岸から見る右岸側。下抜戸沢の雪崩跡が巨大。 
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Jワサビ平小屋帰り。  途中からクリヤノ頭側。  Kゲート帰り。  L駐車余地帰り。 


   

 どうにも疲れが嵩み、それがとれなくなっている。こうなると少し週末への意欲が落ち気味になる。でも、ここで行かないと疲れ以上に厄介な、ストレスと言う魔物が排除できない。何があろうと出かけるのであった。

 
 金曜日、翌日の予報図を見ると最高の天気のよう。少し降り続いた雪もあり、平地に居ながら山の様子が想像できた。「もう何でもいいから北アルプスに入ろう」仕事をしながらそう決めた。そして20時頃に帰宅するのだが、その冷え込みようは嬉しいほどにキンキンと冷たい。これは間違いなく化ける。「いざ行かん白銀のかなたへ」。遊び場が招いているかのようで、少しワクワクしながら地図を眺める。ただし、新雪
+好天=雪崩には注意せねばならなく、混んだ等高線に注意を払いつつ場所選び。ここで浮上してきたのが、下丸山。左俣の中での浮島のような存在だが、登山道の無いマイナーさが、雪のある時期にはもってこいに思えた。あとは、雪が完全に締まった頃合で、西鎌尾根を伝って赤岳を狙う予定もある。その下見も兼ねられればとの思いもあった。

 
 1:15家を出る。相変わらず良く冷え込んでいる。荷物を積み込んだ後、思わず両手で耳を覆って暖めたほど。瞬くような星空の下、西に向かって行く。そして三才山を潜り、松本トンネルを潜って行くと、梓川サービスエリアに嬉しい新たな案内看板が出来ていた。それはスマートETCゲートの案内だった。これはいい。松本トンネルが出来た事で、松本市内を通らなくなった。よって松本インターの前もほとんど通らない。通るのは、松本トンネルと新村交差点を結ぶ土手高速。その途中にある梓川サービスエリアから高速に乗れる環境は、使い慣れた場所が便利になった感じで嬉しいのだった。


 158号を進んで行くと、釜トンネルの前では6名のパーティーが、暗い中スタート準備をしていた。なんかスタートするハイカーが居る中、まだ目的地に到達していない状況を焦ったりもする。安房トンネルを潜り平湯に出るが、ここも無料になってこんなありがたいことは無い。ここの通行料金はラーメン1杯分に相当したから・・・往復で2杯分。栃尾に下りて新穂高に入ると、ここでもスタートしだしているパーティーがちらほらと見られる。みんな、この天気に後押しされて入山するのだろう。ただしスキーヤーの姿は無かった。いつもなら無料市営に入れるのだが、この時季なので、より奥に車を進めてゆく。左俣林道へ進んで行くと、ホテルニューホタカの下がツルツルに凍っていて、かなりやばい状況。何とか這い上がりゲート前まで入れるが、ここでの駐車は500円。少し戻って、仮設橋の袂に駐車。この時季なら交通量も少ないし、除雪する積雪量でもないし、通行に迷惑は掛からないとの判断であった。あと、左俣の有料駐車場は、鎌田川の工事の為に、工事車両置き場になっていて利用できない状況になっていた。暗いうちに到着したので、当初はそのスペースに停めようと思ったが、絶対に停めないほうがいい
(帰りに見たが、工事車両で満杯になっていた)。時計は5時。経路6キロくらいであり、焦らず仮眠。どうにも仕事の疲れが尾を引く・・・。


 今日も林道が長いので、一番長い板の選択とした。シールを貼っていざスタート。仮設橋の先のカーブ、先ほどヒヤヒヤしながら通過した場所は、乗ってみると氷の厚さが2センチくらい、それが舗装路幅全体を覆っていた。「良く車で登った」そんな場所であり、恐々足を出してゆく。その上で融雪の為の水が流されているのだが、それが逆効果になっているようであった。ゲートで板を装着し、雪の上に這わせてゆく。少しゆっくりのスタートになったので、既に先行者が2名いるようであった。そのカンジキの跡を踏むように板を沿わせてゆく。歩き出してすぐに、左側に穴毛谷が見えてくる。そこに見えるは、雪の間にそそり立ついくつもの砂防堰堤。その工事途中に歩いているが、現地での堰堤の高さは2.5mほどあった。それらが完成したようであり、これでもかと並んでいる。完全にコースが潰されてしまったと思えた。その昔、ここも登山ルートがあった場所。何度も起こる雪崩に砂防工事がされたようだが、どうしても遊びよりは安全優先となるだろう。寂しい思いで眺めていた。でもまあ、マニア好みの場所であり、何処かに画期的なルートが見出せるのだろう。と言うのも、工事関係者がいるのだから、何処かに作業用のルートがあるのだから・・・。


