山ノ神  1990.1m       赤倉山    1649m        稗田山   1443m
    

 2010.01.25(月)   


  晴れのち雪     単独       栂池高原から天狗原に上がり白馬コルチナ国際に抜ける          行動時間8H48M


@駐車場7:47→(6M)→Aゴンドラ麓駅7:53〜8:00→(37M)→B林道に乗る8:37〜39→(107M)→C天狗原10:26→(85M)→D山ノ神11:51〜56→(49M)→E73番標識付近12:45→(28M)→F赤倉山13:13〜26→(23M)→G73番標識再び13:49→(20M)→H1534高点14:09→(67M)→I稗田山15:16〜32→(5M)→J白馬コルチナ国際スキー場頂上駅15:37→(32M)→K白馬乗鞍スキー場駐車場前16:09→(26M)→L栂池側駐車場16:35


cyuusyajyou.jpg  gondorakara.jpg  rindou.jpg  rindougerende.jpg 
@栂池地区の856.9三角点南側駐車場。 ゴンドラから見る周囲の山々。この時は視界良好。 B林道に乗り、シールを張って登って行く。既に強風。 B林道から見るゲレンデ側。
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2100m付近から見る天狗原。 先行パーティーが休憩中。追い越して振り返る。 C天狗原の祠。横殴りの雪。 天狗原の北側にあるアンテナ塔。
tocyuukarayamanokami.jpg  yamanokami.jpg  nishigawa.jpg  yamanokamihigashi.jpg 
2072高点北東側から見る山ノ神。 D山ノ神到着。今日はスキートラーブのフリーランドー。 D山ノ神から天狗原側を振り返る。 D少し視界が開け、東側が見えてくる。
tsua-.jpg  38.jpg  tore-su.jpg  tocyuukaraakakura.jpg 
天狗原と白馬乗鞍スキー場とを結ぶツアーコースの標識。 降雪の中では、このオレンジ色がよく目立つ。  E「73」番標識の西側に休憩したトレースが残る。スキーヤーはここから黒川沢に滑り降りていた。  途中から見る赤倉山。
akakurahigashi.jpg  akamiraminami.jpg  akakuranishi.jpg  73.jpg 
F赤倉山山頂。東側を見ている。  F赤倉山から南側。 F赤倉山から西側。  G「73」番標識まで戻る。
1534.jpg  anbukara.jpg  kyouryou.jpg  gare.jpg 
H1534高点から西側。  稗田山西側鞍部から見上げる。  稗田山の狭稜。北側は切れ落ちている。  落ちている北側斜面の様子。 
hiedayama.jpg  hiedahigashi.jpg  nishi.jpg  hakubakoruchina.jpg 
I稗田山山頂。  I上ってきた狭稜。  I稗田山の西側。  J白馬コルチナ国際スキー場の頂上駅。 
hakubanorikuracyuusya.jpg  cyuusyajyoukaeri.jpg     
K白馬乗鞍スキー場の駐車場前に滑り降りる。  L駐車場到着。     



 富山のトヨさん御一行が、山ノ神尾根に入る情報が入った。それならちょっと驚かせてやろうかと、密かな行き先にしていた。そう「ドッキリ」を狙っていたのだった。がしかし、悪しき魂胆は上手くいかないもので、その23日は生憎の出勤になってしまった。翌日曜日もそこそこの天気であったが、連日の出勤となり、大事な休日が無くなってしまった。煮えきれないまま週を明けるのは納得がいかず、休暇を取って月曜日に山に入る事にした。
行き先は当初の予定とおり山ノ神尾根。経路にある「山ノ神」「赤倉山」「稗田山」の3座を踏みながら、スキーを楽しむ事とした。天気はまずまずのようだが、日本海側から早めに崩れだすようだ。スキーリフトを使うことで、スタート時間が遅い(8:00始発)のが気になるが、まあ楽をさせてもらうのでしょうがない。スキー場に運賃を問い合わせをし、事前準備完了。そして地形図を眺めるが、けっこうに複雑地形で重要ポイントが沢山あり、頭に叩き込めず現地対応とした。


