中崎山 1744m 奥丸山 2439.5m
2010.10.11(月)
晴れ 同行者あり 中崎尾根を登って右俣を下る 行動時間:11H29M
@深山荘前市営無料駐車場6:14→(24M)→A中崎山登山口6:38→(93M)→B1650高点8:11〜25→(41M)→C中崎山9:06〜21→(32M)→D地図に無い右俣への下降点分岐9:53→(23M)→E1816高点10:16〜18→(78M)→F左俣への下降点分岐11:36→(54M)→G奥丸山12:30〜13:27→(10M)→H槍平への下降点分岐13:37→(35M)→I槍平小屋14:12〜14→(42M)→J滝谷14:56→(61M)→K白出沢15:57〜16:07 →(40M)→L穂高平16:47→(31M)→M小鍋平17:18→(25M)→N駐車場17:43
@市営無料駐車場は満車。 | 左俣側に少し進む。 | ここを入って行く。 | A中崎山登山口。 |
A対岸はロープウェーの駐車場。 | 急斜面に九十九折の道。 | 大岩があったり。 | 途中で進路が変わる場所。 |
大岩の脇を通過。 | 木の下を潜ったり。 | B1650高点 | B1650高点東側の大木。 |
笠見平のなだらか地形に足を踏み入れてゆく。 | 木で出来た梯子場が続く。よく滑る。 | 途中のタイガーロープ。奥丸山側から来た場合のルートミス防止用。 | ガスがだんだんと取れてきている。 |
カエルと遊んだり・・・。 | C中崎山。山名標識は無い。 | CKUMOが縛られていた。 | C東に切り開きを進むと三等点が鎮座。 |
C三角点から見る縦走路側。 | C久しぶりにヤキソバパン。 | 中崎山から先は、しばらくたおやか。 | ガスがとれた抜戸岳側。 |
D地形図やエアリアにも載っていない右俣への下降点。道はしっかりしている。 | 紅葉の中の尾根道。 | E1816高点。東に展望場あり。 | E1816高点から涸沢・北穂側。 |
E1816高点から南岳側。 | 1850m付近から涸沢岳西尾根側。 | だんだんと急登になってくる。遅れずに付いて来るエンジェル。 | 途中から抜戸岳側。 |
2000m付近の紅葉。 | 途中からバッチリと槍が見える。 | F左俣への下降点分岐。 | F「悪路」を歩いてきた模様。悪路にしては気持ちよかった。 |
葉が焼けておらず発色がいい。 | 南岳側。 | キレット最低鞍部から奥丸山側。 | キレットから中崎山側。急登箇所にロープが流してある。 |
もうすぐ奥丸山。またガスがかかり始め・・・。 | G奥丸山到着。 | G奥丸山三等点。 | G奥丸山から大喰岳側。 |
凍らせて持ち上げてきたビールがちょうど良く融け・・・。 | 乾杯!! | Gまだ新しい標柱。 | G奥穂側にはガスが巻きだし、見えたり見えなかったり。 |
G槍もガスに・・・。でもヒマラヤに居るような景色。 | G下降開始。 | H槍平への下降点分岐。 | 山道が終わり沢の中に入る。 |
沢の中から見る山道の最初。 | 右俣谷を渡渉。 | I槍平小屋で僅かに休憩。 | 飛騨沢の紅葉の様子。トラバース道。 |
J滝谷通過。雨の影響はまったく無いようであった。 | J滝谷避難小屋内部。 | K白出沢は、上流で工事中。重機が入り、少し様子が変わっていた。 | K左岸側は上流に行く作業道がつけられていた。 |
L穂高平は、もう営業終了のよう。 | M小鍋平ゲート | 作業車の通過が多いようで、途中に登山者用の歩道が設置されている。 | N駐車場に戻る。 |
8日(金曜日)の14時過ぎ、エンジェル(金沢市:女性)から一通のメールが入った。その内容は「私をスキーに連れてって」いや違う、「私を山に連れてって」と言うものだった。頭の中に松任谷由実さんの♪「BLIZZARD」が流れる。職場の仲間との山行が雨天予報により流れ、雨でも歩く私を思い出したようであった(かどうか)。予定日は11日の月曜日。特に予定を入れてなかったので二つ返事で引き受ける。それより何より、まだ明日の行き先も決めていなかった。生憎の雨でスタートする三連休、“家に帰ってから探せばいいや”と、金曜日の午後になってものんびりしていた。そこにこの一報だった。