 伝っていたトレースが、ピンクのリボンの下がる場所で、左俣の中へ下降しだし渡渉して対岸に登っていた。どうやら先行していたのは、穴毛槍の冬季ルートを伝う岩屋パーティーだったよう。もう少し先に進めば橋で渡れるのだが、純粋に取付き点から進むのが達成感があるのかもしれない。さてここから単独ラッセルとなる。と言っても沈み込み量は15センチほどで楽な部類。それにしてもよく冷える。早く太陽の日差しが欲しい時間であった。でも東側を山に塞がれ、当分陽の目を見ない場所。しばらく我慢。そうこうしていると仰ぎ見える笠ヶ岳の北尾根が、金色に輝きだした。すばらしい造形美。正しく金色。もうこれだけで、ここに着てよかった。と言ってここで引き返すわけではないのだが、よりすばらしい眺望を求めて先に進む。


 中崎橋を渡る。この辺りでまた数度気温が下がった感じであった。歩いてはいるが、血流が体内を回る以上に外から冷やされている。手がどんどんと悴んでゆくのだった。そして左側に笠新道の標識が見えてきた。この時季に誰かは登っているのであろうが、この時はその痕跡を雪が覆い尽していた。ハイシーズンになると賑わうここも、今はひっそりと静まり返っていた。雪が人間の匂いを消して自然の姿にしているとでも言おうか・・・。進んで行くと、だんだんと青空の範囲が広くなり、それが周囲が開けてくる事を意味するのだが、その青空の下にはゴツゴツと折り重なる雪崩の跡がお出ましになった。ここがこの状態なら、その先はもっと酷いだろう。そんな予想が立てられた。硬いデブリにバランスよく板を乗せないと進めないような場所もあり、注意しながら足場を選んで進んで行く。新雪が起伏や凹凸を隠しており、足を乗せて初めて、下の状態が判る場所も多かった。乗り越えると言うよりは、大きく右に巻くように進んでゆく。そしてデブリを越えて15分ほどでワサビ小屋に到着。全ての窓は雪対策の為に閉ざされていた。季節的には春はもう目と鼻の先になるが、まだまだここは冬の真っ只中だった。


 ワサビ平の看板を左に見ながら進んで行く。樹林帯を抜け出して僅かに左カーブを曲がると、さあ出てきた。本格的なデブリ群。少し背筋が寒くなる感じであるが、緊張しつつ気合を入れる。既に右手には、こんもりとした姿で下丸山の姿がある。その背後には、下丸山を露払いに従えたような姿の奥丸山。周囲が開け、綺麗な風景だった。左俣谷の流れはまだ見えており、この先の小池新道入口の橋で対岸に渡るのが適当に思えていた。そしてデブリに突っ込む。先ほどのデブリに対して、こちらはゴツゴツさが倍増。一度バランスを崩し、コケて顔面を強打。それこそ痛いほどデブリの雪の硬さを思い知った。そしてこの次に現れるのが、下抜戸沢本流デブリと言っていいか。その幅200mほどに思えるような巨大な雪崩跡。足を進めるも、なんとも辛い。“こんなんじゃ植村直己さんにはなれないな〜”などと思いつつ乗り越えていた。がしかし、右を見ると左俣にスノーブリッジが架かり対岸に行けそうな場所があった。ここを無理して通過して行くよりかなり楽。わが人生と同じ、ここは楽を選ぶ。

 少し戻ってシューというシールの擦れる音とともに降りて行き、その勢いのまま左岸側に移る。それでも雪の下では流れの轟音がしていた。けっこうドキドキの通過でもあった。さああとは下丸沢の問題。地形図を見ると奥丸山側の東壁がゲジゲジマークだらけであり、そこからの雪崩が危惧できた。作戦当初は、北に回りこんで奥丸沢を詰めようとも思ったが、下丸山を巻き込んでゆく林道もゲジゲジマークであり、そこからの落ちた雪で足場状況も良くないだろうと判断できた。一か八か・・・下丸沢に突っ込む。もう少し雪が締まった後ならいいのだが、まだ落ちきっておらず、落ちている最中。用心には用心。そして単独であるが故の色んな想定をしていた。見ると、地形図上では厳しそうに見えた南尾根は、意外や伝えそう。その尾根を左に置くようにして、谷を詰めて行く。こちらも流れが出ていて、下の方は注意しながら進まねばならない。右岸側を進んでいたが、流れが右岸寄りになり進路が狭められる場所となる。ここは谷に入ったら早めに左岸に渡ってしまうのが楽に歩ける形となるだろう。


 進路を狭められ、難儀しながら高巻気味に登って行く。左岸側には歩きやすそうな平らな地形。“くそー勘が冴えていない・・・”。そして1580mで、気になっていた奥丸山側からの雪崩があった。ここはそう幅が広くなく、雪崩の下側となる西側を巻き込んで沢の中を進んで行った。ここを抜けるとその先は快適そうなバーンがあり、その上がコルとなる。ただし、その快適そうな斜面の中にもデブリ痕が見られる。いつでも起こるであろう雪崩を思いつつ、逃げる事を思いつつ、進路は出来る限り樹木が多く見られる辺りを進む事にした。右側に見える黒い岩壁が、周囲温度を数度下げているような気分であった。