 1:30家を出る。西空にあるオリオン座は少し低い位置に移動し、半身を山陰に隠すように見えていた。関東エリアはこのまま晴れだろう。はたして信州の日本海側は・・・。眩いばかりの白銀の峰々を連想しながらハンドルを握っていた。三才山トンネルに潜り松本に出て、お決まりコースで大町に入る。今日はやけにパトカーの徘徊が多い。土日と違い平日だからだろうか。融雪剤を散布する車も頻繁にすれ違う。おかげで路面の雪が無いのはいいが、塩カルの影響で急速に車が痛む。安全優先だが、痛し痒しと言った部分でもあった。栂池高原の看板から148号を別れ、九十九折を登り栂池高原スキー場に到着する。駐車場には7台のみ。所謂閑散とした駐車場風景であった。

 次に下山側の白馬乗鞍スキー場に行く。経路の道路の様子、勾配、そして駐車余地を見ながら進む。連絡道路の左右には当然のように雪の壁があり、それによるブランインドカーブも多い。路肩の歩道もないので、車の交通量の少ない時間に通過したい。連絡道路の通過を、「行き」か「帰りか」に決めるのだが、朝は遠方からのスキーバスの到着も多いだろう。外気温はマイナス14度、路面に降り立つとけっこう凍っている。ここらへんを加味して朝のゴンドライブへの歩き時間を短くし、栂池高原側に停める事とした。ちょうど856.9三角点の南側にトイレ付きの大きな駐車場があり、そこに突っ込む。大型バスも数台停まっており、気兼ねせず停められる場所となっていた。ここでしばし仮眠(4:40)。


 6:30目を覚ます。この駐車場は遠方からのスキーバスの駐車場のようであり、この日のバスがどんどん入ってきていた。ゴンドラが8時始発、逆算するが行動開始するにはまだ時間十分。しかし見上げる銀嶺はモルゲンロートとなっている。歩きたいのを我慢してしばし読書タイムとなる。時折聞こえるチェーンのシャリシャリと言う音がとても耳心地いい。このまま山に登らずともいいのでは、と思ったり・・・。それでも7:30になり、準備をしだす。昨晩は降雪もあったようであり、今日は長い板を選択。ただ尾根の様子が良く判らないので、長さが裏目に出る場合もある。ここはカケでもあった。


 駐車場からゴンドライブの麓駅に向かって行くが、流石に月曜日、周辺の店はひっそりとしている。券売所の前には、9名。これぞ平日と言った感じであった。1380円(ちょっと不確か)を払い、片道のチケットを購入する。5分ほど待ったのち、8時ちょうどにシャッターが開き乗車が始まる。ゴンドラの窓からは朝らしい風景が広がり、白馬方面もクッキリと見えていた。しかし、目指す高みの方は雪煙が上がっている。そして薄っすらとガスが覆いだしてきていた。ゴンドラ山頂駅に到着し、東に滑り降りて行く。林道寄りのペアリフトは運休していた。リフトの運賃を事前には210円と聞いていたが、現地では240円だった。まあいっか。山頂駅に降り立ち、ゲレンデを西に横切るようにトラバースして行く。途中には進入禁止の柵があり、その目の前にコース整備をする作業員が居たが、ロープを潜っても何も言われる事は無かった。暗黙の了解となっているようだ。


 林道に到着すると、既にテレマーカーの2名のパーティーがシールを張っているところであった。こちらもサッと張って先行する。地吹雪のような雪を受けながら、雪上車で圧雪された雪の上を板を滑らせて行く。なぜにここが圧雪されているのかは不明。叩きつけられる雪に、頭部がジーンと痺れる事数度、それに負けないようにガツガツと歩き体温を上げてゆく。後から上がって来ているハイカーは、私が林道をトレースして行くのに対して、上手にショートカットして登って行く。積雪期のここをよく知っている事が伺える。彼の足許は幅広のファットスキー、やはりこの時期はファットが楽しいようである。そして多くスキートレースは、成城大学小屋付近から谷形状の中を登り、滑り降りていた。私はこの山行の後(後日)に、栂池の名の元になっている「栂池」を目指す予定があり、その下見のためにビジターセンターに向かって進んで行く。


