馬羅尾山  1852.2m         唐沢山    1575m                    


  2010.04.10(土)   


  晴れ     単独       有明山馬羅尾沢登山口より周回        行動時11H27M


@馬羅尾沢登山口駐車余地5:30→(4M)→A第一渡渉点5:34→(16M)→B橋で左岸から右岸に5:50→(20M)→C第二渡渉点6:10→(9M)→D尾根取付6:19→(47M)→E1393高点7:06→(124M)→F1710峰9:10〜16→(27M)→G「83」最低鞍部9:43→(75M)→H馬羅尾山10:58〜11:25→(36M)→I「83」最低鞍部帰り12:01→(36M)→J1710峰帰り12:37〜41→(20M)→K1711高点13:01→(41M)→L1600m幕営適地13:42→(78M)→M唐沢山15:00〜13→(57M)→N林道終点16:10→(33M)→O林道入口ゲート16:43→(14M)→P駐車余地16:57

※気胸発症の為、かなりゆっくりした歩行:全行程


start.jpg  tosyou1.jpg  tozandou.jpg  hashi1.jpg 
@有明山馬羅尾沢登山口付近。 A第一渡渉点。堰堤と堰堤の間の、ほぼ中間部辺りが渡り易い。 左岸側の登山道の様子。 B親子滝の手前で、左岸から右岸に。この木橋はやたらと滑る。
kuma.jpg  dainitosyoutentemae.jpg  hashi3.jpg  dainitosyouten.jpg 
右岸側の熊の足跡。 マーキングが増えてくると第二渡渉点が近い。 C第二渡渉点を渡りきって、左岸側から右岸をみている。この橋もツルツル。 C左岸側の登山道標識。
onetorituki.jpg  1220.jpg  1270.jpg  1393.jpg 
D1393高点に向けて尾根に取付く。 1220m付近。暫くササの海の遠泳が続く。 1270m付近で、この尾根に乗って最初の棚地形。 E1393高点。
tocyuunoooiwa.jpg  iwanokibu.jpg  1550.jpg  1710.jpg 
狭い尾根上を大岩が塞ぐ。左(西)巻き。 途中の岩場で右(東)を巻いたが、クライミング要素たっぷりの通過となる。西を巻いた方が安全の様子。 この大岩は、左(西)を巻く。 F1710m峰到着。
1710minami.jpg  1710nishi.jpg  1680.jpg  1680jii.jpg 
F1710m峰から登って来た側。シャクナゲが蔓延る。 F1710m峰から西側。こちらもシャクナゲ。 1680m付近で展望が得られる。餓鬼岳の稜線。 1680m付近から、爺ヶ岳方面。
ariakegawa.jpg  83.jpg  1750.jpg  1750syamen.jpg 
1680m付近から南の有明山。 G最低鞍部には人工物があり、「83」と金属板が打たれている。 1750m付近から戸隠側。 1750m付近の斜面。シャクナゲが途切れる事がない。
barousan.jpg  noboxtutekita.jpg  sancyoukarahigashi.jpg  sancyoukita.jpg 
H馬羅尾山山頂。たぶん、この木の裏側に三角点あり。 H馬羅尾山から登ってきた側。 H馬羅尾山から大町側の展望。 H北側に展望所のような高みがあるが、眺望はいまいち。
