牛ヶ岳 1961.6 m 巻機山 1967m 割引岳 1930.9m
神字山 1870m
2013.8.15(木)〜16(金)
15日
晴れ 単独 五十沢旧道下道コースを伝う。 割引岳まで 行動時間:9H41M
16日
晴れ 神字山の先1850m峰を踏んでから新道を下る。 行動時間:5H10M。
携行品:幕営装備 軍手必携
・15日
@五十沢キャンプ場5:00→(22M)→A林道を離れる(東屋:下道入口)5:22→(12M)→B魚止の滝下渡渉点5:34〜42→(68M)→C不動滝北西で迷う(2回目の渡渉)6:50〜7:26→(8M)→D左岸側の散策路に乗る7:34→(6M)→E取水口ダム7:50〜52→(66M)→F永松沢渡渉(3回目)8:58〜9:05→(39M)→G五合目9:44→(155M)→H八合目12:19→(65M)→I牛ヶ岳13:24〜51→(27M)→J巻機山(標識ピーク)14:18→(23M)→K割引岳14:41
・16日
K割引岳5:16→(7M)→L新道分岐5:23→(2M)→M神字山5:25→(12M)→N1850m峰5:37→(15M)→O新道分岐再び5:52→(81M)→P五合目7:13〜14→(19M)→Q大窪沢出合下渡渉7:33〜40→(71M)→R割引岳登山口8:53→(46M)→S割引沢9:39→(3M)→<21>調整池9:42→(26M)→<22>下道入口10:08→(18M)→<23>キャンプ場10:26
@五十沢キャンプ場の駐車場から林道を伝って行く。 | 物凄い数のアブに襲われながら・・・。団扇必携だった。 | Aこの東屋の場所で林道を離れ下道コースに入って行く。 | B最初の渡渉点。右岸側の様子がまったく判らない。ルートを示す物が何も見えない場所。やや迷い左岸側を行ったり来たり。 |
エゾアカゼミが居た。 | 右岸側の途中で、下降するタイガーロープがあった。降りたほうが良かったのか、そのままトラバースをして進む。 | 進路を迷った末に降り立った場所(降り立ってから振り返る)。踏み跡が薄くなっている場所があり、迷い易い。 | ヘツリ箇所。古い鎖が流してある。この先、滑りやすい場所が続く。 |
大岩が右岸側を塞ぐ。クライミング要素十分に乗り越えてゆく。この手前で全身水没してしまう。 | 古い鎖が流してある。 | 崩落箇所があり踏み跡が分断されている。先のルートがよく見えない。 | 右岸側を進んでいると、左岸側のバンド(散策路)が見える(写真中央)。 |
不動滝を右岸側から撮影。見事な滝。これが見られただけでも、迷った甲斐があった。 | C藪の中を下り、渡渉をし、藪を直登して左岸側のルートを目指す。不動滝の下流でもこれほど静かな場所がある。僅か10mほど下流は急流に変わる。 | D散策路に乗る。 | 散策路側から見る先ほどまで居た場所。写真中央の小尾根の中間部あたり。 |
不動滝滝壺への下降点分岐。 | 下降点分岐にある標識。 | 散策路から見る夫婦滝。 | 岩壁を削って造ってあるルート。趣のあるルート。 |
大きなザックだと通過は困難。跪いて通過して行く。 | 取水口ダムを見下ろす。 | E岩山と表現するのが良く判る。右岸側は鎖とタイガーロープが途切れることが無いほどに続く。腕力のない人は辛い通過点。 | E堰堤の上から上流側。 |
E永松渓谷の底に降り立ち下流側。ここから腕力で右岸側に3mほど這い上がる。 | 鎖が流された急登。 | 振り返り下側の様子。 | 鎖が流された壁。 |
真新しいタイガーロープも見える。 | 壁の窪みを使って横移動。 | F南中尾沢出合い下の渡渉点。かなり居心地のいい場所。濡れずに通過するには跳躍力が必要。 | 急登尾根が続く。 |
G五合目 | 途中に草刈機がデポしてあった。この先、中ノ滝沢までは刈り払ってあった。 | 中ノ滝沢が近くなると、斜面に道が付けられ足場が悪い。滑りやすい場所でササに掴まりながら通過。 | H中ノ滝沢に入ったら、15mほど沢の中を伝って登る。 |
沢を跨いだ先から上を見上げる。 | 登山道上にはモウセンゴケが沢山ある。 | H八合目から見る牛ヶ岳。 | H八合目から下側。 |