 奥丸山と下丸山とのコルに到着。これほどに顕著なコルに立ったのは久しぶり。感じとしてはハシゴ谷乗越(冬季)のような雰囲気であった。登りあげると目の前に西鎌尾根の白い連なりがある。赤岳計画の下見と言っても、雪があるのは来る前から判り得ている事であり、その尾根を肉眼で見る事で自分を納得させたいだけでもあった。東側には奥丸山に続く尾根。西にも同じように緩やかな斜面が上がっている。足を乗せると、これまでの雪は新雪でフカフカであったが、ここはクラストしているような状況で、やはり東斜面と言えよう。日当たりがいいのだろう。クトーの刃を噛み付かせながら上がって行く。そして難なく山頂へ。


 下丸山到着。標識類は無く、自然の中に居る感じが強い。トウヒカシラビソか、よく見なかったが樹木に覆われておりあまり展望は良くない。良くないと言って見えないかというとそうでもなく、木々の間からは周囲が見えるような状況。山頂部には陽射しも入り、南東側の太陽を見ながらヤキソバパンを齧る。その日差しを浴びた周囲の木が、時折「パーン」と破裂音を出していた。立ち上る白湯の湯気に日差しが射し込む。その周囲では、ハラハラと舞い落ちるスノーダスト。とても綺麗な絵面であった。風もほとんど無く、それも幸いしていた。下りは往路を伝う事にした。シールを外し、バックルを締め込み、いざ。


 コルまでは硬いバーンをガリガリと削るように降りて行く。そしてコルからの快適バーンは、大きなシュプールを描いて降りて行く。このシュプールが下手なこと・・・。少し起伏も多く、雪の状態もモナカ的な場所も多く、下手糞な私は難儀しながらの滑りであった。あとは下丸沢の渡渉のみが問題。広い左岸側を滑りつつも、常に沢の位置、右岸地形を気にしつつ降りていた。そして往路に渡った位置より50mほど下った場所で対岸に移る。もうここが最終で、その下以降で渡れそうな場所が無かった。そして南尾根を乗越して左俣に入る。ここから見る下抜戸沢は壮大であった。扇のように雪崩落ちた雪。それが怖さと言うより美しさに見えていた。滑り降りて行き、往路同様に一気右岸に移る。注意しなければならないのが、左岸側には隠れた深いクラックがある。落ちれば2mほどあろうかと言う物が、幅40センチほどの口を開けて待っていた。


 右岸に移り、シールを装着してデブリを下巻きするように林道に戻って行く。それでもデブリ群を通過せねばならなく、ここでもコケて腹部を強打。ボクサーになった気分・・・。「ウッ!」と一瞬息が出来ないほどであった。自然は甘くないのであった。デブリを過ぎれは、もう林道を戻るだけ。あまり傾斜は無いものと思っていたが、意外や滑る。これも長い板のおかげだろう。短い板だったらこうはいかないはず。そしてワサビ平の看板のすぐ先で、二人分のトレールが抜戸岳側に上がっていた。“よくもこんな斜面を上がるなー”と感心するほど。それでも、ここまでは私のトレールで助かったはず。少しは貢献できたか・・・。ワサビ平小屋を越えて笠新道入口付近まで進むと、ご夫妻らしきカンジキパーティーがいた。気さくに声を掛けていただき、ホンワカとした会話がされる。笠新道を上がったが、厳しすぎて戻ってきたと言う。背中にはデイバック気味の小さなザック。「少し時期が早かったですかね」と声をかける。でもこの時季にここまで入っている事に、同族な感じがして嬉しいのだった。


 中崎橋の辺りまではあまり滑らないが、それを越えるとスピードを感じるほどに滑ってくれる。いい感じ。陽射しも強く、それが周囲の気温の低さに打ち勝っている感じ。気持ちいい。シュプールを描くのもいいのだが、こんな感じで林道をボーッと滑るのもまた気持ちいい。今日の入山者は、私を含め7名だったようだ。内訳はスキー3名、岩屋2名、ハイカー2名となるだろうか。ゲートに到着し、板を担いで降りて行く。往路ではガチガチだった凍った路面も、綺麗なまでに融けていた。この日の陽射しの強さを物語る。まだ日が高いし、もう少し山中に居たいところであったが、こんな日もあっていいだろう。車に戻り、フロントガラス越しの暑い日差しを受けつつ帰路となる。


 温泉に入り、食事を済ませ、帰りは梓川SAから高速に乗ってみた。楽なのだが更埴を経由すると距離がある。結局時間的にはあまり変わらなかった。でもヘロヘロに疲れた時などは、信号の無い高速の方が有利。便利に使わせてもらうだろう。


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