大辻山 1440m ショウガ山 1623.5m 小嵐山 1002m
2010.02.27(土)
曇りのち晴れ 単独 深瀬大橋を渡った先の除雪終点から入山、時計回りに周回 行動時間9H33M
@深瀬大橋右岸6:22→(18M)→A白尾境隧道6:40→(49M)→B713高点7:29→(49M)→C954高点8:18→(126M)→D大辻山三角点峰10:24〜26→(3M)→E大辻山最高峰10:29〜31→(19M)→F1403高点10:50→(37M)→G1494高点11:27→(35M)→Hショウガ山12:02〜15→(68M)→I小嵐山13:23〜25→(66M)→J林道に降り立つ14:31〜37→(34M)→K小嵐隧道15:11→(19M)→L白尾境隧道帰り15:30→(25M)→M深瀬大橋右岸駐車余地15:55
@深瀬大橋を渡りきり、右岸側から左岸を望む。ガス。 | @取付こうと思った斜面。かなり雪解けが進んでいる。 | A白尾境隧道。右手から尾根に乗る。 | 尾根に乗ってすぐ辺りの様子。 |
標高630m付近でリボンを見る。 | B713高点。ヤマドリが沢山居た。 | 標高800m付近の様子。 | C954高点(TBSラジオピーク) |
標高1100m付近から南。ガスから抜け出した。 | 1100m付近から振り返ると、白抜山らしき山陰が顔を出す。 | 1170m付近。たおやかな尾根。 | 1300m付近。先の方に大辻山が見えてくる。 |
1320m付近から。尾根が広くなるので、悪天時は注意。 | 大辻山三角点峰直下。北側に巻き込んでゆく。 | D大辻山三角点峰から北側。 | D大辻山三角点峰から最高点側。 |
D大辻山三角点峰から福井側。 | E大辻山最高点から白山。 | F1403高点はややナイフリッジに。 | F1403高点から大辻山を振り返る。 |
F1403高点からショウガ山を望む。 | 1494高点北側峰から見る白山長倉尾根。 | 1494高点北側峰から北東の県境側。 | G1494高点。 |
1494高点側から見るショウガ山。 | 最低鞍部から斜面を見上げる。硬いバーン。 | 最低鞍部から大辻山。 | ショウガ山北峰から見る最高点。 |
Hショウガ山から白山。今日はフリーライド・オフ・リミッツ。 | Hショウガ山から大辻山。 | Hショウガ山から南(福井)側。 | Hショウガ山から北東(県境稜線)側。 |
Hショウガ山から北(吉野谷)側。 | ショウガ山から西側。 | 1600m峰からショウガ山を振り返る。 | 双耳峰をトラバースし終えて、小嵐山への尾根に乗る。 |
トラバースしてきた急峻斜面。 | 標高1200m付近で再びガスの中へ。 | 標高1170m付近。かわいい虫ようがあった。 | I小嵐山。展望なし。 |
I小嵐山東側。 | 標高800m付近の雪の切れた痩せ尾根。 | もうすぐ林道。急峻の植林帯を下る。 | 植林帯を振り返る。見た目以上に急。 |
J小嵐山登山口(ルートは廃道の様子) | J上流左岸に渡る橋。下山方向は撮影背中側。 | 林道を埋める雪の押し出し。長い距離続いている。 | K小嵐隧道入口。 |
K隧道の中は30センチほど水が溜まっている。 | K小嵐隧道北側。この雪の壁を登るのに苦労した。 | 隧道を出るとすぐに橋がある。 | 小嵐滝。水量は豊富。 |
L白尾境隧道北側から。こちらは水没していない。 | M深瀬大橋に戻る。右側に車が見える。 |
石川県を離れたものの、「県内の全ての山を登ってやろう」と言う高き目標は、まだ私の中には生きている。北アや南アに頻繁に通う間にも、たまに地図を眺めては計画を練っていた。気になっているのは大瓢箪山なのだが、ここは残雪期の山と思い込んでいた。しかし10年ひと昔、この情報は古く、今では無積雪期にも登られている。石川の雄である「コマQ」さんが詳細報告を上げており、これにより、冬季に狙う必要も無くなった。それではと笈ヶ岳から南の稜線が空白なので、狙おうかとも思ったが、仙人窟岳の危険地帯はアイゼンとピッケルの世界。過去に滑落者も出ており、スキーで狙える場所ではなかった。どうしてもスキーで上がりたい訳ではなかったが、雪山を日帰りで、より遠くとなるとスキーに勝るものは無い。はてさて何処に行こうか。
