牛首山    1970m          櫛ガ峰    1866.0m    
      

 
   2015.10.10(土)    


  くもり時々雨 のちくもり    単独       実川集落五十嵐家前より実川林道で往復    行動時間:11H41M 


@五十嵐家前駐車場(バリケード)4:30→(10M)→Aゲート4:40→(48M)→B実川発電所5:28→(24M)→Cトンネル5:52〜6:04→(24M)→D湯の島小屋分岐6:26→(9M)→E林道終点6:35→(4M)→F徒渉点(オンベ松尾根末端)6:39→(81M)→G月心水場8:00〜09→(68M)→H一服平9:17→(43M)→I早川のつきあげ10:00→(43M)→J牛首山10:43〜54→(34M)→K早川のつきあげ再び11:28→(20M)→L櫛ガ峰11:48〜12:00→(11M)→M早川のつきあげ三度12:11→(104M)→N徒渉点13:55→(13M)→O湯の島小屋14:08〜11→(23M)→Pトンネル14:34〜45→(74M)→Qゲート15:59→(12M)→R五十嵐家前16:11


tozanguchi.jpg  igarashimae2.jpg  igawashimae.jpg  geto.jpg
R459から実川登山口へ入って行く場所にある達筆表示。 @五十嵐家の前でバリケードで進路が塞がれた。 @駐車余地は4台分。ここからスタート。 Aゲート。ここまで入れると思っていたのだが・・・。
maekawadamu.jpg  jitukawahatudensyo.jpg  tonnneruiriguchi.jpg  tonnerudeguchi.jpg 
前川ダム。まだ薄くらい中での通過。 B実川発電所。電灯が点いているが無人。 C長いトンネルに入って行く。中央の溝には、最初こそ蓋があるがすぐに無くなる。蓋が開いている場所があるので、目が慣れない最初は中央は避けたほうがいい。 Cトンネルの出口。通過に12分費やした長いトンネル。
kanbankoya.jpg koyaheno.jpg  tuukoudome.jpg  rindousyuuten.jpg 
この看板の脇から、昔の小屋への道が切られている。今は使ってはいけないよう。 D地面に置かれた小屋への道標。 アシ沢経由の道は、現在は使えない。 E林道終点地。轍の跡があったので、管理の車だろう入る場合があるよう。
tosyouten.jpg  haika.jpg  onemaxtutan.jpg  onegawa.jpg 
Fアシ沢の実川出合。現在の徒渉点。雨の後で微妙な水量。そして渡った先の安全地帯が・・・乏しい。 F6:38と言う時間で、オンベ尾根側から降りてきたハイカー。彼らは擦違ったこちらに気付いていない。 Fオンベ松尾根の末端。ワイヤーに掴まり腕力で登る。ここは実川側の方が伝い易い。 旧道との合流点。ここにもアシ沢は通行不可の表示がされている。
bunano.jpg  sekizou.jpg  gextushinsyouzu.jpg  mizubabunki.jpg 
下草が最近刈られたようで快適な道で伝って行ける。 G石像が現れる。判読が出来ないが、ここが月心清水への分岐点。 Gやや細い流れの月心清水。汲むのに少し時間を要す。 G石像のある分岐に戻る。
1160.jpg  1200.jpg  1280.jpg sextukei.jpg
1160mで90度進行方向が変わる。 1200m付近。 1280m付近 雪渓が残る。
ixtupukudaira.jpg ooe.jpg  kouyou.jpg  hayakawanotukiagetoucyaku.jpg 
H一服平 H大江さんの碑 櫛ガ峰に向かって登って行く。早川のつきあげが近くなると、刈り払いが無くなり、ややモシャモシャとしている。 I早川の突き上げ到着。牛首山側を見ている(牛首山は見えていない)。
tukiagehukinklara.jpg kitagawa.jpg  temaehou.jpg  ushikubiyama.jpg 
ガスが少しとれ櫛ガ峰が姿を現す。 北に進み牛首山を目指す。 牛首山の手前峰の岩峰。 J牛首山。西風が強く寒かった。
ushikubikaradainichi.jpg ringo.jpg  heri.jpg  minami.jpg 
J牛首山から大日岳。 J川場村産のリンゴで水分補給。見えるのは裏川。雪渓が残る。 Jヘリが何かアナウンスしていたが・・・。 J牛首山から南。右が櫛ガ峰。
