西谷ノ頭 1922m ウドノ頭 1967m 滝倉山 2029m
サンナビキ山 1949.2m
2012.04.28(土)〜29日(日)
晴れ 単独 片貝山ノ守キャンプ場(通行止めゲート)から東又谷経由 行動時間:21H19M
@片貝山ノ守キャンプ場4:06
→(51M)→A片貝第4発電所4:57→(56M)→B片貝山荘5:53→(99M)→C取水口7:32→(49M)→D三階棚滝8:21→(20M)→E作之丞谷出合8:41→(112M)→F平杭乗越10:33→(54M)→G西谷ノ頭11:27〜29→(52M)→H平杭乗越再び 12:21→(77M)→Iウドノ頭13:38〜56→(192M)→J滝倉山17:08〜11→(49M)→Kサンナビキ山18:00〜22→(57M)→L滝倉山再び19:19→(10M)→M作之丞谷源頭コル19:29→(90M)→N作之丞谷出合20:59→(14M)→O三階棚滝帰り21:13→(138M)→P僧ヶ岳登山口23:31→(114M)→Q片貝山ノ守キャンプ場1:25
@片貝山ノ守キャンプ場前でゲートされており、ここからスタート。 | @このように書いてあるが、飯場はあったが工事している様子はなかった。 | 堂谷橋の流れの奥に白き峰が見え、登行意欲が増してゆく。 | 蛇石への分岐。大明神山や猫又谷は分かれて進む。今年は雪が多く、林道分基点から雪が繋がっていた。自転車はここまで。 |
A片貝第4発電所の場所で除雪終了。この先は雪融けの進む林道を行く。 | 煙草堰堤通過 | B片貝山荘。林道の押し出しがきつく、左岸に渡って進む。 | B林道の押し出しの様子。土砂混じり、さらに嫌らしい斜度。発電所側に迂回。 |
B左岸から右岸に戻ったスノーブリッジ。幅は1mほどしかなくドキドキ。 | 阿部木谷の奥には大明神山の凛々しい姿がある。 | 僧ヶ岳の登山口を横目に。 | デブリで覆われた通過点も。 |
林道の様子。足を滑らさないよう・・・。 | スノーシェッドの出入り口もやっと雪融け。 | スノーシェッドの天井に手が届くほどの積雪。 | デブリで埋め尽くされた谷の上を行く。 |
C取水口。吊橋の板は外してある。 | この堰堤は、雪があるので右岸から越えられたが、解けてきたらその段差に難儀しそう。 | 桃アセ谷出合 | 三階棚滝の下流でも、僅かに高巻する場所がある。赤いリボンが導く。 |
D東又谷の核心部である三階棚滝。雪が多く、流れの多くは雪の下になっていた。 | D高巻の残置ロープの場所。右の雪の先に一本。左の岩の場所に一本垂れていた。 | D三階棚滝の脇3mほどの所を通過して行く。 | D抜けきって振り返る。岩部の左側に高巻のタイガーロープが垂れている。 |
三階棚滝のすぐ上流に、見栄えのする小滝がある。 | 進路の先に稜線が見えてきた。 | E作之丞谷出合。雪が大きく割れているので、右岸側から巻き込むように南東の本流に入って行く。 | 東又谷本流を詰めて進む。西谷ノ頭が見えてくるが、この見えてからが長かった。 |
1434高点を前にして左俣側に入って行く。 | 右俣の選択もあったが、デブリが沢山見えるのと、上部で急峻になるようで避けた。 | 1600m付近。乗越まで僅かのようだが、まだ・・・。 | 1650m付近。もう少し・・・でもまだ・・・。 |
F平杭乗越から見る後立山側。 | 乗越側から見上げる西谷ノ頭。 | 最初こそ優しいが、だんだんと急勾配になって行く。 | 西谷ノ頭直下斜面。危険を感じ南側に迂回して巻き上げる。 |
G西谷ノ頭から毛勝山 | G西谷ノ頭からウドノ頭(右)と滝倉山(左)。 | Gよく見ると、古い標識も残っていた。 | G西谷ノ頭西側から。素晴らしい展望。 |
急登斜面を巻いたトラバーストレース。下から見上げる。 | H平杭乗越再び。 | ウドノ頭側に少し登り、西谷ノ頭側を振り返る。けっこうきつい斜度で進度が上がらない。 | ウドノ頭の南側が藪漕ぎ尾根。ストックやザックが引っ掛かり、苦しい登り。 |
