栂立  1928.9m         阿弥陀山    1256.0m     
 

 2010.01.30(土)   


  曇りのち晴れ     単独       栂池自然園内経由で阿弥陀山まで下る          行動時間8H2M


・中央駐車場7:50→(3M)→@ゴンドラ麓駅7:53〜8:10→(41M)→A林道に乗る8:51〜54→(38M)→B栂池ヒュッテ9:32→(107M)→C栂立11:19→(66M)→D69番標識12:25→(29M)→E1688高点12:54〜13:06→(18M)→F屈曲点手前87番標識13:24→(42M)→G阿弥陀山14:06〜22→(37M)→H沢を降り登山道に出合う14:59→(6M)→I橋15:05→(5M)→J発電所15:10→(13M)→K林道入口15:23〜28→(37M)→L中央駐車場16:05


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@ゴンドラ前。出発時は天気が・・・。 ゲレンデから林道へ。この日は封鎖ロープが解かれていた。 A林道に乗る。既に数パーティーが先行している。 B栂池ヒュッテがデンと現われる。
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B雪に埋もれるトイレ舎。 B旧栂池ヒュッテも一階部は雪の中。 栂池平の荘厳な雪原。 奥の方まで広く平。
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我がトレール。 乗鞍岳側トラバース途中から見る栂立側。 浮島湿原付近の起伏の多い地形。 1920m峰
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1920m峰から見る栂立。ここから樹林帯の中に入る。 栂立西側ピーク。三角点の場所より、こちらが高い。  西側ピークより乗鞍岳側。  栂立の尾根上から見下ろす栂池。
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もうすぐ栂立三角点峰。 C栂立 C栂立から西(稜線)側。 C栂立から東側。
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C栂立から北東(栂池平)側。 今日はハーガンのツアー・フリーライド・オフ・リミッツ。 1740m付近の大岩の脇を通過。不思議と居心地がいい場所。  D1828高点から南に続く尾根に乗ると「西栂コース」の標識が現われた。
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1720m峰を北に巻いてゆくところ。正面に栂池のスキー場が見えている。 E1688高点。ここは、すばらしい展望ポイント。 E雨飾山側。 E岩岳スキー場側。
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E稜線側を振り返る。 1688高点からの快適斜面。パウダーラン。  栂池から西山に続くコース標識。  F87番が見えたら右(南)側へ降りて行く。これ以降の標識は見られず。 
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阿弥陀山西側の鞍部平原。正面は阿弥陀山の手前峰。  鞍部平原から見る、降りて来た峰々。  G阿弥陀山(西から東) G阿弥陀山から西側。 
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G阿弥陀山から北(スキー場)側。木漏れ日ハイカー現る。  阿弥陀山南側の谷を降りて行く。  写真のように谷の中を通れる場所もあるが・・・→ 気をつけていないと、小滝などの流れが出ている場所もあった。幅が狭いので気合の下り。 
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こんな快適な谷だが、ブラインドカーブの先に小滝があったり、流れの音を聞く為に聴覚にも神経を集中。  H谷が終わると自然歩道の尾根に出合う。スノーシューのトレースが残っていた。  H「ホウの木平コース28/30」と書かれた標識。  降り立って阿弥陀山を振り返る。 
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I楠川を跨ぐ橋。 J発電所。麓側から撮影。  発電所から僅かに下った場所に「楠川ケルン」と書かれた石積みがあった。  K車道に出てスキーを担いで戻ってゆく。少し登り返し有り。 
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K車道から見る林道の様子。スノーシュートレースがたくさんある。スノーシューのコースがある様子。  L中央駐車場に戻る。     


  

