柄沢山   1900.3m        
                        

 2012.3.24(土)   


  雪(上層は暴風)       単独      清水地区除雪終点地から         行動時間:6H50M


@柄沢橋除雪最奥5:49→(57M)→A堰堤6:46→(215M)→B柄沢山10:21→(112M)→C堰堤帰り12:13→(26M)→D下山12:39


悪天候の為、標高1600mより上では、1回しかカメラを出せませんでした。よって今回は撮影枚数が乏しいです。

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@柄沢橋の上流側除雪最奥地 @登山届けBOX設置 堰堤下906高点付近。デブリで谷が埋まり堤防のようになっていた。 A堰堤右岸を巻き上げてゆく。
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標高1050m地点で右俣の方へ入って行く。左が滑り降りてきた方。 1050mから振り返る。 1100m付近。細かいデブリだらけの谷斜面。 左右からのデブリで付近が荒れた雪面になっている。
one.jpg cyoujyouy.jpg bouhuu.jpg  shitagawa.jpg 
1450m付近。急登続きで九十九を切りながら上がる。 B柄沢山山頂。風が時折ガスを流すも、ほとんど視界なし。 B真っ白でなにも見えない。 1270m付近。標高を落とすとガスも弱まり始める。
shikai.jpg  enteikaeri.jpg  syuuten.jpg  cyuusya.jpg 
1200m付近。晴れていれば・・・。 C堰堤まで戻る。
D除雪終点地 D駐車風景


   

 2010年のこの時期に、清水集落から米子頭山に駆け上がった。この時はトトンボノ頭が目当てであり、稜線歩きでは背中側に柄沢山が遠ざかっていった。振り返り見えるその存在感のあるスクンとした山容に、山心を擽るものがあった。いつかは登りたい・・・。

 
 全国的に荒れ模様。西から少し回復傾向にあるが、嫌な事に風が強いよう。この状況下に遊ぶには少し標高が高すぎるかと思ったが、それならそれでとフル装備で挑む事にした。2010年の米子沢が楽しかった為に、体にそれが擦りこまれている。同じような地形が待っているはずで、足元はスキーの選択とする。くねる谷を縫って滑る様子を想像するのだが、さて現地は・・・。

 
 2:00家を出る。標高こそあるがアプローチにさほど時間がかからないと踏んで、いつもより1時間遅れての出発。雨の中、関越道をひた走り、塩沢石内で降りて清水集落を目指す。がしかし、経路にコンビニが無い。国道291に乗って六日町側に戻るようにして食料を仕入れる。食料と言ってもヤキソバパンだけなのだが・・・。雨は依然しっとりと降り続く。カーナビの軌跡を追うように再び戻って行く。清水地区に入り、涸沢橋を渡ると、その先が除雪最終地点。雪山ハイカー用に登山届けボックスが設置してあった。橋側に少し戻って路肩駐車。集落側では新聞配達の車が動いている。そのテールライトが雨で滲む。エンジンを切ると、屋根を叩く雨音も強く聞こえる。しばし仮眠を決め込み夜明けを待つ。今日はヘッドライトを忘れてきてしまっていた。

 
 5:49除雪終点地から雪の上に乗ってゆく。ザックには14本爪を入れてきた。稜線は普通にクラストしているだろう。運よくスキーになればいいが・・・。雪面にはスノーモービルの跡と、スノーシューのトレースが続いていた。前週のものか、薄っすらと見える程度。涸沢川に沿うように進んで行く。進んで行くと、南側斜面で雪崩発生。大轟音と共に、土砂混じりの雪が落ちてきていた。雨であり、緩みやすいよう。この先の進路でも要注意。こんな日に雪崩に遭えば笑われてしまう。


 最初のチェックポイントは堰堤。それがいつ出てくるのかと詰めて行くと、谷全体がデブリで埋まっていた。その高さ4mほど。ちょうど906表高点付近で、南側からの雪崩で埋まったよう。先に進むに対し緊張感が高まる。往路は谷登りを考えていたのだが、尾根筋に切り替えようと思えた。そしてその先が堰堤であった。その堰堤は右岸から巻いてゆく。地図で確認すると、この下に堰堤はもう一つある。先ほどのは、本当の堰堤だったのか。デブリの堆積にしてはおかしいとも思ったのだが・・・。既に雨具はびしょ濡れ。気温がさほど下がっていないのがありがたいが、腕時計の気圧計は下降しっぱなし。この後の天気はさらに悪くなるよう。谷筋を伝って行き、標高1030mの所で主谷を離れ南側の枝谷に入る。早めに尾根に取り付こうと目論んだ。しかし、こちらもデブリだらけの雪面で、耳に神経を集中し、当然のように左右の斜面の動きに注意を払う。


 枝谷に入ってからも、しばらく谷筋に居た。適当な取り付き箇所が無く北にも南にも取り付けないで居た。スキーを履いているが為に、登り易そうな斜面を選んでいた為でもある。そして標高1200mから北側の尾根に取り付く。1620高点から西に降りてきている尾根筋なのだが、等高線の詰まっている場所で尾根に乗ってしまった格好になった。デブリを取るか急峻を取るかを、急峻を選択した恰好となった。この尾根筋、1450m付近までは雪が柔からかくグリップしていたが、それ以上でクラストしだした。一旦滑れば100m200mは一気に落ちてしまいそうな場所。両手両足に集中しながら這い上がっていた。