kitagawagaki.jpg  jiigawa.jpg  yakisoba.jpg  shimizudakegawa.jpg 
H北側展望所から見る清水岳から続く尾根。 H三角点峰に戻って北側の展望。 Hしわくちゃのヤキソバパンが美味い! H清水岳側の尾根。
kakoutocyuu1710.jpg  heri.jpg  83kaeri.jpg  83kita.jpg 
下降途中から1710m峰。 有明山では捜索ヘリ(左側の黒い点)が飛んでいた。(気球落下事故) I最低鞍部帰り。 I最低鞍部から北側の谷。かなり状態のいい斜面。
1710kaeri.jpg  1711.jpg tocyuukarakarasawa.jpg  ixtuponbashi.jpg 
J1710m峰帰り。 K1711高点。尖った山頂部。 途中から見る唐沢山。 自然の一本橋が有ったり・・・。(東から西を撮影)
1600.jpg  1570ooiwa1.jpg  1570ooiwa2.jpg  ooiwauekara.jpg 
L1600m付近。この尾根一番の幕営適地。展望もある。 1570m付近で大岩が現れだす。ここは左側を直登。 ここも左を狙って直登。 大岩の上から西側を見下ろす。かなりの高度感あり。
ooiwanouekaranishi.jpg  surixtuto.jpg  sancyou.jpg  karasawa1710.jpg 
大岩の上から歩いて来た尾根を振り返る。 唐沢山直下の岩のスリット。人間が通れるほどの幅あり。 M唐沢山山頂。岩の上に木々が生えている。 M唐沢山から1710m峰(中央)とその右が馬羅尾山。
amabiki.jpg  karasawagaki.jpg  sancyoubu.jpg  kakou.jpg 
M唐沢山から雨引山 M唐沢山から餓鬼岳の山塊。 M唐沢山山頂部の様子。岩の上に大木が生えている。 M唐沢山のコルから東に急下降。ルートが判らず強引に・・・。
1530ooiwa.jpg  kuxtukyokuten.jpg  onesyamen.jpg  1450.jpg 
1530m付近。尾根上にこの岩が見えたら、やや右手(南)側を気にしていた方がいい。真っ直ぐ進むとミスルート。  1500m地点の尾根屈曲点。マーキングに従い進路を北東に変える。  尾根斜面は相変わらずのシャクナゲとササ。  1450m付近。微妙な進路の場所には、こまめにマーキングが打たれている。 
ooiwawaki.jpg  yaseone.jpg  karamatuone.jpg  textutoushita.jpg 
天狗が居そうな大岩の脇を通過。  痩せ尾根になると、ブルーの荷紐がマーキングとなる。  カラマツが見え出すと道形も安定し、安心して伝って行ける。  送電線鉄塔下を潜る。 
textutou2.jpg  bunki.jpg  rindousyuuten.jpg  gezandou.jpg 
鉄塔から唐沢山側を振り返る。入口には沢山のリボンが残る。  鉄塔から巡視路を進むと、すぐに分岐。東に進路を・・・。  N林道終点。左側の白い杭が、雨引山の登山道入口付近。  N林道でなく下山道の山道を下る。 
rindouni.jpg  ge-to.jpg  ge-to2.jpg  cyuusya.jpg 
途中で林道に乗る。  O林道入口のゲート。ゲートの鍵はシリンダー鍵だった。  Oゲート出口側には有明山の登山道を示す道標もある。  P駐車余地に戻る。 