快適な草原歩き。 | おなじみ「福岡かんだ猿」。玄人好みのルート選び。流石!! | 登山道を隠すように山頂が近くなると刈り払いを止めてある。上から安易に降りないようしてあるのだろう。 | 牛ヶ岳の小さな祠。 |
I牛ヶ岳山頂。 |
I主三角点。 | I三等点。 | I牛ヶ岳から見る割引岳。 |
I牛ヶ岳からトトンボノ頭。時間がかかりすぎ、東進して行くのは中止。 | この時期にしても雪渓が残り冷たい水が得られる。 | J巻機山標識ピーク通過。 | 巻機山北側のコバイケイソウの群落は見事。 |
夏山な雰囲気。 | ハクサンコザクラの群落もある。 | もうすぐ割引岳。 | 翌日に降りて行く新道のある尾根筋。 |
K割引岳到着。 | K一等点。 | K誰も訪れる様子がなく、山頂にテントを張らせてもらう。 | Kここで使う予定ではなかったが、割引岳deヤキソバパン。 |
来光を拝んだら行動開始。 | 北側に降りて行く。 | L新道の下降点分岐。北側への踏み跡側はロープで塞がれていた。 | M神字山山頂。ただし山頂らしい場所はこの先にある。 |
「巻機大権現」と彫られた石碑がある。こちらのピークの方がそれらしい場所。このピークの手前、尾根西側は藪が深いので、尾根頂部を歩きたい。 | 石碑の場所から割引岳側を望む。 | 1850m峰に向かって行く。谷川岳(オキノ耳・トマノ耳)のような雰囲気のある場所。東側は岩壁。 | N1850m峰山頂。「南入ノ頭」も狙っていたが、ここまでとした。 |
神字山帰り。 | O下降点分岐再び。 | 下降開始。 | 今ほど伝った神字山の稜線を見上げる。 |
標高1800m付近から下側。右手の沢は雪渓で埋まっている。 | 標高1520m付近に草刈機がデポしてあった。この先下側はモシャモシャ。 | 登山道の様子。刈り払いのあるなしで雲泥の差。急下降箇所では足許が見えずに難儀する。 | P五合目の九蔵ブナの場所。 |
Q大窪沢出合下の渡渉点。 | Q大量の雪が残る。 | Q暑い中、雪渓の庇の下が自然のシャワー。冷たい雫が雨のように落ちてきていた。 | Q左岸側の様子。左岸に渡ったらタイガーロープが連続する急登が待っている。 |
急登の場所。直角に曲がる場所があり、ルートファインディングし辛い場所が1箇所ある。 | 登ってきた下側。 | 最高所を乗越て下降に入る。 | R散策路に合流。 |
R割引岳登山口。 ここが登山口ってのも少し違和感があるような。散策路から登山する入口。 | 小滝沢 | 大ヒド沢 | 大ヒド沢の一つ北の沢には、沢山のサワガニが見られた。 |
急登階段。 | ツボイケ沢渡渉。ここは少し岩登り的に沢の中を登る場所。流れがあり滑りやすい。 | ツボイケ沢の北側には、冷たく美味しい水が出ている。 | 不治心得の岩を見て行く。周辺が大水で渡渉できない場合においての岩小屋との事。 |
通過して振り返る。岩を削って通したルート。 | S割引沢は、見事な3段の滝になっている。 | 21 調整池の場所に出る。 | 林道に出ると案内図が掲示してある。 |
みやて小屋。滝への散策者はここへ車を上げていいだろう。上を目指すハイカーには不適。キャンプ場ゲートの開門が8時。 | 22 往路の東屋の場所。一周完了。 | 裏巻機を存分に楽しんだハイカー通過。 | 23 キャンプ場に戻る。周辺にアブ多数。 |
23 駐車場の様子。 | 23 ここは300円を出すと温水シャワーを使うことが出来る。 |
15日から18日までのお盆休み。普通は13日から15日を含めてお盆休みじゃないの・・・と文句を言いたいが、職場の休日決定権を他人に譲渡したのでしょうがない結果。世の中の大連休の方を恨めしく、遅ればせながらやっと休みに入る。天気はどこも文句ない様子。ただし、民族移動のための大渋滞があちこちで発生しているよう。ここは近場で・・・。
火曜日に仕事をしていると、「今日は鳥海です」とメールが入る。翌水曜日、「今日の月山はいい天気。明日は早池峰に向かいます。」なんてレポートが入ってくる。“やはり、お盆に仕事はするもんじゃない”とイライラ・悶々としながらデスクに向かっていた。東北に行くほどに面白い場所はないか・・・そう思いながら休憩時間に地図を見ていたら、上越国境の登り残しが綺麗に連なっていることを見つけ、十字峡と五十沢を繋げて周回をしようと思いついた。