 ビジターセンターは、雪の中からデンとした大きな姿を現した。雪上車の圧雪はここまで続いていた。流石に湿地側に向かっているトレースは無く、向かう場合はラッセル覚悟の上となる。さてここから北側の小尾根側に向かわないとならないのだが、その手前には急峻地形がある。地形図からはここに夏道があるわけだが、積雪期の今は、立ち止まって見上げてしまうような場所となっていた。この急峻を見てしまうと、先ほどの成城大学の場所からの谷ルートは正しい事になる。戻れば登り易いのであろうが、果敢にも這い上がってゆく。この時期にほとんど踏まれないからだろうか、雪が柔らかく、なかなか足上げが辛い、そして核心部の傾斜地帯は、細かい九十九折を切りながら体を上げてゆく。その途中にはツアーコースを示すような標識が有った(一つ)のだが、滑り降りるならいいとして、登るのはちと・・・。


 尾根に這い上がると、快適な勾配で南西側に進んで行ける。少しビジターセンターから喘いで登っていた時間が長く、後続の方が谷登りで先を行っているように思えた。そう思い先の方を見やると、8名ほどが200mほど先行した場所に見えた。“あんなにたくさん後ろに居なかったな〜”などと思いつつも、“やはり谷登りのほうが早いのか”とこの時は完全にルート選択をミスったと思っていた。シールに物を言わせ、スキーの先を山側に向け直登を決め込む。上を行く方々の、今の今のトレールが、雪と風に消され見えなくなっている状態であった。そして天狗原の平坦大地に掛かる頃、先行パーティーに追いついた。スキーとスノーボーダーの編成パーティーで、途中で行き会った方とは違っていた。ゴンドラ始発には居なかったので、どこかの小屋からの出発のようであり、皆学生のような風貌であった。僅かに伝えたトレールの礼を言って先行する。それはそうと、林道途中で行き会った若者は・・・と探すも下の方にも見られず、テレマークのパーティーも居ない。全く見えないのも不思議で、強風で引き返したのか・・・と思えた。その代わりと言っては変だが、単独行のショートスキーの男性が追い抜いてゆく。凄い足の回転で登って行く姿に、脚力の強さを感じる。そしてほぼ同時に天狗原の祠に到着する。


 男性はきちんと板を脱いで祠の前で頭を下げる。その姿を見ながら山を愛する人の温かさを感じる。私は不躾ながら、板を履いたまま拝礼となる。西からの横殴りの雪。その風雪に、ゴーグルが無ければ乗鞍岳側が見ていられないような状態であった。ここが今日の最高地点。しかし休憩せずにそのまま北に進んで行く。いつのものかは判らぬが、千国揚尾根を伝って来た(行った)様なトレールがあり、しばしそれに伝ってゆくと、雪の中に大半が埋もれたアンテナ塔に辿り着いた。トレールはさらに北に行っており、風吹大池とここ天狗原を繋げてスキー山行を楽しんだに違いないと思えた。現地点は2150m、ここから東にある2072高点を睨みながらの滑走となる。実は、山ノ神尾根へ入る冬季の正解ルートを知らないで来ている。夏道のある北側のなだらかな斜面を選択したのだが、その緩斜面の今は、フカフカ過ぎてちょっと滑りにはならず、シュプールを刻む事無く、加速をする為の直滑降が続く。途中でおいしそうなバーンがあり左(北)側に下るのだが、あまり調子に乗ると主尾根に戻るのが辛くなるので注意したい。少し滑りを楽しむ為に北東側に滑り降り、南に戻るように登り返す。

