居頭山 1820m 米子頭山 1796.2m 栂ノ頭 1928m
牛ヶ岳
1961.6m
トトンボノ頭 1896m 巻機山 1967m
2010.03.20(土)
快晴 単独 清水地区から居頭山に突き上げ、稜線を北進。牛ヶ岳からトトンボノ頭をピストンして米子沢を滑り降りる。
行動時間9H28M
@清水地区林道入口5:42→(28M)→A巻機山キャンプ場(桜坂)6:10→(199M)→B居頭山9:29〜37→(23M)→C米子頭山10:00〜10→(71M)→D栂ノ頭11:22〜28→(18M)→E牛ヶ岳11:46→(37M)→Fトトンボノ頭12:23〜37→(47M)→G牛ヶ岳帰り13:24→(20M)→H巻機山13:42〜14:00→(21M)→I米子沢1450m付近14:21→(25M)→J米子沢から出る14:46→(24M)→K入山口15:10
@清水地区送電線鉄塔側林道入口。(路上駐車) | 緩く起伏する平坦地を登ってゆく。 | A米子沢の南の沢。左岸側のキャンプ場側から撮影。 | A井戸尾根へは右岸側へ。今回は左岸側を伝ってゆく。 |
標高750m付近のコテージ。 | 標高860m付近。脇は深い谷が沿っている。中央は井戸尾根。 | 1050m付近。勾配がきつくなってくる。 | 1230m付近から進行方向。 |
1230m付近から巻機山側。 | 1430m付近の快適な斜面。休憩適地。 | 1430m付近から西側を見る。 | 1520m付近から見る巻機山。 |
1520m付近から振り返る。 | 1570m付近から見る居頭山側。稜線への最後の急峻斜面。 | 1570m付近から西側。 | B居頭山から巻機山側。 |
B居頭山から柄沢山。見事! | B居頭山から東側。ちょっと春霞。 | B居頭山から小沢岳側。 | 正面に見えるのが米子頭山に見えるが、本峰はその向こう側にある。 |
途中から居頭山を振り返る。 | これが米子頭山。(二つ前の写真のピークから見た絵) | C米子頭山から巻機山。今日はフリーライド・オフ・リミッツ: ハーガン。 |
C米子頭山から居頭山(南)側。かなり綺麗な稜線。 |
米子山下降途中から見る栂ノ頭。 | D栂ノ頭。大きなツガが林立しているようで、雪面から沢山顔を出している。 | D栂ノ頭から見る牛ヶ岳。 | D栂ノ頭から見るトトンボノ頭。 |
D栂ノ頭から南側。 | 牛ヶ岳への斜面には、既に木道が顔を出していた。 | E牛ヶ岳。山頂からは雪庇が有り、東に降りられない。少し南に下って降りて行く。 | E牛ヶ岳から見るトトンボノ頭。 |
1813高点付近から見るトトンボノ頭。 | もうすぐ山頂。雪がだいぶクラストしていた。 | Fトトンボノ頭から東側。 | Fトトンボノ頭から西側(巻機山)。 |
Fトトンボノ頭から谷川岳側。 | Fトトンボノ頭から北側。六日町市を見下ろす。 | Fトトンボノ頭から丹後山側。 | G牛ヶ岳の東側。雪庇がオーバーハングしている。往路のトレースが左に見える。 |
巻機山に向かって行く。 | H巻機山。スキーヤーが下降準備中。 | H巻機山から見る谷川岳方面アップ。 | Hスキーヤーの踏み跡が沢山残る。 |
下降途中。快適斜面。正面は前巻機。尾根上にはスキートレールが沢山見える。 | 米子沢上部。まだこの時は、入ろうか行くまいか迷っていた。 | 米子沢1800m付近。波打つ雪面。 | 米子沢1650m付近。 |
I米子沢1450m付近。 | 米子沢1150m付近。水の流れがだいぶ出てきており、小さな雪崩痕も出てきていた。 | 970m付近。米子沢に入って最初の大きなデブリ。 | 米子沢(谷)の出口付近で大きな雪崩痕。(下流側から撮影) |
J860m付近から先の快適斜面。 | 830m付近から米子沢側を振り返る。 | 6名のパーティーが滑り降りて行く。 | K駐車地到着。 |
