フクベノ頭 1503m 西ノ岩菅 1642.4m(三角点標高)
実際の標高は1646m付近と思われる
2014.5.31(土)
快晴 単独 五宝木橋より登りは尾根ルート、復路は朝日沢を遡行 行動時間:12H18M
@五宝木橋5:08→(33M)→A高山沢と朝日沢の出合5:41→(39M)→B標高970m付近尾根に乗る6:20→(121M)→C標高1350m付近展望場8:21→(42M)→Dフクベノ頭9:03〜09→(30M)→E1490m屈曲ピーク9:38→(119M)→F西ノ岩菅11:37〜12:13→(56M)→G吊尾根最低鞍部から朝日沢に向け下降開始13:09→(91M)→H朝日沢との出合14:40→(150M)→I朝日沢左岸の山道に出合う(標高880m)17:10→(11M)→J平太郎地区で車道に出る17:21→(5M)→K車に戻る(五宝木橋)17:26
@五宝木橋右岸側から沢に降りて行く踏み跡がある。写真左の藪の中。ただし、左岸側から降りてしまったほうが現在は楽。 | 軽く渡渉して沢の中。中州。 | 濡れずに渡る事は不可能。膝上くらいの水量。飛び石も見当たらない。 | 五宝木橋下に流木が橋のようになっており、利用して左岸へ。 |
左岸を伝い、高山沢と朝日沢のすぐ手前で川岸に出た場所。(振り返り撮影) | A高山沢(左)と朝日沢(右)の出合。 | 朝日沢は濡れたこれらの石を伝って渡る。 | 尾根末端から急登を経て平坦台地に上がる。標高850mくらい。マーキングが見られた。付近は間伐された植林帯。 |
標高900m付近。地形図に載らない様な細い尾根があり伝って登る。薄い踏み跡あり。 | 尾根が行き詰まり東に逃げると二つ目のマーキングを見る。以上の場所では見られなかった。標高950m付近。斜面を駆け上がる。 | B標高970m付近で主尾根に乗る。 | 標高1020m付近。林業作業用ワイヤーが残る場所。かなり太い物。 |
暑い日にして心地いい日陰歩き。尾根上に大木が多い。 | 標高1050m付近。さあシャクナゲが出てきた。この先で最初の密藪。 | 密藪を抜け出すと、目立つ古木が出迎える。 | 標高1340m付近。漕いで漕いで、また漕いで。 |
C1350m付近。経路唯一の展望場。休憩適地。 | C鳥甲牧場が空に浮かぶように見える。 | 山頂直下で雪に乗る。ここは熊の足跡だらけであった。ネマガリの食べかすも多かった。 | フクベノ頭直下。雪が笹を均し北側と東側は大展望。 |
Dフクベノ頭山頂。やや西寄りに最高所が在る。 | D最高所の倒木に黄色い絶縁を巻く。 | Dフクベノ頭から見る西ノ岩菅。見える方に進んでしまうと尾根に乗れない。少し戻るようにして南進する。 | E1490m屈曲点ピーク通過。頂部から見る西ノ岩菅(右)と鳥甲山(左)。 |
吊尾根は、アップダウンは強くないが、5〜6回上がったり下がったり。シャクナゲの場所が多く、ここではちょうど見ごろだった。 | こんな形状の基部を持った木が多い。これで1.5畳ほどの空間。 | 唯一の危険箇所。両側が切れ落ちたガレた痩せ尾根。脆い岩で形成されており足場に注意。 | オゼノ沢川は下流に向け雪が詰まっている。 |
もうすぐ西ノ岩菅。このあたりも強い藪。親指大のネマガリ。蔦類も蔓延り引っ掛かる。 | F西ノ岩菅三角点の場所。写真左に最高所が見えている。すなわち、地形図の標高は最高所標高に非ず。 | F立派な姿の三等点。一等か二等点に見間違えるほど。 | F最高所到着。素晴らしい展望ピーク。三角点の標高より、時計読みで3m〜4m高く表示した。 |
F西の岩菅最高点から見る鳥甲山 | F苗場山を見ながらヤキソバパン。 | F三角点の場所から見る最高所。40〜45mほど離れている。 | 戻りながらのシャクナゲ帯 |
