黒沢山 1332.8m
2014.9.6(土)
晴れ 単独 赤沢から入山、1194高点経由で黒沢山。下降路は黒沢を使う。 行動時間:7H22M
@赤沢より入渓5:44→(3M)→A赤沢を離れ東進5:47→(78M)→B1140ピーク7:05→(29M)→C赤沢源頭のコル7:34→(45M
)→D1194高点8:19→(28M)→E黒沢源頭8:47→(56M)→F黒沢山9:43〜10:16→(38M)→G黒沢源頭より下降開始10:54→(81M)→H右俣との出合12:15→(24M)→I黒沢橋12:39〜46→(20M)→J赤沢13:06
@赤沢。駐車はポールとポールの間から余地に入れられる。 | A赤沢の最初。雨の後で非常に滑り、既にこの場所で離れる。沢登をしたのは僅かに二分ほど。 | 斜面にはサルナシが実っていた。滋養強壮・栄養補給になる。 | 小尾根の様子。さほど藪が強くはないが、歩き易い場所ではない。赤沢に沿うように登りたかったが、完全に東進となってしまった。 |
途中から見る黒沢山(奥)側。東進だと離れていく恰好。 | 崩落のあったザレた場所を伝う。 | B標高1140m峰に突き上げ主稜線に乗る。藪の頂稜。 | すぐに顕著な円錐形のピークがあった。ここは展望がいい。 |
北東側の様子。尾瀬に向かうルートが見える。 | 薄く獣道も見える。 | 左右が切れ落ちたキレットが見えハッとしたが、さほど危険度は無い。 | 赤沢の源頭のコルへの下降になると、掘れた場所が出てくる。ここは入らずに西側の尾根を伝ったほうがいい。中に入るとコルから離れてしまう。 |
C赤沢源頭のコルの場所に在る岩場。これを目の前に進路を悩む場所。稜線での一番の注意点。足場が悪い。この岩は国道から見上げられる。 | Cソロでは岩場は危険なので南側を巻いて岩壁の下を通過。 | Cトラバース途中の様子。 | 1194高点に向かう途中の目立つ3本の松。 |
D1194高点を西から見ている。中央に大きな窪みあり。 | この木の根元は獣の塒なのだろう。ここから西側へは濃い獣道が続く。 | E黒沢源頭を跨ぐ。写真は黒沢を見ている。 | E源頭より西の様子。 |
1200m付近。オアシス的な場所は無くひたすら漕ぐ。 | F黒沢到着。モシャモシャの山頂。 | F黒沢山から見る1194高点側。 | F黒沢山から東側。 |
Fここでヤキソバパンが撮影されるのは最初で最後だろう。 | F濡れた雨具を乾かす。 | F三角点を探していたら主三角点が先に見つかる。しかし倒れていた。 | F「主三角点」と彫られている。 |
F西側のこのテープから、西に3mほどの場所に倒れている。 | Fやっと三等三角点を見つける。しかしこちらも倒れていた。ほとんど埋まっていたのを掘り出したところ。 | F東側のテープを巻いた場所から西に1mほどの場所。今回は計2本のテープを残す。他には無し。 | F山頂最長老のブナ。 |
G黒沢を下降開始 | 1100m付近。最初はなだらかだが・・・。 | 1060m付近。最初の小滝。右岸を懸垂下降。 | 1030m付近。ここも右岸を懸垂下降。 |
1000m付近。ここも懸垂。 | 980m付近。ここもザイルを出す。 | 途中大ぶりな崩落地があり少し進路方向が変わる。 | 950m ここが一番面倒だった。20mザイル2回で下まで降りる。 |
950m付近の巻いた沢の中の様子。 | 920m付近の小滝。 | H右俣との出合。右俣の流れは苔生しており、ここより下流はかなり滑る。 | 緩やかだが滑る沢の中。乾いた石を選ばないと危ない。 |
I黒沢橋まで降りる。橋の下を潜ると西側に上がってゆく道がある。 | I黒沢橋下から上がって行く道形。これを登ると車道に出る。 | I雨具を脱いで軽くして車道を登って行く。 | 中央の赤沢を登るつもりだったが、斜度もきつく伝わなくて正解だったよう。 |
J赤沢に戻る。 |