 前週に続き、今回も栂池スキー場のゴンドライブを利用してのアプローチ。目的は二つ。一つに「栂池高原」の名前にもなっている「栂池」を拝む事。もう一つは、積雪によるスキー板の機動力の違いを確かめたかった。前週は長い板で、そこそこの浮力で行動できた。短い板ではどのような苦労が伴うだろうかと、体感してみようと思ったのだった。前回の月曜日から5日経過し、積雪も増えているだろうから、一概に同じ条件とは言い難いが、それでも自分なりに比較できると思えた。私はスキーは苦手、そんな中でも挫折する事無く毎年続けているのだが、長い板より短い板の方がより楽しく滑れる。どちらかと言うと短い板を持ちたいのが本音なのであった。

 
 1:40家を出る。リフトの始発時間の制約があるので、焦って出向く事はなかった。満月を向かえた月明かりが明るく、道中では浅間山の積雪量が夜中であっても判るほどであった。いつものように三才山トンネル手前で割引チケットを購入するのだが、これほど通過するのなら、11枚つづりの割引チケットを買ってもいいように思えていた。大町に入ると、前回は月曜日であり静かな148号だったが、この日は各方面からの週末を楽しむスキーヤーの車で大賑わい。経路のコンビニも黒だかりの人となっていた。テールランプを追いながら栂池エリアに入る。

 
 今日の予定はこうである。栂池のゴンドライブで上にあがって栂池平に行き、栂立を踏んだら東に滑り降り、最後に阿弥陀山を踏んでから下に降りる計画とした。ただし、栂立から下に進むには、なんともライン取りしずらい複雑地形。最後の阿弥陀山にしたところで、どう伝えば最良かは地図からは判らなかった。ただ言えるのは、楠川を跨ぐには阿弥陀山の東側に行くしかなく、そこにある発電所に通じる林道が、地図から読み取れる唯一の使えると判るルートであった。ギャンブルとして阿弥陀山から北側に下って南俣を越えてスキー場の方へ向かうコース取りも考えたが、降りたはいいが渡れなかったらとんだ事になり、ここらへんは選択肢として「それもある」程度に予定しておいた。あとはエスケープルートだが、進度に寄っては往路を戻る。もしくは、何とか栂立を踏め、時間的に厳しかったら南俣とスキー場のリフト設備が一番接する辺りを狙って戻る事も考えておいた。一人での行動であり、色んな想定をして現地で早い判断が出来るよう、地図を睨んで来たのであった。

 
 予定を踏まえて岩岳スキー場側から入り、楠川を越えた先で左(西)側を注意しながら進むと、下山口でなるであろう林道入口は、僅かに除雪されてあり、それにより場所がすぐに特定できた。次は発電所の北に位置する911高点に向けて通じる道を確認と思ったが、除雪の壁が左右に続き、何か閉鎖的な場所に入って行くような感じで、僅かに突っ込んだだけで引き返す。これで下見は終了。次は駐車場だが、ゴンドライブ前の中央駐車場に停めればスタートは早い。しかし下山してからの林道歩きが2キロ強となる。もう一つの駐車場として、鐘の鳴る丘ゲレンデ下の第一駐車場がある。公的駐車場としてはここが下山口に近いので、当初はここに停めようと思っていた。駐車場に入って行くと、深夜でありながら駐車スペースに二人の警備員が居た。ここで駐車場の運営方法を聞くと、夕方の17時で封鎖してしまうとの事。となると、下りが何時になるか判らない今日は、ここに停めておく事は出来なくなった。中央駐車場に行くのだが、私は中央駐車場で駐車料金を払った記憶ばかりが先行して、有料駐車場と思っていた。しかし現地には無料の看板がある。冬季だけなのか、通年になったのか・・・。無料ならここでもいいか、と意を決してスキーヤーの車が溜まる駐車場内に突っ込む。エンジンを切ると、周囲では暖房のためにエンジンを掛けっぱなしの車が耳煩く聞こえる。シュラフなど持ってスキーに来ていないだろうからしょうがないが、それにしても・・・これだからスキーヤーの車とは距離をおきたかったのだが、もう腹を括るしかなかった。こんな時のためにと用意しておいた耳栓を突っ込み、シュラフに包まれる。しばし仮眠(4:50)。