残置ザイルもあったり。 | 途中のコルから見る山頂側の斜面。 | Iウドノ頭の山頂 | Iウドノ頭から毛勝山。中央に先ほどの西谷ノ頭がある。 |
Iウドノ頭から滝倉山。まだ先は長い。 | Iウドノ頭から、剱岳と毛勝山。 | Iウドノ頭のリボン。 | Iウドノ頭からの北側が、今回きっての核心部。ザイルを用意して慎重に進む。 |
下ってきた斜面。どのルートが正しいのか良く判らない。いわゆる勘で進む。 | 下って行く斜面。中央に見える下側を巻いて行った。 | コルからは残置ザイルに掴まって直登。足場が悪く腕力必要。 | 下ってきた斜面を振り返る。こちらから見ると登れそうに見えない。撤退する人の多くは、ここなのだろう。 |
岩場のところに倒木が覆いかぶさり、密生した枝に、そこが抜けられず難儀する。ザックを外し、先に上げてから体を通過させた。(通過後、上から撮影) | ややこしい危険な感じの尾根が続く。 | 通過してきた雪稜。 | 安全圏に入り、この先は東側の雪庇の上を進む。西にも雪があるが、繋がっているのは東側。 |
ここで雪稜が崩落。2mほど落ち背中を強打。ザックがあってよかった。(通過後、上から撮影) | もうすぐ滝倉山。 | J滝倉山 | J滝倉山から見るサンナビキ山。 |
J滝倉山から剱岳側。手前に伝って来た稜線。 | J滝倉山から後立山側。見事!! | J滝倉山から駒ヶ岳。 | J滝倉山のリボン。 |
滝倉山からサンナビキ山に向かい、最初のリッジ尾根。やや風が出てきて踏ん張りながら通過。見えている左斜面にバックステップで降りて行く。その先も危険斜面が待っている。 | もうすぐサンナビキ山。 | Kサンナビキ山 | Kサンナビキ山から東側。黒部の谷に突き出した展望台な雰囲気がある。 |
Kサンナビキ山からアーベンロートとなった剱岳側。 | Kサンナビキ山から滝倉山側。 | 滝倉山へ急峻を登り返し。 | 滝倉山へ戻る頃、富山湾の夜景が見えるように・・・。 |
L滝倉山再び。ここからの北側斜面はバックステップで下降。降りる方向を間違えると、急峻地形が待っている。 | M作之丞谷の源頭のコル。ここから僅かに藪を濃いで谷に入って行く。 | 作之丞谷はデブリが多いが、スキーに適した谷のよう。巻機の米子沢のような雰囲気があった。 | N作之丞谷出合い。東又谷に出て右岸側を進んだら進行不能になり、少し登り返して左岸側を進む。 |
O三階棚滝の高巻ルートを通過。タイガーロープに掴まって腕力で這い上がる。下りは懸垂下降。 | P僧ヶ岳登山口通過。単独の方が降りて来ていた。トレースが残る。 | 山神の祠に今日の無事を感謝し頭を下げる。 | Qゲート到着。 |
Qスタート地点に戻る。車はキャンプ場駐車場には入れられないので、北側の余地に駐車。 |
2010年、黒部市がサンナビキ山の場所を同定した。国土地理院の地形図に見られるように、その場所は現在の滝倉山の周辺一体を示すようにふられている。よって2029高点をサンナビキ山としている記述も多い。色んな変遷があり難しいのだろうが、なにせ現地現称として黒部市が特定した。これはこれで後世に向けていい事なのだろうと思う。当然、反論もあるだろうが、どんな世の中もそれらは付き物。決めるってことの有効性の方が大きいと思う。
前置きがやや堅い話となったが、発表があってからのこのエリアは、とても魅力なエリアになった。この界隈を踏むと、剱岳北方稜線の未踏座も無くなる。これには、八峰頭と小窓ノ王が登れるとレクチャーしてくださったKUMO氏のおかげもあるのだが、高速から見上げていたような場所が、我が足の下になるとは・・・。狙うに際し、西谷ノ頭とウドノ頭、そしてサンナビキ山と滝倉山、この2+2をどうしようかと思案していた。KUMO氏もそうだが、仲間の数人は、滝倉山側からウドノ頭を狙って、急登を前に敗退している。通過している猛者も居るが、確保する人が居るパーティー行動のよう。2座のみと2回に切り分けるのが無難と思えたが、“待てよ、登りに使わず懸垂で壁を降りれば・・・”と怪しい思いが沸き立ってきた。ダメなら平杭乗越(へぐいのっこし)にでも戻って東又谷(ひのまただん)を戻ればいい・・・そんな軽い気持ちでもあった。計画は東又谷を使った反時計回りでの周回。さてどうなるか。