春分の日を含めた初春の3連休。しかしその中日が生憎の天候で「春の嵐」の様子。悪い日が連休の前か後寄りならまだしも、中日と言うのがいけない。多くの山岳会が、3連休で計画していたロング山行を取り止めにした事だろう。そんななか、私はと言えば全く予定を組んでおらず、いつもながらの暢気なもの。金曜日の晩になって、「さあ何処に行こうか」などと各地図を漁っていた。
土曜日は翌日曜日と正反対で、快晴予報で気温も高いようだ。この条件だと雪融けが進むので、東側と南側斜面の通過が長いルートは避けたい。南アに入ろうか、中アに入ろうか、などと注意深く見入っていたが、好天でもありどうしてもスキーがしたくなった。こうなると必然的に積雪地帯に地図の場所はズレる。ここで浮上してきたのが巻機山。以前から積雪期に滑りたい場所と思っていた。さらにはその滑りもそうだが、巻機山本峰の東にある、「トトンボノ頭」が気になっていた。このネーミングに、普通で居られる人は少ないだろう。「トンボの頭」ならまだしも、「トトンボ」である。珍名山の好きな私としては、是が非でも踏んでおかねばならないところであった。行き場所が決まれば、さあコース取りをどうしようかとなるが、冬季の通常ルートは清水地区から井戸尾根を伝って上がる人が多いようだ。ただこれだと一度伝っているので面白みが無い。もう少し広角に地図を見ると、県境の稜線に未踏座があり、それと抱き合わせにしようと考えた。情報をWEB上で探す。すると、あの国内19人目のSeven
Summiterである高山のスーパードクター氏の記録が目に入った。飄々とした楽しい文面で綴られているのだが、なにか行くに際し嬉しくなってきた。氏のバイタリティーとど根性には常々尊敬の念を抱いており、その軌跡を伝える条件下にあり、ワクワクして挑む事になった。
1:25出発。関越道を六日町に向ける。三連休と言うか、この日が好天であるからだろうスキーヤーの車が多い。塩沢石打で高速を降りて、県道28号経由で国道291号に乗る。そして乾いた舗装路を詰めて行くと清水地区に到達する。深夜の集落内をガラガラとディーゼルエンジンの音を響かせながら生活道路を登ってゆく。しかし途中で除雪はされておらず進めない。集落内にはバス停の所に大きなスペースが有るが、やはりバス停に停めて置くわけにはいかない。どこかいいところはないかと探すも、適当な場所が無く、やむなく本道に戻って、キャンプ場への林道入口に停める。この辺りは路肩にスペースが沢山あり、安心して置くことが出来た。ただ、そのキャンプ場へ行く道は完全に雪が覆っており、林道の姿は無い。外に出で懐中電灯を当てながら1.5mほど高い雪の上に駆け上がると、微かにスキーのトレールが見て取れた。どうやら入山はここで良い様だ。しばし仮眠となる(3:20)。
寝ている間に通過したのは、新聞配達と思われる車が一台。そして出発の準備をしていると、大宮ナンバーの車が5台ほど登って行った。今日は気温も上がる。防寒具は薄での雨具とした。シールを張って、しっかりと撥水剤を噴霧。今日のシール団子は充分予想でき、それを避けるよう最大限の準備を怠らない。それから上からもそうだが、雪面からもジリジリと焼かれるだろう。水分をいつもより多めに持つことにした。
5:42林道入り口から入山してゆく。しばらくは緩い起伏の中を快適に板を滑らせて行く。ほとんど沈まない硬い雪。前方に顔を上げると白い頂が見える。巻機山から西に続く稜線のようだ。それがクッキリと見えていた。進んで行くと林道がそこにあると思われる証拠に、オレンジ色のカーブミラーの支柱が目に入った。現在地は米子沢の左岸側であり、沢に対して南に居る。しかし途中で米子沢の南側にもやや大ぶりの沢が入り、そこにも堰堤群が見える。地形図には青線が表記されないが、エアリアの詳細図には図示されている。標高725m付近でその川を渡って右岸側に行かねばならなかったが、SD(Super Doctor)氏が渡り損ねた橋がここだと思い込んでしまった(氏のルートを伝うには渡り損ねるのが正解)。そのまま左岸側を伝って行くのだが、その南側に一段高い地形があり、コテージが2棟ある。おそらくここがキャンプ場であろう。それらを横目に登ってゆく。しかし北側にある沢は、登れども登れども細くならず、右岸側に渡るチャンスは皆無。だいぶ高度を上げてから困り、戻って先ほどの橋を渡ろうかと悩んだが、ここでピンチをチャンスに変える。もしや一つ南の尾根の尾根を伝うと、「居頭山」に突き上げるのでは・・・と思い地形図を見ると、間違いない。災い転じてでは無いが、これはこれでルート取りが面白くなった。予定していなかった1座が舞い込んできたわけである。と言っても登れたらの話。この先の尾根は急峻続き、果たして伝えるのかどうか。
