五龍岳    2814 m         東谷山    2380m


 
2013.5.25(土)    


   晴れ     単独     八方尾根から唐松に上がり五龍にズレ東谷山尾根を往復。下山は黒菱林道を歩く。      行動時間:17H16M 

   携行品: 12本爪 ピッケル ストック


・レンタルショップP7:30→(5M)→@ゴンドラアダム麓駅7:35〜7:58→(30M)→A八方池山荘8:28〜30→(94M)→B丸山ケルン10:04→(47M)→C唐松岳頂上山荘10:51→(112M)→D五竜山荘12:43〜45→(73M)→E五龍岳13:58〜14:02→(17M)→F2748高点14:19→(37M)→G2438高点下14:56→(23M)→H東谷山15:19〜33→(25M)→I2438高点帰り15:58→(74M)→J2748高点帰り17:12→(20M)→K五龍岳帰り17:32〜43→(29M)→L五竜山荘帰り18:12〜18→(124M)→M唐松岳頂上小屋帰り20:22→(119M)→N八方池山荘帰り22:21→(37M)→O黒菱平22:58→(93M)→P自転車デポ地24:31→(4M)→Q黒菱林道冬季ゲート24:35→(11M)→Rゴンドラ下レンタルショップ(八方)P24:46


ge-to1.jpg  gondoraadamu.jpg  chikextuto.jpg  noriba.jpg
黒菱林道は、冬季通行止中。ゲートの先、300m付近に自転車をデポしておく。(もっと上の方まで上がれると思ったのだが、現在は関係者のみ) @ゴンドラアダム。30分ほど始動まで待つ。 @帰りに到底間に合わないので、片道切符。 @スキーヤーもちらほら見られる。
gura-tokuwaxtudo.jpg  mizu.jpg  haxtupoukerun.jpg  haika-.jpg 
Aグラートクワッド降り口。八方池山荘前。 Aここで給水。給水最終ポイントか・・・。 八方山ケルン ケルン下での大展望。カメラマンが下界を狙う。
maruyamashita.jpg maruyama.jpg  raicyou2.jpg  ryousenheno.jpg 
丸山下の大斜面。 B丸山ケルン 雷鳥二匹目。やや個体の小さな物ばかり。 主稜への最後の登り。
karamatusansou.jpg  cyoujyousansou.jpg  kusariba.jpg  annbu.jpg 
C唐松岳頂上山荘 C綺麗な赤色。従業員が布団の虫干しをしていた。 鎖場付近から見る五龍岳方面。 最低鞍部へ。この先から雪が多くなり、夏道が覆われている。
raicyou3.jpg  shirotakeshita.jpg  goryuusansou.jpg  goryuusansou2.jpg 
雷鳥3匹目。 遠見尾根分岐。白岳下。 D五竜山荘上から。 D五竜山荘は閉じていた。
atack.jpg  cyoxtukano.jpg  goryuucyoujyou.jpg goryuukaraturugi.jpg 
五龍岳へアタック。中盤以降アイゼンを着けたほうがいい雪の状況だった。 五龍岳直下。トレースのほとんどは消えてなくなっていた。 E五龍岳到着。 E五龍岳から剱岳。
goryuukara2748.jpg ganryoutai.jpg  2748.jpg  garaba.jpg 
E五龍岳から見る東谷山(中央の白い高み)。 岩稜帯をしばらく伝って進む。付近の岩が鋭利で、一度掌を5mmほど突き刺してしまった。 F2748高点 途中のガラ場・ゴーロ帯。帰りはこの場所を登ってきた。
haimatutai.jpg yukini.jpg  2438.jpg  mousugu1.jpg 
往路はハイマツの中を下って行った。背の低いハイマツ。 ハイマツ帯を降り雪に乗る。この時間にして、やや堅い残雪が待っていた。 G2438高点は、往路は北を巻いた。残雪期は北巻が正解。 降りきった鞍部から見る東谷山。
mousgu2.jpg cyoxtukanohigashidani.jpg  higashitan.jpg  higashitangoryuu.jpg 
もうすぐ。 直下。 H東谷山到着。雪は3mほど堆積しているようだった。 H東谷山から五龍岳。
higashitanturugi.jpg  higashitankashimayari.jpg  sankakutengawa.jpg  yakisoba.jpg 
H東谷山から剱岳 H東谷山から鹿島槍ヶ岳 H東谷山から三角点ピーク側。 H剣岳をバックにヤキソバパン。
kitagawa.jpg  buxtusyu.jpg  rixtujikaeri.jpg  2438minami.jpg 
H山頂から北の餓鬼谷側。 H東側直下に僅かにブッシュあり。 リッジを慎重に戻って行く。 I2438の復路は南を巻いたが、尾根に戻るには雪庇が待っている。南巻きは伝えるが不正解。
hidarigawa.jpg  reki.jpg  2748kaeri.jpg  mousugugoryuu.jpg 
復路は左のガラ場を登って行く。堆積する石は、そのほとんどが動く。 尾根に乗りレキの上を戻って行く。堅いかん高い音のする石が多い。 J2748高点帰り。ここまで戻れば楽になる。 もうすぐ五龍。右から巻き込むように尾根筋がある。
hurui.jpg  genzaino.jpg  aizende.jpg  tocyukara.jpg 
五龍岳の西側には古い山頂標識が横になっている。 K五龍岳再び。 アイゼンを装着して降りてきた。 戻って行く唐松側の様子。
goryuusansoukaeri.jpg  raicyou4.jpg  tento.jpg  saiteianbu.jpg 
L五竜山荘。小屋の東側にテントが二つ見えた。 雷鳥4羽目。1m付近まで近づいても全く逃げなかった。 若者が二人テン泊のよう。この日は彼らと私のみが八方経由でここまで来ていた。 最低鞍部から戻って行く主稜。
karamatusansoukaeri.jpg  daisan.jpg  tuki.jpg  yakei.jpg 
M唐松岳頂上山荘に戻る。夜景を撮影しているカメラマンが居た。 第3ケルン通過。 この日は満月。これも考慮に入れて夜行を決行。 夜景が美しく。夜歩きの醍醐味。
haxtupoikesansou.jpg  pisten.jpg  jitensya.jpg  ge-to.jpg 
N八方池山荘まで戻る。  O黒菱平まで下りる。新しいピステン・ブーリーが並んでいる。  P自転車デポ地到着。長かった黒菱林道。 Qゲートからはペダルを踏むことのないダウンヒル。
toucyaku.jpg       
Rレンタルショップの駐車場に戻る。      




