黒菱山  2000m         鬼ヶ岳(鬼ヶ城)     2124m                    


  2010.04.10(土)   


  晴れ(強風)     単独       笹ヶ峰より        行動時8H50M


@笹ヶ峰駐車場4:56→(51M)→A黒沢入口5:47→(69M)→B富士見平付近6:56→(41M)→C高谷池ヒュッテ7:37→(53M)→D2310m下降点8:30→(57M)→E黒菱山9:27〜31→(42M)→F鬼ヶ岳10:13〜30→(14M)→G2091高点西の下降点10:44→(44M)→H火打山登山道尾根に乗る11:28→(25M)→I高谷池ヒュッテ帰り11:53〜12:01→(25M)→J黒沢岳南の肩12:26〜40→(23M)→K黒沢出口付近13:03〜30→(16M)→L笹ヶ峰到着13:46


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@笹ヶ峰休暇村駐車場を出発。 前日のトレールが濃く残る。 A黒沢に入って行く。 少々デブリも見える。
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乙妻山が赤く焼けだしてきた。 流れが出て割れてきている箇所。ほとんどの方は左岸を巻いていたが、天邪鬼は右岸を通過。 V字形の向こうに見事な乙妻山。 前日のシュプール。
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B富士見平の一角に上がると、煙を吐いた焼山が姿を見せる。 黒沢岳に向かって進む。 振り返ると、後立山の山並みが綺麗。 茶臼山直下付近から妙高山。
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茶臼のコル付近から火打・影火打・焼山。 C高谷池ヒュッテ。前夜は30人ほど泊まったそうな。 Cヒュッテ前から火打山。スキーヤーが点の様に山頂直下に見えていた。 D2310m尾根下降点から見る2275高点と、その右に鬼ヶ岳。
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D2310mから妙高山。 2275m付近。雪の切れている通過点が少々ある。 硬いバーンの上に薄っすらと乗る新雪。 2275高点からはカニ歩きで下ってきた。(振り返り撮影)
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問題の雪庇尾根。真っ直ぐ東に向えず、北に進んで、雪庇の切れるまで高度を上げる。 鋭角に南に戻るように急斜面をトラバースしてゆく。雪崩注意。 巻いてきた雪庇の尾根。左の高みから右側へずれて雪庇を回避。 安全地帯に乗り、黒菱山(中央)を目指して下って行く。
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E黒菱山山頂。今日はフリーライド・オフ・リミッツ。 E黒菱山から鉾ヶ岳側。その手前が黒菱山の三角点のある肩。 E黒菱山から東。 E黒菱山から鬼ヶ岳。
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往路を戻る。 2006高点から鬼ヶ岳側の斜面。 もうすぐ鬼ヶ岳。東西に長い山頂。 F鬼ヶ岳山頂。一本だけ目だって生える木がある。
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F鬼ヶ岳から妙高側。 F鬼ヶ岳から北東側。 F鬼ヶ岳から黒菱山側。 F鬼ヶ岳から火打側。
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F鬼ヶ岳東峰から西峰側。 往路で難儀した雪庇尾根。直下まで登り上げ、谷への雪庇が切れる場所を探る。 G雪庇の切れた場所が見つかり、下りこむ。谷はなだらか斜面。 谷の途中から鬼ヶ岳を見上げる。
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正面の尾根が夏道のある尾根。快適斜面を南進。 途中から西側の壁。ここも鬼ヶ城の一角となるだろう。 H火打への尾根に乗る。 H尾根に乗った場所から高谷池側。中央の樹林帯の左側にパーティーの姿を発見。
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記念撮影中の大阪・岐阜混成パーティー。 I高谷池ヒュッテ帰り。 J黒沢南の肩帰り。ここでシールを外し、いざ滑走。 快適シュプール。
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雪質も上々。楽しい滑り。 K黒沢の出口付近。振り返り山側を撮影。 なだらか斜面も樹林帯を細かいターンで抜けてゆく。 L笹ヶ峰駐車場到着。駐車場に入りきれない車が路上に・・・。


 

さあ笹ヶ峰までの除雪が完了。と言っても非公式では有るが、休暇村まで通過出来るようになったようである。それには、除雪作業員殿のブログがあり、そこで逐一進捗状況が確認出来るのだった。なんと便利な世の中なのだろう。昨年の入山は、市役所や観光協会への電話で確認していたが、画像を伴った配信には確実性があり、何より現場の方からの配信であり頼もしいのだった。


