クズバ山 1875m 西大谷山 2086.7m
2012.05.26(土)
晴れ 単独 東小糸谷よりクズバ山、稜線を伝って西大谷山まで行きガキガドウ谷を下る 行動時間:8H05M
@中山(東小糸谷)登山口
4:19→(37M)→A中山のコル4:58→(127M)→Bクズバ山7:05〜11→(71M)→C1885高点8:22→(86M)→D西大谷山9:48〜10:19→(52M)→Eガキガドウ谷出合(立山川に降りる)11:11〜14→(25M)→Fスナクボ岩屋11:39→(13M)→G馬場島発電所取水口11:52〜12:02→(20M)→Hゲート12:22 →(2M)→I登山口12:24
@中山の夏道に乗って登山道を行く。 | 東小糸谷は雪融けの流れが強い。小橋で3回渡渉。 | A中山のコル。ここから藪っぽい東側に進む。 | 急登尾根の切り開き。無ければ酷い藪だろう。開削に感謝。 |
標高1580mで雪に乗る。 | 1625高点付近 | 1640mに乗りクズバ山が見えてくる。 | 雪が繋がらず、夏道の上を何度も辿る。 |
もう僅か。山頂部は雪解けが進んでいる。 | Bクズバ山から奥大日山 | Bクズバ山から剱岳。 | Bタカネザクラか、見ごろで出迎えてくれた。 |
Bクズバ山から大猫山 | Bクズバ山から西大谷山(中央やや左、剱御前の手前) | クズハ山から1885高点間は、だんだんと藪が濃くなってゆく。 | 藪の濃い場所は、巻く努力をするのだが、このような残雪のある場所が少なかった。概ね尾根頂部を進む。 |
濃い藪を突き進み。ただし刃物痕は多い。 | 途中、カスミ谷側に古いロープが垂れていた。踏み痕も降りていた。尾根ルートの巻き道なのか、谷からの道なのか・・・。 | C1885高点から西大谷山側。 | 1940m付近 |
1970m付近 | 1990m付近から | 残り200m付近から | D西大谷山から剱岳。 |
D山頂部に3つのマーキングがされていた。ただし三角点ポイントと場所が違う。 | D三角点はマーキングポイントのさらに東側のピークにある。こちらにマーキング類は皆無。 | D西大谷山から見下ろすカスミ谷。伝いやすそうな緩やかな傾斜。 | D西大谷山からクズバ山(中央) |
D西大谷山から見るガキガドウ谷。ちょっといやらしい斜度。 | ガキガドウ谷1700m付近から見上げる。 | 1530m付近。ノドを前にして。この先、右にターンした先に3箇所口を開けていた。 | 1520m付近。左岸側を巻いて何とか通過。 |
1510m上段の危険箇所。ここは中央突破。岩が濡れていて滑る。 | 1510m下段。口を開けた1mほどをジャンプして残雪に飛び移る。雪に乗ってから見上げている。 | 1260m付近から立山川を見下ろす。土砂混じりのデブリが凄い。 | ガキガドウ谷出合の場所には円錐形の顕著な岩がある。雪の下の流れの音でむず痒い。 |
Eガキガドウ谷出合から剱岳側。 | Eガキガドウ谷出合から見上げるガキガドウ谷。 | Eガキガドウ谷出合から下流側。 | 立山川は、口を開けた中は流れが強い。 |
伝って来た稜線側を見ている。見事な景勝地。 | ハゲンマンザイ谷出合。右岸側を巻く。 | ハゲンマンザイ谷側から見る出てきた場所。 | 左の岩にロープも流されている。 |
スナクボ岩屋の上流僅かの場所に、2畳ほどの大きな岩屋が在った。 | 1080m付近。 | キクザキイチゲが満開であった。 | Fスナクボ岩屋の場所は湧水地。美味しい冷たい水が大量に流れ出ている。 |
もうすぐ取水口。踏み跡に乗ってザレた斜面を降りて行く。 | 取水施設へのヘツリは、足場が緩く。ちょっとドキドキ。 | Gハシゴを登り・・・。 | G上にあがったはいいが、降りられない・・・。 |
G飛び降りるには勇気の要る高さ。 | G左の絵に見える鉄板は、固定しているアンカーボルトがあり、それを利用してアブザイレン。 | G左右のタイガーロープが命綱。 | Gグレーチングは外してあり、左岸側に置かれていた。風がある時は怖い通過点。 |
左岸に移り、林道に乗って降りて行く。細蔵山が見えているのか。 | 菊石 | Hゲート | I中山の登山口に戻る。 |