敬老の日を含めた三連休が待っている。またあの場所を狙ってみるつもりなのだが、いつものように事前に準備運動はしておきたい。脆い岩、ザイルワーク、緊張感の負荷、これらを考慮し奥只見の黒沢山を狙ってみることにした。翌日曜日は、北八ヶ岳は麦草峠からのガイド予定があり、あまりヘトヘトになる事も許されず、体力温存も含めた場所選びとなった。それでも結構にキツイ場所だった。
狙うに際し、北東尾根が一番伝いやすいように見える。
恋ノ岐越から狙えば3Kmもない距離、ただし現地の植生を知っている身としては、たかが3kmされど3Kmで、届くかどうか不安な距離でもあった。ルートを換え北尾根を雨池橋から伝うことも出来るが、見たとおりゲジゲジマークが多すぎて、普通に敬遠したい。もう一つ、大沢を伝うことも思ったが、東側の植生は旺盛と読んだ。最後に残ったのが、1194高点から937高点を結ぶ尾根。東西に赤沢と黒沢を擁しなかでも一番面白そうに思えた。
1:10家を出る。関越に飛び乗り小出まで走る。インターを降りてから奥只見に向かうのに、新しくローソンが出来たもののセブンは少し戻るようにして配置されている。寄り道をするように残り1個となったヤキソバパンを手に入れ、ご満悦でシルバーラインに入って行く。山の中であり静かな筈なのだが、ここは違う。間違いなく釣り師なのだろう、オフローダーが何台も急いで駆けて行く。こちらはのんびりを決め込んでいるので道を譲る。いつしか抜かすほうから抜かされるほうに変わった。年相応・・・。
銀山平の船着き場では、いくつかのヘッドライトが動いていた。既に釣り師は動き出しているようだ。二車線の道が一車線となり少しクネクネとしだしたあたりの広見に突っ込み仮眠とする(4:15)。白いワゴン車に乗った釣り客の車が尾瀬側に出発して行く。朝まづめを狙うのだろう。奥只見、釣り師の聖地でもあろう。銀山湖が出来る前のここはどんなだったのだろうと気になったりする。
夜が白みだし、斜面が見えるような明るさになってから車を現地に向ける。雨池橋を渡ってからは、舐めるように斜面を見て行く。よう壁の高い場所が多く、取り付けないような場所が多い。まず黒沢だが、橋の場所からは奥が見えない。次に1194からの北尾根、悪くは無さそうだが駐車余地がパッとしなかった。どんどん先に進み赤沢まで来ると、なんとも待ってましたとばかりの誘っているような場所に思え、迷わずここから入山することにした。すぐにサンダルのまま沢の中を行くと、悪場の無い感じで奧に続いていた。車に戻り準備をする。今日はザイルが無いとリスクが大きすぎる。しっかりザックにしまった。水は沢登りなら必要無いと空のテルモスを持つ。またまたここが安易だった。
赤沢に入って行く。最初の細い流れを右に見て主流を行くが、主流の流れは沈下しているようで、足の下に音のみが聞こえる。50m程遡るとナメ滝状の場所となる。最初の5m程はなんとか登れたが、その次が足がかりがない。全くないわけでは無くあるのだが、滑って足がかからない。雨の後のリスク。乾いていれば上がれたとは思うが、この時には滑落しに行くようなもの。それでも、諦めきれないでトライするも、もがけばもがくほど滑る事を体感できた。さて少し登ってしまったので横にズレるのも一苦労。掴まる木は無く、草しか生えていない。束ねて持つにしても心許ない。左岸側はツルツルの岩壁で選択肢に入らない。どうにか右岸側行かないと・・・。滑る斜面を必至に堪えてふんばり、腕を大きく伸ばして灌木を掴む。なんとか危険地帯を脱し木々を掴みながら斜面を駆け上がる。進路はなるべく赤沢に沿いたいが、地形的に尾根筋が南東側には向いていないで東を向いている。南西に行かねばならない目的に対し逆行しているような進路。でもここを伝って行くしか無かった。
伝っている小尾根の斜面には多くのキノコが見える。濃い薮ではないものの分けて進む植生が続く。掴んで身体を上げていく感じと言った方が良いか・・・。途中振り返ると、ガスの中に1194高点、そしてその向こうに黒沢山らしき二つの高みが見えている。逆行しているのがあからさまに判る。すぐに主尾根まで上がれると思っていたが、予想外に時間が掛かり、登り上げた1140ピークまでで80分もかかってしまった。残り1.5キロほどではあるが、これだと経路4〜5時間は想定しておかないとならないよう。心して薮に突っ込んで行く。
