大明神山   1642m          
  

 2010.02.20(土)   


  晴れ     単独     八景山(やけやま)地区尾根末端よりピストン     行動時間4H23M


@送電線鉄塔下6:28→(2M)→A林道から離れ尾根取付き6:30→(7M)→B尾根に乗る6:37→(16M)→C893.5四等点峰6:53→(112M)→D1476三角点峰8:45→(40M)→E大明神山9:25〜41→(18M)→F1476三角点帰り9:59→(40M)→G893.5三角点峰帰り10:39→(10M)→H尾根末端火薬庫10:49→(2M)→I鉄塔下10:51


textutou.jpg  textutoukara.jpg  rindou.jpg  oneni.jpg 
@高瀬川線「93番」鉄塔下に駐車。 @鉄塔から見る大明神山。 A林道の西(直線)側を見ている。ここから北の尾根末端に向かう。 A尾根末端に向かうが、道形が見えず、適当に這い上がる。
oneninoru.jpg  asahi.jpg  yontouten.jpg  yontoukaradaimyoujin.jpg 
B尾根に乗ると道形があった。 朝日を浴びて・・・ C893.5三角点峰到着。三角点は北側にある。 C893.5峰から見る大明神山。
yontouten2.jpg  tennguiwagawa.jpg  iwa.jpg  tomeyama.jpg 
C掘り出すと四等点であった。 途中から見る天狗岩側。 1100m付近で、ちらほらと大岩が現れだす。 これが問題の「達筆注意書き」。「違反者は罰金50万円を申し受ける」とある。
1250.jpg  dainitemae.jpg  ushirogawa.jpg  dainisankaku.jpg 
1250m付近、痩せ尾根を避けて南側のブッシュ帯を這い上がる。 1476高点手前の深く掘れた道形。 降り返る。 D1476三角点ポイント。標柱が建っていた。
dainikaranishi.jpg  1500.jpg  1500tengu.jpg  nihonnme.jpg 
D1476から西側の尾根。 1500m付近。少し雪庇が出来ている。 途中から見る天狗岩側。 二つ目の標柱が見えると山頂は近い。
sancyou.jpg  sancyoukaraushiro.jpg  sekihigun.jpg  ontakejinjya.jpg 
E大明神山山頂。雪が柔らかく、膝上までのつぼ足。 E上って来た側を降り返る。 E壊れた祠(左)と石碑群。 E「御嶽神」社と読み取れる。
minamigawa.jpg  sancyou2.jpg  dainikaeri.jpg  horetamichi.jpg 
E山頂から南の様子。 E山頂から北西側。展望のほとんどは樹木に遮られる。 F1476三角点ポイント帰り。 掘れた道形を伝いグリセードで高速下降。
bini-ru.jpg  kyuusyun.jpg  hachimoriyama.jpg  matumotobonchi.jpg 
止め山のビニール紐が淫らに流してある。 急峻尾根を下って行く。 途中から鉢盛山。 途中から松本盆地。
yontoupi-ku.jpg  anazawagawa.jpg  shinshimashima.jpg  kayakuko1.jpg 
G893.5三角点峰帰り。 G893.5峰から見る穴沢山側。  新島々側。158号の流れと、松本電鉄の行き来が見下ろせる。 H尾根末端に降り立つ。火薬庫が見える。
onegawa.jpg  kayakuko2.jpg  textutoukaeri.jpg  textutoukara2.jpg 
H振り返り、降りてきた尾根側。  H火薬庫。  鉄塔に向け戻ってゆく。  I鉄塔から見る大明神山。けっこうカッコいい。 


 
 北アルプスの前衛、新島々駅の西北西に位置する大明神山。標高もそこそこある割には、登る人がほとんど居ない。山名はすばらしいのになぜだろうと思っていた。そして新島々通過時に、山腹を見上げると、答えは一目瞭然。そこはアカマツ林で、所謂「止め山」なのであった。それでも、長野県内には止め山など無数にあり、無視してと言うか、暗黙の了解で入っている場所は多々ある。しかしここは、私の周辺の山屋からもほとんど記録が上がってこない。なにかからくりがあるはずと文明の利器に頼る。すると、唯一ヒットしたサイトがあった。作家のような文字使いで書かれ、楽しく拝読させていただいたのだが、どうやら過去に山主と登山者とでトラブルがあったようだ。それが元なのか判らぬが、現在は「無断入山のペナルティー50万円」となっている。いやにハードルを高くしてあるが、その高額さが、地権者の怒りに比例していると言う事だろう。