   

 「息苦しい」。心臓辺りからエアー漏れの音も大きくなっていた。鼓動とは別の音がするわけだが、いつになく大きな感じがする。そろそろ我が体もここまでか・・・。嫌な事に、両肺に違和感がある。片肺ならまだしも両肺では厳しい。今週末は「平地の民」となろうか・・・などと思った。しかし、今年は成し遂げねばならない課題がある。昨年のこの時期も、その山行に向けて調整していたのだが、4月後半は天気の悪い日が続き棒に振った。だから、より今年はその目標を踏みたいと思えている。息苦しい中でも、こんな事を考えられるのだから、実はそんな酷くないのかもしれない。「手術」と言う文字も頭に浮かぶが、何度かやってもこの状態。「やってもまた」なんて思いもある。偏屈者なので、ここらへんの思いはかなり強い。

 
 大町市と安曇野市の境にある馬羅尾山(ばろおさん)を目指す事にした。以前に東にある雨引山を登った時に、林道からの巡視路の切り開きは確認しており、目指す場合は東から西へ尾根を伝おうと考えていた。しかしWEB上では、有明山のルートとなる馬羅尾沢を詰めて稜線に向けて谷を上がって行く人が多い。ただしこれは無積雪期の記録。積雪期の今だと、急峻の谷登りはリスクが大きい。馬羅尾沢から見られる顕著な尾根は3つ。そのうちの一番西側になる1393高点を含む尾根を、今回の登りの尾根と決めた。体調も不完全、何処まで歩けるか未知数だが、後ろ向きな考えは皆無。常に前向きなのだった。

 
 1:10家を出る。星の全くない夜空が広がっていた。長野県内は、各地で御柱大祭が行われているようで、上田市内でも祭り会場近くの道路は、9時から17時までの通行止めを実行していた。その掲示を見て、「帰りは17時以降が適当か・・・」と少しのんびりして帰ろうと考えるのだった。三才山トンネルに潜り、もう一つの松本トンネルも抜け、真っ直ぐに進み147号に乗る。大門交差点からすずむし荘に向かい、306号に乗ったら北進し、青崎山荘の案内表示で左折し林道を東に詰めて行く。ここを訪れるのは3回目、勝手知ったる道であった。キャンプ場を過ぎると、右手に雨引山の登山口を見る。その先で黒い門扉ゲートのある林道入り口を右に見て、どんどんと奥に詰めて行く。その途中途中には、「有明山」を示す道標があり迷う事はない。林道の後半は雪が乗っていたが、なんとが強引に突っ込み、駐車余地に入れることが出来た。予定ルートは、歩き出し前半に複数回の渡渉が待っているので、夜明けを待つように仮眠となる(3:50)。

 
 5:00。夜明けが早くなり、もうこの時間でも周囲が明るくなってきていた。今日も冬季のフル装備で挑む事にする。岩場に備えて20mのザイルも装備に入れた。沢沿いに右岸を行くと、僅かで渡渉点となる。丸太を組んだ橋は無残にも壊れ、ここは石伝いに左岸に渡る。そこそこ水量があり、渡れる箇所を見出すまで上流下流を行ったり来たりした。そして左岸側を詰めて行くと、岩屋のある所から、切られた階段に従って一段上の大地に上がる。雪の乗った登山道上は最近のトレースが残り、深くつぼ足をしながら進んでいた。

 
 親子滝の手前で再び右岸に戻るのだが、ここの丸太橋は生きていて伝う事が出来る。しかし少し朽ちてきているのと、時期的な関係か、ツルツルとよく滑る。ストックでバランスを取りながらつま先と踵がくっ付くような歩幅で渡って行く。そして対岸に行くと、先住の民の大きな足跡が周辺に見られた。ここに現れてからはだいぶ経つようだが、その爪痕を見ると、やはり身構えてしまう。親子滝への分岐箇所にはベンチがあり、そこから滝の方へちょっと寄り道を・・・。しかし滝のある谷へ向かうと、こちらは膝くらいまで潜る状態。ちょっとの寄り道にしては疲労度が大きく、15mほど進んで踵を返す。

 そのまま暫く左岸を行くのだが、先人のトレースを見失い、適当に進んでゆく。すると流れに近い場所にピンク色のリボンが見え出す。遡上して行くとその数もどんどんと増え、これが渡渉点を導くリボンであった。半崩壊と言っていい木橋があり、滑りながらも何とか渡って左岸に乗る。すると目の前に道標が現れ、そこには「第二渡渉点」と書かれていた。標高も1145mと記され、この場所はほぼ地形図の破線に示される渡渉点と一致している事が判った。左岸側は登り易そうな斜面なのだが、それに釣られると、上に行って厳しい斜面になる。もう暫く我慢して尾根末端まで進む事にする。

