天狗山荘直下2500mまで    
  
                       

 2012.05.19(土)   


  天狗山荘下2500m付近まで    単独       猿倉から         行動時間:9H51M


@猿倉駐車場0:28 →(13M)→A鑓温泉への分岐0:41→(101M)→B小日向のコル2:24→(14M)→C湯ノ入沢源頭2:38→(74M)→D鑓温泉3:52→(61M)→E天狗山荘下2500m付近5:53〜6:11→(82M )→F鑓温泉7:33〜8:10→(78M)→G小日向ノコル帰り9:28→(43M)→H林道に出る10:11→(8M)→I駐車場10:19


cyuusyajyoukara.jpg  tozandou.jpg hutagoone.jpg  kohinatano.jpg
@猿倉駐車場から。 A前週と比べると400mmほど雪が少ないか。 進路をミスしてしまい、双子尾根の1880m付近に登りあげてしまい、尾根を伝ってコルに降りて行く。 B小日向のコル
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C湯ノ入沢通過 D鑓温泉の下側 壁を巻いて谷の中に。 すばらしきかな来光。
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2350m付近から南西側。 E2500m付近。一歩毎に雪団子となり、ピッケルで叩き落すも辛い状況。進退窮まる。 Eガスがとれずに、風が強いまま。鑓側。 E烏帽子岩側。この斜面。下を向いて下れず、コルまでバックステップ。
ue.jpg  eboshinokoru.jpg  kudaxtutekita.jpg  yarionsenhe.jpg 
7時頃、やっとガスが取れてきた。残るは我がトレース。 烏帽子岩西側のコルまで降りる。 コルから振り返る。なだらかそうだが、現地は厳しかった。 鑓温泉へ降りて行く。
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コルから下ってきたトレース。 F鑓温泉で大休止 スキーヤーがどんどん登ってくる。 猛者パーティーにも行き会い・・・。
syakushitani.jpg  kohinatakaeri.jpg  rindouni.jpg cyuusya.jpg 
前週に入った杓子沢 G小日向のコル帰り H林道に出る I猿倉に戻る。

 

 前週の敗退。やはり自分の中では尾を引く。100点満点に対し、30点ほどしか取れなかったような気分。これじゃ赤点で補習。早めに合格点を出して夏に向けたい・・・。重要な残雪期でもあり、この時期に結果が伴わないことは、辛いのだった。さりとて自然との遊び、いろんなことがあることは重々承知。それでもって話。欲張りかも・・・。

 
 天気予報は快晴のよう。装備を迷っていた。スキーか否か。ここで読み間違いをした。木曜辺りからの雨を、普通に雨と思って「融ける」と読んだ。スキーでも楽しめるだろうが、ツボ足の方が行動に汎用性があると・・・。これが大誤算の結果となった。

 
 三才山トンネル手前のセブンに寄る。ここは頑張る店主と、その綺麗な奥方で経営している。利用して清々しいセブン。ただし前週も今週も、ヤキソバパンがない。他の惣菜パンは豊富に揃っているのに・・・。もうこのヤキソバパンが手に入らないことで、運命は決まってしまっていたのかも・・・なんてことはない(笑)。松本に下りて、池田経由で大町に入り、白馬駅前から猿倉を目指す。道中の雪融けの様子を注意しつつ行く。一週間でどのくらい解けたのか・・・。まだ多く残るようであれば、スキーの方が良かった事になる。こんな場所に来てまで選定に対しふらついていた。ようは両刀の準備で居ればよかっただけ。

 
 猿倉には8台が停まっていた。0時を少し回った時間。まだ宴会をしているのか、車内が明るい車がある。ドタドタと開け閉めする車もあり、それに紛れるように準備をする。外気温は6度。この時期にしたら冷えているか。日中の好天を考慮しスノーシューも括りつけた。ここでもワカンの方が・・・なんて迷う。人生迷ってばかりなのである。

 
 0:28猿倉を出発。林道には大きな雪崩痕もあり、やはり春。雪に乗るところもあるが、鑓温泉の入り口までは、8割がた雪を踏まずに行く事が出来た。そしてその入り口からは、融雪で流れが出ている登山道を僅かに伝う。トレース類は皆無。週中の後半は悪天であり、だれも入っていない様子。今週末の一番トレースを引いて進み高みへ高みへ。ヘッドライトの明かりを頼りに、緩い起伏の雪面を西に進んで行く。流れの音が左からし出す。前週の感覚的記憶を呼び起こし、少しづつ南に進路を変える。だがしかし、闇夜は甘くなかった。

