黒覆山 1910m
2010.5.29(土)
曇り時々晴れ 単独 シオジ平自然園2.3キロ手前から 行動時間:6H43M
@通行止バリケード4:55→(8M)→Aシオジ平自然園駐車場5:03→(28M)→Bシオジ平自然園入口5:31→(9M)→C中小川避難小屋5:40→(14M)→D中小川登山道入口5:54→(39M)→Eオンボロ沢6:33〜47→(6M)→Fイヌ沢入渓6:53→(6M)→G1620m付近枝沢(右の沢)へ6:59→(21M)→H1780m付近(三俣に分かれる)一番右へ7:20→(34M)→I黒覆山最高点7:54〜55→(6M)→J黒覆山三角点 8:01〜18→(7M)→K黒覆山再び8:25〜54→(32M)→L廃林道に降り立つ9:26→(15M)→Mイヌ沢帰り9:41→(3M)→Nオンボロ沢帰り9:44〜56→(38M)→O中小川登山口帰り10:34→(19M)→Pシオジ平自然園10:53〜11:02→(35M)→Q通行止バリケード11:37→(1M)→R駐車余地11:38
@シオジ平自然園手前2.3キロ付近で通行止になっていた。 | A本来のシオジ平自然園駐車場前。 | 記念碑の前で90度進路を変える。 | 大量の落石。 |
林道途中から見るオンボロ沢出合。 | Bシオジ平自然園入口。 | 釣り人が魚影を覗き込む。 | C中小川避難小屋 |
C小屋内部 | 与田切川橋。左岸側にチェーンゲートあり。 | D中小川登山道入り口。 | 小麦沢(左岸側から)。深い場所で10cmほどあった。 |
コシアブラの若芽を少し拝借。 | 林道終点地からの下りは、ニリンソウの群落。 | Eオンボロ沢。渡渉場所を探して遡上する。 | E右岸側にある見栄えのする小滝。 |
Eダケカンバの倒木で左岸に移る。 | E左岸側から見る右岸。 | Fイヌ沢に入って行く。ここには土管が3つある。 | G1620m付近で、右俣(枝沢)の方へ進む。 |
1700m付近の様子。 | H1780m付近。沢が三つに分岐する。その一番右側(写真右端)を詰めて行く。 | 1800m付近の様子。 | 1860m付近。間伐された木がゴロゴロと転がっている。 |
山頂手前は、沢形状が終わり、ササの藪漕ぎ。 | I黒覆山最高所から三角点峰側。 | I山頂の境界標柱。 | I山頂から見る仙涯嶺(左)と南駒。 |
J三角点峰にある小さな櫓。 | J白ペンキが塗られた標柱が、折れ残っている。 | J三角点峰から北側の様子。 | J三角点峰から飯島町(東)側。 |
J三角点峰側から見る最高点側。 | K黒覆山から南の尾根に下る切り開き。ちょっと見辛いが・・・。 | 撮影中央がルート(切り開きがある)なのだが、かなり自然に戻りつつある。 | L廃林道に降り立つ。(西側を見ている) |
L降りてきた斜面。 | 途中から仙涯嶺を見上げる。 | 途中で廃林道の道形が流れている場所がある。視界不良時は注意。 | Mイヌ沢に戻る。 |
Nオンボロ沢左岸から。 | N左岸のこの大岩が、上流側からだと降り辛い。登りの場合は、山手側をへつる様に軽い岩登り。 | Nダケカンバの渡渉箇所。 | N流れの上。下側の木は常に濡れている。 |
林道終点地の広見。写真中央に赤いドラム缶がある。 | O登山口帰り。 | 与田切川橋帰り。 | 中小川避難小屋帰り。 |
Pシオジ平自然園の中を寄り道。 | P吊橋の上から下流。 | P吊橋から上流。 | P剣吊淵滝。かなり見栄えがする。 |
Q通行止バリケードに戻る。 | Rカーブの所に駐車。右手斜面の50mほど上に研究施設あり。 |