21:45珍しく少し早めに家を出る。北陸道を魚津で降りるが、そのまま山手に行くとコンビニが無いので、海側に出て仕入れてから山手に向かって行く。“山スキーヤーがどれほど入っているか・・・”そんなことを思いながら行くと、片貝山ノ守キャンプ場前で、進路は塞がれていた。ろくに調べずに来ているので、時期的にこれも然りとは思ったが、第4発電所までは入れると高を括っていた。でも目の前の現状に従うしかない。キャンプ場の駐車場入口もチェーンが張られ入れないようになっている。少し戻って余地に入る。加賀ナンバーの車と習志野ナンバーの車が既にある。加賀の方にはマウンテンバイクが横に置かれ、山スキーヤーの様子。快眠の邪魔をしないように、少し離れた場所に停め、こちらも少し仮眠(1:45)。寝ながらも、何時に出ようか思案していた。既に歩いた方がいいのではないか・・・そんな思いもあった。ただし、この日を含め、のち3日は天気が続く。まあ急がずのんびり・・・との判断となりシュラフに潜り込む。
1時間ほど仮眠をし3時に起きる。だいぶ疲れも回復。さあ快晴の北方稜線、楽しみで仕方が無い。横に停まる車を見るも、自転車はあり出発した気配は無い。高カロリーのビスケットをほうばりつつ、もう一度装備の確認。死なない為の下準備。今回はスコップも携行。「何があっても」の幅を少し広げて対応する。ザックが荷物で膨れ上がり、そして外に出る。予想外に暖かい。これだと雪が緩い。和カンジキかスノーシューか迷ったが、和カンジキを選択した。
4時6分スタートする。歩きに来たので歩くのでいいが、第4発電所までのアルバイトはどのくらいになるか・・・。歩き出して30分ほどで夜が白みだした。堂谷橋から上流を見ると顕著な頂が見える。それが見えると、山心にカチッとスイッチが入る音がした。40分ほどで蛇石への林道入口。今年の雪の多さが判るのだが、入口付近から既に雪が堆積している。大明神山を登った時は、もう少し早い時期だったのに、ズンズンと林道を入って行けたのだった。今年は間違いなく雪は多い。
スタートから50分で除雪最終地点の片貝第4発電所を通過する。ここは駐車余地も十分で、嫌な事に経路に工事飯場はあったものの、工事をしている気配は無かった。この状況なら、ゲートをあの場所に設けなくとも良かったのではないか・・・。なんか勿体無い50分に思えた。ここまで言うと、この先には文句は言えない。林道の道形を追うように進んで行く。ただし、デブリや土砂の押し出しなどもあり、さらには雪が緩い。少しもどかしい進度のまま足を進めていた。
煙草堰堤付近から完全に雪が繋がる。それまでは出たり消えたり。その先で、谷の先に目指す稜線が見えてくる。遠いような近いような・・・。片貝第五となる片貝山荘の場所まで到達。ここまで入るのは初めてであり、その山荘が何処にあるのか探してしまった。全てが発電所施設に見えるのだが、そのひとつが山荘なのか。この先、右岸側の林道が雪に完全の覆われ、その上の勾配も強かった。まだアイゼンは履いておらず、この状態で安全通過を出来る方と、橋を渡って左岸移り、その左岸で伝って行こうと考えた。施設の脇から阿部木谷の所まで上がると、目の前の雪融けの水量に一瞬で撤退。東又谷の本流を見ると、運良く一箇所スノーブリッジが出来ていた。その幅1m。距離は7mほど。落ちれば山行は終わり。下手をすると急流に流され・・・。かなりギャンブルであったが、意を決して渡って進む。半分を過ぎ“ホッ”“、三分の二を過ぎ“ヤッター”そんな心境であった。渡りきり、安部木谷出合いの中央から上流を見ると、見事な大明神山の姿がある。またまたスイッチが、いやギヤが入れ替わる。