すぐさま頭の中の地図をあっちこっちと入れ替え差し替え、適当な場所を探す。そう就労時間に仕事はせず・・・。予報では土日の豪雨、下手をすると高い場所は雪。最低でも雨の後の登路。エンジェルがまだ初心者レベルと言う事もあり、歩き易そうな場所をピックアップする。一方で日々かなり鍛錬をしている様子で、力試し的にも感じていた。その事も踏まえて、状況によって距離を延ばせる場所を三箇所選び出し投げ掛ける。そして決まった場所は、新穂高の中崎山。ちょっとマイナーピークであるが、東に穂高の主稜線、西には笠ヶ岳から弓折岳側に続く稜線。展望に関しては文句なし。そして状況によって奥丸山まで足が伸ばせる。エンジェルは北アをまだ一度も歩いた事が無い。初「北アルプス」を最高の味付けで楽しんでもらいたいとの思いもあった。心配なのは天気。土日はかなり荒れ模様の様子。決行する月曜日は好天予報であるが、あくまでも予報、そして3日後の話。最終連絡を金曜日の深夜に終え、各々土日を過ごし、月曜日を迎える。
1:07家を出る。久しぶりの月曜日走行。まったくもってスイスイ走る。さらには珍しく眠気も催さない。思いもよらぬ快適過ぎる経路で4:05に現地新穂高に到着した。いつもなら3.5時間を要しているところを、今日は3時間。もしかしたらレコードタイムかも。しかし喜んでばかりは居られない。深山荘前市営駐車場では、残りスペース4台と告げられ何とか滑り込むが、エンジェルの車を停めるスペースの保証は無い。携帯で現状を告げ、有料駐車場を含めて状況によっての駐車場所を指示する。東海北陸道が延びたので北陸から新穂高までのアプローチも良くなった。41号線をヘコヘコ走らずとも良い訳で、金沢から経路は2.5時間ほどのよう。そうこうしていると彼女も到着した。左俣の有料駐車場を指示したのだが、初めての北アで判らないのも当然。暗い中で迷っているようであった。こんな場合も携帯で連絡がとれるので昔と違う。便利便利。そんな連絡をしながら無料駐車場に居ると、不思議にも出て行く人が居る。そっか、前夜に山を降りてここで車中泊している人も居るのだろう。ポツ、ポツと空が出来た。このタイミングを逃してはいけない。交通整理をする警備員の場所まで戻り「すぐ戻りますので、2台分確保お願いできますか」と聞くと、「出来ません。到着した順番に入れます。それなら携帯で電話して呼んだ方がいいです」と到着者に公平な判断をしていた。ごもっとも。すぐさま連絡し、無料駐車場に呼び寄せる。そして何とか2台分を無料に入れる。この無料に入れられるか有料になるかでは、山行の満足度が違うのである。やはり穂高は、ここからスタートしないと気がすまないのであった。
エンジェルの顔を見て一安心。車に戻ろうとすると、なんとそこに「チョモランマ号」が見えた。そしてその前に黄色い自転車が置かれ、さらにその前で靴の調整をしている御仁が居られた。間違いなくスーパードクター氏である。まさかこんな場所で、こんな時間(まあ時間はアリか)に逢えるとは思わなかった。声を掛けると、今日は北穂を目指すと言う。“うわっ滝谷か・・・”言葉にこそ出さないが、行動する場所の違いに驚愕。既に集中を高めているだろう、もう少し話をしたかったが、グッと我慢して車に戻る。日本に数えられるほどしか居ないセブンサミッターに逢え、かなり舞い上がる。こちらの予定は6時半スタートであったので、残り1.5時間ほど時間がある。本を読みながら時間を潰す。周囲のハイカーはヘッドライトでどんどんスタートしている。しかし天気予報通りに雨が落ちてきていた。外気温はそう低くなく、逆にこの場所にしては暖かいくらい。雨具の方々が蒸し暑そうにも見えていた。ボンネットや天井に雨音が響く。エンジェルの初の北アルプス。他の日はいいが、“今日は晴れてくれ”と願うばかりであった。
6時、予定上の集合時間。既に夜も明けており明るくなった。当初は6時30発の予定であったが、15分切り上げての出発とし準備をする。目指す中先尾根は、この駐車場からも見えており、クラーク博士のように指をさしてエンジェルに示す。ただし、周囲は濃いガスが垂れ込めていた。どうなる今日の天気・・・。