 6:30目を覚まし、小水に出ると、もう駐車場は停める場所がないほどに埋まっていた。ガラガラとディーゼル音を響かせている車もあり、他人の事を気遣うより、自分の寒さなのだろう。車に戻り、始発まで読書タイムとなる。7時になると、人の動きがゴンドラの方に向いていた。まだだろうと思いつつ、ぎりぎりまで粘って、始発10分前にチケット売り場に行った。すると長蛇の列。結局始発に乗れず、8:10分頃になってゴンドラに乗り込んだ。ゴンドラ内では若い女性ボーダーと二人きり、前夜食べたニラのお吸い物の匂いが気になったり・・・。

 
 リフトトップから林道に向けて滑り降りて行くと、既にそこにはしっかりとしたトレールがついていた。月曜日は封鎖してあったペアリフトゲレンデも、滑ってゆく途中に始動しだしていた。そして林道に取り付くと、そこには10名ほどがおり、スキーヤーはシールを張っており、ボーダーはスノーシューに履き替えていた。先行して出発しているパーティーも居るだろうし、この後に来るパーティーも居るだろう。流石にここは山スキーヤーにとっての定番の場所。人気の場所のようであった。シールを張って板を滑らせて行く。月曜からの降雪は30センチほどあったようで、周囲の雪は増えていた。今日は林道を素直に伝わず、先行者のトレールに乗ってショートカットで繋いで行く。早大小屋、大経大小屋とショートカットし、成城大の先からほとんどのトレールが天狗原を目指していた。あと一部、鵯峰を目指して上がって行くパーティーも見られた。そしてビジターセンターに向かっているトレールは皆無。それが少し嬉しかったりする。

 誰も踏んでいない真っ白な雪の上に、我がトレールが残るだけ、優越感と言おうか・・・。林道からビジターセンターに向かう手前で、深い凹地があるので要注意。雪面より3mほど落ち込んでおり、それが林道の延長線上にあった。注意しながら左から巻き、栂池ヒュッテの前を通過してゆく。ここの建物は全て大きい。それにより屋根から落ちる雪も膨大で、屋根雪の下にならぬよう注意しながら西側に出る。トイレ舎は完全に雪に埋もれ、屋根が雪面から僅かに出ているほどに埋もれていた。

 
 冬季の栂池平に立つ。西側を見ると遠くに2015高点らしき高みが見え、その麓まで一面はまっ平な雪原に見えた。目の前の乗鞍岳はまだその姿は見せず、ガスに覆われていた。さあどれほど足が潜ってしまうのか。酷いラッセルなら、途中で諦める事も有り得る。頑張って行けそうなほどの沈み込み量か・・・。雪の堅さを確かめるように左右に振りながら進んで行く。結果は意外に沈まない。沈んでも膝くらいで、板の短さがマイナス要因にはなっていない事が判った。これならと、半信半疑でここまで来ていた気持ちが晴れてゆく。と同時に明るい太陽が雲間から姿を現し、周囲がより荘厳な場所に映った。意気揚々と足を進めてゆく。それでも軽いラッセルはラッセル。踵を入れるように踏み込みつつ、スキートップが雪面に出るようにして雪を分けてゆく。先ほどまっ平に見えていた雪原は、次第にうねるようになり、そのうねりが太陽に輝いて、またまたすばらしい景色となっていた。景色とは裏腹に、今日は少し体調不良。いつものように軽い気胸になっているようで、左肺の上の方が痛む。肋膜と肺の間に空気が入っているようだ。呼吸方法、呼吸量に最大限の注意を払い進んで行く。

