奥三方岳 2150m
2010.03.27(土)
晴れ 単独 弓ヶ洞谷より 行動時間13H10M
@林道入口5:52→(76M)→A右俣・左俣の出合7:08→(186M)→B稜線のコル10:14〜18→(117M)→C三方崩山北側肩12:15→(22M)→D最低鞍部12:37→(78M)→E奥三方岳13:55〜14:13→(47M)→F最低鞍部15:00→(29M)→G三方崩山北側肩帰り15:29→(59M)→H稜線コル帰り16:28〜41→(89M)→I右俣・左俣の出合帰り18:10→(52M)→J林道入口駐車スペース19:02
@林道入口。車道向側に駐車スペースあり。 | 林道に入ってすぐの様子。 | 鉄塔手前で雪が切れていた(ここのみ)。 | 標高880m付近。稜線が焼けだしてきた。 |
900m付近から。稜線が綺麗。 | 900m付近から後。 | 980m付近。出合が近い。 | 990m付近。堰堤を左岸側から高巻きし、中洲側にスノーブリッジで進む。 |
A右俣・左俣の出合から右俣を望む。核心部の滝は、写真中央やや上に。 | これが滝。左岸側を高巻きで越える。ちょっとだけ怖い。 | 滝の前から振り返る。クネクネとしたトレールが続く。 | 滝の高巻き途中から。 |
滝を巻き終えて、その先にも口を空けている場所があり、こちらは痩せたスノーブリッジを伝う。 | 1090m付近 | 1330m付近 | 1330m付近から振り返る。 |
1550m付近。まだコルは遠い。 | 途中の大きな雪崩痕。 | 1800m付近。もうすぐ。 | 1800m付近から振り返る。 |
B稜線のコルに乗る。 | Bコルから奥三方岳。 | Bコルから猿ヶ馬場山側。 | 1900m付近から奥三方岳。 |
1929高点に向けて登って行く。 | 1930m付近のコルから飛騨側。 | 1970m付近からのうねる雪庇尾根。 | 左俣を見下ろす。 |
2010m付近トラバース。 | C2020m付近。もう三方崩山は目の前。 | 2020m付近から御母衣湖側。 | トラバース途中、1970m付近から奥三方岳。 |
D最低鞍部からの奥三方側のテカテカアイスバーン。 | 薄く雪が乗るが、すぐ下はガチガチ。 | 2030m付近から。 | 尾根上から南側の谷。 |
2080m付近。 | 2120峰から先。 | 奥三方岳を目の前にして南にずれて、写真の左側の尾根を登る。見える尾根斜面に雪洞が一つあった。 | 山頂大地にある大きな雪洞。かなり深いので落ちないように注意。 |
E奥三方岳山頂部。 | E今日はフリーランドーで上がってきた。 | E綺麗な標識。 | E白山側は生憎の展望。 |
E山頂から北東側。 | E山頂から南。 | E山頂から北側。 | F最低鞍部から三方崩山側の斜面。 |
G三方崩山北側の肩から見る三方崩。 | 2020m付近から、先ほど居た奥三方岳を望む。 | 2020m付近から下山側。 | Hコルに到着。弓ヶ洞谷を見下ろす。 |
1310m付近から下の斜面。 | 1310m付近から滑り降りてきた斜面。 | I滝を無事通過し、右俣・左俣の出合から右岸を滑り降りる。 | J駐車スペース前に戻る。「トヨタ白川郷自然学校」の案内標識が上に見える。 |
この日は、我が師匠率いる福井の猛者パーティーと合流して山を目指す日であった。しかしどうも天気予報が危うい。そして決行前日、師匠から中止の連絡が届いた。致し方ない状況でもあった。
目的地は、白山の東にある三方崩山と奥三方岳であった。今回このエリアの天気予報を読むに際し、岐阜・福井・石川・富山の四県の、5市町村の天気予報を覗いていた。しかし一郡一村の白川村を除いては、他の周辺地域は合併範囲が広すぎて、どうにも信用がならない。そして天気予報サイトの多くが、土曜日の悪天予報を出している。ここで衛星画像で雲の様子を見て、天気図を確認する。雪をもたらしていた西高東低状態から変わり、等圧線が緩み高気圧が張り出してきていた。これだと私の読みは晴れであった。全ての予報サイトに反旗を翻して、予定通り決行することに決めた。