G吊尾根の最低鞍部より朝日沢に向け下降開始。 | 上の方は雪融けと合わさり、滑りやすくて難儀した。地面が緩く流れやすい。 | 標高1220m付近。緩斜面になり快適。 | 1080m付近。最初の懸垂箇所。 |
1075m付近。滝の右岸を巻いてきた。ここまでに7回の懸垂(20mザイル)。 | 巻いた滝を見上げる。この上も小さく3〜4段の段差の在る地形で中を進むのが困難だった。 | 巻いた滝の下側。二俣の合流点が見えている。 | 二俣の僅か上にやや危険箇所。ここでも懸垂2回。 |
二俣を見上げる。左側から降りてきた。標高1050m付近。 | 1040m付近。完全に埋まった沢を降りて行く。 | H朝日沢に出合う。ピンクのリボンがされていた。 | 朝日沢に入り980m付近。岩壁の長いトラバース。 |
ナメ沢の場所もあれば | そんな中を渡渉を繰り返さないと進めない場所もある。 | うんていのように利用して対岸に渡ったり。けっこう楽しい。 | 標高930m付近で、足を滑らし水没。こんな場所で水深4尺くらいある。全身ずぶ濡れで2分ほど停滞。 |
標高910m付近。流れの強い渓谷の様な場所。左岸へ渡るべきか、右岸か迷った場所。 | 左の写真を下流から。 | 清らかな流れになり、この先は優しい感じで歩けるかと思ったらとんでもなかった。流れが強く渓谷の中へと入って行く。進めず左岸を高巻する連続。途中に太いワイヤーが見られた場所もあった。 | I地形図の908高点西側、標高880m付近で山道に出合う。ハッキリとした道が上に続いていた。降りて行く。 |
スギの植林帯の中に道形が在る。この辺りから先がかなり不明瞭になる。高度を上げた方が明瞭。 | 平太郎地区の畑が在っただろう場所に出る。 | 貯水池も映し鏡のよう。北アのあの池にも見えたり・・・。 | チェーンゲートを跨いで進むと本道に出る。 |
J平太郎地区の伝って来た道。本道側からは「立入禁止」の表示がされていた。もしかしたらキャンプ適地だからだろうか。 | 五宝木橋に戻る。左岸側の絵だが、見えている右側の藪を下りて入渓した方が渡渉を一回省ける。 | K車に戻る。 |
地形図に記載されているマイナーピーク。それらに登られないのには訳がある。遠かったり展望が悪かったり。一番は道が無いから登られないのだが、奥志賀エリアのフクベノ頭と西ノ岩菅を見た場合、全くないとは言い切れないような予感がした。
と言うのも、廃村になった五宝木集落の存在。そしてその地域の畑である平太郎地区の畑記号。さらには周辺域の針葉樹マーク。山村であり山が生活の場、針葉樹マークはそのまま植林帯と思えた。その予想が正解なら杣道があるはずである。もっと言えば、この付近で一番高い山が鳥甲山であり、そこを崇めていたとならばルートを開いてもおかしくない。少し脱線するが、五宝木地区の北にある高倉山は秋山郷に残る昔話にも出てくる山。
今回は登られない理由を確かめに、登頂できずとも調査のために出向いてみることにした。あとは、沢屋の猛者諸子が高山沢経由エビリュウ沢、乗越して観音沢から朝日沢という周回コースを楽しんでいる。各ピークを巻くように沢屋の遊び場があるようだ。ここでも無駄な情報は無く、釣り師の情報と含め吸い取れる沢情報は仕入れた。しかしこれが大誤算。おそらく大雨のせいなのだろう、全身水没を含め難攻を強いられ通過にかなり時間を食ってしまった。