桜坂と呼ばれるなだらかな地形は、二子沢川に沿って広がっているが、支流に行くと、米子沢側に続くものと、860高点のある南側に分かれる。現在地は後者側であり、そのまま歩き易い場所を進めば谷登りになってしまう。尾根登りにする為に860高点辺りから進路を北にとり、杉の植樹帯の中を通過して尾根に取付く。この尾根はとても顕著な尾根で、すぐ北側には深い谷があり、これによりいっそう際立った鋭利な尾根のように見えていた。取付いてすぐにヒールサポートは最上に上げた。シール頼みで登ってゆくのだが、ここはやはり西斜面でよかった。これが東だったら、今日の晴天では朝日を浴びて雪が緩み、ズリズリと大変な事だったろう。最初の難関は標高1000m付近。騙し騙し細かい九十九折を切りながら板を持ち上げてゆく。井戸尾根側でも同じ標高は急峻があり、ここは我慢のしどころであった。やや太い潅木に抱きつくようにしながら、時間をかけての通過点もあった。さらに次に1150m付近でもう一度急峻地形がある。北側に滑り落ちると標高差のある谷であり、そちらに十分気を使いながら、狭い尾根を細かい切り返しで通過して行く。途中には時折硬いバーンがあり、ズリッとやっては肝を冷す。しばし我慢の時間で焦らず時間をかけて通過して行った。
1300mを越えると安全地帯に入り、そこは快適斜面。先ほどの急峻を越えてきて良かったと思える展望が待っている。一番は、谷川岳方面の大源太山。まさしくマッターホルンがそこにあるように見え、周囲の雪の深さがより鋭利さを誇張しているようであった。西を見るとダラットした地形がある。そう苗場山である。右(北西)側に視線をずらしてゆくと六日町の平らな地形が広がっている。これだけのいい展望は久しぶりで、この先、高度を上げてゆくのが楽しみでもあった。ここまでは忠実に尾根伝いで来たが、ここでその尾根を左に見ながら、なだらかな斜面を登り易い場所を選びながら斜行して行く。大きなブナも林立し、休憩適地であり居心地がいい。途中であまり南にズレてはいけないと思い北側に修正して尾根上に戻る。そして尾根に戻った場所がたまたま1487高点付近であった。
もう稜線も間近。南には見事な形の柄沢山があり、北を見ると巻機山へ続く起伏する稜線が見える。やっとここまで来れたと言う感慨と共に、もう一つの現実があった。稜線に突き上げるには壁のような斜面が待っていた。足元はだんだんとクラスト気味になってきており、なだらかな地形と言っても、指先に力をこめていないと怖いような場所であった。どうコース取りしようかと考えながら1500mを通過し、益々正面の勾配がきつく見えてきた。逃げ場と言うか、登れそうな場所を広範囲で探す。ここで思った。先ほどの1487高点で尾根に戻ったが、南側に谷地形に沿って進んでしまえば等高線間隔が一番緩い。居頭山の南鞍部で稜線に上がる格好になり、一番安全なように見えた。しかしもう1600m付近まで達しており、南にずれるにもゲジゲジマークの危険地帯が途中にあった。もう一つは北にトラバースして行き、米子頭山側にズレても等高線は緩い。しかしそちらも、目の前に見える谷部は危険そうに見えた。要するにこのクラストした雪面の横移動は怖いのであった。さあアイゼンの出番かと心を決め、それでも騙し騙し登ってゆく。