 今年の残雪期は、天気の巡り合わせがいい。この25日(土)を含んだ週末は、最善最良となった。天気とはお天道様もそうなのだが、私の場合は月齢も日頃から気にしている。この日は満月。夜歩きに最適なのだった。昔の旅人は夜に歩く人が多かった。移動するにも足のみが信用出来る唯一の道具。利器の氾濫した現在では夜動くのはあまり感心されないようになってしまった。危険度が増す・・・確かにそうなのだが・・・。

 
 東谷山。黒部側から狙えれば申し分ないが、トロッコを使うよりゴンドラを使った方が日程が組みやすい。費用の部分でも・・・。そのゴンドラが使えるのが、遠見尾根か八方尾根。しかしスキーシーズンを終えた遠見尾根はしばらく運休。打って変わって八方尾根はこの日から運休開けとなり、それこそ夏山シーズンに入る。トレースが期待出来ないリスクはあるが、開業日である新鮮さが嬉しかったりする。

 
 ネット上では、おなじみ小川氏とさらにおなじみのMLQ氏の記録が見える。小川氏はテレキャビン(遠見尾根)が動いている時期にスキーで計画。MLQ氏は残雪期を考慮した6月にゴンドラアダム(八方尾根)で計画し結果を出している。パーティー行動の小川氏、ソロのMLQ氏の記録となるが、スキー利用の機動力が見え、かたやソロでの慎重な行動の様子が見えたりする。時期的には両者の中間くらいで出向いてみようと考えていた。それが今回の25日(土)での決行となった。