3日もあれば十分だろう。上手く駆け抜ければ2日で消化できる。まったく安易だった。4日目は以前から決まっていた山行企画があるために使えない。予定2日として、予備日を1日設けた形として入山する事にした。しゃくなげ湖発着のバス時刻表も調べた。本来なら自転車でしゃくなげ湖と五十沢キャンプ場を繋げばいいが、今はその自転車が故障中。最悪は歩いて繋いでも知れた距離。仕事を終えて家に戻ってから幕営装備を固めて、深夜家を出る。
六日町インターで降りて、コンビニで食料を仕入れてから五十沢キャンプ場に入る。静かだった麓山村とは打って変わって、キャンパーのランタンが眩しい賑やかな場所となっていた。車道のすぐ脇にもテントが見られ、気を使いつつ奥の方へ車を進め、ゲート前右側にある広い駐車場に入れ夜明けを待つ。
仮眠からの目覚ましは、ヒグラシの鳴き声であった。準備をしていると、白い虫取り網を持った児童集団が出発して行った。既に外気温は27℃になっている。ここにしても暑く、準備をしている周りをアブが飛び交い始めた。これを見て装備に団扇を加える。流れを跨ぐ箇所が多いので水は自分でここと決めた場所で汲めばいいし、この水が豊富にあるであろうルートはこの時期ありがたかった。そう、これから「裏巻機」と呼ばれるエリアに入る。表妙義に対する裏妙義は同等だが、巻機においての「裏」の場所は、一目おかれる場所となる事を知っていた。今日は20年選手に近いフレームレスのザックを使用する。最近のフレームのあるものより背負いやすいと感じるのは私だけか・・・。
5時ゲートを出発する。キャンプ場のアナウンスからは、このゲートは8時に開門し18時に閉じるよう。お尻側はいいとして、開門時間が遅すぎてハイカーが行動するには不都合。入山者が容易に入れないようになった結果が、少し寂れたルートになった要因かも・・・なんて思うのだが、コースの長さがそもそもの原因となるだろう。どこの山もそうであり、ましてやここは百名山。距離と時間は他に増して重要視される場所となろう。清水側の桜坂の賑わいに対し、こちらを賑わせているのは大半がキャンパー。夜が明け、周囲を見ても入山しようとしている姿はまったく無かった。
なにせアブが凄い。15匹くらいが羽音を唸らせながら周囲を飛び交う。前夜はアルコールは入れていないので、ここまでくっ付いてこなくてもと思うのだが、腰痛による体調不良が体温を上げており、それを察知して寄ってきていると思えた。団扇で扇ぎながら、叩きながら歩いてゆく。先の方に児童の集団がおり、すぐに追いついた。「アブ凄いな〜刺されないかい」と聞くと、「え〜ハエかと思っていた」と予想外の言葉が返ってきた。「もしかして丑年?」なんて喉元まで出たが、このウイットにだれも反応しないだろうと言うのは止めた。
九十九折が始まると、左側に東屋を設けた広見があり、そこに朽ちた「巻機山登山口」の標識を見る。じつはこの上にある「天竺の里」の詳細をよく調べて居らす、何処から入山したらいいか判らなかった。百名山の巻機山なら、当然表示があるだろうと踏んでいた。それがここにあった事になる。東屋を右に見ながら雑草の生い茂るルートを分けて行く。こんなルートが続くのか、既にモシャモシャしている。ただし、近日、だれか一人のみ通過している痕跡があった。途中分岐があり、右に進む道を見送り左側を選ぶ。この道はその先で五十沢川に降り立った。上流に魚止の滝らしい白き段差が見えていた。
最初の渡渉点。対岸を注視するも、道が在るような様子が見られない。左岸側の砂の上に迷って上流に向かっている足跡があった。先ほど野草を分けていたのはこの御仁であろう。地図を見ると渡渉は魚止の滝のすぐ下辺り、ここで対岸に行くので良さそう。少し足許を濡らしながらも右岸に移る。よくよく見ると斜面を駆け上がるようなルートが在った。これは初めての人には見えてこない。でも、ここは渓谷に入る散策路では・・・。藪化しているルート、この渡渉点の様子に、楽に思っていた気分に少しギヤを変える。
