爺ヶ岳 2269.8m 布引山 2683m 牛首山 2553m
2011.5.21(土)
晴れ 単独 扇沢口より 行動時間15H42M
@柏原新道登山口3:18→(235M)→A爺ヶ岳南峰7:13〜15→(19M)→B爺ヶ岳中峰7:34〜35→(41M)→C赤岩尾根分岐点8:16→(14M)→D冷池山荘8:30〜32→(71M)→E布引山9:43→(33M)→F鹿島槍南西麓トラバース10:16〜21→(71M)→G牛首山11:32〜49→(115M)→H鹿島槍西麓直下13:44〜49→(34M)→I布引山帰り14:23→(36M)→J冷池山荘帰り14:59〜15:08→(14M)→K赤岩尾根分岐点帰り15:22→(80M)→L爺ヶ岳南峰16:42〜45→(135M)→M扇沢口下山19:00
@柏原新道扇沢口から入山。 | おぼろ月とでも言おうか、そこそこ見栄えのする月が出ていた。 | 周辺が暗い中、扇沢駅の明るさだけが浮き立つ。 | 冬季ルート上にあったツェルトテント。 |
ジャンクションピーク付近で樹林帯から抜け出す。見えないが、強風。 | 針の木岳側はガスが垂れ込めている。 | 爺ヶ岳南峰直下。 | A爺ヶ岳南峰。強風でじっとしていると寒くて、すぐに足を進める。 |
A南峰から西側。 | Aアベックのハイカーが、ケルンを風除けに休憩していた。 | 中峰へは、残雪に伝って登って行く。 | B爺ヶ岳中峰。 |
B三角点。 | B中峰から南峰。 | B中峰から鹿島槍。その左の肩のような峰が、向かう牛首山。 | 爺ヶ岳北峰の雪は、どんどん落ちつつあった。 |
北峰の北側から、伝ってゆく稜線。冷池山荘まで、240mほど下る。 | C赤岩尾根への分岐点。 | D冷池山荘。宿泊営業は6月中旬頃から。テントの申し込み、売店のみ現在も営業。 | D売店の様子。 |
E布引山 | E布引山から牛首尾根。 | 途中から。この時間帯もまだ強風域。さらにはガスが晴れず。 | そして10:12、一気にガスが晴れた。 |
F登山道から逸れてトラバースしている道。小屋番曰く、牛首尾根にルートをつけようとして作った道らしい。 | 牛首尾根に乗り、下側。標高2750m付近。トラバースを終えた辺り。 | 尾根上は雪の融けた場所も多く、アイゼンを着けていないのなら、雪の切れた上の方が歩き易いと思えた。 | 2481高点近くが最低鞍部。 |
特に危険地帯は無いが、尾根の北側は鹿島ウラ沢に落ち込んでおり、足場選びは重要。 | 途中から鹿島槍側を振り返る。中央の黒い部分のすぐ右に見える黒い部分。この辺りが雪解けが進み、深いつぼ足となった。 | もうすぐ牛首山。(中央の黒い部分) | G牛首山から西側。西側にある高みの方が、一見高そうに見える。 |
G牛首山から東(鹿島槍)側。 | G牛首山から爺ヶ岳。先ほど居た場所が遠くなり、またあの場所まで戻らねばならない。 |
G牛首山から立山・剱。 | G剱岳アップ。三ノ窓・小窓雪渓がクッキリと見える。 |
鹿島槍の方へ戻って行く。 | H鹿島槍西麓直下。 | トラバース途中から牛首山。 | 登山道に乗る。 |
トラバースしてきた斜面。中央と、そのやや右に黒い筋があり、これが道形。 | 鹿島槍北峰からアラサワノ頭への稜線。今なら楽々だろう。次回へ楽しみは残し・・・。 | I布引山帰り。 | J冷池小屋帰り。ビールを買って喉を潤す。 |
K赤岩尾根分岐点帰り。 | 爺ヶ岳中峰側から南峰。 | L爺ヶ岳南峰帰り。既に夕方の雰囲気。風が少し冷たく感じてきていた。 | L南尾根を降りて行く。 |
ジャンクションピークから、降りる側を間違えてしまい、南尾根を伝ってしまい、登り返す。 | 扇沢から登山道に入ってすぐに、倒木あり。谷側を巻くと容易。 | 堰堤前に降り立つ。 | M登山口に到着。 |