大晟君とその親父(私の同級生)が、今しきりに狙っている場所がある。それは医王山(金沢市)の栃尾コース。奥医王山への一つの登山コースなのだが、沢ルートでけっこうに難しい様子。ある程度は登山道を伝えているようだが、オージャラを通過し、その上の沢で行き詰っていると聞く。たぶん、本人らの今のレベル(登山回数は両手くらいか)では、ハードルが高い場所なのだろう。二度のチャレンジでも跳ね返されているようだ。だがしかし、この父子(子父と書きたいのだが)は、三度チャレンジすると言う。この前向きな気概には、流石にこちらも感化される。そしてちょっと沢登りがしたくなった。と言っても私の場合は、まだ沢屋の世界には足を踏み入れていない。濡れないで通過する程度の沢登りとなる。
しばらく北アルプスを連投していたので、ここらで「南」か「中央」に入りたくなっていた。それにスパイスとして沢がある場所。ただ単にこの条件なら、いくらでも探し出せるのだが、私においての未踏座を加味させねばならない。そして一人でガツガツと沢を登れる技量があればいいが、今の私は沢沿いのイタドリを採っては齧りつつ登るのが関の山。ほどほどの場所と言う事になる。そして目に付けたのが、中アの黒覆山。イド沢の廃道ルートは、今でも沢屋の遊び場のようであるが、ここは流石にハードルが高すぎ。オンボロ沢からの支流を遊び場に決めた。
この黒覆山もMLQが記録を残してくれたが、WEB上で見られなくなった今、参照不可能。それでも地形図に、シオジ平からオンボロ沢までの林道が書かれており、ここまでアプローチ道が見えていれば、地形図を読み解く部分は、僅かな距離のみとなった。ただ、そこにはゲジゲジマークが多い。下手をすると下手をする。地形図を拡大して、等高線の細部までしっかりと見る。確かMLQは「南の尾根には切り開きが有った」と言っていた。これは下山に使おう。とりあえず、装備には20mのザイルを入れた。
1:40家を出る。1000円で無い時は、茅野から高遠へ抜けて行ったが、今はすぐに上信越道に乗ってしまう。この便利さに慣れてしまうと、今後に弊害もあるかも・・・。更埴・岡谷の各ジャンクションを経由して、中央道を名古屋方面に向ける。シオジ平に入って行くには、こちらからだと最適なのは駒ヶ岳SAにスマートETCがある事。はてさて“有ったっけな〜”と、頭を廻らすが、“無かったよな〜”となる。駒ヶ根で降りて広域農道で南下して、「文化館入口」交差点から与田切川に沿って西進して行く。シオジ平自然園への道標が途中から現れ、道が合っている事を示す。先行車が居るようで、水溜りの先には濡れたタイヤのトレースが残る。ハイカーか釣り人か・・・。時季が時季なので釣り人なのだろう。
与田切発電所の先で、千人塚からの道と合流し、右折してどんどん詰めて行く。おおよそ通行止め情報は得ていたので、あとはこの先、何処で停められるかが問題であった。先ほどの分岐(合流点)から1.3キロ。ここでゲートされていた。ゲートの前には、車が2台あり、出発の準備をしていた。彼らが先行車であることに間違いない。ウエダーを着ており、100パーセント釣り人であった。少し戻ってカーブの所に車を停める。ここには「高知大学」と書かれた水入れが置いてある。上を見上げると、斜面にビニールで囲った施設がある。なにか大学の研究施設が有るようだ。20分ほど仮眠を取る(4:25)。