どんどん雪面は硬くなり、1650m付近でとうとう板を外す。蹴り込むとなんとかグリップしてくれ、両手に板のビンディングを持って、シールをグリップさせながら四つんばいになって登ってゆく。5〜6歩登っては呼吸を整えるような、けっこう厳しい登り。登れば居頭山の山頂があるのが判っているので、焦りがあったりするのだが、下から望むのと違い、まだ距離も高低差もあった。本来は板はしっかりザック結わえて、足許にはアイゼンを着けたほうが早かったと思う。”あとほんの僅かだから”などと上がっていたのだが、ここから山頂部までが時間を食ってしまった。途中の雪面からは、かなりのシャクナゲが顔を出している。無積雪期のこの西側斜面は、シャクナゲ地獄という事だろう。稜線が近くなると風も強くなり、汗した体が一気に冷やされてゆく。
居頭山山頂。ここまで清水地区から3時間47分。「おおっ!」と思ったのだが、あのSD氏の米子頭山に到達した時間もほぼ同じ。同じようなペースで上がれていると、嬉しかったり・・・。もっとも、ここから米子頭山まではまだ30分ほどはかかるだろうから、米子頭山ベースで考えると、当然こっち側が大回りであり遅い。しかし今、居頭山の上に居り、私にとって予定していなかった嬉しい1座が踏めた事になった。360度展望のある場所で、どの方向を見ても唸るような景色が広がっていた。南にある柄沢山が手招きをしているようでもあったが、逆に、こんな気持ち良い場所を今回一回だけでは勿体無い。柄沢山は残して、「また来よう」と思えた。柄沢山までは僅か1.3キロほど、昔の私ならがむしゃらに踏んだのだが、ちょっと大人になったのか・・・。
大展望を楽しみながらの北進が始まる。雪庇は右(東)側に出来ている。途中ドキッとしたのは、その雪庇の先から西側に10mほど入った場所に、大きなクラックが南北に入っていた。と言う事は足の下全部が雪庇だったのか。それ以降は慎重に西寄りにルートを選ぶ。でも見た感じ大きな雪庇はほとんどない。たまたま地形的な関係だったのかも。クラストした雪面がやや滑り辛く、時に日差しで緩んだ雪もあり、両極端な雪の状態であった。スキー下手な私は、恥ずかしげも無くボーゲンで降りて行く。次々にアップダウンがあり、ちょっと勾配の厳しいのが、米子頭山の一つ南の峰。東側が切れ落ちていて、狭い幅で切り返ししながら登ってゆく。南から見ていると、この登っている高みが米子頭山に見えるのだが、本峰はこの先であった。ダラットした起伏を軽く下り、そして登り上げると、当初の稜線登り上げ予定地の米子頭山到着。
米子頭山からは、先ほどの居頭山同様にすばらしい展望がある。巻機山に近づいた事で、より綺麗に見え出したのと、南を振り返ると、柄沢山からの距離が増した事で、よりいっそう絵になる稜線の風景となっていた。もうデジカメパワー炸裂で、バシャバシャと音がするほどに展望写真を収める。今日は何処登っても大展望であろう。周囲の高みで同じ思いをしている方の事を思うと、ぼんやりと見ていた視線が急に焦点が合ってくる。その目で井戸尾根を見ると、小さな点が間違いなく動いている。井戸尾根をスキーハイカーが登っているのだった。微妙に競争意欲が沸いてきて、のんびりしていられなくなった(けっこう負けず嫌い)。1646高点の鞍部に向けて大斜面を滑り降りて行く。下手糞ながらそこそこのシュプールを描きながら気持ちよく落ち込んでゆく。そしてその1646高点のある最低鞍部からは、長い登りとなる。先ほどの点を探そうと見やると、もう居なくなっていた。その代わりに、前巻機の山頂部に5名ほど確認できる。冬季のスタンダードコースは賑わっているのだった。こちらは明け透けの稜線。向こうからも丸見えだろう。この登り斜面、逆コースで降りられれば、広大で最高に気持ちいいだろう。傾斜も緩く目の前に谷川岳を見ながら滑る事が出来る場所だった。
栂ノ頭(1928高点)到着。ツガが生い茂る場所のようで、雪面から何本ものツガが顔を出していた。ただ全くの通過点のような場所で、ここから巻機山本峰まで緩やかな傾斜で雪面が続いている。よって山頂に居る感じが薄い場所となっていた。そしてその本峰を見ると、既に登頂している方が居られた。最終到達地点のトトンボノ頭もここからは指呼の距離にある。その東にある永松山、さらにその先の東五十沢山までさえも行けてしまうのではと思えるほどに、クッキリとした稜線が見えていた。時計を見ると11時半に近い。最終到達地でのおおよその時間を13時に決め、できる限り進んでみる事にした。