ushikubigawakarakushi.jpg  tocyuukarakushi.jpg  tutaxtutekita.jpg  hayakawanotukiagehutatabi.jpg 
南に戻りながら撮影。 櫛ガ峰の全容が見える。 進路左(東)に伝って来たオンベ松尾根を見下ろす。 K早川のつきあげ再び。
hayakawanotukiage.jpg  saisyonosyamen.jpg  hutatumeno.jpg  higashigawa.jpg 
Kこの標識が落ちている。付いていたと思われるアングルが淋しく立っていた。 櫛ガ峰への最初。没する笹原。しばし我慢の平泳ぎ。 二つ目の高みは西側を巻いてゆく。 次に尾根を跨いで東側に出る。かなり伝い易い場所となる。
kushigamine.jpg  sankakuten.jpg  santouten.jpg  okonai.jpg 
L櫛ガ峰山頂。 L三角点の様子。雰囲気のある心地いい山頂。 L三等点 L櫛ガ峰からオコナイ峰(南)側。
kushidainichi.jpg  yakisoba.jpg  kushikaranishi.jpg  hayakawamitabi.jpg 
L櫛ガ峰から、右に牛首山、左が大日岳。 Lそして伝家の宝刀を抜く。 L櫛ガ峰から西側の様子。 M早川のつきあげ三度。
kariharawareteinai.jpg  ixtupukudairakaeri.jpg  1450.jpg  1300.jpg 
早川のつきあげから下は、このようにルートが不明瞭なほどにモシャモシャしている。 一服平帰り 1450m付近の急場。 1300m付近。ここもロープを掴まないと滑る。
1160kaeri.jpg  1160kara.jpg  mizubabunkikaeri.jpg  994.jpg 
1160m下降点 1160mから裏川を見る。クネクネと絵になり、滑りたくもなる。 月心清水分岐帰り。 994高点付近の回廊。
onemaxtutankaeri.jpg  tosyougo.jpg  rindousyutenkaeri.jpg  yunoshimakoya.jpg 
N実川に降り立つ。右の流れがアシ沢。 N徒渉後に振り返る。 林道終点帰り。 O湯の島小屋
koyanaibu.jpg  koyamizuba.jpg  cyuuyou.jpg  rindounideru.jpg 
Oやや湿気の多い室内であった。  O水場の水量は十分。  O大きな虫ようがあり目立つ。 旧道を伝い林道に出る。右の木の陰になっているが、看板がある。 
ikuna.jpg  tonnerukaeri.jpg  koumori.jpg  deguchikaeri.jpg 
林道に出た場所の向かい側にこのペンキ表示がある。「イクナ」と読める。  Pトンネルの帰り。 P内部の天井には蝙蝠がかなり見られる。  Pトンネル出口。関係者の車がここまで入っていた。
kekoku.jpg  huruige-to.jpg  ge-tokaeri.jpg  barike-do.jpg 
実川渓谷の様子。かなり深い。 古いゲートも残る。 Q現在のゲート R五十嵐家前のバリケード帰り。 
cyuusyajyou.jpg       
R駐車風景(3台+道向かいに1台)       




 2014年9月初頭にSK氏が目敏い行脚をしてくれた。標高もいいし距離もいい。2000m超の登り残しが少なくなってきている中では、その標高はかなり魅力的な場所でもあった。そして、長い距離をワンデイでやりきっているナイスファイト。日本酒にカラスミが添えられ、コノワタまでもが出された感じで、それこそ「美味しそう」な場所と記憶された。

 

 秋の3連休、どうにも天気が危うい。降られてもいい場所とよくない場所とあるが、時期的に降られたくない季節に入ってきた。日数を上手に使ってと思っていたが、特に中日が崩れるようなので、まず日帰りの計画とした。次に折角余裕のある日どりなので、疲労回復時間も設けられる為、長い距離の場所とし飯豊連峰の最高峰南の牛首山を目指す。

 

 前夜21:15家を出る。林道情報を入手しなかったのが現地までの不安だが、その場合でも周囲にはそれこそ山ほど山がある。林道が不通であったとしても現地で行き先に困る事は無い。関越道で既に雨、磐越道に入ると土砂降りで酷いもんだった。前後に車が居らず空いていたからいいが、雨の強さに眠気が混じってノロノロ運転をしていた。