 傾斜が緩むのが1600mから。これがこのまま続けば・・・と思っていたが、そこからの雪面は完全にクラストしてシールも覚束ないような状況となった。そして1640m付近で板を脱いで14本爪に切り替える。グローブの末端は3センチほど凍りついている。先に雨に濡れているので、それが強風と低温に晒され凍ったのである。指先の感覚が無く、爪を履くにも一苦労。防寒具は鎧のように堅くバリバリに凍っていた。この時で視界は15mほど。風を避けたいが、西風であり逃げようが無い。少し北西から吹いていたので、尾根南を通過するようにしたが、あまり南に寄ると、急峻地形が待っている。板が帆の様になって風を受け、何度も体が持っていかれそうになる。なぜにここまでして・・・。そしてだんだん視界が無くなり、完全なるホワイトアウトになった。2m先も見え無くなった。地形か判らず、ただただ高みを目指すのみ。最悪の場合、我がトレースを戻ればいいと判断していたが、風雪が強く、寒く冷たく、色んな思考が停まっているかのようであった。もう何時だろうと時計を見るも、ガラスの上に5mmほど雪が凍っていた。歯で齧り取ろうとしても取れないほどになっており断念。上着の裾や腕首から、強引に風が入って体温を奪ってゆく。


 なかなか傾斜が緩まず高みは続く。そろそろ山頂と思っているのだが、着かせてもらえない。視界が無いので何処に居るかも判らないのだが、どうも雪庇の下側に居るようで、途中から柔らかい雪の中をつぼ足で進んでいた。雪穴に落ちる事2回。そのたびにハッとするのだが、凍った場所よりは、緩い雪の方が楽であった。ピークに対し、南側に巻きすぎてしまったようで、回り込むような感じで這い上がっていた。時に四つんばい。ステップを切りながら這い上がる場所もあり、雪質も様々であった。


 柄沢山山頂。それ以上の高みが無くなった。強風に時折ガスが飛ばされ、瞬間的に視界が得られるが、ほんと瞬間であった。酔うような視界に、目を瞑り歩く動作も交える。何とか懐からカメラを出すも、ボタンが押せずに、カメラケースのジッパーを使い押して撮っていた。休憩は体温低下に繋がり、そのまま行動を続ける。往路を戻ろうとも思ったが、折角のスキー装備、滑れる可能性のある方へ行きたい。当初の予定通り北に足を進めることにした。1809高点手前まで進んで谷を下る予定であった。


 叩きつける痛い風雪。サングラスを出したかったが、立ち止まることがまた指先を冷すと思い、風に身構えながらそのまま北進して行く。時折負けてよろよろとなる。お相撲さんのような、すり足をするように下半身に力を込める。コンパスを見ながら行くのだが、稜線の雪の原はけっこう広い。緩やかな地形が出てきたら斜面を下りだせばいいはずだが、こうまで見えないとそんな判断もしづらい。あまり頼らないでおこうと思ったが、GPS様の出番。その入れ物も凍りつき、なかなか出ようと言わない。四苦八苦して取り出し、現在地確認。1809高点の僅か南に居り、予定の下降点に到達している。あとは西に下るのみ。斜面の北側には顕著な尾根があるから、それを乗り越えないように降りて行けばルートを逸れる事は無い。ここからの下りが怖かった。足元の先が1.5mほど見えるのみ。あとは真っ白。“急に勾配が増したらどうしよう”そんな不安でいっぱいになる。それでも何とかして降りないと、この天気も体温の低下からも避けられない。急ぎたいが急げない心境も辛かった。ゆっくりと、一歩一歩を確かめるかのように降りて行く。あまりにも見え無くなった場合は、後ろ向きで下降を繰り返した。その方が酔うような感覚を避けられるのだった。


 高度を落として行くと、雪も緩みだす。もうスキーを楽しめる斜面なのにそれが出来ていない。もどかしい限り。履いたとて滑れない視界とは判っているが、潜るつぼ足に、“板を持っているのに・・・”と思うのだった。それでも、下って行くに連れて、ガスの濃さは緩和されていた。少しづつ視界が広がりつつあった。そして1480m付近で、14本爪からスキーにスイッチ。しかし雪面がしっかり見えない状況下では、ずり落ちてゆくのが関の山で、見えない中でスピードが増す恐怖感の方が増えていった。これも経験か。繰り返せば慣れるのか・・・。


 1050mで、往路の我がトレールに乗る。まだ雪面がはっきり見えない状況。トレールの刻みを拾うように滑ってゆく。筋肉が冷え切っているのか、ちょっと滑るだけで足の疲労が増す感じ。踏んだり蹴ったりとはこの事か。それでも少しづつ有視界となり、何となく形になるシュプールが刻めるようになってゆく。ただし、高度を下げると雪は雨となり、雪面状況は悪くなる。美味しい所を美味しくいただかず、不味い場所を無理無理に頬張っている感があった。自然を味わうにも、適季がありタイミングがある。


 前方に堰堤が見えてきた。ここまで来れば、もう危険箇所は無い。その先は極めて緩斜面。一本棒のようなシュプールを引きながら降りて行く。さすがに今日は誰も入山していないようで、我がトレールだけが残っていた。除雪最終地に着いたとき。轟音がした。その方を見ると、西側の山斜面で土砂混じりの大崩落が起こった。これが山。歯向かってはいけない。今日の天気も、「山をなめるなよ」と言われた気がしていた。


 車に戻り、冷え切った身体が温かい温泉を欲していた。急いで温泉地に向かう。

 
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