 
 歩き出しから50分。取付き尾根末端に到着する。見上げる斜面には雪は無く、一面の笹。かなり威圧感がある。ポコポコとエアー漏れしている肺に、「今日は止めようか」などと言い寄る後ろ向きな自分も出てくる。でも前向きな自分の方がいつも強く、次の瞬間には歩き出している。驚いた事に、何の為か尾根斜面は雑木が伐採されている。特に杣道なども見られないのだが、作業目的がよく判らない刃跡であった。それも切られていたのは標高差20mほどの範囲のみ。それが有ろうが無かろうが、笹の中の遠泳が始まったわけであり、足許も笹が寝ていて良く滑る。下りならさほど負担にはならない背丈だが、登りとなると潜るような時間が長く続く。一つ言えるのは、今日が雨天でなくて良かった。雨だったら早々に撤退だった。急峻斜面であり、滑って登りにならなかった事だろう。

 
 1270mほどで、この尾根に乗って初めての棚的場所があり、休憩が入れられる場所となる。笹の枝葉に叩かれ擦られ、既に傷だらけの顔であった。急峻地形を我慢の登りが続く。残雪が残る場所は、必ずその上を確認する。この辺りも先ほど見た大きな獣の足跡が残る。付近一帯が生息地のようであった。登るに従い沢の音が薄れて行くものだが、ここではなかなか進度が上がらずに、長い時間聞こえていたような・・・。それもそのはず、なるべく肺に負担をかけぬよう、至極ゆっくりと歩んでいた。

 
 標高点を取っている1393ポイントも地形図通りの平らな場所で休憩適地。ただ日差しはほとんど入らないような暗い場所。地形図を見ると、稜線までまだ半分も登っていない状態。時計ばかりが進んでいた。そしてだんだんとお出ましになった。1400mを越えた辺りから、尾根上に大岩が現れる。最初の大岩は左巻きをする。岩の出現もそうだが、周囲のシャクナゲの存在もかなり鬱陶しくなってくる。次に行く手を塞ぐほどの大岩が現れ、ここも左を巻いた。その先で痩せ尾根になり、この後の岩場で右(東)側を伝うように進んでしまう。斜行するバンドのようで、“これはいい”などと最初は思っていたが、途中からクライミング要素を伴う通過点となり、緊張した時間が続いた。足許が凍っていたり、岩角を掴んで腕力で通過する場所も多々あった。もしかするとここまでのように、「左巻き」で這い上がった方が無難だったのかもしれない。何とか尾根上に戻るが、これでもかと言うほどに岩のミックスした尾根であった。下りに使うなら、ザイルでの懸垂下降をしないと危ない場所も多く、なかなか緊張する尾根と言えよう。岩の初心者には、難易度が高くないので、適度な練習の場所のようにも思えた。その岩と岩との通過の間には、シャクナゲの漕ぎが入る。その粘り強い幹に、かなり難儀する。低木でなく高木が多い。皆しっかりした幹なのであった。1600mほどから雪が出てくるも、歩き易い事には繋がらず、薄い雪はその下にある寝た笹と相成ってよく滑るのだった。

 
 1710m峰到着。スタートから3時間40分経過している。よくよく考えれば、馬羅尾山を目指すに際し、西側にある鞍部に突き上げれば無駄に高度を上げずに済んだ訳で、こちらに上がってきた事で、少し時間と労力を無駄遣いしたようにも思えた。でもまあ残雪期だから・・・。ほとんど休憩なしで上がってきたので、ここで大休止となる。これから進む馬羅尾山側の西側を見ても、その後に予定している東側の尾根を見ても、どちらもシャクナゲの密藪であった。体も疲れているのだが、目からの情報も、より疲れを増している要因のようであった。木々の間からは餓鬼岳の稜線が見える。この鬱陶しい密藪が晴れて、どこかで展望が欲しい時間でもあった。意を決して西進が始まる。