4:55スタートをする。釣り人は5分ほど前に出発したようで、熊よけの鈴の音が新緑の中に吸い込まれていった。ゲートは手で動かせる物で、その先の路面も状態が良く、「車で進めたのでは」と思えてしまった。それでも僅かに進んだ先に、山手側のフェンスに落石が溜まっている場所もあり、通行止めの処置はこの為だろう。ウドやイタドリも見られ、少し摘んで朝飯代わりとする。そして右側に広い駐車場が見えてくる。ここが本来のシオジ平自然園の駐車場となる。トイレも併設され、展望所も備えられている。通行止のチェーンを跨いで、さらに林道を進む。進行方向右手には仙涯嶺と思しき高みが見える。途中で分岐箇所があり、記念碑が建っている。そこに書かれている「北東にあった」と記される登山道は、イド沢のルートの事だろうか。読み解けないまま通過する。この先5分ほどで大きな崩落箇所に出合う。林道前後2箇所で、計7〜8トンの石が落ちて来ていた。上を気にしつつ、足早に通過。そしてこの先から中小川の渓谷美が見えてくる。冷たそうな深い青色が見え、新緑の緑と共に目に鮮やか。大きなオンボロ沢が右側に見えてくると、シオジ平も近い。
シオジ平自然園は、大々的な入り口があって到着した感のある所かと思っていたら、自然の中に造られた散策道で、それこそ自然に溶け込んだ公園のようであった。その入口を右に見ながら先を急ぐ。ここにはトイレ舎もある。僅かに進むと、先行していた釣り人二人が、水面を見ながら竿を垂らすポイントを相談しているところであった。挨拶しながら脇を通過して行く。雪融け水の為か、周囲温度は低く、時折吹く風も冷たい。今日はあまり太陽は期待できず、後半からは雨模様。難なくサッと踏んで来たい場所であった。足を進めると小屋が見えてきた。
中小川避難小屋を恐る恐る開けて見る。そんな気持ちにさせる外観であった。そして内部は外同様にだいぶ寂れた感じ。畳もかなりくたびれた様子で、捲り上げられている物もある。鼻をつくかび臭さに、サッと戸を閉めた。家は利用しないと駄目になると言われるが、山小屋も同じ。ここもあまり利用する方が居ないのだろう。この小屋を出て3分ほどで与田切川橋を渡る。こんな上流で川名の橋が掛けられるのは珍しい。それほどにこの水系には橋が少ないのだろう。橋の左岸側には、再びチェーンゲートがあった。林道もだんだんと山道の様相が強くなってくる。周囲では野鳥のさえずりがとても耳心地いい。新緑の中を流れる空気と共に、最高の持て成しであった。そして橋から550mほどで分岐林道があるのだが、この又となっている所から中小川登山道が始まっている。滝見ルートと言われるここは、一度は通らねばならないが、今だ実行に移していない。その登山道を左に見ながら、右側に続く林道を詰めて行く。周囲にはサルが多いようで、林道上にはそれらの糞が多い。
オンボロ沢はこの先だが、手前に小麦沢がある。微妙な水量なのだが、林道上を横切る水量は、登山靴を水没させる量があり、沢を10mほど遡上して高巻きをする。進行方向右手には、目指す黒覆山らしきボテッとした山塊が見えている。沢の音が強くなるが、その水量の多さは間違いなくオンボロ沢の音である。でもその音からは既に注意信号が感じられた。これだけの音を出す水量、はたして渡渉できるのか・・・。林道があるからと楽に考えていたものの、ちょっとこの先が心配になってきた。そんな時、左の山手側斜面にコシアブラの群落が見えた。それも良品種。上部に花が咲くような葉の着き方でなく、幹からもたくさんの葉を出している。ここまで歩いてきた人だけに与えられるご褒美として、少し拝借をする。湯がいても食べられそうな若葉であった。そしてこの場所から僅かに進むと、現在の林道終点と言っていいような広見が有り、赤いドラム缶が目立つ場所に置いてある。ここからはオンボロ沢まで100mほどの下り。林道は完全に廃道状態で、木々が生え出していた。朝であり、開花前のニリンソウが丸々とした花弁を見せてくれていた。