片貝山荘の先713表高点の場所が僧ヶ岳の登山口。それを示す看板と、遭難者のレリーフが見える。デブリの中を抜けるのだが、空間の多いデブリで、何度も落ちた。いやらしい試練の通過点。北俣谷を橋で渡り、この先の林道が厄介だった。ここで12本爪装着。刃先を食い込ませながら堆積した斜めの雪の上を通過して行く。前方にスノーシェッドが見えてきた。下も巻けそうだが、降り口が少し厄介。そのまま中を通過して行く。悪天時にはここは適当なシェルターになる。中は幾分暖かかった。東側の出口は、雪でほぼ埋まるくらいに堆積しており、トンネルの天井に手が届いてしまうくらいであった。
824高点の東の橋になるか、ここも雪融けして橋が見えていた。ここから10分ほどで大量のデブリの中を這い上がってゆく。南側の山肌の等高線は密。そこに降った雪が全て落ちてきているようであった。滝倉谷の出合の少し先で堰堤を前にして右岸側に移る。そろそろ取水口か。進んで行くと轟音を伴い白い強い流れが雪を割っていた。やっと取水口。7時半であり既に3時間が経過している。予定以上に時間がかかっているように思えていた。この取水口の先、10分ほどでもう一つ堰堤がある。この時の見えていた最終堰堤なのだが、雪があったから這い上がれたが、もし少なかったり溶け出したら、上にあがるのに段差が大きく難儀する場所に見えた。無積雪期は無積雪期でルートは在るのだとは思うが・・・。
東又谷の中に朝日が差し込むようになった。気持ち足許が緩く感じる。桃アセ谷の中は、大量のデブリで雪面が黒くなっている。それでも絵になる谷の出合であった。ここを過ぎれば、この谷の核心部の三階棚滝が待っている。この雪の多さ、そのまま通過できるのではないかとも思えていた。右岸を伝っているのだが、桃アセ谷と滝とのちょうど中間点くらいで軽い高巻の場所がある。ここは下げられたリボンが導いていた。先に進んで行くと、岩壁と言える黒い壁が右岸側にそそり立っている。左岸側にはよく見ると残置ザイルがある。とうとう滝の場所に来た様子。そもそも三階棚滝とは本流の中にある流れなのか周辺に見える滝なのかも判っていない。一か八かで本流の中を行く。高巻のザイルは、先ほどの場所とは別に突き出している岩場のところにも流されていた。そのすぐ下を通過するように進む。流れが3mほど横にある。左岸側の壁の間には落ちたら這い上がれないポケットも出来ている。慎重に雪を繋げて這い上がる。そして何とか抜けた。この時季に限るのだろうが、高巻せずに通過できる。抜けきっての左岸側には、タイガーロープが垂直に垂れていた。復路に使う場合は利用した方が良さそう。
三階棚滝の場所を抜けると、左(北)側に立派な小滝が見えた。これも三階のうちの一階となるのか・・・。しばし見上げ涼を頂く。進んで行く先に、顕著な頂が見える。ウドノ頭なのか西谷ノ頭なのか、どちらでも良いが射程圏内に入った。ただいつも思う。この見えてからの時間が長いこと。そして作之丞谷出合。場所を選ばないと大きく口を開けている。流れ側に勾配もあり、気の緩みも禁物。慎重に雪を見つつ本流となる右俣の方へ曲がって進む。ここからがすばらしい景色。真正面に西谷ノ頭があり、そこに向かって一直線に進む。そして1434高点の北から、右俣に入るか左俣に入るかが迷う所だが、見える右俣の上部には、雪崩痕が多く見える。それが見えない左俣が安全と判断するが、まだ落ちていないとも考えられる。両俣を比べるとなだらかなのは左俣。やはり左に行こう。右俣からのデブリで、出合の場所は不思議な紋様の筋が出来ていた。