 
 順調に登っていたのだが、斜面が急になり、デブリも現れた。この時に早めに気づけばよかったのだが、小日向のコルへ突き上げる斜面におらず、さらに西側の斜面を登っていた。途中で12本爪を装着し這い上がるも、想定していた時間になってもなかなか稜線コルが現れない。それもそのはず、コルから400mほど西の双子尾根にある1880mピークに突き上げていたのだから・・・。途中で気づいたが後の祭り。もう登るしかなく、急峻のややこしい斜面を蹴り込みながら這い上がる。出だしから20〜30分のロスタイム。でもこれが楽しかったりする。

 
 双子尾根の1880m峰の上に出て、起伏のある尾根を雪に伝わりながら降りて行く。歩いてみると、けっこうコルまである。一人苦笑い・・・。最後は広い斜面をややグリゼード気味に降りて小日向のコルに到着。空は一面の星空。しかし風の強さは前週同様であり、それのみやや不安であった。暑いと寒いは両極端。「暑いだろう」と思っての服装装備であり、寒くて仕方がなかった。と言ってもザックの中には重ね着用の衣服は入っているのだが、風が吹いている最中、なかなかそれを出すまでが億劫なのである。立ち止まると寒い。どんどん歩く。

 
 コルから降りて行く。無駄のないように緩斜面を拾うように、雪の上を水が流れてゆくように進む。ここで高度をあまり下げすぎないようにと欲張ると、雪融けした嫌らしい場所に乗ってしまう。湯ノ入沢源頭に入ると、谷からの吹き降ろしの風が凄かった。全くもって前週同様。時折進めず立ち止まるほど。ストックで踏ん張る両手にも力が入る。鑓温泉に向かうのだが、谷地形がよく読めず適当に進んでいるので、後に残るトレースは迷走状態。伝ってくる人は不思議でならないだろうと思えた。風に乗って硫黄の匂いがしてくる。鑓温泉は近い。風に向かって突き上げて行くのだが、出発の時間もあり、この分なら今日の目標地到達は間違いないと思えていた。こうなると少し欲が出る。人間とは単純で愚かな生き物。天狗の頭を踏んでから中背山に行く事にした。

 
 鑓温泉を横にして谷を詰めて行く。壁を右手に見ながら巻き込むように進むのが冬季ルート。伝って行っては天狗山荘側には遠くなるので、2300m付近から谷から南側に進路を変えた。足の下は新雪。吹き溜まりでは30センチほど乗っていた。今日の天気次第では雪崩もある。谷を見ると何処にもデブリはなく、落ちるのはこれからの様子。緊張しつつ一歩一歩確実に進んでゆく。ただし、雪質の悪さが、そのままアイゼンの下に雪団子となって現れだした。少量ならいいのだが、一歩踏み入れる毎に叩き落さないとならないほどに着いて来た。それほど強い傾斜ではないが、登るに際しグリップが利かず大ブレーキとなっていた。もうすぐ稜線。頑張れば・・・すぐ。

 
 落としては一歩出し。重いピッケルをスナップを利かせてアイゼンに当てる動作が続く。雪質を悪いと言ったが、新雪のいい雪質。気温とその湿気と、登る事に対し邪魔をしているだけであり、この白さが下界から見れば美しさになる。ここでも遊ぶ者の我侭が、雪をも敵対視してしまう愚かさ。風は依然強く。既に吹き上げられた雪でグローブなどは凍てついていた。全く進度が落ちてしまった。パーティー行動ならトップを変わって進めばいいが、単独では・・・。苦闘と試練、諦める事はしたくなく努力したいが、アイゼンの刃が立たないような状況下は、かなり危険な状況と判断した。それでも上に行けるルートを探る。少しトラバースしてより緩やかなコース取りをしてみる。直登するスピードと全く変わりがない。牛歩状態。付近の雪質は一緒なのであった。変わるには陽が登り腐りだすしかない・・・。早朝から期待できることではなかった。“降りよう、出直し”雪の乗ったハイマツの上で360度を眺め、今日はここまでとした。2500m付近。