 

 津川ICを出るとすぐにセブンがある。関越道に乗る前に寄ったセブンでヤキソバパンを仕入れ損ね、ここが頼りだった。結果は無事ゲットする。雨ではあるが揃うものが揃い気分よく国道459号に入ってゆく。この番号の大きさだとしょうがないのか、阿賀野川沿いの道は太くなったり狭くなったり、舗装はしっかりしているものの道幅には文句を言いたい作りであった。

 

 豊実地区に近づき、進路左側を気にして林道の入り口を探していた。しかし気遣い無用で、現地にはしっかりと道標があり林道を示していた。実川沿いに林道を進んで行く。途中には通行止めと書かれた立て看板もあり、バリケードが道の半分を塞いでいた。これが意味していたのは、その先で道の1/3が崩落している場所があった。通らせている事の方が不思議に思ったが、横目にしながら恐々通過してゆく。

 

 実川の集落内を通過してゆく。こんな奥まったところに・・・なんて素直に思った。舗装路に乗った落ち葉が雨を吸って滑る。慎重にタイヤの置き場所を選びながら奥へと進んで行く。ただでさえ夜なので暗いのだが、樹林に囲まれた暗い林道の先で人工物が光って万事休す。通行止めと書かれた先ほどと同じ看板に、ここはしっかりと林道全面にバリケードがしてあった。“ゲートまでどのくらいだろう”すぐにこの事を考えた。ゲートの場所をよく知らないので判断のしようがないが、集落からの距離を思うと、そう遠くない場所まで入ってきていると思えた。そう言えば、少し手前に車があった。塞がれているから停めたのだろうが、今日入山するのか、既に入っているのか、自分以外にも入山者が居る事を知る。

 

 駐車余地には「五十嵐家住宅」と書かれていた。3台のスペースと林道向かいにもう1台のスペースがあった。1台置かれているので、間を開けて入れすぐさまエンジンを切る。寝ている可能性も考慮した。時計は1時15分、3時半頃に出れば林道終点で夜明けくらいになるかと予定を立てる。雨音を子守唄にとしたかったが、ここは樹林の下でボトボトと雨粒が屋根を叩いてくれ、ドラムを鳴らしているかのようであった。30分おきに目をさまし時間を確認する。3時半の予定であった、その付近でバイオリズムのせいか嫌に眠く、4時になって体を起こした。雨は上がったようだが、状況が判らないので雨具を履いて行く事にした。ヘッドライトを頭に外に出る。残念、まだ小雨だった。

 

 バリケードをすり抜け、ライトの明かりを頼りに実川林道を進んで行く。まずはゲートまでが気になる。早く出てこないかと気にしつつ足早になる。スタートから10分ほどすると、そのゲートが現れた。ゲートの閂は前橋のメーカーのもので全国区、メンテ用だろう会社詳細のシールが貼られていた。進路右の闇の深い位置から流れの音がしている。実川からなのだが、渓谷美は帰りのお楽しみで、今は黙々と歩くしかない。山深さから獣が多そうな場所だが、出てきたら出てきた時で対応するしかない。そのためにも淡々と歩きつつも緊張しつつ居た。

 

 バリケードからちょうど1時間で実川発電所が見えてくる。その手前に前川ダムがあるのだが、現地にその名の表示が一切ないので、地図から読める場所とまでにしておく。薄暗い中にダムを見下ろし、薄暗い中に発電所を見上げる。二階に明かりが灯っているので誰かが居るのかと思ったが、停車している車は無かった。次第に夜が白み始める。周囲の樹林の中から、いろんな獣の鳴き声がしてくる。甲高い猫のような鳴き声に注意しながらジャリジャリと靴音を響かせてゆく。そうそう、感心するのは、この林道は素晴らしく状態が良い。崩落個所を見ていながら状態が良いとは180度反対な事を言っているのだが、窪んだ場所にはバラスが入れられ、本当に自転車を持ち込めばよかったと思わせる手入れの行き届いた林道であった。

 