 
 湿地を突っ切る方法もあるだろうが、アップダウンを避け、なるべく乗鞍岳側斜面をトラバースするように進み、登り返しを軽減させる。ただ、その乗鞍岳側から雪崩がないかどうかは、要注意。あまり樹木がないので、あった場合は一気にやられてしまうように見えた。高度計を見ながら、1900mの標高を保ったまま暫く西に進み、途中で斜面傾斜が強くなった辺りで、浮島湿原側に滑り込んで行く。複雑に入り組んでいる湿原内の起伏が、今は真っ白い雪でコーティングされている。その景色は、進んで行く足に活力を与えてくれていた。ここまでなら積雪が無くても湿地内の遊歩道に伝えば来れるだろう。しかし目指す栂池と栂立は、そこから外れる南に位置している。当初は4月5月頃で決行としていたのだが、雪と戯れるなら今が一番。あと3〜4ヶ月を待っていられなくなったのであった。

 
 浮島湿原では、湿地内の東にある1920m峰が顕著な峰となり、その顕著さが、そこが栂立なのかと見えるほどであった。ほとんど無毛なピークで、そこから南を眺めると、モンスターのような針葉樹林の先に、栂立らしい高みが見えた。そこに直線的に向かいたいものの、地形図からは深い谷が入っており、現に目の前に見える地形も複雑に起伏している。西に膨らむようコース取りしてモンスターの中を縫って行く。ここでオヤッと思った。栂池、栂立、栂池平、等々で「栂」の名前が出てくる。当然周囲の植生はツガ(植物名はカタカタ表記)が多いのだと思っていた。そう思って樹木の表皮を見ると、ツガではなくシラビソが多い。はたしてどこにツガが多いのか・・・はたまた私の見間違えか・・・。今日は晴れており視界があるからいいが、これが視界不良だったら嫌な通過点となるであろう。振り返り、そこに付いて来る一本のトレールを見ながら、平原の広大さを反芻するように実感するのであった。

 
 栂立側の西峰と言えよう場所も顕著な峰であり、先ほどの1920m峰と同様に、ここが栂立だと見えていた。そこから南を見ると、大きな窪地があり、それが栂池だと判った。30mほど高度を下げればそこに行けるのだが、端折って木々の間から池を拝む事にした。当然水面は雪に覆われており見えない。今はただの窪地だが、これが見たかった栂池であるのだった。広い尾根上を僅かに下り、再度緩やかに登り上げると栂立の山頂であった。

 
 栂立の山頂は、ダラッとしているものの360度の展望がある。まだ稜線側がガスに覆われているのが残念だが、何とか天狗原側は見えていた。下には岩岳スキー場も見え、東に目を移すと雨飾山のゴツゴツとした山塊も望む事ができた。一応目的地到着。さあ後はどう行動するか。12時半頃の登頂を予定していたが、意外に早く、その予定より1時間短縮で届いている。ザックに腰掛けながら白湯を飲みつつ地形図を眺める。天気もいいし、往路を戻る選択肢はなかった。シールを外し1688高点目指して滑り降りる事とした。

 
 栂立東側の降り始めは、狭い尾根で急峻。そしてフカフカであり、雪煙を上げながら急下降。楽しい反面、ちょっと雪崩が怖いような場所であった。降りきると緩斜面になり、谷形状の中を滑ってゆく。ただここでその谷は1722高点側に向いているので、途中で北(北東)側を意識するようにして進んで行く。途中で大岩のある通過点があり、ここでの登り返しがきつく、シールを張って登って行く。そして1722高点の東側に落ち込む谷に入り、少し南東側に滑り降り、1750m付近で水平に東に移動し1828高点から落ち込む尾根上に乗った。するとここで思いがけない人工物が目に入った。遠目からも目立つので判ったのだが、スキーのツアーコースを示す道標であった。そこには「西栂コース 69」と書かれている。しかし現在地は栂池平に対して西に位置せず、南か東に居る。「西」とは栂池とどこかを結ぶポイント名だと判断できた。地図を見ながら「西」の文字を探すと、岩岳スキー場の麓に西山地区がある。おそらく栂池と西山を結ぶツアーコースなのだと推察できた。ここに来て出会った標識に、人にでも遭ったほどにホッとさせてもらった。でも驚いた。こんな場所にルートがあったとは・・・。ここに来るまで知らなかった。そしてここに標識があると言うことは、間違いなく栂池経由で1828高点を通過して下ってくるコースとなるだろう。となると、冬季ルートから逸れる栂立を、踏んでいる方は稀だという事になる。ひとつの標識の発見に、様々な思いが巡るのであった。