今年の残雪期、あまり私らしい歩きが出来ていない。私らしいと言う部分が厳密には曖昧なのだが、雪を伝っての長駆が無い訳で・・・季節のお遊びが出来ていないと言うか・・・。
その長駆に4月16日に一度トライしたが、悪天による敗退となった。こうなると益々自分の中でフラストレーションが溜まる。不甲斐ない自分を自分で責めるわけなのだが、このあたりのブレの修正も早くしたいと思っていた。そして結果を出せばすぐにご機嫌になるのも私。根性を決めてリベンジとなる。幸いにも土曜日の天気は良さそう、日曜日は一転して悪天模様だが、いざワンデイ勝負。勝負と言うのは相手がいるわけでなく、自分な訳で・・・。
0:13家を出る。三才山トンネルで松本に出て、池田町経由のいつものお決まりコースを行く。月齢よろしく、大きな橙色の月を追うように扇沢に向かって行く。そして柏原新道の入口駐車場に着く(3:00)と、1台の車が停まり、中で寝ている人の顔がヘッドライトに映し出される。扇沢に向かう車に、何度も照らされるのだが、“よく寝てられるなー”と思うのだった。すぐさま準備に入る。外気温は13度と暖かい。周囲の雪が溶け、山野草の芽吹きに勢いがある感じ。今日はヤキソバパンが買えなかった事が心残りなのだが(どうでもいいことだが)、験を担ぐ意味ではザックに入っていて欲しい物。無いと寂しいのであった。そしてザックにカンジキとピッケルを結わえて準備完了。
3:18歩き出す。この時期の1ヶ月の経過は、辺りの様子をまるっきり変えていた。雪のおかげで自由に歩け、谷をがむしゃらに登った前回。今回は夏道の上を快適に伝うことが出来る。登山道脇には、ショウジョウバカマの紫色が目立つ。柏原新道とは、こんな歩き易い道だったのかと初体験。高度を上げると共に雪が増すのだが、その雪にかき消されるのがこの柏原新道の難点。途中から雪が覆いだし、適当な場所から尾根に突き上げ、尾根ルートに乗る。こちらにもしっかり道形がある。少し開けた場所から振り返ると、蓮華岳の上に明るい月が見える。そこから右下に目を移動させると、扇沢駅が谷に転げ落ちた宝石のように明るく輝いて見えていた。
尾根上の道形を追って行くと、その道の上に緑色のツェルトテントが現れた。ここなら雪もなく、暖かく過ごせただろう。すぐ脇をテントに擦るくらいの距離で通過して行く。雪が無いにしても、4月の記憶が新しい為に、木々や地形が、“あーあの時の”“この先はこうになってて”と克明に思い出される。前回歩いた尾根東側は、だいぶ雪が落ちてしまい伝うことが出来ない。よって尾根上を、枝葉をかき分けながら進んでゆく。上に行くほどに気温が下がるのは順当だが、強い風を伴った冷気に、”今日もまた”と思ってしまい、前回の体験がトラウマになる。
ジャンクションピークに上がり前方が開けると、前回同様の姿で爺ヶ岳南峰が見えている。風の強さも同じ・・・なんだか少々ブルーな気分になる。ブルーな気分、ブルーハーツ、そしてハイローズとなり、やはり今日も「♪フルコートの『爺』」と口ずさむ。“拙いなーこの風”15m/sほどは吹いていた。歩みを進めるにも、その一歩に悩みを伴いつつ前に出している感じだった。振り返ると針の木岳の稜線は深いガスの手中に収められている。今日の山はこんな天気なのか・・・。下界を見下ろすと、大町市内に日が射している。少し時間の経過で変化があるかも。いつもながら前向き思考でいく。左の稜線上に赤い屋根の種池山荘が見えてくる。そしていつしかその高さが低くなってゆく。
もうすぐ南峰。冬季ルートであるが、夏道と言ってもいい九十九折が切られている。だが、あまり面白くないので、東側の残雪に繋がって、やや急斜面をキックステップで登って行く。見上げると、頂上でテンガロンハットを被ったような方が動いているのが見える。何処から登ったのか、南尾根にはトレースが無かったので、針の木もしくは五竜の方からの縦走者か・・・。直下の急勾配は、20歩に1回ほど休憩を入れつつ這い上がる。滑れば、そのまま奈落の底へ行ってしまうような斜面。ゆっくり、そして慎重に歩みを進めていた。風が強い為にバランスを崩しやすく、後に剥がされるのを恐れ、少し前傾姿勢。ただし前傾になりすぎると、足場が滑るので、このあたりは微妙な駆け引き。