右岸側の遡行。沢の中ではないので遡行とは言わないかもしれないが、藪化した中を分けて進む。ごく薄い踏み跡を追いかけ進むような場所で、ほとんど歩かれていない事が判る。時折ピンクのリボンが下がっている。しかしそれが登山道の場所を示している保障は何も無い。自分の判断を信じて進む感じ。日の入らない鬱蒼とした中を進んで行く。すると渡渉点から20分ほど進んだ辺りに、下に降りて行くタイガーロープがあった。降りる方が正しいのか否かも判らず、そのまま草の中の踏み跡を伝って行く。
この先は不動滝手前で渡渉するはずで、まだその滝の姿も音もしていない。タイガーロープの場所から15分ほど歩いたか、リボンが下がった場所があり川に向けて刃物跡が降りている場所があった。川に降りてはみたが、どうにも進めない。もう一度戻り、先を進んでみるが、非常に踏み跡が薄くなった。また戻り川に出るも、やはり正解ではないよう。踏み跡の方を再度進むと、薄くなった先で急下降するような踏み跡があり、ここで川面に降りた。ここの進退で8分くらい使ったか。先の渡渉点でも同じほどで、この分で行くとこのルートは・・・。
降りた場所の先は、ここが正解ですよと、古い鎖が見える。ヘツリ箇所でやや滑りやすい場所であった。しかしルートに乗ったことを安堵したのか水際を調子よく歩いていたら、足を置いた石が滑った。付近の石は、ほとんどが苔でコーティングされていたため、滑るのは当たり前。判ってはいたが、バランスを崩し水没。水深50センチほどの所にうつぶせに倒れ全身を浸してしまった。前途多難。でも一方で気持ちいい。シャワークライムも楽しそう・・・などと思ってしまう。高瀬川に水没したときを思い起こすが、あの流されだした瞬間のドキドキが脳裏に甦った。
遡ると大岩が行く手を塞ぐ。手がかり足がかりがほとんど無いような場所を、靴の側面を沿わせるようグリップさせながら這い上がり越えてゆく。そしてリボンに導かれ草地の中に再び入って行く。岩壁に張られた鎖も見え、半信半疑でいるコース選びに背中を押してくれる。右岸側を探るように進んで行く。やや左上にトラバースしながら登るような場所になる。道形はますます薄くなり、散策路とは程遠い様子になっていた。木々の間から不動滝が見えるようにもなった。白き流れに、青く深い滝つぼが見えたときには、その完成形の滝の形に感嘆する。地図を見ても、滝の右岸を通過している旧道はない。ただし東中尾沢を跨いで、その先のルートとぶつかる可能性もゼロではないと伝って行く。左岸側を望むと、山腹にくっきりとバンドが見え、そこに道がある事が判る。向こうを伝えば倍以上早く歩けるだろうと見えていた。
ややこしい通過点となってきた。小さな沢を跨ぐ場所があったり、これまで鎖やタイガーロープがあったことを踏まえると、ここに無いのはおかしい。そしてあるところでぷっつりと踏み跡が消えた。もしかしたらまだ続くのかもしれないが、急斜面をトラバースして行くには危険度が増していた。そこから不動滝を見下ろすと、これまでに無く素晴らしい眺望。観瀑台か・・・そう思えた。左岸側には縦に踏み跡らしき筋が見える。地図にはそれが書かれていないので、流れによる筋だと理解した。だいぶ戻りルートを修正せねばならない。五十沢川に降り立ちたいが、付近は崖斜面。90mほど戻り、下を見定めながら藪を分けて降りて行く。降りても流れが太く危険な渡渉が待っていると思ったが、自然は味方してくれ嘘のように静かな流れの場所に降り立った。浅い流れをジャバジャバと跨ぎ、対岸の斜面を木々を掴みながら這い上がってゆく。ここでイラクサだろう草を掴んでしまい、以後4時間くらい手が痺れていた。そして上の方に道形の空間が見えてきた時は、ホッとした。
散策路に乗る。だいぶ時間を使ってしまった。ここまでの予想は無く、別の意味では遊ばせてもらった。下の廊下のようなルート。岩壁を削って造られた道は、雰囲気があり趣がある。気持ちに余裕が出来たので対岸をみる。先ほどいた場所が見えるが、さすがにこちらから道があるようには見えてこない。しかし嬉しい事が一つ。こちらからだと不動滝はきれいには見えない。この部分では、先ほどの景色を見られた事は貴重な行動だったとも言える。不動滝の上に小滝が二つほど見える。さらに上流に2本の滝が寄り添うような夫婦滝がある。その名に相応しい滝であった。