 尾根に登り返すのに、東経137度50分のラインの西尾根を登ったのだが、ここがフカフカでかなり難儀する。雪庇が東側に張り出しているので、足を乗せぬよう、切り崩さぬよう注意しながら登って行く。登りながら山ノ神のピークへ続く尾根が、弧を描くように綺麗に見える。まるで湾のような情景であり、擬似的に雪を白波に見立てて一人楽しむ。カメラを構えたいが、風が強く、出す事さえも端折らせる。主尾根に乗ると、先ほどまでフカフカだった雪は一変し、クラスとした雪面となった。と言う事は、ここは風の通り道なのか、いつも風が強い事が想定できる。それでもスキー板が沈まずに進めるのでかなり楽になった。しかしそれもつかの間、地形ではなく、積雪によるアップダウンの連続となる。もしこれが3月4月頃の締まった雪だったら、かなり難儀する尾根に思えた。今だからこそ、柔らかい雪を切り崩しながら進めるが、堅くなれば終始エッジを利かせながら進まねばならない。“ここの適期は今なのかも”雪の上をうねりながら、そんなことを思うのだった。


 山ノ神到着。狭い山頂を想像していたが、雪のおかげなのかけっこうに広い山頂部で、展望が良ければ居心地の良い場所であった。生憎天気は完全に下降線。先ほど居た天狗原も、既にその姿は雪にかき消されていた。じっくりと地図を眺め、この先の複雑地形に備える。山ノ神尾根と名がつけられているが、東にある浦川まで顕著に続く訳でなく、地形だけ見ながら伝って行ける人は、よほどここを知った人であろう。私のような初めて踏み入れる者は、都度読図をして進んでいかないとならない。スキーは進度が速いので、それを怠ると大きなしっぺ返しが来る。滑りの楽しさの反面、慎重な行動が必要となるのだった。まあ私の場合は机上での予習時間が少ないのがいけないのだが・・・。


 さて下降に入る。良く判らぬまま降りて行くと、天狗原より白馬乗鞍スキー場へのツアーコースの看板が現われた。最初に目にしたのが「36」番で、先に進むに連れて、どんどんと数字が増えてゆく。昔からあるものが白色で出来たものらしく、新規のものはオレンジ色の蛍光色が塗られていた。それらを追うように下って行く。ことに、1894高点の西側からの広い地形の中では、進路を決めるのに際し、ありがたい導きとなっていた。ただ下側に向かうのではなく。横ズレ気味に進ませる所もあり、標識を拾って進むにもオリエンテーリングをしているような、そんな様相であった。なかには雪に隠れている標識もあり、こんな時には、やや高い位置にある昔からの長い長方形のプレートがありがたい目印となっていた。シュプールを刻みながら、雪煙を巻き上げながら滑り降りて行く。スキーの下手糞な私にとっては、山ノ神尾根からの下降点から下が、とても快適なバーンであった。

 重力に任せ高度を落としてゆくのだが、スキーヤーならそろそろ黒川沢へ降りるタイミングである。ここでの私は、やはり山屋、赤倉山を踏まずに帰ることなど有り得ない。どこでツアーコースを離れるかを迷っていたが、地形的に赤倉山の真南まで進んで北に進む方法がベストのようだ。標識を追いながら進み、「73」番に到達した。その手前にはかなり踏まれたトレースが残り、そこから進んでいる方向は黒川沢の方であった。それとこの先にも登りのトレールが残り、どうやら白馬コルチナ国際からのアプローチでここに来ているようであった。これまでの東進から90度左に方向を変え、北進が始まる。もう少し早くに北に向かえば良かったが、あまり視界が得られないので少し東に進み過ぎていた。赤倉山に向かう尾根を左に置きながら、トラバース気味に下って行く。やや複雑地形で、うねりながら進むような感じであった。途中から目指すピークが見えてくるのだが、その手前に大きな谷が立ちはだかる。ここでも東に寄り過ぎていたので、谷が落ち込む側を見ており、より深く感じていたのだった。西側を見ると、うまく尾根が続いているのが見え、ホッとする。それでも手前にある、谷の源頭と言うべき鞍部からの登り始めは急峻で、潅木を掴みながら長さの邪魔になった板を無理やり上げてゆく。この地形は、苗場山の北西にある、横山の東側斜面(冬季)にそっくりであった。赤倉山の山頂部は、地形図通りで、東西に2つのピークがあり、登ったと思ったら深く下り、再び登り上げる。