 周囲が開け、ススキの原やブナの樹林帯を愛でながら行くと、ぽっかりとトンネルが口を空けた場所に到達した。本当はここを暗い中での通過としようと思っていたが、既に明るくなってしまっていた。入り口にはゲートがあり屈んで入ってゆく。中央に水の流れる水路があり蓋がしてある。それを踏みながら進んだら、途中で蓋の無い場所があり、水没は免れたが引っかかり転びそうになった。避けて進んで行った方がいい。ヘッドライトがロートルで暗く、二つ目を出して視界を確保する。流れの音、水滴の音に混じってキーキーと鳴き声が聞こえる。ヘッドライトに黒い鳥のような影が舞う。よく見なくても蝙蝠だった。睡眠時間を邪魔してしまっているようで、ここでも足早に進んで行く。トンネル内には避難余地があり、そこに多く溜まっているのが見えた。

 

 先に明るさが見えた時にはホッとした。どこまで潜って行かねばならないのかと、嫌になるほどの暗さと長さであった。時計ではたかが12分であったが、気分的には20分とか30分潜っていたような印象があった。再び明るい林道歩き。周囲の緑が心地いい。時計を見るともうじき2時間になる。SK氏が林道歩き2時間と謳っていたので自分が遅いのかとも思ったが、バリケードとゲートまでの距離の事もあり、私の場合は2時間10分ほどが林道歩きになると換算した。

 

 左に関東森林管理局の看板が現れる。ここまで何もなかったのが不思議なほどに立派な看板だった。その先が小屋のようだが、林道からはよく見えず、小屋への分岐道標は地面に置かれていたので場所は間違いないようであった。この少し先で地形図に書かれる登山道が分岐している。がしかし、現在は通行止めになっていた。アシ沢の橋もかかっていないとの事であった。左に見送り先に進む。進む先にフェンスが見えてきて、なにか公園でもあるのかとも思えた。タイヤの轍もあり入ってくる車も在るよう。ここが林道の終点で、その先の施設から、重低音のモーター音が響いていた。その横をすり抜けるように進んで行く。先ほどの注意書きに「ピンクのリボンを目印に」とあり、結ばれているそれを追いながら足場の悪い中を半信半疑で進んで行く。

 

 林道終点からは降りてゆく道で、その先に沢が待っていた。これがアシ沢のよう。上流が通過できなくなったので下流なわけだが、ほとんど実川との出合の場所で渡る珍しい場所でもあった。ここはとても景色が良い。それはいいとして、ここに二人の男女が居られ、ちょうどオンベ松尾根側より渡渉をし終わったタイミングであった。沢音が強いのでこちらには一切気付いていない様子。少し巻くようにルートを選びすれ違いを避けた。向こうはこちらの存在に一切気付いていないようであった。それにしても、この時間でこことは計算が出来ない。御西小屋を出てきたとしたら、暗いうちだろうけど、そこまで急いで降りる事も無かろうし、老齢な様子からは合点がいかない。となると、湯の島小屋に泊まって動き出したが、何かの理由で降りてきた。これなら理解する。そして、駐車場に在ったのは、この方々の車だと解釈できた。

 

 渡渉は雨の後だからかいつもなのか、微妙な水量があり水没をしたら意気消沈してしまう量があった。ストックを片手にバランスを取りながら、飛び石の滑りようを探るようにして渡ってゆく。渡った先にはワイヤーがかかり、それを掴んで登るのだが、こんな状態では登れない人も居るのではないかと言う状態であった。登った先はまだ急登で、よくぞここをルートとしたと思える場所に思えた。我慢して登ると、左からこれまでの登山道が合流する。ここには賑やかにリボンが付けられており、注意書きも貼られていた。

 

 最初こそ痩せ尾根だが、急登の先は快適な登山道であった。破線ルートだが、実線でいいほどに状態が良い。この先は水場に寄らねばならない。汲む予定で来ているので水を持っていない。紅葉した中を進んで行く。雨が時折叩くが断続的であった。それでも雨具を着ないと辛いほどの降りがあり、降り止むと蒸れるので、着たり脱いだりを何度も繰り返していた。

 

 やや広い場所が現れ、脇に石仏が見えた。その前に何かプレートがあるのだが判読が出来ない。エアリアに見る水場はもう少し上の方だし、なにか解せないが、様子からして水場の分岐に間違いなく、枝道の方へ入ってゆく。ロープが流してある場所が多く、足場が悪い中を降りてゆくと、流れの音がしだした。意外と細い流れでプラティパスに汲むのに苦労する。夏場はもっと水量が少ないのではないだろうかと思える水場であった。それでも水を確保して登山道へ戻ってゆく。