もし師匠との予定が決行であれば、三方崩山のメインルートを辿る予定であった。用意周到な事に、22日に師匠が現地の下見をしてくださり、いろいろあるアプローチコースの中でも最良との判断をされていた。しかし単独になった今、そこに拘る必要も無くなった。伝ってみたいのは弓ヶ洞谷。広大な大斜面を滑ってみたいと言うのが一番の部分。さらに間名古谷を伝っても面白そうだ。ただここは、ゴールデンウィーク近くの白水湖への除雪が進んだ頃が適期だろう。週中の雪を思うと、やはりスキーで上がらないと奥三方までは到達できず、そうなるともう弓ヶ洞谷を伝うしか選択肢は残らなかった。
ちと序章が長いが、もう少しお付き合い。三方崩山は1997年の7月に一度あがっている。当然のように奥三方岳を狙ったが、濃い笹薮に50mほど進んで不甲斐なく撤退している。この時、無積雪期での登頂はまず無理のような印象であった。しかし足の下には少しだけ薄っすらとした道形があった。これに関した情報として、三方崩山から奥三方岳までルートをつける話が耳に入っていた。山の帰り道に三方崩へのルートを開削した、上平村の御仁のおみやげ物屋さんに立ち寄った。しかしもうこの先の作道はしないとの事であった。やはり狙うには残雪期しかなくなったのだった。
気になりつつも十年以上が経過していた。WEB上では、けっこうに敗退も多い。そして踏んでいるのは、残雪期でも良く締まった時期。早くても遅くても難儀するようだ。これとは別にスキーハイカーも数多く踏んでいる。その中に金沢・高山の両スーパードクターも居り、驚くほどの速さで到達している。的確なルート説明をフムフムと読み取る。そして最後に、「道の駅 飛騨白山」にある「しらみずの湯」に電話する。水曜日くらいからの積算積雪量を問い合わせると、「降っているけど道には雪はないです」と返事が来る。まあこれが普通の答えだろう。山に登りに行くとは言ってないのだから。「いや、降っているので積雪量は・・・」と言うと、「道路脇だけです」。「いやいやそうじゃなく、三方崩に上がってから、そちらを利用したいのです」と言うと「あぁ」と、「こんな時期に入るのかい」と言うような薄ら笑いが聞こえていた。そして「山の方は判りませんね〜」と返事が。「えっ、そんな山が近いのに」。やはり近くに山があっても興味がない人にとってはこんなもんだろう。しょうがないので選択肢を与えて答えを待つ。「およそ10センチ、もしくは20センチほど降りましたか」の問いに「あぁそのくらいです」と返事があり、これでおおよその上での積雪量が把握出来た。数人で入るならまだしも、かなり難儀する行軍になることが予想できた。悪天予報に加え、ダブルパンチだが、考え方を変えればパウダースノーを戴ける。もう迷う事無く決行だった。
前夜22:25に出発し、すぐに上信越道に乗る。いつもと行動時間が少しだけ違うのだが、驚くほど交通量が多い。“そうか、巷は春休みか”そう思うと納得できた。それから景気が回復傾向にあるのか、トラックの台数も多い。雨は次第に雪となり、妙高通過は怖いほどの濃霧と降雪の中での走行となっていた。途中から先導する塩カル散布車のスピードが、至極安心感があり、それに倣う。北陸道に入ると相変わらずのスキスキ状態。少し腹が空いたので不動寺SAでブリ丼を詰める。じつは、水曜日と木曜日が飲み会続きで少し食べ過ぎであった。これがあり金曜日は絶食をしていた。流石に何も食べずに山に入るのは酷と、エネルギー源を詰め込んだのだった。小矢部からの片側交互通行は、やはり怖い。狭く事故が多いのが頷ける。そして白川郷で「1000円」の表示を見てゲートを越えると、なんとも幸せな気分になる。400キロ近い道程が通行料1000円で行動できた訳である。まともに取られたら8千円オーバーの距離である。