栂ノ頭からは巻機本峰の東斜面をトラバースしてゆく。この頃になるとかなり雪が腐っており、長い休憩が予期したシール団子となって現れてくる。写真も短時間で済まし、なるべく立ち止まらないよう心して板を滑らせて行く。牛ヶ岳への途中では、既に木道が出ている場所もあった。そして牛ヶ岳の東側は雪庇が張り出し、その切れ間を探しながら東寄りに登ってゆく。山頂まで行ってしまうと、そこからは降りられず、山頂手前30mほどの場所が雪庇が小さく、ここから東斜面に割って入る。この東斜面も快適で、大きなシュプールを描きながら滑り降りて行った。こちらも既に笹が出ている場所もあり、この稜線も笹地獄である事が伺えた。小さいながらアップダウンが多く、気温低下時だと、風の強い場所でもありクラスト気味になる場所に思えた。こちらの稜線に入り、急に風が強くなった。明日に崩れる予兆なのか、風速10m以上は吹き出してきており、ここに来て雨具を羽織る。雪面もだんだんと硬くなり、グリップしそうな柔らかい場所を選びながら進んで行く。そして山頂を目の前にして、最後は北側に膨らむようにして巻き上げて行く。まともに稜線を伝って行くと痩せた場所があり、そこを回避する為であった。
トトンボノ頭到着。すぐに永松山のある東を見るが、ここから見ると1819高点の東側にナイフリッジが見えた。行って行けないことは無いだろうが、今日はここまで。私の場合は、登りはともかくスキーでの滑りに心配がある。巻機山からの滑走のために余力を残しておかねばならなかった。西にはデンとした巻機山の山塊があり、丹後山側を望むと、手前にネコブ山の尾根、さらに手前に大兜山の尾根が綺麗な筋として見えていた。北側を望むと平ヶ岳のずっしりとした山塊があり、周囲全体が折り重なり、その峰々を見ていると見飽きる事を知らなかった。白湯を飲みながら、空を歩いているが如くに各山々の空中散歩をする。今日の行動は全てに天気の後押しがあっての事。これで視界が無ければ、その広大さが逆に怖さと危険に通じるはずであった。往路を戻る。
風はどんどんと強くなっている様子で、雨具のジッパーは首元まで上げた。牛ヶ岳への登り返しは、往路のシュプールを串で縫うように突き上げてゆく。腐れ雪が板の上に乗るとかなり重い。本当は滑りを重視するなら、もう少し早い時間で下った方がいいのは判っている。スキーヤーで無いので、滑りへの拘りは全く無いのであった。牛ヶ岳に戻ると、スーパーカンジキのトレースが往復していた。私がトトンボノ頭に行っている間に、どなたかが来られたようだ。そのトレースに伝うように巻機本峰へ進んで行く。向かう山頂には一人だけ確認できる。もう14時に近い時間になっており、登頂したハイカーはほとんど下ってしまっている中、少しゆったりとした行動の方のようであった。
巻機本峰到着。山頂部はここだけ地面が出ており、暖かそうな芝生状態となっていた。その片隅に居る単独の方は、シールはがしの途中で、風に煽られないようにコンパクトに畳みながら作業をしていた。作業が終わると、私の板に興味を持ったようで、寄って来られて会話を交わす。そうこうしているともう一人上がってきて、この二人は同じパーティーのようであった。両名はヌクビ沢を降りるとの事であった。井戸尾根登行時に、一部雪が割れているところがあったそうで、この日は米子沢は状態が良くないと判断されたようであった。私と言えば、まったくスキールートを考えてきておらず。“ああそんなコースがあるのか”と聞いて初めて判るような無知さであった。当初は、SD氏同様に井戸尾根を降りようと思っていたので、地図上でその尾根筋を見ていたが、目の前に見える雪の上には、米子沢に下って行く快適そうなシュプールが見える。かなり悩む。見える今はいいが、下に行くと割れていて難儀する状態も頭に浮かぶ。判断はギャンブルに近かった。とりあえず避難小屋までと、シールを剥がしワックスを塗りこむ。そしてバックルを絞めこむと、何となく気合も乗ってくる。