駐車場をスタートし、ロータリーの所に出て湧き水を汲む。水を汲める場所を教えておくのも大事な部分。登山指導所の所では、多くのハイカーが入山届けを出していた。「あーやって書くのです」と、その様子を見ながら通過(オイオイ)。左俣の方へ進んで行くと、ゾロゾロと前後にハイカーが見える。今日はどれだけの入山者なのだろうか・・・。山を模った欄干の橋を渡り、その先の治山事務所東側にゲートがある。その脇から入って行くと、右下からの道も合流する。って事は、手前にあった道を入っても良かった訳であった。対岸にはロープウエー駅舎上の有料駐車場があり、そこも既に9割ほど埋まっていた。山の斜面に気を使いながら登山口を探しながら行く。お目当てのそれがなかなか出てこないので、見逃したのではないかと不安にもなる。そしてゲートから120mほど進んだ辺りに、大きな登山口標識が立っていた。これだけ大きければ見逃すことは無い。
登山口からは、急斜面に切られた九十九折が続く。苔生した雰囲気が、なんともいい感じ。少し肺が痛むが、今日は、いや今日も弱音は吐かない。登山道は明瞭とは言い難いが、それなりに続いている。冬季利用者の為か、踏み跡が散見出来る斜面もある。あと斜面全体を見て行くと、リボンが見える。さらには黄色い道標も距離を示して付けられており、それらが安心材料になっていた。雨は上がったが、落ち葉とコケで滑りやすい登路となっていた。ガツガツ行かず今日は安全第一、ゆっくりと高度を上げてゆく。
なにか予想外にも東にトラバースが長い。いつになったら上に突き上げて行くのかと、ちょっと進路に不安が募る。そうこうしていると大岩が左に現れ、そこから10分ほどで分岐道標がある。真っ直ぐそのまま東に進む道もあるのだが、北に進む道に入って行く。これで少し目指す山に対し、方向が正しくなった感じ。そして1650高点が近づくと、大岩が点在し、さらには木の梯子が多く見られた。この梯子が良く滑る。朽ちて苔むしたものも多く、その下には岩穴があったりする。後から来るエンジェルはそんな場所を慣れない足取りで通過してきていた。
1650高点。大きな目立つ杉の木があり、その前で休憩。我が家で出来た葡萄を持ち上げてきたので、その甘い果肉をほうばりながら息を整える。ここまで上がれば、急登は終了。あとは笠見平のなだらか地形。その平らさ(広さ)による不明瞭な場所もあるのだが、周囲をじっくり見回すと、踏み跡は見えてくる。こちらも少し梯子場が連続し、その先に一箇所タイガーロープが流してある場所があった。最初は“何のために・・・”と思ったが、進路が西にガクッと曲がったので理解できた。奥丸山側から進んできた場合の道案内なのであった。無ければそのまま東側に進んでしまいそうな場所なのであった。周囲のガスの中に朝日の光線が見えるようになる。天気は回復傾向。当然気分も良くなる。そして9時頃になると、あれほどあったガスが何処に行ったのかと思うくらいに周囲から見えなくなり、青い空にクッキリとした稜線が東西に見えるようになってきた。「うわっ!」と二人して感嘆の声を上げる。周囲の濡れた木々の発色もよく、それこそ何処を見てもクッキリ・スッキリの絵面であった。こうなるとカメラの出番が多くなる。
中崎山到着。「新穂高4Km」と書かれた黄色い道標が落ちており、その後の太い木にKUMOが縛られていた。これ以外に山名を記す道標は無く、この部分でもマイナーピークを感じるのであった。縦走路から逸れて南に切り開きを進むと、そこには三等点が鎮座していた。空を見ると、青い空にダケカンバの葉が黄色く色づき始めている。いい感じ。日差しも暖かく入り、樹林帯ではあるが閉鎖感は無く居心地もいい。経路ちょうど3時間。時計は9時だった。「どうする?」。エンジェルの返答は、「私一人だったら進みます」。“くーっ、カッコいい”望むところだが、とりあえず地図よりコースタイムを足し算して、日没に対しての下山予想時刻を算出。“18時には戻れるか・・・”。あと肺の調子とも少し相談だが、痛さを押さえつけるようなこの景色。ここで進まねば男が廃る。
縦走路に戻り奥丸山に向けて出発する。しばらく下降して行くのだが、この辺りの気持ち良さと言ったら・・・。この場所にしてハイキング道と言って良いほどに歩きやすく快適。木々の間からは時折左右の山々か顔を覗かせる。エンジェルとの会話も弾み、これぞ山歩き。一人の時も楽しいが、今日の楽しさはまた別の楽しさ。1670高点を過ぎ、その先しばらくで、朽ちた分岐道標が立っている。そこから右俣に向けて、明瞭な道形が降りている。エスケープルートなのだろうが、何処に出るのだろうか。でも、降りたはいいが、あの太い流れを渡れるのだろうか。地図に無いこういう道が非常に気になる。だんだんと高度を上げるに従い、木々の色づきも良くなってきている。これだけ高温だったこの夏、紅葉時の枯葉の多さと、夏場の暑さとは関係しないのか。日差しが色づいた紅葉越しに降りそぞぎ、歩いている二人にその色付きを映しこんでいるようでもあった。