156号に乗り、周辺で唯一のコンビニのある鳩ヶ谷で食材を仕入れ、南下して現地へ向かう。路面はかなりツルツル状態で外気温はマイナス4度を示していた。カーナビを見ながら弓ヶ洞谷の場所を探る。谷の場所と言うよりその前後にあると思われる林道の場所を探していたのだが、それらしい林道(左岸側)は、入口付近から雪に覆われ全く入ることが出来ない。多くの人が「800m付近まで入れた」とか報告が上がっているのに、現在は最初から登り上げねばならないようだ。谷の右岸側にも入口がチェーンゲートされた道があったが、どうも林道のように見えず、こちらは選択肢から外した。よって先ほどの場所に戻る。その場所の脇には「トヨタ白川郷自然学校↑」の標識があり、道を挟んだ東側に産廃施設への広い道があり、そこに今回は置かせて頂く(3:30)。林道歩きなので、すぐにスタートしても良かったが、スキーヤーの早い登頂記録が頭にあり、この時は楽に考えていた。“同じほどで行けるだろう”この楽な思いが、あとあと自分を苦しめる事となった。しばし後に移動し仮眠に入る。しかし夜間に通過するのは大型トラックばかり、脇を通過する都度聞こえる轟音に、寝ているような寝てないような・・・。
5:52林道入り口から入山する。ここでの積雪量は15センチ程度。新雪と言うよりは根雪のような堅さ。表層にうっすらと綿雪のような新雪が乗る。外気温は冷たく、体にエンジンがかかるまでが辛い。しばらく道なりに進むと、最初の大きな堰堤を左に見て右にカーブし、送電線鉄塔に向かって突き上げて行く。目の前を見て、「ハッ」と思った。その先の林道上には雪が無いのであった。瞬時に除雪をここからしたのかと思った。入り口だけ塞いで、外部からの侵入を防いで作業する方法があり、ここもその類なのかと思った。やむなく板を担いで上がり出すと、その次のターンで雪はつながった。どうやら南斜面の地形的な関係だったようだ。早合点の勇み足と言ったところ。この後は途切れる事は皆無。途中に分岐する場所もちらほらとあるが、およそ本道の見分けはつき、間違える事は無い。大きなつづら折りをする場所などは、場所を選べばショートカットも容易な場所もあった。
林道の道形を辿り880m付近まで上がってくると、谷の先に白い稜線が見える。これが三方崩山から北に派生する今日伝う稜線である。既に朝日に焼けだして綺麗なモルゲンローとになっている。やはり天気の読みは当たった。その白い稜線の上は雲ひとつない青空が広がっていた。道形は途中で有耶無耶になり、左に弓ヶ洞谷の流れを見降ろしながら適当に左岸を伝ってゆく。対岸の右岸を見ると、左岸よりはるかに広い平らな地形が見える。向こうに渡った方がいいのかと見ていたが、そことの間にある流れは、その気を流し去ってしまう。
980mを過ぎた先から、少し急斜面のトラバースとなった。もう左俣と右俣の出合は目と鼻の先で、なんとかこのまま騙し騙し進めればと思ったが、ちょっとそれも怪しくなった。いくつもの堰堤が谷の中に見え、そこから太い流れが落ちている。どう進めばいいのか、もう神経衰弱のような気持ちで足を運んでゆく。トラバースを諦め、少し高度を下げて川面に近い場所を進んでゆくと、どうやらこの通過が正解ルートのようで、次にある大きな堰堤を巻き上げて進むと、中州側にスノーブリッジで渡れる場所が出来ていた。そのまま左岸側を行ったのでは、かなり急峻であり、山が切り立っていて雪の付いている範囲も狭い。たぶん中州側へズレたのが順当コースだろう。そして右俣が覗きこめる位置に来ると、そこには大きな口を開けた滝が見えた。これが右俣出合にある谷通過のネックとなる場所である。右俣内の左岸側が通過しやすく、高巻しながら脇を掠めて行く。滑れば滝の中、ちょっとドキドキの時間であった。そして滝を巻いて安堵したら、まだその先にも流れが出ていて、どちらかと言えばこちらの方が怖い様にも感じた。崩れたスノーブリッジが、無残に谷の中にあり、細いブリッジを慎重に登行して抜けて行く。抜けながら微妙に焦るのだが、焦るほどにシールが滑る。面白いものであった。