舐めるようにエアリアマップを見ていると、そこに私好みの名前の山が目に入った。その名は、ジンジャー山。神社山ではなく、それはGingerの方であった。本名はショウガ山。なんと誘引力があるネーミングであるだろうか。もっともGingerと勝手に判断しているが、由来は別にあるのかもしれない。でもこんな空想は自由であり、私の楽しみの一つでもある。さて行き先の目標物が決まれば、次はコース取りである。12年ほど前に、一度小嵐山を狙った事がある。しかし当時は道が不明瞭で、天気も雨であり、途中で引き返した過去があった。出来ればその小嵐山を絡めて楽しみたいが、その尾根の北側には大辻山がある。大辻山と言えば、北陸では富山のそれが有名であり、誰もがそこを思うだろう。その大辻山がここにもあり、ここも気を引く山となった。周回コースを上手く取れれば、ショウガ山を頂点にして3座踏める「美味しい場所」となった。ただ問題がある。天気があまり良くない。西からの回復が遅ければ、ずっとガスの中、早ければ少し期待できるが、それでも場所は北陸、どんよりと薄暗いのが北陸の冬の常である。さらにさらに、ショウガ山を登頂している地元の方は多々居るが、周回コースを取っている方は皆無に近い。なぜだろうと思うのだが、それには起伏する地形による判断がほとんどのようだ。ならば「やってやろうじゃないか」となるのだが、元気なのは頭の中だけで、体はそれにはついて行かない今日この頃。いちおう尾根地形をおおよそ頭に詰め込んで、現地の様子と天候で、行動は判断する事にした。久しぶりの北陸の雪、軽い雪に慣れきってしまった私には、ロングコースだとボディーブローのように効いて来るだろう。楽しみでもあり、試練が待っているようでもあり・・・。それでも自分の力を推し量るにも、やはりここは果敢にも攻めないと・・・。
大辻山への尾根は広い場所も目立つが、急峻地形もあり、今日は短い板の選択とした。しっかり12本爪とピッケルを装備に入れた。霊峰白山の一角に入るのに際し霊験あらたか、心してきちんと装備をする。23:40家を出て、すぐに上信越道に乗って行く。大きな雨粒がフロントガラスを叩き、視界がだいぶ不明瞭。時速90キロほどでのんびりと行く。ただあまりのんびりも逆効果で、途中で眠くなり、苦いコーヒーを飲みつつも、大きな欠伸を連発して北陸道に乗ってゆく。それでも今日の様子は違う。いつもなら晴れのエリアから雨や雪のエリアに行くような感じであるが、その逆を行く珍しいパターン。乾いた路面を見ながら、今日の場所選択は当りかも、なんて思ったり。
金沢西インターで降りて157号に入って行く。何度通ったことか、この道は懐かしくもあり、嬉しくも感じる道である。夜間は点滅信号がほとんどで、高速と変わらぬようなスピードで山間部に向けて進んでゆく。瀬戸野の交差点で、中宮へ行く道を左に見て、手取ダムへ駆け上がって行く。今日の取付き場所は、その手取湖に架かる深瀬大橋の向かいの尾根。大橋が無積雪期は通過できるが、冬季は封鎖している場合がある。さて今日はどうだろうと、深瀬地区に向けて157号を離れ降りて行く。両側には除雪の高い壁があり、それに並ぶように民家を見たら、その先が吊橋であった。幸いにもゲートされておらず、そのまま対岸まで行く事が出来た。しかし除雪はそこまでで、ユーターンスペースを設けるくらいで、その先の両側への道は閉ざされていた。対岸に戻って停めるにしても、適当な余地が目に入らなかった。ここは、北側へ向かう道の除雪の方が車2台分ほどあり、1台停めてもゆうに回転できると判断し、ここに置いておく事にした。闇夜であるが、ガスが垂れ込めていることは良く判る。今頃になってコーヒーの効果か目が覚めてきて、歩き出せるほどに身体が活性していたが、濃いガスが動くのを躊躇させていた。しばし仮眠(4:30)。