 
 こうなると、方法は二つ。許可を得て入山する方法と、無断で入る方法。とは言え、地権者はマツタケを守りたいが為にしている防御策であり、マツタケの時期を完全に外せば、侵入に対しても大目に見てもらえるのではないかと勝手に判断した。どだい許可を得るにも、何処に連絡を取ればいいか判らないし、連絡をした事で、腫れ物が大きくなる事も考えられた。となると、積雪期に狙うのが、全てにおいて適期となる。2009年の梅雨時期に行動を起こそうかと計画したのだが、ちょうどマツタケが出る頃で危険。じっと雪が降るのを待っていたのだった。

 
 狙うにはどう見ても梓川の左岸、八景山からの尾根を使うのが順当である。もうひとつは竜島の発電所からの尾根も使えるが、取り付き地点がだいぶ急峻地形であり、降雪期は辛い。さらにもう一つ、天狗岩側から尾根伝いに南下してくればいいのだが、時間的な部分や、登山口と下山口の考慮をせねばならない。やはりここは八景山からになる。

 
 前日の金曜日、銀行に行って50万円を下ろしてくる。登山に対し50万などと言うと、海外の山にでもと思う人が多いだろうが、この金額はまさしく今回の罰金の為である。念には念をと言う判断からなのだが、実際に求めてきた時に50万を出したら、どんな顔をするのだろう、と言う部分も興味があった。法律上、立て看板の文言は有効であり、侵入の違法性は、完全にこっち側に非がある。言い訳が出来ないので、最後は現生勝負となる。

 
 1:10家を出る。すばらしい星空で、上目遣いで見上げながら西進してゆく。三才山トンネルに潜って松本に降り、158号を進んで波田町役場の前を右折して梓川橋を渡って行く。そして278号に出合ったら上高地方面に左折し、八景山地区を目指す。最初は、釜ノ沢を渡った辺りから取り付こうかと思ったが、住宅が並び、深夜に車を停めて置くのは我ながら怪しすぎて出来なかった。余地が無いかと探していくうちに、山腹の神社に通じる林道の入口となった。雪が乗った林道で心許ないが、ここを入ってみる事にした。その入口には「通り抜け出来ません」との文言も書かれている。あまり起伏の無いダート林道で、途中には地域のお墓があったり、地形図で示す場所には神社の施設があった。そのまま東進してゆくと、送電線鉄塔となり、ここで行止りとなった。さてどうしよう。尾根末端は目と鼻の先にあり、あとは駐車余地だが、林道側だと入山している事がバレバレであり、ここは終点地の鉄塔の下に置く事にした。送電のブーンと言う音を子守唄代わりに、しばし仮眠を取る(3:30)。

 
 夜が開け外に出る。「ヨッ大統領!」か「ヨッ大明神!」とでも言いたくなるような姿で円錐形の山頂部が見えていた。なにかとても登山意欲をそそるのであった。12本爪をザックに放り込み、ピッケルとアルミワカンを括りつけ、いざ出発となる。送電線の鉄塔と針葉樹の植樹帯との間には、梅が植わっており、そのつぼみは膨らみ、春の準備がされているようであった。林道がカーブする北側には小さな小屋が見える。嫌な事にこのカーブの場所にも入山禁止の文言が見える。顕著な尾根であり、取り付きの道があるだろうと思って適当に行くが、いまひとつ判らない。南側山腹にピンクのマーキングが続くが、上に向かっておらず西に向かっており、途中で離れ尾根に向かって這い上がる。岩のミックスした急峻で、いきなり疲れる。そして尾根に乗ると、やはりそこには一筋の道形があった。何処から登って来たのかと麓側を見ると、先ほど見えた小屋側へ不明瞭に降りていっていた。下の道は帰りに調査として、上を目指す。