進路前方を衝立岩のような自然石が塞ぐ。それと岩壁の隙間を通過して行くのだが、太った方はまず通過できないだろうし、二泊分の本日の幕営装備であっても、跪いて通過していかないと通れなかった。東中尾沢にも細い滝が70mほどの落差で2本出来ていた。ルートは補助ワイヤーが流されているおかげで、安心して歩ける場所に見える。これの有無で、だいぶ気持ちへの影響が違うだろう。だんだん細くなる五十沢川。ここではもう永松渓谷と名を変えているか・・・。細い深い谷が眼下に続いていた。
前の方に取水口ダムが見えてきた。ダムと言っても小さなもので、水を湛えていると言うより、岩壁の強調された乾いた景色が広がっていた。そこに向け急下降して行く。その場所には、「この先岩登りの場所になる」旨の注意書きがある。堰堤の上は1.7mほどの幅で切れており繋がっていない。飛び越えようと思えば行けそうだが、谷底へ一旦降りてから登り返すよう鎖が垂らされている。ここはしっかりステップがあるわけでなく、鎖を掴みながらソールをぴったりと添わせるように直角に足を置いて降りて行く。降り立つと、なんとも言えない特異な雰囲気。狭稜は体験しているが、これほどの狭渓は体験がない。降りたら今度は登らねばならない。鎖を掴むまでの1mほどが背の低い人は難儀する筈。私でも体を伸ばしてやっと掴んだほど。掴んでの登りも、こちらもしっかりしたステップは無く、靴のコバを使うようにグリップさせ登る。これで右岸側に移った。ここからだった。
タイガーロープの連続だった。真新しいものもあるので、今でも管理されている場所だと判るが、ここまでロープが連続する急登は稀。表妙義も腕力が要るが、ここも腕力と握力のない人は通過が大変になる。何本のロープを掴んだが、10本も掴めば多いと思うが、ゆうに超えていた。時折その中に鎖も流されている。急登ルートで高度を上げ、少し明るい場所に出て楽なルートになるのかと思ったら、水平にズレるような場所が出てきて、そこにもタイガーロープが流されていた。車を離れるときに、何気なしに軍手を持ってきたのが、大活躍であった。登りに登ったら、今度はもったいないほどに高度を落として行く。永松沢を跨がねばならないので水の流れのある場所まで一気の急下降となる。登ったり降りたり、この先の長い行程を思うと、ここでの負荷が、後々ひびきそうで気になった。
南中尾沢出合下の渡渉点。ここはとても居心地のいい場所であった。顔を洗い汗を拭う。ただ、相変わらずアブの襲来はあった。渡渉は大岩を繋いでジャンプして通過。岩と岩との距離は四尺くらいか、女性だときつい距離。さあここから登り一辺倒となる。最初はいくぶんか緩やかだが、次第に急登となる。クワガタの姿も見え、自然の中に居る感じが強い場所であった。旧道であり、あまり管理されていない場所かと思ったが、標高1050m付近に草刈り機がデポしてあり、そこより上は刈り払われていた。これはありがたかった。快適に足を添わせてゆく。ただし、中ノ滝沢が近くなる標高1500m付近から、ルートはササ斜面の中をトラバースぎみに切られ、そこに刃物が入っている。滑りやすい場所で、ササを掴みながら通過して行った。
中ノ滝沢。ここは対岸にルートが見えてこない場所で、少し沢を遡上してから左岸側に道がつながっている。しかしこの先は刃物が入っておらず、ややモシャモシャとしてきていた。何故に中抜きのような形で刈り払いをしたのか。下に在ったという事は、上から下に作業しながら降りてきたことになり、上はもうやらないと判断できる。もしかしたら毎年、順番に区間を決めてやっているのかもしれない。全体をやるより、確かのその方が効率がいい。牛ヶ岳が望めるようになってきた。そこまでの間に見える草原の気持ちよさたるや、登ってきて良かった。足許には沢山のモウセンゴケが生えている。踏んでしまうのが忍びないが、踏まないと上に行けないほどにルート上に繁茂していた。