1時家を出る。関越を湯沢で降りて十二峠越のR353に入ろうかと思ったら、地滑りによる通行止めとなっていた。“今日はやめろと言われてるのか”そんな事をも思った。コンビニに寄り迂回路を聞くと、大沢山トンネル経由のR76号を勧めてくれ、そこを伝って十日町側に出る。ここで二軒目のコンビニに入る。ブツが無い・・・。三軒目、四軒目、このエリアは嬉しいほどにセブンが多い。それは良いが、聞いては出て、なんと5軒目のセブンにヤキソバパンがあった。「あーやっとあった」と声に出して言ったら、店員が苦笑いしていた。これで登頂に向け装備は整った。
秋山郷に向けてR405号を南下して行く。田植えをし出した周囲、他の地域とはひと月ほど遅いようだ。それだけ雪深いと言えよう。萌木の里を右に見たら、その先の前原の養蜂店の所を右折せねばならないのを、考え事をしており直進。大赤沢地区に入り気づき、Uターンして鳥甲牧場への道へと進んで行く。この道に入ると「五宝木」の文字が見えだし。最初の分岐は左折、次は右折と現在の通行止め回避のコース取りをさせられ、まだ新しい五宝木トンネルを潜って五宝木地区に降りて行く。
村落は廃村かと思ったが、洗濯ものや積まれた薪なども見え、生活している様子が伺える。定住と言うよりは季節的な住み方なのだろう。離村したが住み慣れた場所がいいと。ただ、一方で空き家も目立つのも事実。栄村に続く道を降りて行くと、赤い欄干の五宝木橋が目の前に現れる。やっとスタート地点に辿り着いた。家から3.5時間ほど費やしたか・・・。既に周囲は明るく休憩する時間も惜しんで準備する。何があるか判らないので、アイゼンに加えザイルを20m持った。駐車余地が1台分あるが、少し上がったところにアーチ状に木が茂っている場所があり、夏日でもあるので、この下に車を停めた(路上駐車)。
沢へ降りて行く踏み跡はすぐに判った。降りて行くとピンクのリボンまで巻かれていた。しかしその道形を倒木が塞ぎ、ここで判らなくなる。少し左に進むのが正解のようだったが、判らず右側に降りて行く。最後は3mほどの濡れた岩場斜面。雑木に捕まりながらなんとか降り立つ。リボンがあったが、この先の案内は無い。もっとも、水を毛嫌いしない沢屋と釣り師の遊び場、ここからは普通はジャブジャブと行くのだろう。同じようには出来ない人がここに・・・。
軽く流れを跨ぎ、中州的な場所があり少し左岸側に進むと太い流れがあった。流速があり水量もあり到底渡れない。左岸側には歩き易そうな地形があり、こんなことなら橋を渡って左岸側から降りれば良かった。どうにか渡れそうな所はないかと探すと、橋の下まで戻ると太い大木がチョックストーンのように挟まっており、それを伝って渡ることが出来た。そして進路として左岸側を選んだのは正解であった。
川の畔を歩けるところは歩き、水深が深い場所は一段高い場所を薮を漕いで進む。沢屋の人が橋の場所から15分ほどで高山沢と朝日沢の出合に到達している。我が進度が遅く前途多難な感じもしていた。不安を抱きながら進んで行くと、伝っていた地形がその先でストンと崩れ落ちていた。慎重に降り、ここで流れの脇に再び降り立つ。帰り用にその場所はよく目に焼き付けておく。するとここから僅かで高山沢と朝日沢の出合の場所に到着。二つの沢が合わさり、太い強い流れを形成していた。幸いにも左岸側にある朝日沢の流れの中に飛び石が見つけられ、それを渡って尾根末端の地形に乗る。
尾根末端部はなだらかだろうと思っていた予想を裏切り、いきなりの急登斜面。現地は少し地形図とは違った表情をしていた。木々に捕まりながらなんとか這い上がると、ここで緩斜面となり杉の植樹林となった。履いていたライトオックスブーツから登山靴に切り替えようとも思ったが、厚手の靴下をもう一枚履き、そのまま長靴で進むことにした。ここからは間伐材の中を進む。ありがたい事に下草が少なく、倒木が邪魔なくらいで案外楽に進むことが出来た。途中マーキングも見られ、刃物痕と一緒に人の気配を感じるものとなっていた。