 私にとっての妙高・火打エリアは、2000m超は残り2座となっていた。「黒菱山」と「鬼ヶ岳」(エアリアでは鬼ヶ城)。数年前にMLQが踏んで、ピクピクと気になっていたのだが、MLQの報告を見る前には黒菱川から登り上げようかと思っていた場所だった。しかし笹ヶ峰から入れば早い事が判り、その手を使わせていただくことにした。そして行くならスキーで行きたいと思い。笹ヶ峰まで除雪がされるのを、首を長くして待っていた訳であった。あと、黒菱山は、山スキールートとして紹介誌にも載るようになったようだ。登山道から外れたバリエーションの山ではあるが、積雪期にはちらほらとは登頂者が居るように見受けられる。


 土曜日の深夜(金曜日の夜)からは、この時期にしてしっかりとした降雪があった。我が家の周囲もすっかりと白くなり、低気圧の到来に出ようか出まいか迷っていた心を、ぶれずに「中止」の方へ導いてくれた。天気を確認すると、土曜日後半から良さそうだが、それより日曜日の方がよりいい天気で、土曜日は家で停滞。こうなるとスキー板を悩む。だいぶ雪も締まっただろうから、久しぶりにフリートレックで行こうと思っていたのだった。作業員氏のブログからは、新雪が20センチほど降ったようであり、長い板の方が適当のように思えた。その降った下はガリガリだろうし、板の選択には少し時間を要した。悩みに悩んで、フリーライド・オフ・リミッツとした。今年はこの板の出番が多い。一番汎用性があると言う裏返しだろう。


 0:30家を出る。笹ヶ峰に向かうものの、やはり降雪が気になった。もしやかなりの量が有り、杉野沢地区で停められているのではないだろうか。そんな思いも頭を過ぎる。エンジンの回転数を2000回転に抑えながらの燃費走行。それでも我が相棒は優秀で、時速100キロで巡航してくれる。上信越道には、まだまだスキーキャリアにスキーを挟んだ車が居る。ゲレンデスキーヤーにとっては、そろそろ滑り納めだろう。高速の北側の日影には、かなりの雪が見える。間違いなく土曜日の雪のようであり、それにより不安が募る。それでも妙高が近づくと、その量は薄らいでいた。どうも関東側の方が降っていたようだ。

 妙高高原のインターを降り、すぐに妙高高原公園線に乗る。笹ヶ峰に行くには、この妙高高原インターの存在はとても便利なのであった。杉野沢地区を過ぎ、最初のゲートがある。当然「一般車通行止め」の表示がある。一瞬目を閉じ、見えない振りをして通過。さらに先に、道幅半分ほど塞ぐようにゲートがある。ここは目を瞑ると危険なので、片目を押さえた。両側には除雪車の刃跡が残り、2m以上の壁のある場所もあった。その除雪の恩恵をヒシと感じながら詰めて行く。標高を上げると路面を雪が覆っている場所もあり、そこから少しドキドキとするが、長く続かず、日当たりの良い場所は舗装路が顔を出していた。去年同様に京大ヒュッテからは黄色い暖かい明かりが漏れ、その前の路上には、これまた昨年同様に5台ほどの車が停まっていた。そして笹ヶ峰駐車場到着。中に入って行くと、15台ほどが停められるほどに除雪してあった。その中の1台を見て、驚く。浪花の有名ハイカー夫妻の車が置いてあったのだった。ガラスの汗のかき様からして車中泊をしているようだ。数日前の行動予告からして、ここだろうとは予測していたが、それを目の当たりにして“いる、いる”なんてニタニタしてしまった。一度除雪確認と、杉野沢橋側に進んでみる。これもいつもの場所なのだが、黒沢を渡った僅か先で除雪は終了していた。駐車場に戻り、トイレ前に突っ込み仮眠となる(2:45)。