 
 行くとして、折角ならワンデイとしたいと目論んだ。ただしゴンドラが動くのが8:00。どう足し算してもゴンドラが動いている時間には降りて来れない。とならば、もう黒菱林道は度外視出来ず、自転車利用を考えた。ゲートが強固なもので無ければ進入も出来てしまうのではないか・・・と安易に考えたのだった。ダメなら歩くしかないのだが、その確認作業はゴンドラが動き出すまでに十分時間が有り、難しく無いことと思えていた。地図上をなぞってゆくと、結構なロングコースとなった。不思議とワクワクするのだから、ほとんど病気なのかもしれない。

 
 1:20家を出る。綺麗な月が空に見え、西上州の山々がシルエットとなって浮き上がっている。三才山トンネルに潜って松本に出て、池田町から大町に抜けて行くいつものコースを辿る。そして久しぶりに八方の温泉地内に入って行く。まずは自転車をデポ。黒菱林道に入って行くが、別荘地を僅かに登った場所でチェーンゲートされていた。コーンなどで塞いでいるなら入れるかと思ったが、南京錠で施錠されており無理、自転車を下ろして300mほど登り上げ、余地に置いておいた。この時、以前に学習したので空気入れも置いておく。そして再び温泉地内に戻る。元日の事故から半年ぶり、色んなチャンスを有効利用させていただくのだが、当日知り合ったレンタルスキー・ボードのショップがあり、その広い駐車場に停めさせて貰う事にした。500円もしくは1000円が浮くことになる。既に4時を回った明るい時間。本来ならすぐに発ちたい時間だが、4時間待っていなければならない。2時間ほど寝て、1時間ほど本を読み、そして準備に入る。

 
 30分前行動。パンを齧りながらコーヒーを飲みながら麓駅に行く。背中から気配を感じ振り返ると、50年選手かと思える古い登山装備のハイカーが追ってきた。年齢は60〜70歳ほど。物を大事にするのが山屋、全身を見てそう思えた。麓駅に到着すると係の人の出勤風景があった。面白いことに誰も挨拶をしない。客商売をしているなら・・・した方が・・・この付近の文化なのだろう。続々とハイカーが集まってくる。スキーヤーも4名見られる。皆、意気揚々と前のめりな感じ。俺が一番、私が一番、そんな中高年の姿があった。全ては歩けば判る・・・。やたらと視線を感じるのだが、自分では判らないが、もしかしたら周囲に浮いて雪焼けで黒いのかもしれないと思えた。

 
 7:45でチケット売り場のシャッターが上がる。この日に片道切符を買ったのは私くらいだったろうと思う。売り子のお姉さんに「荷物の重さは?」と聞かれ、自宅で計った「9キロです」なんて即答してしまう。これにはピッケルもストックも含まれていない。水も入れていない。あとで計りに乗せてみたら既に13Kgあった。すみません。いま謝ってもしょうがないか・・・。周囲を見ると、快晴無風のこの天気なのに、冬装備の厚着の方が多く見受けられる。用心に越したことはないが、サウナ状態でたいへんだろうに・・・なんて思うのだった。

 
 7:58、2分フライングして改札が開きゴンドラが動き出す。空中に飛び出たゴンドラは、朝日に照らされてそのすべてがキラキラと輝いていた。新緑に浮かぶアメジストのように樹脂が照り返していた。4時間待つくらいなら、歩き出せば今頃は・・・なんて思うのだが、全行程を思うとここでの文明の利器は省力となって助けとなる。ゴンドラとリフト二本を乗り継いで、八方池山荘前に到着。ここで、ホースからの水を給水。トイレの下にあり、少し怪しい水と思えたが、色や匂いから、問題ないと判断した。そして我先にと、中高年のハイカーが上がって行く。おばちゃんが「ここ○○の登山道より疲れるわね」なんて比較を出して玄人っぽく登っている。“疲れるって、リフトを乗り継いで、今歩き出したばかりでしょうに” 恥ずかしげもない言葉並べに苦笑い。先行者は8名くらい居たか、後を追う。そして前に出る。