高度を少しづつ上げて行くと地形の中に尾根のように細く高い場所が出てきて、そこを伝うように行く。その尾根が進めなくなると左側に薄い踏み跡発見。その先には黄色いマーキングがあり、これを最後に一切の人工物は見えなくなった(950m付近)。斜面を這い上がると、ここでやっと主尾根に乗った形となった。ここで標高970m付近。痩せ尾根形状でうっすらと踏み跡がある。杣道なのか獣道なのか判断できないくらい。不明瞭なまま、出たり無くなったりする道形であった。
道形の答えは、1020m付近の太い錆びたワイヤーが現れ理解した。“この道形があれば、案外楽に到達できるかも”と思ったのは言うまでも無く、しかしそう思った時の多くに難儀する場所が多いのも経験している。この頃からブナが目立ち始めるが、その気持ちよさもつかの間、だんだんと薮化した尾根筋になって行く。道形は相変わらず薄く見える。ただしそこを伝えないような所も多い。獣道か・・・。
標高1050mの先で、最初の密薮が現れる。ここを過ぎた後の朽ちた枯木が印象的であった。1200m付近から根元に空間のある木が目立つようになる。急な雨が凌げそうな広いものも見られる。そしてこの辺りで踏み跡は尾根の西側にあることが多かった。シャクナゲもお出ましになり、終わり花も楽しませてくれていた。前夜雨だったようだが、しっかりと乾いてくれており助かっていた。
1350m付近で、鳥甲牧場側が開ける。この尾根唯一の展望場かもしれない。「天空の牧場」と言いたいほどに山の上に浮かび上がった牧場。ずっと眺めていたいような絵面であった。漕いで漕いでまた漕いで、木の根にしがみつきクライムアップしたりストックなどを持てる場所では無かった。選択肢として良かったのは、長靴なので足元を気にせず良い事。スパッツを着けた登山靴では、何度も刺さるような枝葉に、結び目もほどけていただろう。雪はまだか、そろそろ踏ませてもらってもいいように思うがなかなか現れてこなかった。なにせいがらっぽい。分けて進むと木々に乗った粉が舞い、咳き込むこと何度も。目を叩かれ、眼球内側に枝が刺さり・・・。ちと防御不足でもあった。
そして雪が現れだしたのが、ほんとにフクベノ頭山頂直下からだった。ここには熊の足跡が多く残って居た。すぐ前まで居たのか、ネマガリタケを食んだ残りが散乱していた。その時、ゴソッと下側が動いた。居るのかと思ったら、雪解けでの動きであった。雪に伝い高みを目指す。登りながらなんかいい感じ。山頂での展望が期待出来そうな場所。周囲地形からそれが判った。
フクベノ頭登頂。雪があるおかげで、木々の上に顔が出せる。鳥甲や西ノ岩菅も見える。北や東側は遮るものはない。雪の上で冷気があり気持ちいい。今日はここまでとすれば、なんとも気持ちよく行動できるだろう。でも西ノ岩菅を残してしまうと、その後がとんでもない苦痛を伴う。ここまで来たのなら踏まないと・・・。同じルートを伝って再び狙うなど、なんとも効率が悪く我が性分に合わない。鳥甲側からとも思ったが、それも大変な行動になる。帰りはどうする・・・って問題も出てくる。やはり今回抱き合わせにしないと・・・。
じっくり休みたい気持ちに対し、もう一人のリトル何某という存在がおり、すぐに薮に分け入る。この時、見えている西ノ岩菅方面に向かってしまった。南西方向。降りだして気づき、修正のトラバース。ここではピークから東に戻って南進せねばならない場所だった。そして無駄足を踏んだ後に主尾根に乗るが、そこでの薮の濃さは「やっぱり止めようか」と思わせるほどであった。ここでキツイと思ったら進まない方がいい。屈曲点となる1490m峰から西側はシャクナゲの蔓延る尾根となる。どこかに似ていると感じるのだが、すぐに思いだした。白山山系の仙人窟岳への東尾根に似ているのだった。あそこほどにアップダウンは無いものの、ここも雪の乗らない尾根だと判る。残雪期に狙っても漕ぐ場所となろう。