さあ滝の上に出たら、その先は一面の雪。しかし試練はここからであった。ここに至るまでは意外なほど順調に来ていた。先の方にコルも見え、天気は上々。あそこなら2時間もかからず到達するだろうと思えていた。真っさらの雪の上に二本の板の筋を残して進んでゆく。最初は快調だったが、次第にここがなだらかに見えていて、意外にこう配がきつい場所だと判った。シール任せで直登ぎみに登れるものの、そう楽に登れる場所ではなかった。足の下はふかふかのパウダー。20センチほどはあるだろうか。その下は堅いバーンがあり、傾斜の強いところは、ズリッとやりながら上がってゆく。それでも谷を詰めて行くと、両側に見える尾根が見事に迫ってくる。自然の中に身を置いている感じが強くし、それもこんな広い地形にただ一人。嫌がおうにも気分がいい。誰か登ってくるかと、たまに振り向くが、気配なし。坦々と下を向いて板を上げて行く。下を向くほどに反射光で焼かれているのが判るが、顔を上げて歩くほど余力が無くなってくる。
それでも滝の辺りからノンストップで1300m付近まで上がった。時間の経過に対して谷の中に居る自分があまり高度を上げていないのが判った。見えているコルは、いっこうに近くなっていない。見えている場所ほど遠いとはこの事か。足を動かさねばそこも近づかず、ただただ歩く。そして高度を上げるほどに雪は深くなる。柔らかい雪に、「これを滑れれば最高」なんて思うが、楽しい事は後回しとばかりに辛い時間が続く。そして1400mを超えると、少し立ち止まらないと次が続かないほどに疲労が増してきた。食べてない事からの疲れか、もしくは、そもそもここが厳しいのか。はたまたこの日の積雪量がそうさせているのか。金沢・高山のスーパードクターは、ごく短時間でここを抜けている。それを思うと、我が力量の無さは恥ずかしい限りであった。そして登ってきた距離を確認する為に下を見ると、滝の辺りを二つの点が動いた。どうやら後続のパーティーが居るようだ。早く上がってトップを変わって欲しいと願いたいが、距離にして700m以上あるように見えており、叶わぬ願いであった。だんだんとデブリ痕も見えだし、勾配もますますきつくなってくる。雪を選び、傾斜を選びながらのほとんど牛歩状態。時折振り返ると、後ろのパーティーも立ち止まっては登って来ているのが見える。私のトレールの上でさえそうなのだから、まあ私のこの進度はこんなものなのかと自分で自分を慰める。先ほど滝の所に居た勢いは全くなくなり、この先のコルが最終到達地点のような疲れようで這い上がっていた。
谷の中には、100キロくらいあろうかと言う雪崩で出来た雪だるまも残っている。こんなのに当たってはひとたまりもなく、時折見上げては雪崩出す気配が無いかを注意していた。そして遠かったコルが近くなり、1800mを超えた。これまでの動作同様に振り返ると、先ほどの二人のパーティーのさらに下、ちょうどまた滝の辺りに5名ほどの点が動いていた。でも既に時間は10時を回っている。あそこからここまででこの日はやっとだろう。ここだけの滑りの為にやって来ているように読みとれた。ラッセルに疲れ、少し楽をしたい気分にもなり、どなたかでもいいから三方崩山側に進んで、トレールを太くしっかりと踏んで欲しいと思えていた。
コル到着。スタートから4時間22分。勝手な予想だが、この時間帯は奥三方近くを歩いているような予想を立てており、大誤算。ザックに腰かけしばしの大休止。白山側からの風が強くジャケットを羽織る。目指す奥三方岳は、まだ遠い位置に見えている。いつもならば近いと思える位置にあるのだが、今日はその距離も遠い。二人だったらもっと進度が違うだろうし、三人だったらもっともっと違うだろう。でも単独行、これが自分との戦いでもあった。稜線に上がると、アップダウンの急峻があるものの谷歩きよりは楽で、休まず足を進める事が出来る。なるべく東側の雪庇の際を歩きたいのだが、地形的に無理な場合は、西の樹林帯の中のふかふかの雪の上をゆく。しかし風の通り道の場所は、全ての新雪が吹き飛び、ガリガリのバーンとなっていた。“帰りが嫌だなー”なんて思うのだが、通過して行くしかない。大きいピークを四つくらい乗り越えたか、その先に見慣れた山容が見えた。それは三方崩山であった。ごつごつとした山肌は、雪化粧され柔和な雰囲気となっており、無積雪期の男らしい山とは違い、冬季は優しい表情をしていた。余裕があれば三方崩も登頂を思っていたが、今日の本題は奥三方岳。山腹をトラバース出来る場所を探りながら進んでゆく。振り返っても稜線を伝ってきている様子は無い。見ようと思っても樹林で見えないのだが、それでも来ている気配は無かった。