 
 新島々発の電車の音がコトコトと谷あいに響く。雪面をオレンジ色に染め朝日も当たりだす。凛とした空気の中に、木々の匂いが漂う。時折マーキングテープも見られ、だいぶ古いのでイザコザ前のもののようであった。それまで聞こえていなかった北側の釜ノ沢の流れの音が、耳心地良く入ってくる。なんだろうこの気持ち良さ。植生に覆われてあまり展望が良くないが、木々の間から見られる穴沢山(北)側の景色はなかなかいい。たぶん雪を纏っているからなのだろう。その展望が開けるのが、最初の893.5三角点峰となる。

 
 小さな四等点が埋められ、周囲には120度に配置されたプラスチックプレートがあった。上を見上げると樹木に覆われていたが、航空撮影が出来たのだろうか。ここからは松本平野が見渡せる。八景山からだろうか、犬がしきりに吠えている。もしかしたら私の存在に気づいているのか、まあ集落も動き出したと言う事だろう。周囲には猟師の足跡が無いのが幸いしているが、林道の途中には大きなクマ檻もあり、当然猟もされると思われた。やはり「侵入」している事に対し、地域の動きが気になり、後ろめたさが払拭できない。金で解決すると言う姑息な手段は最後の最後であり、その前には当然話し合いをしようと思っている。ありとあらゆる想定をしながら、その対応策を考えながら歩いていた。

 
 それにしてもこの尾根、下の方こそ踏み跡が薄かったが、上に行くに従い顕著に掘れている場所が多い。よほど歩かれていないとここまではならないと思えた。登山で出来たものと考えたいが、もうひとつはそれほどにマツタケが出るとも考えられる。以前、北の天狗岩通過時に、そのピークから南を見下ろしたが、道形は見られなかった。「大明神」と言う名であり、麓地域の信仰の山であるのかもしれない。侵入の動揺もあり、今日の思考は正解を推理できない。情けなや・・・。


 1100m付近から大岩が見え出すようになり、1212高点を過ぎると「50万」の山主の注意勧告看板を見る。それも連続して二つ。「お前まだ進むのか、ここで止めておけ」とも読み取れた。淫らに流された赤と白のビニール紐もあり、間違いなく止め山である事が判る。尾根北側に流してあるので、北側に魅惑の菌類が出ると言うことなのだろう。1250m付近が、やや痩せ尾根形状で、左(南)にずれてブッシュ斜面を這い上がる。上に行くに連れて勾配が増し、硬い斜面が有り、慎重にキックステップで通過してゆく。尾根に再び戻ると、その尾根上の掘れようは益々深くなり、それが登山道であることは植生からして明白となった。確かに先ほどまでは、アカマツ林と言えよう場所が続き、高貴な菌類の存在も感じ取れた。しかし、その植生は1476三角点峰を前後してクヌギやコナラなどの広葉樹林帯となる。ここでも菌類は出るだろうが、50万を掲げて守る場所ではない。となるとさらに上に続く掘れた道形は、登山道だと断定していいように思えた。


 この時期の核心部は、1250m付近から1476三角点峰くらいで、急峻地形でアイゼンが欲しい斜面となっていた。その1476高点には、古びた木の標柱が立ち、残念ながら判読は不能。三角点を探すも、ここも空が開けている場所が無く、点があるであろう場所が特定できず諦める。この先から嫌に苦い匂いが漂う。獣ではないようだが、周囲の何かの木が発しているようであった。1500m付近になると、少しだけ雪庇が出来ている場所もあり、通常は南風なのか、北に張り出していた。あと樹氷を見るとそれらは西に向けて延びているものが多かった。それを見て東風なのかとも思ったが、未熟な私には、まだまだ自然を読み取れるまでには行かず、それらの造形美を楽しむまでであった。


