中背山 悪天により敗退 杓子沢を登り長走沢源頭より滑走    
  
                       

 2012.05.12(土)   


  午前中1700mm以上で強い風雪    単独       猿倉から         行動時間:6H52M


@猿倉駐車場3:51 →(16M)→A鑓温泉への分岐4:07→(97M)→B小日向のコル5:44→(98M)→C鑓温泉7:22〜49→(16M)→D杓子沢出合8:05〜11→(96M)→E双子尾根2284高点東2130m地点(岩)9:47〜10:10→(29M)→F鑓温泉入口分岐 10:39→(4M)→G駐車場10:43


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@猿倉駐車場から。山荘前を通過して行くことを促している。 A鑓温泉への分岐。 小日向のコルへ向けて。既に雪煙が多くなってきている。 コル手前から小日向山
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B小日向のコルから大出原側。雪雲が覆っている。風も強い。 鑓温泉直下。 振り返る C鑓温泉。積雪量はまだまだ豊富。
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C風雪を避けるのに、この温泉熱で出来た雪洞はありがたかった。 D杓子沢出合。シールを着けて登って行く。 D杓子沢の下の方はデブリが多い。 デブリの一番多い場所。左岸側を撒いて進む。
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ノドになった付近。視界がないと怖い通過点。 2000mで杓子沢を離れ、東の尾根を乗越す。 尾根に乗り、その先の岩峰を見る。 雪煙が巻き上がり、裸眼では歩けないほど。見ているのは小日向山。
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もうすぐ双子尾根。池塘付近。 E双子尾根の2284高点の東の岩。風雪を避けて、この北側で休憩。シールを剥がす。この岩の裏側に雪洞らしきものがあった。 E双子尾根のコルに、目立つダケカンバが立つ。 ダケカンバ
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ダケカンバを背にしてドロップイン。 すばらしく快適な斜面。至極気持ちがいい。 1800m付近から下。デブリもなく・・・。 振り返る。
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40名は居ようかと思える大パーティーが登って行く。だいぶ天気は回復。ただし強風。 林道への最後の尾根。雪が繋がり快走。 F林道に出る。 G賑わう駐車場。


  

 春の残雪期。行きたい山が雪により行けるようになる、一番ざわめき立つ季節。どこから片付けようか・・・なんて選り好みも出来る。2000m超の中アは終わり、南アも僅かに数えるほど。そして北アは片手ほどとなった。楽しみは先延ばししたい性質なのだが、ここは一歩一歩前進。今回は好事家しか目指さないであろう中背山を目指す事にした。

 

 実は、数日前の検診結果で、胃潰瘍の疑いを宣告されていた。これだけ遊んでいてもストレスが溜まる様。はたまた遊びを上回る仕事量なのか。それはさておき、そう言われるとお腹の辺りが気になって仕方なかった。こんなことだけでも気持ちが万全でなくなるのだから不思議なものである。でも、雨が降ろうが胃潰瘍だろうが行くのである。

 

 前夜帰宅後に、すぐさま現地へ向ける。連休からのツケなのだろう週末になるほどに体が重い感じがしていた。休憩をとりつつ現地へ向かう。フロントガラスには雨粒も当たり、それこそ雲行きが怪しい。早くに天気が回復してくれればいいが・・・。猿倉の駐車場に到着すると、6台の車が在った。明朝の出発であろうから中に人は居る。サッと停めてサッとエンジンを切る。ロングコースであり、出発時間を迷ったが、フロントガラスに見える降雨に、1時間ほどの仮眠と決めた。春にしたら冷え込んだ日で、外気温はここで7度ほどであった。

 

 3時半に起き出し準備をする。今日はスキー装備。今シーズン最後のスキーとなるか。その面でも今季の集大成。以前は無かったが、林道の入口には猿倉山荘で登山届けを出して進む旨の看板が置かれていた。その横に1台のワゴン車があった。ちょっとヘッドライトで中を見てしまうのだが、寝ている様子。後で知る事になるのだが、我が知人であった。