中背山を狙い、結果2回の敗退。3度目の正直もあったが、何せ週中の天気の巡り合わせが3週とも同じになった。「今週も雨の後」。この条件はさすがに厳しい。普通に上は雪が予想でき、前週の新雪に難儀した様子が目に浮かぶ。情けないがトラウマ状態。と言うか、これが学習ってもんだろう。判断でもあり、体験が糧に・・・。また踏めないのでは、3週続けてフラストレーションが溜まってしまう。ここは今週ばかりは目標地点に到達してスカッとしたい。中背山も本来なら黒部側から狙えば、適度な雪に乗り到達できたのかもしれない。ただしトロッコでのアプローチでは制約がある。なかなか時間が無い中で狙うのは難しいのであった。
敗退癖がつかぬよう確実に一座、それも2週のフラストレーションを払拭するような結果を出したい。まこと勝手な欲求なのだが、それを満たすポイントを見出す。西大谷山。立山・剱においての展望台のような位置付けの場所。孤島的要素があり、その昔一帯は修験者の修験の場。スキー寄りの時期であれば、カスミ谷を利用して這い上がろうと思えるが、現在は少し雪解けが進んでいてカスミノ大滝がネックになる。そしてその場合もクズバ山が残ってしまう。踏めるなら2座。食はそうではないのだが、山においては欲張りなのであった。
この西大谷山。もうだいぶ前になるが、クズバ山への作道がなされている途中に、石川の雄である山中山岳会のI氏と山梨山の会のA女史が入山し、報告を貰っていた。その後、MLQ氏もサクッと踏んできており、氏らしい詳細な報告を見ることが出来た。周囲にだいぶ遅れての入山、それも狙う時季としてはやや遅いとも思っている。どんな藪が待ち構えているか・・・。雪のつながりを期待しつつ狙ってみることにした。
かなり仮眠を入れながら滑川インターを降りる。そのまま馬場島を目指そうと思ったが、蓑輪地区への道が通行止め。極楽寺経由で馬場島に向かって行く。空の星はちらほら。晴れのようではあるが、やや曇り空の様子であった。離村となりだいぶ経過した伊折地区が物悲しい。発電所前で押し出しが出来ており、いつも以上に狭い道となっていた。時計は3時を回った。馬場島に着くとヘッドライトでスタートして行く人の姿も見えた。そのまま立山川に沿って進んで行くと、その立山川を木橋で渡る。その左岸側が中山登山口。特に道標はないが、無数に置かれたケルンが、「何かの場所」と言う事を示している。実はこちらから中山にあがったことが無く、東小糸谷の様子を知らなかった。沢での夜行は苦手。そのために夜明けを待つことにした。立山川の流れの音を聞きながら、40分ほど仮眠とする。
リアガラスから空を眺めると曇天。目を開けた時は、雨でも降るのではないか・・・と思えるほど悲しそうな空の色に見えた。今日はザックにザイルを詰める。何があってもいいように、その場所その場所で装備を変えて狙う。特異な雪稜があるであろう場所。自己防衛でもあった。そして今日は新調した真新しいザック。その使い初めが藪。一発目からドロドロになるのだろう。ザックは買う人を選べない。ザックの気持ちになると少し可哀相でもあった。それでも新しいザックは、さすが新機種であり背負い心地は抜群。内容物は同じなのに、これまでとは大違い。こうなると新調した甲斐もある。
登山道に足を踏み入れてゆく。ニリンソウが見事なまでに群落を成している。水辺の場所であり、山野草が豊富。帰りには沢山のお土産が・・・などと思いつつ歩いていた。東小糸谷の流れは意外に強く、雪解け時期ならではのようであった。木橋が3つあり、それによりクネクネと流れを跨いで進む。雪融けのドロドロとした登山道を伝って行き、40分ほどで中山のコルに到着。西に本道となる中山への登山道が続く、東を見るとマーキングが下げられ、何となくの道が見える。木々が邪魔をしており入って行くにも分けて進むような道。これがクズバ山まで延びた道となる。なかなか両手が休めない道で、当初からそうなのか、繁殖力旺盛なのか・・・。