爺ヶ岳南峰到着。雨具のフードが猛烈にバタついている。ケルンの横では二人の男女が休憩中。邪魔をしないよう離れた場所で周囲展望を楽しむ。その周囲はガス。止めるならここでの判断。でも同じ失敗は二度したくなく、ここで負けたら・・・”行けるところまで行こう”そう決めて中峰の方へ足を進める。夏道はしっかり出ていて、それを伝えばいい。それでも雪の上を楽しみたい。南峰と中峰との鞍部からは、南側に着いている残雪に伝って登って行く。このあたりは風に背中を押されながら登って行く感じ。そして爺ヶ岳最高峰の中峰到着。かれこれ10年ぶりの登頂。それでもこの山頂は、当時と同じままで待っていてくれた。鹿島槍は依然ガスの中だが、目指す牛首山のガスがとれ姿を現した。姿を現してくれ嬉しい反面、その遠さが目の当たりに出来た。”本当にあそこまで行くのかい”と自問自答。この爺ヶ岳山塊では、北峰の雪の付きが見応えがあり、東側の岩壁にある落ちかけた雪が、綺麗な自然造形となって目に飛び込んでくる。この北峰は、既に踏んでいる事と、現在は植生保護の為に立ち入り禁止になっていることから割愛。冷乗越に向けて高度を下げてゆく。ここでの高度差は240mほどとなる。雪が残る登山道は、足場の状況が悪く、ズボズボと踏み抜く。どんどんと冷池山荘の赤い屋根が近くなってゆく。弱い気持ちの自分が「今日は小屋まででいいや」と言っている。
冷乗越。大町ライオンズクラブの建てた新しいオブジェが眩い。赤岩尾根へのルートを見るも、流石にトレースは見られなかった。さらに高度を下げて、緩い雪を踏みながら登りあげると、クリーム色の壁を擁した冷池山荘に到着した。ゴールデンウィークを過ぎたこともあり、既にオープンしているのかと思ったが、まだオープン前。ただし入口は開き、冬季小屋として開放しているのかと思えた。人の姿なし。休憩を入れたいところだが、休まず頑張る。補強しっかりの玄関前を北に向かい、やや急峻の雪の斜面を駆け上がり、尾根ルートを進む。やや起伏のある中をうねるように歩んでゆく。時折振り返り、小屋の位置を確認する。念には念を、ガスった時の為に確認は怠らない。
布引山まで上がると、もう目と鼻の先に鹿島槍はあった。ただし、牛首山の方は、まだまだ距離があるように見える。鹿島槍に対する牛首山の高低差がそう見えさせるのだろうが、そこにある牛首尾根が、まこと長く見えていた。そして牛首山から北に下って行くと、右側に残る雪庇のテーブルの上に、アイスバイルを両手に持った方がひょっこりと現れた。その下は鎌尾根。間違いなく伝って来たのだろう。ササッと雪を払って私の前を鹿島槍に向けて登って行く。その後をトボトボと追う。ガスの中、前を行く御仁が見えたり見えなくなったり。しかし、前を行く御仁が鹿島槍を狙って行くのに対し、こちらは西側の牛首尾根が気にかかる。何処からトラバースを始めようか、斜面の雪の着き様、ハイマツの様子、見える範囲でルートを探っていた。
すると、10時12分、一気にガスが晴れた。ふと気付くと風も納まっている。一転して好天な周囲に変わった。そして視界が開けた恩恵、鹿島槍南西斜面を横切ってゆく道形が左に見えてきた。間違いなく道形であり、縦走路を逸れているもの。そこに足を乗せてゆく。その道は40mくらい進んで斜面の中に消えていた。そこですぐさまクランポンを装着。久しぶりの12本であり、なにかとても新鮮。ただし、この先の雪は、雪団子を作るには適当で、2歩ほど進むとゴットリと団子が出来る雪質となっていた。小さな雪田をつぼ足で過ぎ、次にガリガリと刃先を丸めるゴーロ帯。