さて滑走。大斜面をトラバース気味にシュプールを刻んで西進してゆく。そして避難小屋付近(雪に埋まっている)まで到達すると、その先は前巻機までの長い登りがある。ここに来てのシールを張っての登り返しはかなり負担となる。先ほど折角気合が入ったのに、僅か10分も経たないうちに、滑りから登りとなるのでは・・・ここで意を決して米子沢ルートを選ぶ事にした。前巻機から東に滑り降りるシュプールはあったが、ここから谷へ入っている跡は無く、波打った雪の上を細かい上下動をしながら谷に入って行く。1700m付近で、巻機本峰から滑り降りているシュプールと合流し、そのまま谷地形に沿って快適なクルージングが始まる。
なかなか幅広の谷で、快適にスラロームを楽しみながら降りて行ける。雪質としてはやはりもう少し早い時間の方が良かったようだが、自然の中を滑り降りる感じが強く、まるで「白銀は招くよ」のトニー・ザイラーにでもなったかのように滑走して降りて行く。「爽快」「快適」、今日はどんな気持ち良さそうな言葉を当て込んでもいいほどに楽しかった。それでも標高1200mから下は、やや斜面からの雪崩もある。見上げると流れが出ている場所もあり、水の流れの場所が、いち早く融雪しているようであった。そして下って行くと、970m付近で大量のデブリが右岸側から左岸側に張り出してきていた。谷の半分は滑れる斜面が残り、そのゴツゴツとした雪を右に見ながら滑って行く。そして谷が終わり平坦地に入る直前で、谷全体がデブリに埋まっていた。左岸側の斜面をトラバースするように、そのデブリを回避するのだが、もう少しで抜けられると言うところで雪が割れていて、対応が間に合わなかった。一気に抜けられると思っていた動作をパッと停めるようにはならず、割れたギリギリでブレーキをかけたので、バランスを崩し割れた方へ落ちてゆく。運よく深い割れ目に入らなかったが、それでも2mほどの深さはあった。やはり最後の最後まで緊張を緩ませてはいけないようだ。目の前が緩斜面なので、間違いなく気を緩めたのだった。
もうここまで来れば後は本当に緩斜面。堰堤を二つ三つと右に見て、その次の堰堤の所に6名のパーティーが休憩していた。これまで続いていたシュプールは、この方々のものであったようだ。軽く挨拶をして先を急ぐ。滑りが楽しいと言うものの、太腿の内側(膝周り)がパンパンであった。我が筋力の弱い部分、鍛えねばと思っているのだが、なかなか・・・。何度も休憩しながら降りて行くと、休憩充分な先ほどのパーティーが追い越してゆく。既に林道上を滑っており間違える事はないが、例の往路に渡らなかった橋のところで、前を行くパーティーが道を間違えていた。リーダーらしき方が橋を渡って正確に林道を伝っているのに対し、後続が井戸尾根側の往路のトレースを伝って行っていた。おやおやと思い、迷っている彼らに無言で指で進路指示。この後、このパーティーに再度追い越されるのだが、中の女性から、「さっきはありがとうございました」と告げられた。ちょっと清々しかったり・・・。今日は何人入山したのか、しっかりとしたスキートレールとなって麓に続き、そこに板を這わせて行くと入山口に到着した。
路肩に停まる車は4台。降り立ってすぐに上の方からスキーを積んだ車も降りて来ていた。巻機本峰だけの登行だったら、10名以上の方と行き逢ったのかもしれない。ちょっとズレたコース取りだった為、まあまあの静山山行だったようだ。SD氏が間違えた橋と言うのは、キャンプ場の所の橋でなく、その次の米子沢に架かる橋のようであった。でもでも、思い違いをしたおかげで、居頭山をタナからボタモチ的に踏むことが出来、大満足。
今日は山スキーの滑る楽しさを、これでもかと体感できた。「長くて」「重くて」「邪魔だなー」なんて思っていたものが、今日は最高の道具に思えた。細く長く続けていると、ひょんな時に最高の体験が出来るものである。これも継続の力かも。