8合目。時計を見ると既に7時間経過している。この時間はトトンボノ頭付近に居る予定であったが、まったくもって今日は鈍足行動だった。そして藪歩きや渡渉(水没)、急登を経てくると、本来は上越国境歩きがメインであったのが、ここ裏巻機の通過がメインになりつつあり、国境を行くが為のモチベーションが低下しつつあった。これだと、この疲れようだと国境稜線に入ってもそう進めない。2日で抜けられればと思ったが、3日かかりそうな雰囲気も出てきた。翌4日目は同行山行が予定されており、余裕のある行動をしないと迷惑がかかる。抜けて行きたいのは山々だが、ここは次回・・・。歩きながらの考える時間も長いので、熟考してその答えに至った。今回は新旧の裏巻機ルートを楽しもう。いや待てよ、割引山の北側にピークが二つあったはず。少しだけだが藪ルートを楽しもうと頭を切り替えた。
ほとんど牛歩状態。幕営装備だからと言うよりは、そんな体力しかないのであった。稜線に上がり、南進していた方向を南東に変えてゆく。もうすぐだが、なかなか届かない。進んで行くと、久しぶりに福岡かんだ猿の標識を見る。このルートのこの場所、あの西上州の大山の北側に付けられていた時の様なマニアックさを感じたりした。もう少しで山頂部だが、敢えて刃物が入れてなかった。上から、容易に降りてこないようルートを塞いでいるのだった。尾瀬の荷鞍山同様と言えば判りやすいだろう。その藪を抜けると、東京農工大の遭難碑があり、その先に草地の中に小さな祠がある場所がある。撮影したのか、一人分の足跡が付近につけられていた。もしかしたら、しっかりとお参りをしていったのかもしれない。
牛ヶ岳山頂到着。主三角点と三等点が草の中から顔を出していた。奥利根湖が薄っすらと見える。そこから追うと、イラサワ山の尾根筋が見える。いつかあそこも行かないと。どっしりと腰を降ろし大休止。気持ちよくウトウトとしてしまいそうでもあった。目の前にトトンボノ頭がある。薄っすらと続く踏み跡が誘っているが、行くなら桜坂から入ったほうが体力的に正しい。裏巻機からだと、基点がとりやすかったわけだが、極端に言うと倍ほど時間を要して登らねばなない。今回はやはり止めよう。遠く下津川山も見えている。行かねばならない所が沢山残っている。大休止の後、池塘を愛でながら木道に足を乗せてゆく。最初に訪れた時は立派なはっきりとした木道だったが、現在は、そのほとんどがササに隠された状態になっていた。時間の経過を感じる。
山頂部に来たら、ハイカーの姿があるかと思っていたが、まったく無かった。雪渓も大きく残り、そこから流れの音がしていた。今日は各所から水が得られ、水難は無い場所と思えた。巻機山最高点のケルンの場所を通過し、分岐点となる標識の場所から、コバイケイソウやハクサンコザクラを楽しみながら割引岳を目指す。進路右手には、明日伝う予定の新道尾根が見えている。旧道があそこまで管理されているなら、より新道はいいのだろうと予測をつける。快適な一級の道に足を乗せて行き、最後の登りとなる。
割引岳到着。久しぶりの一等点とのご対面。少しガスが上がってきているものの、日差しがちょうどいい感じ。すぐさま単眼鏡で、ルート上を具に調べる。避難小屋もしっかりと見る。しかし、10分ほど見ていても、誰一人居なかった。このハイシーズンに百名山で・・・不思議であった。誰か居れば場所を変えようと思ったが、これなら山頂に張れる。やや急ぎ気味に張ったのは、喉が渇いていた。張り終えて銀マットを敷いたら500のプルタブを起こす。生温いそれだが、十分に美味しかった。周囲を見渡しながら独り占めの山頂となった。こんなのんびりするのも久しぶり、トカゲを決め込んで昼寝なんぞもしてみる。周囲を蜂の羽音があったが、それもまた自然で子守唄のように聞こえていた。日が傾き、ガスに中に入るとグッと寒くなる。そうなるとテントの中が天国となる。テントのありがたさたるや・・・。そう言えば水没した後の処理をよくしていなかった。ポーチの中の電子機器をご開帳して日干しする。スマホなどは、カバーを開けると中まで水が入っていた。防水型ではないので当然となる。