 
 標識を発見し意気揚々としていたが、その喜びもつかの間、ほとんど次を見る事がなく、かえってルートを外している不安が伴った。完全に逆効果である。目の前に1720m峰がデンと立ちはだかり、登り上げるのが面倒なので北側をトラバースして行く。もしかしたらツアーコースはこのピーク(尾根)を通っているのかも。しかし北側を巻いたルートでも上手く1688高点に向かって行き、危ない場所もなくスムーズに進んで行けた。その1688高点だが、地形図上では肩的場所になるが、このような表記な場所は、顕著なピークが多く、ここもスクンとした円錐形のピークらしいピークであった。最後の登りが急で、またまたシールを着けての登頂となった。

 
 1688高点の山頂には一本の枯れた木があり、周囲景色になぜか映えていた。展望も良く、振り返ると稜線の峰々がくっきりと青い空に浮かび上がっていた。天気の影響もあるが、今日一番の展望は、ここからの展望となった。耳を澄ますと、栂池からのアナウンスと、岩岳からのアナウンスが風に乗って聞こえてくる。だんだんと下界が近い事が判り、少し安堵感が出てくる。空も青さが強くなり、妙高や雨飾山の頂がくっきりと判るようになっていた。

 シールを剥がし、固形ワックスを塗りこんで一気に下って行く。私の技量において、ここからの傾斜はとても楽しく。しばしのパウダーランとなった。樹林間隔も広く、この上なく気持ちがいい。これがあるのでここはコースとなっているのだろう。尾根上を南俣に向かうように下って行くと、1480m付近で、この日2つ目の標識を見る。そこには「栂池☆西山」としっかり西山の文字を確認できた。これで間違いない、西山に通じるツアーコースである事が確定である。そして1430m付近にも「87」と書かれた標識を見て、1420mの肩的場所で東進から北東に進路を変えて阿弥陀山に向かって行く。この下降は上の方こそ良いが、下に行くに連れてブッシュのように細かい植生があり、それらにかなり叩かれながらの滑りとなる。緩斜面になると今度は雪面の凸凹とした起伏が多くなり、下り勾配であるものの滑り辛い場所となっていた。少し北寄りに進んでしまった為に、阿弥陀山の手前の平原に行き着く前に登り返しが出てきてしまった。ここは少し南を意識して通過した方が良かったかもしれない。阿弥陀山への登りは至極緩やかで、周囲はブナ林でかなり気持ちがいい。手前峰を南から巻いて、その先が三角点のある山頂であった。

 
 阿弥陀山山頂。振り返ると、通過してきた尾根が複雑に入り組んでいる。“難しかったなー”と言う印象であった。ザックに腰を下ろし、最後の地図確認。ここからの進路が、一番の核心部であると思えていた。上から北を眺め南俣を見下ろす。北側への急峻はどうにか下りられるとして、谷の雪が織り成す陰影が、簡単に渡れそうに見えなかった。やはりここは東に進んで楠川を渡るのが無難であるのだった。このまま尾根上を東に行くか、少し西に戻るように降りて行き、信濃路自然歩道に乗るかの選択になった。等高線を見ながら、密になっている東側を避けて少し滑りを楽しめそうな南西側に滑り降りる事とした。