1200m付近から急登尾根となり、開削してくださった人の努力に甘んじる。開いてなければ濃い藪の場所と判る。時折補助ロープも垂れており、「這い上がってゆく」と表現するのが適当な場所であった。いつからアイゼンが履けるのか・・・予想外にもなかなか雪が現れないので、それ相応の覚悟をしつつ、雪を楽しみに足を上げていた。歩いて行く先を、小さな小さな野鳥が挨拶に来る。これだけのハイカーが入るエリアにおいて、人馴れしていない鳥も居る。そして1580m付近で雪が現れだした。すぐさま12本爪を装着し、刃先の感覚を楽しむようにザクザクと登っていった。少し靄ってはいるが、堂々とした存在感の剱岳が左に見える。まるでこちらの一挙手一投足を見られているかのように背筋が伸びる。
雪の上に人のトレースかと思ったら、数日前に通過した熊のトレースであった。大きな肉球がその固体の大きさを示していた。彼らのテリトリー、邪魔しないように遊ばねば・・・。雪は1700mほどまで繋がったが、その先でまた切れ切れとなった。やや痩せ尾根であり、そのために落ちてしまっているように見えた。そんな場所は足元のササの切り口がアイゼンに引っ掛かり歩き辛い。夏道はやはりアイゼン無しで歩くもの・・・。山頂が近くなるとダケカンバの植生が強くなる。その白さがシラカンバのようにも見えるのだが、新緑の緑に映えていた。見えるクズハ山の山頂部に雪は無い。雪解けがますます心配になっていた。最後も雪に伝わる事無く山頂部へ到着。
クズバ山到着。図根点と言うか境界標柱のような石柱がニョキッと立っている。西側にはタカネザクラと言うかマメザクラと言おうか、ちょうど見ごろを向かえ、その出迎えを愛でる事が出来た。大日から奥大日の山並みが見事。その左肩のあたりに雄山の姿も。剱岳から左に目を追って行くと、ブナクラ乗越を挟んで大猫山のデンとした山塊がある。素晴らしい展望地。目指す西大谷山はまだまだ先。一見雪が繋がっているように見えるが、途中途中の黒さは、現地のそれ相応の歓迎があることを判らせてくれる。現在地が1900mに近い場所。ここでの雪がこれなら、この先もそんなに期待できない。腹を括りつつ気持ちをリセットしていた。
突っ込んでゆく。いきなり藪。ちょっと面白いのだが、先に進むに連れてだんだんと濃くなる感じがある。そんな中にも刃物跡が見え、切り落とした枝が地面に残っていた。近年に入った人のもののよう。もしやクズバ山から延ばすのか、そんなことを考えつつ分けて進んでいた。東側の残雪はかなり下に後退していて、稜線と繋げられない。西側にも残るが、ササの中のそれらは点在と言うのが相応しい。要するに雪をあてにするには時期が遅いのであった。そしてその年々や雪の着き様で様子が違うので、この先の進路を伝えて行くのは難しい。なるべく頂稜を外さないように歩いて進んで行く。
1830m付近ではその頂部が濃く、西側に逃げて雪に伝わった。そして進む先に1885高点があるのだが、その中間ポイントを前にして密藪となる。顔を叩かれ胸を突かれ、完全に自然に弄ばれている感じ。そして1840m付近で、刃物痕とは違う人工物が目に入った。こんなところにロープが流してあった。かなり黒くなった朽ちたロープ。やや尾根に沿うように流してあるのだが、長さの半分はカスミ谷側に流されていた。見下ろすと踏み跡の様な筋が見える。顕著なピークがこの先にあるわけであり、そのための登路があるのか・・・。尾根筋は危険箇所は無いので、下からの・・・が目的のように思えた。経路人工物が残置してあったのはここのみ。
1885高点は、北側から雪に伝うようにして突き上げる。最後は雪庇の下になり、アイスバイルのようにピッケルを使いながら、割り入る様にして雪の上に這い上がった。ここで西大谷山とクズバ山との中間点。しかし標高を増した訳でなく、その事からは、この先の雪もそれほど期待できなかった。後どれほど藪が待っているのか・・・相応の覚悟で最後のアプローチ。雪に乗ったり藪に入ったり、ほんと半々な感じで歩き易い場所を選びながら行く。藪の中に入ると、相変わらず刃物跡が見える。鶯のさえずりが聞こえる中、バリバリ・ゴソゴソと分け進む。時折、雪融けで笹が跳ね上がる。スワッ獣・・・なんてドキドキしたり。