 

 スタートから雪に繋がって板を滑らせて行く。この週末での一番トレールを刻んで進んで行く。鑓温泉への分岐道標も25センチほど顔を出しているくらいであった。ズンズンと高度を上げて行く。ここに入るのは4度目か。ほとんど勝手知ったる地形となっていた。冷え込みのせいか雪が堅い。となると上層でスキーになるのか心配であった。歩く条件としてはいいのだが、遊びには色んな条件がある。

 小日向のコルへの斜面は板を脱いでアイゼンにスイッチ。スキーのクトーも着けてはみたが、その使い勝手が現地に合致せず雪面に食いつかない。無理をせず14本爪を装着。ガシガシと爪をたてて登って行く。この登りで既に天気の状況が把握出来た。かなり風が強い。ひっきりなしに巻き上げられた雪がシャワーのようにかけられていた。みぞれ混じりの少雨もあり、時間の経過毎に防寒具が濡れてゆく。

 コルに着く。その横で小日向山がいつもの表情で立っている。遠く鑓ヶ岳側の主稜線を見ると、完全に雪雲の中。“あそこを抜けて向こう側に・・・”現地の状況が手に取るように予想できた。なにせ風が強い。その風に向かうように湯ノ入沢の源頭に向かって降りて行く。本来はスキーで降りればいいが、ここはアイゼンのまま降りて行く。これは終わりよければ全てヨシで、少しルート取りを誤って、途中の岩場の上に乗ってしまった。急峻を降りるのにアイゼンでの歩行は汎用性がありフレキシブルなのだった。

 

 源頭からの長い登りが始まる。真正面の谷の上から一気に吹き降ろしてくる風。そして舞う雪。僅かな時間で防寒具が真っ白に凍りついていった。“行くのか、止めるのか”既に葛藤が始まっていた。県境稜線のこちら側は地形を頭に入れているが、富山側を熟知していない。この視界の中でのリスク・・・。長距離・・・。体感している風雪・・・。とりあえず鑓温泉まで頑張って、天気が回復傾向に無ければ、今日の行動は諦める事にした。前が見られず、俯き加減で雪面を見ながら登って行く。春だと思って少し楽な気持ちで居たが、これが自然。今日は厳しい表情をしている。

 

 目の前に黒い岩部が見えてきた。その上を湯気が走っている。鑓温泉の直下に来る。ここから気をつけねばならないのは、周囲がその熱で雪割れをしている。3度ほど足を落とすのだが、降雪がそれらを隠してしまっていた。右から巻き込むようにして湯船に到着。それにしても雪が多い。ここで2.5mほどの積雪量があった。グローブを外し、足湯ならぬ手湯。それでも末端から血流を暖かくしてくれ、この日にしてありがたいポイントであった。本来なら裸で・・・なのだが、目の前のニンジンに、じっと我慢となった。依然風雪は強い。上部に出来た自然の雪洞の中に入る。縦長の10畳ほどの空間。内部にお湯の流れがあり、そこだけ外気温が暖かい。運よくシェルター的に利用させてもらう。行きたいけど行けない・・・今日は諦めよう。雪洞から出て、北に20mほどズレた場所にブッシュが出ていて、そこでスキーを装着。一気に降りて行く。視界が完璧でないので、三半規管が不安定で酔うような感じで滑り降りていた。

 

 湯ノ入沢の源頭まで下り、“このまま帰っては何も収穫がない・・・”と思えた。なにか来たからには新しい発見や体験は欲しい。そこでこの場所から杓子沢を登ってみることにした。双子尾根に登り上げ、そのまま小日向のコルに下りようとルートを考えてみた。今日は二枚のシールを持ってきている。しっかりワックスを塗っているので雪団子もなし。快調に登って行く。しかし杓子沢の下の方はデブリ群。そこを恐々抜け、ここさえ通過できれば安定した雪面が続いていた。ただし両側は今にも崩れそうな雪を纏った斜面がある。進まぬ足に、気持ちだけ急いで足を出してゆく。