優しいと思えた勾配であるが、なかなか堪える登りとなった。1600mから上で、もうそこに平杭のコルがあるように見えるのだが、高度を上げるごとに、その場所が先に先に高くなって見えていた。要するになかなか着かないのであった。回転良く進んでいた足も、少し休憩を入れるようになる。スタートから6時間半ほど経過してまだここ。鈍足をヒシと感じる。歩きながらもこの先のコース取りを考える。どうしようか・・・もっと遅い歩行に切り替えて長距離型にしてワンデイにしようか。折角スコップもあるのだから、雪洞を掘ってマッタリする行動。はてさて・・・そんな事を思っていると、目の前に後立山の山波が現れた。
平杭乗越到着。荷物をデポしようと思ったが、冬季は何があるか判らない。肌身離さず・・・。それには、簡単に思っていた西谷ノ頭は、こちらの北側斜面はかなり急勾配。真剣勝負の場所なのだった。確保する人は居ない。一人で全て対応・判断せねばならない。乗越から南西に踏み出して行く。中盤くらいまでは問題なし、問題はそれ以降。直登を試みたが、体が慣れていないのもあるが、その角度に怖さを感じる。それでもその斜面を20mほど登ったのだが、あまりにもリスクがあるので、バックステップでそのまま降りてきた。次ぎに南側に斜行するようにトラバース開始。南の方が緩やかに見えたのだった。このトラバースも怖い。衝撃で表層が一気に雪崩れる事もあり得る。そんな気温であり天気であった。慎重に、慎重に足を進める。進めるトレースは、そのまま帰りの階段にもなる。南の小尾根(雪の堆積かも)に乗ると、予想通り少しは勾配が緩い。選択は合っていた様子。登り上げて行くと広い大地の上に出た。
西谷ノ頭到着。360度のパノラマ。なにせ毛勝山の存在感が凄い。この時期こちらからのアプローチは今伝って来たような勾配の連続の様子。ハイマツの上に乗ってやぶ漕ぎして到達した毛勝山。こちらからこのように見上げるのは初めてであった。写真撮影を終え、北側にある木に近づいて行くと、その幹に古いプレートが打ち付けてあるのを発見した。間違いなく標識であろう。見つけられて良かった。北東側に、先ほど登ろうとした斜面を見下ろす。のっぺりとした斜面がある。その広さが怖さでもあった。往路のトレールを忠実に踏みながら戻って行く。トラバース地点は、滑り出せば、ピッケルの制動が出来なければ数百メートル落ちてしまう。牛歩状態で慎重に通過だった。ただし雪崩れる事も考慮して、片隅では早足を意識して・・・。前を向いて背中を伸ばして歩けることがどんなに快適か、先ほどまでは身を屈めてピッケルを持つ手が汗ばむほど・・・。安全地帯まで降りる。
平杭峠再び。目の前にウドノ頭があるが、見るからにややこしい尾根筋に見える。行けないようなら戻って東又谷を降りればいいと思っていた。突っ込むと、いきなりの急登。疲れた足にはきつい登りであった。救いは周囲展望。疲れた体への、その景色は清涼剤であった。1800m付近から藪尾根の通過となった。良く見ると踏み跡や刃物跡がある。無積雪期にも伝えるのか・・・。ルートの濃さは、赤谷山以南のルートに似ている。時折残置ザイルもあり、危険箇所には基点のシュリンゲも残っていた。なにせザックが引っ掛かる。二段伸縮のストックの為、ザックからの張り出し量も大きい。持っていたピッケルも背中とザックの間に突っ込み抜ける。腕力を使っての登行箇所が増えてゆく。
1850mで雪の落ちた草つきの壁がある。足場が流れやすく樹林帯との際を伝う。ここを這い上がると、その先で僅かに尾根が入れ替わる場所がある。雪がないと通過しづらいように見えたが、完全に無い方がいいのかもしれない。1940m辺りに赤いリボンが下がっていた。こちらに入ってはじめてのマーキング。1950mで山頂の肩に乗り、緩やかに雪庇の上を伝って行くと最高点に到達した。
ウドノ頭到着。先ほどの西谷ノ頭に負けず劣らずの好展望の場所。今日はひょっとして全てのピークがこのような場所になるのか・・・。そんなふうにも思えていた。西谷では剱岳は見えなかったが、今度はしっかり見える。やはり剱、このエリアに来たら見えていないことには居心地が悪い。北側の滝倉山が近くに見えるが、その間の荒々しい尾根筋が見え、そう簡単に行けない場所と判る。この山頂には赤いリボンが縛ってあった。その他の標識類を探したが見当たらなかった。やや大休止をして北進が始まる。