少し高度を上げるとトラバースしやすく三方崩山の西側斜面に出る。高度の低い場所でトラバースを試したが、新雪が堅いバーンの上をさっと流れ、怖くて進めない状況であった。上部に上がり、夏道に乗ったと言っていいくらいの場所から西側にトラバースしてきた。その先は一面の雪の斜面。見降ろす斜面、そしてその先の鞍部から見上げる奥三方側の斜面。日差しに輝き、その輝きようから凍っているのが判る。北に目を移すと、岩屋ヶ谷の源頭部が見え、その茶色く荒々しい様子には、近寄りがたい怖さが見て取れた。何処をコース取りしていいのやら悩みながら降りて行く。すぐに登り返しがあるのでシールのままだが、けっこうこれが怖い。摩擦抵抗が無い中、風が強く身体がそれにより動かされてしまうような感じでもあった。
最低鞍部付近は風の通り道。雪の上にはたくさんの岩角が顔を出しており、それらを避けながら通過して行く。そして見上げるテカテカバーン。響きこそいいが、実際にはかなりビビっていた。出がけに今日は12本爪をどうしようか悩んでいた。間違いなく新雪であろうし、不要と思い家に置いてきてしまった。その代わりスキー用のクランポンは準備し、これがあることで、ここが通過出来たと言ってもいい。無ければここまでだった。やはり準備は大事であり、道具は道具と思える。急斜面を大きな斜行を繰り返しながらゆっくりと一歩一歩のグリップを確かめるように登ってゆく。南に寄りすぎると、岩屋ヶ谷を吹き上げてくるのか風が強い。全神経をクランポンに注ぐようにして高度を稼いでゆく。三方崩側からだと100m下って、130mほどの登り上げとなる。
傾斜が緩むとふかふかの雪が待っており、ここで30センチから40センチほど積もっていた。大きな雪庇が南側に出来ており、なるべく堅い雪を選ぶよう、危険を感じつつも雪庇寄りにライン取りをして尾根をゆく。そして2120m峰に到達。ここは三方崩側から見ると、奥三方岳の手前峰として聳えているピークである。ここからの西側の景色がいい。白山側がもっと見えれば言う事は無いのだが、主峰群には雪雲が覆っていた。奥三方側に続く小さな雪庇の尾根。その右手(北側)斜面の美しい事。先ほど三方崩側の稜線から見ていた絵と、上から見下ろす絵は異なり、同じ表情でも角度が違うと美しさが変わる、まるで興福寺の阿修羅像のような斜面に見えた。ここからは雪庇を切り崩すように進んでゆく。積雪量はかなりあり、雪の吹き溜まりの尾根のような感じとなっていた。さあ最終到達地点が完全に射程圏内に入ってきた。
奥三方岳には先ほどのテカテカバーン同様の斜面がこちらを向いており、遠巻きに見ながら何処から攻め上げようか見定めていた。地形図からは、北東から巻き上げるように登るのが良いように見えるが、現地の様子はそこに雪が付き、かなり急峻。スキーではまず厳しい場所に見えた。直下に行くと、手前に池があるような窪みがあり、その窪みの淵を通り南側に伝って行けた。少し南にズレた事で、その先には登りやすそうな斜面が見えてきた。どうやら冬季はこの登り方が一番安全のようだ。しかしまたまた凍ってはいないかと慎重に登ってゆくが、ここは風の通り道ではないのか、雪がしっかり乗っていて、シールがグリップしてくれた。しかし体重のかけ方如何では、硬いバーンが下にあり滑る。体重移動を慎重にしながら這い上がる。ここが風下になっている証拠に、2130m付近の山腹に雪洞が掘られていた。厳冬期に通過した痕であろう。それを横目に這い上がる。中を覗き見に行きたかったが、急峻地形の途中であり、容易に見に行ける場所ではなかった(スキーでなかったら行っていたが・・・)。