夕刻が迫りラーメンを作り腹を満たす。ウヰスキーを煽りながら山頂での一人を楽しむ。日暮れ以降で夜景を楽しもうと思っていたが、生憎夜間はガスが邪魔をしていた。ここはFM群馬が良く聴こえ、それをトランシーバーで受信しながら夜間中聞いていた。携帯も常時ではないが繋がった。下界に居るのと同じように情報が得られる。風も無くテントが揺れる事は無い。なんて快適な山頂。そうしながらも明日の行動を地図上で追う。南入りノ頭まで行きたいが、現地で判断。破線ルートは廃道化しているだろうから、藪の様子で判断する事にした。
16日4時、コーヒーを入れて体を目覚めさせる。入口のジッパーを開けると、緑の巻機山の山塊が見えていた。今日もいい天気。一宿一飯のお恩義とはならないが、来た時よりも美しくでテントを畳みながら、ここで張った痕跡を全て消す。来光が上がったのがちょうど5時。少し雲が邪魔をしていたのだが、そのおかげで上下に割れた太陽の姿が珍しかった。パッキングを済ませたら、宿を発つ。
朝露の冷たい中を野草に濡らされながら北に行く。牛ヶ岳の北側同様に気持ちいい場所となる。そして新道の下降点があり90度曲がって東側に開かれている。北側に進む方は踏み跡程度で、そこには朽ちたタイガーロープがあり塞いでいた。膝くらいまでを草に埋もらせながら進んで行くと、あっけなく神字山に到着する。地形図上で判断でき辛いが、現地に行くと南北に並ぶように3つのこぶがある。その最初がここ。さらに進んで行く。しかし踏み跡は無くなり深い笹原に消える。植生が強い場所と言えよう。稜線の西側は胸まで潜るようになり、首まで潜る場所も出てくる。ここは間違いなく稜線の頂部を伝った方がよく、歩き易い事が判った。しかし東側はガレ落ちており足元の注意は必要。朝露で濡れているので尚更。
二つ目のピークに立つと、そこには「巻機大権現」と彫られた石碑があった。神字山とするなら、ここの方が適しているように見える。ただし、山の形としては、先ほどのピークとそう変わりない。ここからさらに北側にスクンと立つピークがある。あたかも谷川岳の最高峰付近の絵のようで、そのピークの東側斜面は赤く険しい岩壁が見える。西側の緑色と好対照であった。頂稜を外さないよう注意して足を進めてゆく。踏み跡はあるが、途切れ途切れな感じでもあった。皆無ではないのだろうが、稀にこの尾根を伝う人は居るのだろう。ただ、イワキの頭に行った時は、かなりの藪を体験している。塩沢町と六日町の町界境を伝う人は好事家で間違いない。
1850mの無名峰に立つ。南入りノ頭は眼下に見える。標高差100mはある。ここまで来たのならと思ったが、何も情報が無い中での時間が読めず、そこを気にして残す事にした。北進していた体を南に向ける。いい感じで割引岳の姿がある。各ピークのうねりが、“これぞ山”と言いたいほどに綺麗に見えていた。新道の乗る尾根が左に降りている。その先に永松沢の深い渓谷。だいぶ高度を落とさねばならない。そしてまたアップダウンも。
神字山を越えて分岐に到着。いざ新道へと下って行く。快適なスカイラインと言いたいが、急峻な場所も多く、足許に常に注意が必要であった。牛ノ沢の右俣になるか、沢の中は白い蛇のように残雪が繋がっている。朝にして、既に暑くなっており、その沢の流れ音が涼やかであった。各種高山植物の姿も見える。蛙が多く、そして蛇の姿も多く、立ち止まらずにズンズンと高度を下げてゆく。
ルートは刃物が入れられ続いていたが、標高1520mの所に草刈り機がデポしてあった。かぶっている袋、施し方、全てで旧道にあったものと同じだった。ここにこれがあるということは・・・。この先の登山道は打って変わってのモシャモシャ状態になった。あまり酷い状態ではないが、刈ってあった今までと比べてしまうと、あからさまに違う。泳ぐような場所もあり、急峻の場所では足許が見えずに何度も尻餅をついた。こちらを登りに使うのも大変と感じた。これが裏巻機とも思えた。
進路が樹林帯の中となる。ブナが増えてくると、足許もやや勾配を緩くする。そして九蔵のブナのある五合目に到着。水休憩をしつつ、足許が濡れることが無くなったので、雨具のズボンを脱ぐ。そして冷たい水に呼ばれるように、一気に大窪沢出合下の永松渓谷を目指して行く。沢の音が聞こえてからが、やや長かった。谷を挟んで対岸の斜面にバンドを見る。やはりあの辺りに登り返すのか・・・。涼んだ後には辛い経路が待っているのが見えていた。