 
 下りだしてすぐ、1680mほどの高さで展望が開けた。青い空に雪を乗せた餓鬼岳の稜線がクッキリと見えている。さらに目を右手に持ってゆくと、爺ヶ岳から五竜岳への高みが見えているようであった。なかなかいい感じ。今日は少し標高が低いので、展望に関しては高望みをしていなかったが、これほど見られればヨシとしたい。尾根を挟んで左(南)側には有明山も見える。この好天に、“何人かは登っているだろう”などと思えた。シャクナゲを漕ぎながら先ほどのピークから100mほど高度を落し鞍部に到着。するとそこには、木製の角柱に金属で抜き出した数字(83)が打たれた人工物があった。林班の標柱である事は違いないのだが、こんな場所で人工物を見ると嬉しくなるものである。北側にはなだらかな雪の斜面が広がり、下って行きたい様な場所になっていた。もし下っても谷沿いには破線ルートがあるようであり、エスケープルートとして使えるだろう。さあここから馬羅尾山まで登り上げが始まる。

 
 足許は雪が繋がる場面も多くなり、蹴り込みながら一歩一歩高度を上げてゆく。1750mほどで、こちらでも展望の良い場所があり、ほぼ、先ほどと同じような展望が楽しめる。しかし尾根上はこれでもかとシャクナゲガ蔓延っている。顔を叩かれ、むこう脛を叩かれ、ザックのワカンとピッケルは盗まれそうになるし、困ったのはザックのジッパーを開けようとする部分。ここのシャクナゲは手癖が悪いようだ。頻繁に休憩を入れるようになるのだが、それらはジッパーの確認と、結わえてあるアイテムの締結確認の為がほとんどであった。途中までは、持ち上げてきたストックがシャクナゲに引っかかり邪魔でしょうがなかったが、高度を上げると雪が繋がりだし、ここでのストックは這い上がるのに強い味方となっていた。ゆっくりゆっくりと、山を楽しむ。ほぼ快晴無風。気持ちの良い残雪期の静山山行なのであった。途中には痩せ尾根の急峻地形も出てくるが、先ほどの1393高点のある尾根を体験してきているので、易しいものであった。

 
 10:58。スタートからほぼ5時間半で馬羅尾山に到着した。思っていたより明るい山頂で、少し北にずれると、大町側が見下ろせる場所もある。さらに北に進むと、展望所のような肩地形があり、木々の間から周囲の山々を見ることが出来る。ただしいまいち。先ほどの大町が見下ろせる場所まで戻り、ザックに腰掛けてヤキソバパンを齧る。くしゃくしゃになったヤキソバパンだが、笹を漕いだ分、シャクナゲに叩かれた分、美味しくなって胃に収まった。久しぶりにコンデンスミルクを持ち上げたので、雪を掬ってさながらカキ氷。これがまた美味い。ワイルドにも手に乗せた雪の上に、徐にかけて口に放り込む。甘さが口の中に広がり、冷たさが延髄を縦に走る。もうチャンポンもいいところだが、栄養ドリンクのお湯割りをやってみた。でもこれは勧められない。暖かくすると薬成分の苦さばかりが目立つようになった。本来ならここで、ストーブを出してラーメンでも啜れば最高に美味しいのかもしれないが、ロングコース企画の多い昨今、なかなか出番が無くなっている。折角なので三角点を探す作業をするが、積雪量はさほどないにしても、硬い雪であり、掘り出すのは諦めた。山名標識は無く、その為に静山の雰囲気が強い。
日差しもポカポカと暖かく、のんびりとしたいところだが、まだ先は長い。下山に入る。

 少し前からヘリの音がパタパタと周囲の空気を揺らしていた。当然、春の荷揚げなのかと思ったが、小屋のある西側の稜線に向かうのではなく、南に見える有明山の周囲に留まっている。そちらに気を取られながら下山を開始。ローターの音にどうしても気をとられ、南を見ると、有明山の北側斜面を舐めるようにヘリが見ているのが判る。“落ちたのか”とすぐに思った。しかし、有明山の北斜面では、落ちたのかでは済まない急斜面であり、いったん滑れば2〜300m落ちてしまうだろう。それでも山頂付近の北斜面をホバリングしていて解せなかった。暫くすると、山の南側に移動し、同じような高度をホバリングしている。間違いなく何かを探している様子。こちらもそれに時間を取られていられず、踵を入れながら高度を下げてゆく。ヘリは何度か北と南を往復し、そして南のある場所で、こちらに機体が見える場所で長いホバリングをし出した。どうやら見つかったようである。滑落なのか、病気か、まだこの時は事故の詳細を知らなかったのだが、見つかって良かったと思いつつ下っていた。登りに難儀した急峻は、往々に北側に膨らんで雪に繋がり巻いて行った。