 

 水場分岐から上は、ちょうど紅葉の見ごろだった。1160mで尾根の肩に乗り上げた格好になり、進路方向が変わる。ガスがかかって居なかったら、かなり心地いい場所と思える色合いがあった。以前に伝った疣岩山側の尾根が望めないものかと待っていたのだが、なかなか東側のガスは明けてくれなかった。西側は少しガスが薄く、アシ沢支流に雪渓が残る様子も眺められていた。尾根上に植生の無い場所がちらほらと続き、ザレた場所に足場に注意しながら進んで行く。そして1300m付近よりの連続するロープ場に、そのロープをしっかり掴みつつ登って行く。やせ我慢して掴まない場所が多いのだが、ここは、雨の降る今日は掴まないと危なかった。フィールドアスレチックのような場所を、グイグイと高度を上げてゆく。

 

 尾根の肩となる一服平に到着する。不勉強だが、そこにある大江氏の碑がどんなものか判らずにいた。やや風が出てきて寒さを感じるようになった。外気温は9℃を示していた。稜線に出ると吹きさらしか、今だからまだこの風なのだろうと心する。まだこの時点になっても櫛ガ峰を拝ませてもらっていない。周囲地形から現在地を把握したいわけだが、そうはさせじとガスが周囲を覆っていた。それでも風の強さからしてそろそろ上に出る事が伺えた。もう一つ変化があり、これまで刈り払われていた登山道が、その刈り払いがされていない場所となった。ルートが不明瞭になり、少し探すような感じで進んで行く。そして地面に「櫛ガ峰」と書かれた看板が落ちている場所に到達する。

 

 落ちた看板の場所が早川のつきあげと呼ばれる場所らしかった。看板が取付いていたと思われるアングル鋼が寂しく立っていた。櫛ガ峰は後回しにして北進を急ぐ。案の定吹きさらしで、雨具の脇から攻め入ってくる風に対し、斜に構えで進んで行く。ここではガスにのおかげで荘厳な雰囲気の山容になっていた。少しずつガスが取れているのか、振り返ると櫛ガ峰の全容も見えるようになっていた。まず1865高点に上がり、その先に山頂らしき高みが見える。岩峰なのだがこれも偽ピークで手前峰。西から東に乗り越えるようなルートで越えてゆく。ここでやっとデンと構える大日岳の手前に牛首山のピークが見えてくる。着いたか・・・この距離にバリケードのスタート地点が思いこされる。

 

 牛首山到着。風が強いので留まるのをどうしようかと思ったが、歩きづめで来たので休憩はしたい。東側に逃げたいが逃げ場所なし、堂々西を向いて休憩とする。この時、ヘリの飛来する音がしだし、ガスの中から機体が現れた。なにかアナウンスしている声が聞こえるが、聞き分けられなかった。機体は飯豊山の方へ進んで行った。大日が見事、その斜面に登山道が見えるのだが、ここまで来て最高峰を踏まないのも、後でまた何か言われそうでもある(笑)。リンゴを齧り水分とビタミン補給。ヤキソバパンは藪山側に残しておく。見下ろす裏川には雪渓が多く見られる。急峻の谷なので雪崩も多いのだろうが、滑れるタイミングもあるのだろうと見ていた。さて戻る。寒くなった・・・。

 

 早川のつきあげからは大した距離歩いていないと思うが、遠くに櫛ガ峰が見えていた。牛首山よりは櫛ガ峰の方が本命であり、登りきるまでは気を抜くわけにはいかない。少し足に疲れが出てきたか、岩場でスリップする場面も出てきた。やや休憩が長かったせいかもしれない。南進してゆく途中、東側のガスが切れ、オンベ松尾根が姿を現した。伝ってきた場所を見るのは気持ちいいもので、そこが紅葉しているので達成感と見栄えとでにんまりとしてしまう。そしてまた、櫛ガ峰も全てが見えるようになり、伝うべき場所が見えてきた。おそらくは以前の何時かとは言えないが、道が切られた時もあっただろう。その微かな跡が探せるか・・・。

 