山側で終始流れの音がしていた。取付こうと思っている場所に沢があるのか。どんな場所なのか夜明けが待ち遠しい。ショウガ山までは、平面距離で5.5キロほどある。山行後に金沢市内で友人に逢う約束があり、そこそこの時間に降りて来なければならない。それを思うと暗いうちに出たかったが、雪も里の方ではだいぶ溶けてきている。雪に繋がってスキーで上がって行くには、視界は必要であり、じっと夜明けを待った。そして6時くらいから周囲が見え出してくる。相変わらずガスが垂れ込めている。今日は一日中こんな景色を見ながら歩くのだろうと腹を括る。
6:22動き出す。水の流れは小ぶりの沢のようで、下には水受けも置いてあった。小嵐滝に向かう道には、カンジキトレースが続いている。この時期にこの進路だと、猟師かハイカー。犬の足跡が無いから、ほぼハイカーと判断できる。そして行き先は小嵐山、もしくはそこ経由のショウガ山であろう。それはそれでいいのだが、今日は最初に大辻山に登り上げようと思っていた。よって橋を渡ってすぐにある尾根を這い上がろうと思ったのだが、その斜面はやや見上げるような角度となっていた。沢の横を一人分のトレースが登っているが、しばらくは板が履けない斜面のようであった。それならとすぐに頭を切り替え、尾根の末端となるトンネルの脇から取付こうと判断した。カンジキトレースを追いながら南に進んで行く。当然、どこか手短に取り付ける場所があればと、首が痛くなるほどに左を向き、気にしながら進む。これじゃー客探しのタクシー運転手だ・・・。それでも2〜3箇所くらい適当な場所があったが、どこも最初の15mほどが急で、結局トンネルの場所まで林道を伝ってしまった。このトンネルの名は「白尾境隧道」。トンネルの右脇から尾根を登って行く。ワカントレースはトンネルの中に潜り込んで行っていた。
尾根上は下の方は雪に繋がったが、途中から途切れ途切れになる。往々にそんな場所は急峻地形が多く、無理やり板のまま上がるも、杉の枝が散乱していて良く滑る。板を脱いでみたが、スキー靴(兼用靴)では非常に登り辛い。やはりスキー靴は、板があって真価を発揮するようである。暫く我慢の登りとなった。もう少し雪があると思ったのだが、標高が低い事もあり、数日雨もあったのだろう。最初の目標地点の713高点に向かっていると、やけにヤマドリが鳴いている。その姿もいく羽も目視できるのだが、私の方に羽根を広げて飛来してくる個体も居た。何がはじまったのか。そしてちょうど713直下にさし掛かると、尾根上をトコトコと数羽が歩いている。ヤマドリはハーレムを作って生活をするから、周辺に居るのはメスで何処かにオスが居るはず。しかし目を凝らしたが綺麗な固体は発見できなかった。
やっと713高点、まだまだ先は長い。峠のように掘れた小さなキレットを跨ぎ、登りに入る。この先954高点までが難儀する。雪に繋がって行きたいのだが、けっこうにブッシュが出ている場所がある。何度も着けたり外したり、板を両手に持って足を滑らせ、ヒヤッとしたり・・・時間のかかった通過点であった。雪が繋がってさえ居れば、もう少し早くに通過出来た場所でもある。雪の無い斜面には、僅かに道形が見られる。地形図には図示されていないが、これがエアリアに書かれている破線ルートなのだろう。