さあオンボロ沢。現在右岸だが、左岸側を見ると道形が見える。しかし沢を渡れる場所は見出せない。流れが強く、靴を脱いでの渡渉も簡単には出来ない場所になっていた。ここまでか・・・。しかしここで終わらせては大晟君親子の頑張りに負けてしまうことになる。是が非でも沢登りをして結果を出さないと・・・。それでも現実問題が有り、渡れなければしょうがないと判断するしかなかった。オンボロ沢の右岸側をしばらく上流に詰めてみる事にした。林道がオンボロ沢にぶつかった場所のすぐ上流には、小さいながら岩から滴り落ちる綺麗な滝がある。それを見ながら、大きな岩を乗り越えつつ上流に行く。当然、渡れそうな場所を探しながら行くのだが、100mほど登った場所に、大きな太いダケカンバが流れの上に横たわっていた。上流を見ても、ほとんど渡れそうな場所は無く、この木を頼りに対岸へ行くしか方法は無いようであった。しかしその平均台の下は白い流れがあり、木を凝視していても目が回りそうであった。枝葉が邪魔をして、ザックを引っ掛け、難儀しつつ最初を通過。さらにもう一回。今度は木が濡れている。足先に集中して、掴める枝は何でも掴む。ヅルッとやって心臓が飛び出るほど怖かったが、それでも水没せずに通過。帰りもここを通過せねばならなく、少し枝葉を整理しつつ通過してきた。
左岸側にも大岩が多く、大きいからと言ってずっしりと動かないのではなく、何トンもある石が、私が乗っただけで動く物もあった。これにはドキドキした。そして上流から先ほどの道形に乗るには、クライミング紛いに5mほど岩場を通過せねばならない所がある。もしくは2mほどの一枚岩を降りるかになるのだが、どちらもリスクが大きく、山手(東)側に駆け上がり、高巻するようにその北側で道形に乗った。廃林道の上には人間の踏み跡が続き、しっかりとした山道となっていた。それに伝って250mほど進んだか、やや大きな谷に出あう。これがイヌ沢か・・・。そこには大きな土管が3本横たわっていた。その昔は、この上を車が通ったのだろうが、今は全く無理。そしてここには右岸側に大岩があり、それが良く目立つ。沢を真北側に突き上げれば1919高点の西側で尾根に乗れる。そして途中には枝沢が多いので、選択肢はたくさんある。先の方での沢の選択は、現地で臨機応変にやることにして、とりあえずは詰めて行くことにした。やっとここから沢登りが始まる。
1600m付近から入渓した形だが、すぐに1620m付近で分岐が現れた。ここは右の沢を選ぶ。左の沢が簡単そうに見えてしまい、より厳しい場所を選んだ。進んで行く沢の様子は、摺古木山の南にある風穴山北側にある沢と酷似していた。流れが無くなったかと思ったら、また上の方で出だしたり、然したる危険は無く伝って行ける。ただ、足場を選ばないと水没してしまうので、そこらへんは要注意であった。1760m付近で今度は沢が3つに分かれていた。地形図で確認すると、一番右の沢が黒覆山に直接突き上げる沢のようだ。ここまで沢を伝ってきたら、そのまま突き上げて登頂としたい。左に2つの沢を見ながら、一番右の沢に入って行く。
だんだんと沢幅も狭まってきて、流れもいつしか止まっていた。そんな中、沢の中に人為的な切株が転がっている。足を進めると、その量がどんどん増える。その様子から察するに、間伐された物が谷の中に溜まったようであった。特に周囲に道があるわけでもなく、背丈ほどの笹を漕ぎながらの伐採だったようだ。いつしか沢の凹地が無くなり、笹漕ぎを強いらされる。毛羽立ったササの葉が、顔を撫でて痒い。沢を伝って楽をさせてもらった分、最後で我慢の時間となった。