 

 途中で夏道を跨いでいるはずであるが、この時期にそれを確認することは不可能。ひたすらシール頼みで高度を上げて行く。左右に顕著な尾根があるのだが、どこかで東側の尾根に乗らないとならない。急峻過ぎてなかなか取り付けないのだが、2000m付近まで上がると、やっとそこで緩やかな斜面があり、東にトラバースして行くことが出来た。ここはいきなり真っ黒い岩峰が現れる場所。その基部を東に巻くようにズレてゆく。巻き込んで東側に出ると、そこからの展望は素晴らしい。大きな雄大な斜面が広がり、北東に斜行するように進んで行く。強風が雪煙を巻き上げ、目が痛く涙が出る。そんな中、小日向のコル側を見ると、スキーヤーが休憩を入れながら滑り降りているのが見える。この天気にどこまで行くのか・・・。

 

 双子尾根に乗る。その鞍部には一本の大きなダケカンバがある。かなりの目印になる木である。そこより20mほど高い位置、距離にして80mほど西側に大岩が二つあり、その岩と岩の間で小休止。そしてシールを剥がす。隙を見せると、防寒具の隙間から雪が入ってくる。日差しがあれば大休止を・・・なんて思っていたが、自然は味方してくれなかった。この二つの大岩の、南側のところに雪洞らしきものが残っていた。厳冬期に入った猛者の住居跡か・・・。さあ滑降に入る。当初は双子尾根を伝うつもりで居たが、休憩時に地形図を眺め、ここから北に降りる谷を行くことにした。谷名は長走沢でいいのだと思うが、間違う事のない顕著な谷が砂防道路まで続いている。

 

 ダケカンバの場所まで降り、そこから谷を見下ろす。デブリは無く綺麗な斜面が広がっていた。これを美味しそうに見えない人が居るだろうか。両手のストックでグンと雪面を押しドロップイン。そこからの時間は、もう至福の時間。雪質もよろしく、サーと聞こえる板と雪との摩擦音が心地いい。全てのターンが綺麗に決まり、今年一番の落書きを残しつつ滑り降りて行く。大きくターンしても細かくターンしても、全て自由。雪融けで出来た波打った斜面に入ってちょっとしたジャンプを楽しんだり、今日のフリートレックならではの滑りをして降りて行く。進んで行くと、下の方にアリンコのような集団が見えてきた。総勢40名ほどは居るだろうか。スキーにスノーボードにの混生パーティーの様子。これから小日向のコルへ向けて登って行くところであった。時計は既に10時半に近い。登頂でなく滑りが目的なら、こんな時間でもいいわけか・・・。ただし雪質が・・・。でもでも今日は遅いほどに天気の回復傾向にある。のんびりスタートの方が太陽を沢山拝めることになるだろう。

 

 1700m付近から南寄りに滑り降り、長走沢の右岸側の夏道がある大地に乗る。これだけの入山者数、トレールに板を乗せると良く滑る事。緩斜面でもスピードが乗り、意外なほど高速移動。最後の尾根も短い板が有利、ザッザッとターンを決めながら林道に降り立つ。そして滑り降りて行くと、駐車場は全体の三分の一ほどがマイカーで埋まっていた。さすがの人気の場所。駐車場に到着すると、我が車の脇で男性が流れで板を洗っていた。気さくな方で今日の行動を話すと、御仁は金山沢を2250mまで詰めたと言う。悪天で撤退してきたと仰られていた。日に焼けたその顔からは、ベテラン山スキーヤーの風格が感じられた。

 

 目的の山には到達できなかったが、長走沢の滑降はかなり楽しかった。癖になる斜面と言えよう。静かな場所であり、コソッて行ってコソッと楽しむには最高の場所だと思えた。周囲は人気斜面。ここはマイナー斜面。ってこう書くと賑わうか・・・。

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