954高点からは完全に雪に繋がり、そこそこ快適に高度を上げてゆく。この辺りで、なんとガスが切れだし、目指す高みの上は青空を覗かせていた。これは意外であった。どんよりとした中、暗く行脚するものと思い込んでいたが、ガスの上に出る事が出来、下と上とでは別天地なのであった。こうなると、日差しが幾許かの清涼剤の役目となり、頑張る意欲が沸いてくる。と言うのも、視界が開けルートがしっかり見えてきたので、ルートファインディングに対し不安感が薄らいだ事もある。振り返ると鷲走岳か白抜山が雲の中から姿を見せていた。ピピッと記憶が繋がり、それらの山を登った時の事が甦る。白山側もだんだんとガスが取れだし、四塚そして七倉と姿を現してくる。そして1233高点付近になると、快適も快適、広い尾根になり、足許の不安が無くなり周囲展望を楽しみながら板を滑らせて行く。進行方向左側には、三村山があり、南側の展望も、吉野谷、河内、鶴来とだんだんと遠くまで見渡せるようになってきていた。なんだろうこの自然のもてなし。山屋を始めたホームグランドに来ている嬉しさとともに、歓迎を受けているような勝手な錯覚を感じる。全ては自己満足、如何様にも脳内変換していいのであった。
目指す大辻山は、視界の中にあり、その手前に続く尾根が緩やかな勾配で続く。さながらプロムナードコースとも言える気持ちの良い地形となっていた。しかしちょっと好天に浮かれ過ぎていたが、ここが悪天だったらどうだろうと考えた。これだけ広いとガスられたら厳しいかも。幾分か尾根が屈曲しているのもいやらしい。最高峰の手前に三角点峰があり、左に巻き込むように北に登り上げる。
大辻山三角点峰。ここからは360度のパノラマ。目標地点をこの山にしても十分満足できる場所であった。女性的な白山の姿があり、それに相対する男性の容姿で、笈ヶ岳や大笠山が見える。空は青空。まことでっかい天気であった。僅かに下って東に登り上げ、大辻山最高峰に立つ。こちらは針葉樹が立ち、一部の方向を塞いでいる。白山側の展望がいいが、西側の展望をそれらがブロックしていた。既にここまでで4時間が経過している。この調子で行くと、あとどれくらいかかるのやら。小嵐谷を挟んだ南側の対岸に、ひと際高く姿を覗かせているのが、目指すショウガ山となる。そこに行くには、いくつものアップダウンが待っている。地形図を見て判って来ているのだが、いざ目の当たりにすると「ここでいいや」と少し躊躇したくなる地形が広がっていた。それでも今日の目的地はここではなく、ジンジャー山である。行かねばならない。
大辻山からは勿体無いほどに高度を落としてゆく。シールを張ったスキー板だが、適当なザラメ雪で、面白いようにターンが決まる。この次にある顕著なピークの1403高点は、山頂部はナイフリッジ状になっており、その頂部を舐めるように板を滑らせて行く。起伏が大きい為、このような頂部から鞍部と言える谷部が良く見えない。そのためにしっかりと各ピークを踏んで進んで行く。省力には山腹のトラバースなのだが、それは地形が判って初めてできる事。一応往路を戻る事も想定してスキートレールを刻んで進む。しかしここも一旦ガスればコース取りが難しい場所もある。晴れの恩恵を全面的に受け、ロス無くライン取りが出来ていた。
1494高点に立つと、もうショウガ山は手中に入ったも同じ。僅かな標高差はあるものの、手招くような尾根斜面が目の前に続いていた。最低鞍部まで下り、やや急峻ではあるが、のっぺりとした快適な斜面に九十九折を切って行く。少し時期が遅ければ、スキークトーなども欲しくなる斜面だった。ショウガ山は北から登り上げてくると二段構えになっており、一旦登り切った先に、小さな丘のような形で山頂があった。直登でもいいが、少し斜度がきついので、南側に進んでから巻き上げるように山頂に向かって行く。
ショウガ山登頂。絶景かな、絶景かな、先ほどの大辻山に居た頃に比べると、雲が多くなっているが、白山により近づいたことで、そこに見える景色がより陰影が濃く、彫りの深い白山の姿となって見えていた。相変わらず富山県境側の稜線はガスに覆われていたが、その他は大方見渡す事ができた。ことに美しいのは福井側の展望で、一面の雲海の上に飛び出た各頂が、さながら孤島のように見えていた。雲海はそのまま日本海側までも覆いつくし、ここ白山エリアだけ浮き出ているようにも見えた。感無量。白山山頂側を向いて深く拝礼をする。それが自然と出来、顔を上げた時の白山の表情は柔和に見えた。ここでもう一度地形図を見返す。ここまで伝って来た往路は十分過ぎるほど頭に入っている。よって再び辿るのは勘弁願いたいと思っていた。その一番の理由はアップダウン。次にあまり滑れない(地形的な積雪量)ように見えた麓側斜面。こうなると、ほぼ下り一辺倒の小嵐山への尾根を下ったほうが得策に思えた。テルモスの白湯を啜りながら、ヤキソバパンを流し込む。平地では咀嚼は大事に言われるが、寒い雪山ではあごの動きが悪く、まるで犬のように飲み込むのであった。