黒覆山山頂。賑やかにも黄色や赤のリボンが見られる。一つは南の尾根に下って続くもの。もう一つは1919高点側に進むもの。ここにはリボン以外に境界標柱が埋め込まれ、この場所に似つかわしくない新しさがあった。最高点への登頂で満足であったが、僅かに東に進めば三角点がある。余力もある事から、笹を分けながら東進となる。道形なのか、少し掘れた筋が見られる。黒覆尾根の往時のルートと言う事か。現在はそこにササが生え、伝うのはちょっと難儀する。その筋を見ながら、脇のちょっと高い位置をズレて行く。
三角点峰付近に到着し、背丈ほどの笹の中を探索開始。両手両足総動員で分け入る。喉が痒くなるほどに笹埃が舞い、バリバリという音を発しながら熊の様に進む。しかし、必死で探す中で見つかったのは、櫓形状の小ぶりな人工物と、白ペンキを塗られた標柱が折れた物。いくら探しても三角点の石柱は出てこなかった。少し櫓の周囲の土を掘ってみたが、かなりフカフカ層が厚い。有っても腐葉土の下になっているようだ。見つからないので、そう思う事にした。15分ほど這いずり回ったが、やはり石は出てこなかったのだった。諦め最高点に戻って行く。ほとんど展望は無いが、西側にある南駒と仙涯嶺の山容はクッキリと見える。もうすぐ夏、ブユが出だしており、顔の周囲をブンブンと飛びまわる。これが気になら無いようになれば本物になれるのだが、私は絶対に慣れられない。地図で追い払いながら白湯を飲む。そう、この日は涼しく、暖かい物が適当なのであった。
かなり長居となったが、下山となる。沢下りでも良かったが、当初の予定通りに南の尾根を下ってみる。降りて行くと、確かに切り開いた道形があり、刃物跡が続いている。そして30mおきくらいにリボンが縛ってある。これを拾いながら進むのだが、1780m付近で、道形が判らなくなった。それまでにも自然に戻りつつある場所もちらほらとあったのだが、完全に判らなくなり、伝えなくなった。いつもの事だが、こうなると自分の好きに進めばよくなり、下りである事から自由に降りて行く。あまり下り過ぎてはいけないので、南進してきた方向を西進に変える。登りには使えないようなササの繁茂する斜面を、それらを掴みながらバリバリと下る。目立つのは金色色。この辺りは笹枯れが多いのであった。
斜面を下りながら、廃林道の道形が見えたときには流石にホッとした。道形に降り立ち、下ってきた斜面を見上げても、到底登ろうと思えるような場所ではなかった。尾根で道形を見失った場所は、いきなりだった。振り向いてもそこまで刃物跡が見えていたし、もう少しゆっくりと構えて探せばよかったか・・・。尾根に道が開かれた以降、刃物が入れられていない事になる。そして、あと数年で元に戻ってしまうだろう。道形に乗ってオンボロ沢側へ進んで行く。ルート上にはヨブスマソウやリョウブ、タラノキなどもあり、山菜に事欠かない。イヌ沢の一つ東の沢は、道形が流れているが、広い視野で進むと執るべき方向が見えてくる。そしてイヌ沢の土管の所まで戻る。ここは独特の雰囲気のある場所で、沢の畔に腰を降ろし、ぼんやりと流れや木々を眺めるのには適当な場所。でも、この先のオンボロ沢の渡渉が待っているので、私の場合はそんな余裕は無いのであった。
オンボロ沢に戻る。直線的に、濡れてもいいから突っ切ってみようかと思ったが、水流に負けて流されそうでもあった。高嵐山の時の高瀬川が思いこされ、今後の渡渉点では、毎回トラウマとなって思い起こされるだろう。やはり往路の木を使おう。往路は高巻をしたが、帰りは岩場をへつって登ってゆく。そこにはかなり太いバン線があった。もしかしたら、このバン線は対岸同士を結んでいた線かもしれない。大岩を乗り越えながら、ダケカンバの場所へ進む。往路に枝を整理しておいたので、幾分通過しやすい。右岸に移り、小滝の場所まで下って、しばし休憩。もう藪漕ぎは無いのでスパッツも不要。ザックに結わえる。見上げる中央アルプスの主稜線には、白いガスが纏わり着いていた。今日は上の方に居る人は、展望は散々だろう。遊び場をこの標高にして正解であった。林道跡に乗り、登り返して行くと、往路で蕾だったニリンソウが、一斉に咲き誇っていた。あとは林道に伝って戻るだけ。