 好天の日曜日、続々と笹ヶ峰にスキーヤーが上がってきていた。そのヘッドライトの明かりに、エンジン音に、何度も目を覚ます。駐車場の除雪が完璧でないので、停め場所に迷っている様子が伺える。それにより、エンジンが切られるまで時間がかかる。4時30頃には夜が白みだし、準備を始める。周期的に車を揺らすほどの風も吹いていた。昨夜の低気圧の影響が残っているようだ。火打の標高まで上がるのなら、冬季用の防寒具を持つのだが、今日の目的地は2100mほど、防寒具は雨具とした。アイゼンを確認、ピッケルを確認、シールを貼って、いざ出発となる。


 車から出て歩き出すと、有名ハイカーの車にエンジンがかかった。出発に向け起きだしたようだ。声をかけようかと迷ったが、静かに脇を通過して行く。雪面に乗ると、そこにはしっかりとしたトレールが出来ていて、その上に板を滑らせて行くのだが、圧雪が凍った状態で、ツルツルと滑ってシールがグリップしてくれない。トレールを外して、その脇にもう一本のトレールをつけて行く。沈み込み量は70mmほど。モナカ雪と言えよう硬さであった。前日はかなりの人数が入っているようで、残されているトレールの圧雪の様子から、それが伺えた。当然今日は、夏道ではなく黒沢を辿ってゆく。前回はこの沢をつぼ足で登ったのだが、スキーだと至極楽であった。時折流れが顔を覗かせているが、何とか雪に繋がりながら通過が出来る。ただ最初の口の開けた場所が、やや通過しにくい割れ方になっていて、多くの方は左岸側をカニ登りで通過していた。私は天邪鬼で右岸側を、雑木を掴みながら通過して行く。振り返ると乙妻山側がモルゲンロートとなっている。今日の天気をそれが示しているようだが、北側の空を見上げると、かなりの速さで雲が移動しているのが見える。風の強さはかなりのようであった。谷を抜けたら風との闘いを覚悟する。


 1550mほどで黒沢を離れ富士見平側に谷部を付き上げてゆく。前夜のトレールが100パーセントこちらにあるのであった。こちらもなだらかで快適。そして富士見平の大地に上がると、火打、その左に影火打、さらに左に焼山が姿を現す。焼山の噴気もかなり上がっていて、強風に煽られて青空に乱れ散っていた。黒沢岳南の肩のところで、流石に耐え切れず雨具を着込む。風防をかぶっていないと、頭がじんじんと冷やされてゆくのが判る。まあその空気の冷たさあって、周囲展望はすこぶる良い。後立山の精鋭が、凛とした姿で並んでいた。


 黒沢岳西側のトラバースするトレールは、その大半が雪にかき消されていた。途中から妙高を眺めようと、茶臼山の方へ駆け上がる。そして尾根に乗ると、黒沢池の平原の向こうに歪な黒い姿がある。妙高の存在感は、この拳骨のような山容に有るとも言える。来て良かったと思える景色であった。茶臼山から続く尾根を伝おうかとも思ったが、ここはアクセントにと高谷池ヒュッテを経由してゆく。自然で遊ぶと言うものの、自然の中にある人工物は、時としてホッとさせてくれるものであるのだった。途中でトラバースルートから続いてきたトレールが現れ、そこに板を乗せてゆく。しかし西進は正面からまともに風を受ける事になり、腹から冷やされてゆく感じであった。目指す先に火打山が見え、その斜面にスキーヤーを探す。登山口から出発した先行者は居ないようだが、小屋泊の方が居るだろう。でもこの時はまだ見えなかった。


 高谷池到着。三角形の鋭利な屋根は、その角度で雪を払い落としていた。ちょうど2階部分が一階のような感じで、一階部は雪に埋まっていた。そしてその前に立てかけてあったスキー板を見て驚いた。20人分くらい立ち並んでいる。その前ではワックスをかけている姿もあり、昨晩からどれだけ泊まったのだろうか(あとで聞いたら30人ほど泊まった様子)。駐車場の様子からして、居ても10名ほどかと思っていたが、この数には驚いた。そしてすぐに火打山に目を向けると7つほどの動く点が確認できた。公式な山開きはまだ先では有るが、好事家内での山開きは、昨日今日であったようだ。さあ周囲が動き出しているのに、指を咥えて様子を見ているわけには行かない。天狗の庭側に進んで行く。