 早川のつきあげ再び。ザックをデポしようと思ったが、おっと待った、それではヤキソバパンが・・・と気づき背負ったまま藪に突入する。肩丈ほどのササを分けてゆく。雨を纏っておりよく滑る。やや東が良いかと思ったが、途中で西に振ってゆく。すると地面に筋を見つけた。これか・・・。ハイマツが覆うが、そのまま足を入れるとハイマツが退く、と言うことは道形だろうと判断できた。ただ伝いづらい、それより尾根の上の方がいいと判断し頂部を伝って行く。見ると次の岩峰付近は西側が伝い易そう。ハイマツは低く、少し沈むが地面は近い。思ったより快適に通過できた。岩峰から先では頂部より東側を選ぶ。ここは至極快適に伝って行け、少し岩場もあるが漕ぐ必要がない場所であった。もう目の前に山頂の高みが見える。いい感じの山頂で登頂感のある場所であった。

 

 櫛ガ峰到着。三等点が待っていた。その横に一辺20mm程の角材が立てられていた。これが山頂をとてもいい雰囲気にさせていた。360度の大展望の場所。少しオコナイ峰側に踏み跡があるのは冬季の通過者の為か・・・。三角点と角柱のほかに人工物は無く、周囲の深い谷の上に浮き上がっているような、自然の孤島のような場所であった。これで飯豊山側が見えればいいのだが、相変わらずのガスの中であった。これで予定した2座を踏んだ。往路の往復なので、地図を見直す必要もなく12時と決めて下山とした。

 

 登山道までは往路と違えた場所を伝ってみる。やはり頂部の西側に道が切られていたようで、なんとなく道形が見られる。在ったとすればなぜに歩かれなくなったのだろう。こんなにいい山頂なのに・・・。大日までの、大日からの長いコースの中での寄り道が、結構負荷となるのかもしれない。岩峰の場所まで西側を行き、最後は笹薮との真っ向勝負。やや深いので進路を誤らないようにしないと明後日の方角に出てしまう。ちょっと東寄りに進んでしまい修正する。

 

 早川のつきあげ三度。あとは重力に任せ、自重に任せ降りてゆく。一服平を過ぎ、往路では見えなかった景色が見えるようになっていた。カメラを構えて周囲の紅葉の様子を写す。1450m付近からのロープ場をしっかりと掴まりながら降りてゆく。途中歯抜けになっている場所もあり、そんな場所ではロープの有難さを感じる。1300mの岩の出ている場所は、流石に後向きになって後ろ荷重にしてべったりと足の裏をグリップさせて降りてゆく。

 

 1240付近がこの尾根での一番色づきのいい場所であった。現金なもので、こんなちょっとしたことなのだが足が軽く色づきにより快適に歩いて行ける。1160mで南進から東進に代わる。水場分岐を素通りし、ここからはブナの美しい場所が続く。紅葉の赤を楽しんだ後は、ブナの黄色を楽しませてもらう。ここでも新潟の文化が見られるのだが、傷をつけられたブナも多い。快適な尾根道にストライドも伸び高度計がどんどん数字を減らしてゆく。右側のアシ沢の流れ、そして左の実川の流れの音が強く聞こえてくる。

 

 進む先にピンクのリボンが見えだす。勾配が強くなりだし新設された若い尾根道を降りてゆく。復路はワイヤーに捕まらず実川側に降りてみた。この方が正解のようだった。しかし渡渉するにはちとややこしい。少し尾根末端側の岩場を上流側にへツルようにして、指先で岩を掴みつつ、足を広げて飛び石を足先で探る。やはり選ばないと滑り、ここでドボンしても帰路なのでいいが、長い林道をグチャグチャと言わせながら行くのは避けたい。慎重に選び対岸へ行く。ここからの登りはヌタヌタの斜面でまた滑る場所、野草を掴みながら這い上がってゆく。乱打されたリボンが嫌に人工的に目に入ってくる。

 