大窪沢出合下に降り立つ。大量の雪渓が残り、巻き込むように下流側から川面に降りる。オーバーハングした雪渓の下は、冷水のシャワー状態で火照った体には気持ちよかった。顔を洗い喉を潤し、ここで朝食のアンパンを齧り、気持ちだけでもこの先の急登に備える。石伝いに対岸に渡り、ガレた場所を赤ペンキに導かれ進んでゆく。草地の中のトラバースが始まる。ここで見られるタイガーロープは、間違いない急登の印。本当に軍手を持って来てよかった。していてもマメが出来るほどに握る箇所がある。トラバース的に進む箇所が続く中、足許の小さな石に赤ペンキがあるだけで上方に進むことを示している場所がある。草が繁茂している時期は、やや進路を迷いがちな場所となっていた。それでも入って行くとロープが垂れているので、すぐ道とわかる。
どれほどタイガーロープを握っただろうか。旧道の取水口から先の斜面と同じほどにロープが流されていた。敷設管理する方も大変だと思えた。登って行き、乗越しではないが最高所を越えて下りに入る。下りになると一転してブナの中の快適な道となる。小さな沢を跨ぎ、その先で、もう一つ沢を跨ぐ。ここでも水に事欠かないルートとなる。そして細かい九十九折が始まると、散策路も近くなる合図。何処に出るのだろう。往路を迷った為に出る場所が気になっていた。
散策路に降り立つ。ここには割引岳登山口と標識が振られていた。松木渓谷の流れの音が前日同様で懐かしい。取水口の管理用道路が散策路であり、岩を削ったこの道を下流側に進んで行く。いくつも沢を跨ぐ事になるが、ほとんどの沢水が、この暑さにぬるく感じた。そう、全て飲んで確かめてみていた。その途中、大ヒド沢の一つ北側の無名沢には、小さな沢溜まりの中に、5匹ものサワガニが見えた。自然がしっかり残っている事を感じて嬉しかったのと、夏のこの時季に、涼しそうな姿を見せてくれたことがありがたかった。急階段のある場所を乗り上げ、岩を砕いた間を抜ける。平坦な一辺倒の歩きでなく、バラエティーに富んだ地形が楽しかった。
ぬるい沢水と言ったが、ツボイケ沢北側の沢の場所に塩ビパイプが施され、このルートで唯一水場的な場所が作られていた。その水の冷たいこと、美味しい事。流れや水気が多い中でのここは、ピカイチの水を提供してくれていた。戻って行くと、左上に大岩が見えてきた。その先には分岐箇所がありその上は崩落していた。さらに先に新道が設けられていて、「不治心得の岩」と書いてあった。造られた道を登って行くと、大きな岩屋が出来ていた。なぜかペットボトルや一升瓶が転がっている。岩屋と水・・・なんだろうかと不思議に見ていた。散策路に戻り、この先で割引沢を跨ぐ。ここは素晴らしい景勝地。流れが三段の滝となり、白く綺麗に落ちてきていた。周囲温度も涼やかで、飛沫も楽しめ夏場に気持ちのいい場所であった。この沢の南側に見える岩壁には白い跡が見える。イワツバメの仕業かと見ていた。
調整池に到着。施設の中は水が涸れていた。進んで行くと車道に出て、そこに周辺案内図があり、歩いてきた時に出会った景勝地が記されていた。道を挟んでみやて小屋があり、駐車場にも車は無く閑散としていた。林道を降りて行く。アスファルトの上に乗ると暑さが倍増する感じ。風を受けようと、少し足早に行く。進んで行くと、家族連れがおり、子供らが虫取りの網を持っていた。しかし虫籠の中には蟷螂が2匹。なんとも言いがたい絵面であった。
往路に入っていった下道ルートの登山口を右に見て、テクテクテクテク。前日同様にキャンプ場が近くなるとアブが増えてきた。アブ避けの団扇は落としてしまい今は無い。手で払い避けるようにしながら闊歩して行く。そして前方にゲートが見えてきた。裏巻機完結。
キャンプ場には温水シャワーがあり300円で利用できる。300円は加温の為であり、水だけなら常時使える。火照った体には温水は必要なかった。ありがたく利用させていただき、下山口でスッキリして五十沢キャンプ場を後にする。
この裏巻機の負荷は、癖になりそう。次回向けに沢筋を少し具に見ていた。各沢を伝うのも楽しいのだろう。知らない遊び場がまだまだ近くにあるようだ。