 
 鞍部再び。このまま南に谷を下って馬羅尾谷に登山道に乗ってしまえば、下山は早い。そんなことを思って谷を見下ろすが、こちらも笹が濃く、雪が乗っている。北側は全くと言っていいほどに笹がなく、もし南側も同じようだったら下りて行ってしまったかもしれない。往路のトレースを反芻するようにぴったりと足を乗せて登り上げてゆく。時折、周囲にサルが居る様な臭いがする。サルの集団に中に入ると厄介であり、周囲を見渡すが、その様子はない。ただし遠くで鳴き声は聞こえていた。そして1710峰に戻り、再びここで大休止。ここから再びトレースの無い尾根を行かねばならない。ここから西側のシャクナゲの様子を見ているだけに、東側の様子もおおよそ判るようであった。


 東進開始。尾根を形成する方角も似ているのだが、立山の木挽山の北側、ヌクイ谷に沿って東側に落ち込んでいる、あの尾根の植生と尾根形状に酷似していた。またまた掻き分けながら進む時間が続く。先ほど便利に使ったストックは、ここでは邪魔者でしかなかった。何度も引っかかるそれに、イライラして持つ事を放棄したくなる心境にもなっていた。すぐにある1711高点は、山頂の尖った顕著なピークとなっていた。ただし展望は無い。下って行くと1600m付近で、平らな肩的場所に乗る。そこそこ展望があり、この尾根で一番の幕営適地と思えた。さあこの後が少し厄介な地形が続く。大岩が連続して現れ、二つ目までは何とか直登出来たが、三つ目が越えられず、南を巻く。ここでの判断だが、大概の場所は直登で越えるのが良いようであり、越えられない場合だけ、周囲を探すのでいいようだった。そしてこの3つ目の大岩の上が大展望の場所で、通過の際はここで周囲を楽しみたい。もう次にある唐沢山も目と鼻の先にあり、射程距離。時計を見ながら、既に唐沢山から先のルート取りを考えていた。


 唐沢山の山頂部は南北に双耳峰のようになっており、南側に大岩で形勢された最高所がある。2つの高みのコルに乗り上げ、南に巻いて上がって行く。コルからの直登は手がかりの少ない岩登り。下りだとザイルが欲しい。さらに南に巻き込むと胎内くぐりのような岩溝があり、そこに雪が詰まって乗って行けた。そしてさらに南の痩せた尾根に乗って、南から巻き込むように山頂部の岩の上に乗る。岩の上には鬱蒼とシャクナゲが蔓延り、中央の木に赤い絶縁テープが縛られていた。僅かながら人の気配がして、少しホッとする。少し鬱蒼とした山頂部だが、場所を選ぶとなかなかいい展望がある。先ほど居た馬羅尾山も見え、その手前に越えてきた山並みがある。白さが姿を消しつつあるが、それでも緑と白のコントラストが綺麗に映っていた。雨引山も、西側に幾何学模様のような植林地を擁して綺麗な姿で見えていた。岩の上に腰を下ろしてしばし休憩。そろそろ日が陰り始めてきている。下山を急がねば・・・。コルまで戻って北峰を踏んでから下降に入る。