 シューと言う独特のシールの音をさせながら天狗の庭に滑り降り、さてここから登り上げ、夏道は尾根側にあるのだが、先を行っている人のトレールが斜面を斜行していた。先の人が伝っているのだからと、足を乗せてゆくが、なかなか勾配が強く、滑る。日差しをもろに受ける為か、クラストしている場所もあり、時折エッジを立てながら掻き上がる場合もあった。火打山を目指すパーティーは、風下になるように、かなり北西側に巻き込んで登っていた。北西側は急峻斜面。足許の危険より、風を回避させたかったようだ。登頂した様子も確認出来、15分くらい経過してから、南東側斜面をソロリソロリと降りてくる姿がある。こちらから見てもかなり急峻。上からならそれ相応な斜度に見えるであろう。だんだんと火打に近づくにつれ、その斜面にいくつものシュプールが刻まれているのが判る。みな綺麗な弧を描いた快適そうなものばかりであった。昨日の午後は、かなり雪の状態も良かったようだ(ちなみに後日談だが、この日の火打斜面もモナカ雪でそこそこ良かったと聞いた)。


 さあこちらも高所で頑張っている人に負けられない。2310m付近、鬼ヶ城側に続く尾根への分岐下降点に差し掛かっていた。このあたりは、雪が飛ばされ凍てついた雪が表面に出ていた。風に押され、摩擦抵抗が無く、意図しない方に動かされたり・・・。そして下降点から鬼ヶ城に続く尾根を見て、ちょっと考えてしまった。2276高点が、経路一番の顕著なピークになるのだが、その周囲に雪が無いのであった。それにより風がいつも強い事が伺えるのだが、スキーで来ている都合、デポして行ってこようか迷う場面となった。しかしその先に見える鬼ヶ岳と黒菱山にはたっぷりとした雪が見える。ここの通過がポイントなのか、と板への傷は覚悟で下って行く。前夜の雪は、その下にある固いバーンの上に斑模様に残る程度。乗ると滑る場合もあるし、しっかりグリップしてくれるところもある。アイスバーンの上はそれこそシールのままでは怖いので、それらの新雪を拾うように降りて行く。完全にスキー板は歩行具となり、雪庇側にスキーのトップを向けたカニ歩き。


 そして2276高点に到達。上から見た感じでは岩がゴツゴツしている場所に思えたのだが、来てみると低い樹木が生え、それによってふかふかした通過点となっていた。雪に覆われていても不思議でないのだが、やはり風の通り道なのだろう。この先も、先ほどの場所同様に、凍った上に新雪が乗っている。ここはスキーを脱いで、踵を叩き込むように降りて行く。そして再び緩斜面になるのだが、鬼ヶ城側に続く尾根と、現在地の間には60mほどの高度差がある。何処からそちらへ繋がって行けばよいものか、かなり迷う。進むべき東側へは、雪庇が張り出しているし、進める方向は唯一北側しかなかった。北に進みながら、雪庇の途切れるポイントを探しながら高度を下げてゆく。そろそろと思って東に寄っても、なかなか適当な場所が無く、結局北に進路を変えてから80mほど下って、やっと雪庇が消えた。しかしそこはかなりの急峻地形。スキーだから一気にトラバースして滑って行けそうだが、つぼ足で進むには、その遅い通過時間が、雪を切ってしまいそうで怖い場所であった。新雪であり、雪崩れる危険性も大きい、ここの通過はかなりギャンブルであった。北に進んできた進路を、180度戻るように南に進み。鬼ヶ岳へ続く尾根に乗る。


 尾根に乗ると、この日に通過したのか、一人分のトレールが黒菱山の方へ進んでいた。先ほどの雪庇の斜面を見上げると、同じようにトラバースしている跡も見える。私の進路はどうやら正解を辿ったようだった。ここのルートの一番のポイントが、この雪庇の尾根をどう越えるかであり、ここさえ通過してしまえば、その先はスキー向きな尾根となった。僅かに登れば鬼ヶ岳の山頂であったが、先に遠い方の黒菱山を目指す。雪の状態は良く、シールを貼ったままだが、シュプールを刻んで降りてゆけた。シールを外せばかなり楽しい斜面になったはず。でも登り返しがすぐに有るので、外すのを端折った。