 
 八方山ケルンの先、トイレ舎付近から残雪を踏むようになる。ロープに導かれたルート、茶色い粉が時折マーキングとして雪面に見えている。それを追うように登って行く。下樺尾根を乗越辺りにこの日初めての雷鳥を見る。夏毛が出だした小さな固体だった。この辺りからは、もう雪の上を歩く時間が長くなった。少しづつ勾配が増してゆく。トレースを刻みながら、キックステップで上がって行く。“こんな大股のステップでは、先ほどのおばちゃん、また文句言うのだろうな”なんて思ったりし、少し小刻みにして登って行く。

 
 丸山ケルンは西側から巻き込むように上がる。素晴らしい下界側、妙高側の展望がある。雲はなく、あるのは飛行機雲くらい。するとまたヨチヨチと雷鳥の姿。眼の周りを赤くした顔で、チラチラとこちらを見ながら間合いを見ている。この二匹目はすっかりと夏毛になっていた。夏道が見え隠れして、雪融けとの関係で、歩き辛い経路となっていた。トップのリスクでもあり、2番手3番手以降は、あからさまに省力出来るだろう。八方尾根を登り上げ、緑のロープを跨いで主稜線の上に乗る。南に少しズレると眼下に唐松岳頂上山荘が見えてくる。

 
 唐松山荘前では、従業員が布団を虫干ししていた。こちらを見つけ、大きな声で挨拶をしてくださる。呼応するように返す。休憩を入れず、そのまま大黒岳側に進んで行く。鎖場では慎重な足運び。雪に濡れたソールは、場所によってはよく滑るのだった。進路の右の方に、目指す東谷山が見えている。まだ遠くに見える。その前に五龍岳に登らないと・・・。そこまでもまだ距離がある。敷設された鎖のおかげで難なく岩場を通過し、最低鞍部に向けての下降となる。植生の無い砂地の場所を過ぎると、ルートを残雪が覆い隠すようになる。2箇所ほど進路が見出し辛い場所があったが、その他は、茶色い砂が夏道の場所を示していた。歩ける場所は、雪庇の堅い雪の上を進み。ちょっとスリルを味わったりした。往々に東側が切れ落ちている。時折覗き込んで、「オオゥ」などと肝を冷やす。

 
 白岳を巻き込んで行くと、今日3匹目の雷鳥を見る。ちょっとづつ個体差があり、表情が違い面白い。「これはべっぴんのメス」などと観察する。遠見尾根への分岐点を見ると、下に五龍山荘が姿を現す。こちらは閑散としており人の気配がない。営業していない情報はあったが、開業準備で人は居るだろうと勝手に思っていた。降りて行くと、しっかりとシャッターは閉まっていた。時計は既に13時に近い時間。本当ならそろそろ復路としたい時間となるが、まだまだ往路が続く。見上げる五龍直下が、ややいやらしい雪面に見える。ここまでアイゼンを着けずに来ているが、装着しないとならないかと構えていた。持ち上げたグレープフルーツジュースでノドを潤す。“さあ、行くか”心の中でつぶやく。

 
 2658高点付近、残雪がいやな感じで残っている。雪面を直登した方がよかったか・・・。岩場のトラバースの場所に雪が残り、ドキドキの数歩であった。まだこの時はアイゼンを着けておらず、そのせいもあったのだが・・・。南の岩場寄りにルートをとり、やや這い上がるようにして高度を稼いで行く。ここの帰りは間違いなくアイゼンを着けねばならない。時折振り返りながら安全通過できる場所を見ていた。この付近もトレースは全て陽射しにより消えていた。本来なら、夏道に近くトレースをつけるべきな時期なのかもしれないが、勝手気ままに上がってしまっていた。

 
 五龍岳到着。分岐から西側に進むと、黄色い標柱が待っていた。確か以前はもっと古い標柱だった筈。建て替えたようだった。素晴らしい展望。もうここまででいいのじゃないかと思えるようなパノラマ。特に剱岳側の展望が素晴らしい。「一望」とはこのこと。山頂を少し西に行くと、東谷山尾根が見えてくる。先の方に顕著な高みがポツンと見える。白き頂き、間違いなく東谷山であった。あそこまで高度を下げねばならないのか・・・けっこう気持ちをふらつかせる高度差が待っていた。まあここに来る前から判りきった事なのだが、それが見えていると、よりいっそうそのように思えるのであった。