1140ピークは南に進むと顕著な円錐形の高みがあった。ここからは東側の展望は良い。湖岸をなぞるような国道352も人工物でありながら絵になっていた。この先は赤沢のコルへの下降となるが、尾根は南西に続くように地図から読み取れるが、現地では左右に小尾根を置いて掘れた谷部が南に降りている。その中を伝いやすいので伝ったのだが進む方角が30度ほど違っている。ここは西側の藪尾根に乗って進んだ方が後が楽であった。
進む先に危険そうな岩場が見えてくる。もしやここで進路が絶たれるか・・・そう思える表情をしていた。ここは国道からも見上げられる場所で赤沢の源頭部。恐る恐る足を近づけ降りて行くと全容が見えてきた。岩登りをしようと思うと大変危険だが、南に下巻きできる地形が見えてきた。4m程下って岩壁の下をトラバースして行く。危険がゼロになったわけで無く、足を滑らせれば大けがを被る場所で、慎重に足を運んで行く。そして5mほど直登して尾根上に戻る。ここからはシャクナゲが増えてくる。鹿の糞も見えることから、彼らも通るようだ。
尾根上に赤松が直列に3本並んでいる場所があり、観賞しながら通過して行く。着ている雨具は濡れ、そして蒸れる。また今日も水を持たずに上がってきてしまった。なければないで何とかなるが、いつかしっぺ返しを食らいそう。でも雨の中、雨の後、湿度が多いときにはあまり水分を欲しないのも自分で判っている。松葉に着いた雨露を啜って口の中を潤す。この程度で十分だった。
1194高点は、中央がクレーターのように掘れた地形で特異であった。冬期なら風を避けて幕営するには丁度いいかもしれない。この高点を西に行くと、基部に大きく空間の空いた木がある。中は2畳ほどはあろう広さで高さもありテントのよう。獣が宿にしているのか、そこから西に続く尾根には、ハッキリと判る獣道が続いていた。それに伝い少し楽をさせて貰うが、黒沢の源頭の場所までも続かなかった。その黒沢源頭のコルからは登り勾配になりやや密になった植生を漕いで進む。付近は南側が切れ落ちているような尾根で、マーキングをつけずとも外す事は無いであろう尾根だった。相変わらずキノコが多い。食べられるのもあるのだろうが、ギャンブルは山行だけで十分。観賞しながら進んで行く。
振り返ると、いつしか1194高点がだいぶ下になっている。標高こそ低いが、他の地域の1600mとか1700m級の山容に思える高度感。人工物の落とし物も一切無く、林業作業の跡も見られない。ここが一番の心地よさ。自然に抱かれ我が身の小ささを知るには、こんな場所がいい。時折強い獣の臭いがする。緊張感を高め気を抜かない事を続けると、五感がよりセンシティブになってゆく。そしてもう僅かで目標点に到達する。
黒沢山到着。あまり展望の良くないピークで、少し東側に戻った方が周囲を楽しめた。濡れた雨具を乾かし、お約束のヤキソバパンを掲げる。そして在るべき物を探索し出す。しかし、ネズミのように這いずり回ってもなかなか出てこない。地図上では見えないが、東西に長細い山頂部。そこを舐めるように行ったり来たり。何往復したか、嫌になるほど探したが出てこない。“これは落ちたのか・・・”そう思って西側の斜面を探り出す。探し始めて何分経ったろうか、途中諦めモードにもなったが、それでも四角い見慣れた大きさをイメージしながら探す事を諦めない。すると寸の短い石柱が目に入った。なんだろうとひっくり返すと主三角点であった。ここは主三角点がある山だったのだ。もうこれで良いか、とりあえず見つかったのだから・・・でもここで欲が出てくる。間違いなく有るはず。とりあえず目印のマーキングテープを残し、北側にズレる。
先ほどの場所からの距離は4mほどか、土にほとんど埋まった状態で、今度も横になった状態で発見された。三等点と刻まれた立派な基石だった。完全に倒れているのを見たのは初めてかもしれない。それも主三角点も倒れている状態・・・。これは珍しい山頂となり、こんな体験は初めてだった。三等点側にもマーキングテープを残す。これらは木々の根の張り出しにより浮き上がり抜けたのだろう。この先も落ちる事無く横になっているとは思うが、国土地理院関係者も来ないであろう場所であり現状維持、寝ている三角点の山として有名になるかも。いや好事家や物好きしか登らない場所であり、有名とはならないか。