 林道終点に戻る。新たな足跡は見られないが、往路で行き会った二人分は残っていた。どこから来たのだろう事は謎のまま。小屋への分岐からは躊躇することなく小屋側へと進んで行く。小さな沢を跨ぎ、その先にログ調の小屋が見えてくる。林道と距離をおくメリットとはなんだろうか、中俣新道の中俣小屋もここと同じ条件であったが、「水」を重視したのか、林道から近い方がいろんな利便性が良いように思う。静寂を重視か。と言っても、そうたくさんの往来のある林道ではないだろう。扉を開けると、やや湿気の多い空気が溜まっていた。水場の水量は十分で太い流れを汲んで汗を拭う。あとは2時間ほどの林道歩き。嫌なのはトンネル通過だが、明るい中では目が慣れるまで時間がかかるだろう。

 

 この小屋には3つのルートがあった。伝ってきた分岐道標からのルート、もう一つは途中にある枝林道からなのだろう北側に一本、そしてもう一本が南東側に切られた道。最後のここを伝って行く。途中でややモシャモシャするが、道形としては続き、林道に出た場所は看板のある場所であった。そこにある苔生した大岩には「イクナ」と読める。「ここから小屋には入って行くな」って解釈した。今は使わない道のようだった。林道を戻ってゆく。

 

 看板の場所から20分でトンネルの入り口となる。潜り込んで行くと何やら音がする。居るのか・・・。水滴の音だった。深く入ると蝙蝠が偵察にくる。その黒い影が淫らにヘッドライトの明かりを攪乱する。まあこちらがアウェイの立場なので申し訳なさそうに通過せねばならないのだが、野生動物はやはり敵に対しては容赦しない。はらはらと木の葉のように上から舞い降りてくる。併せてキーキーと奇声あげる。また何か先の方で音がしている。居るのか・・・。またまた水滴だった。それが皮膚にポトッと落ちる。判っていてもドキッとするのだった。先の方が明るくなると、ゲートの先に車があるのが見えた。誰か入っているのか、閂のゲートを開けねばな入れないので、相応の管理者となるか、車を覗くと工事道具一式が見えた。レジャーで入って来たのではないようだった。

 

 ここから先で、覚えのある臭いがしてきた。そして周囲の新緑の中に蠢くモノが見えた。サルの集団がおり、その中に入ってしまったよう。人間慣れしているのか、慣れていない為か、全く動じず付近に居る。林道に居座り背中越しに見ている個体さえもいた。ブナが多く餌になるのだろう。発電所の先からは実川の渓谷美を左に見下ろしながら歩いてゆく。深い淵の場所では、濃いブルーを見せてくれ涼を与えてくれていた。麓に向かうほどに渓谷が深くなり美しくなってゆく。後立山の林道山之坊線に似たような場所に思えた。先ほど見た車が、後ろからやってくる想定をする。そして絶対に乗車は断ろうと、あるかないか判らない余計な事を思いつつ足を進めてゆく。半分は乗せて欲しかったり、半分は貫いて歩きたい表裏を持っているからであった。

 

 林道沿いには、実川発電所からなのだろう送電線の巡視路がいくつも山中に入っている。どれも統一性がない切り方で、その場所その場所で独自性のある入り口となっていた。白い古いゲートを見たら、10分ほどで黄色い現在のゲートが現れる。SK氏の前年度のゴールはここだったようだが、現在はもう少しアルバイトをしないとならない。時計を気にしながら足を進めると、針葉樹に包まれるように大きな建物が見えてくる。これが五十嵐家か、到着時には暗くて見えなかったのが驚くほど馬鹿でかい。バリケードに到着し、車にザックを放り込んで、そのまま五十嵐家を観覧に行く。

 素晴らしく大きな曲り家であった。床も高ければ軒が高い。今でも住まいしているように庭には野菜が作られ、物干し竿も往時のままに残されていた。下に見える倉も見事で、名士の家だったと理解する。今の時代でこれだけの家を建てたら凄い金額と思えた。もっとも往時にしても凄い金額だったろうとは思う。駐車場に戻る。

 振り返る。地図に見る長さほどに苦痛を感じないコースであった。時間だけ見ると長いのだが、長い林道に緊張感を出す長いトンネルや、小屋の存在や徒渉点や、水場や紅葉などが良いアクセントになって坦々としまいがちな部分を紛らわしてくれていたのだろう。再び訪れてもいいような、興味の残る場所でもあった。

 
chizu1.jpg

chizu2.jpg

chizu3.jpg

chizu4.jpg

chizu5.jpg

chizu6.jpg

chizu7.jpg

                            戻る