 2006高点からは僅かな登り上げ。やや狭い尾根を緩やかに登ってゆくと、黒菱山の広い山頂が待っていた。山頂の西側にはダケカンバが立ち並ぶ。展望はほぼ360度開け居心地はいい。しかしその展望の分、風を避ける場所がなく、まともに受ける。さらに北側へ進むと三角点があるようだが、この時季に行っても拝めるはずもなし。今日の最終到達地点はここまでとした。先ほどの鬼ヶ岳を見上げると、けっこうな急斜面に見える。滑ってきたシュプールが、山肌を淫らに汚していた。長居は体を冷すばかり、すぐに戻る。やや風に押されるように進んできたが、今度は反対。毛糸の手袋では指先が悴んでしまい。風上に近い右手がジンジンと冷える。雨具は首元までジッパーを上げないと、すぐに剥ぎ取られてしまう状況であった。ゆっくりと直線的な登りで尾根筋を狙って行く。


 鬼ヶ岳の山頂部は東西に長く、西と東に高みがあり、その東側の高み(2124高点)を事典では鬼ヶ岳としている。地形図ではその東側の岩壁部を鬼ヶ城としており、エアリアでは2124高点を指して鬼ヶ城と表記されている。山頂からの妙高側は圧巻で、妙高山が良いと言うより、その手前にあるガラソノ沢に代表されるなだらかな平原が美しい。こうなると帰りはここに降りてみたくなった。一方、火打山を見ると、直下の肩の所で進退を迷っているようなパーティーも見られる。その要因は風であろうが、もう目と鼻の先で、登れないとなると悔しいだろう。風の中でのパーティー内の葛藤が、手に取るように判るようでもあった。先ほど居た黒菱山側はダケカンバに邪魔をされていていまひとつ。ザックに腰掛けて風上を背にしながら地図を読む。どうにか南に降りる方法はないか。しかし地形図からは行けそうな場所は見出せなかった。“またあの雪庇の場所の通過か”と思うと、少しブルーな気持ちに。今にも崩れそうな雪庇、さらに流れやすそうな新雪斜面。ちょっと気がかりな条件が二つ重なっていた。それらがある延長線上の火打山では、まだ先ほどのパーティーは足踏みをしていた。少し停滞が長すぎるようだが、「待つ」事がリーダーから下された判断なのかも。それらを見ながら西進してゆく。


 尾根通しのルートは、途中で急峻地形が入るので、北に膨らんで巻いてゆく。だんだんと目の前の雪庇斜面が迫ってくるのだが、いくら直登してもその雪庇を越えて尾根に乗るのは無理のように見えた。そうなると往路の逆で、北に向けて滑り易い斜面を斜上して行かねばならない。如何しても行かねばならない時は、自分はどちらをとるだろうか、直登かトラバースか。どちらも選択したくない降雪後の斜面であった。そしてとうとう斜面直下まで来た。万事休すかと思ったところ、ピンポイントで危なげない下降点が見つかった。その先の谷部も緩やかで、ここでの滑りは怖いとは無縁の楽しい斜面。ただデブリが何度かあったようで、ゴロゴロと並んでいた。どんどん高度を下げてゆくと、この一帯の鬼ヶ城と呼ばれる岩壁が一望出来、その気持ち良さたるや・・・降りて正解だった。途中から登りに切り替えるのだが、向かう夏道がある尾根には雪庇が北に張り出している。遠巻きに尾根全体を見渡すと、谷から尾根が突き上げている場所で雪庇が切れており、そこを狙う事にした。


 谷に入れば西風が完全にシャットアウト出来ると踏んだが、甘かった。どうに吹き込んでいるのか、弱いながら尾根からの吹き降ろしの風もあった。それほどに今日は強いと言う事だろう。ほとんど踏み入れる人が居ないであろうこの谷は、自然の中に居る満足感を強く感じることが出来る。太そうな尾根を狙って、西側から巻き込むように登り上げてゆく。“雪庇よ落ちるな”と祈りつつ、時折襲ってくる雪煙に、数度立ち止まっては足を出してゆく。幸いにもこの斜面も雪の付きが適当で、シールがよく効いてくれ、危なげなく這い上がる事ができた。