1816高点到着。東にズレると、大木を巻いたロータリーのようになった切り開きがあり、そこが展望場となっていた。着いた途端に感嘆の声が・・・「スゲー」。声に出したそのままのすごい景色。槍から西穂までがバッチリ見える。そして稜線を歩いている人が見えるほどに近い。エンジェルにとっては初めて見る景色、完全に魅了されているようであり嬉しそうにシャッターを切っていた。こうなると中崎山で終わらずに、進んでよかった。展望の尾根とは聞いていたが、これほどまでに楽しませてもらえるとは・・・。そして十分景色を楽しんでから再び縦走路に足を乗せてゆく。この高点から先も、尾根上には空間が多く、左右の景色が楽しめる。地形図を見ると、もうしばらくしたら急登が始まる。ギヤを入れ替える準備をしながら色づいた尾根の中を行く。
1942高点を超えて急登が始まる。滑りやすい斜面にビブラムソールを食いつかせて登って行く。そこではエンジェルの足が止まるのだが、見て見ぬフリをして少し前に進む。それでも負けじと登ってくる根性。前を向く私に笑みがこぼれる。それはそうと、今日は全くの無風。静止画の中を歩いているような感じでもあった。分岐点はまだかまだかと思い行くが、なかなか届かない。そして2100m付近。この辺りがこの日一番の紅葉地点であった。疲れが吹き飛ぶような色彩であり、「秋、ここにあり」ってな感じ。一昨日の谷川では全くカメラの出番が無かったが、今日はカメラを仕舞っている時間の方が短いくらい。
左俣への下降点到着。そこにある標柱には、今歩いてきた側を「悪路」と表記してあった。確かに云わんとしている部分は判るが、悪魔に対して小悪魔がいるように、ここも「小悪路」と表記してもいいような・・・。記念撮影をしながら、中島みゆきさんの「悪女」を謡いそうに・・・。♪「悪路になるなら月夜はお止しよ・・・」。脱線が過ぎた。さあもう少し、ここには奥丸山まで1時間の標識も揚がっている。完全に射程圏内に入り、急登も終えたことで少し気持ちが楽になる。時計を見ながら、エンジェルの足取りを見ながら歩調調整。2355高点に向けて、ササ尾根に切られた登山道を突き進む。周辺はことに黄色の紅葉が綺麗。逆に赤色があまり無く、ここらへんは植生と土壌に寄るのだろう。あとは木々の持つ糖分量からこれらの発色が違ってくるそうだ。途中、二人のハイカーがすれ違う。
2355高点に上がると、その北側のキレット最低鞍部を挟んで、南北の尾根にザイルが流してあるのが見える。ザイルに掴まりながら下り、その最低鞍部から奥丸沢を見下ろし、そのまま弓折岳側に視線を上げてゆく。深い谷と高い山。全てが美しい。もう目の前に奥丸山がある。手前100mほどで、エンジェルに前を譲り最後の登り。生憎、再びガスが巻きだしたのが残念だが、無事ここまで届いた事が嬉しい。そしてエンジェルから「山頂に着きました」と声が・・・。
奥丸山登頂。前回が2000年8月の訪頂だから、10年ぶりになる。綺麗な標柱が建てられ、その脇の見覚えのある位置に三角点が待っていた。いつもなら自分の登頂を褒めるのだが、今日の主役はエンジェル。よく足を揃えて歩いてきている。よほどの頑張りやであり、その根性には素質を感じる。持ち上げたビールがまだしっかり冷たく、プルタブを起こすとプシュッと言う音と共に泡が吹きこぼれる。小さく乾杯をして一気に流し込む。視線の先には大展望があり、美味さ倍増。笠ヶ岳の方は完全にガスに覆われたが、一方で東の稜線はまだまだ見えていた。この尾根の良さはこの部分だろう。一方がダメなら一方が・・・両方が見えれば最高だが、それは欲張り・・・。でもでも経路でアレだけの景色を見させてもらえれば、ここでのこの状況には文句は無かった。そうこうしていると、左俣から上がってきたという単独者が到着した。かなり軽装で、風貌からしてかなりの猛者の様子。全く写真も撮る事無く山を楽しんでいる。これもいい。ビールを二本空け、コーヒーを飲んだところで下山に入る。