三角点が見つかり目的を全て完了。あとは下山となるが、往路ほぼ4時間の道程を復路に使うのは酷。1194高点まで戻って北尾根に入るのも面倒になってきていた。黒沢を降りて、滝などで降りられなくなったら北尾根に乗ろう。そう進路を決めた。雨具を着込み下山開始。最後に最長老であろうブナに挨拶をし降りて行く。
南側を気にしつつ、南に寄りながら降りて行くのだが、どうにも北側に寄せられる。少し掘れた場所があるので、伝いやすいのでそうしてしまうのだが、我慢して頂部を選んだ方がルートを外しにくい。いや、後になって思ったのだが、黒沢を降りると決めたのなら、北側の緩やか斜面を降りてしまっても良かったのかもしれない。そうすれば右俣の方へ降りて行けたのかも。現地ではそこまで地図を読まずに歩いていたので、黒沢の源頭まで戻ってから降りて行く。
黒沢は、源頭からの最初はヌタヌタのドロドロとした土の詰まった場所で、流れがハッキリしてくると、土砂が無くなり少しグリップが良くなる。それでも安全地帯は1080m付近までで、それ以下になると小滝が連続する。安全下降にはザイルは必携となる。1060m付近で、最初の小滝がある。小手調べとばかりに右岸側を懸垂下降。さらに1030mで、1000mで、980mでと何度もザイルを流し安全通過をしてゆく。970m付近で崩落したガレた斜面があり、ここは開けて明るく進路が屈曲する場所であった。その下950m付近で、この谷で一番面倒な通過点となる。ここも右岸を2回の懸垂で下に降り立つ。上段は振り子気味に東にズレ、下段で垂直降下した。
降りて行くと、左から右俣の流れが合流する。伝ってきた左俣との違いは如実で、アオコと言うか、緑の藻が多く見られるのが右俣からの流れで、ここから下流は至極滑りやすい地形となった。しかし緩斜面だと侮って、余裕で大岩に乗ったらゴロンと動いた。直径1300mmほどあったか、尻餅をついて尾てい骨を強打する。それだけで済んで良かった。常に緊張しているから被害が小さいのだと思うが、最後の最後まで気を抜いてはいけないのが登山。足元に気を使いながら何度も飛び石で左右に徒渉しながら降りて行く。すると先の方に白いガードレールの橋が見えてきた。やっと国道に出たようだ。
橋の下を潜り込むと、西側に上から降りてきている道が在り、登って行くと舗装路に出た。沢横の余地にはトラックが停まり、足を放り上げて昼寝の最中の作業員が居た。それを横目に雨具とスパッツを脱ぐ。サウナスーツ状態からやっと開放された。ここには尾瀬まで33Kmと書いてあるので、赤沢まで1Kmと言う事になる。出がけに見た標柱には32Kmと書いてあったから。
そこそこ交通量のある国道を尾瀬側に向かって行く。ヘアピンカーブの場所では、車がコーナーに突っ込んでくるので、ちょっと怖い場面もあった。進路正面に赤沢が見えてくる。通過した岩場が上に見える。あの岩を体験してから赤沢を見ると、急峻で上の方で厳しかったろうと見えた。出掛けには登れるだろうと思えたが、体験して気持ちが変わってきた。これも体験の大事さ・・・。
車に到着しタオルと着替えを持って30mほど離れた尾瀬側にある沢に行く。浸かる事は出来ないが沐浴をするにはちょうどいい流れがあり、冷たく気持ちいい。持ってきたジュースを浸しておいたらすぐに冷えた。ここで汗を落として今日は温泉を端折る。その横を驚いた顔のバイカーが何台も通り過ぎる。予期せぬ沢の中に裸体の者が居るのだから当然だろう。幸いブユやアブがおらずのんびりとクールダウンできた。さっぱりしてからシルバーラインを戻って行く。
振り返る。まあ普通に冬季の山となろう。この距離でこれだけ時間がかかったらなかなか足が向かないであろうから、残雪を利用するのが妥当。しかしその頃ではあの三角点は見られない。苦労して藪を濃いで行った者に与えられるご褒美が、あの珍しい2体の横になった三角点。我ながら良く掘り出したとも思う。そろそろイノシシ的能力も携わったか・・・。