 尾根に乗る。往路では通らなかった夏道の上で、夏道のロープなども確認出来、それと判った。火打山は完全にガスの中となり、まだ降りていないであろう見えていたパーティーが気になった。そして高谷池側を見ると、尾根上に8名のパーティーが見えた。見ていてもなかなか上に登って来る様子もなく、しまいには集合写真撮影を撮り始めた。総勢が万歳のポーズをとっている。その様子はまさしく、浪花の有名ハイカー御夫妻のパーティーに違いなかった。裸眼で0.7の私には、やっとやっと見えるほどの距離だが、その様子から間違いないように思えた。急いで滑って行くが、途中の雪質の変化で思いっきりコケる。誰もこっちを気づいていない様子で、笑える場面を見逃している。まだまだ集合写真の撮影は続いていたが、こちらに背中を向けたシルエットでもそれと判り、ストックを振りながら近づいてゆく。そして次の瞬間、背後に気配を感じた奥方が、こちらに気づいてくれ、感動の対面。まさかここで逢えるとは思わなかった。時間的にもう少し上に居るだろうと思っており、たぶんすれ違いだろうと思っていた。先に見えていた10名ほどのパーティーがおそらくそうなのではと思い込んでいたのだが、まさかここに・・・。このパーティーのリーダーは、岐阜の雄であるTOKIOさんで、ファットスキーにTLTの装備、ハイテクな先進スキーヤーなのであった。しばし談笑し、パーティから離脱。いきなりの登場で、おこがましく合流ではちょっと気が引けるからであった。楽しいパーティー行動を邪魔してはと、天狗の庭経由で高谷池の方へ進んで行く。


 高谷池ヒュッテに戻ると、立ち並んでいたスキー板は一掃され、二組の板のみが立っていた。皆下山したのと、上に居るパーティーがここから出発したパーティーのようであった。切株にしばし腰を下ろして、周囲展望を楽しむ。TOKIOさん率いるパーティーはしらびその中を縫いながら茶臼山側へ進んで行っている。どうやら茶臼のコル経由で黒沢に入って行くようだ。こちらは往路を辿って黒沢岳の西面を掠めてゆく。アイゼンを着けた先行者が居るようで、12本の爪痕が続いている。それを追うようにトレースに繋がってゆく。


 そして黒沢岳南の肩の場所まで戻り、ここで今日初めてシールを剥がす。この先は全く登り勾配がないので、滑りを楽しむだけ。ワックスを塗りこみ、ちょっときつめにバックルを締める。そして滑走開始。快適そのもの。雪質もよく、ザラメとまでは行かないが、モナカ雪とザラメ雪との中間くらいな感じで、綺麗にターンが決まる。富士見平から南東側に下ると、無垢のバーンが残されており、そこにシュプールを刻んで降りて行く。全ては雪質のせいなのだが、数段上手くなったような、そんな誤解が生じるような気持ち良さであった。谷に降り立ったら、後は谷地形に従って緩やかにターンを刻みながら降りて行く。

流れで口を開けた場所があるので、慎重にその場所を見極めながら通過。そして黒沢の中から出たところで、後続のパーティーをしばし待つ。10分ほど待ったか、一人降りてきた。“おう来た来た”なんて思っていると、パーティーとは全く別人。話を聞くと一行は茶臼のコルで根っ子を生やしたとの事。間違いなく「宴会」が始まったのだろう。後からもう一人降りてきたが、同じ風景を見てきたようだ。となると少し時間がかかるようだ。このまま下ってしまっては冷たい人と思われそうで、最後の最後で合流しようかと思ったが、登山口で待つことにして一気に滑り降りる。雑木をマーカーに見立てて面白いほどに細かいターンが決まる。スキーの喜びを感じながら滑走して行く。


 登山口に到着すると、先ほどの方が休憩していた。とても丁重な方で、昨晩は小屋に泊まったらしい。そして毎年この日に高谷池ヒュッテに泊まるらしく、さらには泊まる面々はいつもほとんど同じで顔なじみばかりであったそうな。外国人のガイドも中には居るようで、昨晩は賑やかな小屋だったようだ。話を聞いていても、とても楽しそうであった。

 車に戻り、後続のパーティーを待つ。そして続々とスキーヤーが下山してくる中、見慣れた顔が降りてきた。快走が顔に現れ、皆にこやか。十二分に雪遊びをしてきた顔であった。

 私もこれで、妙高・火打エリアの2000m超が登り終えた。次回来る時は、登頂目的でなく、のんびりと雪遊びの為に来るであろう。

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