時計は13時半になる。日没を思うと、ちょっと長居になったか・・・。先ほどの単独ハイカーを追うように降りて行く。時間差としては3分ほどだったが、全くその後姿は見えない。やはり猛者、天狗のように飛びながら降りて行ったのだろう。歩き易い尾根道であるが、時折エンジェルが足を引っ掛けている。当然のように疲労が溜まってきているのだろう。「頑張れ!」。登山道が沢のガレた中となり、もうすぐ槍平。その前に軽く渡渉があり、ケルンに導かれ流れを渡る。そしてテン場を経て槍平小屋に到着。以前あった水場はトイレ側に移され、登山道から逸れないと利用できないようになっていた。昔の場所の方が利用するには楽であり嬉しかったのだが・・・。小屋の前には槍の帰りなのだろうパーティーが休んでいる。槍を踏めた満足感からか、かなり堂々としている風が面白い。その気持ち、よく判る。
さあ一級の登山道に乗った。安心して足を進めてゆく。飛騨沢の紅葉はこれから。色づき始めた中をゆっくりと下って行く。右に先ほどまで伝っていた奥丸山を仰ぎ見る。すぐに稜線に居た時の景色が脳裏に甦る。少し雨が降ったのか、濡れている所も多い。ゆっくり、そしてゆっくりと・・・。藤木さんのレリーフを左に見て、懸案だった滝谷の通過。雨の影響は全く無く、角材を合わせた橋で対岸へ。ここでの水量は少なく、これなら白出沢も大丈夫と思えた。そろそろ日没の時間を気にしなくてはならなくなっていた。林道まで出てしまえば暗くなっても安心だが、なるべくなら日のあるうちに駐車場に降り立ちたい。気持ち足早に進んで行く。すると、外国からの男女のパーテーがすれ違う。今日は槍平が宿なのか。日本人ではこの時季ありえない、半袖半ズボン姿で楽しそうに登られていた。自然を体感するには、より薄着がいいのだろうが、さすがに真似は出来ない。そして蒲田富士への踏み痕を左に見ると、その先が白出沢。沢の音は全くせず、その代わりに重機の音がしていた。様相が一変してしまったのだが、左岸側に作業道が付けられ、上流では堰堤工事をしているようであった。工事完成により、ここが通年渡れるようになれば嬉しい。ただ、ここまでは林道が来ているのでいいが、先ほどの滝谷となると無理だろう。仮にここが増水時に渡れても向こうが・・・とは言え、増水時の心配箇所は半分に減るなら、それも価値がある。エキスパンドメタルの張られた鉄橋を渡って左岸に移る。そして小休止を入れて林道に足を乗せてゆく。
時計を見ると、16時を回っている。これで行くと日没ギリギリに到着のようだ。エンジェルには少し頑張ってもらう事になるが、スピードを緩めずに下って行く。これまでは前後に並んでいたが、道幅もあり横並び。話しながら下るには好都合であった。先ほどの白出沢の工事関係だろう、途中途中にハイカー用に登路が仮設されていた。それほどに作業車が通り、登山者が邪魔になるのだろう。小鍋谷のゲートを右から越えて、もうひと頑張りで新穂高。進行方向右手には、今日登った中崎山の斜面がある。“あんな傾斜の場所を登っていたのか”と見ているだけで脹脛が張るような傾斜だった。そして駐車場が前に見えてくる。そこにはロープウエーから戻る観光客の姿があり、その人の多さから山から下界に降りてきた感じが強くするのだった。
登山指導所の前で、「できたら、下山届をここで出すのですよ」と、さもやった事があるように説明し、言っている自分に恥ずかしくなる。じつは一度も出したことは無い・・・。ロータリーでは、徴収員がブースを閉じる時間帯であった。辺りは暗くなり、最後の最後でマグライトを点灯し、駐車場へ向かう。その駐車場は、三連休最終日でもありガラガラになっていると思ったが、意外や50パーセントほど残っていた。その中にはまだチョモランマ号もあり、その様子からスーパードクターの激しい行動も想像できた。白出沢で氏の自転車を探したが見当たらなかった。それで先に降りたのかと判断したが、自転車を見えるところには置かないはずであり、私の思考も甘い。後で知るのだが、私の到着30分後くらいに、氏も駐車場に戻った様子であった。僅かな時間差で、もう一度逢えた事になるが・・・。
振り返る。すばらしい展望尾根であった。ここでの適季がいつなのかは判らないが、この日の展望を拝ませてもらい、個人的にはこの日を最高の適期(日)としたい。私がこれほどに感動したのだから、初めてのエンジェルにとっては、初北アは「衝撃」だったかも。