 赤倉山到着。なにか標識があるかと期待したが、皆無。静かな落ち着く場所となっていた。残念ながら視界があまり無く、往路に使った斜面が見える程度であった。ここをどれだけの人が踏んでいるのかは判らぬが、ツアーついでにちょっと寄るには適当な距離であり、面白いかも。ただ、到達して気持ちいい場所とは違うので、そこらへんはご了承のほどを・・・。さて戻る。西側の峰との鞍部まで下り、そこからは西のピークに上がらず、南の谷側へ降りて行く。けっこうに勾配が強いので、雪崩を起こさぬように注意しながらスキーを滑らせ谷に降りる。そして西側に上がって往路のトレールに乗る。途中で少し進路を西寄りにとると、とても歩き易いなだらか地形であった。往路にうねりながら通過してきたのがウソのように、ヒールサポートは1段上げた状態のまま登ってゆくことが出来た。


 「73」番に戻り、次は最後の稗田山を目指す。樹林の中をポールに見立てて快走してゆく。と言っても私の場合は淫らなシュプール。膝周辺にも疲労感があり、何度も立ち止まって休憩を入れながら、言わばずり落ちてゆく。高度を落としてゆくに従い、どんどんと視界が悪くなる。雪面の起伏が見えない状態になり、何度もコケるはめに・・・。そして1534高点手前鞍部で、トレールは左(東)側から進んできていた。1534ピークに進んで、とりあえず登頂。進行方向の先、南東側にはトレールは皆無で、先ほどの東側を見下ろすと、これまでのオレンジ色の標識が降りて行っていた。視界が良ければこの北側が大崩落地帯であり、それが見られるはずであったが、不運なのか幸いなのか、視界不良の為に見ることは出来なかった。そのおかげか、怖いもの知らずで大崩落の縁の上をスキーを滑らせて行く。途中で夏道は黒川沢の方へ降りて行くようだが、その下降点を判らぬまま稗田山側に進んでいた。判らぬと言っても、下降点を過ぎたのは登りが始まるので地形から判る。地形図通りに小ピークがあり、それ以外にも積雪での細かいアップダウンがある。すると、目の前に黒く鋭利な三角錐が見えた。間違いなく稗田山である。その恐ろしさは北側で、雪が付いている垂直に近いそこは、鋭利な刃の様にも見えた。どうに登ればいいのかと思いながら進んで行き、直下の鞍部まで到達した。目の前には見たとおりの急峻が待っていた。そこにやはりコルチナ側から進んできた、スキーヤーのシュプールが刻まれている。滑り降りるにはいいが、どう登ろうか。ここで諦めて黒川沢に降りてしまう方法もあるが、ニンジンをぶら下げられたこの状態で、ニンジンに食らえつくのが私であり、気合を入れて這い上がってゆく。

 堅い体に四苦八苦しながら股関節を動かし、スキー板をターンさせながら、徐々に高度を上げる。するとある高度で、スキーヤーのトレールが、山腹を東にトラバースしだした。“そうか、ここまま横にずれればリフトなのだ”と判った。こちらから山頂にアプローチせずとも、リフト側の東からも狙える訳であり、地形図を見返すと、東の方が傾斜が緩い。登頂に向け、少し明るさが見えてきた。トレール上にスキーを滑らせて行くと、耳からそれと判る滑車音がしてきた。そして自然の中に人工的な構造物が目に入った。あまり利用者が居ないのか、人の姿は無い。ここですぐに平地の人になる訳には行かず、最後の一座のために、踵を返すように北西に登り返して行く。なだらかと思った斜面は最初だけで、山頂が近づくと恐ろしい風景が目の前に広がった。右(北)側は鋭利に切り落ちていて、山頂側には積雪によるナイフリッジが続いていた。そこにはどなたかのトレールがあったものの、そのトレールが途中で谷の方に落ち込んでいた。滑落したのではないのだろうが、ちょっとしたことで雪の固まりが落ちて出来た筋のようであった。これ以上ない真剣さで、一歩一歩を進めてゆく。北側が怖いからと言って南側が安全な訳ではない、南は伝って来た樹林側だが、ナイフリッジの雪庇が僅かに南に張り出し、そこに足をかけて崩れれば、頭は必然的に北側に倒れ、まかり間違うと崩落側に落ちてしまう。バランスよく進んで行かねばならなかった。視界が無いことが幸いしたのか、見えていれば足がガクガクしていたかもしれない。