1900m付近から完全に雪に繋がった。尾根幅が広くなり堆積量も多いようだ。尾根北側に厚く残るその上をアイゼンの爪が食んで行く。今日は晴れではあるが薄雲のかかるどんよりとした日。黒い黒い重そうな剱岳がより険しそうに見える。相対するように真っ白な大日の山塊。各々の表情がある。西大谷の先に修験場とされた天狗の踊り場の鞍部も見えている。壮大な周辺地形の出迎えは、疲れを吹き飛ばしてくれていた。大日に人が居れば見える距離、剱岳もそう。雪が繋がり快適な空中散歩となった。終始こんな中なら良かったが、途中の辛い藪漕ぎがあって、この楽さが引き立つのでもあろう。ただし、西大谷山への最後は、2000m級の山と言う感じはなく、1300mほどの里山に登っているかのような感じがあった。遠くからは顕著に見える場所ではあるが、現地は小さな高みが複数あるようなところで、「あー着いた」と言うよりは「あれっ、着いた」と感じる場所が待っていた。
西大谷山到着。意外や針葉樹の高木が林立している場所で、展望で言えばクズバ山の方が上であった。それでも大日が近い、剱岳が近い。剱御前から一服剱、そして剱岳に続く稜線がくっきりと見えている。振り返りクズバ山を見ると遥か遠くになった。伝って来た尾根上は真っ黒。藪漕ぎが多かったわけである。進路をこちらからとしたら、見ただけで萎えてしまったかも。そしてカスミ谷を見下ろすと、そこへ続く緩やかな斜面がある。スキーでも優しいアプローチの場所に見えた。だが、そのカスミ谷を挟んでの大日の斜面は、稜線の大雪庇が崩落し、長い雪崩となって谷まで落ち込んでいた。美しい表情と共に険しい表情も見せてくれている。登り上げた手前峰側に3本のマーキングが縛られていた。すぐさま雪融けした藪の中を探る。そう、三角点をまだ拝んでいない。これだけ雪解けがあれば観られる可能性もある。しかしない。ここではないのでは・・・。剱岳側に15mほど進むと、雪融けした地形的ではここが最高所。地面を注視すると、在った。ひっそりと藪の中に埋まっていた。苔生した表情は、あまり陽の目を見ない事が判る。雪融けした後も笹に隠れているようだ。先ほどのマーキングの場所は、もしかしたら、毎年あの場所の雪の堆積が多く一番高い場所になるのだろうと思えた。
大休止をしながら、帰路を考える。普通に往路を戻る方法。カスミ谷を経由して小又川を戻る方法。もうひとつ立山川を戻る方法。実は経路で何度も立山川側の斜面を覗き込み、雪の繋がっている様子を見定めていた。最初に見出したのはクズバ山から南に降りた場所から下がるアカガレ谷。あの場所まで戻ればしっかり雪が繋がっているのでルートとして使えると読んだ。しかしそこまで戻るには、あの藪をもう一度分け進まねばならない。時間も十分あり、その選択肢でもいいのだが、実際問題負担は負担。折角の残雪期でもあり、雪に繋がって楽をさせてもらいたい気持ちがある。もう一つ、西大谷山に居ながら、そこから北に下がるガキガドウ谷は恰好のルートに思えた。ただし見るからに急斜面。全く行けない様には見えないが、安全通過が出来る場所にも見えないような谷であった。完全にギャンブル。なにかあれば、またこの場所まで登り返さねばならない。立山川までの標高差は820mほど、下の方で行き詰ったらこの標高差は厳しい。でも登り返す自信はある。じゃ臆せずチャレンジ。こんな事ならこの谷の事前情報を得て置けばよかったのだが、普通に稜線を往復するつもりで来ているので、本来ならここでの決断はヨシとしない。折角ここまで安全に来ているのに、この先でなにかあれば・・・。色んな想定をするが、最終的には我が道を行く。
恐る恐るガキガドウ谷に足を下ろしてゆく。恐る恐ると言ったのは、雪質を確かめたいから・・・。流れるような雪質であれば考えねばならない。数歩歩いて、ちょっと躊躇。すぐにアイゼン団子になった。となれば、前週の訓練が反映できる。山手側を向き、ピッケルを都度突き刺しながらバックステップで降りて行く。上を見ても下を見ても急斜面。時折クラックが横に入っていて、そんな場所を避けつつ高度を下げてゆく。標高差150mほど下ると、西側に顕著な尾根が出てくる。そこに寄る方が傾斜が緩い。後ろ向きでの斜行で100mほど西にズレる。ここでやっと前を向けるようになった。恐々アイゼン団子を叩き落しながら降りてみる。一歩毎に叩いては落とす。ピッケルを持つ手が忙しい。でもこれをしないと滑落が待っている。歩きながらも左右の斜面に注意する。そんな中、頭部大の岩が横を掠めて降りて行く。こんなのが来たら予測不可能。運を天に任せるのだった。