西に向かう尾根を歩きながら南側を見下ろすと、雪の詰まったオゼノ沢が見える。快適に降りて行けそうだが、甚五郎の滝が要所となろう。それにしても快適そうな谷。スキーでも使えそうに見えた。こちらの尾根にも基部に空間のある針葉樹が多い。獣の気配や匂いを感じる場所も在った。そして草も木も無い両側の切れ落ちた痩せ尾根が現れる。一歩間違えば・・・と言うような脆さがあった。安全通過には本来はザイルを流したい場所。ここを合図に、この先から登りになる。もう僅か、ほとんど手中に収めた感じではあるが、この1キロほどの距離に、既に1時間20分ほど費やしている。まだ30分ほど掛かりそうな雰囲気がある。帰りのことを思うと、これ以上の負荷は避けたいが、既にニンジンをぶら下げられここでの撤退はない。
尾根筋の脇には残雪が見えるが、太いネマガリを分けながら進むような所ばかりで、ほとんど進度が上がらない。奧志賀にしては優しい方かもしれないが、蔦を跨いだり膝を入れて進んだり、股関節が久しぶりに悲鳴を上げていた。それにしても暑い。じつは取り付きの尾根末端で水を汲もうとプラティパスを持ってきたが、汲むのを忘れていた。持って居る水は炭酸水の500mlだけだった。水を作らねば・・・。山頂付近に雪が残ることを祈るばかりであった。ここでも目に枝が刺さった。何度も学習しない可哀想な人なのであった。
登り上げた場所が平坦になった。山頂か・・・。山頂部も密薮で歩きづらい。南西に進んで行くと、足元に立派な三等点が現れた。白すぎるほど白く、その存在に登頂感が強くなる。しかし・・・。さらに南西側にこんもりとした高みが見える。三角点の場所でいいとも思ったが、あそこまで行かないと登頂したことにはならないと思えた。そして山頂には雪が無かった。しょうがないが諦める。最高所まで距離にして45mほどあろうかという距離、空荷で進み寄せて行く。ここにも何となく踏み跡があった。これも獣か・・・。
西ノ岩菅登頂。気持ちいいほどの円錐形の山頂で、その場所は2畳ほどの広さがある。ここからは360度の展望がある。最高の出迎え、こんないい山頂とは思わなかった。樹木で遮られることなく見たい方向が自由に見られる。手に取るように鳥甲がある。苗場の平らな山頂も印象的。そして周囲は新緑のライムグリーン。身体がヘロヘロだが、トライして良かった。諦めずに来て良かった。まず水、雪を求めて南斜面に降りてみる。西風を受けた山頂の雪庇は南側に出来やすい地形。溜まっていると予想した。5mほど降りたところに雪が残り、プラティパスに詰め込み炭酸水を混ぜ込む。これで少し生き延びられる。
三角点の場所まで戻り、小休止とした。座れるような空間を作るのにも一苦労。汗した衣服を脱ぎ乾燥させる。虫が居ないことがなによりの幸い。地形図を見ながら帰路を探る。まあ往路の往復だろう。しかしオゼノ沢を見てしまっている。かなり省力出来るはず。フクベノ頭から結局2.5時間も要してしまっている。帰りも同じ時間を使うだろう。下山は夕方か・・・。道形を見てもう少し楽に踏ませて貰えるかと思ったが、そんな優しい場所では無かった。幕営地は雪の乗ったフクベノ頭しかない。他の場所ではツェルトにくるまって木の基部の穴で寝るかくらい。
戻って行く。何度も尾根を外し、その都度修正する。急峻な下りの場所も在り、足元に注意しながら降りて行く。向かう先の低い場所にフクベノ頭が在る。この距離を体感して、近くにありながら遠く感じてしまっていた。ガレた痩せ尾根を経て、その先で地面に人口物が見えた。見慣れたもの、自分のマグライトであった。ポシェットのチャックが開いており、落ちたようだった。落とした時には全く気がつかなかった。みつけて良かった。進路右に、美しいほどの雪渓に埋まった谷がある。かなり誘われる。いや、ここからなら左の朝日沢の選択の方が適当。しかし沢の音が大きく尾根筋まで上がってきている。雪解け、ちと降りて行くにはギャンブルか。でも降りた方が早そうな気がする。戻りながらも省力出来ないものかと悩んでいた。