 稗田山到着。ここにも標識は無く、雪で出来たこんもりとした場所となっていた。ザックに腰掛けて白湯を飲みながら休憩とする。もう少し早くに到達できると思っていたが、既に午後3時を回ってしまった。それでも、僅かに進めばゲレンデに踏み入れられることが判っているので、ここまで来ればもう、との思いもあった。アップダウンが多かったので緩めたままにしていたスキー靴のバックルを、しっかり固定し滑降に備える。今日はスキーリーシュを忘れて持って来ていない。それを思いながらビンディングに靴を入れ、カチッと音を確認して、いざ滑走と思った時、なんと右足のスキー板だけ先に流れ出した。そう、しっかり留まっていなかったのである。深雪のために良く見えなかったのもあるのだが、頭にリーシュの事が浮かんだ事が、注意勧告だったようだ。深い雪のために板が停まったから良かったが、あのまま流れて、ましてや崩落側に落ちようものなら目も当てられない。ここから一本の板で下りられる技量などもなく、一瞬血の気が引いて行った。“ちゃんとリーシュは持とう”、強く思うのであった。樹林帯のある南側に滑り降り、トラバース気味に東に向かい、リフト頂上駅前に降り立つ。ここでも雪面が良く見えず、最後2mほどの段差をジャンプして堅いバーンに降りてしまい、ドテッとコケる。先ほど静かだった山頂駅には、ボーダーが屯しており、変な場所から降り立った私に、冷ややかな視線が・・・。そして逃げるようにゲレンデ内を南東に下って行く。


 困った事に白馬コルチナと白馬乗鞍の両スキー場を繋ぐリフトは運休しており、そのゲレンデも封鎖してあった。そこに書いてある注意書きには、雪崩発生の為とあったのだが、たしかに、以前にそのニュースは聞いた事があった。ただそれが、目の前のここだとは、今の今まで知らなかった。どうしようか迷ったが、コルチナ側に降りたのでは、帰りの車道歩きが長くなってしまう。一か八かと封鎖ゲレンデを覗き込む。目立つ場所ならともかく、今日は視界が悪く、ゲレンデの東端なら新雪を楽しみながら滑れそうな斜面となっていた。ここで雪崩を起こしては元も子もないのだが、それは何となく回避できそうであり、南側に滑り降りて行く。そして稼動しているコース内に降り立ち、スキーヤーやボーダーに混ざって滑り降りて行く。ゲレンデ内と言っても安心できず、視界不良が続きほとんど雪面状態が判らず、いきなりの起伏に反応できず緩斜面でもコケそうに・・・。やはりスキーはちと苦手・・・。


 降り立った場所は、アルプス第一ペアリフトの前であった。ここで板を脱いで担いで栂池高原側に戻って行く。夕暮れが迫り、雪を積んだダンプが何台もすれ違う。歩道が無いので、ややビクビクしながらその往来をやり過ごす。しかし路面に雪が無いのはいいが、融雪が泥水となって溜まっている所が多い。それらがタイヤに巻き上げられ細かいシャワーに・・・。流石にこれだけは避けようが無く、じっと我慢であった。駐車場が見えた時には思わず足早になり、逃げ込むように到着となった。


 なんとか無事遊んで来られた。私の場合は山頂を絡めたのでこのようなコース取りとなったが、スキー重視なら、天狗原から一気に・・・というコース取りもあるであろう。登りでゴンドラに並んでいたテレマーカーの方は、地元の重鎮のようで、話の内容からすると、このエリアのスキーコースを有名冊子に寄稿されているようであった。その御仁は「楽しい場所はあまり公表したくない」と話されていた。気持ちは重々判る。と言う事で、まだまだ表に出ない楽しめるスキーコースが埋もれているようである。でもこれだけスキー人口が増えれば、表に出るのも時間の問題であろう。ただ御仁は言っていた。楽しい場所の反面、雪崩れる恐れがあるので公表しないとも。確かに、雪遊びは楽しいばかりでない面を持っているから難しい。

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