ショウガ山の西には1600mピークがあり、一旦下ってから再び登り上げるので、シールは外せない。本当は外せば、かなり快適な斜面で気持ちいい。少しギクシャクとしたシュプールを残しながら下って行く。その1600ピークに上がると、さらに西側に地形図では双耳峰のように書かれているピークがある。ここから尾根を西に伝って行くのだが、このピークに登り返さずとも、北側斜面をトラバースして小嵐山に続く尾根に乗ってしまおうと考えた。最低鞍部まで下りこみ、ここでシールを外し、完全に滑降体勢となる。しかし、安易に通過を考えた北側斜面は、雪崩れそうな雪面で、現にデブリも多い。大きな口を開けたクラックもあり、完全に気の抜けない本気モード。いくつもの小さな谷を横切ってゆくのだが、これなら双耳峰に登ってから尾根を下ってきたほうが精神的に楽であった。でも既に途中まで乗りかけた船、トラバース途中で下船する訳に行かず、根性と決め込み運を天に任せる。そしてなんとか西に下る尾根に乗った。最後は雪庇が張り出した所で、尾根に乗り上げる場所がピンポイントでしか見当たらず、そこを狙って進むにも苦労があった。
一旦尾根に乗ってしまえばしばらくは快適な滑走が約束できた。ザラメ雪に近い雪質で、少々抵抗が有るので狭い尾根上でもスピードを殺しながら降りてゆける。だんだんと右(北)側に見えている大辻山が高くなってゆく。1200m付近で再びガスの中に突入し、薄くらい中を滑り降りて行く。一気に滑り降りようと思えば、小嵐山の手前まで登り返しは無い。しかし私は滑りが苦手、何度も立ち止まっては太腿の疲れを癒しつつ騙し騙し降りて行く。
そして小嵐山。僅かな登り上げだが、シールを張る必要も無く、労せずピークに到達。そこは肩的場所であり、あまり山頂らしくない場所であった。なにか標識でも有るのかと思ったが、皆無。ここが昔狙った場所であり、やっと来れたと言う思いも湧いてくる。それにしてはちょっと拍子抜け。この先は暫く滑り降りられたが、標高800m付近から雪が切れだした。何とか繋がって降りられたのもここまでで、この先はザックに板を括りつけて降りて行く。痩せ尾根があったり、そこにマーキングがあったり。しかしマーキングが分岐の印だったのか、その先見ることが無くなり、ルートを外したようにも思えた。下手に降りると急峻地形に降りて行ってしまい、さらに良く注意していないと、下が林道で無い場所に降りて行ってしまう事にもなる。コンパスを地図に当てながら歩きやすそうな場所を選びながら下って行く。途中でスギの樹林帯となり、下が近くなるが、振り返るとすごい急斜面。こちらを登りに使わないでよかったと思ってしまった。
植林地を折りきったところは、ちょうど橋の架かるまん前であった。運悪くよう壁の上となり容易に降りられない。コンクリートの壁の上を、滑らないように慎重に北側にトラバースして行くと、階段状の地形が見えた。僅かに見えただけで、こんもりとした雪に覆われている。滑落ぎりぎりの感じで、周囲の木に掴まって沢の中に入る。そして5段ほどのコンクリートの階段を踏んで林道に降り立つ。そう、ここが小嵐山の夏道(ほとんど廃道)登山口であった。一度見ているので、林道から見るこの辺りの景色は懐かしかった。