 
 東谷山尾根に入って行く。すると、山頂から9mくらい西側に、懐かしい標柱が横になっていた。これこれ、以前に見たのは・・・。岩稜帯に入って行く。礫層となっており、かん高い硬質な音がする石が多い。そしてかなり鋭利な物もあり、手をついた場所に運悪くそれがあり、掌を突き刺してしまった。流血はなはだしく止血にバンダナを使うほど・・・。グローブを着けて通過したほうがよかったようだ。踏み痕と言うか、伝った方の道形が出来ていた。阿曽原からの冬季ルートとして使われるようであり、そのためのようだ。

 2748高点までにも、ポコポコと小さな高みがあり、どれが該当の高点と探してしまうほど。そして2748高点の先は、尾根上はハイマツ帯。北側にはガラ場が広がっている。下にある雪に繋がるまで、このどちらかを伝わねばならない。足元が覚束ないガラ場を避けて、ハイマツ尾根を下ることを選んだ。背の低い尾根でそう負担にはならないが、高度を下げると、それでも幾分深い場所もみえる。全てはルート選び。尾根南側には岩の出ている場所もあり、クネクネと進むと、わりと負荷なく降りて行くことが出来る。それでも残雪の上とは大違いで、その快適そうな白い場所を求めて一気に降りて行く。

 
 2550m付近で残雪に乗り、この先は快適に進むことが出来た。西側斜面であり、雪解けが進んでいないのか、ソールの下に堅い雪を感じる場所が多かった。2438高点は、藪が出ていて頂部は進めず、北側を巻いてゆく。滑れば餓鬼谷側へ落ちてしまうのだが、勾配の強い場所はダケカンバなどを掴みながら巻き込んでいった。もう目の前に白き頂が見えている。見下げていた場所が、見上げるようになっていた。最後の斜面がどうにもアイゼンが必用に見えていた。リッジを慎重に足を運び、手前鞍部でアイゼン装着。でも、見えていた斜面は、現地では意外と勾配はなかった。これなら着けなくてもよかったか・・・。それでもアイゼンの利は大きく、グサグサとスリップ皆無で高度を上げてゆける。安全の為にも、省力の為にも早めに着けていればよかったよう。

 
 東谷山到着。ブッシュが出ている場所の地面からすると、現在は3mほど雪が堆積した山頂のよう。登りあげた先に剱岳があった。感無量、すばらしいシチュエーションで待ち構えてくれていた。360度の展望台。黒部の秀峰が今足の下に・・・。喜びの一方で、素に戻ると時計が至極気になりだした。既に15時を回ってしまっている。ここまでゴンドラ駅から7時間。8時始発という部分が、大きなハンディとなって現れていた。文句を言うなら最初から歩いて上がれ・・・と言う事にもなるのだが。ま、どう転んでも自分の足で歩いて戻らねばならない。そして歩けば戻れる。ヤキソバパンを齧りながら、頭を復路に切り替えて、時間の足し算をしだす。この山頂、北側はストンと餓鬼谷側に切れ落ちている。最高所は北寄り、居場所には注意であった。15分ほど休んで復路スタート。

 
 2438高点は、帰りは南を巻いてみた。勾配はあるが、雪がありアイゼンを履いていれば問題なく通過できる斜面であった。ただし、尾根筋に戻る場所で、雪庇が南を向いている。これを見て、往路の北側通過が正解と判った。そしてこの先、ハイマツの尾根が待っている。ここはガラ場の選択とした。しかし、動くは動くは。動かない石を探すのが難しいほどに全て動く。一つが動き出すと、それに派生して周囲がみな動き出す。我慢の登りとはこの事であった。それでもここさえ登り上げれば悪場は無くなり、伝いやすい岩稜帯に入る。2748高点に戻れば、目の前に凜とした五龍の高みがある。もう少し。あそこに着いたらアイゼンを履いて・・・行動に対し、頭の中は先行して準備していた。