ちょっと困ったのが、小麦沢を越えた辺りで、サルの集団の中に入ってしまった。熊やイノシシは怖いと思わないのだが、サルだけは、少し怖いと思っている。動作を良く見ながら、山側と谷側に居るサルの動向に目を配る。私を察知して、一気に逃げてくれれば安心なのだが、少し逃げて、姿が見える状態でこちらを射抜くように見ている。あまり気が進まないが、落ちていた棒を持ってしまった。持ったからとて振り回すわけではないが、もしもの自衛の為。白山山系で群れの中に入ってしまい、周囲の手の届くような距離を猿が無秩序に走り回っていた時は、こんな恐ろしい事は無かった。これも先ほどの高瀬川のトラウマと似ている部分。足早に、それで居て刺激しないように自然に通過。見えていただけで20頭くらいだから、倍くらい居ただろうか。
中小川登山口まで戻り、あともう少し。与田切川橋を渡り、中小川避難小屋を過ぎ、ちょっと寄り道とシオジ平自然園の中に入る。ジメジメとした場所で、足を置く歩道は滑りやすかったり、ぬかるんでいる所が多い。それでも、吊橋の上に乗ると、そこから見える渓谷美に感嘆。全身にマイナスイオンを感じるような、そんな場所であった。左岸に移り、少し上流側に行くと東屋がある。ここから上流にある剣吊淵滝が見える。滝つぼに落ちるその水量たるや、迫力のあるすばらしい滝であった。周囲ではミツバツツジの紫色も見える。新緑と、滝の白さと、流れの青と、そして紫と、これだけの物を見させてもらえば、視力が良くなっても良さそうなのだが・・・それを上回るパソコン使用率・・・トホホ。滝見をしたら、往路を戻る。木々解説の標識もあり、好きな人には園内は勉強になる。夏の暑い時期には、最高に気持ちがいいだろう。
林道に戻り、この周辺にはウワバミソウがたくさん生えている。ちょっと拝借し、ボリボリ齧る。さらに進むと、採られずにウドが何本も残っている。釣り人の入渓も多いようだが、山菜は眼中に無いのか・・・。育ちのいい一本拝借し、皮を剥いてボリボリと戴く。程よい苦味と新鮮な甘さと、これが春の味。採った物は全て使うのが礼儀、葉はコシアブラと一緒にてんぷらになるべくビニール袋に入れる。途中、一人の釣り師が登ってきた。そして明るく挨拶を交わしてくれる。山屋も同じなのだが、メジャーな場所より、このようなマイナーな場所で遊ぶ人の方が礼儀正しかったりするように思う。
通行止のゲートの所には1台追加され、これが先ほど逢った人の車だろう。先に入っている人は、まだ流れの中に釣り糸を垂れているようだ。私も山登りをしながらの釣りにも興味があるが、留まる事が苦手であり、趣味に出来るかどうか・・・。そして駐車余地に行くと、ここにも1台増えていた。でもこれはこの上の施設関係者の車らしい。上から二人の声がしてきていた。何の研究なのか。高知大学が、わざわざ長野で・・・。
考察。少しややこしそうな場所に思えていたが、意外に楽に踏んで来れた。一番のネックは、オンボロ沢の渡渉となるだろう。雪融け期と夏以降の降雨期を除けば、石伝いに渡れそうにも見えたが、今は幸いにもダケカンバの倒木がある。あの木が大水で流されないうちに利用するのも、一つの手かもしれない。私の伝った沢(イヌ沢から先)は、危ない場所は無く、上の笹漕ぎにしてもそんなに長時間は続かないので使いやすいかもしれない。ただし下りは、足場が緩いので要注意となる。
家路に向かっていると、フロントガラスには大きな雨粒が当り出し、途中で本降りとなった。いいタイミングで登ってこれたようだった。