 感じからして、馬羅尾山側の西から進んで来ると、その先進みたいのは北側の尾根。しかしそちらは間違えで、地図を見ながら南東側に進むルートを探る。最初の下降点が良く判らずに、コルから急峻斜面を東に下ってみた。すると先ほどの岩の基部に降り立ち、その下がかなりドキドキの斜面。ここで先ほどまで邪魔者だったシャクナゲを利用しながら南にトラバース。おかげで滑り落ちる事無く尾根に乗れた。邪魔だったり、有り難かったり・・・。そして1530m付近に大岩がある。右から巻き込んで尾根上をさらに進んだが、僅か右(南)に進む尾根に乗るのが正解で、薄い踏み跡が降りて行っていた。判らず真っ直ぐに進んでしまい、少々戻る。マーキングがあるものの無視していたが、そこにある青と赤のマーキングを追うのがすんなり歩ける最良の方法のようであった。この先もまただまシャクナゲガ蔓延り、進路を塞いでいる所がある。そんな所も、的確な進路を青と赤のテープが示していた。


 1500m地点で90度に近い曲がり方で進路を北東にとる。ここもしっかりマーキングが導いている。下りなので、そこから南東に派生する尾根に乗っても問題ないようであったが、ここはしっかりとマーキングに導かれる。高度を落としてゆくと痩せ尾根で、そこでの踏み跡がかなり難しく伝っている。地形的な問題で、尾根一辺倒では伝えずに、不通箇所を回避する為に尾根を外れた巻き道が多々出てくる。そこへの入口にはちゃんとマーキングがされていて、見落とさないように進んで行く。途中に大岩の通過点があり、そこを越えると、これまでのテープのマーキングから青い荷紐が続くようになる。目指す送電線鉄塔がどんどんと近づくに連れて、道形も明瞭になってくる。日陰が多いのか、標高を落としてもこの辺りはまだまだ雪が多く残る。この日最後の雪の感触を楽しみながら、道形を追う。そして送電線鉄塔の下に出る。鉄塔の下から西側を振り返ると、沢山のマーキングが見える。これほど有ればこちらからの取付きも間違えないだろう。鉄塔からは北側に進むと巡視路の分岐となり、そこから東に伝って林道終点地に到達。緩んだ靴紐を締め直し、林道に乗った安堵感を、再度緊張に変える。


 前回は林道を伝ったので、今回は林道とは別に切られている「下山路」を利用する。この道はとても歩き易い道で、途中にある水の流れの出ている場所は、僅かに硫黄臭のある鉱泉水のような感じがした。途中で林道に乗るも、沢沿いの道はこの日のような暖かい日には適当で、視覚と聴覚から涼しさと感じさせてくれていた。そして林道上には新しい足跡が残る。本日に雨引山に入った人が居たようであった。林道脇には、おいしそうなフキノトウが初々しい顔を覗かせていた。この薄緑色を見ると春を感じるものである。

 ゲートまで下って、再び登りとなる。その前にゲート脇にある山の神に、本日の無事の挨拶をする。もう夕暮れ近い時間だが、まだ山菜採りの人が居て、楽しそうに採取している姿があった。こんな時間に登っているので、「今から登るのですか」などと声を掛けられ、「いやいや、周回してきた帰りです」と返答。と言っても、帰りでなぜに登っているとなり、「車が上にあるのです」と言う言葉足らずの返答なので反省。肺の調子は相変わらずで、良くもならなければ、幸いにも悪くもならない。ただ依然プクプクとエア漏れをしている。大事故に繋がる前に治そうか・・・。


 駐車余地に到着し、無事予定終了。どうやら今日の尾根は雪が乗っていない方が歩き易いようにも思えた。雪があっても凍った所が多く、かなり神経を使う尾根歩きであった。凍っているからと言って、アイゼンを終始着けて歩くような場所でもなく・・・。それでも、あまり人が入らない場所であり、シャクナゲなども刃物を入れられた形跡が無い。このままのしつこいシャクナゲの蔓延る藪山で居て欲しい。漕ぐのが大変と言いながら、それがけっこう楽しかったりするのであった。そして帰宅後に確認すると、見えていたヘリは、気球の落下事故が発生し、乗っていた3人を救助する為のヘリだったようだ。

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