ザイルを袈裟懸けに持ち、いきなりの複雑な雪庇尾根の通過。それも勾配が強い。左(西)側の尾根を伝ったのだが、藪漕ぎと軽い岩場の通過もあった。高度を下げると、その先は二進も三進もいかなくなり、途中で右(東)に戻らねばならないような場所もある。安全な通過点は皆無。しょうがないピッケルを突き刺し、前歯を使っての東へのトラバース。命が3つ欲しいようなトラバースで我ながら手に汗を握る真剣勝負。渡りきると安堵感でいっぱいだが、気を緩められない。降りて行き、最初のコルはその手前の岩を左に巻いて通過して行く。このコルから東又谷側は、デブリの無い綺麗な谷が降りていた。そのコルから先は残置ザイルに伝って直上する。足場が悪く腕力頼み。ザイルを縛ってある場所には懸垂下降用のシュリンゲも残されていた。振りかえると、伝って来た強烈な急勾配斜面がある。もしこちらから来たとしたら進むのを諦めたかもしれない。反時計回り、そしてザイルを持っていて良かった。
登って行くとこちらも途中に2mほど尾根が入れ違う場所がある。雪が無い時はどうなっているのか、足の下が抜けているように見えたのだが、立木の上に堆積した雪に伝い西側の尾根に移る。しかしこの先が困った。西側には足場の流れやすい崖斜面。東側は岩場。その中間を倒木が完全に塞いでいた。岩場側は手掛かりが乏しく、一度試してみたものの体が上がらない。倒木の中をあっちこっちで突っ込むも、引っ掛かって上げてもらえない。流れやすい方は、崖の場所に雪があり危険すぎ。急斜面の中でバランスを保ちながらザックを降ろし、先に木々の間から上に持ち上げる。ザイルで後から引っ張り上げる手段もあったが、引っ掛かって上がらないと思えた。何とかザックを上げ、次ぎに25センチほどの幅をすり抜けるように上にあがる。ここだけで10分ほど費やした。次々に困難な箇所が現れる。でも何とか通過して行く自分に少し嬉しさがある。
終始藪混じりの尾根。潜ったり出たり、引っ掛けられたり叩かれたり。1850m付近では、異形のリッジ状の雪庇が待っていた。ここも慎重にこなす。誤れば左右どちらかに落ちてしまう、失敗できない通過点。そしてここを抜けてひと登りすると、1900mからの安全地帯となる。ここまでだが、1850m付近から西側に一つ小尾根が出来ている。そこを狙うように登ってもいいかと思えた。一度息を整えるのに小休止。それにしても好展望。見事なまでの周囲視界であった。
雪庇の東側に乗って進む。既に雪割れしており、高低差3m、幅5mほどの亀裂が入り、左右の雪を分けていた。雪庇側でリスクは大きいが、雪が歩きやすいように繋がっているのは東側であった。がしかし、調子の乗っていたら、1900m付近で雪稜が轟音と共に崩れ、2mほど垂直落下した。足を滑らせてそのまま背中から落ちる。ザックがあって助かった。あと、ピッケルを背中に刺していたらやばかったかもしれない。一つ一つを検証し次ぎに繋げてゆく。何処も怪我はなく足を進めてゆく。それにしても怖かった。やはり雪融け時期だと体感。緩やかに登って行く。
滝倉山到着。ウドノ頭から3時間以上かかってしまった。それほどの場所であるのだが、我ながら良くぞ通過してきた。これも自然の思し召し。さてここも360度の展望。すぐ先と思っていたサンナビキ山は、けっこう先にある。少し萎える距離だが、行かずして今回の山行は成り立たない。しかし、そろそろ日没を迎える。この後の行動を決めねばならない。どうしようか。そう思いつつ、既に足は動き出している。サンナビキ山へは、ウドノ頭側に40mほど戻らないと、雪庇になっていて直線的には結べない。戻るようにして東側に進んで行く。