山頂大地に乗る。奥三方岳の冬季山頂部は、広い広い場所となっていた。そして山頂中央にあるシラビソの木に、綺麗な標識が掛っている。これは私が気に入っている標識で、藪山高山にも多いもの。それに見とれて進んでゆくと、途中で「ドキッ」とした。雪面が深く落ち込み、そこには深い深い雪洞が出来ていた。下の方には笹も見え、土も見える。上手く地形を利用した雪洞のようだが、何せ深い。入るにもひと苦労しそうだが、その竪穴の途中にはステップが切ってあり、僅かながらクランポンの痕が見える。そして疑問なのは上蓋である。真上に積もる形になっており、積雪があった場合にどう塞いだのか。今ほどステップの上をよく見ると、穴の内径に何か刺した痕が見えた。ストックを利用したのかピッケルを使用したのか不明だが、構造は何となく理解できた。さすがに中に入る勇気は無かったが、居住空間の広い大きな雪洞が山頂に作られていたのだった。そこから20mほど西に進むと、先ほどの標識の場所であった。やっと到着。既にここまで8時間経過していた。弓ヶ洞谷を登りながらは、今日は撤退かとも考えたが、弱気にならず頑張って良かった。時計は既に14時に近い。休憩もしたいが長居も出来ない。周囲展望をカメラに収め、僅かな休憩ののち往路を戻ってゆく。
僅かな距離だが、斜面が凍っていなかったのでシールを外してシュプールを刻む。ふかふかの上を楽しい滑りとなる。滑りながら、このまま間名古谷まで南に下ってしまおうかとも思ったが、地形図を見返して、すぐにその思いは撤回した。等高線が密過ぎ。下りきって再びシールを付けて、波打った雪庇の尾根を戻ってゆく。どうにか北側の斜面を滑って行けないものかと見やるが、硬いバーンの存在がトラウマになっており、なかなか行動に移せない。コケれば100mほどは楽に落ちてしまいそうだし、やはり安全を考えて尾根を戻る事にした。そして難関の三方崩山と鞍部を挟んで対峙したところに戻る。はたして我が技量でこのテカテカバーンを滑れるのか否か。ここも一瞬でもバランスを崩したら100mは落ちてしまい、途中で止まることなどあり得ない。さあどうしよう。ここで少し北側に進んでみる。樹林の中の雪質は柔らかく、なんとか滑って行けそうであった。でもこの山塊はどこも同じで、その下には堅いバーンがある。それでもこの北側が一番伝えそうに感じた。しなしなと、滑り降りると言うよりはずり落ちてゆく。ゆっくりとした進度だが、東のテカテカバーンよりはるかに安全。こちらの下降で正解であった。ただし降り過ぎてしまうと最低鞍部より標高を落としてしまい、東を気にしながら、途中から東に進路を変える。僅かだがアイスバーンの上を伝い鞍部に降りる。さあ次は登り上げ。見上げる標高差100mはかなりある。時折ガスがかかり周囲が暗くなる。このころになるとこの場所は北風が吹きつけていた。巻き上げた雪が走っている。それを見ていると酔ったような感覚にもなった。途中で白山側を見返すと、先ほどのガスが消え、流麗な山並みを見せていた。
三方崩山の北側の肩に乗る。山頂までは僅か20mほどの標高差だが、もうこの時間になると、夕暮れを考えねばならず、勿体ないが登頂は端折る。しばらくアップダウンがあるので、シール装着のまま滑ったり登ったりを繰り返して行く。左俣を滑った人はいないかと見降ろすも、見えるのは雪崩の痕だけであった。この先のコルに16:30くらいに到達すれば、弓ヶ洞谷の下りを1時間みても、なんとか明るいうちに滝の所を通過できる。あとは危険個所が無いから、安全に戻れると判断した。なぜかここにきて白山がしっかり見える時間が続いている。なぜに奥三方岳に居た時にこの展望が無かったのか、残念でならない。トレールの上は誰も伝っておらず、今日こちらに足を延ばしたのは、私だけだったようである。そのトレールも雪にかき消されている所も多かった。