 だんだんと標高を上げると刻々と景色が変わり、深く雪を纏ったエリアもあれば、日当たりがいいのだろう綺麗な樹氷が見られる場所もあった。全てを堪能しながら足を上げて行く。先ほど1476三角点峰で見た標柱が、山頂手前にして再び現れる。これが見えたら、もう山頂は近い。勾配が緩くなり、その余裕からか左側の山稜を見やると、そこにはしっかりと反射板が見える。鉢盛山であった。勾配が緩いものの山頂が近づくと、これまでの膝下のつぼ足が、膝上になる場所も出てきた。そう簡単には踏ませないぞと、最後の試練であった。


 スタートからほぼ3時間。大明神山に到着。平面距離で尾根末端から3キロであり、おおよそ予定通りで到着となった。山頂には石碑群があり、石像と思しき表情も雪の中から覗いていた。一番大きなものには、「御嶽神」とまで読み取れ、その下は「社」と続くのだろう。設置年を確認しようと側面や裏側を見ると、新しいものでは明治三十三年の刻みも見られた。八百万の神がここに祀られている事は間違いなく、一般の私のようなハイカーが登ってはいけない場所なのかとも思えた。トタンで出来た祠は雪の重みで拉げており、どちらを向いていたのかも判らない状態になっていた。山名標識などは無く、今ほどの石碑でその役目を十二分にしていた。尾根はそのまま緩やかに天狗岩の方に進む。南や西側の尾根を見たが、マーキング類は無い。やはり好事家でもあまり登っていないと言う事になる。木々の間から辛うじて周囲の展望がある。幸いにも日差しは十分あり、ザックに腰掛けて白湯を飲む。僅かな風がそよそよと気持ちよく、登頂の満足感に後押ししてくれていた。


 さて下山。往路のトレースがあるので、それを伝えばいいので楽である。踵でグリップを効かせ、ぐいぐいと高度を落したり、急峻でも谷地形の場所は、転んでも危なくないと判断し、グリセードで滑るように降りて行く。やはり下りは早い。と言うか、私の場合はスキー板を履いているより早いかも。1476三角点峰を過ぎ、1300mから下にある急峻尾根は、往路を伝わず、流してあるテープに沿って降りてみた。そこにはうっすらと踏み跡があるが、雪の下は岩。慎重に高度を下げてゆく。


 そして893.5峰まで下れば、もうゴールは近い。再び釜ノ沢の流れの音が強く耳に入ってくる。それまで続いていた緩やかな斜面は尾根末端付近で再び急峻になる。細かな九十九折をしながら下に続いているのだが、雪の無い時でも、今でも、あまり明瞭ではないようであった。降り立った場所にはピンクのマーキングがされ、それが取付き点を示していた。その先にある小屋の方へ進んで行くと、北側にも林道があるようで、そちらから上がって来た者に対する入山禁止の立て看板が、北を向いて立っていた。小屋に近づくと、意外やこの小屋は火薬庫であった。釜ノ沢を見ると、上のほうには堰堤のマークも書かれており、その工事の為のものだったのかも。南に進み、林道に這い上がると紅白の鉄塔がこちらを見下ろすように待っていてくれた。そしてその鉄塔に到着し、再び大明神山を見上げる。山頂にあった石塔群を見ているので、山全体が神仏のように見え、思わず手を合わせてしまった。

  
 下山後、経路にある神社を拝観していると、地元の人だろう軽トラが前を通り過ぎ、鉄塔の方へ向かって行った。“もしやこの人が山主では・・・”などと、既に山屋から観光客に代わった私は胸をなでおろす。

 
 こうして私は無事踏んでこれたが、山岳会などに所属している方は、入山には「許可を得る」方を選ばないとならないのだろう。一人の違反が会全体に影響を及ぼしてしまう、別な意味で難しい山である。私は単独お気楽ハイカーなので登れたようにも・・・。あと、地形図からお気づきかと思いますが、これほどに三角点が近接して見られるところも珍しい。三角点マニアには、それこそ「美味しい場所」となるのかも。でもでも、三角点が拝める無積雪期には、絶対に入らない方がいいようにも・・・。菌が活性する時期には、50万の監視の目も活性し出すだろう。

chizu1.jpg

chizu2.jpg  

                                         戻る