 
 降りると決めたが、前を向いて降りる=滑落であった。ピッケルを突き刺しながらバックステップで降りて行く。本来なら周囲の景色を見ながら降りたい場所。照り返しのある雪面を見ながら這うように降りて行く。バックステップで降りながらも、緩斜面では何度か前を向こうとしたのだが、滑り出す足の裏に、その都度ヒヤッとして諦めた。なんと烏帽子岩の西のコルまでの間、標高差約400mほどの間を後ろ向きで降りて来ていた。スキーならもっと登れ、下るにしても一気に降りられたろうと思うと、今日の装備選択は不甲斐なかった。それでもこんな場合も良い経験。雪を知り、自分の力量を知る。そしてこれも春の降雪後の山の表情。7時を回ると風も止み、稜線のガスも消えてゆく。少しアプローチ時間が早かったか・・・。色んな計画のズレが集積されてしまったよう。

 
 烏帽子岩のコルからもバックステップで降りる。既に温泉に着いている人が居たら、“こんな場所でなにをしているのだろう”なんて見えると思えた。そして雪質は2100m付近で付着しない雪質に変わる。こうなると前を向いて・・・闊歩闊歩。鑓温泉に着き、のんびりとブレックファースト。まだ7時半、スタートしていない人も居るはず。降りるのは勿体無く、リセットも可能だが、一度落ち込んだモチベーションはなかなか復活しない。戻ると決めたからには、戻る。谷を登ってくる黒い点がだんだん大きくなり、そして横を通過して行く。声をかけると鑓まで目指す人がほとんど。そして、この時期に入るスキーヤーの質の良さ・・・。みんな人がいい。菓子パンを齧りながら、硫黄臭混じりの雰囲気を嗅ぎつつ下界を眺める。小日向のコルにもポツポツとアリンコのような動きがある。今日も沢山の人が入るか・・・。天気は完全に回復した。さあ降りよう。アイゼンかグリセードか・・・。沢山登って来る中、足を滑らせたら恥ずかしい・・・アイゼンのまま降りよう。

 
 軽快に降りて行くと、事もあろうにザックの肩紐が千切れた。何でこんなところで、何でザックの肩紐が・・・。絶対切れるはずのないような場所が切れ、納得いかない状況。咄嗟に、「進まないで正解だったのかも」と思えた。応急処置で、調整用の長さ分で簡易的に縛って対応。とりあえず背負える状態となった。背負い心地を確かめるかのように降りて行くと、こちらに親しそうな表情を向けている方が居た。サングラスに日本手ぬぐいで日焼け武装した御仁。この状態で誰だか判断する事はできない。すると御仁から「TOKIOです」と発せられた。「ああ、TOKIOさん、こんなところで・・・」。私は雪目になり辛いのでサングラスをしていなかったのだが、おかげで声をかけてもらうことが出来た。そこから十数分、情報交換と雑多な話がされる。持つべきものは仲間。敗退で少し沈んだ気持ちが、逢えたことで少し晴れやかになる。「ではまたどこかで・・・」と背を向ける。

 
 湯ノ入沢源頭からは辛い登りだった。長いバックステップが太腿に効いていて踏ん張る膝周りが笑っている。ゆっくり、ゆっくりと登って行く。ふと振り返ると、TOKIOさんパーティーが停まったまま動かない。先ほど会った場所からの移動量も少ないしおかしい。あの場所で終了点としたのか・・・。後で判ったのだが、バインディングが破損したとのこと。その場所はちょうど我がザックが切れた場所。不吉なポイントに思えた。

 
 登って行くと中央ルンセ滑降を目指す御仁も降りてきた。TOKIOさんも言っていたが、EVAさんの滑降報告が大きく影響しているようだ。そして話すとそのほとんどが繋がっている。娑婆は狭く、この業界も広いようで狭いように思えた。小日向のコルでは単独の女性スキーヤーも登り上げてきていた。にこやかにすれ違う。そしてコルからの北側斜面には20名ほどが登ってきていた。その横を滑るような速さでツボ足で降りて行く。周囲を見上げると大展望。先週の長走沢にもスキーヤーが見える。ルートミスしたカールの場所にも数名。ここはスキーヤーのメッカ。

 
 一本ブナ付近まで戻ると、山装備でない地元の方が登ってきていた。偵察に・・・と言う事だが、既に大雪渓を降りてきた人にもリサーチしているらしく、向こうでも30センチほど新雪があったと聞いたらしい。確かに30センチは在ったと思える。雨の読みが甘かった。林道に出て戻って行く。出発したての人がまだまだ登ってきていた。10時19分、行動終了。煮えきれないが、経験としてはいい経験。間違いなく糧になる。自然は楽しく、美しく、そして厳しくもあり・・・。山で学び、山を学ぶ。

  

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