コルに到着。予定通り16:30に近い時間。さて楽しみな谷下り、どれだけ快適な下りなのかと期待大。シールを剥がしバックルをしめこむ。そして足元の雪を一握り口に放り込む。谷斜面も見ても、そこにはもう人影は無く、あるのは楽しそうに滑り降りたシュプールだけであった。後に続けとばかりに気合を入れてドロップイン。しかし次の瞬間、何かが違う事に気付いた。「雪が堅い」。朝方の登りではフカフカのパウダーだったのに、日中に照らされて、もうこの時間になると太陽は傾き、雪面は風により冷やされるばかり。当然のようにガリガリになっていたのだった。これには困った。今日の板は軽さ重視のばたつく板。技量を道具でカバーして欲しいところだが、あまり頼りにならない。細かいターンでウエーデルンをなんて思い描いていたのだが、ターンして回って行くのが怖いほどにガリガリとしていた。やはりここは早い時間に下る場所なんだと体で感じた。下手くそながら騙し騙しシュプールを刻んで降りて行く。先に降りているシュプールはとても楽しそうに雪の上に文様を残している。こちらは完全に氷に刃物を当てて行くような滑り、ガリガリ・ガリガリ、足の裏のその衝撃が膝に響いてくるようであった。
ロング山行でもあり、かなり足も疲れてきていた。踏ん張りが利かず、コケることも多々あった。一度豪快にコケて頭を強打し、目の前に星が飛んだ後に真っ白になった。やばかったのかも・・・。滝は右岸の尾根を高巻しようと思ったが、全てのスキーヤーは往路を戻っており、同じように滝の脇を通過して行く。しかし柔らかい雪で通過して行った時は良かったのだろうが、ガリガリの雪の場合は、かなり気を使いながらエッジを立てての通過となる。そして危険地帯を無事通過したら左俣と出合うのだが、先行して行ったスキーヤーは右岸側に乗り上げて戻って行った。往路のトレールを見ると、今日、左岸を伝って上がってきたのは私だけだったようだ。どうやらここのスタンダードコースは右岸からのアプローチだったようだ。この先は、右岸はどんなものかと皆の跡を追ってゆく。少し暗くはなってきているが、まだまだ肉眼でルートが見える。緩やかに高度を落としてゆくと次第に硬い雪が緩みザラメ状の滑りやすい雪質に変わる。左岸側には往路の林道も白く見えており、こちらのルートは何処へ出るのかが楽しみでもあった。下って行くと、先を行くトレールが右側にある沢の中に入って対岸に移っていた。小さな10mほどの沢で、水没することなく渡って行ける。そしてまたトレールに伝ってゆく。やや樹林間隔が密になり出す頃、ヘッドライト装着。これで昼間同様の快適な滑りが約束出来た。滑って行くと前の方に156号を通過するヘッドライトが見える。もうすぐである。スキートレールは途中からつぼ足に切り替わっていた。この辺りは緩斜面過ぎてあまり滑らなかったのだろう。その点、この時間は固まっていてよく滑る。雪質も一長一短であった。
そして出た先は、四角いコンクリートで固められた生簀の脇のような場所であった。暗くて、その中に何かいたのかは判らなかったが、人工的な水たまりがそこにあったのは確認できた。その脇を通り、トレースはあぜ道のようなところを伝って弓ヶ洞谷の方へ戻って行っていた。荒れ地を通過し、車道に乗り上げると、やっと戻ってきた嬉しさが沸いてくる。暗くなっても戻れる自信はあったのだが、実際に戻って来ての感慨はそれなりにある。橋を渡って駐車スペースに戻る。「長かったなー」と言うのが率直なところであった。右俣を降りてきた場所からの右岸側と左岸側の選択は、さほど変わりない様であった。渡渉個所があったり、やや狭い尾根だったりを体験すると、左岸側でも良かったのではないかと思えた。まあ伝ったからこそ判った事だが・・・。
おかげさまで、念願の奥三方岳を踏んだ。滑りの雪質をどうこう言ったものの、まずますの条件下で行って来られたと思う。もう少し締まった時期に入れば、登りを堅いバーン、そして早々に山頂を踏んで、下りはザラメ雪を楽しめたりするのかもしれない。今回、パウダーを楽しめたのは、奥三方岳の東斜面くらいだった。短い時間だったが、それでも爽快だった。
下山後は「道の駅 飛騨白山」へ行き、敷地内に併設してある「しらみずの湯」に飛び込む。至極気持ちのいい湯であり、目を瞑って一日を振り返る。既に出てきている筋肉痛が、温かい湯で癒されるのが判る。極楽極楽・・・。