 
 五龍岳再び。展望写真を撮ったら分岐点まで行きアイゼン装着。往路に伝った岩尾根を右に置きながら、雪面を急下降して行く。危険箇所もアイゼンがある事で、危険度が全く変わっていた。道具は道具。進む先に赤い屋根が見え。その東側にテントと人影が見えてきた。今日は誰もこちらに来ないと思っていただけに、その頑張りに嬉しくなったりする。山荘手前で、この日4羽目の雷鳥を見る。時間的なことなのか、1mほどまで近づいても全く逃げなかった。雷鳥にも人を見る目があるのか・・・その逆か・・・。しきりに地面の何かをついばんでいた。


 五竜山荘到着。ベンチで喉を潤していると、待ちきれなかったのか、テント側から人が降りてきた。制すように急いで上に上がって行く。若者二人で、私の五龍からのコース取りを注視していたよう。明日のアタックに向けてルート情報を聞いてきていた。確かに雪融けと相成って少しややこしくなっている。不安だから聞いてきているであって、ここはそれを払拭とばかりに「ここまで来た気概があるなら、登れますよ」と元気づけてあげた。一夜、不安を抱えた時間を過ごすよりも、それを取り去って快眠したほうが、体は楽になり頑張れる。私の行動を告げると、信じられない表情をされていた。「今日の日付と『東谷山』で検索してみてください」と伝えると、理解したようであった。先は長いので3分ほど立ち話をして判れる。


 雪の残る場所には、二人の若者のトレースがはっきりと残っていた。一方、私のトレースは薄い。これにより通過時間の推移が見えてくる。最低鞍部でヘッドライトを準備、日没に控える。そして鎖場付近でライトを頼りに通過して行く。月がオレンジ色に出だしたのだが、やや靄のかかった月で、まだこの辺りでは月明かりが助けにはなっていなかった。この先、気を使うのは唐松山荘の通過。あまり刺激しないよう通過したい。大黒岳側からチラチラとライトが見えるとなると、気になる人もいるだろう。山腹を巻いてゆくと、煌々と明るい山荘が見えてきた。嫌な事にヘッドライトが二つこちらを向いていた。トイレならいいが、時計は20時半に近い時間だった。何か言われるのを覚悟して足を寄せてゆく。


 唐松山荘到着。小屋の前では二人の男性が夜景の写真を撮っていた。その明かりだった。私の出現に、普通に不思議に見えたのだろう、「こんばんは」と言うと「あっ、こんばんは」と返してきた。「あっ」が全てを物語っている。少し登り上げ、一気に八方尾根を下降して行く。月は相変わらず少し靄がかかっている。それでも周囲の山が肉眼でよく見える。やはり月のおかげ。下界の夜景もしっかり見え。夜ならではの綺麗な絵が下の方に広がっていた。周囲ではしきりに鶯が鳴いている。そう、鶯は昼間だけでなく夜も鳴くのであった。


 丸山ケルンは左にパスして斜行して行く。下山者のトレールが出来ているので、安心して下ることが出来た。そんな中でもしっかりとグリセードを楽しむ事は忘れない。少し風が出てきたが、気温の低下はそれほど無かった。第3ケルンが闇夜からニョキッと姿を現すと、さすがにドキッとする。人が居るように見えるのであった。次三角点の標柱を過ぎ、八方山展望所。ここは夜でも綺麗な展望を見られる場所であった。この頃になると、八方池山荘が待ち遠しくなる。ただしその先の残雪によっては、乗ってきたグラートクワッドの下を通過していこうと決めていた場所。下の方に山荘の明かりが見えてきた。もうすぐ。


 八方池山荘到着。北側にある道形はしっかりと姿を現していた。その先の石畳の道も、何度も九十九を切りながら続いていた。時折残雪が覆うも、なにせ下側に下りていけばいいのであってスキー場内の通過は楽であった。そして今日は月明かりがある。周囲が良く見えることが進路選択にとても優位であった。グラートクワッドの麓駅に着き、木道を伝って黒菱第3リフト側にズレて行く。もうこの辺りまで降りれば勝手知ったる地形。ガスに巻かれて迷った事もあったり、その苦労があってよく覚えた場所でもある。コンクリート舗装路の場所はすぐに見出し降りて行く。しかしこの急勾配、足の負担は大きく、狭い幅をクネクネとターンするように降りて行った。放牧時はここで牛と対峙する事もあった場所。その時のドキドキが懐かしくも思えた。