休憩時には、しっかりとピッケルを突き刺しセルフビレイ。上を向いて登り帰しとなった場合のルートを目に焼き付ける。そして下を向いて最良のコース取りを見定める。標高1550mから下は、谷が右に屈曲するノドとなっている。その狭くなった場所の先から、轟音が聞こえてきていた。滝があるのか、あればそこで終わり。エスケープルートでも見出せればいいが・・・。そんなことを思いながら恐々と高度を下げてゆく。そして曲がった先で予想通り雪が口を開けていた。滝ではなかったので良かったが、雪がなければ通過できないような谷形状に見えた。ここは左岸側に僅かに残る雪を利用して何とか通過。岩と雪との間には深い黒いホールがある。見て見ぬフリをして通過した。この標高でこうなら、下へ行けばもっと・・・。
僅かに高度を下げると再び口を開けていた。今度は雪が完全に切れている。中央部にある岩の上を通過していかねばならないのだが、流れがそこを濡らしている。凹凸のある岩ではあるが、流れによりエッジが丸い岩。細心の注意で爪を引っ掛けながらゆっくりと降りる。僅かでも滑れば流れの行く先と同じく雪渓の下に入ってしまう。間違いなく怖い場所であった。何とか通過したが、安心する暇なく僅か下にまたまた待っていた。これが最大の難関だった。標高1510m付近。岩と雪渓の間が1mほどあり、その黒い中を覗くと、普通に7mか8mほどある。ここにまかり間違って落ちれば、生きて帰る事は無理に思えた。要するに1mほどジャンプして雪渓に乗らねばならなかった。手前の岩場が安定していればいいが、先ほどに増して状況が悪い。本当に爪の一本一本に神経を注ぎ込む。一本で全体重を支えている場面もあり、苦しい態勢から踏ん張って1m飛ぶ事は、かなり難易度が高かった。それでもやらないことにはクリアーできない。滑った場合にバイルのように使おうと、ピッケルの握りを変える。着地後に滑落する可能性もあり、飛んでいる最中に握りを変えられるか・・・短時間でシュミレーションをする。そしてバランスの悪い態勢から岩を突き放して飛ぶ。何とか着地し、滑落もなかった。やってみて、空中に居る1秒ほどで、グリップの位置を変えるなど無理だった。着地で滑れば、そのまま制動できなかったであろう。終わりよければ全てヨシ。
1450mほどでも大きく口を開けていた。ほとんど周辺が融け、無積雪時の谷の様子が伺えた。沢屋でも厳しい場所に見えていた。ここの通過は右岸側をやや高巻して、細い沢に入り戻るようなコース取りをした。足場が緩く難儀するのだが、ここでも滑れば雪渓の下に入ってしまい出られない。細心の注意で通過していた。大きな口を開けた箇所は、ここまでの計4箇所。ソロでは各々ヒヤヒヤの通過点であった。1400mから下は土砂混じりのデブリの斜面。その凸凹がグリップしてくれアイゼン団子の足の裏でも、そのまま歩くことが出来た。地形図を見ると付近はゲジゲジマークの場所。雪のおかげで安全通過をさせてもらっているのであった。高度を下げてゆくと細かいクラックがいくつも入っていた。足の下からは流れの音がする。微妙にむず痒い通過点となっていた。既に下には立山川の谷地形が見えている。そのガキガドウ谷の出合には、スクンとした顕著な岩が在る。既に大きな流れが見えており、今度は立山川の融雪の様子を気にせねばならなかった。なんとかガキガドウ谷はクリアーした。我ながら良く頑張った。
出合で小休止してから、下流を目指す。時折冷たそうな太い流れが雪穴から見える。往々に右岸側に流れがあるようで、やや左岸寄りを通過して進む。快適な雪渓歩きでもあり、その昔はここを多くの人が通った場所。昔の道を辿るのはなんとも郷愁を誘う。南側の山手斜面が美しい場所もあり、立ち止まっては堪能していた。これぞ残雪期、緑があって雪が映え、雪があって緑が映える。ハゲンマンザイ谷出合で谷は屈曲する。ここでは右岸側の大岩のところにロープが垂らしてあった。使うには下の方が覚束ない。そのロープの先には木が縛られハシゴ代わりになっていた。ここはそれを使わず北側の小さな沢を降りて行く。この先は右岸側を気にして進む。昔の夏道は右岸側にあり、左岸側によりは安全通過が出来るのだろう。標高1050mほどまで降りるとだんだんと雪渓が切れだし、太い轟音が見え出してきた。流れは往々に左岸寄りにあり、夏道の場所はそういうことからだったようだ。雪を踏んだり地面を踏んだり。その地面の場所には石畳のような昔の登山道も見え隠れしている。歩かれ無くなったために野草が繁茂しており、分けて進むような場所もあった。