吊り尾根の最低鞍部まで戻る。北を覗くと谷筋にべったりと雪が乗っている。誘われてみるか・・・。そう思った瞬間に斜面を降りだしていた。しかし何せ滑りやすい。木々を掴んでいないと滑落しそうな足元で、なめ岩の上に濡れた土砂が乗っている場所が現れる。その先は細く掘れた地形。ここも雪があるものの流れやすい場所であった。登山靴を履きアイゼンが正解だが、だましだまし長靴で降りて行く。
1220mほどまで下るとべったりと雪に埋もれた谷となった。軽快に降りて行くのだが、音が強くなり、先にややこし場所があるのが聞こえてくる。右岸側を巻いて、ここでザイルを出して懸垂して降りる(1080m付近)。この僅か先が3段の滝のようになり入ってゆくのは無理、ここでも右岸を巻いて、なんと懸垂7回。持って居る長さが短いのでこの回数なのだが、このくらいの長さの方がハンドリングはいい。ここを降りると、左からの大きな谷が合流した。地形図上の1050m付近と判る。天気がいいので反射で暑い。ジリジリと焼かれているのが判る。この暑さ異常では無いのか・・・。
下の方に流れが見えてきた。朝日沢主流まで降りてきたようだ。ここにはピンクのリボンがされていた。今伝ってきた谷に入る人が居るのだろうか。登り使用は酷だろう。朝日沢には雪渓が残り、こちらでも伝えると思ったが、スノーブリッジの弱そうなものばかりで、伝えそうな場所は吟味せねばならなかった。標高980m付近には、大岩壁と言えよう場所が続く。そこに不思議と歩けるような薄い斜行するバンドが続く、濡れて居て滑る足元に注意しながらトラバースして進んで行く。
右岸を伝ったり左岸を伝ったり、何度も滑りやすい流されそうな徒渉を繰り返して適当な進路取り。どこをどう歩いてどんなだったかは、詳細には記録できないほど。伝うのには雪解け時期を外した方が良かったか、そんな風にも思えた。谷が切り立ち川岸が伝えないところは高巻きをして進む。スリルがあって楽しいが、予想以上に時間を費やしていた。こんな事なら尾根の方が早かったのでは・・・。
標高950mほどの場所には、雲梯のように木が横たわり、それを使って対岸に渡る。この先で事故は起きた。気を許した瞬間、足元が滑った。あっという間に流れに足を掬われ流れの中に。一瞬にて首まで浸かってしまった。気持ちいいとは一瞬思ったが、高低差のある水流が軽い滝壺のようになっており、そこに私の身体を押しとどめようと力が働いていた。「抜け出せない・・・」、衣服が濡れた重さや抵抗もあるだろうが、水の力の怖さを思い知る。なんとかもがき這い出るが、情けないほどに濡れてしまい、高瀬川の再来をしてしまった。電気製品をご開帳して動作を確かめる。こんな時に防水仕様の製品は頼もしい。大事な記録を収めたカメラが防水であることが力強い。
濡れて重くなった体、そして疲労、精神的なダメージ、足取りが一気に重くなった。下流に行くに従い、流れもどんどん強くなり、プチ渓谷のような強い流れの場所も出てくる。右岸か左岸か、神経数弱をするかのように左右を選びながら行く。行き詰まったら戻り対岸へ、そんな場所も在った。時計を見ると既に16時を回っていた。まだ高山沢との出合には着かない。危険箇所が多すぎて時間を食っているのは判るが、こちらの選択の方が早く降りられる目論見が真逆になってしまっていた。