そこを過ぎると、やや深いハイマツ帯が20mほどあり、フワフワと太い枝に乗りながら横にズレてゆく。そして牛首尾根に乗る。べったりと雪が乗っているが、尾根の頂部は雪融けしていて、歩き易そうな場所に見えた。既に12本を着けてしまっているので、そのまま雪に伝って高度を下げてゆく。緩やかな斜面だが、ここでコケれば、停まる事無く数百メートルは落ちてしまう場所であった。当然のようにストックはピッケルにスイッチし、いつでも滑落してもいいように構える。腐れ雪、すぐに団子になるような状態であり、クランポンの爪が突き刺さる訳でなし、さほど勾配があるわけではないが、歩いていていやらしい状態ではあった。
この牛首尾根。最低鞍部のある2481高点までに、2つの肩があり、直線的に鞍部が見えなくなっている。最初の肩の下は、少しブッシュが出ている踏み抜きの多い斜面であった。雪の下はハイマツ帯。二つ目の肩の場所は、周囲がやや急峻で、ハイマツの際にある雪に伝わり、後ろを向いて降りる場所もあった。露岩を巻くように南に少しズレると、その先の鞍部が見え、そこから続く白き稜線が見えてくる。その先に黒く盛り上がっている場所が牛首山。ここに来るまで、全く気にしていなかったが、狙う牛首山の背後には、なんと剱岳が聳えていた。そう、牛首山は剱岳の隠れた展望台なのであった。そう思うと、疲れた足にも気合が入る。最低鞍部はやや汚れた雪面で、その上にトレースを刻んで行く。時折雷鳥の糞があるが、周囲を見ても姿はなく、耳を澄ましても鳴き声はしなかった。牛首山に登りあげてゆくのだが、2500m付近が、何となくリッジ形状で、風の吹きようにによってはナイフリッジとなるであろう。ただしこのときでも北側の斜面は切り立っていて、ちょっとのミスが大滑落になるような場所であった。少し南寄りに足を進める。そして最後は、ブッシュが出たこんもりとした山頂部となる。左右どちからからも巻ける様だが、ここは北側を巻き込んで鋭角に戻るように山頂に立つ。大きなクラックが入っており、もしかしたら南を巻いた方が正解だったかもしれない。クラックは、斜度がきついために出来た雪融けのクラックであった。
牛首山到着。僅か西側に小ピークがあり、そちらの方が高く見えズレてゆくが、今度はその小ピークに立つと、先ほどの場所の方が高く見える。高度計で確認すると、東端のピークが最高所で良いようだ。ただし、西側のその場所の方が、立山・剱岳の展望台としては優れている。風も収まり、周囲のガスも消え、まずまずの周囲展望。それこそ360度のパノラマ状態。南を見ると、うんざりするほど遠くに、戻らねばならない爺ヶ岳があった。ただし、往路に向こうから見た遠さより、既に折り返し地点まで足を進めていることから、少しは気持ち的に楽でもあった。荒いでいた呼吸が収まったところで、復路となる。
牛首山の北側を巻いてゆくところは、往路同様に慎重に足運びをする。最低鞍部に向けて高度を下げてゆくのだが、やや緊張しながら行かないと、足場が緩く流れる。クランポンの雪団子を頻繁にピッケルで叩き落しながら歩いていた。その金属音が周囲に響く。そして鞍部からの登りになると、もう疲れから牛歩状態。重力に逆らいながら、上半身を振り子のように使い登って行く。どこからか“クルックルー”と鳴き声がするのだが、雷鳥の姿は見えず。硬い雪を選びながら、いくつも潜むクラックを避けながら登って行く。往路でいやらしかった斜面は、同様に復路でも同じであった。やはりこの尾根は3段階に分かれ、肩毎で前方視界が塞がれ、その肩に上がるとその先が見えてくる感じであった。復路はなるべく平坦な地形を拾い、より鹿島槍に寄ってからトラバースを開始した。僅かな事だが、高度を上げてトラバースした方が結果的に楽であった。