滝倉山の東尾根は、綺麗なリッジ尾根が60mほど続いていた。怖さは無いが、ひとつ間違えると助からない。こんな時に限って風が強くなる。一歩一歩を確実に歩んで進む。そして東端に行ったら、そこから北側に急下降。前を向いては降りられず、ピッケルを深く入れながらのバックステップ。一旦緩やかになり、次が核心部。かなりの傾斜であり少しでも緩やかな方と、ダケカンバの生える方(西側)へバックステップで降りて行く。しかしこちらは、その急さからか、いくつも雪面が口を開けていて、それらを避けねばならなく面倒であった。見下ろす下側は、サンナビキ谷左俣に向かって全ての傾斜がベクトルを同じにしている。ここで滑れば間違いなくオロク・・・。僅かなミスが許されない時間が続く。
ダケカンバの場所まで降りたが、少し緩やかだったのはそこまでで、その下は急峻となった。サンナビキ山へ続く雪稜は東側に見える。その距離70mほど。今日はこれで3度目となるが、緊張のトラバースとなる。爪先を蹴り込みながら横移動して行く。雪崩れればアウト。体を動かしつつ、心と頭では祈るような気持ちでもあった。そして東側の尾根の乗る。もう少しバックステップで降りると、その先は安全に前を向いて歩ける尾根筋となる。中間峰は西側を巻き込むように雪に伝って進む。そしてなだらか過ぎるほどの最後のアプローチ。サンナビキ山は静かに待っていた。
サンナビキ山到着。念願の場所。間違いなく黒部の展望台。黒部峡谷側に張り出した肩的ピークであり、北側の展望が至極いい。ここも360度のパノラマ。今日の4座全てで最高の展望を楽しませてもらった。後からになるが、この場所を高速道路を通過しながら見上げることになる。ニンマリ度が強くなるのは間違いない。既に時計は18時まで進んでいる。ここまでの行動時間は14時間。緊張が多かった分、気持ちや筋肉がダレていないが、それでも疲労感は増してきていた。少しでも標高を下げた方がビバークにはいいと、ここまでの経路で雪洞が掘れるような場所を見ていたが、適当な場所が無かった。嫌な事に、この時の風は南東側から吹き付けていた。北と西側をも気にしつつ、今日の風向を気にして掘るとなると・・・。さてどうしよう。「戻っちゃおうか」、またまたよからぬ発案が・・・。
20分ほど休憩して滝倉山へ戻って行く。既に夕日は山の影となり夜の入口。滝倉山北東稜だけクリアーすれば後は下るだけ。安易にそんな思いでいた。トレースに乗って戻って行く。そして急登が始まる。今度はダケカンバの方にズレずに直登して行く。しっかり日差しを浴びた斜面はグズグズ。緩い雪に何度も蹴り込みながらステップを刻み上がってゆく。ほとんど牛歩。四つんばいという表現でいい。リッジまで上がるまでが緊張の糸が解けない。慎重に、ゆっくりと・・・。無理をしているのは事実。事故に遭えば笑われてしまう。そしてリッジに登り上げる。ここまで来れば・・・。
滝倉山に戻ると富山湾に夜景がきらめくのが見えた。さてどうしよう。周囲の山々の雲の状態。風、見え出した富山市内の夜景の透度。見えるもの、感じる物を全て取り込む。北に下った辺りのコルで場所が良ければ幕営としようと考えていた。滝倉山から下りだすのだが、最初こそいいが、中盤以降は至極急斜面。既にヘッドライトでないと見えない闇夜となり、明かりを頼って降りるのだが、急峻で下が見えない。またまたバックステップで長い時間降りる事となった。この降り方も少しミスがあった。地形が見えずに素直に最初の尾根筋を伝って、やや西寄りに下がってしまった。続いてゆく尾根はもう少し東寄りに降りねばならなかった。ここでまた危険なトラバースとなった。今日は何回・・・。そして前を向いて降りられるようになると、コルまえでは僅かだった。
作之丞谷源頭となるのだが、小さなコルであまり居心地の良いものではなかった。テントを張り、夜景でも見ながら少し晩酌・・・なんて思っていたが、その夜景方向は笹薮。もうこの際だから降りてしまおうと思えた。笹に突っ込み7mほど漕ぐと、雪面が出て、その先は出合まで続いていた。安心して歩けると言うより、少し緊張を伴う傾斜。滑り出してもピッケルで止められる傾斜ではあるが、北側の雪融けした尾根筋の際を、ササを掴みつつ降りて行った。ただし、掴めたのは300mほど。その先は単身で谷の中に突っ込んでゆく。ここでの下り、目を上げると富山市内の夜景がすばらしく綺麗だった。頭をもっと上げると、一面の星空。夜行の恩恵はこれ。地表と空が繋がるのであった。北斗七星が上にあった。今晩はこれが空の目印、進むごとにどんな位置になってゆくか・・・。