標高880m付近から先は、左岸をしばらく伝って行く。流れやすい斜面を伝ったり、一瞬たりとも気が抜けない。もう一度ドボンしたら本当のバカであり、水遊びは好きな方だが、あの水圧を体験してしまうと水嫌いになりそうでもあった。へつるように進めて居たが、とうとう進めなくなる場所が出てくる。地形図の908高点の西側に見える水線が東側に張りだした場所。流れが強く完全に進路を塞がれた。ここで驚いたことに左岸側斜面に太い錆びたワイヤーが現れた。尾根で見たものと同じ太さ。ただし捕まって進むには足場が流れやすい場所が続く。昔はこんな感じで道が存在したのか、大雨でそれらが流されたのか、そんな事を思いながら伝って進む。しかし40mほど伝った先で、ぷつっと途切れた。どこに行けば・・・。下なのか上なのか、ここでは下では無いと思い上をさらに巻いて行く。
活路がハッキリしないまま時間が経過していた。既に17時になろうとしている。大誤算も大誤算。ヘッドライト点灯もあり得るか、一度ザックを降ろし地形図を見直す。少し高度を上げて北に進めば平太郎地区に出られる。沢を意識して忠実に伝ってきたが、ここは発想の転換をと流れを離れることにした。そう思って少し登ると植樹帯が現れた。往路に見た植樹帯ほどに手入れがされていないが、人が植えたのは判る。地形は複雑にうねるが、北へと決めて進んで行く。そして一つ小さな谷を跨ぎ登り返すと、その先で明瞭な踏み跡にであった。間違いなく山道であり、向かう感じとしては1146高点に向けて付いていると思われた。
意気揚々と道形に乗って進む。不安な先ほどに対し、これほどに人工物が嬉しいのは情けない。しかし上の方で明瞭だった道形は、高度を下げるとどんどん不明瞭になっていった。道の在処が判らないような場所も多く、登りに使う場合は判らないであろうと思えた。先の方に平坦地が見えてくる。平太郎の農地である。大きなため池ではカジカガエルが鳴き競っていた。左側に廃屋が見えてきて道は舗装路に変わる。そしてチェーンゲートの先で、本道に出る。今伝ってきた道側を見ると「私有地につき立ち入り禁止」と掲示されていた。下り勾配の道を降りて行き、五宝木橋を渡ったら登り返し。なかなか足が前に出ないほどに股関節が痛い。少し生温い山行が続いていたせいだろう。人間鍛えないとどんどん退化することを体感する。
日陰にポツンと車が待っていた。帰りは温泉をと準備してきたが、残念ながらここで着替えないと車に乗れない。乾ききらない衣服を全て脱ぎ捨て、乾いた感触を数時間ぶりに肌で感じる。なんとか戻って来れた。そして予定した所を踏めた。感無量。
反省点は一つ、朝日沢を単独で伝ったこととなろう。一つ間違えば危なかった。生きて帰ったから笑い話で済むが、帰らなかった時、見つからなかったであろう。尾根の往復が間違いない安全通過。もう少し早い時期に入渓すればここまででは無かったろうが、それにしても自然の場所、その年々で沢の様子は違うのだろうと思えた。危険度がある分、楽しかったとも言えるのだが、沢屋さんの遊び場になるのがよく判る。少しトレース出来たので、今回は良しとしたい。適期はいつなのだろう。長い距離を思うと、夏は外した方がいいだろう。春の早い時期は除雪が届かないし、色々取捨選択すると秋となろうか。しかし雪が完全に消えた場合、幕営する場所は無くなりワンデイで狙わねばならないことにもなる。やはり狙いにくい悩ましい山となる。こんな事があり登山対象の山ではなくなるのだろう。
そうそう、予想に対する答えをせねばならない。登ってみて、過去に道があった感じはした。人間が入らない分、獣がそれらを存続させているようだ。まあ在ると言っても無いと思って出向いたほうが楽に歩けるだろうと思う。地元の人に平太郎地区から先に伸びる山道と併せて聞こうと思ったが、人の姿がみえなかった。