さあ林道に降り立ったので、このまま伝って戻るだけ。こんなふうに安易に考えていたが、本当の核心部はこれからであった。シールを再び張って林道に滑らしてゆくが、安心して滑らせられる場所は短く、ほとんどが山手側からの雪の押し出しの上をエッジを効かせながら通過して行く場所であった。さらに状況を悪くしたのが、途中にある水の流れ、往路なら絶対にシールを水に浸けないところだが、もう登りも無い事からと、バシャバシャと水の中を渡ってしまった。何度もつけ外しをしてきたシールの粘着性が落ち、左足側のシールが剥げ落ちてしまった。完全にシールトラブルである。こうなると片足だけで踏ん張っても埒があかず、板は背負ってつぼ足を決め込む。最後になってのかなりの時間ロスだった。深く潜る足許に、スキーのありがたさを痛感。
押し出しの雪を慎重に越えて行くのは当たり前だが、この先で一つ気になっている事があった。それはトンネル。全部で二つあり、一つは取付き時に見ているので安心だが、もう一つは見ていない。もしや入口(出口)が埋まっていたら、尾根を大きく登り上げて通過してゆかねばならない。ゆかねばならないと言うものの、急峻地形でその時に這い上がれるかどうかも不安であった。そしてその懸案のトンネル入口に差し掛かる。「小嵐隧道」と書かれた入り口は、ポッカリと口をあけていた。「あー良かった」と思った矢先、問題は起きた。トンネル内は水没していた。もうここは迷わず足を浸けて行く。水深は30センチほど。一瞬にしてスキー靴の中には冷たい水が浸入してきた。もうゴールは近い、しばしの我慢と耐える。この隧道内は、ライト無しでも歩けるほどに明るい。光源は両側の入口なのだが、雪の反射のおかげでもある。奥に進むほどに水深は浅くなるのだが、次の試練が発生。北側の入り口は雪の壁となっていた。万事休すに見え、ブルーになる。それでも上のほうには口が開いており、そこを目指して這い上がるしかない。その高さは2.5mから両サイドは3m以上になっている。さながらアイスクライミングのように這い上がるのだが、ほぼ垂直。何度も何度も失敗し、何度も何度も蹴り込んでステップを刻んで足場を造った。ピッケルを出したい所だが、面倒なので両手にはストックのラッセルリング付近を短く持ち、思いきり硬い雪に突き刺す。心許ない登り方だが、なんでもやってみる。無事這い上がれた時には、本当にホッとした。ここは逆から通過の場合は、ザイルが欲しい。ただ支点が取れないので、北側にある橋の欄干が適当か・・・。
隋道から出ると、轟音と共に太い流れの小嵐滝の上を通過して行く。見ていると吸い込まれそうな水量があり、周囲の空気はかなりひんやりとしていた。この先も押し出し箇所が続き、気を緩められるのは白尾境隧道を越えてからであった。こちらの隧道は水没の心配はなく、安心して潜って行けた。隋道を出ると、往路の我がトレールが残る。その上を深いツボ足のトレースを残して進む。赤い深瀬大橋がどんどんと近づき、ゴールも近くなる。対岸の北陸電力の施設からは、ひっきりなしに注意放送が聞こえている。簡単に思えた林道歩きが、今日は一番堪えた場所となった。股関節が悲鳴を上げだす頃、橋の袂に到着。無事山行を終える。
振り返る。今日は全ての行動で運が向いていた。もし小嵐山側から登る計画だったら、小嵐隧道の通過で、もうそこで山行は終わっていただろう。雪の壁を降りたはいいが、次に来る水没箇所で、もう完全に意気消沈だったはず。時計回りで回ったことで、大辻山からショウガ山間のアップダウンを一度だけの通過と出来、小嵐山まで楽しく滑り降りる事が出来た。もっとスキー向きなコース取りもあるようだが、私の場合はこの程度で十分。あととても気になったのは、中宮からショウガ山に突き上げている荒谷の存在。上から見るとかなりおいしそうなスキールートに見えた。昔の登路があるようでもあり、滑っている人も居るのであろう。久しぶりの白山エリア、好天に恵まれて、とても楽しい山旅となった。またまた記憶に残る場所が増えた。
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