谷の中はデブリが多い。スキーで滑れる場所も多いのだが、半々な感じで落ちてきていた。その上を新雪が積った場所があり、歩き辛い場所も多かった。雪融けした雪の塊が、スタートレックのエンタープライズ号のように残っている。時折、そんな自然のベンチに腰掛けつつ降りていた。小休止をとりたい時は、雪の上に寝そべると、満天の星が出迎えてくれた。この谷、巻機山の米子沢のようなクネクネとした風合いもある。タイミングがよければスキーで滑れば最高に楽しいと思えた。けっこう長い下りとなった。闇夜だから長く感じたのか、見えないからの苦痛の長さかも。
作之丞谷出合となるのだが、その200m上辺りから流れが出だしていた。気をつけつつ、右岸寄りで東又谷に入った。しかし右岸は進めず、100mほどバックして左岸に渡り降りて行く。そしてその先の三階棚滝は、滝の脇は危ないので高巻をして通過。残置ザイルを両手にして体を持ち上げてゆく。そして下りは懸垂下降。残置ザイルは雪の重みで岩肌に沿うようにピンと張ったままだった。谷に降り立ち、これでおおよその危険箇所は通過した。往路のトレースに乗ってゆけば問題ないが、日差しは全てをかき消していた。この先は、記憶を呼び起こしながらの迷走となる。ニアリーイコールで歩けるのだが、僅かに10m南北にズレただけでも、進路を行き詰る場面もあった。焦らずゆっくりと進む事とした。
取水口の辺りから先、林道がある場所で迷走は酷くなる。「下だっけ」「上だっけ」「あれ、ここさっき歩いた」。そんなことをしながら正解ルートを導き出し戻って行く。スノーシェッドの中の湧き水で喉を潤し、昼も夜も変わらぬ感じで自然を楽しみつつ戻って行く。そして僧ヶ岳の登山口まで戻ると、単独のトレースが下流に向けて進んで行っていた。猛者が上から抜けてきたようだ。このトレースはありがたく利用させてもらった。ただし、片貝山荘の場所のスノーブリッジは、往路どおりにトレースして進む。橋を渡り右岸に戻ると、再び先人のトレースが続いていた。先人はあの左岸を通過したのか・・・。
日をまたぐ。少しマズッタか、もう少し早くに出発すれば、正真正銘のワンディ完成だったが、日を跨いでしまった。そんなことを思いつつ林道を戻っていた。だんだん地面が現れる頻度が多くなる。そろそろ第4か・・・。この辺りになると、ある一線を越えているのか、疲れはほとんど感じない。良く判らぬがアドレナリンなどが出て、脳もいろんな意味でバカされているのだろう。至極快適な歩調で戻って行く。それには上に見える星空があった。北斗七星が見える。”おっ、今度はこっちか”そんな感じでづっと目で追いつついた。
片貝第4発電所まで戻る。残すはアスファルト歩き。気温も低くならず、風もなく、お膳立てとしては最高の状況。大股で闊歩して戻る。獣の出迎えが今日は一度もなかった。そして人にも。片貝川を渡り、山神の祠に今日無事の礼を言う。山に抱かれ、山に遊ばせてもらい、無事に帰れ・・・。戻って行くと、前方に黄色い明かりが見えてきた。近くなるとゲートの点滅も・・・。行ってきた。完璧かどうかは判らないが、綺麗なイチョウ形の軌跡を刻んできたであろう周回。大満足の歩きと言えよう。
片貝山ノ守キャンプ場到着。出発時に見た車が1台。その他に1台増えていた。少し仮眠をと思ったが、気が立っているのか、車を走らせた・・・。それでも魚津インターに到達する前に、深い睡魔が襲ってきて、場所も選ばず路肩で爆睡状態となった。深夜だからできる事。15分ほど深く眠った後、高速に乗り戻って行く。上州には朝方到着。