ルート途中に、朽ちた木に赤いマーキングがされたものが落ちていた。その北側の場所には大岩があり、その下が岩屋になっていた。2畳ほどはあろうかという広さ。これがスナクボ岩屋かと思ったが、その場所は僅か先にあった。融雪の水かと思ったら、コンコンと湧き出している様子。引水している黒いホースも見られた。手を入れ掬って飲んでみる。立山の水。いや、剱の水であった。問答無用に美味しい。しかし岩屋と言うものが見えてこない。雪融けすれば見えるのか・・・。付近はコゴミが沢山あり、キクザキイチゲも花畑のように沢山咲いていた。踏まぬように進むのが困難なほど・・・。
進む先に取水施設が見えてくる。その先には林道が見える。ここで完全に安堵モードに入った。「もう危険箇所はない」そう思いながら右岸側の踏み跡を伝っていた。そして施設の敷地に入る場所はヘツルような場所で、バン線とロープが垂れていた。そう、ここは垂れている。本来なら岩壁に沿って流してあるとありがたいのだが、そうにはなっていなかった。恐々掴み体を移して行く。足場が緩くて怖いので、自ずと掴む手に力が入る。踏み外せば流れの中にドボン。さて施設の敷地に乗った。見上げると早月尾根側に太いロープが上がっている。何のためなのか、この施設の護岸管理のメンテ用ロープにも見えた。鉄梯子をあがりコンクリート構造の施設の上に乗る。左岸に渡る橋は目の前にある。がしかし、そこに降りる手段がない・・・。一度ヘツリ側に戻ってみたが、施設を巻き込むルートも無い。梯子があることから、上に乗り上げるのは正しいコース取りのよう。この先の高低差は2.5mほどある。ザックを背負って降りようものなら、膝か足首をやられるだろう。場所を変え、見方を変えて進路を探ったが、全くもって見出せない。ザックにはザイルがあるのだが、明確な支点もない。しょうがないので施設の天窓のようになっている鉄板の四隅にアンカーボルトが出ているので、そこに引っ掛け降りることにした。常にテンションがかかっていないと外れてしまう支点。先にザックとピッケルを下ろし、その後から空身で降りて行く。僅かな事だが、ザイルを持っていて助かった。ここの通過、通常はどうすればいいのか。なにかあったものを冬季用に外してあるのかも・・・。
グレーチングの外された橋を渡ってゆく。両脇のタイガーロープが命綱なのだが、その支柱はありあわせの木で出来ている。あまり体を預けることは出来ない。下を見ると流れがある。一本橋を渡るが如くに足を進めて何とか左岸へ。あとは林道を伝って行く。進む先に細蔵山だろう高みも見える。大きな菊石も右に見え、清々しい空気のなか緩やかに林道を下って行く。山手側にはニリンソウが所狭しと咲いている。春から夏、これらが咲き出し山もハイシーズンに入って行く。分岐箇所がいくつかあるが、特に道標は無いので勘で進んで行く。間違ってもすぐに判る場所が多いので、夜行でなければ問題ない通過点。そして目の前にゲートが現れた。その場所の1台の軽トラ。山菜採りで間違いないだろう。採っても採っても、採り切れないほどに沢山生えているのを確認している。水が多い場所にはいい山菜も多い。
中山の登山口まで戻ると、3台の地元ナンバーの車があった。中山かクズバ山へのハイカーの車だろう。誰も居ないのをいいことに、はだかんぼうになり立山川で沐浴。アイゼンを洗い、スパッツを洗い、登山靴を洗う。陽射しも暑いほど、立山川の冷たさは気持ちいいこと限りなし。膝をアイシングするのだが、1分も浸かって入れないような冷たさ。雪の一粒一粒がこの流れに・・・。
時間こそさほど使っていないが、かなり充実した山旅となった。全てに自然に感謝。事故なく歩けたことに感謝なのであった。我が技量もちょっとだけ進歩。ただ過信は禁物。初心者の気持ちで、自然に遊ばせてもらっている気持ちで・・・。