 黒菱平に降り立つ。車は一台もなく、その代りに赤いピステンが6台ほど並んでいた。そのほとんどが新車のよう。お金があるスキー場のようである。さあ長い黒菱林道を伝うことになる。自転車の場所まで我慢。日が変わるまでにあと1時間。1時間で別荘地まで降りられるとは思えなかった。でも目標を持ったからには、それに向かって頑張る。気持ちだけ前向きで、体は騙し騙し使う手法。不思議ではあるが、この頃になるとあまり疲れなくなっていた。下りだから言える事かも知れない。疲れ度によっては幻覚・幻聴を見聞きする事もあるが、この日はそれがなかった。快適だった証拠でもある。林道沿いのタラノメは、そのほとんどが採られていた。入れるのは関係者のみ。関係者のみが楽しめる山菜採りの場のようだった。


 あまり歩く人がいないからだろう、獣が姿を現すことが多かった。イタチだったりタヌキだったり。蝙蝠が道に伏せて眼だけを光らせていた場面もあった。獣が逃げずに居てくれることをありがたく、それらを見ながら楽しみながら降りて行く。ただし大きな黒い固体は現れてくれなかった。避けたいと思っている人の前には現れ、見たいと思っている人の前には現れないもの。スキー場の中を縫うようにクネクネと林道は進んで行く。途中分岐もあるが、道なりに迷わず行く。3度ほど伝っているので間違うことはなかった。そして水の流れの音がしだすと、麓の別荘地が近くなりゲートも近い。高度計を見ながら、そろそろかと先の方に反射するであろう自転車をライトで探す。すると、先の方で反応があった。心配していたのは、盗まれる事。そのことも覚悟していたので、在ったこと事態が嬉しかった。


 自転車と一緒に空気入れもデポしておいた。以前に空気が抜けており走りにならなかった過去があり学習した部分。案の定抜けていた。ムシは替えてきたから、チューブの不良となるか。また直しておこう。ストックや空気入れはザックに結わえ、サドルに跨る。そして一気に風になる。ただし気持ちよく行くと、この先のチェーンゲートでギロチンになってしまう。そこだけ気をつけてゲートまではゆっくりと降り、そこを越したら、時速30kmほどでブレーキをかけながら降りて行った。深夜の別荘地内を、怪しい自転車が疾走。スピードにライトの視野が追いついておらず、ちと怖いものがあったが、重力に任せて一気に降りて行った。ほとんどペダルを踏む事無く温泉地内に戻り、「ゴンドラアダム」の道標に導かれ進んで行く。飲み屋では、綺麗な女性がワイングラスを傾けている姿があった。汗臭い自分が好対照に思え笑えてくる。同じ人生、どちらが楽しいのだろう。比べること自体間違っているのだが・・・。


 レンタルショップ到着。フロンドガラスに駐車場借用の伝達票を置いておいたが、何も書き込みは無かった。シーズンオフであり、見ていなかったようだ。時計は0時を46分過ぎていた。日を跨いでしまったが、まあ何とか予定完結。楽しく山旅が出来、ゴンドラ、雪、展望、夜景、自転車、いろんな要素が楽しめたことが何よりであった。


 振り返る。狙うに際し、やはり時期(タイミング)が重要となろう。MLQ氏が書いているように、途中の2435高点付近の深いハイマツを見ると、無積雪期に伝うことなどしたくない。早すぎても五龍通過のハードルが高くなる。ゴンドラアダムが動き出した近辺というのが適季となろう。少し自分の中でモヤモヤするのは、信州側から登った為に、そこが黒部であってもその意識が少し薄れてしまってしまう。やはり、本来はトロッコを使ってアプローチした方がいいのだろう。判ってはいるが現状は・・・時間がある人でないと黒部側を経路に選べないだろう。まあ住んでいるエリアにもよるか・・・。


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