 
 下降開始。少し日が上がって雪面が熱しられたせいか、南側斜面はスキー板にくっ付くような雪であった。足の裏が重いと思えるような感じを受けながら滑り降りて行く。そして深い谷の中に入る。今思うと、ここで南側の尾根筋に乗ってしまえば良かったのかも知れないが、谷に入って見上げる尾根筋は、急峻でかなり高い位置にあった。立ち止まって1分ほど悩んだが、結局谷を降りる事にした。狭い谷で、デブリも時折ある。ただなにかゲームのアトラクションの中に居るような錯覚を思うほどに狭くクネクネとしている。スピードを殺すように左右の壁を使いながら高度を下げる。時折水の流れが口を空けていて、進んでは立ち止まり、耳を澄まし水の流れを察知する。小滝を巻く様な場所もあり、本当にかなり気合を入れてスキーをするはめになった。下腹に力を入れて、全神経を二本の板に注ぐ。バランスを崩せば流れのある雪穴の中に落ちてしまいそうな場所が数箇所あった。そんな脇を緊張の糸を繋いだまま通過して行く。果たしてこのルートが正解だったのか。今でこの状態なら、後になればもっと流れが出ているだろう。時期が早ければ雪が埋まっていないだろうから。ここを通過できる最適な時期に降りてきているのかもしれないと思えた。早く下が見えないかと、緊張の連続に、下っ腹が痛くなるほどに気合を入れる時間が続いていた。当然のように下に行くに従い、水面はどんどん姿を現し、流れの音も大きくなる。8割がた左岸側を辿り、後半は右岸を滑り降りた。滑りもそうだが、流れの音を聞き分ける聴覚にも神経を使う下りであった。五感を使って自然を楽しむ。そのものでもあった。

 谷形状が終えると、目の前に驚いた人工物が現れた。それはスノーシュートレースであった。こんな時期にここを登るのか、遊歩道はあるのは判っていたが、特に名の知れたピークがあるわけでなく、無積雪時に楽しむ場所と思っていた。それが、目の前には10人以上が通過したと思えるトレールがある。こんな場所に大人数でのパーティーが入るなんて・・・。でもこのトレースはありがたく、この先の緩斜面が踏まれて堅くなっていたので、板が良く滑ってくれた。橋を渡り、その先で左側に見えてくる大きな建物が、発電所施設であった。その南側を通過して行き、右手の楠川側を気にしていると、樹林帯の中に「楠川ケルン」と書かれた石積みがあった。大きなケルンであるが、暗い中に設置してあり(樹木が生長したのだろうが)なにせ目立たない。でもここにこれだけ大きなケルンが有るという事は、昔のルートがあった事に揺ぎ無い。こんな発見は山行のアクセントになり、楽しさを与えてくれる。

 トレールを追って行くと、途中にカラー地図が掲示してあり、それはこの周辺のスノーシューコースの地図であった。これでトレールの存在が理解できた。大パーティーが入ったかもしれないが、スノーシューのツアーコースがあり、何人も入る場所なのであった。車道に出て板を脱ぐと、そこでは太腿まで潜るような積雪であった。スキー板の恩恵をヒシと感じる。スキー板をザックに結わえて車道を登ってゆく。スキー帰りの車列に、じろじろと見られながら、時折泥はねを受けながら戻ってゆく。途中にスノーシュースクールと言えよう、雪上歩きを案内するお店があった。先ほどのトレールは、間違いなくここの参加者のものであろう。

 テクテクテクテク。行き交う車に注意しながら車道を戻ってゆく。途中では地元のおばあちゃんがにこやかに挨拶をしてくれる。ホッと疲れが取れるような場面であった。中央駐車場へは、鐘の鳴る丘側から入り、ゲレンデ内から中央駐車場に降り立った。

 歩いた感があり、滑った感もある、楽しいコースであった。地形の複雑さがあり、ルートファインディングを楽しみながら滑り降りられた。最後の阿弥陀山からの谷下降で、これまでにないほどに滑りに集中したのだが、その緊張した時間が、そのまま楽しめた時間にも通じる。途中で出会った「西栂コース」の看板も嬉しい発見であった。天気も幸いして、十二分に楽しませていただいた。

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