牛首山からほぼ2時間。鹿島槍南峰の南で登山道に戻った。登山道に乗ってしまえば、あとはエスカレーターのように伝って戻るだけ。いやらしい部分は、小屋からの登り上げと、南尾根の藪部分くらい。あとは時間が解決。ヘッドライトを覚悟の上で戻って行く。戻りながらも、少々誇らしげに牛首尾根を見る。“行って来れた。ありがとう”そんな気持ちで眺めていた。布引山を通過し、その先、見えたり隠れたりする冷池小屋を目標に、雪の上を伝ってゆく。本日のトレースは私を含め二人だけだったようだ。もう少し人が入っていると思ったが、まだまだ冬山と言うことだろう。
冷池山荘に戻り、中で休憩しようと思うと、奥の方から30代くらいの男女が現れた。オヤッと思ったら、彼らが管理人であった。まだ営業小屋ではないので聞いてみると、テント料金の徴収と売店を開けていると言う事。「あれっ、ビール飲めるのですか」と聞くと、嬉しい返事が返ってきた「飲めますよ」。「じゃ、350一本」。550円であったが、2000円してもいいほどに美味しく喉をくぐっていった。これによりかなりリフレッシュ。アルコールにより筋肉への影響はあるが、それを上回る爽快さ。軽い会話をして、早々に小屋を後にする。小屋前にはテントを設営中の単独ハイカー氏も居られた。この先が、ややつぼ足回数が多い。膝上まで踏み抜きながら、見え隠れする夏道を追って進む。
冷乗越を過ぎれば雪は切れ、歩き易い登りをグングンと大股で進んで行く。爺ヶ岳北峰を巻き込み、中峰も横目に通過、そして目の前に南峰が見えてくる。山頂に誰か居ないかと探すも、立っている様に見えるのは標柱。静かな山頂が待っているようで、夕暮れになる時間帯、ちょっと嬉しかったりする。私は、夕暮れの山頂の物悲しさがとても好きなのだった。
南峰到着。ザックを下ろし、その上に腰掛ける。既に遠くなった牛首尾根が見える。つくづく人間の足は凄いと思う。この移動量、生きている感じが強くして、またまた嬉しくなる。さて、あまり悠長な時間はとれず、急いで下山。ヘッドライトを覚悟の上だが、藪尾根の場所では、あまりライトで行動したくなく、降りられるものなら明るいうちに降りたかった。往路は雪に繋がったが、復路は九十九折の夏道を辿る。冬季ルートにおいて、夏道というのはおかしいが、それほどに綺麗に道が切られていた。これほどに融けたここは初めてであり、その道形の立派さに少し驚いた。降りながら、“前回はここで酷い風だったなー”“とか“あの雷はやばかったなー”とか、ひと月前の様子が甦る。雪に伝って行ける場所は雪に伝わり、そこに勾配があればグリセードで滑り降りて行く。ストックがあるおかげで、さながらシュートスキーばりに降りて行けた。
ガンガンと調子よく高度を下げたのだが、ジャンクションピークから、何を思ったかそのまま南尾根を降りてしまった。100mほど下って気付いたのだが、気付くのが早くてよかった。再び登り返して、正規南西尾根に入って行く。ここでもグリセードでサクッと降りて行く。腐れ雪であったが、それがちょうど良い雪質で、適度なブレーキになり、滑り過ぎず滑らなさ過ぎずだった。
2000mくらいまで、ちょっとした滑りを楽しみ、その後は藪尾根を降りる。ここは、前回より凍った場所が少なく、それがありがたかった。木の根を踏みながら、両手は木々を分ける。右下に夏道があるのは判っていたが、そのまま尾根を行く。そして八ッ見ベンチの所で夏道と合流し、よく管理された石畳のような登山道を降りて行く。グリセードが出来たおかげで、予定よりかなり早くに降りることが出来た。完全にライト要らず。扇沢の白い流れが近くなり、冷気も少し感じるようなる。耳からはその音も感じ、降りてきた実感が強くなる。そして倒木を越えて堰堤のところに降り立つ。登山届けを横目にゲートを越えて駐車場に到着。
無事に行って来れた。天候あっての今日だったろう。あまり暑すぎても腐れ雪になってしまうし、朝の冷気を伴った風は、残雪を冷してくれ、より硬い雪を用意してくれたと言う判断もできる。自然に遊ばせて貰い、「おかげさま」の気持ちになる。